風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

週末引きこもり中 ~アンコール曲の振り返り&ライブストリーミング~

2020-03-29 00:36:11 | クラシック音楽

ボリショイ劇場が『白鳥の湖』『眠れる森の美女』などの映像を、公式YouTubeで配信することを発表しました。この試みはボリショイ劇場が初めて行うもの。ウラディーミル・ウーリン劇場総裁は「(この配信で)芸術を愛する方々の心が少しでも晴れやかになり、心地よく過ごしていただく一助になれば嬉しいです」と語っています。
Japan Arts

今週末はワタクシも大人しく引きこもり生活をしております。といっても、もともと劇場通い以外はインドア派なので、いつもの週末と大して変わりないのですが。
先ほどこのブログのアクセスでボリショイの白鳥の記事が上位にきていたのでなんでかな?と思ったら、ボリショイ劇場が昨夜から24時間限定でザハロワの白鳥の湖をyoutubeで配信してくれていたんですね 映像は2015年1月にモスクワで収録されたもので、私が2014年11月に東京で観たのと同じキャスト。嬉しいありがとう、ウーリン総裁!久しぶりにバレエを観て(最近はクラシック音楽ばかりだったので)、バレエはやはり総合芸術なのだなあと改めて感じました。
しかしモスクワも劇場閉鎖かぁ…。私の人生の中で地球規模で劇場どころか大都市が次々封鎖になる事態が訪れようとは…。
シフは無事に帰国できたのかな…。イタリアに帰国していてもイギリスに帰国していても心配だけれど、といって日本にいるのが安全なわけでもなく…。あのリサイタルから一週間。ほんの少し前までは米国ツアーが無事に行われますようにと祈っていたのに、その米国が中国もイタリアもスペインも抜いて感染者数一位の国になるとは誰が想像したろう。一週間後の日本の状況がどうなっているかだって、全く想像できない…。

とはいえコロナウィルスとの闘いは長期戦。不安がってばかりいても仕方がないので、ワタクシの引きこもり生活の過ごし方の第一弾は、これまでの演奏会で聴いたアンコール曲の振り返りです
演奏会って予習はしてもゆっくり振り返る時間はあまりとれていなかったので、次の舞台鑑賞の予定もなく時間だけはたっぷりある今、いい機会だなと。

Schubert: 4 Impromptus, Op.90, D.899 - No.3 in G flat: Andante

先日の演奏会のアンコールで、シフが最後にもう一度舞台に戻って弾いてくれたシューベルトの即興曲op.90-3。
シフはインタビューの中でこんな風に言っています(例によってワタクシ訳です)。

「シューベルトの即興曲はとても親密な作品で、大勢の聴衆へ向けられたものではありません。シューベルトはそれらを居間で親しい仲間のために演奏しました。ですからたとえ今日(こんにち)大きなホールで演奏する場合でも、私達はその場所を小さな空間へと変容させなければなりません。彼の即興曲は無言歌であり、告白であり、恋愛詩のようなものです。しかし、その根底にはいつも自然があります。シューベルトは音楽を部屋の中から外の自然へと連れ出した作曲家であると私は思います。彼の音楽にはいつも森の囁き、吹く風、そして必ず水の、小川のせせらぎが聞こえます。シューベルトはオーストリアの国内を旅しましたが、そこから外へ出て海を見たことはありません。これは伝記的にとても興味深いことです。シューベルトの音楽や歌曲集『美しき水車小屋の娘』などで聴こえる水の音、即興曲の中でも多く聞こえる水の音は、小川を流れる水です。それより大きな川でも、ましてや海では決してありません。」

シューベルトは音楽を部屋の中から外の自然へと連れ出した作曲家だと。先日シフがこの曲を演奏し始めた瞬間、彼の周りに小川が見えました。米国ツアーのキャンセルが既に決まっていたこの夜、私達がこれからどのような生活になっていくかを感じていたシフが、最後にこの曲を私達にプレゼントしてくれたのかな、というのは考えすぎかな。でもあの夜のこの曲の音色を思い出すだけで、私は部屋の中にいても小川のせせらぎや吹く風や木々の囁きを感じることができています。ありがとう、シフ。

Schubert - Impromptu op. 90, no. 3 G flat

レオンスカヤが2018年の東京文化会館でのシューベルトチクルスの最後に演奏してくれた、同じくop.90-3。シフのこの曲が小川のせせらぎなら、レオンスカヤのこの曲は春風に揺れるアネモネの花
4月に聴けるはずだったレオンスカヤのブラームス、ベートーヴェン、モーツァルト、聴きたかったなあ。いつかまた聴ける機会があるだろうか…。
東京・春・音楽祭もラ・フォル・ジュルネも、全公演が中止になってしまいましたね…。オケもソリストも招聘会社も、この事態が終息するまでなんとか持ち堪えてほしい…。ていうか政府もなんとかしなさいよ!!
ちなみにop.90-2もシフレオンスカヤはそれぞれアンコールで弾いてくれています。

Schubert: 3 Klavierstücke, D.946 - No.2 In E Flat (Allegretto)
ピリスが2018年の最後の来日の時に、サントリーホールの第二夜のアンコールで弾いてくれたシューベルトの3つのピアノ曲D946-2。
シューベルトが死の半年前に作曲した曲。彼が亡くなったのは1828年、31歳の時。その後40年間忘れ去られていたこの曲を1868年に匿名で編集し出版したのが、ブラームスでした。匿名というところがブラームスらしい。
あの日サントリーホールでピリスのこの演奏を聴きながら、ピリスもシューベルトも最後まで私達にこの世界の美しさを教えてくれるのだな、とそんな風に感じていました。
ピリス、ときどきFBを覗きますが、お元気そうですね シューベルティアーデの演奏会、とても素敵。着々と夢を実現されているんですね。今も時々大きなホールでも演奏されているようだけど、来日は…やっぱりもうないのだろうなあ…。
と、久しぶりに彼女のFBを覗いたら、Deutsche Grammophonが今日(28日)を”#WorldPianoDay #StayAtHome”としてyoutubeでライブストリーミングをしてくれている…!ピリスやトリフォノフやチョ・ソンジンやキーシンがそれぞれの自宅から出演。カナダのカルガリーのヤン・リシエツキの部屋が素敵だ…。ピリスはポルトガルのbelgaisから?ですよね。このお部屋もとっても素敵(YAMAHAのピアノだ)。ピリスは「ベートーヴェンは信念の人であり、希望の人であり、正義のために闘った人であり、沢山の思いやりと純粋な魂をもった人で、それは彼の音楽に表れている」と。「彼の音楽は私達の現在と未来にために多くの大切なことを教えてくれる」と。そして最後のトリフォノフの姿に、いま世界が対峙している現実から目をそらしてはいけないことを思い知らされる。こうして世界中のアーティストが繋がって、助け合っているのだなあ。。。今は皆が助け合うとき、というシフの言葉を思い出す。kajimotoのシフのライブストリーミングへもシカゴやベルリンやイタリアの人達が感謝のコメントをしていた。ザルツブルクのシフ夫妻の友人らしき人達も「彼らが近くにいるように感じられて嬉しい」と。
コロナが原因で街から人が減って空気や水が綺麗になって、自然から見たらウィルスは人間の方だったのではないかというtwitterの呟きに頷いてしまうところもあるけれど、やっぱり人間も美しいね。。。そう思わせてくれる人達と音楽に感謝。
なおシフも3年前のアンコールでこの曲を演奏してくれていて、そちらも素晴らしかったです。

Maria Joao Pires Beethoven, Chopin & talk about piano competitions

0:57~。ピリスが最後の来日の時にサントリーホールの第一夜とNHKホールの協奏曲の後のアンコールで演奏してくれた、ベートーヴェンの『6つのバガテル』Op.126-5。ベートーヴェンの晩年に書かれた最後のピアノ曲。
またピリスの演奏を生で聴きたいなあ。たぶん無理なのはわかっているけれど…。ピリスのピアノの素直な音が大好きです。
ちなみにシフは3年前のアンコールで『6つのバガテル』からOp.126-4を弾いてくれて、そちらも最高に素敵だった。

こんなことをしていると外出自粛も全く苦じゃないというか、忙しいときにはできなかったことが色々できる時間ではあるけれど。
本当に、日本も世界も、これ以上犠牲者が増えないでほしい。。。こんな状態は悲しすぎるし、辛すぎます。。。
なお上記のDeutsche Grammophonのライブストリーミングは今日から3日間視聴可能とのこと。そんな優しさでさえ今は沁みる。。


※真央君もおうちから。この飾らなさがいいねえ



※3月23日のポゴレリッチからのインスタメッセージ
"I always prefer to communicate to my audience with music rather than words but at this moment it seems to be impossible. I am here safe at home in Switzerland and I would like to address this message to the audiences of Bern, Munich, Paris, Taranto, Jaén and Essen, cities where I was supposed to play. I know that many of you were looking forward to attending these concerts and I am very sorry that they could not take place due to the current situation. These concerts are being rescheduled and I truly believe we will see each other very soon. This is a difficult and severe situation, something that we have not yet experienced. I would like to emphasise that we have to stay optimistic and positive as this will end one day. Please above all keep safe and look after yourselves and your families. Sincerely, Ivo Pogorelich”
「私はいつもは言葉よりも音楽で聴衆とコミュニケーションをとるのを好みますが、今の状況ではそれが不可能です。私はスイスの自宅で無事です」と。よかった!そしてポゴレリッチも欧州ツアーがキャンセルになっていたんですね・・・。シフと同じく、あのラヴェルを日本で聴けたのは本当にぎりぎりだったのだな・・・。あの頃はまさかヨーロッパが今のような状況になるなんて思ってもいなかった。たった1ヶ月前の話なのに。日本もどうなってしまうのだろう・・・。
でもポゴさんもシフと同じように「I would like to emphasise that we have to stay optimistic and positive as this will end one day.」と仰っている
落ち着いて、前向きに頑張ろう!

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アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル @東京オペラシティ(3月19日)

2020-03-20 21:31:26 | クラシック音楽

12日に続き、シフのリサイタルの第二夜に行ってきました。
この一週間でコロナウィルスの世界状況は大きく変わり、米国では今後8週間の50人以上の規模のイベントが中止または延期に。英国のウエストエンドも閉鎖。イタリア、ドイツ、フランスの劇場は言わずもがな。そんな状況なのでシフが日本からの入国者であるか否かに関係なく、日本ツアー後に予定されていたバンクーバー、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークでの演奏会は全てキャンセルに。シフは無事イギリス?イタリア?に帰国できるのかな…。
ちなみに私の会社ではテレワークと時差出勤に加えて、本日より社食では千鳥状に座るようにとのアナウンスが。皆が真面目に守るかどうかは別ですけど、アナウンス内容がじわじわと厳格になってゆくのが戦争前の空気のようで恐ろしい。一方で会議等の開催基準については100人以上の規模は禁止という、妙に緩めな我が社

今夜のオペラシティは、ほぼ満席に近い客入り。いつまでも進まない入場の長い列をなんでかな~?と遠くから眺めていたら、当日引換券の列でした。14日のyoutubeのライブストリーミングを観てシフに興味を持って来た人も少なからずいたからなのか、今夜はシフの演奏会にしては珍しく客席の物音や咳が多く(といっても一部の数人ですが)。また12日もそうだったけど、空調がいつもと違う?のか、最初や休憩後の数分間は舞台左手あたりでキシキシ軋むような音が続いていて、全体的にやや落ち着きに欠けた演奏会になったのでした。そのせいなのか(シフは神経質さん)別の理由によるのか、今夜のシフ、私にはいつもより少し落ち着かなげに見えた&聴こえたのでありました あくまで私にはそう見えた&聴こえたというだけですが、そういう空気に少々気づまりを感じてしまったのも正直なところ。

舞台のピアノを確認したところ、今回のピアノはオペラシティ所有のベーゼンドルファー・インペリアルモデル(最低音の9鍵が黒いあれ)でした。昨秋の協奏曲のときと同じ。私が3年前に初めてシフのリサイタルで感動した音は280VCモデルの音なのだけど、このインペリアルはより素朴な音がして、これはこれでとても好き。やっぱりベーゼンドルファーの音、いいよねえ

上演前に「演奏者の希望により最後の曲が終わるまで拍手はお控えください。なお今夜の演奏は昨年12月に亡くなられたペーター・シュライアーと、今年2月に亡くなられたピーター・ゼルキンに捧げられます」のアナウンスがありました。

【シューマン: 精霊の主題による変奏曲 WoO24】
【ブラームス: 3つの間奏曲 op.117】
【モーツァルト: ロンド イ短調 K.511】
【ブラームス: 6つのピアノ小品 op.118】
ここ数年世界のあちこちで披露しているらしい今夜のプログラム。この内容を最初に知ったときは「シフは何かあったのだろうか…」と心配に。Last Sonatasシリーズどころではない死の影が濃いプログラム。
シューマンの最後の音は長く長く鍵盤を押さえたままで、その姿は祈っているように見えて。シフにとってこのプログラムは祈りのプログラムなのかもしれない、と感じたのでした。作曲家達の人生と、彼らをとりまく死と、それらへの祈りーー。
ブラームスop.117-1は3年前のアンコールで聴いたときもシフに合っていると感じたけれど、op.117-3もシフは魅力的に弾くなあ…。
しかし私が前半で最も感銘を受けたのは、モーツァルトのロンド。シフのモーツァルトは3年前のLast Sonatasシリーズのときも聴いていて、そのときは同時に演奏された他の3人の作曲家(ハイドン、ベートーヴェン、シューベルト)の印象と比べるとモーツァルトの印象は決して強くはなかったのだけれど。でも今夜のロンドの軽やかに歌う音のぞっとするような美しさ・・・・・。透明な哀しみ・・・・・。切なさ・・・・・。驚きました。シフがモーツァルトでも有名な理由が心底わかった気がする。
ブラームスop.118-2は12日のアンコールより更に勢いよく進んでいき。そして5曲目と6曲目(特に6曲目)のあの音と空気。これを作曲したときのブラームスの内面が強く感じられて、胸が苦しくなった・・・。そして弾き終えた後の長い長い沈黙に、あまりにも重く真摯なシフの心を感じたのでした。

(20分間の休憩)

【J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集第1巻から「プレリュードとフーガ」第24番 ロ短調 BWV869】
【ブラームス: 4つのピアノ小品 op.119】
【ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 op.81a「告別」】
バッハBWV869は、流れるように演奏されたプレリュードの後で豊かな色彩が際立ったフーガ。シフのバッハはやはりいい
ブラームスop.119を聴きながら、シフがライブストリーミングで仰っていた「幸せな音楽というものは存在しない」というシューベルトの言葉を思い出していました。どれほど願っても前へ前へと流れてゆく時を止めることはできない、だから音楽は根本的に悲しいものなのだと、そう言っていたシフ。美しく味わい深いブラームスを聴きながら、私はあと何回シフの演奏を聴くことができるのだろう、とそんなことをふと思ってしまい、泣きそうになりました。考えてみたら昨秋の協奏曲での来日は例外的で、シフってツィメルマンやポゴレリッチと違って3年に一度しか来日しないピアニストなんですよね。2008年(その前は9年前)、2011年、2014年、2017年、2019年(協奏曲)、2020年。とすると次回は3年後ということになる。遠いな…。ブラームスのop.119って、ペライアとフレイレが前回来日したときに弾いてくれた曲で(ペライアはop.119-2,3でフレイレは全曲)、あのときはまたすぐに来日してくれるだろうと疑っていなかった。日常は決して当たり前のものではないのだということを最近の私は思い知らされていて…。泣きそうだ…。
でもこの死の影の濃いプログラムの最後にシフが用意してくれたのは、ベートーヴェンの『告別』ソナタ。その最終楽章の副題は「再会」。3年後(もっと早くてもいいよ!)、きっときっとまた元気に日本にきてね、シフ。

~アンコール~
今夜のアンコールは6曲と、シフにしては少なめ。でも終わったときに時計を見たら12日と同じく21:50になっていたので、今夜はメインプログラムも長かったんですね。
【J.S.バッハ: ゴルトベルク変奏曲 BWV988から アリア】
【モーツァルト: ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 K.545から 第1楽章】
【ブラームス: アルバムの小品】
【シューマン: アラベスク op.18】
【シューマン: 「子供のためのアルバム」op.68から 楽しき農夫】
【シューベルト: 即興曲 変ト長調 D899(op.90)-3】
このうち1、2、5曲目は3年前のアンコールで聴いています。
ゴルトベルクのアリアは速めの演奏で、「全曲ある?でもこの弾き方だとないかもな」と思っていたところ、やはりなかった(いつか全曲演奏会をやってくださいお願いしますお願いします)。
で、2曲目のモーツァルトが・・・・・・・・・。なにこれ、天使が弾いてるの・・・・・?シフのこの曲の演奏は前にも聴いてるのだけど、今夜の演奏の美しさといったら。今夜ベーゼンドルファーの響きが最も美しく聴こえたのもこの曲でした。その音の無垢な愛らしさ・・・・・・・。ひたすらに美しくて尊かった・・・。今夜の私、シフのモーツァルトに完全にノックアウトされました・・・。
3曲目は「〇〇〇〇(聴き取れず)、ブラームス、ヒキマス」と仰ってから、『アルバムのための小品(Albumblatt)』を。今回はブラームスがメインのプログラムだったから弾いてくださるだろうとは思っていたけれど、初めて生で聴けて嬉しかった!近年楽譜が発見されたブラームスが20歳の頃の作品で、2012年にシフが初演した曲。op.76、116~119と晩年の作品をずっと聴いてきて、最後に彼が20歳の頃のこの曲を聴けるのは、爽やかな風が吹くようで嬉しい。
4曲目はシューマンの『アラベスク』。シフはこういう演奏も素晴らしい。シューマンを聴くとヴィルサラーゼを聴きたくなってしまう病も無意識に発動してしまうけれど、シフのシューマンの端正な澄んだ空気感もとても好き。
5曲目『楽しき農夫』はシフのいつもの「今夜はこれでお仕舞い♪」の合図。塩川さんも退席されて(よく見える席だった)、帰り始める人もいて、アンコールは完全に終わりな空気で。でも殆どの聴衆は席に残り、シフへの大きな拍手を送り続けたのでした。何度もステージに呼び戻されるシフ。あの拍手はアンコールの要求などでは決してなく、あらゆる演奏会が中止や延期になって誰もが気弱で不安になっていたこの時期にシフが来日してくれて、演奏会をしてくれて、生の音楽を届けてくれて、みんな本当に本当に嬉しかったんだと思う。その感謝を彼に伝えたかったのだと思う。私も同じ。そしたらシフ、もう一度ピアノに座ってくれてーー。
6曲目のアンコール、シューベルトの『即興曲 変ト長調 D899-3』。
涙。。。。。。。。。。。。。
私、この前日に東京・春・音楽祭の実行委員会からレオンスカヤの4月の演奏会がキャンセルになった旨のメールを受け取っていたんです。買っていた彼女の3つの演奏会の全てがキャンセルになってしまいました。2年前に来日したときにシューベルト・チクルスの最終日の最後に彼女がアンコールで弾いてくれた曲が、このD899-3でした。それは本当に本当に温かで忘れられない演奏で。
その曲を今夜こんなシチュエーションでシフが演奏してくれて。気弱になって沈んでいた心にもらえた、救いと希望。
今夜のこの演奏の音、一生忘れない。
ありがとう、シフ。。。。。
この最後の一曲、シフに感謝を伝えようとした聴衆の想いが会場に溢れてシフに届くことがなかったら絶対に聴くことができなかった演奏だったと思う。ライブストリーミングと生の演奏会の違いを、改めて実感させられた夜でした。

今夜は12日と比べて会場アナウンスもより徹底されていて、「アンコールはウェブサイトで」の案内も掲示板ではなくアナウンスでなされていました。すぐに改善に動く梶本、素晴らしい。こうしてみんなで少しずつ、安心して公演を楽しめる環境を作っていけたらいいですね
今回の演奏会も、シフの強い信念だけでは実現は不可能だったでしょう。梶本と東京オペラシティと大阪いずみホールが開催を決断したからこそで、それには感謝の言葉しかありません。主催公演が次々と中止になり厳しいときが続くと思いますが、心から応援しています!!
(だからフレイレを招聘アーティストに戻してくださいませ…

※追記
今月の歌舞伎座が全公演中止になっていたこと、今知りました・・・。私があんなに待ち望んでいた吉右衛門さん&仁左衛門さんのがっつり共演の新薄雪が・・・・・

※追記
シフご夫妻、6月まで日本で滞在していらしたんですね!
ご無事でよかった
またお会いできる日を楽しみにお待ちしています。





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アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル @東京オペラシティ(3月12日)

2020-03-15 23:28:51 | クラシック音楽



というわけでWHOによるパンデミック宣言があった12日夜、シフのリサイタルの第一夜に行ってきました。
完売公演だったけれど払い戻しを受け付けて、その分を当日券で放出。NBSのパリオペ公演と同じ方法ですね。当日券もだいぶ売れていたようだったけど、それでもいくらか空席があったので、相当数の人達が払い戻しをしたということでしょう。まあ、そうだよね…。行ける人にも行けない人にもそれぞれに事情があり、生活がある。

会場は、チケットはもぎらず目視のみ、チラシ配布もプログラム販売もクロークサービスも飲食物提供も一切ナシなど色々工夫をしてくださってはいたけれど、ロビーに置かれたアルコール消毒液は使用せずに席へ直行する人が殆どでしたし、ロビーはマスクなく歓談している人達で溢れていたけど声をかけるスタッフもなく、梶本ってやはり詰めが甘いのだなあと改めて感じた夜でもありました。ウイルスがとうに蔓延していた2月下旬にポゴレリッチにサイン会をさせた事務所だものねえ(はい、根に持ってます)。開演前に梶本社長から放送で挨拶があって客席からは拍手が起きていたけど、そんなことより前にもう少しやれることはあるのでは、と思ってしまった。劇場公演がことごとく制限されているなか、いま行われている一つ一つの公演がどれほど責任重大か。先立ってパリオペ公演を行ったNBSは流れ作業的にアルコール消毒を推奨し(過敏症の人はそこで伝えればOK)、ロビーや席で談笑している人にはスタッフが声をかけ、マスクをしていない人にはマスクを配布したと聞いている。17日と19日の公演がもしあるなら、もう少し厳重に頑張っていただきたいところ。

さて、「音楽は自分の命よりも大切」と日頃から仰っているシフ。
3年前の来日時はロンドンでテロが起きたし、昨秋は香港デモ真っ只中だったし、今回はコロナだし、毎回色々起きるなあ・・・。世界がそれだけ落ち着いていないということですね。

【メンデルスゾーン: 幻想曲 嬰ヘ短調op.28「スコットランド・ソナタ」】
【ベートーヴェン: ピアノソナタ第24番 嬰ヘ長調op.78「テレーゼ」】
【ブラームス:8つのピアノ小品op.76】
曲と曲の間で客席から殆ど咳が起きなかったのは珍しかったけれど(やればできるのならいつもやっておくれよ)、演奏中に関してはシフのリサイタルの聴衆はいつもマナーがいいので、特にいつもと変わりはなく。
ところで今夜のシフ、前半はあまり調子がよくなさそうじゃありませんでした・・・?
ブラームスop.76の5曲目以降も、音がときどき迷子になっているように聴こえてハラハラして見守ってしまったのだけど、ああいう弾き方だったのだろうか(楽譜を覚えているわけではないので自信は皆無です)。
ベーゼンドルファーもいつものあの音ではないように聴こえて、「ベーゼンドルファーだよね・・・?」と思わず確認してしまった。
そしてなぜか私はブラームスのop.76とop.116は休憩後に続けて演奏されるものと勘違いしていて、テレーゼに続いてop.76が始まったときは「今回も休憩なし」とぎょっとしたが、そんなことはなかった。そうよね、シフはブラームスは続けて演奏しない主義の人だった。よかった、無事に休憩があって。。。
テレーゼの一楽章の長調のメロディが短調に変わって直後に否定されるところ、「短調の部分もあんなに素敵なのにどうしてベートーヴェンはこのまましばらく短調で続けなかったのかしら?」とずっと思っていたのだけど、あそこって第九の4楽章冒頭に似ていますよね。暗いメロディが演奏されてすぐに「いや違う」と否定されて、明るいメロディに落ち着く。そうだよね、これはテレーゼ(不滅の恋人ではないらしいですが)に捧げる優しい愛の音楽だものね。やっぱり短調ではなく長調だよねと腑に落ちたのでありました。

(20分間の休憩)

【ブラームス:  7つの幻想曲集op.116】
私の素人耳にはこの曲の途中あたりからどんどんピアノの音が良くなっていったように聴こえて、ピアニストの調子が上がるとこんなにピアノの音も変わるのか、と。ピアノって本当に生き物みたいな楽器だなあ。
op.116、特に4曲目以降がとてもよかったです。
3年前のアンコールで117-1を聴いたときにも感じたけれど、シフとブラームスって一見物凄く合わなそうなのに、意外や、合うんですよね。シフのベートーヴェンやハイドンやバッハが素晴らしいのは、これらの作曲家の音楽とシフの演奏の「明快な前向きさ」が共通しているからだと私は思っているのだけど、シフの個性がそういうものであるならば、ブラームスの内省的な音楽は向いていないのでは?と思ってしまうじゃないですか。しかしなんと、シフはそれも表現してしまうのであった。シフって天才と思うと同時に、おそらくシフという人間の中にブラームスの音楽のような面もあるからではなかろうか、と。シフの音がブラームスに寄り添って聴こえるのもそういう理由ではないかしら、と。そんな風に思うのでありました。
というわけで、私はシフのブラームスが意外に好きなのである。

【J.S.バッハ: イギリス組曲第6番 ニ短調BWV811】

改めて「シフのバッハ」の物凄さよ・・・・・。

シフがバッハを弾くときって、もはや反射神経で指が動いているのではなかろうかと感じるほどシフとバッハの音楽が一体になって聴こえる。なんて生き生きとした、かつ崇高なバッハだろう。
神様が作り出したこの世界はあまりに辛いことの多い世界だから、そこで生きていかねばならない人間達のために、神様がバッハとシフをこの地上に遣わせてくれたのではないか、と本気で思いました。全く同じことをyoutubeのコメント欄に英語で書かれている方がいて、やっぱりみんな同じことを感じるのだな、と。尊い・・・とひたすら感じながら聴いていた。
ポゴレリッチのラヴェルがprivilegeであったのと同じように、シフのバッハを聴くことができることは紛れもなくprivilegeであるなあ、と心の底から感じたのでした。

~アンコール~
こんな状況下だしアンコールをしてくれるだろうか?と少し心配していたのですが、いつもどおりにやってくださいました
一楽章を一曲と数えると、3年前と同じく今夜も8曲

【J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調BWV971(全曲)】
シフのこの曲の演奏を聴くのはこれで2度目。前回もアンコールにて笑。
シフはこの曲がお好きなんでしょうね。そしてこの曲はシフの個性に本当によく合っている。
イギリス組曲6番→イタリア協奏曲の流れ、沁みたなあ・・・。前曲で「神が我らのために地上に遣わせてくださったシフ」設定に(私の中で)なっている人が、いま目の前でバッハの地上の音楽であるイタリア協奏曲を明朗快活に鮮やかに弾いてくれているんですよ。こんな心動かされることがあろうか。なんたる極上体験だろう。尊い・・・。
シフは3年前と同じく、1楽章を終えて一度袖に引っ込み、再び出てきて両手を軽く広げて「ドウモアリガトウ」と穏やかに仰って、2、3楽章を弾いてくれました。イギリス組曲からの空気からするときっと全曲弾いてくださるだろうとは感じていましたが、とてもとても嬉しい

【ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調op.26「葬送」から 第1楽章】
演奏前に「〇〇〇〇(ベートーヴェン?)、ヒキマス」と。シフのこれ、今まで聞き取れたことが一度もない
演奏会とその予習以外でクラシック音楽を聴かない人間なので、この曲も知らなかったのです。でもベートーヴェンの曲であることは確信に近くわかったのであった。シフのベートーヴェンが好きすぎて反応する耳になってしまったのかもしれん。でもピアノソナタの一楽章だとは思いませんでした。きっと「〇〇変奏曲」みたいなタイトルの曲なのだろうと思っていたら、帰宅して曲名を知って吃驚。
シフの変奏曲の演奏には言うことなど何もないです。極上。大好き。先日の台湾では全曲をアンコールで弾いたそうなので全曲聴きたかったけど、イタリア協奏曲を全曲弾いてくださったので贅沢は言えません(台湾ではイタリア~は第一曲のみ)。この曲は昨秋に第3、4楽章をアンコールで聴いているので、今後2楽章が聴ければコンプリート。

【メンデルスゾーン: 無言歌第1集op.19bから 「甘い思い出」】
【メンデルスゾーン: 無言歌集第6巻op.67から 「紡ぎ歌」】
再び「〇〇〇〇(メンデルスゾーン?)、ヒキマス」と
今夜は後半からどんどん調子が上がってきたシフ。一度上がったら止まらない。
気負いが一切ない、美しい美しい歌。ここに言葉はいらない・・・。

【ブラームス: インテルメッツォ イ長調op.118-2】
そしてこの流れでのこの曲ですよ。心が動かされないでいられようか
この曲の途中で短調になるところ、私は人生で誰もが避けては通れない哀しみや、あるいはかつての切ない恋情のようなものを感じるのです。でもその後に再び長調に戻ると、そういう全ては過去のものとなり、時のなかに包まれている。そこには諦念もあるかもしれないけど、それ以上にブラームスの慈しみと優しさ、そして既にあちらの世界に近い場所にいる人間の安らぎのようなものを感じるのです。フレイレのこの曲を聴いたとき、その場所のあまりの穏やかな美しさに「いま、死んでしまいたい」と本気で感じました。今なら自分の人生の全部を肯定して死んでいける気がする、と。
でもシフのこの曲の演奏は、もう少しこの世界に近いところにある音楽に感じられました。例えブラームスを演奏するときでも、やはりシフの音にはどこか前向きな明るさがあるのだな、と。無事19日のリサイタルが開催されれば、もう一度聴ける予定。
さて、ブラームスのop.118-2は大好きな曲だけれど、この曲でリサイタルが終えられると、ちょっと私は困るのです。この美しい空気の中でこのまま人生を終えてもいいや、と思ってしまうから。フレイレはその後にヴィラ=ロボスで明るく家に帰してくれた。シフはというとーー

【シューベルト: ハンガリー風のメロディD817】
わ~!素敵
といいつつ私はこの曲を知らなくて、バルトーク?と思っていたら、まさかのシューベルトだった。
シフはこういう歌う(この場合は踊る?)シューベルトがほんといい。シフが弾くシューベルトのこういう小品がとても好き。
ああ、幸せだ。ありがとうシフ!

シフが日本到着時のメッセージで仰っていた「confidence and positive attitude」という言葉。
あのメッセージを聞いたときは「そうは言ってもなあ・・・状況が状況だしなあ・・・」と正直ちょっと思ってしまっていたのです。でも今夜彼の演奏を聴いて、シフが言いたかったことが少しわかったような気がしたのでした。

21:50終演。
客席に奥様の塩川さんがいらしてましたね。ちゃんとマスクをしてくださっていた。シフのような旦那さんをもつと奥様も大変だろうなと想像するけれど、実はシフは塩川さんには頭が上がらないのでは、とも思っている(年上女房ですよね)
前にも書きましたが、はるか昔の二十代の頃にザルツブルクのモーツァルトの生家で、このご夫婦が演奏するモーツァルトのCDを買ったのです。クラシック音楽に縁遠かった私は、もちろんシフのことも塩川さんのことも存じ上げていませんでした。ガイドの方が「このCDが私のお勧めです。有名なピアニストの方で、日本人の奥様がヴァイオリンを弾かれています」と言っていたので、まあ記念だし、と買ったのであった。あれから二十年近くたって、東京でその奥様と同じ客席でそのピアニストの演奏を自分が聴いているとは、あのときの私は小指の先ほども想像していなかったなぁ。人生って本当に不思議ですね。

今夜はロビーのアンコール曲名の掲示はなく、「本日のアンコールはkajimotoのウェブサイトにて!」の案内のみ。これは良いアイデア。だが、その写真を撮ろうと群がる人々が・・・。これでは意味がないではないか。梶本が人に集まってほしくなくてこうした意図がどうしてわからないかなあ、と思っていたら、その写真のSNSの投稿をkajimotoが嬉々としてリツイート。だから~、そういうところが詰めが甘いというのですよ~・・・。

シフは17日の大阪公演までしばらくお休みですね。本来ここに札幌公演と埼玉公演が入っていたのだけれど、中止になってしまいました。
同じ梶本主催で札幌と埼玉がキャンセルになって、東京と大阪が続行になった違いは何なのだろう。札幌と埼玉の中止理由は「行政からの要請」とのことだったけど。同じ東京でもサントリーホールは全コンサートを中止にしたのに対して(サントリーは企業イメージがあるから、それも理由かな)、驚いたのは都のホールである東京文化会館でのパリオペ公演が中止にならなかったこと。16日の大阪フェニックスホールでのベルリンフィルメンバーによる室内楽も、21日の東京オペラシティでの東京交響楽団の演奏会も予定どおり開催されるそうです。今回の一連の公演の決行や中止は、主催者側の判断と同じくらい、受け入れるホール側の判断も大きいのかもしれませんね。

UNE INTERVIEW DE SIR ANDRÁS SCHIFF – « AUTANT J’AIME LA FRANCE, AUTANT LA PRESSE FRANÇAISE NE M’A PAS MÉNAGÉ »
今夜と同じプログラムだった2018年1月のパリでのリサイタルの際のインタビュー記事。シフ節も絶好調。

JDCMB: Sir András goes to Salzburg (February 26, 2016)
シフの趣味は読書だそうで、何語で読むのかと聞かれて「Hungarian, German, English, Italian, occasionally French.」と。指揮者もピアニストも多言語に通じてる人が多いですよね・・・。耳がいいからかな。私なんて英語さえ覚束ないのに・・・・。

※追記
Message from SIR ANDRÁS SCHIFF ホンマこんなときやけど やっぱ(音楽)好きやねんTV organized by KAJIMOTO

14日20時から梶本がyoutubeでシフのトーク&演奏のライブストリーミングを行ってくれました こういう企画力&行動力は梶本の良い面なのよね。。
シフの登場は00:20:45~で、ピアノはスタインウェイ。演奏(バッハ、バルトーク、ブラームス、ベートーヴェンの4大B!)もトークもどちらも素晴らしかった
このアーカイブ映像もしばらくしたら消えてしまうかもしれないので、シフからのメッセージの一部を自分用覚書として以下に。訳は塩川さんの通訳をそのまま書き起こしていいものか著作権?的にわからなかったので、シフの英語から直接のわたくしによる要約&意訳です(なので間違っていたらゴメンナサイ…)。

(J.S.バッハの平均律第一巻第一曲プレリュード&フーガについて)私は家にいるときはいつも朝食前に、また朝食後にも更に1時間ほど、バッハを弾きます。それは私にとって儀式のようなもので、バッハはとても崇高な音楽なので、弾くと私の精神や魂が浄化されるように感じられるからです。
私は今夜の演奏を中止となった埼玉と札幌のリサイタルにいらっしゃる予定だった方々のために、また中止にはなりませんでしたが東京と大阪のリサイタルのチケットをこの状況のために払い戻さざるを得なかった方々のために捧げたいと思います。
いま私達は大変深刻な、これまで経験したことのない状況下にいますが、希望を持ち、明るく、落ち着いて、前向きな気持ちでいることが大切であると私は皆さんに伝えたいのです。この状況もいつかは終わるでしょう。人類は今回の経験から人生の中で何が大切であるかを学ぶべきです。偉大な芸術や音楽は、ただ楽しむための娯楽ではありません。それは私達が互いに思いやることの大切さを教えてくれます。私が愛する偉大な音楽には、自由があり、そして秩序があります。全ての音に意味があり、全ての音が全体の一部を構成しています。社会も同じです。全ての人は重要であり、互いに助け合わなくてはなりません。世界の国々が人の往来を制限している今の状況において、人間同士の繋がりがいかに大切であるかを私達は気づかされます。私は自分の楽しみのために演奏することもありますし、録音という物もありますが、音楽の真の意味は、他者と同じ空間を分かち合い、共に聴くことにあります。この体験の代わりになるものはありません。ですから今回の日本でのコンサートを開催できたことは私にとってとても幸福でしたし、それを可能にしてくれた梶本氏とそのチームに深く感謝しています。それはとても勇気がいることだったからです。しかしもし健康のリスクがそこにあったなら、私はそれを冒してまで行おうとは思いません。日本はお互いに敬意をもっている世界で最も清潔な国だと私は思っているので、私達は安全であると考えたからです。


(バルトークのロンドについて)これは私が子供の頃に弾いていた曲で、これを弾くとホームシックになります。私の国ではどんな子供もこの旋律を知っています。私はもう10年ほどハンガリーに帰っていません。母の葬儀のときが最後でした。ハンガリーの政治的状況はとても悪いので、私は帰国を拒否しています。それは私にとって辛いことですが、その代わりに、私はこの曲を弾きます。人は誰でも故郷が必要です。そこはあなたの家族がいる場所であり、あなたが生まれた場所であり、子供時代の思い出が詰まった場所だからです。世界中を旅していても、故郷に帰るのは喜ばしいことです。音楽のおかげで、私はそれができています。

今回日本で演奏するプログラムの中心にあるのは、ブラームスの晩年の作品です。ブラームスは比較的長生きをした作曲家です。彼は1833年にドイツ北部のハンブルクで生まれましたが、若い頃にオーストリアのウィーンに引っ越しました。後期の作品の殆どがウイーンで作曲されました。ブラームスは60代でこれらの作品を作曲しました。私も同じ60代ですが、自分がそれほど高齢の感覚はありません。ですがブラームスの時代は60代は高齢でした。バルトークの音楽は子供のための音楽ですが、ブラームスの音楽はそうではありません。これらの曲は老年を迎えた男が若く楽しかった昔を振り返っている音楽であり、そしてとても死に近い音楽です。ブラームスの後期の作品は過ぎゆく人生についての悲しみを感じさせます。私の好きな作曲家の一人であるシューベルトは「幸せな音楽というものは存在しない」と言いましたが、音楽は時は過ぎゆくものであるということを私達に感じさせます。美しい音楽を聴いていると、時が止まればいいのにと思うでしょう。ですが時は止まってくれません。前へと進みます。音楽が悲しいというのは、そういうことです。私にとってブラームスの音楽は秋のイメージです。春ではなく、木々の葉が落ちる秋です。
(ブラームスのインテルメッツォop.118-2を演奏し終えて)ふむ、そんなに悲しくはないですね(笑)。ここにはまだ希望があります。

もし音楽がなかったら、私には生きる意味がありません。日本という国に欧州のクラシック音楽への深い愛情と関心があることに私は感動します。音楽というものはとても国際的なものですが、文化や言語から離れて存在するものではありません。例えばブラームスの作品を演奏するとき、私はドイツの民謡やドイツの言語を思います。バルトークは私の母国の作曲家ですから、その言語のアクセントを私は熟知しています。その国の出身である必要はありませんが、その音楽が生まれたバックグラウンドをほんの少し意識することは大切だと思っています。

この後にシフが考えるヨーロッパの聴衆とアジアの聴衆の違いとか(ここの奥様とのやり取り、シフ家の日常のリビングを覗かせていただいているようで楽しい)、高齢の演奏家と若い演奏家の違いとか、ベートーヴェンの『告別』についてのお話(ほぼマスタークラス笑)や素晴らしい演奏が続きますが、思った以上に長くなってしまったので、あとは動画をご覧くださいませ。



kajimoto twitterより。いいお写真

シフが塩川さんのこと「塩ちゃん」って呼んでる!可愛い優しい(何度もリピートしてしまう)
こんな状況のなか日本に来てくれて、音楽を届けてくれて、本当にありがとうシフ・・・。

19日も伺います。


András Schiff - Schubert - Hungarian Melody in B minor, D 817




おお、ブロムさん&シフのバルトークの協奏曲やハイティンクのお宝演奏が観られる&聴ける


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【クラシック】新型コロナウイルス対策のしおり by KAJIMOTO

2020-03-09 20:06:48 | クラシック音楽



出演がラ・フォル・ジュルネのくまさんで、撮影場所が東京オペラシティだ

シフのリサイタルまであと3日。
シフはもう日本には来てるのかな。まだ台湾?あちらでも色々あったようで心配したけど(2月末に台北の会場で演奏した方が感染していたことが6日に発覚し、多数の関係者が検査&自宅隔離されているそうで…。5日のシフのリサイタルは発覚&会場消毒前に行われていたそうで…。どの国も音楽家も綱渡りで公演をしているんですね…)、どうにか来日はできそう、かな。

どうかどうかまずは12日が無事に開催されますように。
そして17日の大阪公演と19日のBプロも無事に開催されますように。
そしてシフが無事にカナダとアメリカに入国できて、無事北米ツアーを終えて、無事イギリス?イタリア?に帰れますように。
そして東京と大阪の会場で一人も感染者が出ることがありませんように(そうなるとシフも梶本も責められることになってしまう…。アメリカではそういう責め方はおそらくされないと思うけど、日本は違うもの…)。
症状のある人は絶対に来場しない、咳エチケット、こまめな手洗い&アルコール消毒、感動して涙が出ても顔は触らない、井戸端会議厳禁を厳守して、みんなでこの困難を乗り切るのだ シフも「音楽が人の生活に不要不急なものですって?何を言っているんでしょうね」ときっと言うと思うの。私も自分の体調管理がんばる。
考えてみたらシフは昨秋の香港でも非常事態宣言のなかで演奏会を行ったのだった。あのときもシフとオケ自身の安全に加えて、もし客に死傷者が出たらシフが責められるのではと心配したなぁ…。シフはそういう人なのだよね。そしてそういうシフに私も付き合いたいとやっぱり思ってしまうのである。賛否両論あることは承知のうえで。
一方で、今回のウイルスで亡くなった方のご遺族のインタビューなどを読むと心が張り裂けそうに辛い。私がいま演奏会に行くことはそういう人を増やすことになるのかもしれないとも思う。今の状況で何が正しいか、誰にもわからないよね・・・。

※KAJIMOTO:【新型コロナウイルス感染対策とお願い】サー・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタルにご来場の皆様へ

※3月11日追記
再開した宝塚もあっという間に中止になりましたね…。梶本の事務所への脅迫の電話などもあるんだろうなと想像する。社長、朝日新聞で政府に意見表明してたし。世間の風当たりは相当でしょう。ちなみに私は別に梶本支持者ではありませんよ。日本の来日公演のチケット代の異常な高さの諸悪の根源は梶本だと思っている(シフのリサイタルも前回より2千円も値上がりしてる)。そして梶本のコロナ対策にも不安要素は拭いきれない。既にウイルスが東京で蔓延していた2月下旬にポゴさんにサイン会をさせてたし。
でも今回ばかりはこの困難を無事に乗り越えられるよう、心から祈っています。シフのためにも、劇場公演の未来のためにも。だから梶本さんも当日の会場管理、気を引き締めてお願いしますよ。

ところで・・・納豆がスーパーで品切れになってるんだけど、どーゆーこと
わたくしロンドンにいたときでさえ冷蔵庫から納豆を切らしたことのないナトラーなのに

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2020-03-07 15:04:32 | 日々いろいろ




いつかまた、どこかで会えるだろうか。
空の彼方のどこかと、私がいまいる場所は、きっと繋がっている。

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ペライア、ハイティンク、シフ

2020-03-05 01:11:49 | クラシック音楽

Bach: French Suite No 4 - Murray Perahia



MURRAY PERAHIA IS OUT FOR LONGER

The pianist has cancelled the Barbican in late April, ‘due to ill health’.
Perhaia, who is 72, has not been heard in public for around two years.
(Slipped Disc, By Norman Lebrecht, On February 28, 2020)

上記は、数日前のニュースです・・・。
ペライアでしか聴けない音楽、ペライアの演奏でしか見えないものがあるのです。
ペライアの演奏を生で聴いていると、ピアノの周りの空気?光?の色がその音色とともに繊細に自然に変化していくのがはっきりと目に見える。どのピアニストも多かれ少なかれそうだけれど、私の目と耳にはそれが突出して感じられるのがペライアなのです。人生で避けられない闇と、それを内包する光を感じさせてくれるペライアのピアノ。彼の音楽のように生きられたらと思う。ハイティンクがペライアのピアノを聴いていると「人生は悪くないと感じる」と仰っていたのがよくわかる。

今日(イギリスではまだ3月4日!)はハイティンクの91歳の誕生日。おめでとうございます
ご引退後はお住まいのロンドンで大好きなベートーヴェンの室内楽を聴きに出かけたりされているとのこと(ツイ情報感謝!)、お元気そうでよかった 
ペライアは昨年のハイティンクの最後の演奏会のソリストも降板となり、どれほど無念だったろうと推察します。私が大好きだったお二人の共演はもう叶わないけれど、ペライアにはどうかゆっくり静養されて、お元気になって再びその音楽を聴くことができる日をいつまでもいつまでもお待ちしております!

そして今月上旬は日本国内の殆ど全ての公演がキャンセルになっているなか(2月に既に来日していたパリオペラ座バレエ団は引き続き公演中ですが)、リサイタルをしようとしてくれているシフ。
ハードスケジュールの極みなシフだから振替も延期も難しいと思うし、昨秋の来日を別にすれば日本でのリサイタルは3年ぶりなので正直とてもとても嬉しい。でもシフは日本ツアーに続いてそのままカナダ北米ツアーが入っているんですよね。日本出国後2週間以内にバンクーバー、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークの4都市での演奏会が予定されている。日本に入国したら米国に入国できなくなって米国ツアーが全キャンセルになってしまう可能性は決して低くはないのに、それでも日本に来ようとしてくれているのだなあ…。日本側からは既に札幌と埼玉のリサイタルがキャンセルになっているにもかかわらず(現段階で生き残っているのは大阪いずみホール公演と東京オペラシティ公演のみ)…。
私は梶本の肩を持つ気は皆無だけれど、twitterで一部の方達が言っているような「梶本が強行しようとしている。彼らはシフを殺す気か」というのは違うと思うな。梶本を責める呟きばかりでシフを責める呟きは皆無なのが不思議。だって”あのシフ”ですよ?自分の意に添わない演奏会で強制されて演奏するようなピアニストでは絶対にないでしょう。若い頃ならともかく。現に梶本の殆どのアーティストの公演は中止になっているのだから、シフだって中止を選ぶことはできたはず。頭のいい人だし、客のリスクも本人のリスクもその他のリスクも全て承知した上で、それでもなおこの演奏会を行う選択をご自身がされているのだと思います。ただ我らが何よりも望むのは、シフのご健康。他のピアニストと同様に、シフも他に代わりのいない世界の宝。そのためにも、そしてシフの決断が責められるようなことにならないためにも、もし本当に決行になったなら(まだまだ当日まではわからないと思ってる)、梶本の指示に従いマスク&アルコール消毒&休憩中の歓談厳禁の万全な状態で伺わせていただきます!
しかし仮に日本公演が無事に済んで、そして無事にシフがアメリカに入国できたとしても、そこももはや安全ではないのだよね・・・。どちらにしてもしばらく心配は続くのであった・・・。

そうそう、シフといえば。先日NHKで放送されたハイティンクのドキュメンタリーの中で、ハイティンクがシフのことを「友人のシフ」と仰っていましたね 批評に落ち込むシフ、可愛いなあ。シフって一見批評なんか気にしない人に見えるのに、実は気にしてしまう人だよね。以前もインタビューで「私は何を書かれても平気でいられるようなマゾヒストではない」と言っていたし。ハイティンクも彼のような人でもそうなのかと慰められると仰っていたけど、わかるなあ(ハイティンクから見ても意外だったんですね)。『ピアニストが語る!』のインタビューではシフがペライアについて「彼の演奏に感動し、もう一度このコンクール(リーズ国際コンクール)に挑戦してみようと思ったのです」と仰っていたし、私の好きな人達が仲が良いのは嬉しい

※3月6日追記
ニューヨーク市が日本からの入国者に14日間の自宅隔離措置を行うとのこと。14日間というと4月2日のカーネギーホール公演にかかってしまう。シフ、大丈夫かなあ…。それともNYの前にバンクーバー、サンフランシスコ、シカゴに滞在しているから例え日本を出てから14日以内でも外出OKとかあるのだろうか(んなアホな。いやあり得るな)。

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