風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

今年一年、ありがとうございました。

2006-12-31 22:21:06 | その他音楽


その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな

(TOKIO『宙船(そらふね)』)


今年一年、ありがとうございました。
時々面倒くさくてオールを投げ出してしまいたくもなりますが、まぁたしかにそれもなんだか癪だな、と紅白を観ながら思ったりしてます。
それでは皆さま、どうぞよいお年をお迎えくださいませ!

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

坂口安吾 『堕落論』

2006-12-29 00:31:30 | 

 生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。

……

 終戦後、我々はあらゆる自由を許されたが、人はあらゆる自由を許されたとき、自らの不可解な限定とその不自由さに気づくであろう。人間は永遠に自由では有り得ない。なぜなら人間は生きており、又死なねばならず、そして人間は考えるからだ。政治上の改革は一日にして行われるが、人間の変化はそうは行かない。遠くギリシャに発見され確立の一歩を踏みだした人性が、今日、どれほどの変化を示しているであろうか。  

……

 戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。人間は可憐であり脆弱(ぜいじゃく)であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。人間は結局処女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなるであろう。だが他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。そして人の如くに日本も亦堕ちることが必要であろう。堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。

(坂口安吾『堕落論』より)

仕事納めでした!
今年もあと3日かぁ。

坂口安吾、最近読んでるのです。
いいですねぇー。
好みなタイプの作家です。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

2006-12-28 01:26:53 | 

「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

(梨木香歩『西の魔女が死んだ』)


学校で苛められ登校拒否をしている中学生のまい。これは、父親が持ってきた転校の話を「転校しても根本的な問題は解決しないし、敵前逃亡みたいでうしろめたい」と迷う彼女に、おばあちゃんが言った言葉。そしてまいは、「新しい学校がまいにとっての『北極』であるかどうかはわからないけれど、試してみる価値はある」と、転校を決意する。

個人的にはもう少し「毒」のあるお話が好みではありますが、児童文学としてはいいですね、こういうお話。子供の頃に読むととてもいいと思う。
自分の家にいるのにホームシックになったり、昼寝をして夕方目覚めたときに世界中でたった一人取り残されたような心細さを感じたり、人は死んだらどうなるのかを考えて怖くて夜眠れなくなったり。どれも覚えのあるもので、懐かしいような微笑ましいような切ないような気持ちになりながら読みました。

周りと違うからといって、無理して自分以外の人間になろうとする必要なんかどこにもない。自分が自分であるということはとても価値あることなんだから。
子供達に何よりも必要なのは、こんな風に言い切ってくれる大人なのだと思う。でもそもそも、こういう考え方のできる大人自体、意外なほど少ないんですよね。他人と異なることを怖れる大人、他人と異なる自分に自信を持てない大人、そんな大人がどうして子供達の個性を伸ばすことができるだろう。大人が魅力的であることこそが、子供にとって何よりの教育になると思うのだけれど。

北極は、自分が楽に呼吸できる場所、自然体でいられる生き方。
素直に求めればいい。その手をちょっと伸ばすだけ。
少なくとも、試してみる価値はある。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スコット・フィッツジェラルド『リッチ・ボーイ(金持の青年)』

2006-12-08 22:52:03 | 

個人というものを出発点に考えていくと、我々は知らず知らずにひとつのタイプを創りあげてしまうことになる。一方タイプというところから考えていくと今度は何も創りだせない――まったく何ひとつ。たぶんそれは人というものが見かけより異常であるせいだろう。我々は他人や自分自身に対してかぶっている都合の良い仮面の裏では、どうして風変わりでねじくれているのだ。

(スコット・フィッツジェラルド『リッチ・ボーイ(金持の青年)』/村上春樹訳より)

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フィッツジェラルド著/村上春樹訳 『グレート・ギャツビー』

2006-12-06 01:23:58 | 

病んだものと健康なものとのあいだの相違に比べれば、人間一人ひとりの知性や人種の違いなんてそれほどたいしたものではないんだな、という思いが僕の頭にふと浮かんだ。

(スコット・フィッツジェラルド著/村上春樹訳『グレート・ギャツビー』p225より)



『グレート・ギャツビー』は卒論のテーマにしたほど大好きな作品なのですが、村上春樹による新訳が先月発売されたため、早速購入して読んでみました。
ひさしぶりに読みましたが、やっぱり好きですねぇ、この小説。
原文で読むと更にはっきりしますが、フィッツジェラルドの文章はとにかく美しい。そして哀しい。作品全体がというよりは、どう言えばいいでしょうか、言葉が硬質なキラキラとした宝石みたい。

さて、村上さんご自身も「これほど美しく英語的に完結した作品」と仰っている『The Great Gatsby』。
私がこれまで繰り返し読んでいたのは原文と野崎孝さんによる翻訳本だったのですが、この野崎さん訳が、もう本当に素晴らしいのです。古さを殆ど感じさせないうえに、日本語がとても美しい。
なので十分野崎さん訳で満足していた私ですが、一方で村上春樹が訳したグレートギャツビーもぜひ読んでみたい!という思いはずっと以前からありました。
そして今回願いが叶い、いざ読んでみた村上訳。
とても良かったです。
正直なところ、村上さんが最も力を入れたという最初と最後のシーンは、私は野崎さん訳の方が好きでした。ストーリー中で最もロマンティックな郷愁を感じさせるこれらのシーンには、村上さん訳は良くも悪くも現代的すぎるように感じたので・・。
ですがそれ以外の部分は、私はとっても好きです、村上さん訳。とにかく文章が生き生きしてる。1920年代のアメリカの狂騒が肌に伝わってくるようですし、また30歳前後である登場人物たちの若々しさがよく表れてます。特にニックとギャツビーが、若者の友人同士にちゃんと見える(笑)。これは大きな効果だと思う。
そして全体を通してとても読みやすい訳だと感じました。

『ギャツビー』の作品自体については、アメリカの夢と崩壊というようなテーマは語り始めるときりがないのでまた別の機会にまわすとして、今回は別の視点から。
まず上で引用した文章、「他にもっと引用するところがあるんじゃない?」とつっこまれそうですが、今回改めて読み返してはっとしたのですよ。良い文章ですよね、これ。
「フィッツジェラルドの本には深い内省はないが、それをはるかに凌駕する鋭い洞察がある」これは表現力の素晴らしい村上さんによる言葉ですが、全くそのとおりだと思うのです。
フィッツジェラルドって、こういうはっとさせる文章をさらっと書くんですよねぇ。

彼についてもう一つ忘れてはならないのは「失敗者(ルーザー)に注がれる眼差しの暖かさ」です。
再度村上さんの言葉を借りれば、フィッツジェラルドは「幸福の絶頂にあってさえ、いつもその深淵をふとのぞきこまないわけにはいかなかった」作家でした。
お金のために膨大な数のハッピーエンドの短篇を湯水のように書きまくった彼ですが、その真価が最も発揮されたのは、『グレートギャツビー』をはじめとする「人が滑り落ちてゆくことの悲しみ」を描いた悲劇。
滑り落ちてゆく主人公達はある意味では自業自得であり、彼らに対するフィッツジェラルドの視線はあくまで冷静で醒めたものです(ちなみに主人公の多くは彼自身がモデル)。
余分な説明を一切排除して描かれるその描写の見事さ、美しさ。
けれどなによりも、その醒めた眼差しの中に確かに感じられる作家の繊細な優しさに、私はたまらなく惹かれるのです。


でもまだ大丈夫。明日はもっと速く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。……そうすればある晴れた朝に――
 だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。
(p326)

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする