風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

上橋菜穂子 『蒼路の旅人』

2011-02-22 22:33:52 | 


 
 自分は、ろくに武力ももたぬ北の小国の皇太子だ。たしかに、皇子同士としての力は、ラウル王子に遠く及ばない。
 (だけど……)
 人の力は、そんなものだけでは決まらないはずだ。
 国ももたず、山に臥せ、野を旅していても、だれに屈することもなく、おのれの力ひとつを信じて、顔をあげていられる人だっているのだ。
 皇太子の衣の下にある、素裸の自分よ、強くあれ――と、チャグムは思った。
 強大な者の前に引き出され、民を救うために膝を折ることになったとしても、心の芯だけは、決して折るまい。

(上橋菜穂子 『蒼路の旅人』)

守り人シリーズ6作目。
これもとっても面白かったです!
昔から子供が主人公の話はあまり得意でない私が、チャグムが主人公の『虚空の旅人』や今作をこれほど楽しめるのは、物語にぐいぐい惹きこむ上橋さんの文章はもちろんのこと、キャラクターがとっても魅力的だから。
ぐんぐんカッコよく育っているチャグムは言うまでもなく、彼を支えるシュガや今作のヒュウゴのような大人の素敵キャラが必ず出てきてくれるので、私のような読者でも大満足です(悪役キャラの方は少々平べったい印象がありますが…)。
この久しぶりに出会えた素晴らしく私好みのシリーズも、残すところあと1作と外伝のみかぁ。。
さびしいなぁ。

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上橋菜穂子 『神の守り人』

2011-02-22 00:47:27 | 



 「だけど、まあ、あんたが、この娘を見殺しにできなかった気持ちは、わからないでもない。あんたも、孤児だったわけだしさ。似たような境遇の子を、放っておけなかったわけだろ?甘いよねぇ、あんた。一見強面だけど、そういうところはさ……」
 「たしかにね。――でも、他人をあっさり見捨てるやつは、自分も他人からあっさり見捨てられるからね」

(上橋菜穂子 『神の守り人』)

守り人シリーズ5作目。
バルサとタンダの関係が、ものすごーく好きです。
なので今回のお話は、ものすごーくニヤニヤしてしまいました*^^*

ところでこの文庫版の解説は児玉清さんが書かれているのですが、児玉さんって前に木内昇さんの作品にも書評を書かれていたりして、なんとなく自分と似た匂いを感じる今日この頃。
まあ週刊ブックレビューを担当されているので、書評など山ほど書いていらっしゃるのでしょうが。

今日現在で新潮文庫はこの次の『蒼路の旅人』までしか出ていないので、残りの『天と地の守り人』と『流れ行く者』は図書館で借りようと先程ネットから予約したのですが(買うなら文庫本なので)、この本って当たり前と言っては当たり前だけれど”児童書コーナー”にあるのですね。。。-_- 
予約するとき、一瞬う…となってしまったわ。。。
しかし試しに『指輪物語』を検索してみたところそちらも児童書コーナーだったので、ちょっぴりほっとした三十路過ぎな私です。。。
もっともツ▲ヤで『ムーミン』のアニメを大人借りしたときのことを思えば、これくらいは楽勝です。まああれは母親が子供のために借りていると思われたでしょうが(実際はフィンランド旅行の予習に借りた)。

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上橋菜穂子 『虚空の旅人』

2011-02-21 23:41:54 | 



 わからない。……なにも、わからなかった。
 茫漠とした果てのない星空に、小さな手をのばして、星にさわろうとしているようなものだ。指の先には、答えを返してくれない、はるかな世界が、ただしずかにひろがっていた。
 大きななにかをチャグムは感じた。それは運命と呼ばれるものに似ているが、すこし異なるものだった。
 ナユグとサグは、ともに触れ合いながら、めぐっている。その壮大なめぐりの中の、小さな結び目として、自分や、あのエーシャナという娘がいるような気がした。
 だが、かつてチャグムがそうだったように、人の世は、そんな壮大なめぐりを感じることもなく、人を動かし、のみこんでいく。陰謀をめぐらし、戦を起こし……小さな人の生命など、見捨ててもしかたのないこと、と思わせてしまう。
 (人は、なぜ……こんなふうにしか生きられないのだろう)

(上橋菜穂子 『虚空の旅人』)

守り人シリーズ4作目。
今日の段階で、5作目の『神の守り人』まで読み終わりました。
で、思ったことは。
『闇の守り人』のところでもちょこっと書きましたが、この作者さん、ストーリー展開があまりに似すぎている。。。
1.有能な悪役が、自分の力を過信して最後に足元をすくわれる。
2.クライマックスが何らかの儀式の日で、そこで何が起こるのかぎりぎりまで読者に明かされず、またそこで主要人物の命が危うくなり、読者がハラハラさせられる。
3.権力者が伝えてきた伝説と民が語り伝えてきた伝説の違いが、物語のキーになる。
この3つが、『狐笛のかなた』から幾度も繰り返されているので、少々食傷気味になってきてしまった。。

と、最初に小うるさいことを書いてしまいましたが――。

相変わらず、ものすごーーーっく面白いことに変わりはないです。
上に挙げたような不満をぶつぶつ思いながら読み進めているにもかかわらず、次第にそれが全く気にならなくなり、最後には感動して泣きそうになりながら「良い本を読んだ~!」というあの読書好きにはたまらない感覚を味わわせてくれるのだから、やっぱり上橋さんはスゴイ作家さんなのだと思います。
この感覚を味わわせてくれる本って、意外と出会えないのですよ。

特にこの本。バルサもタンダも出てこないのに、こんなに面白いとは、予想外だった。
そして私、はじめは図書館で借りて読んでいたのですが、結局ブックオフで今出ている文庫本を大人買いしてしまいました。。だって本当に素敵なシリーズなのですもの。

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上橋菜穂子 『夢の守り人』

2011-02-12 00:42:55 | 

「あんたは、自分で思っているより、はるかに強い。それが、わたしにはよくわかる。死ぬ気なら……ほんとうにすべてを捨てる気なら、別の人生を生きられるだろうよ。この夢の中のようにほんわりと幸せじゃあないが、思いがけぬよろこびもある人生をね。この世には、あんたの知らないことが、まだまだたくさんあるんだから!」

……

「おれにはね、人がみんな、〈好きな自分〉の姿を心に大事にもっているような気がする。なかなかそのとおりにはなれないし、他人にはてれくさくていえないような姿だけどね。
 少なくとも、おれはその姿をもって生きてきた。そして、どうしたらいいかわからない分かれ道にやってきたら、どっちに歩んでいくほうが〈好きな自分〉かを考えるんだ。…最後の決断は、おまえのものだよ」

(上橋菜穂子 『夢の守り人』)

守り人シリーズ3作目。
1作目から連続してこんなに面白いと、残りの4作は大丈夫なのかしらと逆に心配になってしまうほどです。。
しかしタンダは実にいい男ですね。
バルサがうらやましい。

※写真:北鎌倉東慶寺の紅梅。梅は桜にないあの噎せ返るような甘い香りがすきです。どこか色っぽくて^^

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上橋菜穂子 『闇の守り人』

2011-02-11 19:59:20 | 

 「バルサ…、おれは夢をみながら、考えてた。おれが、たどってきた道の、どこかで、別の道を選んでいたら、もっとよい人生が、あったのだろうか、と。……答えはな、……もう一度、少年の日にもどって、人生をやりなおしていい、といわれても、きっと、おれは、おなじ道をたどるだろうってことだった。
  おれは、これしか選べないっていう道を、選んできたのさ。――だから、後悔はない。……たったひとつ、悔いがあるとすれば、それは、おまえを自由にしてやれなかったことだ。おまえの中にある、重い、おれの影を消せなかったことだ」

(上橋菜穂子 『闇の守り人』)

守り人シリーズ2作目。
何度も言っちゃいますが、この作家さんの本の素晴らしいところは、闇が本当にきちんと描かれた上で希望が描かれているところだと思います。
上の言葉はバルサの育ての親であるジグロが死の間際に言う言葉ですが、たとえばこの部分だけを読むと綺麗事に思われなくもないぎりぎりの感じが、物語のラストで「バルサさえいなければ」という思いを何度も押し殺して生きてきたジグロの憎しみを描くことで、それをずっと傍で感じていたバルサの怒りを描くことで、そして、それでもみぞれの降る夜に泥の中で幼いバルサを抱きしめて眠ったジグロのぬくもりを描くことで、この言葉に一気に深みが増して、読んでいる私の胸を突く。
ストーリー展開が『狐笛のかなた』と重なる部分が多く途中までは少々微妙な気分だったのですが、最後は上橋さんの強い筆力にそんな小さな不満はふっとんでしまいました。
こういう本に出会えるたびに、やっぱり生きられるうちは生きていないと損だな、と思う。

 哀しみをかかえながら――苦しみに、うめきながら――ジグロは、それでも、ずっとバルサをかかえ、抱きしめて、生きてきたのだ……。

※写真:今年の元旦、北鎌倉建長寺の半僧坊にて。

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上橋菜穂子 『精霊の守り人』

2011-02-05 19:51:39 | 



「十六のときジグロに、別れようっていったんだ。わたしはもう、自分の身は自分で守れる。追手に負けて死んだら死んだで、それがわたしの人生だって。もうジグロには充分たすけてもらった。もういいから、他人にもどって、自分の一生を生きてくれって、ね」
「ジグロは、なんて?」
「いいかげんに、人生を勘定するのは、やめようぜ、っていわれたよ。不幸がいくら、幸福がいくらあった。あのとき、どえらい借金をおれにしちまった。……そんなふうに考えるのはやめようぜ。金勘定するように、過ぎてきた日々を勘定したらむなしいだけだ。おれは、おまえとこうして暮らしてるのが、きらいじゃない。それだけなんだ、ってね」

……

なぜ、と問うてもわからないなにかが、突然、自分をとりまく世界を変えてしまう。それでも、その変わってしまった世界の中で、もがきながら、必死に生きていくしかないのだ。だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。

(上橋菜穂子 『精霊の守り人』)

私にとって2冊目の上橋さんの本。そして守り人シリーズの1作目です。
とても面白く、一日で読んでしまいました。
この人のお話、ほんと好きだなあ。
前回の『狐笛のかなた』のときも思ったけれど、自分にとって”ほんとうに大切なもの”を自らの命にかえても守ろうとする人々の物語は、読んでいて清々しく優しい気持ちにさせてくれる。
それが嘘っぽい綺麗事にならないのは、きちんと闇の部分が描かれているから。
異世界ファンタジーだけれど、夢物語で終わらない。
たっぷり素敵な夢を見させてくれて、読み終わったときには現実世界を生きていく力までくれる。
まさに最強最高のエンターテインメントですよね。
「子どもが読んでも、大人が読んでも面白い物語」を目指しているという上橋さん。
ひきつづき守り人シリーズ、楽しませていただきます!

※写真:北鎌倉の建長寺にある、ビャクシンの樹。樹齢750年と言われています。

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