シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ

2017-08-30 | シネマ か行

人種、宗教が入り乱れるパリの公立高校。アンヌゲゲン先生アリアンヌアスカリッドのクラスは落ちこぼれがほとんどで学級崩壊状態。教師を20年やってきたゲゲン先生の前ではそれもなんとか抑えられているが、ゲゲン先生が家庭の事情で休んだ日の代理教師の前ではひどかった。そんな態度に怒ったゲゲン先生、何をするのかと思いきやこんな落ちこぼれクラスをとあるコンクールに出場させることにした。

生徒の一人として出演しているアハメッドデュラメが実際に高校時代体験したことを脚本に書いて映画会社に持ち込んだ作品だという。

さて、そのコンクール、テーマは「アウシュビッツの若者と子どもたち」
はぁ?なんだよそれーと反抗してみせるクラスだったが、参加は自由よと言われてなんとなくほとんどが参加することに。

フランスというお国柄、子供のころからナチスの蛮行は学んでいるのかと思いきや高校一年生の彼らはアウシュビッツについてほとんど何も知らないっぽい。むかーしむかしお隣のドイツであった酷いお話でしょ、くらいの感覚らしい。だってフランス人は善良な国民だろ。普段多人種多宗教の地域にいて差別、被差別をひしひしと肌で感じているはずの彼らでさえ、ナチスのことなんて俺らには関係ねぇくらいにしか感じていないようだった。

数班に分かれてさらにテーマを絞り込み研究を始める彼ら。最初は嫌々やらされてる感の彼らもアウシュビッツという現実の重さに次第に真剣になっていく。バラバラだったクラスのみんなとも協力して研究するうちに結束を深めていく。人種的なことでもめていた連中もそんな偏見を軽々と越えていく。

マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督の演出と演者たちの瑞々しい演技でドキュメンタリーなんじゃないかと錯覚を起こしそうだ。生徒たちだけではなくて、ゲゲン先生も本物の先生かと思った。アリアンヌアスカリッドという役者さんは「キリマンジャロの雪」という作品で見たことがあったにも関わらず。

最初はひねくれて参加してこなかった子が少しずつ自分から参加し始める姿、実際にアウシュビッツの生存者を呼んで講演してもらったときの生徒たちの涙、「買い物のついでに近くだから虐殺資料館に行くわ」と言っていた女生徒が、「そろそろ買い物に行かなくていいの?」という先生の言葉に「買い物は別の日にします」と被害者の写真に見入る横顔にこちらも胸が熱くなります。

落ちこぼれ高校生たちが与えられたテーマに沿って、どんどん自主的に学んでいこうとする姿勢とそれをまっすぐにサポートする教師の真摯な姿が素晴らしいです。ゲゲン先生は校長先生から「あんな落ちこぼれたちに時間を割かずに、優秀な生徒に割け」と言われますが、それを無視して信念を貫きます。彼らの姿とナチスのユダヤ人他虐殺を学ぶという2つの視点から見ることができる作品です。

彼らの純粋な学ぼうとする姿を日本の歴史修正主義者たちに見習ってもらいたい。



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2 コメント

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Unknown (まいまい)
2017-08-31 22:56:18
最近見た映画の中でもとても印象に残った映画でした。

何も事前情報を知らずに見たので、タイトルから「天使にラブソングを2」などのような、反発する生徒と教師の物語かと思いましたが、全く違いました!これがハリウッド映画なら問題児も教師も否定的な教師たちももっと派手に描かれていたかもしれないですね。この映画はおっしゃる通りドキュメンタリーのようで、生徒たちの表情や言動の変化が淡々と、でも確実に伝わって来ました。私は恥ずかしながら「サラの鍵」を見て初めてフランスでもナチスによるあのような迫害があったと知りましたが、フランスの若者にとってもナチスの所業はすでに他人事なのでしょうかね?

歌やダンスやスポーツでもない。決して見ためには派手ではないグループワークやフィールドワークを通じて歴史を学び、その結果が生徒たちを変えたことが素晴らしいと思いました。
戦争について、我が子たちもまず学校でこんな風に学んでくることはありません。でもそれは学校だけが教えることじゃないんですよね。この映画の生徒たちも他人任せにせず自分たちで色々と調べていました。そういう力を身につけていくことの必要性も感じました。大人として正しくきっかけを作ってあげなければ・・・本当に色々と考えさせられる映画でした。
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まいまい様 (coky)
2017-09-11 10:35:59
最近ブログをさぼり気味でお返事も遅くなってしまってすみません。

ワタクシはこの映画を見るまでフランスでは若者もナチスの知識が高いのだと思っていました。

実際には彼らもきちんと自分で調べてみて初めて知ったことばかりでした。

ワタクシには子どもはいませんが、いま日本の歴史の教育がゆがめられようとしている中、子どもたちが学校や家庭でどんな歴史教育を受けているのかとても心配になります。
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