風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

上橋菜穂子 『狐笛のかなた』

2011-01-10 20:16:16 | 



カミさま……。この〈あわい〉の、さらに底のほうにいらっしゃるというカミさま。どうか、野火をたすけてください。野火がたすかるなら、わたしは、なんでもいたします

(上橋菜穂子 『狐笛のかなた』)

うーん、、、やっぱりいいなぁ和製ファンタジー!
一年以上も本棚の中に眠っていたこの文庫本を、この正月休みにようやく読みました(私はつん読派)。
アニメにもなった『精霊の守り人』の作者さんの本です。そちらは未読ですが。
洋物も好きだけど、この和物独特の、日本人の記憶の奥にある風景や空気の匂いに、それだけで胸がきゅぅ…っと苦しくなって涙が零れそうになります。
そしてこのお話の主人公である野火も小夜も、一般的な物差しでは決して幸せな人生を歩んでこなかったのに、次こそは自分が幸せになってやろう!と思うのではなく、人がくれた些細な優しさをとても大切にし、その相手のために、迷わず自分の全てを投げ出そうとする。
そんな彼らを見ていると、”本当の幸福”ってこういうことなのかもしれないなぁ、と泣きそうな気持ちで思うのです。
そのことを、彼らは誰に教えられることもなく、知っている。
物語の最後で「むごいことだ」とつぶやいた小春丸に対して、「そうでしょうか……」とおだやかに返す大朗が印象的です。
読みながら、宮沢賢治の本を思い出しました。

同じ日本の児童文学でも『西の魔女が死んだ』は”毒”の無さが私には少々物足りなかったのですが、こちらにはそれがあり、その点も大満足でした。

大人でも楽しめるどころか、巷に溢れている一見複雑で深いようで中身は全く薄っぺらな大人向け小説などより、はるかに心揺さぶられる優しい優しい物語。
素敵な時間をありがとうございました、上橋さん。
新年一冊目にこんなお話を読むことができて、今年は良い読書年になりそうです。

あ、そういえば新年のご挨拶がまだでしたね。
皆さま、明けましておめでとうございます。
更新ペースののんびりすぎる当サイトですが、今年もマイペースにやっていけたらいいなと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
当サイトでご紹介する私の大好きな物語や言葉が、ほんのちょっぴりでも皆さまの人生も豊かにし、この生きにくい世の中をほんのちょっとでも生きやすくすることができれば幸いです。

※写真:年末に訪れた鎌倉円覚寺の冬桜

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