シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

犬と猫と人間と

2009-11-30 | シネマ あ行
んー、これはねぇ…見ようか見るまいか迷っていたんですよ。なんか暗い気持ちになりそうで見るのがイヤでね。でも、そんな理由で見ないのはやっぱダメだなぁと思って見に行くことにしました。

稲葉恵子さんという一人の女性が飯田基晴監督にペットたちの現状を知らせる映画を作って欲しいと依頼するところから始まる。ワタクシは飯田監督の「あしがらさん」などは見ていないのだが、この稲葉さんという女性はきっと監督の作品を見て決めたのだろう。「自分でいいのか?」と問う監督に「人を見る目はあるほうですから」と自信を持って答える。それをきっかけに動物愛護について考えたこともなかった飯田監督は現在の日本のペットの現状を追い始める。手始めは“動物愛護センター”という名称のいわゆる保健所から、民間の団体でレスキューをやっているところ、個人的に野良猫を助けている人たち、動物病院の先生、訓練士、イギリスの現状などなどを見せていく。

当然、日本のペットたちがおかれている悲惨な状況に涙が出るシーンがいくつもある。ただ、ここで涙なんか流していいのかなんていう罪悪感にも見舞われるがやはり涙はあふれるものだ。全ては人間のエゴなんだろうけど、この「人間のエゴ」というものはやっかいな代物で、「これはエゴ、あれはエゴじゃない」なんて線引きはできないと思う。結局、人間は「エゴ」というものを認識できる脳を持った動物である以上、何をやってもそれは「エゴ」という側面を否定できないってことになると思うのだ。

この作品で語られる動物愛護についての話をここで語ってしまうとかなりまとまりのない膨大な文章になってしまうと思うので、それはここではやめておきたい。なので、ここでは“映画作品”としてどうだったかというテーマに絞って書くことにする。

この映画を見ている最中、鑑賞後、少しもどかしいものを感じた。監督の語り口はどこまでもソフトで、優しい。悪い言い方をすれば「生ぬるい」のだ。飼い猫が産んだ子猫たちをこれ以上は飼えないからと言って保健所に持ち込んでくる飼い主や、保健所の譲渡会に飼い犬が産んだ仔犬たちを持ち込んだ飼い主に「じゃあ、なぜお宅の飼い猫や飼い犬に避妊手術をしないのか?」と監督は問わない。現状の責任の一端を担うペット産業のほうには一切取材に行かない。パピーミルなどにマイケルムーアのような突撃取材をかけるというようなことを決行しているのかなと思ってこの作品を見に行ったのだけど、実際にはまぁテレビニュースの特集などでも短時間ではあるけど、時々こういう特集は見られるなといった感じ。彼の取材で特にワタクシが新たに知った事実というものはなかった。そのあたりにぶっちゃけ物足りなさを感じはした。(でもそれはワタクシが2年半前に初めて犬を飼い始めて自分で勉強する機会があったからで、それまではこんなことは知らなかったのだから、普通の観客にとっては初めて知る事実がたくさんあるんだろう)

そして、鑑賞後この映画の公式サイトを見て、そこにワタクシの大好きなタレント杉本彩がコメントを残しているのを見て、彼女のブログにも行ってみた。そこにあった言葉にワタクシは納得させられた。

ここに引用させていただきます。

私がもし監督なら、
怒りと悲しみばかりが先走り、
過激な作品になって、
こんなふうには撮れないだろうと感じました。


飯田基晴監督は、
きっと一人でも多くの人に
観てもらうことに意義があると、

4年もの間、
悲惨な現実と向き合い、
ご自身の中から溢れる
あらゆる思いや憤りを
冷静に受け止めながら、
使命と感じて撮影されたのではないか、
と私は推測します。

引用終わり。

現実問題として、確かにあまりに過激な作品にしてしまうと多くの人の目に触れることなく終わってしまう可能性があっただろう。この先、小学校などで上映されるというチャンスもつぶしてしまうことになるかもしれない。そんなことになったら本末転倒だし、もともと稲葉さんがこの人なら間違いないと選んだ監督なんだから、彼女はきっと監督がこんなふうな作品を仕上げてくれることが分かっていたんだろう。残念ながら彼女はこの作品の完成を見ずに亡くなってしまわれたが、おそらくこの作品ならば彼女が納得できるものに仕上がっているのだろう。これは氷山の一角で、もっと悲惨なこともあるけど、あくまでも「入門編」として見てもらうのにはとても良い作品だと思う。

内容にはあまり触れないで書くと言ったけど、少しだけ。野良猫の不妊手術をしている獣医さんが、妊娠中のメス猫を手術しているときに「こんなふうに子供がお腹にいる場合があって、その時が一番辛い。この場でうずくまってしまうときがある」と言っていたのが、ものすごく印象的だった。獣医さんでさえ何度経験してもそれに慣れずに辛い思いをしているのだということがとても衝撃的だった。
それから、CCクロという団体の代表の方の言葉はどれもとても説得力のある言葉で、実際に何年も保護に携わっている方の重い言葉だった。
他にも書きたいことはあるんだけど、少しだけと言ったので最後に、保健所に勤めて、犬猫の処分をされている人たちがみな動物好きであったことがとても印象的だった。「好きだからこそできると思うんです。せめて、最期くらい彼らを物として扱わない彼らを好きな人の手で処分してやりたいんです」このセリフが胸に刺さった。

オマケ民間の愛護団体が保護している“しろえもん”という犬が出てきたが、うちで飼っているワイマラナーのクマルの仔犬のころの性格によく似ていて笑えてしまった。人が大好きなために嬉しくて興奮しやすくて、甘噛みや引っ張りがひどくて困ったヤツ。彼を訓練するために3人の訓練士が登場していた。うちのクマルの訓練士さんは様々な方法を試みる人で登場した3人すべてを足したような感じだけど、訓練には色々な考え方や方法があってどれが完璧に正しいというわけではないと思うので、何も知らない人が見たらこの作品で最初に登場した訓練士さんがちょっと“乱暴な人”みたいな扱いで終わってしまっていたのが残念だった。



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