風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

秀山祭九月大歌舞伎 『一條大蔵譚』 『吉野川』 @歌舞伎座(9月6、11日)

2016-09-26 22:50:15 | 歌舞伎

 

今月は『吉野川』を6日に、『一條大蔵譚』を11日に観てきました。
以下感想は昼の部→夜の部の順で。

【一條大蔵譚】
今回の吉右衛門さんの大蔵卿はこれまでと違うとあちこちで評判で。
そうは言っても、私が見ても気づかない程度なのであろうなぁと思っていたら。

・・・一体何があったんですか吉右衛門さん

全然違っていた。阿呆の演技が。
吉右衛門さんの大蔵卿を見るのはこれが3回目で、今までの大蔵卿(前半)は私にとって「阿呆のフリをしていても目がマジなので笑えない」(吉右衛門さんが敢えてそうしていたのか、そういう演技しかできなかったのかは不明)でした。
では、今回の大蔵卿はというと――

「ほんまもんの阿呆みたいで笑えない」

でした。。。
やっぱり吉右衛門さんの阿呆は私には笑えないみたい。。。
今回の大蔵卿、巷の評判はとてもいいのですよ。確かに今までと比べて余分な力が抜けて自然体な感じで、それについてはとてもいいと思ったのですけど。
自然体になっているがゆえに、ほんまもんの阿呆に見えてしまった。。。
あと、阿呆の表現(半開きのお口と糸のように細めたお目々)がワンパターンに見えてしまったの。。。なので檜垣は見ているうちに次第に飽きてきてしまって。。。
やっぱりここは、背中に春風背負ってる仁左衛門さんの大蔵卿が私は好きです。。

後半。奥殿。
この大蔵卿は、これまで同様、すんごかった
3回目だからさすがに飽きるかと思いきや、いいものは何度見てもいい。何度見ても感動する。後半の仁左衛門さんの大蔵卿も大好きだけど、この大蔵卿も本当に素晴らしい。
前回も思ったけど、どうしてあんな演技が出来るんだろう。大袈裟な演技は全くしていないのに、伝わってくる大蔵卿の人生の悲哀。その加減が本当に絶妙で。なのに小さく纏まることなく大きい。
ゾクゾクしました。改めてこの大蔵卿は国宝ものだと心の底から思う(吉右衛門さん国宝だけど)。
今回は幕切れの生首ポーンは一度もやらずに、手の中で転がすだけでした。うん、いいと思うな。いくら阿呆のフリとはいえあれはちょっとやりすぎな気がするもの。
播磨屋のこの最後に阿呆に戻る型、いいですよねぇ。吉右衛門さんにとても合っているし、上手さが際立つ。後半の吉右衛門さんの大蔵卿、ほんっっっとうに大好きです。これで前半の阿呆が私好みだったら最高なのに。。。

魁春さんの常盤御前、今回も素敵だった。気高さと温かみと内に秘めた強さが本当に素敵。大蔵卿との愛も感じるし(男女の愛じゃないけど)。
鬼次郎は菊之助、お京は梅枝

ところで幕見を観終わったときに周りの若い女の子達が「やっぱり歌舞伎ってむずかしいねー」「よくわからなかった」と言っていました。確かに粗筋が頭に入っていなかったら、全くわけわからない話ですよね

【妹背山婦女庭訓~吉野川~】
巷の評判が絶賛を超えた絶賛の嵐で、「自分が見たものがいまだに信じられない・・・」「一生に一度出会えるか出会えないかのものすごい舞台を見てしまって、これからどう生きていけば・・・」「大泣きしすぎてメイクがぐちゃぐちゃ・・・」というようなツイがわんさか流れていたので、めいっぱい期待をふくらませて行ったのです。
それもいけなかったのかもですが・・・。
正直な感想を書くと、そこまでの感動は私は得られなかったのです。。。
いえ、決して悪くはなかったんです!
ただ、吉右衛門さんも玉三郎さんも、お二人ならこういう演技をされるだろうなぁと想像していたとおりの大判事と定高で。やっぱりそのとおりのものが見られたなぁ、という感じで。。。すみません、自分勝手な理由でございます。。。
菊之助(雛鳥)と染五郎(久我之助)はとても美しくて、この話の悲劇性が増しますね。でも二人の間の愛情はあまり伝わってこなかったな。。
吉右衛門さんと玉三郎さんの抑えた演技はとてもいいと思いました。吉右衛門さんってこういうお役が本当にお上手ですよね。「いかめしく横たえし大小、倅が首切る刀とは五十年来知らざりし」のところは、ちょっと涙が出そうになりました。
舞台の真ん中に流れる吉野川と両花道。この舞台装置を一度見たいとずっと思っていたので、嬉しかった 竹本の左右の掛け合いも迫力があって素敵でした(背山担当の葵太夫さんのツイは、今回も大変参考になりました!)。
そういう装置や作品や芝居の雰囲気は、本当にとても好みだったのですけど。
うーん。。。
もしかしたら私は吉野川の素晴らしさをまだ十分に理解できていないのかもしれません。もったいないことをしたかしら。

吉右衛門さん、11月の国立劇場で七段目をされるんですね。吉右衛門さんの由良之助は大好きなので、ぜひ観に行きたいな。

※吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

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9月文楽公演 『通し狂言 一谷嫰軍記』 『寿式三番叟』 @国立劇場(9月6、14日)

2016-09-24 07:54:05 | その他観劇、コンサートetc


第一部を6日に、第二部を14日に行ってきました。
国立劇場開場50周年記念公演で、初段から三段目まで東京で通しで上演されるのはなんと41年ぶりなのだそうです。もったいないなぁ。これ、通しで上演した方が絶対にいいのに。今回、陣門・組討、熊谷陣屋への流れがちゃんと理解できて本当によかったもの。
特に印象に残ったのは、林住家の段の簑助さん、脇ヶ浜宝引の段のチャリ場の衝撃、陣屋の迫力、かな。

以下、完全なる文楽初心者の自分用の覚書なので、どうぞ適当にお流しいただければ幸いですm(__)m

【第一部】
堀川御所の段は、人形太夫さんともに舞台がバタバタしていたような。亘太夫さんの叫ぶようなお声にちょっと疲れてしまいました。。。でも義経(幸助さん)から直実(勘十郎さん)に制札が渡される場面が見られたのはよかったな。これがあの熊谷陣屋の段へと繋がるのですね・・・ 一方で六弥太(玉志さん)へは桜の枝に付けた短冊が渡されます。こちらは林住家の段へと繋がります。
敦盛出陣の段希太夫さんで少し復活(私が)。文字久太夫さん(奥)の辺りでだいぶ落ち着いた気分で見られるように。この段、なかなかよくて。女性達も最強で楽しい笑。ただ和生さんの敦盛は、少年の颯爽とした雰囲気はあまり感じられなかった気も。
陣門の段、須磨浦の段、組討の段。楽しみにしていた組討は、咲甫太夫さんがどうも私は得意ではないみたいで(いいお声だとは思うのですが・・・)、気になっているうちに終わってしまった・・・。遠見の敦盛と熊谷は、人形だと話に集中できるのがいいなぁ。歌舞伎の方はどうしてもつい笑ってしまうから。まぁそれでいいのかもですけど。
林住家の段。この段の菊の前は簑助さん。いつも思うけど、簑助さんの人形だけ空気が違うのは一体なんなのだろう。生物の周りって何か”気”のようなものがあるじゃないですか。無機物にはそれがないですよね。でも簑助さんの人形の周りには、それが見える。そして人間が人形を遣ってるのではなく、人形の方が本体に見える。これ、映像で見た先代玉男さんの人形も同じでした。
し・か・し~~~~~。
私の今回のお席(9列目上手)、半袖を渡される場面の菊の前が全っっっ然見えない。忠度(玉男さん)のお馬さんが間に立ちはだかって、全く見えない~~~。床近の良席にこんな盲点があったとは・・・。忠度サン全然動かないし・・・。
ようやく忠度サンがぱっかぱっかと下手へ移動。縋りつく菊の前との別れの場面。
プログラムで仰っていた、忠度の背の桜を見る菊の前。う、わぁ・・・・・。なんなんだこの人形から溢れ出る恋情は!どうしてこんなに必死な感情が伝わってくるの?見ているだけで泣けてくる・・・・・。
そして幕切れのキメの鮮やかさ&華やかさ
はぁ・・・・・・・かっこいい・・・・・・・。これが見られただけで第一部はもう大満足でございます・・・・・・・。
この段も滅多にかからないんですね。ここ50年で3回だけとか。とてもいい話なのに。紛れもない武士ではあるけれど戦とは違うところに美を思う人達。人は死に、心は歌となって後世へと残る。こういう話、好きです この段の通称は「流しの枝」なんですね。素敵。

【第二部】
寿式三番叟。気楽に見るつもりが40分と思いのほか長く、文楽素人の私にはツラいものがありました(^_^;) まあ50周年のお祝いですしね。
弥陀六内の段三輪太夫さん。小雪ちゃん(紋臣さん)と女房お岩(玉誉さん)との掛け合い、楽しかった。いいねぇ、文楽のこういうオバチャン。ちょっと前段の林と被るけど。
続いて脇ヶ浜宝引の段咲太夫さんがまさかの屁尽くし・・・ すごいわ~、プロだわ~。敦盛ちゃん!?広島カープ~。簑助?勘十郎?玉男?玉織姫!死体の尻から煙出てるし!文楽ってやっぱり庶民の芸能なのだわ~とつくづく。声色の使い分けもお見事でした。でも時々テンポが間延びして感じられたところも(病後ゆえ?)。 そして隣にずっと控えてる〇寿太夫さんが眠そうで落ち着かなくて、かなり気になってしまった。。。(義太夫の世界ってもっと厳しいものかと思ってた。。。)
しかし咲太夫さんのお声は聞いていて落ちつくなぁ。力んでないのにちゃんと届く。
ここのツメ人形の百姓ズ、みんな個性的で可愛い
敦盛の石塔ってこんな形なのか。帰宅してからググってみたけど、須磨に実際にある石塔と同じ形にしてるのね。ほー。
熊谷桜の段。この段、歌舞伎でも陣屋とセットでやればいいのに。相模(清十郎さん)と藤の方(勘彌さん)が陣屋を訪れて出会う場面を見ておくと、後の展開がすごくわかりやすくなる。
熊谷陣屋の段呂勢太夫さん(&清治さん)から英太夫さん(&團七さん)に変わった辺りからしばらく眠くて眠くて仕方なかったのだけど(たぶん一瞬寝た・・・)、義経登場以降はパッチリ。これ以降はのめりこんで観てしまいました。
制札の見得のところの直実(勘十郎さん)は、相模の背中に片足乗っけて(?)藤の方の顔を制札で抑えて(首を見えないようにするためだけど)、歌舞伎より乱暴に見えたけど迫力でした。
相模が小次郎の首を抱くところ、ぐっときたなあ。人形ならではのものを感じた。人形って人間じゃない分、観ている側が自分の感情を入れ込みやすいのよね。想像力が高められるというか。
「十六年もひと昔、夢であったなァ」。ここも義太夫で語られる分さらりとしているようでじんわりきて、歌舞伎よりこちらの方が好きかもしれません。台詞としても「夢だ夢だ」よりしみじみと味わい深く感じられました。
最後は皆さん勢揃いで迫力。
私、陣屋は文楽の方が好きかも。
そうそう、清治さんの三味線、ピーンと張りつめた音が澄んでいて綺麗だった。呂勢太夫さんのお声とも合っているように感じました。って前にも書いたな。

十二月の仮名手本の通しもすっごく楽しみ

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『マシュー・ボーンの眠れる森の美女』 マチネ @東急シアターオーブ(9月18日)

2016-09-22 02:32:52 | バレエ




例によってキャストは当日発表なNew Adventures。行ける日は限られている中、マーニー伯爵は絶対に外せない&できればレオはトレンフィールドで(前回唯一見逃したザ・スワンだから)。というわけでキャスト発表を待って、マチネに当日券で行ってきました。

とはいえこの作品、DVDで見たときはまっっったく好きになれなかったんです。マシューというかイギリス?のドライ&皮肉なユーモアばかりが印象に残ってしまって。コメディ要素もあまり面白いと思えなかったし。なので今回の来日公演も実は行こうかどうか迷ったのですけど、スワンであの大感動をくれたマーニーが渋谷で踊っているのに観ないなんてやっぱり有り得ない、と。
当日券は発売15分前くらいに並んで、S席(12,800円)の9列目センターをゲット。満席でしたから運が良かったんだと思います。
結果、生舞台は映像とは華やかさも迫力も熱も別次元で、いやぁ楽しかった!強くて美しくて傲慢で血に飢えたマーニー伯爵を目の前でたっぷり堪能できてもう大満足。

今回改めてクリストファー・マーニー(ライラック伯爵)の踊りが好きだなぁと感じました。スワンレイクのときもそうだったけど、体全体での表現力が素晴らしいですよね。彼の表現したいものが客席にしっかり伝わってくる。指先まで全ての動きが美しいし・・・はぁ、ウットリ・・・
スワンのときは観終わったとき切なくて胸が苦しくてうわぁぁぁぁぁとなってしまったので、今回はドSで最強な役(こういうのも似合う!)でなんだかほっとしちゃいました笑。気楽に見ることができた。スワンの彼は、別の世界に行ってしまってもう戻ってこられないように見えたから。

結婚式でのライラックとカラドック(アダム・マスケル)、可愛かった お互いしっかり目を合わせてワインをクイって それも3口とも同じタイミングって、どんだけ気が合ってるんですか(警戒&牽制です)。
ところでこの結婚式は、やっぱり生贄の儀式なのよね。カラドックってオーロラのことを本気で好きになったようにも見えたから自分と同じ闇の精にする儀式なのかとも思ったけど、彼の肌にははっきりと「avenge」って書いてあるし、やっぱり母親の受けた屈辱に対する復讐の生贄なのかなぁ。それとも彼女を永遠に自分のものにしてしまおう的な屈折した愛情とか?avengeっていうのは照れ屋さんのカモフラージュ?(それならそれでいい)
ところで母親の復讐なら、オーロラの成人パーティのときになぜ最初からグサッとやらなかったのかしら。薔薇の棘が刺さっても100年眠るだけなことは母親から聞いて知っていたろうに、それでも薔薇を使ったのはなぜ?呪いは既に赤ん坊のときにかけられてるから、順を追って実行するしかなかったのかな。遠回りでも100年眠らせて伯爵の魔法を解除してからじゃないと殺せなかった、とか?だから今すぐはムリだけど、100年たったら生贄にしよう~的な?
そしてカラドックはともかく、カラボスはなぜ死んだのかしら。基本不死身なんじゃないのか?「died in exile」ってご都合主義すぎないかい?
伯爵はオーロラを救えたことよりも、宿敵カラドックを倒せたことが嬉しくて仕方なさそうに見えたのは絶対気のせいではないはず笑。この人カラドックを倒すためにオーロラの件を利用したんだよ、きっと。

結婚式にいた赤服の招待客達。あれは伯爵が自分の配下を忍ばせていた、のではないよねぇ・・・?だとしたらカラドックがマヌケすぎるし。あの死に方だけでも十分マヌケなのに。
あるいは、カラドックの力に支配されていたモブ達とか?だから彼が短剣で刺された途端に、伯爵に寝返ったとか?ボス交代劇的な?私はその方が好みだな。スワンレイクみたいで。
あるいは、純粋に「刺されたカラドック様を運んでいる」という解釈もなくはないのか。んー、でもなぁ、苦しんでいるカラドックを複数でざわざわと運んでいくあの様子は、弱った獲物を巣で喰おうとしている姿にしかやっぱり私には見えないわ。伯爵「そいつはお前たちの好きにしな」的な。

さて、本日のオーロラ(コーデリア・ブレイスウェイト)とレオ(クリス・トレンフィールド)ですが、とっっってもよかった
二人が愛に溢れていて。恋人をリードしちゃう勢いのお転婆で可愛いオーロラと、彼女に振り回されながらも実は優しい愛情で彼女を包み込んでいるちょっと不器用そうなレオ。DVDの二人より、私は今日の二人の方があったかくて好みでした。
テントの中からレオが出てきたとき、「ああ、あれから100年たったんだな」ってその年月が自然に実感できたのは驚きました。特にそういう演技をしていたわけでもなく、笑うシーンのはずなのに。でもこのレオなら100年の間、じっとオーロラが目覚めるのを待つだろうな、ということが当たり前に感じられるレオだったんです。二人の再会場面も、この二人からは100年という時間が本当に自然に伝わってきて、お互いがちょっと戸惑っている感じが切なくて、温かくて、その繊細さが大変よかったです。ホロリときてしまった。
そうそう、トレンフィールドは伯爵に血を吸われるときに、目をギュー(>_<)って瞑るの。お前は注射される子供か笑。そして浮かべる微笑。ヴァンパイアになったのね、ということがわかる。

コーデリアのオーロラは活発で明るくて、彼女の周りだけ太陽のよう。しっかり自分の意思を持った自由な感じがとても魅力的で、私的に理想のマシューのオーロラでした。マシュー版のオーロラはロイヤルファミリーの血筋じゃないのよね。カラボスがどっかから持ってきた子だから、行儀悪し笑(のっぺらぼうオーロラも片肘ついて寝てるし笑)。てか王&王妃はなんでカラボスに頼んだのかしら。ライラックに頼めばよかったのに。それとも誘拐みたいなマネはライラックはしてくれないのかな(そんな道徳心があるようには思えないが)。

気になったところといえば、2幕のレオ。DVDでも思ったけど、100年も待つほど愛してるくせに、周りから容疑者扱いされそうになったら「お、俺は何もしてないし・・・」と保身に精一杯で、倒れてるオーロラを放っておくってどうなのよ。お前はアルブレヒトかっ。

DVDではキモいだけに見えた赤ん坊パペットは、生で見ると意外に可愛かった 踊るヴァンパイア達を体を揺らして楽しそうに眺めてる様子が、キモ可愛い笑。技術的にはいくらでもリアルにできるのにそうしないところ、私は好きです。
※一幕ではレオ役のダンサーが黒子をやるんですって!by Dominic Northのツイ。本当にここのダンサー達は働き者ですね~。

あとは~。そうそう、2幕のガーデンパーティの場面で、下手の召使(Bertie?)の演技がイチイチ細かくて楽しかったです。顔を顰めて虫を手で払ってたら、虫がティーカップの中に入っちゃって、それを摘まんで取ってから奥に引っ込んで紅茶を入れ直してきたり。DVDに映っていないこういう場面が見られるのも、生舞台ならではですね。
あとオーロラが窮屈なブーツを脱いだときに、求婚者の一人が臭そうに顔を顰めてハンカチを鼻にあててた笑。足の臭いオーロラなんてマシュー版以外に絶対にいないであろう笑。

ライラックは古典と同じく、城全体を眠らせたんですね(公式サイトのsynopsis)。じゃあ王&王妃も100年眠ってるのか。レオもあと一歩早ければみんなと一緒に眠れたのに間に合わなかったから、伯爵がヴァンパイアにしてあげた、と。
眠りに支配された敷地内をオーロラのもとへと導いていくライラック伯爵。この場面、美しくてウットリしちゃいました。この作品は本っ当に衣裳や舞台装置が素敵 

DVDで見たときはキモい赤ん坊の再登場で笑うに笑えず最っ悪に思えたラストシーンも、思わず感動しちゃいましたよ。ダンサーさん達に感謝です。スワンレイクのようにぐわぁぁぁぁぁああああといつまでも後を引いて日常生活に支障が出ちゃうような作品ではないですし、ツッコミどころも沢山あるような気もしますが、生で観られてよかったです。てかマーニーを再び目の前で見られてほんっと――――に嬉しかった。彼、今回でしばらくカンパニーを離れるそうで・・・(Ballet Centralの芸監になってたのね)。彼がマシュー作品を踊る姿、もう二度と見られないのかなぁ・・・。インタビューではまた時々踊りたいって言ってるけど、それが来日公演とは思えないし・・・ 今37歳だから、また見られるチャンスがあるといいなぁ。

ところで海外のレビューを読んでいると「良い作品ではあるけれど、チャイコフスキーの音楽がイジりすぎて台無しになっているのが良くない」というものを時々見かけますね。そういう感覚もわかる気がします。でもこういうバージョンもあってもいいのではないかな。客にとって選択肢は多いに越したことはないし。まぁそれも承知の上で好みではない、ということなのだと思いますが。
しかし好みは別にして、マシューボーンの「まるでその作品のためにその音楽が書かれたように感じられる」作品の構築力は誰もが認めるところだと思います。スワンレイクもそうだったけど、今回も鮮やかでした。

次回の来日は2年後でしょうか。
でもそのときはマーニーはいないのか・・・・・・・・・・・・。


※マシュー・ボーンの「眠れる森の美女」予告編(シネマ)

今回のArdor(フェアリーの一人)も鎌田真梨さん。DVDで見たときにとても素敵だったから、生で見られて嬉しい♪ あと今回のキングはGlenn Grahamだったんですけど、素敵だった。王妃様こんな旦那さんでいいなーって思った笑。
DVDでは映っていないけれど、舞台の幕はゴスロリ調なドレープカーテンの絵に、白の照明で「SLEEPING BEAUTY」の文字。雰囲気いっぱいで素敵でした 今回は場内写真撮影禁止で残念

※公式サイトインタビュー:Interview in the scotsman

※Matthew Bourne: 'I didn't want anyone to think I was jumping on a vampire bandwagon'

※BBC: Why Matthew Bourne ballets are not just for Christmas

Sleeping Beauty Resources for Teachers and Students
この中のマシューのQ&A、彼の作品に対する見解がわかって面白いですよ。Synopsisも参考になりますし、今回プログラムを買っていない方はぜひ。

Dancer of the Week (2 September 2016)
What’s your favourite role that you have performed as so far, in the Company, and is there another New Adventures production that you would love to take part in?
   Each part has meant a lot to me in different ways but the Prince in Swan Lake is my favourite by far. It was the first principal role I got and the one I have done the most. It pushes you as an actor and challenges you as a dancer in the sense that the audience are seeing the story through your eyes. There isn’t a moment onstage unaccounted for and it draws on you to give yourself entirely, which when you do gives back incredibly. I remember feeling utterly drained at the end of every show, mentally as well as physically but then loved getting up the next day and doing it all again. It’s a blessing and very rare to find something like that.
   As for future productions I feel sad to say I won’t be involved with The Red Shoes. I had to make a big decision and will instead be taking up the Artistic Director role at Ballet Central, which is the touring company of Central School of Ballet. I hope to be back now and again to perform with the company in the near future though. 
(Christopher Marney)
クリスにとってもやっぱりスワンレイクの王子は特別だったんですね・・・。あ~、また観たいよぉ。。。。。どうして映像が残っていないのぉ~~~~~。。。。。。。。

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二代目喜多村緑郎襲名披露 九月新派特別公演 『口上』 『婦系図』 @新橋演舞場(9月11日)

2016-09-12 21:31:02 | 歌舞伎

※2013年春猿さんのお蔦&月乃助さん

『婦系図』の早瀬主税は、歌舞伎俳優じゃないとできない役だろうと実感しました。ああいう演出に行き着くには、新派の先人たちの考えがあり、後に播磨屋(中村吉右衛門)さん、松嶋屋(片岡仁左衛門)さんなどの客演にも繋がっていったのだと思います。僕としては、もう一度『婦系図』の早瀬主税を演じたいという思いが、新派入団を後押しした大きなきっかけのひとつでした。
(二代目喜多村緑郎)

歌舞伎座の『一條大蔵譚』観劇後に、新橋演舞場へ。
歌舞伎座と新橋演舞場って、こんなに近かったのか
この劇場はむかーし一度行って以来。記憶の中より小さくて、心地よいサイズでした。
夕食は、“演むすび弁当”。これ美味しい 

本日は月乃助さん改め喜多村緑郎さんの襲名披露公演の千穐楽で、私にとっては初新派。
新派も大向うがかかるのね~。定式幕も使うのね~。思っていたよりずっと歌舞伎ぽいのだなあ

緑郎さん(早瀬)、よかった。特に前半はまんま早瀬で嬉しくなってしまった。松也(掏摸万吉)と二人の場面はなかなかに眼福でした。イキもぴったり合ってたし。松也をイイ男だと思ったことは実はないのですけど、この二人が並ぶとキレイ。松也はこういう感じの役が似合いますね。コクーンのお坊吉三を思い出しました。
しかしこの早瀬、後半の見顕し(というのか?)後の演技はちょいとばかし熱すぎやしないかい?それとも新派のキャラ設定がこうなのかな。私の早瀬のイメージは、もう少し淡々とした感じなのですけれど。そしてサラリと死んでくイメージ。
てか、、、

新派の早瀬って死なないのか オーマイガー。毒飲んで死ぬ緑郎さん、見たかったのに

河野家のお嬢さま達を次々と色仕掛けで落としていく場面もないのね(娘も一人だけになってる)・・・。緑郎さんで超見たかったのに しかしこれほどのスピード展開だと「菅子は俺と世帯を持ちたいってよ!」って早瀬が英臣に言い切るところ、観てる方は「え?そうだったの?」とならないだろうか。
河野家皆死に場面もないのね まぁこの舞台の流れでは、あそこでバタバタ人死にが出ては不自然すぎるか。
でもって一番のビックリは、なんと新派の早瀬はお蔦の臨終に間に合っている 遠く離れた所で死ぬ方がよいのになぁ・・・・あの蛍の効果も美しいのに・・・。お蔦を腕に抱いて「死ぬな、お蔦ーーー!!!」(だっけ?)で終わりって、なんだか・・・古クサイというか・・・。

でも新派の脚本って、鏡花も全力で容認してるのよね(湯島の境内だって自分でもノリノリで書き足してるし)。
鏡花がよいのならそれでよいです・・・。
いや、やっぱりよくないわ!鏡花の時代のお客さんにはお涙頂戴的ラブストーリーが受けたのかもしれないけれど、今の時代に上演するなら、原作のままのピカレスクロマン的ストーリーを前面に出した方が絶対にいいと思うの。もちろんちゃんと恋愛要素も(湯島も)歌舞伎らしさも新派らしさも残しつつ。せっかく緑郎さんの名跡も復活したことだし、ここで全く新たな脚本で上演、とか新派ルール的には難しいのかしら(新派は詳しくないのでよくわからない)。「初代緑郎版」も続けつつ、「二代目緑郎版」も上演してみるとか。歌舞伎のコクーンみたいに。
伝統芸能に手を加えるのは基本的に好まない派ですけど、せっかく原作が面白いのだから使ってほしい~。

久里子さんのお蔦。舞台は初めて拝見したのですが、想像以上に勘三郎さんに似てらして最初は戸惑ってしまいましたが、健気で可愛らしく、情に厚い感じがよかったです。早瀬への愛もしっかり伝わってきて。もう少しご年齢が若かったらもっとよかったけど(とはいえ70歳なのにお若い)、お蔦だ!って感じた。湿っぽい演技ではなかったのも好みでした。病んだ後のめの惣宅の場面は、水谷八重子さんの小芳と二人、(元)芸者らしい雰囲気が出ていて素敵だった。こういう味わいが出せる女優さんって、これから減っていってしまうのかなぁ、とか思いながら見てました。妙子役の春本由香さん(松也の妹さんなのね)とこのお二人の空気の違いが、対照的でとてもよかったです。
そういえば新派では小芳はここで「私の子供なのよ!」ってお蔦にカミングアウトするのね。ここもなぁ、原作のように最初からお蔦は心得ている設定の方が絶対にいいと思うのだけどなぁ。
久里子さんは、身体を病んだ後の演技が迫力でした。やつれて儚くて、本当に死んでしまいそうに見えた。

個人的に酒井先生役の柳田豊さんがいまひとつイメージと違っていたのが残念だったな。もうちょい、なんというのか、平然とお蔦に口移しで薬飲ます大人の男の余裕と色気みたいなものが欲しかったというか・・。てか、新派では薬は手から飲ませるだけなのよ。口移しに戸惑わない酒井先生、素敵なのに。

歌舞伎界からは他に、猿弥さん(河野英臣)と春猿さん(河野菅子)がご出演。澤瀉屋から緑郎さんへの襲名お祝いですね^^

カーテンコールは緑郎さん&春本さんのお二人で(新派はカテコOKなのね。それとも襲名公演の東京千穐楽だったから?)。緑郎さんは爽やか現代っ子に戻ってました笑。
緑郎さん、ぜひまた鏡花モノをやってくださいな 観に行きます。歌舞伎の方にもまたぜひ!

最後に、小説の方について自分用の整理。
酒井先生が早瀬とお蔦を別れさせたのは、芸者に対する世間の目の厳しさをよく知っていたからですよね。そういう時代なのだよね。だから実の子のように大事に育て上げた早瀬が芸者遊びを割り切れずに、落籍せてしまったのを知って先生激怒。お蔦のことも、大事な早瀬を誑かす悪女と思ってしまった。おそらく酒井は妙子を河野にやるつもりなど最初からなくて、できれば早瀬と添わせたかったのではないかなぁ。
誰だって脛に傷をもって生きている。なのに自分達だけは完璧だと思い、本人達が隠そうとしている他人の傷を暴こうとする人々。表面だけを見てその人を判断し、心を見ない人々。それが早瀬は許せなくて、だから暴き返した(先生は彼にそんなこと望んじゃいなかったろうけど)。その行動に正義などないことは承知の上で。
色々ツッコミどころ満載で極端な小説だけど(私もまだ理解しきれていない部分があると思うけど)、私は好きです。
ラスト21行はもちろんナシの方向で!

『九月新派特別公演』市川月乃助改め、二代目喜多村緑郎襲名披露インタビュー

劇団新派、復活への幕開き

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