シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

敬愛なるベート-ヴェン

2006-12-19 | シネマ か行

美しい映画だった。映像が特にずば抜けて美しいわけでもないし、主役は無骨なベートーヴェンエドハリス。美しいとはほど遠い。ヒロインのアンナホルツはダイアンクルーガーが演じていて、彼女はもちろん美しいが、この映画が美しいのは彼女の美しさが理由ではない。ベートーヴェンの音楽のせいか、彼の芸術に対するひたむきさのせいなのか、この映画を見ている最中に浮かんだのは「beautiful」ただこの一単語だった。

ベートーヴェンの元に写譜をするために送られてきた音楽学校の生徒がアンナ。女性が送られてくるとは思いもよらないベートーヴェンは驚き、始めは拒否するが、彼女がベートーヴェンの第九の一部分をあるべき形に書き換えたことから彼女の中に才能を認め、写譜を頼むことにする。(あくまでもフィクションのようです)それでも、作曲家になりたいと言う彼女には「女が作曲家になるなんぞ、犬が直立歩行するようなもんだ」と女性差別バリバリ。まぁ、これは時代ってやつかな。200年前のことだし、ベートーヴェンだけじゃなくてほとんどの人がそういう態度だった。

彼を音楽家として尊敬してやまないアンナは難聴で気難し屋のベートーヴェンに閉口しながらも、信頼関係を築いていく。ベートーヴェンは周りからもその類まれなる才能を尊敬されていたが、やはり性格に難ありで避ける人も多かったし、耳が悪いのに指揮をしてオーケストラには嫌がられていた。そして、この第九のオープニングも自分が指揮をすると言って周囲を困らせていた。それまでは、自信満々だった彼もオープニング直前にはやはり不安に思い始めたのか、アンナに助けを求める。彼の見えるところにアンナが立って、テンポを取ったりキューを出したりすることになった。

ここでの第九のオープニングシーンが圧巻。日曜日のレイトショーだったことと、あんまりメジャーな作品ではないせいで、観客席にはにゃおと二人きり。オーケストラが二人のためだけに演奏してくれてるような気分。贅沢だ。曲目は演奏が始まる前にベートーヴェンが「これで音楽は永遠に変わるぞ」と言う第九。合唱隊は歌う前に1時間も立たされたまま演奏を聴かされている。まるで、そのうっぷんをすべて晴らすかのような「歓喜の歌」の大合唱。ここで、自分でも不思議なことが起きた。自然に涙が溢れてきたのだ。「歓喜の歌」なんて何度も聞いたことがあるし、大阪城ホールで年末に行われる「一万人の第九」を聞きに行ったこともあるから、生で聞いたこともある。なのにだ。感動して目に涙が浮かぶといったものではなく、涙が溢れて流れた。なんで?と思っていると、隣でにゃおも涙を流している。それはこの音楽の美しさのせいか、アンナとベートーヴェンの絆のせいか。言葉では表せない何か。心に直接訴えかけるようななにかがあった。今でもそれが何かは分からないのだけど。

ベートーヴェンは彼の頭の中には常に音楽が溢れていると言い、音楽とは神の言葉、それを聞いた音楽家がそれを譜面にすると言う。ワタクシはクラシック音楽は、何枚かCDは持っているけど、日常に自分でプレイヤーにかけて聞くことはほぼない。知っている曲なら、どこかで流れていれば楽しめるけどっていう程度だし、神様というものの存在もまるで信じていないのだけど、ベートーヴェンが言うこのセリフには妙な説得力を感じたし、感動さえも覚えたほどだった。いつも彼の作曲活動や大声などに悩まされている隣人も彼の作る音楽を一番に聞くために引越しはしない。ウィーン中が自分に嫉妬すると。そんな気持ちも分かる。

無骨で粗野で自分勝手なベートーヴェンに傷つけられることもしばしばのアンナだが、彼が溺愛する甥カールジョーアンダーソンとの仲も偏執的なものから救ってやり、音楽家としての苦悩や喜びを分かち合う。23歳の彼女と53歳の彼では違いすぎることも多いが、お互いにしか分かり合えない何かが二人にはあったのだと思える。さすがに、「洗ってくれ」と言ってアンナに体を拭かせたときは「オイオイ」と思ったが、二人の新密度はそこまででとどめられていたところはアニエスカホランド監督のうまさだったと思う。

最後はベートーヴェンが神と一体になるさまをアンナを通して観客にも共に体験させてくれる。



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2 コメント

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良さそうですね~ (あかひ)
2006-12-19 23:05:36
ベートーヴェンというとゲイリー・オールドマンのが頭に浮かぶのですがこれ良さそうじゃないですか?

音楽はスゴイですね。私も映像と音楽ダブルで来ると涙が出てきてビックリする事があります。特にオーケストラとかコーラスとかやばいですね。

エド・ハリスは髪がふっさふっさだとこんなに変わるもんだ、と感心です。

あかひさんへ (coky)
2006-12-20 10:42:02
>ベートーヴェンというとゲイリー・オールドマンのが頭に浮かぶのですが

ワタクシもです。別にゲイリーオールドマンが似ていたわけではないけど、どうしても彼のほうが浮かんでしまって実はエドハリスがベートーヴェンには見えなかったワタクシです。

>映像と音楽ダブルで来ると涙が出てきてビックリする事があります。

芸術には何かそういう理屈じゃない力があるんでしょうね。いつもいつもってわけじゃないけど、色んな要素(受け取る側の状況なども合わせて)が完璧に重なった時にそういう現象がおこるんでしょうか。

>エド・ハリスは髪がふっさふっさだとこんなに変わるもんだ

もうひとつの彼の特徴でもあるキレイなブルーアイズを黒い瞳にしてあるので余計印象が違って見えますね。


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