シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

犬と猫と人間と2~動物たちの大震災

2013-07-19 | シネマ あ行

公開されると知ったときから見に行かねばなるまいと思っていました。「1」は現在の日本におけるペット事情に関するドキュメンタリーだったが、今回は副題にもある通り、東日本大震災で被災した動物たちの話を「1」の飯田基晴監督の弟子である宍戸大裕監督が撮影したものだ。監督は大震災の直後に現場に入り、約2年間に渡って撮影を続けた。

もう行く前から絶対泣くよなぁということは分かっていたんだけど、実際見ると泣くなんてもんじゃない。もうはっきり言って嗚咽だ。映画館だから一応嗚咽するのは我慢したけど、我慢するのが大変だった。

震災前、野良猫にエサをやっていた小暮さん。その野良猫たちが津波を生き延びたことを知り、またエサをやる。がれきの奥から出てきたミーちゃんは小暮さんを見つけるとにゃーにゃーとずっとずっと鳴き続けしばらく小暮さんの足元を離れようとしなかった。いままでは野良猫にエサをやっているというだけの感覚だった小暮さんだったが、被災をきっかけにその猫を飼うようになり家族みたいになった。

避難場所に犬のコロスケを一緒に連れて行った磯崎さん夫妻。抱っこできない犬は中に入れられないと言われ外にコロスケをつないだ。その結果そこまで津波が押し寄せてきてコロスケは亡くなってしまった。もっと別の安全な場所につなぐことができたんじゃないか。お父さんは後悔し続けていた。数か月が経ち、「いまはまだ無理だけどいつかまた犬を飼えたら」というお母さんと「もう絶対に犬は飼わない」というお父さんの悲しみへの向き合いかたの違いが印象的だった。

震災の翌日に飼っていた犬モモを見たという人がいたことからモモを探し続ける小野さん夫妻。昔次男を病気で3歳で亡くしてからモモは家族全員の心の支えだった。1年半が経ち「震災で消えた小さな命展」という震災で亡くなった動物たちのイラストを展示する会に小野さん夫妻の姿があり、モモの絵もそこにあった。全国をまわる展示が終わってモモの絵が家に帰ってくることを心待ちにしている。

立ち入り禁止区域内に残された牛たちを生かすボランティアのやまゆりファームと希望の牧場。政府は安楽死を薦め多くの酪農家が賛成したが、この2団体だけは現在ももう出荷することはできない牛の飼育を続けている。実際、もう出荷できない牛をただエサをやって生かすことに何の意味があるのかという批判もかなり受けていたようだ。ボランティアに来ていた女性が「でも出会ってしまったから」と言っていたのに共感した。たとえ、自分は菜食主義者ではなくても、たとえ、今日帰って焼肉を食べようとも、出会ってしまった命を無視することはできなかったのだろう。それはただ偽善と言ってしまえばそれまでのことだけど、人間としてその感覚はワタクシは分かる。蛆がこれでもかというくらいに湧いた死体の横でも生き続ける牛。どうせ殺されて食肉になる運命だったのだから放っておけばいいじゃないか。そう思う人もたくさんいる。でもそれに抵抗する人たちもいる。それはもう他人にどうこう言われるような問題じゃないと覚悟を決めているようだ。

犬猫を保護しているボランティア団体に引き取りに来た夫婦がいたが、主催者側はどうもその飼い主ではないという気がして引き渡さなかった。本当のところは分からない。でも、犬がフィラリアにかかっていたことからそもそも大切にされていなかったんじゃないかという思いから引き渡しを拒んでいた。彼女の行動はもしかしたら間違っていると思う人もいるかもしれない。でも、飼い主もその犬が自分の犬がどうか分からない様子だったし、フィラリアのことも何も知らない人に引き渡したくなくなる気持ちは分かる。

亡くなった夫が可愛がっていた犬チビタと一緒に暮らしていた今野さん。自宅が立ち入り禁止区域になってしまって新しい場所ではペットは飼えず、チビタはボランティア団体に預かってもらっていた。月に一度会いに来る今野さんに嬉しそうなチビタ。今野さんが帰るときおもちゃをくわえて持ってきて「お母さんまだこれで遊ぼう」と言っているみたいなチビタに涙が出た。

他にもたくさんのエピソードが登場するのだが、印象的だったエピソードを取り上げさせてもらった。人間の悲しみと動物たちの悲しみが重なって見ているのが本当に辛い。そして、動物とのきずなを感じていた人々が感じた悲しみ。「震災で消えた小さな命展」の主催者の方が避難所などで人が亡くなって悲しんでいる人の前で、自分のペットを亡くした悲しみなんて語れなかったと言っていた人がたくさんいて、その悲しみを表現しようと思ったと言っていた。そりゃあそうだろう。いくら家族のように思っていたと言っても所詮は動物でしょと言われてしまうだろし、私が家族を亡くした悲しみと一緒にしないでよと言われてしまうだろう。それを言う人が酷いわけではない。確かにそうなのだ。

震災後、ペットショップの売り上げが上がったと言っていたのには少し驚いた。あの状況で小動物に癒しを求める人がたくさんいるということには驚かないが、そこで「ペットショップ」という発想がやはり現在の日本人の感覚なんだなと改めて思った。同じように被災して保護されている動物がたくさんいるにも関わらず被災者もペットショップから新たに動物を買う。この国でこのサイクルはそろそろストップさせないといけない。しかも、不安定な生活で新たにペットを飼い始め、飼えなくなってボランティア団体に任せる人たちのことも話されていて、これまたショックだった。

これ見てるとね、なんか本当に原発さえなければって気持ちになった。あの災害でもちろん、がれきの下敷きになったり、津波に飲まれたりしてしまった人も動物もたくさんいたけど、やっぱり原発さえなければここまで酷いことにならなかったっていう人たちや動物たちがいっぱいいるんだよなぁ。廃棄物の処理の方法も確立されていない。事故になったときの対処の方法も確立されていない。対処するにはその人たちが永遠に被爆し続けなければならない。こんなワケの分からないものを推進している人と反対している人のどっちの頭がお花畑か?ってね。。。

全体的に監督のナレーションがずっと入っていて、数値を表すときは分かりやすいグラフで、申し訳ないけど素人が作ったのか?と思うくらい素朴なドキュメンタリーに仕上がっている。でも動物の死骸などの映像は、ショッキングだから映さないほうがいいなどという余計な自主規制などせずにきちんと映してくれているところに好感が持てた。

あの時、すべての人が色んな方向に必死だった。その陰で動物たちがどのように生きどのように死んでいったのか。たくさんの人に見届けてほしい作品です。