キングコーン～世界を作る魔法の一粒

英語では"You are what you eat."という表現がある。「食べているものが身体・精神を左右する」という意味だけど、まさに現代のアメリカ人（おそらく日本人も多数含まれるだろうけど）"what you eat"がコーンであるわけで、すなわち"You are corn."という文章が成り立ってしまう。日本語でも「食は人なり」という言葉があるが、「とうもろこしは人なり」ってことになってしまうのか。

大学を卒業したばかりのイアンチーニーとカートエリスは、東海岸からアイオワへ向かい、コーン栽培をすることにする。自分たちの世代が史上初めて親世代の平均寿命より短くなってしまう世代だと知った二人はアメリカの食糧事情の研究として農業を始めるのだ。ここで、アイオワの農家の人たちはとても親切にコーン栽培を教えてくれる。田舎にありがちな新参者を避けるようなことがなかったのがちょっと意外だった。ドキュメンタリー映画の撮影だと分かっていたからか？いや、それなら一層そんな動機で農業を始めるなんて甘い！とか言われそうなもんだけど、そんな態度も全然なかったな。

彼らは国からコーンの種を買い、トラクターを借りて種まきをする。彼らの土地が１エーカーしかないからというのもあるけど、種まきはトラクターであっという間に終わる。地元の人も農業の機械化で時間を持て余している人が多いのよと言っていた。

「農業」と聞くととても大変なイメージがあったが、アイオワで行われているコーン栽培はそんなに大変そうにも見えなかった。巨大な機械で種をまき、農薬を撒く。最近見た「フードインク」や「ありあまるごちそう」で言っていたようなラウンドアップ大豆と同じで、コーンも遺伝子組み換えにより、農薬に強く除草剤を撒いても枯れるのは雑草だけらしい。

彼らは自分たちの作ったコーンがどこへ行くのかを探り始める。彼らの作ったコーンは驚いたことに食べてもちっともおいしくなく、すべてが加工されて、燃料になり、コーンシロップになり、家畜の飼料になる。マクドナルドでセットを注文すると、コーンシロップたっぷりのジュースと、コーンを食べて育った牛のハンバーガーとコーン油で揚げたポテトを食べることになるというわけ。

彼らが次々と示していく現実に関しては以前から見ているドキュメンタリー映画で知っている事実ばかりなので、いまさら驚くこともないことばかりなのだけど、この作品は「コーン」ひとつに焦点を絞っているので、とても分かりやすくできていると思う。途中に挿入されるちょっとしたアニメーションちっくな映像もポップな感じでさすがにアメリカ人が作っただけあって飽きずに見ることができた。

70年代のアメリカ政府の方針で、農業改革が行われ農地はどんどん大きくなっていき、農業は「家族経営型」から「企業経営型」に移って行った。70年代にその政策を進めた農務大臣に意見を聞きに行くシーンがあるが、安定した食糧の確保が重要だった70年代にこのシステムを作り上げ、いまどの時代よりも安価で手に入る食糧を提供しているのに、何が悪いのか？という感じだったし、彼の主張も分からないではなかった。

そう、確かにワタクシたちは安価でおいしい食べ物を簡単に手に入れることができる時代に生まれ、それが当たり前のシステムの中で育ってきている。人工的な育てられ方をした牛の肉が体に良くないと分かっても、安い肉を拒否して高い肉を買うだけの余裕はない。こういうドキュメンタリーが作られここ何年かで、こういうシステムには問題があると気付き始めている人も多いと思うけど、昔のように苦労して農業をしなくてはいけなくて、時間をかけて牛を育てなくてはいけなくて、食費にお金をかけなくてはいけなくなり、娯楽にお金を使えないという世の中にワタクシたちは戻れるのだろうか？こういう作品を見ると「どこかで誰かが止めなくちゃ」と思いはするけど、実際に体に悪い物はおいしいのだから困ってしまうんだよなー。

何度か同じようなドキュメンタリー映画記事の中でも書いているが、アメリカの貧困層の糖尿病問題がここでも登場していた。彼らは安価な食べ物しか買う余裕はなく、「食育」という概念はまったくなく、自分たちが悪い物を口にしているという意識がまったくない。貧困層が病気になり、それを治すお金もないという悪循環が広まっている。

結局最後のシーンでイアンとカートはコーン栽培をやめて、自分たちの農地だけ雑草だらけの中下手くそな野球をしていたけど、それが彼らの答えだったのかな。こういう一人一人の小さな意識変革が必要だというメッセージだったのかな～。

オマケアイオワで野球と言えば「フィールドオブドリームス」ですね。この映画の主人公もコーン作ってました。半分潰して野球場にしてしまいましたけど。


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