風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

中島みゆき 「夜会 24時着00時発 @青山劇場」 2

2006-02-08 21:10:30 | その他観劇、コンサートetc

「生まれ変わるという優しさとか、生命力が欲しかったんです」
~アルバム『転生』のインタビューより

さて、この夜会。簡単に言うと、みゆきさん演じるある女性の人生と、サケの一生と、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を組み合わせたようなお話です(これだけでは何のこっちゃ、という感じですが・・)。テーマは輪廻転生。
以下、感じたことをつらつらと書きますが、長いです。うざいと思ったら適当に流しちゃってくださいませ。ストーリーを消化するために自分用に書くようなものなので。また、皆さんと異なる見方だったとしても「こんな風に観た人もいるんだな」と気楽に読んでいただければ嬉しいです。

生きて泳げ 涙は後ろへ流せ
向かい潮の彼方の国で 生まれ直せ
『サーモン・ダンス』

サケは川で生まれ、海で成長し、最期はまた故郷の川へと帰り、産卵し、その一生を終える魚です。そしてその卵から新しい命が生まれ、彼らもまた同じ旅を繰り返してゆく。つまりサケは輪廻転生の象徴ですね。
またサケ達が故郷の川へ帰れずその魂が彷徨っているのは(後に読んだ粗筋によると)人間の身勝手な観光開発により川が塞がれたためですから、環境破壊の犠牲の象徴でもあります。

生まれ故郷を捨て都会へ出た主人公アカリにも、この世界に帰るべき故郷はありません(ここで歌われる『帰れない者たちへ』がすごく良かった)。
では彼女のような者達はどこへ向かえばいいのか……?

この夜会から私が想像した「世界」のイメージは次のようなものです。
まず私達の日々の暮らしの中にも、小さな輪廻転生がいくつもある。上記インタビューでみゆきさんはこう言っています。
「(今回の舞台では)ここまで育ててもらったシアターコクーンを卒業していくけれど『夜会』をやめるわけではないっていうことで、<24時着>ここで到着しますけど、<0時発>でここからもう一度旅立って行くという、必ずしもフィクションだけではないものをいっぱい込めたいという思いはありました。舞台の最初に歌った「サヨナラ・コンニチハ」という曲も、シアターコクーンとはサヨナラだとしても、また新しく始まる何かにコンニチハと言いたいです、という意味も込めていたんです。」

そして人の一生は一本のレールのようなもの。このレールは並行して無数に走っているが、人はそれらのうち一本だけを意識的にまたは無意識に選択し、その上を走る列車に乗り、進んでゆく。
そしてこの物語の冒頭のアカリはというと、デザイナーの夢は挫折し針仕事の過労で倒れるような人生を送っている。決して「当たり」の人生とはいえない。

当たりは あといくつある
残した甘菓子の中 あちらにすればと悔やんで悔やんで
取り替えたら 捨てた菓子のほうが当たりだったかもしれない
『フォーチュン・クッキー』


彼女だってそんな人生を望んでいたわけではない。よかれと思って選んだレールが必ずしも当たりとは限らない。そんなとき人は「もっと別の人生があったのでは」と思う。
時計の針を戻すことができないように、列車も同じ線路で後ろへと戻ることはない。けれど前へ前へと進んでいくことはできる。人は転轍機を動かし、線路を切り換えることはできるのだ。

動かせない 動かせない 動かせない転轍機 
この線路で掛かってるから
掛かった鎖を解く方法 思い出して
梃子を0に戻してから 次へ掛け直すんじゃないか 
それはもしや過ぎ去った時計の針と似ている
生きて泳げ 涙は後ろへ流せ
向かい潮の彼方の国で 生まれ直せ
『サーモン・ダンス』


もっとも皆が皆、その一生を終えるまでに線路を切り換え願いを叶えられるわけではない。
けれどみゆきさんの世界では、私達のレール(=一生)もまた、輪廻転生の螺旋を描いている。つまり、今生では川を失くしたサケ達にも、アカリのような者にも、ちゃんと帰るべき故郷がある。

我が祖国は砂の彼方 我が祖国は空の彼方
誰に尋ねん 空の道標を
血の色は幾百 旗印の色は幾百 限りもなく
遥か辿る道は消えても 遥か名乗る窓は消えても
遥か夢の中 誰も消せるはずのない
空と風と波が指し示す天空の国
いつの日にか帰り着かん 遥かに
『我が祖国は風の彼方』


そしてそこからまた、アタリもハズレもある、新たな人生が始まるのだ。
たとえ志半ばで倒れても、それは次の人生へ受け継ぐことができる。だからみゆきさんは「生きて泳げ 涙は後ろへ流せ」と歌う。そして「願いを引き継いでゆけ」と歌うのだと思います。サケが故郷の川まで辿り着けるかどうか分からなくても、体中ぼろぼろにして、川を上ってゆくように。
今がどんなに苦しくても大丈夫。安心して精一杯今の世界で生きておいで。あなたが流す血や涙は決して無駄にはならないから。そう歌っているように私には聴こえました。

そしてこの複数の線路は、一本の大きな「真空の川」となる。そこはすべてが無限で、始めも終わりも同じ。

行く先表示のまばゆい灯りは 列車の窓から 誰にも見えない
本当のことは 無限大にある すべて失くしても すべては始まる
無限・軌道は真空の川 ねじれながら流れる
無限・軌道は真空の川 終わりと始めを繋ぐ
『無限・軌道』


この川がどこへ向かっているのか、それは誰にも分からない。けれどその先にきっとある「ほんとうの幸福」を目指して、いつかその場所に辿り着けると信じて、今は前へ進もう。そうみゆきさんは言っているのではないでしょうか。
こういう見方をすると、最後の世界でアカリが幸せな人生を送っているのは、嬉しい気がします。それはまた、サケのもう一つの暗示である環境問題の視点から見ても、明るい未来を予感させてくれます。

「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。僕はもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」

この「人の幸せのためなら自分を犠牲にしよう」というジョバンニの決意は、アカリが夫の無実を証明するために自分は妻ではなく他人であると証言する場面に重なりますね。

「さあもうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ」 
そのいちばん幸福なそのひとのために!
「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中でなしにほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない」
~宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 第三次稿


輪廻転生はまた、みゆきさんが一貫して歌い続けてきたテーマです。

そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ
あんな時代もあったねと きっと笑って話せるわ
だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう
まわるまわるよ 時代はまわる 喜び悲しみくり返し
今日は別れた恋人たちも 生まれ変わってめぐりあうよ
めぐるめぐるよ 時代はめぐる 別れと出会いをくり返し
今日は倒れた旅人たちも 生まれ変わって歩き出すよ
『時代』
  ※夜会の曲目外

子供の頃の私は、この歌を聞いて「今の人生で幸せになれないのならあまり嬉しくないな」と感じたものです。この歌では、今の人生では恋人達は別れ、旅人は倒れてしまいますから。当時はもっと単純な「がんばれ!」という応援歌みたいな歌の方が元気づけられました。けれど大人になってどん底の精神状態を初めて経験したとき私を救ってくれたのは、みゆきさんの歌の方だったのです。


さて話を戻して、最終幕。
ジョバンニ姿のみゆきさんが一人舞台に立ち、アカペラから「命のリレー」を歌い始めます。これはこの舞台のテーマそのもので、この瞬間のために今までの舞台があったのではないかと思わせるほどの迫力でした。それまで必死でストーリーを追って頭の中でこねくりまわしていた理屈が全部ぶっとんで、同時にこの舞台でみゆきさんの伝えたかったことがすっと心に入ってくるような不思議な時間でもありました。このみゆきさんをもう一度見たくて高いお金だして2回目のチケットを買ったようなもんです、私。

ごらん夜空を星の線路が
ガラスの笛を吹いて 通過信号を出す
虫も獣も人も魚も
透明なゴール目指す 次の宇宙へと繋ぐ
この一生だけでは 辿り着けないとしても
命のバトン掴んで 願いを引き継いでゆけ
『命のリレー』


そして、銀河鉄道へ向かうジョバンニが笑顔で私達に手を振って、2時間半の夢のような時間は終わりました。
パッと照明がつくと別世界から戻ってきたような気分になるのはどの舞台でも同じですが、今回は特にその感覚が強烈でした。そして劇場から出ると、いつのまに降ったのか地面に雪がうっすら積もっていました。どうりで寒いはずです。
ストーリー的に私の中で消化しきれていない部分もまだまだ多いですが、こんなに迫力ある、優しい舞台を作り上げてくれたみゆきさんに心から感謝!

さて。以上長々と述べておいてなんですが、このように小難しく観なくても、このお話は充分に面白いです。それに終盤は「我が祖国は風の彼方」「帰れない者たちへ」「命のリレー」「サーモン・ダンス」「無限・軌道」と、聞かせる歌のオンパレードで、とにかく圧巻。大阪公演はこれからですし、東京公演も当日券があります。まだ観ていない方でご興味のある方はぜひ観てみてください。みゆきさんの歌からだけでも、充分に元気をもらえますよ^^。
願わくば、も~うすこしチケットのお値段が安いと嬉しいのですが(S席20000円、A席18000円、パンフ3500円)。。。
高いよ…、みゆきさん。。。

DVD『夜会vol.13「24時着0時発」』のあらすじ

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