シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

クロッシング

2013-07-11 | シネマ か行

ケーブルテレビで見ました。

麻薬捜査官のサルイーサンホークは5人の子どもを抱え妻リリーテイラーは双子を妊娠中。家の壁のカビのせいで妻は体調を崩しているし、7人の子持ちにとっては手狭なため引っ越しを考えているが狙っている物件の頭金がなかなか貯まらない。

あと7日で定年退職する予定のエディリチャードギアは20年以上警官をやってきたが大した功績も残さず、無駄な争いには巻き込まれないようにしてきた。日々の楽しみといえばいつもの娼婦のアパートに通うことくらい。そんな彼は署長から教育係として新人を押し付けられる。

潜入捜査をしているタンゴドンチードルは、私生活のすべてを犠牲にしてきたが昇進は認められず嫌気がさしている。長年の潜入により警察側よりもギャング側に心を寄せるようになってきている。

この3人の共通点はブルックリンで一番治安が悪いとされている公営アパートの地域の管轄で働いているということくらいで、特に接点はない。同じ署で働いているから途中サルとエディが同じ空間にいるシーンはあるが、それくらい。邦題が「クロッシング」というからいつ交差するかいつ交差するかと楽しみに見ていたら最後の最後でほんのちょこっと交差するくらいだった。この邦題には騙された。あとから原題を見ると「Brooklyn's Finest」(ブルックリンの警官)だったので全然交差関係ないやん!って思いました。

というわけでこの3人はなっかなか交差しないので、これはほとんどオムニバス映画のような感じです。ブルックリンの三者三様の警官にスポットが当たった3つの物語。ただ、共通して流れるテーマのようなものはあって、それは映画の冒頭でサルが殺す悪党が判事に言われたというセリフ「世の中にはrighter(より良い)とwronger(より悪い)しかない」righterとwrongerというright(善)wrong(悪)の比較級というものは実際には存在しない言葉なのですが、完璧な善や完璧な悪などなく、生きていく上でより良いとより悪いのどちらを選択するかなのだというのを頭の片隅に置きながらこの3人の警官のお話を見るとなかなかに興味深いでしょう。

どうしても頭金を用意したいサルは麻薬の売人たちを捕まえたときに回収するお金を横領しようと考えていた。何度もチャンスをうかがい金を持って逃げた売人を一人で追いかけたが、そいつはお金など持っていなかった。その間にも物件の売り手にはせっつかれ、妻の病状は悪化し、子どもたちは広い家を夢見ている。みんなの期待に応えるためなら汚い手も惜しまないと考えているサルだが、すべてがうまく行かずイラつきを見せてしまい相棒にも心境の変化を感じ取られている。

教育係としての一日目にやってきた新人は正義感あふれる若者で、とにかく争いごとを避けて通れというエディに愛想を尽かして一日で教育係の変更を願い出て二日目には別の新人をつけられた。小売店での小さなケンカを止めに入った新人とエディだったが、エディがパトカーに身元確認をしに行っている間に新人が小売店で発砲してしまう。自分のミスでそうなったと認めるエディだったが、幹部たちは警察の面子のためか、相手が麻薬を所持していたことが原因だったと事実を捻じ曲げようとする。エディは譲らず定年退職の日を迎え、馴染みの娼婦に一緒になろうともちかけるが振られてしまいもともと無気力だったエディはさらに自暴自棄になる。

FBIのスミス捜査官エレンバーキンの介入により、ギャング仲間の大物キャズウェズリースナイプスをでっちあげ事件で挙げろという指示を受けたタンゴはそれを断るが、上層部はそれと引き換えに昇進をちらつかせてきた。キャズ逮捕を決心するタンゴだったが、ギャング内の内輪もめでキャズが撃ち殺されてしまい、タンゴの中の何かが変わった。

3つの物語を同時進行で見せられるのだけど、どれもまるでドキュメンタリーでも追うかのように丁寧に描かれているので全然ややこしくもないし見ずらいということもない。3人とも全然身近にいるタイプじゃないんだけど、話の運びがうまいのと演技が素晴らしいのでそれぞれの苦悩が伝わってきてそれぞれに感情移入しながら見ることができる。最後はみながより良い(righter)選択ができるようにと祈るような気持ちで見ていた。

それぞれの起承転結の結の部分が最後にあの公営アパートへと向かわせる。ここで誰がrighterな選択をしたかwrongerな選択をしたかの答えが見事に出てしまう。たたそれが客観的に見ればwrongerな選択だったとしてもあの時の彼らにとってはもうそれしか選びようがないという状況だったのかもしれない。そこに至る過程が丁寧に描かれているのでたとえそれが間違った選択だったとしても彼らの気持ちが非常に分かる終わり方になっているのがとても切ない。

リチャードギアが冴えない老警官ってなんかミスキャスト?と最初は思ったけど、全然違和感なかった。あんまり演技派のイメージはないけどやっぱりちゃんと演技してるんだな~。イーサンホークとドンチードルはぴったりのキャスティングでした。

とにかく全然交差しないので邦題に騙されないでご覧ください。