風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

麻央さん

2017-06-24 19:39:35 | 歌舞伎

以前少しだけ書いたことがありますが、私は海老蔵に感謝をしていることがあるんです。

歌舞伎座新開場前の2013年正月の浅草歌舞伎は海老蔵が座頭だったのですが、当時私は仕事ですごく悩んでいることがあって、出口のない苦しさを感じていました。そんな時に友人と数年ぶりに歌舞伎を観に行こうということになって、私、公演そのものからというよりも、舞台の上の海老蔵からすごく大きなパワーと元気をもらったんです。舞台の上の海老蔵を観ているだけで、うじうじと悩んでいたことが一瞬で不思議なほど全部ふっとんでしまった。海老蔵の歌舞伎には鋭さのような魅力を求める方が一般的には多いと思うのですが、その時私を元気付けてくれたのは海老蔵の馬鹿馬鹿しいほどの大らかさのようなものでした。少し團十郎さんに通じるような空気。そして世襲という私の日常とは全く異なる世界。同じ日本の中でもこんなに違う世界や生き方や人があるということ。どんなこともなるようになる、と自然に感じさせてくれたんです。

それからひと月もたたないうちに、團十郎さんが亡くなりました。そして、あの浅草の幕間の楽屋で海老蔵が病院にいた團十郎さんとテレビ電話で最後の会話を交わしていたことを知りました(眠りに入った後はもう話をすることはできない、と言われていたそうです)。私はあのとき海老蔵からあんなに元気をもらって救ってもらったけれど、彼自身はそういう状態の中にいたのだと知ったのです。
あのとき救ってもらった事実と感謝の気持ちは、これまでもこれからも、たとえ彼がどういう人間であろうとも、どういう役者になろうとも、変わることはないと思います。
そんなことを、昨日は思い出していました。

私は幕見で観ることが多いのでロビーで麻央さんにお会いしたことはないのですが、2014年7月の『天守物語』の千穐楽の日に、一度だけお見かけしたことがありました。その月は昼の部が海老蔵の『夏祭浪花鑑』で、夜の部の開場前に歌舞伎座隣のカフェの2階から私がぼうっと昭和通を眺めていたら、楽屋口の方から歩いて来られて、そのまま横づけされたタクシーに乗って行かれました。涼しげな水色の着物がよく似合ってらして、テレビで見るよりずっと透明感があって綺麗な方だなあと感じたのをよく覚えています。その日のブログでは海老蔵が明るい笑顔の麻央さんの写真を載せていました。

麻央さんのブログの文章が好きで、いつも拝読していました。素敵な女性だな、と思っていました。あのとき海老蔵からもらったのと同じくらいの心の元気を、麻央さんのブログからいただきました。人生の大切なことも、教えていただきました。

ご冥福を心からお祈りいたします。

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ロパートキナ引退

2017-06-20 21:27:06 | バレエ




ロパ様、引退だそうですね。。。
私はバレエをちゃんと観初めてまだ数年なので、彼女の踊りを生で観ることができたのはガラでの『ライモンダ』と『瀕死の白鳥』、全幕は『愛の伝説』『白鳥の湖』だけでしたが、ロパートキナって私の中で特別なバレリーナでした。今まで感動する舞台を見せてもらえたダンサーって本当に沢山いるけれど、彼女からもらえた感動だけは、私の中でちょっと特別だったんです。
あの感覚は、本当に大切な、きっと一生忘れない私の宝物です。

引退って「おめでとうございます」と言って送るものですよね。
ロパ様、本当にありがとう。
これからも益々のご活躍を心から祈っています!

Uliana Lopatkina Odette Variation - Swan Lake



映画 『ロパートキナ 孤高の白鳥』

※追記(6月30日):Japanartsがロパートキナ公式ページの引退メッセージを掲載してくださいました。

<ロパートキナさんのメッセージ>
私の想い、気持ち、苦悩のすべてを表現する "言葉" を選ぶのは難しいです。

この困難な職業は実に多くのことを私に要求してきました。
と同時に、この素晴らしい芸術はとても多くのものを私に与えてくれました!

創造活動の歩みの中で、私がめぐり逢ったすべての方々に感謝いたします。          
私を指導してくださった先生方、友人たち、協力してくださった方々、そして、私を励まし、期待し、なぐさめ、また、私のことを心配し、信頼し、感謝し、支えてくださったすべての皆様に感謝申し上げます。 

また、仕事で私と苦労をともにしてくださったすべての皆様に感謝いたします。

私のファンの皆様、私を理解し客席から喝采を贈ってくださったすべての方々に感謝いたします! 
すべての皆様が私の心の中にいます。 
皆様のおひとりおひとりに「ありがとうございました!」と申し上げます。

悲しいですが、心は晴ればれとしております! 
感謝の気持ちと責任を果たし終えた想いを持って、舞踊生活に別れを告げます。

ウリヤーナ・ロパートキナ

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ボリショイ・バレエ団 『パリの炎』 @東京文化会館(6月15日)

2017-06-18 14:34:02 | バレエ


当初は行く予定のなかった『パリの炎』。
しかし先日のあの『白鳥』を観てから、一幕二場のチュージン&スミルノワのアダージョと白鳥達の姿がチャイコフスキーの旋律とともに寝ても覚めても仕事をしていても頭から離れず、使いものにならない廃人状態になってしまい(幸せな廃人だったが)、「ボリショイのメンバーってまだ東京にいるのよね・・・」と思うといてもたってもいられず、チュージンは観られないことはわかっていても仕事を無理して東京千秋楽の当日チケット(ぴあ)を買ってしまったのであります。退社して走ってセブンでチケットを受け取って電車に飛び乗って開演時間ギリギリに到着。今回ほど上野東京ラインに感謝したことはなかった。

さて、感想ですが、先にネガティブな部分を書いちゃいます(素人がエラそうに申し訳ありません…。でも覚書なので正直に書きます)。
①器械体操のような振付の良さが私にはわからなかった・・・。義勇軍の登場ののっけから「!?」となった(^_^;) ああいうのを見慣れていないせいもあると思いますが。
②音楽の魅力がイマヒトツ・・・。『愛の伝説』のような暗く情熱的な不協和音爆発なわけでもなく、『ドンキ』のようにアホらしくなるほど楽しいわけでもなく、『白鳥の湖』のようにうっとりするような魅力的なメロディーが満載なわけでもなく、これといった特徴が感じられませんでした・・・。あ、でも二幕冒頭の民衆を鼓舞するバスクの踊りのところは楽しかった。
③なにより、本筋と直接関係のない一幕後半の劇中劇が私にはあまりにも、あまりにも長く感じられた・・・・・ あの構成のアンバランスさは何事・・・。マルガリータ・シュライネル(女優)はジゼルのときより良かったですし、ダヴィッド・モッタ・ソアレス(俳優)も綺麗に踊っていたけれど、メインストーリーと直接関係がないのでとにかく長く感じる・・・。はっきり言うとタイクツ・・・。ここで私のテンションも集中力も底辺まで下がってしまい、おそらく一幕の山場なのであろう「ラ・マルセイエーズ」が遠くから聴こえてくるところも気持ちは沈んだまま(しかもテープ音)。。。
この劇中劇部分はせめて半分の長さにして、そしてその時間をフィリップ&ジャンヌの恋をもう少し丁寧に描くとかにまわしてほしいです…。

ですが、二幕は楽しかったです。
というか、あそこまでダダ下がり回復不能レベルまでになっていた私の気分を引き上げたイワン・ワシリーエフ(フィリップ)の客席を巻き込むエネルギーの凄さに吃驚。

Q:今回、東京で『パリの炎』を踊っていただけますことを、心から楽しみにしています。『ドン・キホーテ』や『スパルタクス』に次ぐあなたの代表作だと思っていますが、フィリップとあなた自身との共通する部分はどのようなところでしょうか?
A:男らしく、雄々しく強い性格、それと、現状に甘んじることなく、何かに抵抗して、殻を突き破って自分や社会を変えていこうとする革命的な意志でしょうか。
Q:『パリの炎』はテクニック的な部分が注目されやすい作品ですが、他のあなたが伝える魅力はどこでしょうか?
A:ドラマ性とエネルギー、でしょうね。いくらアクロバティックに派手に踊って見せても、心の底からほとばしるエネルギーが感じられなければ、空疎な踊りになってしまうでしょうから。
(Japan Artsインタビューより)

ワシリーエフって生で初めて観ましたが、まずスターオーラが半端ないんですね(ドヤ顔が全く嫌味じゃない不思議)。天性のエンターテイナーなのだなあ。そしてふわついていない力強くてしなやかな踊りは私の大好きな熊哲の踊りと似ていて、観ていて本当に楽しかった。体が柔らかいのか背の逸らし方も綺麗。バスクダンスも結婚式も、会場大盛り上がりでした。キャラクター的にも、ドンキの映像を観たときに「床屋の息子っぽい!」と感じたので今回も貴族に対する平民ぽさを期待していったら、期待をはるかに超えたガラの悪さで笑。

調べてみるとこのマルセイユ義勇軍というのはかなり急進的、狂気的な人達だったようで(その出自はもちろん一般の民衆や農民達)、彼らがテュイルリー宮襲撃の際にパリへ向かうときに歌っていたという現在のフランス国歌でもある「ラ・マルセイエーズ」も、その歌詞の血生臭さといったら相当です。

行こう 祖国の子らよ
栄光の日が来た!
我らに向かって 暴君の
血まみれの旗が 掲げられた
聞こえるか 戦場の
残忍な敵兵の咆哮を?
奴らは我らの元に来て
我らの子と妻の 喉を掻き切る!

武器を取れ 市民らよ
隊列を組め
進もう 進もう!
汚れた血が
我らの畑の畝を満たすまで!
(wikipediaより)

おお、今夜のワシリーエフのフィリップになんともピッタリな歌詞ではないですか!
革命って一旦動き出すと最初の理想やら正義やらは熱気の中にうずもれていって、血が血を呼び狂気化し、もはや理屈や思想ではなく民衆の「エネルギー」そのものが意志となって時代を動かすようになる。言い換えればそういう狂気と勢いがなければ、体制を覆すなどということは成し遂げられないのだと思う。
義勇軍のフィリップを含めたダンサー達、断頭台に連行される貴族の人達を本当に楽しそうに笑って見ているんです。ざまーみろ!という風に。でもアデリーヌまでも断頭台にかけられる展開になって、フィリップは初めて悲痛な表情にはなるのだけれど、それでももう誰にも民衆の熱狂を止めることはできない。その現象をその中心にいるフィリップはおそらく誰よりも理解し体で感じてしまっているから、自分の命を張って止めることは諦めているように見えた。
そしてエネルギーの塊のワシリーエフは、そんなこの作品に本当にピッタリでした。踊りも体力の限界まで踊ってくれましたねえ。結婚式のPDDの後だったか上手の袖にはける直前に「この人このまま心臓発作で死んじゃうんじゃ」というくらいのヤバイ表情をしていたときがあって、ツイッター情報によると袖で倒れ込んでいたそうです。スタミナの配分計算とか全くしないで最初から全力で踊ってくれてる感じだったものなあ。幕の最後の方は足が十分に動いていなくて「ん?手抜きか?」と一瞬思いオペラグラスで見たら、すぐに違うのだわと気付きました。もう限界まで踊っていたのね。スタミナ切れても踊る!踊れなくても踊りまくる!その気持ち、ちゃんと客席に伝わりましたよ。ありがと~!!
王子タイプを踊れるダンサーは数いれど、こういうタイプを踊れるダンサーって本当に貴重だと思う。

クリスティーナ・クレトワ(ジャンヌ)。ジャンヌダルクのような役なのかと想像していたら、意外に女の子らしい振付なんですね。兄のジェロームが軍服を着ているのを羨ましがって「私も着たい!」と言ってみたり。主役を踊るにはもう一歩地味に感じられるのが残念だけれど、素朴な太陽のような笑顔が可愛かったです(*^_^*) 踊りも上手!

アレクサンドル・スモリャニノフ(ジェローム)もやはり地味なのでどうしてももう少し花が欲しいと思ってしまうのだけれど、一幕のジャンヌとの可愛い兄妹のPDDは本当に平民の善良な兄妹に見えて、革命の闇を深く考えずに軍隊に憧れて入隊してしまうその朴訥な姿が二幕のラストの彼と対比されることになり、それは非常によかったと思います。アデリーヌがギロチンにかけられた後の目を見開いたショック状態の演技も純朴そうな彼だけに本当に可哀想だった。そんな兄に同情する気持ちと義勇軍とともに進んでいこうとする気持ちが旗を手にフィリップ達と行進するクレトワの表情によく表われていました。アデリーヌ役のアナ・トゥラザシヴィリも貴族の品の良さが出ていて、役によく合ってた。

イーゴリ・ツヴィルコボールガール侯爵。おお、もうちょっと野獣系かと思いきや、素敵だ!エロだろうがなんだろうがこの侯爵になら襲われてもいい!と思ってしまった笑。ちゃんとアデリーヌのパパに見えたし。踊るシーンが少ないのは残念。そしてツヴィルコの侯爵が素敵なほど、当初キャスティングされていたチュージンの侯爵も観てみたかった、とも思ってしまうのでありました。。

以上、好みでない部分も山ほどある作品ではありましたが、やっぱり初めて観る作品は楽しかった。
ところでこの作品って、どう捉えるべきものなのでしょう。Japan Artsの紹介では「多くの犠牲を重く受け止めつつ、民衆は新しい未来へと歩みだす」と書かれていたけれど、そういう明るいラストにしては最後のフィリップ達の表情が気になるのよね…。アデリーヌの首を抱いて地面に蹲るジェロームを踏み越えて行進していくフィリップ達。あれ、集団の狂気の表情をしていたように見えました。ワシリーエフだけなのかなと思ったら、前日のラントラートフもそういう演技だったようですし。
特権階級を否定した市民革命の光と闇をそのまま描いているとして、あのラストは「それでも市民は前に進む」という光部分を強調しているというよりも、「革命の狂気」という闇の部分を強調しているように私には見えたのだけれど、実際のところはどうなのだろう。ラトマンスキーによる改訂がどういう部分なのかは調べていませんが。そしてプーチンさん肝いりの「ロシアの季節」というロシア政府主催イベントの皮切り公演の東京トリを飾ったのがこの演目なわけですが、プーチンさん的にこれはOKなのだろうか。だとしたらどういう理由によるのだろう。「民衆に自由を与えるとこういうことになるんだ、よく見ておけ」というメッセージだったりして・・・震。
そうそう、処刑された王妃達の手足が空中を飛びまくっていて、バレエでこんなシーンを観るとは(歌舞伎ではしょっちゅうだけど)、なかなか衝撃的でした。それともあれは生身の人間ではなく人形という設定なのかな。

写真は、Japan Artsのツイッターより。
次回は2020年とのこと。オリンピックイヤーですね。
楽しみに待ってま~す!!!


ワッシー笑。
アナの元気な笑顔が嬉しい(あのラストの後だけに)。
なおワシリーエフは現在はミハイロフスキー劇場バレエの所属で、今回のボリショイ来日にはゲストダンサーとしての出演でした。でも下記インタビューにもあるとおり今でもボリショイの舞台にはしょっちゅう出演しているそうで、元同僚達とも仲良しみたいですネ


クレトワと(^-^)

イワン・ワシリーエフのインタビュー
アナ・トゥラザシヴィリとゲオルギー・グーセフのインタビュー

※ダンサー達の生年ってwikipediaに結構情報があるんですね。便利。

Flames of Paris | Natalia Osipova & Ivan Vasiliev | Bolshoi Ballet 2010 (DVD/Blu-ray trailer)


Pas de Deux from Flames of Paris - Natalia Osipova and Ivan Vasilev


"Flames of Paris" Bolshoi theatre Danse basque 27.09.14 Танец Басков

クレトワのジャンヌ、ツヴィルコのフィリップ。てかこの動画上げてるのツヴィルコ本人?
ワシリーエフと踊ると迫力不足に感じられたけど、クレトワ、悪くないですね~。

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ボリショイ・バレエ団 『白鳥の湖』 @東京文化会館(6月12日)

2017-06-12 22:59:44 | バレエ



The show must go on.
というわけで吃驚ハプニングのあった今夜の公演。
以下、今夜のワタクシの感想を時系列のままに書くことにいたします。


【第一幕】

チュージン素晴らしい

まずはこれに尽きます。いやあアッパレ。
彼は他の版ではなく、まさに「グリゴローヴィチ版の王子」そのものなのだなあ。
ノーブルで美しい踊りはもちろん王子そのものなんだけど、そこに王子の「若さゆえの神経の繊細さ、純粋さ、危うさ」があって、そんな彼の姿がこの物語をすごく明確に表現していて驚きました。

数年前にザハロワ&ロヂキン君で観たときにどうしても理解しきれなかった、そして非常に理解の難しい版のように感じられたこの作品が、チュージンの王子をただ見ているだけでストンと自然に、そしてすごくシンプルに理解できた。グリゴロ版ってこうしてちゃんと物語を見せてもらえれば、決してわかりにくい版などではなかったんですね。
二場のロットバルトが王子を湖へと導きながらシンクロするように踊るところ、もう踊りを見ているだけで涙が出そうになりました。若い王子の透明な純粋さに。これは「王子の物語」なのだということが、「やがて一国の王となる王子が少年から青年へと移行していく物語」なのだということが、ここの場面からだけでもすごくよくわかった。
そしてそんな王子の背後で踊るロットバルトは、「人が大人になる過程で必ず向き合わねばならない自分の中の何ものか。そして向き合った後はそれ以前の自分には二度と戻れない何ものか」であるように私には見えました。それは「運命」、「現実」、「王子のダークサイド」、どう呼んでも構わないと思います。
体が大人になり周囲の環境も変わっていくなかで、王子自身、望もうと望むまいと、もうそれと対峙すべき時期に来ているのだと思う。
そしてロットバルトがそういう存在であるならば、王子がロットバルトに勝つことができないラストは必然ということになるのだよね(ラストを悲劇に変えたグリゴロさんの決断は正しかった)。

そしてそんな彼とスミルノワのパートナーシップが素晴らしかった。
アダージョのPDDは、この二人の踊りが発する純粋さに息をとめて見入ってしまいました。
「若いゆえの、若いときにしかない危うさ、純粋さ、透明感」が伝わってきたよ。
チュージンって今何歳なんだろう?30代よね?なのにあの感覚をあんなにリアルに表現できるなんてすごい!
それにスミルノワを支えて踊るチュージンが、少年から青年へと移行しつつある微かな色気を感じさせてカッコイイのよ。
こうして王子は恋を知り、一つ大人への階段を上ったわけだけど、、、ロットバルトはその続きも用意しているのよね・・・。

スミルノワは絶望の中にいながらも王子に出会えたことをやっぱり嬉しく感じていて、 最初は恐る恐る、でも次第に王子に自分を預けていく心の動きが伝わってきました。自分には何も変える力はないのだという諦めと、それでも微かな希望を信じたい気持ちも見えて。そっと王子に甘えるような一瞬の仕草と表情が見ていてとても切なく、悲しく、胸が苦しくなりました。なぜならオデットがロットバルトから逃れて王子のものになる未来は「絶対にあり得ない」のだから。この版の王子にはあのラスト以外の道は最初から存在していないのだと思う。人は大人になることが必然で、いつまでも子供のままでいることはできないのだから。スミルノワのオデットは、自分がやがて消えていく存在であることを感じている。でもこの時の王子はそんな彼女の内面の悲しみには気づいていなくて・・・。
スミルノワってほとんど顔の表情を変えないのだけれど、だからこそ時々ふっと見せる人間らしい表情がひどく魅力的で、なによりチュージンとのパートナーシップが本当に素晴らしいから、踊りから物語が見えてくる。
純粋なのにとても濃密なアダージョでした。
なんて美しい世界だろう。
それはファンタジーの世界の美しさではなく、私達のだれもが一度は経験する、人生のほんの一時期にだけ存在する美しさ――。ああ、こんな世界を見せてもらえるなんて・・・!
別の版だけど、私の中でエベレストの頂上、雲の上に君臨しているあのロパ様のアダージョと同じくらい感動したかもしれません(オデット単体ならやっぱりロパ様が最高峰ですが)。
そして大人になった王子がいつの日か再び「本当の愛」に出会うことがあったとしても、それはこのオデットとの愛とは別の形のものなのだと思う。こういう愛は、きっと人生で一度だけのものだから。

オケは、笑っちゃうほど盛り上げてくれました(指揮は今回もソローキンさん)。いやあ、ほんと楽しいね~ボリショイのオケ。「踊れ!踊れ!盛り上がれ!」ってダンサー達を下から駆り立てている。
このオケの良さって爆音はもちろん楽しいのだけれど、盛り上げ方が上手ですよね。大事な部分になると1~2小節くらいのフレーズ(ドレミファ~くらいの)をぶわぁっと膨らませるように演奏してクライマックスへ持っていく。あれ、聴いていてとても楽しくて、興奮しました。決してすごく上手なわけでも繊細なわけでもないのに自信いっぱいの演奏も、バレエ演奏としてとてもいいと思う。大満足です。

道化は開演前にキャスト変更があり、ゲオルギー・グーセフ。彼も素晴らしかった!キレキレのスピードある踊りで盛り上げてくれました。道化役って実はすごく重要ですよね。それにグーセフは振付は可愛く踊っているのだけど一幕の王子がまだ持っていない世慣れ感があって、それが王子と対比されてとてもよかったです。


(25分間の休憩)

しかし25分たっても幕は上がらず・・・
「お客様にご案内申し上げます。第二幕の準備に時間を要しておりますため、そのまま客席にてしばらくお待ちください」のアナウンス。
・・・嫌~な予感・・・。一幕すんごく良かったんだから、このまま誰も変わらないでよ~。頼むよ~

さほど待たずに、「お待たせいたしました。準備が整いましたのでこれより第二幕を上演いたします」。
おお、何もなく続けてくれるのね~。良かったあ~。


【第二幕】
何事もないかのように幕が上がり、王子のお嫁さん選びの舞踏会。各国の王女の踊りが終わって(この間グリゴロ版王子は舞台にいません)、ようやく上手奥から王子登場。
髪がサラリとなびいて。

・・・・・って、、、

ウラド~~~~~!?????

ちょっ・・・・さすがにワタクシ動揺。
だってアナウンスもなかったのに。でもこの顔はどう見てもウラド。
しかし次の瞬間。

ウラドかっこい~~~

私、ラントラートフって決して好みのタイプではないのですよ。踊りは好きですけど。
でも、でも、、、
カッコイイ!
チュージンとは別の意味での王子様オーラがいっぱい。繊細で神経質な感じもするチュージン王子に対し(それがいい)、こちらは宮廷で大らかに育った華やかな王子様。
ただこのウラドを見て、一幕と二幕の配役が逆じゃなくてよかった、と思いました。逆だったら(一幕がウラドで二幕がチュージンだったら)おそらく今夜これほど感動できなかったのではないかと思う。なぜならグリゴロ版の物語に合っているのは私の印象ではウラドよりチュージンの方で(二人の全幕を観ていないので言い切ることはできませんが)、一幕でチュージンが「これはこういう物語なんですよ」とグリゴロ版白鳥の物語を十分に語って見せてくれていたから、もう物語の説明は不要だった。たとえタイプの違う王子でも、十分に物語を追うことができた。
普通ならとても感動なんてできなかったはずの精神状態で感動できたのは、チュージンのおかげが大きいです。

が、ウラドもすごく頑張ってくれた(ちょっと演技がクサいところもあったけど笑) さすがに最初は慌ただし感があったけど、よくぞあの勢いのまま客席のテンションを下げずに立派に幕を繋げた!なんて頼れる男なの!さすがはプリンシパル!感動したよ~~~。

そしてもう一人立派だったのが、スミルノワ!王子が変わったのでオディールは一体誰が出てくるんだろうと密かにドキドキしていたのだけれど、スミルノワのままで嬉しかった。そして内心はわからないけど、あの落ち着き。私が落ち着いていなきゃいけないんだっていう度胸を感じたよ。ウラドのサポートと合わなかった時もウラドはさすがに余裕のなさが表情に出ちゃってたけど(当然だよね。急な代役だったし、サポート失敗してスミルノワにケガをさせたら大変ですもの)、スミルノワは最後まで表面上は落ち着いた表情を崩さなかったので、こちらも落ち着いて観ることができました。またそういう事を抜きにしても、スミルノワのオディール、すごく魅力的だった。踊りも力強くて華やか。女性に免疫のない王子が誘惑されちゃうのもわかるわ~。ブラヴォー、スミルノワ!

ロットバルトのツヴィルコ。迫力!一幕は顔芸やりすぎじゃね?と思ってしまったけど、二幕は大きな踊りで魅せてくれました。チュージンやウラドの王子様な踊りと対照的な、いい意味で粗さのある凶暴で不穏な感じがロットバルトらしくて大変よかった。

そしてオケ。
二幕も笑っちゃうほどの盛り上げ方で、力技で「ジークフリートなんにも変わってないから!最初からラントラートフだから!」と全力で言われているようで、ニヤニヤしちゃいました。
VIVA、ボリショイのチームワーク

あ~楽しかった!そして楽しかっただけじゃなく、作品にすごく感動しました。初めて心からグリゴロ版の素晴らしさがわかったよ。正直なところを言えば最後までチュージン&スミルノワで観たかったけれど(それくらい一幕が素晴らしかったから)、ボリショイのチームワークの厚さ&熱さを目の当たりにして、普通の公演で味わえない種類の感動をもらえました。
やっぱりボリショイ最高!!!!ありがとう!!!

今夜は脇もみんな良かったです。白鳥コールドもぞくっとするような美しさがあったし、各国の王女達もみんな美人で踊りも見ていて楽しかった。あと王子の友人役の一人のクレトワが、顔立ちは少々地味だけど踊りがハキッとしていて気持ちよかったな。

今夜は、本当に大きな満足をもらえました。
そうそう、カテコのときのウラドが大変良かった。
あくまで「自分は代役ですから」というように控えめで、会場の大きな拍手にスミルノワに「よかったね」ってニコニコの笑顔を向けてて。うんうんって何度も頷いて大拍手の客席を見上げて嬉しそうな様子も、自分ではなくスミルノワやボリショイのために心から良かったなと思っている感じで、スミルノワの優しいお兄さんみたいだった。ウラドってあんな表情もするんですね。前回のボリショイ来日でも世界バレエフェスティバルでも彼を観たけど、あんな表情は初めて見た気がする。マーシャと一緒だと自然と年下くんの表情になっていたのか、あるいは代役を無事終えた安堵感のせいか。思わず恋しちゃいそうでした笑。

チュージンにももう一度拍手を送りたかったけれど、やっぱりカテコには出てきませんでしたね、わかってましたけど・・・。終演後にロビーに掲示されていた案内によると、体調不良だそうです(踊りはそんな風には全く感じさせない素晴らしさでした)。どうか一日も早く回復しますように。一幕後のカテコでしっかり彼に拍手ができて、よかったです。また次回もぜひ来日してね。そのときこそスミルノワとのペアで白鳥の全幕が観たいです。あ、その前にルグリ・ガラで会える、、、かな?
追記:チュージンは背中の故障だそうです。あんなに綺麗に踊っていたのに・・・。どうかどうかお大事に・・・。



ウラドもお疲れさま!王子衣裳、似合う^^
踊るたびに髪がサラサラ靡いていたのは、ワックスで整える暇もなかったのだね。でもそれもステキだったよ~。
しかもノーメイクだったそうで。確かにノーメイクぽいですね↑。双眼鏡でガン見していたけど全然気付かなかった。素が王子すぎて笑。

パリの炎は行けないので、私のボリショイ祭りは今夜でお終いです。
ボリショイの皆さん、美しくて楽しい夢を本当にありがとう。大好きよ!!!

・・・・・の予定だったのですががが。
『パリの炎』(ワシリーエフ&クレトワ組)も行ってしまいました。感想はのちほど。

【キャスト表】6/12「白鳥の湖」ボリショイ・バレエ

オルガ・スミルノワのインタビュー
セミョーン・チュージンのインタビュー
セミョーン・チュージンのインタビュー(2011年)
ウラディスラフ・ラントラートフのインタビュー

スミルノワ&チュージン インタビュー! 〜『ルグリ・ガラ』出演と、ボリショイ・バレエを語る〜
Semyon Chudin:“I feel like Lensky” (2016年)
Olga Smirnova and Semyon Chudin on “Swan Lake”  Landgraf on Dance(2017年)

 

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『弁慶上使』『御所五郎蔵』『一本刀土俵入』 @歌舞伎座(6月10日)

2017-06-11 23:43:35 | 歌舞伎


ボリショイバレエの合間に、歌舞伎座

【御所桜堀川夜討 ~弁慶上使~】
以前文楽で見たときは「忠義のためとはいえ父親が娘を殺すなんて!顔を見たこともない子ならそりゃあ殺せるわよね」と弁慶に腹が立ったワタクシですが、今回は弁慶よりもおわさに腹が立ってしまった。娘が瀕死の状態で傍らに転がっているのにウキウキと髪の乱れを気にしてる場合後で娘の存在を思い出して弁慶との関係に悲痛な叫びを上げるところも「今まで忘れてたんかい」と思わずつっこんでしまったわ・・・。だって雀右衛門さんの演技が長年恋焦がれていた人との再会というより、女子高生のようなウキウキに見えるんだもん 米吉(しのぶちゃん)とも親子の情が今一つ感じられず・・・。
 
吉右衛門さんの弁慶。熱演、お元気、お若い。そして不思議と弁慶に腹が立たず説得力がありました。ああ仕方がなかったんだ、弁慶には弁慶の生き方があったんだ、と思えた。最後の幕外の花道で吉右衛門さんが両手に抱えた侍従太郎の首としのぶちゃんの首に想いをかけて、でも次の瞬間にはっと義経の家来である弁慶の表情に戻るところ、よかったなあ。上手いよねえ。そしてあんなカツラなのにかっこいい&美しい。役者絵を見ているようだった。
今また吉右衛門さんの弁慶@勧進帳が見たいなと感じました。富樫には仁左さまを切望。ああ、どうしてこのお二人は組んでくださらないの~~~。あんなにお似合いなのに~~~。
 
あと、又五郎さんの侍従太郎がよかったな。「自分の命で足りるなら迷わずやるのに」っていうところ、本当にそう思っているのが伝わってきました。この人は常に命の覚悟がある人なのだなあ、と。動作もあいかわらず無駄な動きがなくてキレイ。一方、高麗蔵さんの花の井はちょっと冷たい感じに見えました(おわさの手を払うときの表情とかが)。
 
桜の絵の襖が華やかで素敵だった
 
 
【曽我綉俠御所染 ~御所五郎蔵~】
七五調が楽しいなあと思ったら、黙阿弥なんですね。
仁左衛門さんのご登場は本花道じゃなく仮花道の方であった。上手の席に座っちゃった残念と思っていたら、私の大好きなニザさまの横から見る立ち姿だ~
両勢力が親分を筆頭にズラリと並ぶ両花道の使い方かっこいい!
てか、

ニザさまかっけーーーーー

開演前に飲んだワインの酔いが一瞬でふっとんだわ。白がお似合い色っぽい流す伏し目が美しい柔らかな声とドスの聞いた声の使い分けもいつもながら素敵ーーー(>_<) なんて素敵な二枚目親分なの!
左團次さん(土右衛門)が存在感と貫禄と色気で負けていないから、舞台のバランスがいい~。左團次さん、このお役がすごくニン!
ニザさま、後半の衣装もすんごくお似合いだった!あれは何色というんでしょう。紫と紺の間の色に薄鼠色(白じゃないの)の梅の柄。この色に緑の帯って、歌舞伎の衣装ってどれだけセンスがいいの!
ああ、いつもながらあらゆる姿が絵になるニザさま。。。久しぶりに舞台写真買っちゃうかも。。。
 
殺したのは皐月じゃなく逢州だったと首切るときに気付く流れは、ニザさまによる改変だろうか?ちょっと強引だった気も(だって斬るときも首切るときもまだ暗いことに変わりがないのに)。
 
雀右衛門さん(皐月)も米吉(逢州)も、昼の部よりこちらの傾城の方がずっと良かったように感じました。米吉くん、やっぱり動きや台詞の多い役の方がやりやすいのか、生き生きしてた。大人しい役よりもこういうしっかりした役が意外に合いますね~。

そうそう、愛想尽かしの後の名台詞は本花道でした。ここのニザさまも素晴らしかった・・・。
 

【一本刀土俵入】

幸四郎さんかっけーーーーー

吉右衛門さんにしても仁左衛門さんにしても幸四郎さんにしても、爺さま達お元気&カッコよすぎ。私は月の後半に行くことが多いのだけれど、皆さん前半の方が元気がいい気がする。これからは前半に行こうかな。
ふかし芋が美味しそうだった(やっぱり良い芋使ってるのかなー)けど、幸四郎さん(茂兵衛)はあの量を毎日舞台で食べているのだろうか。飽きるよねえ・・・。役者根性ですね。
もっとも前半はちょっと頭の足りない人に見えたのだけど(面白かったけど)、後半の感じからすると別にそういう人間ではないのよね?
 
猿之助(お蔦)も雰囲気があってとっても良かった。やっぱり私は猿之助は女方の方が好きだなあ。特にこういうあだっぽい役の猿之助はとても好き。
後半(10年後)のお蔦の家は、家の周りの夜の暗闇が江戸時代らしくていいね。新歌舞伎だからか回り舞台を全部見せて使うのが楽しかった。

猿弥さん(船戸の弥八)、ちょっと赤目の転生のジャイアンを思い出しました笑。こういう役の猿弥さん、好き!
 
松緑(辰三郎)、金毘羅でも感じたけど、以前より余分な力が抜けてとてもいいですね。何があったのだろう。
 
松也(根吉)、久しぶりに見た気がするけど(違うかもしれないけど)、声よくて姿いいから舞台で映えるな~。でも少し太った?

声がいいといえば、若船頭の声がいいなあと思ったらみっくんだった。のんびり感がステキ笑。
 
歌六さん(波一里儀十)の親分もかっけ~~~ こういう役の歌六さん大好き!めちゃくちゃ風格あるのに、茂兵衛にあっという間に倒されちゃうところも楽し笑。

若船頭と老船頭(さん)と清大工(由次郎さん)の3人のひょうひょうとした会話、味がありますね~。どちらかが台詞の順番間違えてたっぽかったけど、あのひょうひょうとした雰囲気の中ならそれもよし。この空気、大好きです。

これ、初めて観ましたが、いい話ですねえ。
お金をあげようとするお蔦に茂兵衛が「あなたが困るでしょう?」って言うと、「どうせいつも困ってるんだから変わりゃしないよ」って答えるじゃないですか。お金ってあるに越したことはないはずなのに、それをわかっているはずなのに、お蔦は茂兵衛にお金をあげたかったんだね。なんか、いいなあ。
「お金ってこうやって使うものだよね。私も観劇よりもっと誰かの役に立つお金の使い方があるのではないかしら」とか本気で考えてしまった(単純)。
途中で何度かぐっときて、最後の名台詞ではぐわぁ…っとなっちゃいました。幸四郎さん、お見事です
 
あ~楽しかったあ。やっぱり歌舞伎はいいねえ 
明日は再びロシアバレエの世界に戻り、ボリショイです。スミルノワ&チュージン、いい舞台、期待してるよ~!

ようこそ歌舞伎へ 「六月大歌舞伎」『曽我綉俠御所染』市川左團次




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ボリショイ・バレエ団 『ジゼル』 @東京文化会館(6月4日)

2017-06-06 00:08:05 | バレエ




東京文化会館に着いたら楽屋口に外務省ナンバーの車が並んでてロープが張られてたり、ロビーにロシアのTV局がいたり、舞台にマイクがあったりと不思議に思っていたら、安倍首相とロシアのゴロジェツ副首相が開演前に挨拶をして、そのまま鑑賞。他に外務大臣やら経済産業大臣やら自民党副総裁やら、政府首脳の面々が揃ってバレエ鑑賞という珍しい光景でした。ロシア政府主催の「ロシアの季節」という文化交流イベントの開会式のためだそうで、その名誉ある(と安倍さんが言っていた)一ヶ国目に選ばれたのが日本なのだそうです。その皮切りが、この夜のボリショイバレエ団の日本公演。皆さん忙しいでしょうに(興味なんて皆無であろう)バレエ公演をロシアの副首相と並んで2時間半鑑賞しなければならないとは、政治家も大変ですねぇ。安倍さんのスピーチにはプーチン大統領の名前が繰り返し出てきて、この夜のキャストもプーチンさんご指名だったそうです。先日のシフのときも考えてしまったことだけど、芸術と政治って本当に密に関係し合っているんですよね、日本にいると意識しにくいけれど。それにしても安倍さんの口から「ザハロワさん」「ロヂキンさん」という言葉を聞く日がこようとは。随分長いスピーチだなぁと思っていたら、公演のためのスピーチじゃなく開会のためのスピーチだったんですね。そもそも客は知らされていないものなぁそんなこと。。

さて、公演。
今回も帯同のオケ(指揮は前回と同じソローキンさん)は、繊細ではないけれど厚い音で盛り上げてくれて、結構満足です。揃っていない音もロシアバレエらしくて楽しい(東京シティフィルも下手でもいいからこういう盛り上げ方をしてくれればいいのに、といつも思ふ…)。ロシアバレエらしいといえば、今夜はジゼルの音楽が全然違うロシアの音楽に聞こえて面白かったのです。特に2幕は「あれ?違う音楽?」と思った。ロシア民謡のような、演歌のような、コッテリ風味。ロシアの楽団だとこうなるのだろうか。それが大変新鮮だったので帰宅後に「そもそもジゼルってどこの国の作品なんだっけか?」と調べたら、フランスなんですね。作曲家もフランス人。そして今夜の公演はロシア人がロシアの食材でロシア風に調理したフランス料理といった感じで、それはそれでとても興味深かったのでした。

ザハロワロヂキン前回の白鳥のときに二人の間に恋愛的な交感があまり感じられなかったのは演技だったのかどうなのか?と思っていたのだけれど、今回もそうだったので、やはりこの二人の間に恋愛的な空気は難しいようですね。でもそれがないと私は『ジゼル』に感動できないのよ・・・。演技の薄さは、特にロヂキン君がなぁ。ザハ様のことを好きそうな表情はちゃんと見せているのだけれど、なんというか、色々とギリギリ感が少なく(二幕も「もうダメっす、限界っす…!」感が薄いので、まだ1日くらい踊れちゃいそうであった)。グリゴロさん白鳥はリアルな相思相愛の恋愛というよりロットバルトの掌の上で理想のオデットに憧れる王子設定なので(たぶん)、あれはこの二人に比較的合っていたのだけれど、生々しい恋愛感情が必要なジゼルのような作品だと難しいですねぇ・・・。

では満足できない公演だったかというと、決してそうではなく。なぜなら、
ザハロワの美しさが平伏レベルだったから。
ジゼルがではなくザハロワがなのが残念ではありますが、気高くて、気品があって、外見だけじゃなく相変わらず内側から発光するように輝いていて。彼女の周りだけ空気の色が違う。
さすがにこの2年半の間に少々老けはしたけど、やっぱりザハロワって美の化身だな~と、「美」を人間の形にしたらこうなるんだろうな~と思いながら見ていました。もはや姫というより女王様。なので前半は村娘感があまりなかったけど(踊りは素晴しかった)、二幕では照明効果もあって女王様感にほどよくヴェールがかかって、亡霊っぽすぎず人間っぽすぎずな、とても素敵なウィリでした。演技過多でない静かな表情も、体重を感じさせない体と踊りも、二幕のウィリによく合ってた。ふわ~の跳躍もふわふわ~(ロヂキン君サポート上手くなってた!)。夜明けの鐘が鳴ったときのほっとする表情も、クサくない静かな演技が却って感動的に見えました。とはいえ前回来日のバヤのように本気なザハ様の気迫はこんなものではないはずなので、今回は日露首脳陣が客席に勢揃いしていた政治的な場でもあったので安全運転気味なところもあったのかな、とも。
カテコのザハ様の超絶な美しさは、言うまでもありません。綺麗~とかキャ~とかいうレベルじゃなくて、大袈裟かもしれないけど人間として尊敬の念を抱いてしまうような、これだけにお金払ってもいいと感じてしまうような、そんな美しさ。ロパ様と同じように、ザハロワもきっと仕事に対してストイックな人なのだろうなぁ。ロヂキン君、ザハ様の頬にチュッてキスしてた

ウィリ達の場面は、ロシア人のダンサー達の顔立ちが物語の世界の中のようで、見ていて楽しかった。そもそもジゼルという作品が私はとても好きなのよね。ヨーロッパの古い御伽噺を読んでいるみたいな気持ちになれて。
ミルタはユリア・ステパノワ。登場しても見逃してしまうような可愛らしい少女のようなミルタで(冷たい表情がいい感じ♪)、ウィリ達も同様に「いかにもな不気味さ」の少ないウィリで、でもそれが却って不気味のようにも思え、こういうのもアリだな~と思いました。いかにもなウィリも楽しいけど、案外こういうのもリアルなのでは、と。

ぺザントの男女(アルトゥール・ムクルトチャンマルガリータ・シュライネル)は、、、ボリショイであの値段をとってあれを延々観させられたのは、ちょっと納得いかなかったです・・・(シュライネルは後半持ち直してはいたけれど)。私の隣の人は全く拍手していなかったけど、私は小さめにしましたよ。来日公演は「日本に来てくれてありがとう」な気持ちはありますもの。

ハンスのヴィタリー・ビクティミロフ。かっこよかった。好み笑。バチルド(ヴェラ・ボリセンコワ)も美人!

アルブレヒトの持ってくる花束は白と黄の混ざった丸っこい花で、悲劇感が薄く見えました。やっぱり私は真っ白な百合がいいな~。ウィリの登場前に森の草がLEDぽく白くピカピカ光るのも安っぽくてねぇ。・・・ってつまりはそれも全部ひっくるめて「ロシアっぽい」と楽しめばよいのかしら。そんな気がしてきた笑。
そういえばボリショイのジゼルは最後に白い花をアルブレヒトに直接手渡すんですね(ロイヤルでは床に落としてた)。どんな仕草も美しいザハ様・・・。

というわけでザハ様があまりに美しくてそれだけで感動してしまうレベルではあったのだけれど、やっぱり『ジゼル』は幕が下りた後のぐわ~っとクる呆然感が私は欲しかったなぁとも思ってしまうのでありました。ザハロワもジゼルより二キヤのような気の強いところのある役の方が彼女に合っているように感じた。これまで見たことのあるザハ様全幕の中では、ワタクシはバヤの彼女がダントツで好きでございます。
ちなみにこのジゼルも振付(改訂)はグリゴロさん。

そういえばイケメンベリャコフ君は今回は来日していないんですね。ロブーヒンもアレクサンドロワもニクーリナもチホミロワもルスランも。残念である。また観たかった。
次回はスミルノワ&チュージンの白鳥です。前回観られなかったキャストなので、とても楽しみ





ザハロワのプロポーションって本当にバレリーナの一つの理想形ですよね。。。そしてこんなに細い手脚で折れちゃいそうなのに、ちゃんと踊りきっちゃうのだものなぁ。
写真と動画はJapanArts twitterより。


本公演についてのロシアのTV局のニュース。
言葉は全くわからないけど^^;、舞台の映像や舞台裏のザハロワやロヂキン君が見られます。ザハロワってこうして普通に話している姿も魅力的ですよねー。低めの声も素敵。オブラスツォーワもキュート!

【追記】

jiji.comより。6日にザハロワとレーピンが首相官邸を表敬訪問したそうです。ザハロワ、美しい。。。


デニス・ロヂキン 「日本の完璧主義は大好き」

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ミュシャ展 @国立新美術館

2017-06-03 02:41:22 | 美術展、文学展etc




国立劇場の文楽が15時半に終わったので、その足で乃木坂へ行ってミュシャ展を見てきました。16時に着いて、18時の閉館まで2時間。最初こそ大混雑でしたが(それでも入場待ち時間は10分程度。週末に行った知人は1時間だったそうです)、最後の30分は人のまばらな会場でゆっくり楽しむことができました。
最後に出口付近からもう一度振り返って、人の殆どいない会場(最初の二部屋)を遠くから見渡したスラヴ叙事詩の美しさが印象的でした。近くで見るのもいいけれど、この連作は思いっきり引きで複数の絵を同時に見るのもとてもいい。広い空間の国立新美術館だからこそ可能な見方で、こういう楽しみ方はおそらくプラハでもできないのではないかな。そのためにも、これから行かれる方はぜひ人がまばらになる閉館間際まで会場に残るべし。グッズを買う時間がなくなる?グッズよりホンモノを目に焼き付けましょ!

私の『スラヴ叙事詩』との出会いは、2004年のプラハでした。といっても、実物ではありません。プラハのミュシャ・ミュージアムでこのシリーズの最初の絵『原故郷のスラヴ民族』のポスターだったかリーフレットだったかを見かけて、実物を見たい!と思ったのです。今思うとそのときはミュシャ・ミュージアムではなくモラフスキー・クルムロフ城に所蔵されていたんですね。この絵がこんなに大きいということも、今回知りました(下調べしていなかったので、会場で吃驚。一番大きな絵で6×8メートルとのこと)。
それがまさか13年後に東京で、それも全20作を見られる日が来ようとは。昨年このニュースを知ったときは、本当に驚きました。
しかしよくこんな絵を日本に貸し出してくれたなぁ、国立新美術館はどんな交渉をしたのかしらと思っていたら、やっぱり色々複雑な背景事情があったようで。
Alfons Mucha’s Slav Epic set for legal tug of war between Prague and painter’s descendants (21 March 2016)
Ministry of Culture called on to stop Slav Epic tour of Asia (7 July 2016)
Alphonse Mucha's grandson sues Prague to stop Asian tour of Slav Epic (14 November 2016)
Alphonse Mucha’s Slav Epic goes on display in Japan (8 March 2017)

つまりミュシャは1928年に「プラハで永続的な展示場所を提供することを条件に」この連作を市に寄贈したのに、市はそういう場所を今日まで用意していない。ならば寄贈は無効でありこの絵の所有権もプラハ市には完全にはないはずだ、というのが孫のJohn Mucha氏の言い分。そんな中、プラハ市はこの絵をアジアツアー(日本1都市、中国4(!)都市、韓国、米国等)に貸し出すことを勝手に契約してきたからさぁ大変。
記事によると、John氏が主に心配しているのは中国での展示とのことで、日本は作品を適切に扱ってくれるだろうと信じている、と。半ば諦めつつのようですが、日本での展示には納得されているようです。私がこうして東京で見られるのも、John氏がとりあえず安心できるのも、過去に美術展の関係者の方々が築いてきてくださった信頼のおかげなのだね。
上記記事では「東京での来場者は25万人は見込める」とあるけれど、本日時点で既に60万人突破だそうです。主催者もビックリでしょうね。Johnさ~ん、あなたのお祖父さまの絵をこんなに沢山の日本人が見に来て、そして感動していますよ~~~。

さて、ミュシャ展。
会場に入って最初の絵が、こちらでした。


「原故郷のスラヴ民族」。プラハで一目惚れした絵です。いきなりこの絵に出迎えられるとは
実物はポスターやネットで見るより遥かに美しかったです。色が鮮やかなのに厚塗り感がなくて、ふんわりした光と空気の透明感があって。
説明板を見て納得。画材は「テンペラ+油彩」とのこと。卵テンペラ。ボッティチェリが使っていたあの絵の具。そう、ボッティチェリの絵を見たときに感じた透明感と同じなのでした。

そんな私の耳に流れてきたのは、スメタナの『わが祖国』(from イヤホンガイド)。13年前にプラハで聴きたかったけど、聴けなかった曲。ワタクシ、10月のチェコフィルの来日公演のチケットを持っているのですが、節約のために手放そうかどうか迷っていたんです。でも…こんなシチュエーションで聴いてしまっては、もう手放せる気がしない… ミュシャがこの連作を描こうと思ったきっかけも、アメリカでボストン交響楽団の『わが祖国』の演奏を聴いたことだったそうです。

今回は三部屋あるスラヴ叙事詩の展示室のうち一部屋で写真撮影がOKでした。日本では珍しいですよね。絵葉書の印刷より写真の方が比較的実物に近く撮れるので、こういうのは嬉しい
以下、私の撮影より。


「イヴァンチツェの兄弟団学校」(部分)1914


「イヴァンチツェの兄弟団学校」(部分)1914


「聖アトス山」(部分)1926年
蝋燭の光はこの写真よりずっと美しかったです。。


「スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオラムジナ会の誓い」 1926年(未完成)


「スラヴ民族の賛歌」(部分)1926年




このときはまだ人が多いですが、最後は一部屋に数人程度の中で見ることができました。


こんなに大きな絵をどうやって運んできたのかと疑問だったのですが、ロ…ロールしてたんですね…
絵への影響は大丈夫なのかしら…と思ったら、やっぱり否定的な専門家の意見も多いようです。。

※追記(2017.6.20)
Mucha's paintings seen by 661,901 people in Tokyo (7 June 2017)
東京から直接中国へ行くことは中止になり、とりあえず一旦プラハに戻ることになったようです。そして絵にダメージがないか専門家が精査した上で今後の方針を決めていくとのこと。


【オマケ】
ロビーでは、日本におけるチェコ文化年(2017年は両国が国交回復して60年)を記念して、人形劇の展示がありました。
人形劇も旅行中に観ることができなかったものの一つですが、街ではマリオネットをあちこちで売っていたのを覚えています。ちょっと不気味で雰囲気あるのよね








またいつかチェコに行く日はあるのかなぁ。
2004年に「東欧の国はこれからどんどん変わっていってしまうから、旧共産圏の空気を残す街を見たかったら今のうちに行っておいた方がいい」と言われて行ったのだけれど(チェコはこの年にEUに加盟しました)、あれから変わっているのだろうか。


2004年に行ったときの旧市街広場。


共和国広場。
民主化で変わるものがあるとすれば、建物よりむしろ人と街の空気でしょうね。

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