風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

二月大歌舞伎 夜の部 @歌舞伎座(2月25日)

2016-02-28 21:28:48 | 歌舞伎



前楽に行ってまいりました


【ひらかな盛衰記 ~源太勘當~】
当初は籠釣瓶だけを幕見予定だったのですが、ふと配役表を見ると梅玉さん&秀太郎さんのお名前が。観―たーいーーー。
秀太郎さん曰く、
「ひらがな盛衰記・源太勘当」の延寿は2度目ですが、初演は随分前で、勘三郎さんの十八代目襲名興行のおりでした。悲劇ではありますが、それでいて楽しい義太夫狂言で、歌舞伎の面白さがいっぱいで、私は子供の頃からこの芝居が好きでした。源太は勿論、平次・千鳥・軍内・珍斉、そして延寿、幕開きの腰元まで総て「良いお役」です。(ブログ)
とのこと。
観てよかったです♪正直、籠釣瓶よりこちらの方がお芝居の満足感はあった・・かも・・・(^_^;) 先月今月とクラシック音楽ばかり聴いていたので、知らず義太夫狂言に飢えていたせいもあるかもですが。竹本は葵太夫さんだったのですね。
梅玉さん(源太)&秀太郎さん(延寿)の母息子がもうっ!大好きな役者さんお二人の、(私的には)レアな組み合わせの母息子!
特に秀太郎さんの延寿が、息子を想う母の情が滲み出ていながら凛としていて、こういうお役の秀太郎さんはほんと素敵。まだ2回目のお役なんですねー。
又五郎さん(平次)は、錦之助さんの急遽の代役とは思えない安定感。こういうお役がピッタリですね~。このお話、敵役はいても深刻になるわけではない、そんな大らかさが今の私にはひどく心地よく。歌舞伎って素晴らしい!
というわけで、上の写真は梅玉さんの源太。紅白の梅の優美な冠?がまた、リアルじゃなくていいわ~~~。美しい。。。リアルによらずリアルを描く。歌舞伎って素晴らしい!
ある意味ハッピーエンドととれなくもない、でも切ない幕切れは、梅玉さん&秀太郎さん&可愛らしい孝太郎さん(腰元千鳥)。好きな役者さんの勢揃い。
幸せでございました。。。。。。

ただ、、、秀太郎さん途中でちょっとコックリしてた


【籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)】
ワタクシ、観始めてから思い出しました。
吉右衛門さん(次郎左衛門)て、、、このテの呆けた?演技のときには目が理性的に見えてしまうことが多いのであった・・・(私には)。今回もそうで。大好きな役者さんなのですけども・・・、でもでも、見染の場のジロザエモンの目、人生180度変わってしまうほど、魂吸い取られるほど八ッ橋に見惚れてるようには見えない~~~~(>_<) ただ、全く瞬きをされないのは、あいかわらずスゴいと思いました(吉右衛門さんの目ってどうなってるの~)。
そしておそらくこの場の一番の見どころである菊之助(八ッ橋)の笑み。あまりの時間のたっぷりさ(玉さまもこんなに時間かけてたけ?)と会場の静まり具合に窒息して吐きそうになった・・・。ワタクシ・・・、菊ちゃんお得意のこの緊張感で今まで感動できたのって、野崎村だけなのであるよ・・・・・。笑みは、想像していたよりも“魔”っぽい笑みでした(そしてそれはあまりワタクシの好みデハナカッタリ・・・)。
一方で大層好みだった又五郎さんの治六、そして艶やかな花魁二人(梅枝新悟)を楽しみながら見染の場は終了。
※3/5追記:
玉三郎さん映像を見直しました。玉さんも時間はかけているのだけれど、でもそれは物語の中では実は一瞬の出来事であり、次郎左衛門にはこんな風にスローモーションに見えたのだなぁというような、そんな笑みでした。菊ちゃんの方は「さぁ微笑みますよ。今微笑んでますよ。微笑みましたよ」というように演技の時間=物語の中の時間に見えてしまったので、意図的な魔っぽさがより強く感じられてしまった、ように思います。

立花屋見世先。歌六さん&魁春さんの立花屋夫婦がとってもステキ!遊廓の世界の表も裏も知る人間の強かさと情のバランスが(ワタクシ的には)理想的!

続いてのお楽しみは、菊五郎さんの栄之丞だったのですが(34年ぶりとのこと)、なんというか、ヒモというより親分に見えてしまった・・かも・・・(^_^;)。それと、体に塗る白粉?がお腹まで塗られておらず、肌蹴た胸元から地の肌色がだいぶ見えていたのが気になってしまった。。

そんなこんなで、割とあっという間に縁切りの場へ突入。

ここでは、八ッ橋にほけら~と見惚れてるだけではなくなるジロザエモン。ああ、ようやく「目は冷静じゃね・・?」じゃない吉右衛門さんがここに!(失礼御免)
菊ちゃんは、愛想尽かしの場面より、その後の部屋を去って戸を閉じた後に本心を見せるところにぐっときました。「遊廓の女の哀れさ」はあまり感じなかったけれど、ああ、あなたはサノジロのことを嫌ってたわけじゃなかったのだね・・・と。それまでが冷たい雰囲気だっただけに、本心を出せなかった彼女が哀れに感じられました。ここ、戸を挟んで内側にいる梅枝も雰囲気があってとてもよかった(黒の衣装似合う!)。梅枝の八ッ橋とかも観てみたいけど、、、きっと見られないのよね・・・。

で、色々書いちゃいましたが吉右衛門さんの次郎左衛門、ワタクシはとても好きなのです。ただの田舎者じゃなく、ちゃんと人のいいお金持ちに見えますし。純粋な心で恋をして、愛想尽かしをされて、そして四か月後に再び八ッ橋を訪れるまでの過程がとても自然に私には感じられたのです。ああ、この人八ッ橋殺しそうだなぁ~、と不自然でなく感じられた。
最後の惨殺も、刀の妖力のせいだけじゃなく、八ッ橋愛し憎しだけじゃなく、恥をかかせられたからだけでもなく、次郎左衛門が特異な性格だったわけでもなく、おそらく人間が誰しも持ちうるであろう心の闇のようなものがこの次郎左衛門からは感じられて、このストーリーがとても自然に納得できてしまう、そんな風に私には感じられたのです。(見染の場の演技はともかく)人間があれほど衝撃を受ける出会いをしてしまったら、良くも悪くも、その関係がただ平穏に終わるわけはないよねぇ、みたいな。そんな感じ。

今回の籠釣瓶、とっても良かった!と感じられたところとイマヒトツ?に感じられたところがうまく溶け合っていなくて、なんとなくバラバラな印象が残ってしまったのは残念ではあったけれど(素人の感想デス・・・)、脇の役者さん達の素晴らしさと、吉右衛門さんの次郎左衛門が私はかなり好きだワと思えたので、観られてよかったです。舞台も衣装もとても華やかで、このお話は生で観るとやっぱり愉しい
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今年は漱石の没後100年!

2016-02-23 02:23:27 | 

というわけで、『それから』バージョンに壁紙を戻しましたよ~

そして神奈川近代文学館では、3月26日~5月22日まで、特別展「100年目に出会う 夏目漱石」が開催されますよ。

ご興味のある方はぜひ。
私も絶対に行きます

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嶋大夫さん、ご引退

2016-02-22 23:17:55 | その他観劇、コンサートetc


※時事通信:文楽の嶋大夫さん、最後の舞台


嶋大夫さん、、、そっか、、、今日が最後の舞台だったのですね・・・。
初めて人形浄瑠璃の面白さ、奥深さを教えていただいた『本朝廿四孝~十種香の段』。
文楽というものがまさかあれほどの魅力をもったものだとは、何も知らなかった私には本当に衝撃で、、、凄味さえ感じたものでした。
そして『桂川連理柵~帯屋の段』のあの語り。

決して多くの公演を聞けたわけではないのに、思っていた以上に辛いものだなぁ。。
その世界の魅力を教えてくださった方というのは、私にとってはすごく特別で。嶋大夫さんは、能楽堂で舞台とは別の姿でのお話を伺ったこともあったので、より身近に感じられたものでした。暗闇の中での素浄瑠璃なのに「命の次に大切なもの」と床本を前に置かれて。なんといえばいいのか、一つの道をひたすら歩んでこられた方の厳しさと清らかさとでもいうのでしょうか。文楽とはこういうものなのか、と改めて感じたものだった。そして浄瑠璃についてのお話をされたときのあの少年のようなお顔(*^_^*)
住大夫さんもご引退されたばかりなのに。。。

舞台って、特に日本国内のものはいつでも会える、いつでも聞けると不思議と思ってしまうのだけれど、決してそうではないのですよね。歌舞伎で十分それはわかっているはずなのになぁ。。。
やっぱりもっともっと文楽も行こう。簑助さんや咲大夫さんがお元気なうちに。いや、その先も観に行くつもりではありますけども。勘十郎さんの世代のお人形さんも大好きですし。歌舞伎に比べて値段が高いのが辛いけれども。。。

嶋大夫さん、本当に長い間おつかれさまでした。
そして、ありがとうございました!!!

嶋大夫さんが最後の舞台  「一生懸命つとめ、満足」


「長い間ありがとうございました。御礼はもう舞台からお返しするしかないので、一生懸命に務めたことだけは、自分でも満足しております。全部を出して、自分を全部出して舞台を務めさせていただくんだという気持ちは毎日変わりませんでした」

嶋大夫さぁん。。。。。
そして嶋大夫さんの胸に飛び込む簑助さんの人形遣い・・・・、あいかわらず物凄いですね・・・。簑助さんの表情がもうなんていうか・・・人形が全ての感情を物語ってるなぁ・・・

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シュターツカペレ・ベルリン ブルックナーツィクルス第8番 @ミューザ川崎(2月18日)

2016-02-19 21:11:19 | クラシック音楽

バレンボイム×シュターツカペレ・ベルリンによるブルックナーツィクルスの第八番(翌日同曲をサントリーでも演奏)。
当初は四番しか買っていなかったのですが、よく考えるとツィクルスというものは一曲だけ聴いてもあまり意味がないのでは・・・と思い、中期と後期から一曲ずつの選択で8番にしてみました(全曲通しはお財布的に絶対にムリ)。
会場は昨年のロンドン響に続き2回目のミューザ川崎で、席位置も左右の違いはあるものの、ほぼ一緒。

【ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 ※ハース版】
バレンボイムさんは先週末に比べるとだいぶお疲れ気味・・・?指揮台のバーを掴んでいる時間も長く、安定感と集中力抜群だった四番の指揮に比べ、今夜の特に前半は少し集中力の途切れらしきものが見られ、オケとの呼吸もいまひとつ上手くいっていなかった・・・ような・・・。
今夜は第一楽章から厳しい表情。もっともそれは、四番と八番という作品の性格の違いゆえだと思います。この八番で使用されたのはハース版。今回のツィクルスでノヴァーク版以外を使っているのは、三番(エーザー版)と八番だけです。特にこの八番については、「ブルックナーは自分の音楽がとっつきにくいと思われていることに気付いていた。それで皆に良かれと思い、数小節削るなど、彼なりにいろいろ気にして工夫を重ねたわけです。だから、本来ならば新しい版を使うべきなのだと思います。でも、第8番に関しては、私はハース版をどうしても使いたいのです。理由は、聴いて感じてください」(音楽の友1月号)と、大変強い思い入れがあられるご様子。でもワタクシ、聴いたことのある唯一のCD演奏(ハイティンク×ウィーンフィル)がハース版なのよね・・・。だからノヴァーク版との違いがわからないのよね・・・。演奏し甲斐のない客でスミマセン・・・(^_^;)

今夜はオケも、前半は少々散漫気味であったような印象でした。ミューザはサントリーホールと比べて音響がとてもクリアで、演奏された音がそのままストレートに客席に届く感じなので(同じオケで聴くと違いがよくわかりますね)、そういう理由もあったかも。
しかし後半(3楽章~)は、指揮者からも奏者からも「ここは絶対に聴かせてみせる」という気迫のようなものが伝わってきて、最後にはしっかりと満足感をもらえました。四番でも感じましたが、こういうThe 独逸な音のブルックナーというのもいいものですねえ。特に八番にはよく合ってるように感じられました。
ただ、第一楽章から最終楽章までを通して「一つの交響曲」という世界に浸ることができたかと言われると、・・・ではありました・・・(ド素人の感想ですので悪しからず・・・)。
今夜は演奏後のバレンボイムや奏者達の笑顔も先日より少し控えめだったように感じられました。スキップしそうにご機嫌に見えた四番カテコのバレンさんと比べると、ですが。まぁ皆さん、大曲を演奏し終えて疲れていただけかもしれません。あ、でもホルン後列左端の男性の方、カテコでワーグナーチューバと普通のホルンをニコっと笑ってヒラヒラ掲げて見せてくれました(*^_^*)

今夜の八番も、四番に続きとても自然な演奏に聴こえ、そしてそれは私の好みではあったのですけれど、バレンボイムさんというのは「良く言えば指揮者の個性を前面に出し、悪く言えばあざとい演奏」をされることで有名な方なのではなかったろうか・・・?それとも実は超あざとい演奏をしてるのだけど私が気付いていないのであろうか・・・?今夜もまったくイヤな感じのない、音楽そのものの力を感じさせてくれるような演奏でございました。

カテコでは、女性客からもらった花束から一輪を抜こうと必死に格闘(すんごい真剣な表情をされていた笑)。そして「もういいっ。全部やるっ」とばかりにグイっと花束ごと女性奏者へ。その様子がひどく可笑しかったので、客席からはドッと笑い♪

ところでいつも迷うことなのですが、自分が「すごく感動した!」というわけではない演奏会や舞台では、拍手というのはどの程度まですべきものなのでしょうね。生前に勘三郎さんが花形の仮名手本だったか菅原伝授だったかを観てその出来の悪さに憤り「拍手をするなと言いたかった」と仰っていたというエピソードをよく思い出すのです。そして演者にしてみても、「今日はイマイチな出来だったな」と感じているときと「今日は会心の出来だった!」というときが同じような大きな拍手&ブラボーの嵐というのは、決して嬉しいことではないのではないかなと思うのです。とはいえ「お疲れさま」や「(来日の場合は)日本まで来てくれてありがとう」な拍手はしてあげたいし。というわけで、今夜のワタクシは少し静かめ拍手?にしてみました。
あ、これはもちろん個人の感想なので、今夜の演奏で「すごく感動した!」と感じられた方はもちろん大拍手&ブラボー&スタオベでよろしいのだと思います。私もロンドン響のブルックナーのときは、もし他の客が誰一人立たなかったとしても私は立つ!と思いましたもの(ブラボーは恥ずかしくて言えなかったですけど。てかクラシックでは女性もブラボー言っていいのだろうか?)。

お手洗いに行ってからエントランスに出ると、あの巨体のチューバの方をはじめとする奏者達のお姿が。バレエもそうですけど、皆さん出てくるの本当に早いですね^^;

そして聴いているときは好みではなく感じられたロンドン響の音でしたが、今思うとあの夜ハイティンクが作り出したかったであろう世界には合っていたのかもしれないなあ、と。例えばハイティンク×シュターツカペレ・ベルリンという組み合わせだったとしたら、あのような7番を聴くことはできなかったろうと思う。そして同じように今回の4番と8番(とモーツァルト)からもらえた種類の感動は、バレンボイム×ロンドン響ではもらえなかったでしょう。ムーティ×シカゴ響がくれたものも同じ。
そしてそれらはCDやDVDからは決して得られない、その時その場にいる人達だけが自分だけの宝物として持ち帰れる、一生ものの一期一会なものなわけですから。みんな何度も演奏会に通っちゃうわけだよねぇ、としみじみと感じた夜でございました。
そして昨年秋から、ハイティンクさん、ムーティさん、バレンボイムさんという方達から、感動とともにすごく大きな勉強をさせていただいているクラシック超初心者の自分。よく考えてみると、なんという贅沢でしょう・・・(お金も払ってるけど)。こんな経験をさせてくださる彼らに心の底から感謝です(o˘◡˘o)

最後に振り返って一言。先日の「戴冠式」を聴けたのも今思うと本当によかったな、と。あの重厚で無骨ともいえるオケの音であの華やかさ。そこにあのピアノ。クセになりそうな演奏でございました。なおバレンボイムは基本的にモーツァルト自身が書いたカデンツァがない場合は自分のカデンツァを使うそうなのですが、26番に関しては「ランドフスカの宝石のような素晴らしいカデンツァがありますので(それを使います)」(音楽の友)とのこと。


モーツァルトP協第26番&ブルックナー第四番の感想(2月13日@サントリーホール)

※バレンボイム記者会見記事:
公式サイト
ぶらあぼ

※朝日新聞「音楽は敵を超える」


音楽の聴き方 ダニエル・バレンボイム 'How to listen to music' by Daniel Barenboim


忘れるための聴き方と、それ以上の聴き方。いいこと仰いますねぇ(^_^)
集中力云々については、バレンさんの仰ることはとてもよくわかりますしそれが出来ればベストではありますけど、一方で、最初は集中せずにボー・・・と聴いて(観て)いても気付けば呼吸を忘れるほど引き込まれていた、涙が出ていた、という経験も多々ありますけどもね。
でもまあ聴く側には作品や演奏に無心に向き合う素直さ、誠実さ、真摯さが必要だということは、心から思います。でなければ「本物の感動」(自分の心の底からの純粋な感動)には出会えない気がする。
しかしこの「無心」というのがなかなか難しいのよね。今はネットから有難い知識もいっぱい入ってきますけど、余分な雑念(世間の評判etc)もいっぱい入ってきますから。常に心の窓はいっぱいに外に開きつつ、入ってくる情報を参考にはしても惑わされずに、無心に自分の耳で聴き、自分の目で観ることが、今の時代ではすごく大切なことなのではないかなと思います。そうすれば、気負って天邪鬼になることも防げるし。もちろんこれは音楽に限らず。

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シュターツカペレ・ベルリン ブルックナーツィクルス第4番 @サントリーホール(2月13日)

2016-02-16 00:16:58 | クラシック音楽



あいかわらず大仰なクラシック演奏会のコピー・・・・・。もちろんまだ全く慣れない。一生慣れない確信ある。

しかし、大変よい演奏会であった

このコンビは、一昨年のベルリンの壁崩壊25周年記念式典の夜にブランデンブルグ門で第九を演奏していた人達だったのね。ちょうど私はNHKホールでベジャールバレエ団の第九(with メータ×イスラエルフィル)を観ていたのであったが、そういえば当時ツイッターでそういう呟きを見かけたものだった。しかしこういう国家の歴史的式典でオケを振るのがドイツ人ではなくアルゼンチン出身でイスラエル国籍のバレンボイムさんというのは、なんだか興味深いですね。


【モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 「戴冠式」K537. 】

バレンボイムさんって、、、なんか漂う空気が菊五郎さんぽい(あまり神経質じゃなさそうなところが笑)。
左手をポッケに入れて楽しげな笑顔で右手で指揮、取り出したハンカチは顔を拭った後に最後はポイとピアノの中へ。
この方のピアノはキラキラやコロコロという音ではなく、タッチも比較的重めで(弱音はとても軽やかで美しかったですが)、これまで生で聴いたことのあるピアニスト(ぺライア、光子さん、ツィメルマンの3人だけだけど)と比べると“これがバレンボイムの音である”という個性は少ないように感じられましたが、「いい演奏」にそういうものは必ずしも必要ではないのだなぁと教えてもらえた今日のモーツァルトでした。
前述のピアニスト達に比べて「う、わぁ・・・」と息をのむ瞬間は多くはなかったけれど、とにかく雰囲気や演奏が突出して大らかでマイペースなので、こちらもリラックスして聴けたのがとてもよかったです。同じ理由で、多少いじった演奏をされても、この方の場合不思議と嫌味に感じないというか。例えるならジャズを聴いてる的な?
そんな時々のノリで音を紡いでるように聴こえる感じは(実際はあらゆる計算がなされてるのでしょうけれど)、とてもモーツァルトっぽい。実際のモーツァルトがどういう人物だったかはむろん存じませんが、いわゆる一般に、特に長調の作品でイメージされる「モーツァルトっぽさ」を私は感じました。といってもワタクシはド素人なので大してモーツァルトの作品を知らないのですけど。あくまで一般のイメージ、ということで(^_^;)

次に印象的だったのは、オケとピアノの一体感。もっと言ってしまえば、ピアノがオケを完全に支配している感じ。ピアニスト=指揮者なので当然ですが、なるほど弾き振りというのはこういう演奏になるのか、と新鮮でした(生で弾き振りを聴くのは初めてだったので)。個人的に協奏曲はオケとソリストという異質の存在が緊張感を孕みながら融け合っていくような演奏がゾクゾクするほど好きなのですけど、今回のような一体感のある演奏というのもいいものですねえ。26番は長調なので、特にそういう空気に合っていたように感じました。弾き振りってもっと落ち着かないものかと想像していましたが、そういう意味ではかえって落ち着くというか、安心して聴けるのですね。あと吃驚したのが、片手ではピアノを弾きながら、上体を乗り出して鍵盤を全く見ずにもう片手で指揮しちゃうこと

演奏は、一~二楽章も悪くなかったのですが、三楽章が華やかでとても良かったです。もちろんこの楽章は曲想自体が華やかなのですけど、それだけじゃなくて、バレンボイムの弾き方やオケの演奏がとても華やかに聴こえました。基本重厚系な音のオケだったので、「わぁ、この音でこんな華やかな雰囲気になれるのか!」と妙な感動をしてしまった。あれはやっぱりバレンボイムの指揮だったからなのであろうなぁ。この曲、CDで聴いた時は三楽章があまり好きになれなかったのですが、今日の演奏のおかげでこの楽章が好きになれそうです。

以下、シカゴ響のコンサートマスターRobert Chenさんが、内田光子さんとバレンボイムのモーツァルトのピアノ協奏曲の違いについて語ったもの。とてもよくわかる気がします。

‘They couldn’t be more different,’’ said Robert Chen, CSO concertmaster, comparing the ways Uchida and Barenboim approach Mozart. “Both are obviously musicians of the highest stature, but for Barenboim, he is presenting a very grand canvas. With Mitsuko, there’s a certain privacy to her feelings toward the piece. For her, it’s not so much a public act.

“Barenboim is all about putting something out there—it’s very beautiful and very generous,” Chen added. “With Mitsuko, it’s more precious, and I don’t mean that in a bad sense. It’s like a small piece of very fine china that you examine from all angles. You see how the light reflects on certain things, the colors are very vivid.”


【ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 ※ノヴァーク版第2稿】

冒頭のホルンの第一声にズッコケましたけど、これぐらいのレベルのオケでもああいうことってあるのですねぇ。オケも客席も「やっちまったなぁ・・・」感が漂うなか(オケは想像ですけど)、バレンボイムは平然。「はいはい、大したことではありませんよ~」なマイペースな鷹揚とした表情に(内心は知らんが)、こちらも心の動揺を鎮めてもらえました。改めてこの人のこの雰囲気は美徳であるなぁ。それでもしばらくはあのホルンの兄ちゃんが吹く度にやっぱり私は身構えちゃいましたけど

今回も指揮者の役割がよくわかった演奏だったなぁ。指揮者ってオケをこんな風にコントロールするのか、と。そしてそのとおりにオケがちゃんと応えるのよね。といって決して独裁的なわけではなく、極めて自然で。二楽章あたりまではオケの意思のままに演奏させているようにさえ感じました(もちろん十分な意図は細かな部分まで含めてあるからでしょうし、そのことも伝わってきました)。それでも常に指揮者のコントロール下にしっかりあって。P席でオケを聴くのは初めてでしたが、見ていてとても楽しく、勉強になりました。
しかしやっぱり三楽章以降、特に四楽章が圧巻だった。バレンボイムが左に体を向けてゆったりと手をあげたときにオケが出した音のあの驚異的な美しさといったら・・・!!(←自分用覚書) あれはなに?指揮者って音色まで作り上げちゃうものなの?比喩じゃなく背筋がゾワっといたしましたよ。
とはいえこのオケ、大音量のときには旋律が崩壊気味になるのを踏ん張ってる風に感じられるときもありましたが(シカゴ響のあの余裕の崩れなさは異常だったのだなと改めて^^;)、各々のパートが素晴らしくバランスよく聴こえて、最後は人間的な温かみも保ちつつ圧倒的な光彩と力に満ちた、大変後味のいいロマンティックでした。もっともバレンボイムさんというのは本来こういう自然な指揮をされる方ではないようなので、しかし私はこういうタイプの指揮が大好きなので、今日の四番、聴けてよかったです。幸せな気持ちにさせていただきました。あ、自然といっても、指揮そのものは大変渾身な指揮でございましたです。

しかしブルックナーはどうして一般に人気がないのでしょうかね(ということを最近知った)。こんなに聴き終わった後、爽快で澄んだ幸福な気分になれるのに。
これは昨年のロンドン響のときに感じて、でも書くのは控えていた感想なんですけど、世の鬱屈した若者達はなんちゃらマッシュルームなんぞを買うお金でブルックナーの生演奏を聴きに来ればいいと思うの。世界って人間って美しい!っていう澄みきった気分になれるのに。森の静けさも人の温もりも宇宙の孤独も天上の光も一緒に見ることができるのに。身体が透明になってどこまでも飛翔していく陶酔感、恍惚感を体感できるのに。おかしな脱法ドラッグよりよっぽど心にも体にも効くのに。

客席のマナーは素晴らしかったです。終楽章の最後の音の響きが消えきるまでの静寂をしっかり堪能。
バレンボイムさんは、美人コンミスさんと腕組みしてご機嫌でご退場。カテコで袖にはける度に必ずP席に笑顔で片手を上げてくださって、嬉しかった^^。最後はオケ全員をP席にも挨拶させてくださって。でも間近からオケの面々に満面の笑顔を向けられると結構な迫力で(近いっ)、ちょっとドギマギしてしまった^^;。このオケ、素敵なオケですね。

ところでクラシック関係でよく見かける「一般参賀」というファン用語は、楽屋口のお見送りのことかと思っていたら、ちがうのですね。オケがはけた後に指揮者だけが再びステージに出てきてくれることを言うのね。ミューザのハイティンクさんのときにあったアレですね。この日もありました(^_^)
しかしバレンボイムさん、あんなに汗を拭いっぱなしでご体調は大丈夫なのだろうか。。。すこし心配。。。

さて、次回は8番いってまいります。

※追記:第8番の感想(2月18日@ミューザ川崎)

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中島みゆき 『一会』 @東京国際フォーラム(2月9日)

2016-02-11 17:34:40 | その他観劇、コンサートetc



一会のチケットは取れる気配が皆無だったのですっかり諦めていたのですが、当日の午後に急遽定価で譲っていただけることになり、仕事を早退して行ってきました。上司に「早退してもいいですか?」と聞いたら「いいですよ。何かありますか?」と聞かれたのを、聴こえないフリして席に戻ったのはワタクシです。上司もみゆきさんが好きらしいので(机の上にアルバムを置いて昼休みにPCで聴いていたのをワタクシは知ってゐる)、フォーラムで会ったらマズいなぁと思いましたが、会いませんでした。お便りコーナーで同じような方がいて、楽しかったです笑。
さて、一会。「いちかい」じゃなく「いちえ」だと会場に着いてから知りました(^_^;)
夜会は行ったことがありますが、コンサートはこれが初めてです。
1年ちょっとぶりの生のみゆきさん。

もう改めて、みゆきさんって奇跡のようなお人だなぁ、と。。。。。。。。。。。。。。。。。。

みゆきさんと同じ時代に生きることができて、こうして歌っているみゆきさんと同じ空間にいることができて、私は本当に本当に幸せです。

そんなワタクシではありますが、みゆきさんのアルバムは全部を聴いたことがあるわけではなく(組曲もまだ聴けていない)、今夜の曲も半分以上はよく知らない曲でした。ですがこんな素敵な曲をいっぱい書かれていたのだなぁととても楽しめましたし、みゆきさんの歌声を聴いて&歌っている姿を見ているだけで、奇跡を目の当たりにしている状態に興奮しっぱなしでございました。いえ大袈裟じゃなく本当にいつもそう感じるのですよ、ご本人を生で見ていると。そして「歌とトークは別世界なみゆきさん笑。あのトークの世界から歌の世界に入っていくときの美しさ&神々しさといったら。まさに女神さま、歌姫そのもの。
衣装もみんなすんごくお似合いで、舞台上で替える姿にも見惚れてしまった。クルクル変わる表情、颯爽とした仕草の美しさ&カッコよさ、歌唱の迫力。それらはコンサートでも夜会でも同じなのですね。
ああ、みゆきさんの1/100でいいから、ああいう女性になりたい。10cmヒールはムリだけど。。

捨てられた島の歴史を歌った「阿檀の木の下で」からそのまま続いて「命の別名」
一昨年の夜会を思わせる、今夜の中でみゆきさんのメッセージが最も強く表れていた部分だったと思います。
「命の別名」は今回のような解釈で聴いたことが一度もなかったので、新鮮でした。
以前も書きましたが、みゆきさんのこの曲がなかったら、今私はここにいなかったでしょう。
あの赤く細長い布は、兵隊さんの鉢巻でしょうか(この後の「Why & No」で赤いスカーフに変わっていたところが素敵だった)。血に染まったようにも見えるそれを持ち、やがて首からかけて歌うのは本人か、遺された者か、あるいはそういう人々を見つめるみゆきさんか。日の丸を思わせる赤いライティングとともに、印象的でした。最後は海に昇る(あるいは沈む)太陽のように見えました。あるいは、血に染まってゆく海のようにも見えました。
この先、私達一人一人が大きな政治的選択を迫られる日がそう遠くなく来ると思いますが、フォーラムに満席の客席を2階から眺めながら(収容人数五千人なんですね…!)、そして客席の隅々までいっぱいに力強く響くみゆきさんの歌声を聴きながら、少なくとも今夜ここでこの曲を聴いた人達は、将来それぞれがどんな選択をするにせよ、極端におかしな方向へ国を向かわせる選択をすることはないのではないかな、とそんな風に感じました。また、そうであってほしいと思いました。

アンコール最後の「ジョークにしないか」
伝える言葉から、伝えない言葉へ
みゆきさん、とてもいい表情をされていましたねえ。余分な力は入っていないのに、すごい迫力だった。
みゆきさんご自身すべてを「語る」ことをされない方というイメージがありますが、最後にこの曲を持ってこられたことの意味も含め、印象に残りました。
そして今夜生で聴いて、この曲に諦めだけではない、前向きな強さ、しなやかさのようなものも感じることができた気がします。伝えない言葉、か。いじらしい大人の歌、ですね。伝える言葉より伝えない言葉が大事なときがあるということを、最近感じることが多くなりました。どちらも難しいことに変わりはありませんが。。。
セットリストの予習をほぼしないで行ったので(なにせ行けることがわかったのが当日だったので)、最後に「ここでこの曲か!」と良い意味で驚きました。予習をしないのもいいものですね。

他、「旅人のうた」「MEGAMI」「ベッドルーム」「空がある限り」「友情」「夜行」などに圧倒されました。あ、「流星」もとても良かった。てか、みんな良かった!!!
「麦の唄」は、 紅白で観たときも感じましたが、夜会24時着の最高に色っぽくてカッコいいサーモンダンスのみゆきさんを思い出しました。ああいう衣装、ものすごくお似合いですよね この曲も大好きな曲です。「新しい大好きをあなたと探したい」というところが、とても好き。生で聴けて嬉しかったな。これもセットリストに入っていると知らなかったので、曲前のトークで「あれ?もしや聴けるのか?」とワクワクいたしました。

また次回も行きたいな~。次回は夜会なのかな?みゆきさんって夜会とコンサートを交互にされてるのでしたっけ?

そういえばアルカディアに出演されていた石田匠さん、コーラスで参加されていて吃驚 夜会の時と同じく、みゆきさんのステージに参加できる喜びのようなものがその表情から伝わってくる気がして、見ていて気持ちが良かったです(^_^)


【第一部:Sweet】
もう桟橋に灯りは点らない
やまねこ
ピアニシモ
六花
樹高千丈 落葉帰根
旅人のうた
あなた恋していないでしょ 
ライカM4
MEGAMI

(休憩20分)

【第二部:Bitter】 
ベッドルーム
空がある限り
友情
阿檀の木の下で
命の別名
Why&No
流星
麦の唄

【第三部:Sincerely Yours】
浅い眠り
夜行
ジョークにしないか


中島みゆき「麦の唄」Music Video [公式]

しかしこの曲がBitterカテゴリーに入っているのはなぜなんだろう?逆になぜこの曲がSweetカテゴリー?というものもちらほら笑。

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映画 『パディントン』

2016-02-06 01:24:57 | 映画



思っていたよりずっと面白かったです
何度かホロリとしちゃったよ。
映像や効果も美しかった。やっぱりロンドンは雪が似合う 私はロンドンという街は冬>春・秋>夏の順で好きなのです。英吉利人は逆なのでしょうけど。
ペルーの場面もすごく楽しかった。エンドクレジットによると、撮影はペルーではなくコスタリカで行われたのね。

昔ロンドンで最初に住んだフラットがbakerloo line沿線だったので、慣れない頃はいつもこのパディントン駅を頼りに行動していたものでした。とりあえずここに出ることができれば安心&最悪歩いて帰れる、と。
そして当然のごとくパディントン熊も持っているのですが(駅構内で売っている)、どんな内容の話なのか今日映画を観るまで知りませんでした。こんな話だったのか。ちょっとアメリカ物語に似てますね。こっちの方がストーリーが温かいですけど。

そして本日一番の吃驚。
レミゼラブル25周年のテナルディエ旦那役のマット・ルーカスって、リトルブリテンの人だったんですね
今回の映画に出演しているのですが(wikipediaによるとパディントン地区出身なのですって)、映画を観ながら「リトルブリテンの人だ~。なつかし~」と思っていたら、帰宅して調べたら名前がマット・ルーカスじゃないの。テナルディエ旦那じゃないの。
リトルブリテン、結構好きで観ていたのに、レミゼ25周年を観ても同一人物だなんて全然気づかなかったですよ。。
でも、これと↓


これが↓


同じ人だなんて思わなくない??
・・・いや、思うか。思いますね。。

この『リトルブリテン』という英国コメディ、WOWOWでも放映されていたようなのでご存じの方も多いと思いますが、かなりドギツイというか辛辣な笑いで、例えばアジア人を笑いものにするようなものも多いのです。私的には「ギリギリ・・てかアウト」なものも割とあったのですが、同じく日本人の友人は「でも彼らは自分達のことも笑ってるからいいんだよ」と。まあ確かにそのとおりで、アジア人もアメリカ人もイギリス人も、障害者も健常者も、大統領もゲイもノンケも、彼らは全部笑い飛ばしているのです。
私などは自分を笑えば他人を笑うことも許されるのか?分別のない視聴者はかえってこのネタを差別のきっかけにするのでは?結局はそれでも自分達の国が一番という高みから彼らは降りてきていないのでは?とか今でもちょっと思ったりしてるのですけど、だとしても、こういうことを敢えてやるということ自体が実はなかなかできることではないのでは、とも日本にいる今は思うのです。
その国に現に存在している暗部や差別を全て公の場に曝して、皮肉にして笑う。ここまでできるのは、もしかしたら世界中でイギリスという国だけかもしれん、と。それを全部私が笑えるかどうかはさておき。

ところで今回のパディントン、とてもいい映画だったのですけど、終わり方が「色んな国の人達が集まるロンドン♪違った人も受け入れる、住みやすい街ロンドン♪」てな感じなのです。全く悪いことは言っていないのですけど、こうもストレートに自己肯定されてしまうと、自分達の国を真っ先に皮肉っていたあのリトルブリテンが懐かしくなってしまうのですから、私も勝手なものです。
それともあの曲も彼ら一流の皮肉だったり・・・はないか、さすがに。いや、意外と・・・?じゃあpretty japaneseも皮肉か?(ありそう) 考え出したらキリがない(^_^;) ここはやっぱり素直に観ましょう、素直に。


little britain usa opening


リトルブリテン米国編のオープニング。これかなり好き笑。
Little Britainというタイトルは、もちろんGreat Britainのもじりです。

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