珍しく説明調の副題がついていません。アカデミー賞作品賞受賞で十分な知名度を得たからでしょうか。作品賞受賞した上にあの騒動があったので、映画に興味ない人まで作品名が行き渡りましたね。
シャロンという1人の少年を「少年期」「思春期」「青年期」に分けて見せる作品。麻薬中毒の母親ポーラナオミハリスに育児放棄され、小学校でいじめられているシャロンアレックスヒバートはある日地域で麻薬の売買を取り仕切っているフアンマハーシャラアリにいじめっ子から逃げているところを助けられる。その妻テレサジェネールモネイにもよくしてもらい、心を閉ざしていたシャロンは少しずつこの2人に心を開くようになっていく。
高校生になったシャロンアシュトンサンダースは相変わらずいじめられていた。母親に男が来るからと家を追い出されることがあり、テレサの家に世話になっていた。ここで何の説明もないのだけど、シャロンが高校生になるまでにフアンが死んでいることが分かる。麻薬のディーラーをやっていた人だから何かあって早くに死んでいてもおかしくはない。高校でいじめっ子に報復したシャロンは少年院に送られる。
出所して大人になったシャロントレヴァンテローズはアトランタに引っ越し、自らが麻薬の売人となっていた。タフな男になって外見も見違えるようになっている。母親は心入れ替えてリハビリ施設にいて、今は子供の時のシャロンを虐待していたことを悔いている。そんなシャロンのところに幼馴染のケヴィンアンドレホランドから1本の電話がかかる。
小学校の時シャロンは「faggot」といじめられており、その意味をフアンに聞くシーンがある。(ここでのフアンの説明が素晴らしい。フアンは「ホモのことだよ」とか「オカマのことだよ」なんて言わずに「ゲイの人をイヤな気持ちにさせる呼び方だよ。ゲイでも"faggot"なんて言わせちゃいけない」と言う)母親もシャロンのことをナヨナヨしていると言い、観客はそれでシャロンがゲイなのだなということを知る。高校時代には幼馴染で女遊びばかりしているケヴィンジャハールジェロームと肉体関係になるシーンがあり、ケヴィンも実はシャロンのことが好きだったのだと分かるのだけど、ケヴィンはいじめっ子に加担してシャロンを殴ってしまう。マイアミのスラムのタフな黒人社会を生きていくにはゲイであることは絶対に隠さなくてはいけなかっただろうし、高校生のケヴィンがいじめっ子の命令を逃れることはできなかっただろう。シャロンもそれを理解していたから、自分を殴ったケヴィンを責めることはなかった。
同性愛者の黒人青年の話と言えばそうなのだけど、この物語はそれを全面に押し出してはいない。どのアングルから彼の人生を切り取るのかによって物語の印象はかなり変わってくると思うのだけど、、この作品はどのアングルも押し出している感はない。ただそこにいるシャロンという少年の人生があり、それがたまたまスラムの麻薬中毒の母親に虐待された同性愛者の黒人の男の子だったという印象だ。それはなんとなくいわゆるアメリカ映画的ではなく、どこかフランス映画のような雰囲気を湛えていると思う。物語というより詩集を読むような感覚かもしれない。
こういう作品はえてして悲劇的なエンディングを迎えがちだけど、この作品はそうではなかった。シャロンを照らした月明かりは一見冷たそうで実は温かだった。
オマケぱっと見、全然分からなかったのですが、小学生、高校生、青年のシャロンの顔が合わさったポスターがとても美しいです。
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