秀太郎さんのブログに、(歌舞伎素人の私にとっては)とても興味深いお話が載っていたので、転載させていただきますネ↓
2013-05-13
…十日目の舞台も無事に勤めることが出来、いつもの興行なら間もなく中日なのですが、今月は27日興行、初日が三日なので中日は16日と言うことになります。お陰様でお客様の入りは衰えることなく、初日から大入り続きで、華やかて活気に満ちた公演が続いています!「栄御前も吉田屋のおきさ」共に好きな役ですが、気持ち良いのは栄御前です。女形はどんな役でも「お辞儀」をすることが多いのですが、栄御前は一切お辞儀することなく、ずっと背筋を伸ばしていられますし、台詞の声のトーンもとても楽で、のびのび演じることが出来ます。花道の引っ込みなどはとても気持ち良いです。正直言って「おきさ」はのびのびと演じているようでいて、結構気を遣います。封印切や河庄とは同じ色町の女将ながら、吉田屋の方が店の格が上なので、「おえん」や「お庄」と同じに見えてはならず、自然の風格が必要ですが、どうしても「早口」になったり要らぬ動きが多かったり、なかなか「吉田屋の女将」にはなれません。70歳を越してまだまだ青いです。後17日の間に、何とか自分なりに納得出来る「おきさ」を演じたいと思っています。
栄御前やおきさを、そういうお気持ちで演じられていたんですね。
興味深いです。
役者さんのこういう裏話をリアルタイムで読むことができるなんて、いい時代ですね!
2013-05-17
無事に中日の舞台を終え、明日から後半にかかります。お陰様で一座一同元気に舞台を勤めています。私は第二部しかでてないので他の部のことは分かりませんが、2部では山城屋の兄さんがとてもお元気に先代萩の政岡を勤めていらっしゃいます。高砂屋さんの八汐、時蔵さんの冲の井、扇雀さんの松島と揃い、鶴千代・千松もとてもしっかり可愛いです。ことに時蔵さんなど今月はこの冲の井一役で物足りないでしょうが、とてもきっちりと気を入れて演じ、特に八汐を見据えての引っ込みは、当たり前とはいえやはり素敵です!冲の井、松島が下手に引っ込むのは山城屋さんの先代萩に限り、他の役者さんの政岡の場合は冲の井は鶴千代を守って上手奥に引っ込むので、今回のような冲の井の引っ込みは珍しいのです。それにしても私の演じている栄御前は「アホやな~」と思いますが、そのアホさが何か可愛い気がして(?)憎めないのです。演じ方としては千松が苦しんでいるときに扇で顔を隠して政岡を観察するくだりを少し工夫しています。
沖の井&松島の下手への引込みが山城屋の先代萩だけだったとは、知りませんでした。
この二人が下手へ引っ込んで八汐が上手へ引っ込むのは、人間関係が視覚的にわかりやすく、とても好きな演出だったので、今回観られてよかったです。でも、鶴千代を守って引っ込む時蔵さんもいつか観てみたいな~。
ああ、また時蔵さんの沖の井が観たくなってしまった。ほんとにほんとに、カッコよかったんですもん。いや、3回も観たんですけどね。でも、もっと観たい!
八汐が千松をめった刺しにしているときに栄御前が扇で顔を隠すのは、政岡を観察していたんですねー。私、残虐すぎる殺し方にさすがに見るに見かねて目を覆っているのかと思っていました^^; 随分優しいんだな、と変には思っていたのですが。このブログを読んでから千穐楽に行けばよかった。。。
2013-05-24
いつもの公演より2日間長い興行なのにチッとも長く感じず「あ~後五日間になってしまった…」と言う感じです。「栄御前」も「おきさ」も回を重ねる毎に楽しい役です。芝居にはお客様にはお分かりにならないようなところでも、役者が「腹」で楽しむようなところ(自己陶酔?)、例えば栄御前が御殿から下手にかかる際、チラッと千松を見やるのですが、これは「千松」でなく「鶴千代」の亡骸を見る気持ち…、それも観客に見せるためではなく、自分が気持ち良く花道を引っ込むためで、演出上はどうでも良いのですが…、それぞれの役者はそれぞれの演技をして、そこに歌舞伎の楽しさがあると思います。もちろん台本に書かれている訳でもなく、他の役者さんの芝居をみて「はは~ん!」と思い「この仕草、頂き!!」と思うこともあります。芝居は毎日が新鮮です!皆さんも一度と言わず何度でも御覧ください!
ここは、ちゃんと伝わってきました~。
(結果として)自分達の計画が成功したと栄御前が思い込んでいることが、この視線だけでもよくわかる。
私はまだ殆どの演目が初めて観るものばかりで、何を観ても楽しくて仕方がないのですが。
二度目を観るようになると、こういう演技や演出の違いを楽しめるようになって、どんどん嵌っていくのでしょうね。
ミュージカルやバレエがそうだから、よくわかります。
これだから舞台って面白い!
ギリギリまで迷ったのですが、行ってしまいました、今月三度目の第二部。
だって仁左衛門さんの体調が心配で。。。(←本気です)
というわけで千穐楽です。
千穐楽って、独特の雰囲気があっていいですよね。
初日の明るい華やかさとは違う、どこか切ない華やかさ。
【伽羅先代萩】
3階A席2列目の席だったのですが、3階からはあの奥行感溢れる松の広間の背景がほとんど見えないのですね。。あの背景は、大奥的な場面をより迫力あるものにしているように思うので、ちょっと残念でした。
今回も飽きずに沖の井のカッコよさに惚れ惚れし、思わず時蔵さんの舞台写真を買ってしまいそうになりましたよ。でも私の一番好きな懐剣に手をあてている姿は筋書きに写真が載っているので(松竹GJ!)、思いとどまりました。
この沖の井と扇雀さんの松島が、栄御前と八汐の出方に神経を張りつめている様子の、カッコイイのなんのって!どうしても舞台の左にばかり目がいってしまい、困った。
秀太郎さんの栄御前の花道の引込みも、あいかわらず雰囲気があってよかったなぁ。
歌舞伎の女方って、どうしてこんなに魅力的なのでしょう!
あと前回も思いましたが、藤十郎さんの政岡が千松の亡骸を抱いて嘆く場面の台詞がうしろの音に綺麗にのっていて、感心しました。音楽を聴いているみたいで(←褒めてます)、聞き惚れた。もともとが情感たっぷりめの演技をされる方なので、ここはこういう方がしつこくならなくて良いように感じました。
ただ今日の政岡は千松が刺されているときにすでに目にいっぱい涙が浮かんでいて、これでは栄御前は誤解なんてしないんじゃないかしら、とちょっと思いました^^; 感動的ではありましたが。 涙が頬を伝うのが千松に駆け寄った後なのは、これまでと同様。
【廓文章 吉田屋】
う・・・・・、わぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
すごかった。。。。。。。。。。。
今までに観た歌舞伎の舞台の中で一番感動したかもしれない。。。。。
最初から最後まで鳥肌立ちっぱなし。。。。。
4月の千穐楽前日に観た盛綱も神がかっていたけれど、今日の伊左衛門は神だった。。。。。
ほんとうに、なんなんだろう、この人は。
この人の舞台を観ていると、人間ってなんて美しいんだろうって思う。人間が好きになる。
第三部の娘道成寺からは一生分の幸せをもらったけれど、今日の吉田屋からは三生分の幸せをもらってしまいました。
今夜の舞台の思い出だけで、この先三回生まれ変わってもきっと幸せでいられます。
ほんとうにほんとうに、いいもの、観させてもらいました。
心からありがとう、仁左衛門さん。
玉三郎さんも、仁左衛門さんの伊左衛門と並んでこれほどまでにしっくりくる夕霧は、これまでもこの先も、この人以外にいないでしょう。仁左さんとの二人の姿、本当に綺麗だった。ご両人!っていう掛け声はこの二人のためにあるのだと思った。夕霧の雪持ちの梅の打掛を伊左衛門がさらっと脱がせて自分が羽織るところは、二人ともスマートで美しくて、動く絵巻物を見ているようだった(その打掛を伊左衛門が歩きながら自然に肩から床に落とすところも、さりげないけれど、だからこそ忘れられない美しさ・・・)。
秀太郎さんのおきさも、彌十郎さんの喜左衛門も、優しくて、大きくて、最高でした。
最後の幕切れのときの仁左衛門さんは本当に本当に嬉しそうで、5日に観たときとも、23日に観たときとも、youtubeのダイジェストとも違う、それこそ満面の笑みで。
いっぱいの大向こうと、満場の拍手と、観客の幸福な幸福な笑顔に溢れた、杮茸落五月大歌舞伎千穐楽の吉田屋でした。
※5日の感想
※23日の感想
「廓文章 吉田屋」ダイジェスト(歌舞伎座さよなら公演)
※追記:
5月30日の孝太郎さんのブログ。
「父も後半体調を崩し、正直あぶなかったので心配しました。お陰様で楽日を迎えられ嬉しい限りの千秋楽でした。」とのこと。
やっぱり後半は相当体調がお悪かったのですね…。千穐楽のあの笑顔は仁左衛門さんには珍しく舞台上で見せた素の笑顔でしたから、千穐楽まで演じ切れたことが、観客が喜んでくれていることが、本当に嬉しかったのだろうなぁ…。
ですがどうか、ご体調が悪いのなら、無理なさらないでいただきたいです。。。私達はまだまだあなたの舞台が観たいのですよ。。。
今月二度目の三人吉三&第二部に行ってまいりました。
今回は三人吉三が幕見、第二部は1階6列目のセンター。
【三人吉三巴白浪】
菊五郎さん。
16日に観たときに比べて、かなりあっさり味が増していたような。。。
前回は際立っていた場面(刀をもらってっちゃお!の所とか、お地蔵さんから盃を拝借しちゃう所とか、「おい、お嬢」の後の微笑みとか)が今回はとってもさらさらと演じられてしまっていて、客席の反応も少なめでした。
お疲れ気味・・・?
仁左衛門さん。
本当にこの仁左さんは、何度観てもイイ。。。
立っていても座っていても話していても、血盃をとるときに拳をぐっと握る腕の筋まで美しいなんて、もうどうすればいいの。。。
ところで、和尚が間に入って二人の喧嘩を止めた後、「坊主上がりの和尚吉三」までずっと菊五郎さんと仁左衛門さんが片手を上げ続けている形の美しさに前回も今回もひどく感動したのですが、これ、youtubeに上がっている團十郎&菊五郎&吉右衛門さんの公演やコクーン歌舞伎では、だいぶ早い段階でさっさと手を下ろしてしまうのですね。
とっても綺麗な形なので、今回の演出の方がずっと素敵なのになぁ。
でもきっと、演じている方は相当キツいのでしょうね。あの体勢で、あれほど長い時間静止していなければならないのだから。。。
ここの仁左衛門さんは、ぴたっと静止したまま動かないのがすごいなぁと思います。うしろの壁に横線の柄があるので手の位置が下がるとすぐにわかってしまうのですが、全然動かない。
で、和尚の「坊主上がりの和尚吉三」の台詞ではっと和尚の顔を見て(←ここ可愛い)、それからゆっくりと手を下ろすところがまた美しく。。。
だめだ。ほんとこの仁左さんのお坊吉三、好みすぎる。。。。。。。。。。。。
【伽羅先代萩】
時蔵さんの沖の井があいかわらずイイ!
松島と合わせて懐剣を構えるところなんか、カッコよすぎ(><)
そして今日も、政岡、栄御前、八汐、沖の井、松島の錚々たる女方が勢揃いする場面の迫力がたまらない!
政岡の嘆きの場面よりも、緊張感溢れるこの勢揃いの場面の方がぞくぞくして好きです。
吉右衛門さんの男之助も、あいかわらず豪快で声も通っていて、素晴らしかった。大播磨!
【廓文章 吉田屋】
仁左衛門さん、後半、こたつで寝て喜左衛門がお酒を置いて去っていくところで咳き込んで以降、体調がとても悪そうで、舞台で倒れてしまうのじゃないかと本気で心配してしまいました。。。。。
ずっと呼吸が苦しそうで、コタツの上のトコトコ歩きも今夜は中止。
といっても私は5日の舞台を観ているので様子の違いがわかっただけで、今日初めて観られたお客さんは気付いておられない感じでしたが・・・。
幕切れの“あの笑顔”を見ながら、お願いだからムリしないで、キツかったら休んで仁左さん・・・!と心から思ってしまいました。。。。
そしてこれからもその素晴らしいお芝居をできるだけ長く私達に観せてください。。。。
本当に、一ヶ月くらい、ゆっくり休んでほしい。。。
27日間休みなしで公演→数日間稽古→27日間休みなしで公演・・・の繰り返しなんて、人間には無理だよ。これで体を壊さない方がおかしい。
本当に、松竹の歌舞伎役者の使い方は異常。。。
今回の杮茸落は新しい歌舞伎座の舞台に立つことが叶わなかった勘三郎さんや團十郎さんの分まで、という気持ちが仁左衛門さんの中に絶対にあるでしょうし、いつも以上にムリをされているのではないかと心配です。
ご自身だって、まだ病み上がりといっていい状態なのに。。。。。
玉三郎さんの夕霧が登場したときは、堂々と落ち着いている姿がひどく頼もしく見え、「玉さま、仁左さまをお願い!」と思わず心の中で叫んでしまった。。。
ところで今月の舞台写真ですが、買いたい写真がこれでもかとあって、ほんとどうしよう。
まず、三人吉三。
仁左さま、いい男すぎる。。。着流しでの立ち姿も、例の決めのポーズも、籠の中のショットまで・・・!
でもって、吉田屋。
うわー、仁左さまの笑顔のオンパレード。玉さまとのツーショットも何種類もあるなんてっ(>_<)
二人道成寺がまた、どの写真の玉さまも麗しく。。。菊ちゃんとのツーショットが可愛くて。。。
今月の松竹、ツーショット写真がいっぱいで、気前いいなぁ。
軽く3B席の値段分くらいを買ってしまいそうな自分が怖いです。。。
それと今月の筋書の表紙は、初夏らしく爽やかでとってもいいですね。
内容も、吉田屋や娘道成寺のおかげで、華やかで嬉しいです♪
※5月16日の三人吉三の感想
※5月5日の第二部の感想
※5月29日の第二部の感想
すごい映像を見つけてしまった。。。
昭和60年の猿之助(当時:亀治郎)9歳の頃の歌舞伎座舞台だそうです↓
歌舞伎 雙生隅田川
なにこれ、天才??
おそろしい子。。。。。
でもって菊五郎さん、美しい。。。。
この頃の体形で、お嬢吉三が観たかった(今のも好きだけど)!
そして猿翁。
歌舞伎座って神だらけだ。。。
月も朧(おぼろ)に白魚の 篝(かがり)もかすむ春の空
冷てえ風もほろ酔いに 心持ちよくうかうかと
浮かれ烏(がらす)のただ一羽 ねぐらへ帰る川端で
竿の雫か濡れ手で粟(あわ) 思いがけなく手に入(い)る百両
ほんに今夜は節分か
西の海より川の中 落ちた夜鷹は厄落とし
豆だくさんに一文の 銭と違って金包み
こいつあ春から 縁起がいいわえ
(『三人吉三巴白浪』)
今日は『三人吉三』の幕見に行こうと昨夜から決めていたのですが、二度寝してしまい、起きたらなんと10時20分。
大慌てで支度をし、歌舞伎座に到着したのは発売開始から30分も過ぎた11時45分。
それでもなんとか、立ち見を買うことができました。153番だったのでギリギリセーフ。
はぁーーー、よかった。。。
しかしたった30分間の上演のためにせっせと東銀座へ通う自分。我ながら健気だ。。。
さて、幕見席。
4月にも思ったのですが、どうして皆さん下手側に集中されるのでしょう・・・。台の上に乗ってまで・・・。
下手の方が花道に近くていいと勘違いしているのだろうか?下手からだと花道は役者の後ろ姿かせいぜい横顔しか見えないのに・・・。
おかげで私は最後から数人目くらいだったにもかかわらず、悠々と上手の手摺越しのベストポジションをゲットできましたですよ。。
【三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ) ~大川端庚申塚の場】
いやぁ~~~、いいもん観させていただきました!!
案の定、幕見席からはお月様は見えませんでしたが、見えない月を役者の演技で見せてもらう、そんな楽しみがありました。
菊五郎さんのお嬢吉三。
名台詞の「月も朧に~」は、春の夜のどこか気だるい雰囲気のなか唄うように言ってほしいなと私は勝手に思っているわけですが、やはり江戸っ子調なのですね。
しかしそこは菊五郎さん。存分に聞かせてくださいました。
でもこの台詞以外のところの菊五郎さんも、ゆったりとした空気感が出ていて素晴らしかった。
お坊から「(和尚の兄弟分になりたいが)おいお嬢、おめぇはどうだ」と聞かれたときに、「ん?」って微笑むところとか、すごくよかったなぁ。
このお嬢吉三は、弁天小僧よりも退廃的な色気が漂っていて、そこがなんとも魅力的。
背後の垣根越しの紅梅が、お嬢の黒と赤の振袖に美しく映えます。
仁左衛門さんのお坊吉三。
ぼんぼん育ちだけど、有名なチンピラ(笑)
正直言って、これまでに観た仁左さんの役の中で、一番好みなタイプの格好よさかもしれない!
あいかわらず一つ一つの所作が美しく、すっと動いてピタリと止まる動きがとても綺麗。血盃に使った小刀を仕舞う仕草にさえ、目を奪われてしまった。
薄紫の着流しが、背後の白梅とともによく似合う。菊五郎さんが紅梅なら、仁左衛門さんは白梅です。
そしてあくまで強気なお嬢に向かって言う、「貸されぬ金なら借りめえが、なり相応に下から出て、許してくれとなぜ言わねぇ」。
あ、甘・・・! やばすぎ。。。。。
それをじっと聞くお嬢。ここの二人のしっとりとした色気がたまらない。。。。。
あと100回くらいリピート再生したい!
二人とも名を馳せたチンピラですから、ただのチンピラじゃありませんよ。でも、チンピラです(笑)
その辺、お二人とも、自然で余分な力の抜けた、なのに深みもある雰囲気が素晴らしかったです。
春の夜更けにふらりと出会った感じがよく出ていて。
なのにこの短時間の間で、お嬢やお坊という人間のそれまでの人生も後ろに見える。役者、だなあ。。。
また、二人の間でポンポンと飛び交う七五調の台詞の気持ちいいこと。お二人とも声がいいので、聞き惚れます。
もうね、仁左さんもいいけど菊五郎さんもいいので、オペラグラスを右に左に大変でした(基本位置はもちろん仁左さん)。
幸四郎さんの和尚吉三。
うーむ…、やっぱり私はこの方の演技が苦手なのだと改めて痛感してしまいました。。。(ときどき弁慶のラストのような変化球がくるが)
三人吉三のような演目は案外イケるのではないかと少なからず期待していったのですが、私にはこの和尚が、菊五郎さん&仁左さんほどの男達が「兄貴になってほしい」と惚れ込むような男にはどうしても見えず。。。
團十郎さんの和尚吉三にはそういう雰囲気があったなぁ・・・と改めて思ってしまいました。今回の幸四郎さんは團十郎さんの代役なので、あまり色々言うべきでないのは承知しているのですが、この役はどちらかといえば吉右衛門さんの方が合っていたのではなかろうか。
ところで和尚の「そんならこれは預かっておく」のところ、ここはもう笑いポイントということで演出が定着してしまっているのでしょうかね。
和尚も明らかにそういう演技をしてるし(これは團十郎さんも)。観客も大爆笑だし。
あそこはお嬢とお坊の命を和尚が預かったという意味も含まれた重要な美しい場面だと思うのだけれど・・・。決して和尚はお金が欲しいちゃっかり者じゃないのに、なんでちゃっかり者な演出になってしまっているのだろう。
そうしてしまってはこの幕全体がぶち壊しではないの。
と、幸四郎さんの和尚や演出に多少の不満はあれど、三人の見得の美しさは無類でした。
youtubeで見ているとなんだか気恥ずかしくなってしまうのですが(戦隊ヒーロー物の決めシーンそのまんまで///)、実物を観ると感動しますね!
すごいや、カッコよすぎる!
真ん中に立つ幸四郎さんの左右に菊五郎さんと仁左さんが膝をついて片手を上げたままの姿勢でぴったり静止している美しさ。錦絵なんて言葉ではとても足りない。
そして、最後の見得でパッと照明が明るくなり(これは上階席から観るのが断然いい!)、幕引きとともに三人が悠々と上手へ歩き去るところでは、なんだか泣きたくなってしまいました。
歌舞伎って素晴らしいなあ。
これで1500円は全然高くない!
絶対にもう一回幕見行きます。
※5月23日の三人吉三の感想
杮茸落の感想に追われて遅くなりましたが、3~5月に全作品アンコール上映をしておりましたシネマ歌舞伎の感想もぼちぼちと。
まずは『怪談 牡丹燈籠』。
きゃ~~~~、きた!!
玉さまのお峰!!
妖しくも美しくもない、最高にカッコおもろい玉さま!!
もう玉さまってば、仁左さまと夫婦すぎ。孝玉コンビを見せつけすぎ。
仁左さま、チャラ男&刃物が似合いすぎ。あんな長台詞を危うさゼロで言いこなすなんて天才すぎ。
吉之丞さん&七之助、幽霊役がぴったりすぎて怖すぎ。
愛之助、仁左さまに瓜二つすぎ。七とのカップルがキュートすぎ。
三津五郎さん、久蔵役がハマりすぎ。
吉弥さん&錦之助さん、いい味出してる!
お峰が「昔は貧乏で、今みたいにおかみさんなんて呼ばれることもなかったけど、夫婦の間に隠し事もなかった・・・」って言うところ、切なかったなぁ。。。人生一体何が幸せか、わからないね。。。
最後にお峰を刺して、死んでしまってから「お峰ー!」って腕に抱いて号泣する伴蔵もよかった。決して心から悪い男じゃないのにね。彼は幽霊に人生を惑わされたのじゃなく、自分自身に負けてしまったのです。
人間ってほんとうに、弱くて悲しい生き物ですねぇ。。
「幽霊より怖い人間の業」、大好きな京極夏彦さんの『巷説百物語』シリーズと世界観が同じで激しく血が騒いだことはナイショ、笑。
前回につづき、2回目の第三部です。
今回の席は、1階の前から5列目のセンター、花道寄り。
前日に購入したのですが、良席がとれて満足♪
【梶原平三誉石切】
何度見ても、この吉右衛門さんはよいのぅ~~~。
今回は真ん前で拝見しましたが、懲りずに惚れ惚れいたしました。
梶原って、名前も鬼平と同じで「ヘイゾウ」なんですね!今回梶原の台詞で気付きました!
って、タイトルをよく読めば、そのまんま書いてあるのですが。。
吉右衛門さん、あいかわらず「名刀LOVE♪」な感じが全開で、微笑ましかったです。
「これほどの名刀を切腹で汚そうとは恐れ多い」って六郎太夫を止めるところ、梶原、絶対に心底そう思ってると思う(笑)
そして思いっきり上機嫌に花道をひょこひょこと踊るように去る吉右衛門さん。
ウンウン、源氏縁の名刀を手に入れられて嬉しいんだね。なんて若くて可愛い68歳。
仁左衛門さんの繊細さとも、團十郎さんのおおらかさとも違う、独特な豪快でゆったりとした個性がありますよね、吉右衛門さんって。
菊五郎さんもそうだけど、ほんとこの世代の役者さんは「歌舞伎を見てる」という満足感をくれる。
歌舞伎って素晴らしい♪
そうそう、「斬り手も斬り手」「剣も剣」の後の「役者も役者!」っていう大向う、楽しいですね。こういうの好き(吉右衛門さんは嫌いらしいが、笑)。もっとも今夜の方は少々元気がなかったので、もうすこし景気よく掛けてもらえるといいな。
【京鹿子娘二人道成寺】
この第5期歌舞伎座は、私達の世代と次の世代の方々が引き継いでいくことが大事だと考えております。そういう意味も含めまして「京鹿子娘二人道成寺」という作品を5月公演の最後の幕で務めさせていただきます。
…物を作るという大切さを噛みしめながら、そして良い物が出来て行くであろうという夢を持ちながら第5期歌舞伎座で生きていきたいと思っております。この歌舞伎座杮茸落しの期間に「アマテラス」という舞台を控えておりますが、今後もこの第5期歌舞伎座でも最大の力を尽くしたいと思っております。
(坂東玉三郎ホームページより)
2万円で一生分の幸せをいただきました。大袈裟じゃなく。
本当にありがとう、菊ちゃん&玉三郎さん。。。
席位置は最高でも隣の客のせいでとっても注意を削がれた鑑賞となりましたが、普通だったら絶対に感動なんてできない環境だったにもかかわらず(ほんとヒドかった、隣の客・・・)、どんな条件下であろうと、感動させる作品というものは必ず感動させてくれるということを改めて実感いたしました。
「道行」
花道のスッポンから登場の玉さま。アップにも耐えられるどころか、アップで見ても頭が小さくて綺麗・・・。菊之助より若く見える瞬間さえあるなんて、どうゆうこと。。
ごめん、菊ちゃん!!と何度も心の中で手を合わせながら、どうしても玉さまに目がいってしまった。
決して菊ちゃんが悪いわけではないのです。踊りもとっても上手ですし、一人だったら全く問題なかったと思う。でも、でも、玉さまと並んでしまうと、どうしても玉さまから目が離せなくなるのです。上手いとか下手とかいう話ではなく、滲み出る雰囲気の違いといいますか、うまく説明できないのですが。。
そして二人が少しタイミングをずらして扇子をすっと掲げるところ、カッコよくてカッコよくて、何度観ても溜息が出る。。。
「恋の手習い」
菊ちゃんが途中から合流するときに玉さまが両手で小さく手を叩く振り、いいなぁ。
今回目の前で二人の踊りを観て、玉三郎さんには「自分が目立ちたい」という気持ちが微塵もないのだということがよくわかりました。
何よりも、菊之助に引き継ぎたいっていう強い決意を感じた。
今回の杮茸落はどの演目でも、大御所といわれる役者さん達のそういう思いをとても強く感じます。
そんな彼らの姿に感動しながらも、なんか、寂しいなぁ。。。。。。。
「ただ頼め」
今回は玉三郎さんでした。
わかっちゃいたけど、玉さま、濃い紫の衣装がものすごく似合う!!
菊ちゃんの「ただ頼め」もかなりよかったけれど、さよなら公演のときも菊ちゃんだったとのことなので、今回この玉さまを観ることができてとっても嬉しかったです。
可愛らしくも凛とした艶のある、とても玉三郎さんらしい踊りでした。
あと何回、この人の娘道成寺を観ることができるのだろうか。。
でも、今夜の踊りを見て、改めて心から若手を応援したいと感じました。
それが玉三郎さん達の願いだと思うから。
すでに玉さまとは違う個性を打ち出して頑張っている菊ちゃん、応援してるよ~!
「鐘入り」
鐘の上の二人は、いつまでもいつまでも見ていたい美しさでした。
引き継ぐ玉三郎さんと、それを受け止め、また次の世代へ引き継いでいく菊之助。
二つの世代の強い思いが感じられた、第五期歌舞伎座杮茸落の二人道成寺でした。
杮茸落五月の第二部に、5日に行ってまいりました。
シネマ歌舞伎も含めて、GWは東銀座に何度通ったことか。。
ちなみに今回は二階席をまたいで、一気に一階まで下りてきてしまいましたよ。
だって、youtubeで観た吉田屋がものすごく好みで好みで好みで・・・・・。
こんなに好みなら、一等席で観ないと一生後悔すると思ったので、初見にもかかわらず買ってしまったのです。
前から6列目のセンター、花道寄り。
いやぁ、いいもんですねえ一等席って!3階席とは臨場感が100倍違う!舞台上の布の質感が肉眼でわかる感動といったら!
2万円は伊達じゃなかった。でもこの迫力を得られるのなら、決して高くはないと思いました。
もちろんそうしょっちゅうは無理なので、今後は好きな演目のためのとっておきとして一等席も検討に入れたいと思います。
【伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)】
こんなに女形ばかりの芝居を観たのは初めてでしたが、予想外に楽しめました。
最も興味のあった「飯焚き」の場面が省略されていたのは残念でしたが、とにかく配役がよかった。
藤十郎さんの政岡は内面の強さと温かみが見事に滲み出ていたし、秀太郎さんの栄御前、時蔵さんの沖の井、梅玉さんの八汐と、皆さんすごい迫力。まるで大奥が目の前に出現したみたいでした。
秀太郎さん、廓のおかみさんみたいな役も上手なのに、こういう役もとってもお似合い。栄御前は勝手におかしな誤解をして秘密を政岡にばらしちゃったりとどこか抜けているところもある役なので、鋭いながらも丸みのある秀太郎さんの雰囲気はぴったりでした。
花道の出と引込みも、カッコよかったなー。基本的に丸っこい人なのに、こんな雰囲気が出せるなんて、すごい。孝太郎さんにもちょっとそういうところがあるけど。
梅玉さんの八汐。怖かったよ~~~~;; 良いのか悪いのか、登場人物の中で一番の迫力を醸し出してしまっている八汐さん。後ろの席の私語しまくりのおばちゃんたちが、八汐が口を開くたびにピタリと私語をやめるので、ありがとう梅玉さん!って感じでした。数秒後には「怖いわねぇ~~~~~!」と感想を言い合っておりましたが・・・(いちいち口に出さんでよろしい、怒)。
時蔵さんの沖の井がまた、カッコよく。。。栄御前に対して政岡をさり気無くフォローするところや、引込みのときに八汐に鋭い視線を投げるところとか演技は繊細なのに、落ち着いていて。こんな人が側についていてくれてよかったねぇ政岡・・・と思った。
あとは市川福太郎くんの千松が素晴らしい!先月の金太郎君といい、子役が上手いと安心して大人の演技に集中できるので、嬉しいです。
床下の場面は、重~いお話の後の派手で豪華なオマケといった感じでした。
なんといっても幸四郎さん&吉右衛門さんの兄弟対決ですから!それだけでもお得感満載♪
吉右衛門さんが登場した途端に例の後ろの席のおばちゃん達が「あら!誰かしら?誰??」と通常モードの声で話すので真ん前にいる吉右衛門さんに聞こえやしないかと冷や冷やしてしまった。。。そうこうしているうちにスッポンから煙が上がると「あら、きっと吉右衛門が出てくるのよ!」と騒ぎ出すおばちゃん達。吉右衛門さん、真ん前にいるし。。。^^;
幸四郎さんも悪くなかったですよ(この方については、いつもこういう書き方になってしまう私をお許しください・・・)。四月の弁天でも思いましたが、幸四郎さんって弁慶のようなシリアスな役よりも、こういうキャラ的要素の強い役の方が似合う気がする。
で、花道の引込みでもおばちゃん達は「あら、一言も台詞がなかったわよ!やぁねえ~~~(爆笑)!」。。。。
おばちゃん、まだ幸四郎さん、引っ込みきっていないから!聞こえちゃうから!
まったくねぇ。。。歌舞伎って、こういうお客がほんと多いですよね。一等席でも関係ないんですね。。。
そうそう、将門のガマちゃんと同じく、ここではネズミくんが大活躍でした。すばらしい身体能力に、満場の拍手。
【廓文章 吉田屋】
youtubeのダイジェストを見て、好きなタイプの演目だとは重々感じていたけれど。
ここまで好みだったとは。。。。。
好きすぎてどうしよう。。。。。
まず、壁も飾りも桃色に彩られた舞台がよい。
正月準備の整った年の瀬の廓の華やかさが、客席を包み込みます。
視界に入ってくる色彩的にも、幸せをいっぱいにくれた演目でした。
で、仁左衛門さんの伊左衛門(早口言葉のようだ)。
花道の登場がもう・・・!これですよ!このために一等席を買ったのです!
シャランという音とともに現れた瞬間、その立ち姿の美しさに息がとまりました。
蝋燭の灯で浮かび上がる、恋文を貼りあわせた紙衣の衣装がまた。。。
恋文でできた衣装だなんて、こんな粋な衣装が世の中にありますか。
もちろん実際はもっとボロボロでみすぼらしくなければならないのでしょうが、そんなことはよいのです、歌舞伎ですから。リアルじゃなくていいから、美しく決めてほしい。
なにより仁左衛門さんに、この濃い紫がとってもお似合い。
そして、花道での手足の動きの美しさといったら。。。。。顔を笠で隠して、紫の衣装から浮かび上がる真っ白な指が、柔らかく動くその色っぽさ!生で目の前で観て、ぞくぞくした。
本舞台に来て、編笠をとったその瞬間の笑顔。一瞬で客席に広がる柔らかで明るい華は、仁左衛門さんならでは。
その後はもう、可愛い可愛い尽くしの仁左さま。
おきさが自分に会いたがっている人は誰か?と推量している間、掛け軸を眺めながら可笑しそうに小首を傾げたり(おきさに言う「ごきげんさ~ん!」、か・わ・い・い!)。
なかなか夕霧の名を口にしない喜左衛門夫婦に、焦れて火鉢をぐるぐるかき回したり(「ゆ・・・ゆ・・・」って可愛すぎ)。
松の間を覗いて、喜左にはしゃいで「いたッ!」って報告したり。
恋敵の相手をしている夕霧に機嫌を損ねて「もう去ぬッ」って拗ねて花道まで行って、引き止める夫婦を面白がったり。
夫婦に笑われてコタツでふて寝して、喜左衛門が部屋を出た後にそっと置きだして、去年のことを思って一人泣いたり。
涙で濡れた紙衣を蝋燭にそっとあてて乾かしたり(ぽんぽんって布に触れる手付きが可愛すぎ)。
夕霧が大好きで大好きで仕方がないその様子に、頬が緩まないではいられない。
でも可愛いだけじゃなくて、所々にハっとする美しさがあり(扇子の扱い方とか、くるりと周る動きとか、客席中をほんわかとさせてしまう笑顔とか)。
カッコよさもあり(足をダンと踏み鳴らすところとか、夕霧と仲直りした後のさりげないエスコートぶりとか)。
もう、見惚れっぱなしでした。
一文無しになっているのに全く卑屈にならずに「総身が金じゃ!」と言い切る天真爛漫さ、天衣無縫さも、この伊左衛門というキャラクターの何物にも代えがたい魅力ですよね。
そして「恋人を待つ」というただそれだけの話で、一時間以上の演目のほとんどをほぼ一人芝居でもたせちゃうのは、仁左衛門さんという役者の魅力と実力のなせるわざだとつくづく感じた次第。
また、彌十郎さんの喜左衛門と秀太郎さんのおきさが、とってもよいのです。
とっくに落ちぶれて廓になんか来られる身分じゃないのに「喜左!喜左!」と無邪気に呼ぶ伊左衛門を、昔と変わらず暖かく迎えて、下駄と羽織を着させてあげる喜左衛門さん。コタツで拗ねて寝ているふりをしている伊左衛門にお酒を置いて、「霧様は病み上がりなのですから短気を起こしちゃいけませんよ」と言って布団を掛け直してあげたり。優しい。。
おきささんも、困ったぼんぼんの伊左衛門に手を焼きながらもこの若旦那が愛おしくてたまらない様子が、実生活の次男坊と三男坊の関係と重なってニヤニヤしてしまいました(*^^*)
この演目はほんとうに良い人ばかりが出てくるので、心が自然とほわほわと暖かくなります。
いい人はいいね(by y. kawabata)
そして、満を持して玉さまご登場。
美しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
他に言葉なんかございません。
「出るぞ」「出るぞ」と客のみんながわかっていて、そんな期待を一身に背負っての登場にもかかわらず、まったく期待を裏切らないどころか、期待を遥かに上回る堂々たる雰囲気はさすが。
玉三郎さんが登場した瞬間に、劇場内の照明がぱぁっと明るくなった錯覚を覚えました。やっぱりこの人は、稀有な女形なのだなぁ。。。
道成寺の花子から一変して、夕霧(この名前も素敵)は伊左衛門への恋で患ってしまう健気でいじらしい傾城で、こういう役の玉さまは初めて観ましたがとってもいいですね。
「もうし、伊左衛門さん、目をさまして下しゃんせ。わしゃ患うてな」のところ、仕草も声も可愛いすぎる(><)!
拗ねてる伊左衛門に困らされながらも、ただ儚いだけじゃない、芯が通った柔らかさを感じさせる女性です。
そして始まる、二人の痴話げんか(笑)
これがまた可愛くて、だけどかなり際どい色っぽさで、最高。
もうこの二人を、ミニチュアにして小箱に入れて家に持って帰ってしまいたかったです。
これで69歳&63歳。ほんと、奇跡だ。。。
よく見れば、お二人ともちゃんと年齢相応のお顔をされているのです。
にもかかわらず、舞台上の彼らはまったく年齢を感じさせない。20代に見える。それが奇跡に思える。
インタビューでこの役について「若作りはしません。若さを保とうと思うようなら役者を辞めます。私が若い伊左衛門になれるかどうかです」と語られていた仁左衛門さん。
このお二人と同じ時代に生きられて本当によかった!と、観終わったとき、心の底から感じました。
第三部の娘道成寺と同じく、たっぷりと夢の世界に酔わせてくれた『吉田屋』。
娘道成寺が美しく妖しい夢なら、こちらはどこまでもどこまでも幸福でふんわりとした初春の夢でございました。
※追記:友人から十数年前の仁左&玉の吉田屋の筋書を見せてもらい、その中で仁左衛門さんが仰っていたのですが、伊左&夕霧&太鼓持の三人で炬燵を持ってトントンと歩くときのリズムは、わらべ歌の「七草囃子」のリズムになっているそうです(仁左衛門型)。お客にわからないところにも初春らしい洒落た演出が隠されているこの演目が、ますます好きになりました^^
※5月23日の第二部の感想
※5月29日の第二部の感想
二日目の4日に行ってまいりました、杮茸落五月の第三部。
もう4月からずっと夢のような日々が続き、こんなに幸せでいいのかしらという感じです。
お金も夢のように飛んでいっておりますが。。。^^;
前回の経験で3B席には懲りたので、今回は3階A席からの鑑賞。
【梶原平三誉石切】
歌舞伎はストーリーではなく“役者で見せる”という意味を、つくづく感じた演目でした。『寿曽我対面』と同じで、花形だったら退屈で仕方がない演目なのだろうなぁ(花形が悪いわけではなく演目的に)、というのが正直な感想。。
だからこそ、吉右衛門さんと菊五郎さんで観られてよかった!
菊五郎さんの声に、あいかわらず聞き惚れました。
昔の歌舞伎座のときはどうだったか覚えていないのですが、今回の歌舞伎座、楽器の音が客席に届きすぎて、役者の声が聞こえないことが非常に多いのですよ。。。先日のNHKの特集では「これまでと全く同じ」と言ってたけれど、新たに天井に組み入れたという反響板がよくないのではないだろうか。。
でも菊五郎さんに限っては、台詞が聞こえにくかったことがこれまで一度もないのです。この人が話し始めると、毎回しゃきっとした気分になる。
そして吉右衛門さん。こういう役がぴったりですね!
それもそのはず。
思いきり鬼平じゃないの、この梶原って(笑) 又五郎さんもいるし(悪役だけど)。
問題をうまく収めるだけじゃなく、梶原自身が源氏縁の名刀を惚れ惚れと嬉しそうに眺めている姿に、私も惚れ惚れしちゃいましたよ。ただ真面目で正しいだけの人じゃないところも、まんま鬼平だわ^^
一連の所作の美しさも、口跡の美しさも、あいかわらず一級品。
そして、斬った呑助死体がとってもプリマハム(笑) こういうリアリティの欠片もない歌舞伎の小道具の陳腐さ、ほんと好きだ。
とはいっても、ストーリーはほんと大して面白くはないんですよね。
彌十郎さんの呑助の語りの場面などは、退屈で仕方がなかったし。。。
でもある意味、もっとも歌舞伎らしい演目ではないかと。
ストーリーが派手だと誰が演じてもそれなりに楽しめるので、役者の力は二の次になりがちですが、歌舞伎の魅力はやっぱり“役者”が第一だと思うので、こういう役者の力にかかっている芝居もやっぱり観たい。
そういう意味で、今回の吉右衛門さんは最高に見応えがありました。
単独で上演されたら観に行くか?と聞かれたら、微妙ですが。。
そういうところ、松竹は実にうまく演目を組んでいますね。
【京鹿子娘二人道成寺】
「玉三郎と菊之助が誘う美の迷宮に足を踏み入れ、こころゆくまで酔いしれてください」
(シネマ歌舞伎のキャッチコピーより)
酔いしれましたとも!!
最初に花道に玉&菊が二人並んだ瞬間に、客席の隅から隅まで彼らの世界、この世ならぬ世界に引き込まれたと断言できますよ。
私は、歌舞伎でもバレエでもミュージカルでも映画でも、「事前の期待が大きすぎた。期待していなければもうちょっと感動できたかも」ということが、ありません。どんなに沢山期待していようといなかろうと、そんな些細なことはふっとばしてしまう圧倒的な迫力で、感動する作品というのは必ず感動をくれます。今回がそれでした。
二人は親子ほど歳が違うはずなのに、まるで姉妹のよう。
「毬歌」で舞台中央に並んで座る二人の、色っぽくて、可愛らしいことといったら!
私なんかが女やっててほんとごめんなさいって感じです。。
「恋の手習い」
これはもう玉さましかいないでしょ!絶対玉さま!
美しくて、凛としていて、かつ艶っぽくて、可愛らしくて、切なくて。。。
この玉さまを観なかったら、一生後悔するところでした。
本当に、観られてよかった。
神様ありがとう。
ついでに私を杮茸落前に歌舞伎に引き戻してくれた正月の海老も、ありがとう。
途中から菊之助も加わって二人が去り際に手ぬぐいを適当な感じに投げる投げ方は、かっこよすぎて痺れた。。。
将門の枝をぽいって投げるときと同じで、こういう上から目線な振り、大好き。
「ただ頼め」
正直なところ、踊りは菊之助もとっても上手なのだけれど(菊之助のが上手に見えたときも何度もありました)、「見たい」と思わせる雰囲気は玉さまが圧倒的。。頭も小さくて、雛人形のようですし。
でも、この「ただ頼め」の菊ちゃんは、すっごくよかったです。これは文句なしに見惚れました。
それまでの踊りは、玉さまに比べて「ソツもないけど味もない」という印象だったのですが、この踊りが彼に合っているのか、とても伸び伸びと華やかに踊っていました。
そして最後の「鐘入り」。
音楽&踊りのテンポが速くなり、次第に鐘に近付いていって一気に鐘に飛び込み(三階席からは鐘裏が観えてしまっていたけれど^^;)、大蛇となって鐘の上から再び現れるときの二人・・・!なんて妖しくて、可愛くて、美しいの!
それまでずっと華やかな色合いの衣装で、最後の衣装が白地に銀糸の枝垂桜だなんて素敵すぎる。
おろした長い髪もいい!
可愛い菊と艶やかな玉さまの組み合わせ。最高です。
ほんとうに、日本人に生まれてよかった!!
そうそう。
今日は、菊ちゃんの奥さまの瓔子さんが受付にいらっしゃいました。
笑顔が明るくて可愛らしい方でした^^
なぜか「菊のお嫁さんなんだなぁ」ではなく、「吉右衛門さんの娘さんなんだなぁ」という風に見てしまいましたが(笑)
★二回目の鑑賞の感想はこちら