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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
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迷路館の殺人

2016-09-08 00:21:05 | 読書録

迷路館の殺人

講談社

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館シリーズの第三弾、今回は各部屋を繋ぐ廊下が迷路状になっている迷路館がその舞台です。
推理小説の大家である老作家の誕生パーティーに招かれた4人の弟子、編集者、批評家、そして我らが名探偵島田潔、しかし訪れてみれば老作家は病を苦に大量の睡眠薬を服用して「この館で、自らが被害者になる小説を書け、一番に優れた者に財産を譲る」とのメッセージを残していました。
戸惑いながらも執筆を始める弟子たち、ところがその作品、ミノスの迷宮、ミノタウロス、イカロスなどギリシャ神話にちなんだ見立てで一人、また一人と殺されていきます。
それなりのボリュームですが立て続けに事件が起きるために間延びした感じはなく、切れ味鋭いタッチで引き込まれていくのはこれまでどおり、それなりには楽しませてもらいました。

ただ、ただ、その切れ味も徐々に鈍りつつあるような気がします。
タネ明かしをされてしまえば水車館と同じく掟破りと言いますか、これは登場人物にも語らせていますので確信犯なところもあるのでしょうが、謎を解き明かす楽しみがありません。
正しくは解き明かす努力が無に帰する、これはある意味で読み手への裏切り行為でしょう。
巧みなレトリックで餌を撒きながらも気がつかせない技法はさすが、しかしそのテクニックに溺れて二重、三重にしたことが逆目に出たような気がします。
エピローグの罠にどれだけの意味があるのか、騙されたよね、と自己満足に浸っているだけではないかとも思います。
そもそもの館シリーズ、中村青司が「奇っ怪な設計をする」だけの存在になってしまっていて、肝心の館も色を出すこともできずに脇役でしかなく、それは名探偵を現場に召還するためのアイテムでしかないのか、ここまでの前振りは何だったのか、これでは掟破りへのこじつけでしかありません。
何らかの意志のようなものが感じられる館に、次こそは巡り会いたいです。


2016年9月7日 読破 ★★★☆☆(3点)


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珊瑚色ラプソディ

2016-09-05 00:42:28 | 読書録

珊瑚色ラプソディ

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らしいと言えばらしい、二時間ドラマのシナリオにぴったりなのはどぎつい描写がないからなのか、安心をして読める岡島印です。
沖縄の離島に旅に出た婚約者が急性盲腸炎で入院、駆け付けた主人公はその旅に隠された意図があったのではないかとの疑惑をかぎつけます。
同行をしていたはずの友人は行方不明、訪れたはずの場所にその痕跡はなく、いるはずのない場所に影が残る、謎解きの王道と言ってもよいでしょう。
30年以上も前の作品ですので設定、背景などに古くささは否めませんが、これまでとは違って今回ばかりは先行きが読めず、シンプルにミステリーを楽しめました。

台風が来たり、記憶が薄れたり、都合のよすぎるところはあります。
周到なようで手落ちも少なくはなく、分かってみればあまりに杜撰な計画に「そりゃ無理でしょ」といったところでもあります。
ただそれでも謎がしっかりと謎になっていますし、浮かんでは消える自分の迷推理を楽しめますから、粗探しをするのではなく穴を穴として意識をしすぎないのがよいでしょう。
残念だったのは締めくくり方、これでは余韻ではなく放置に近く、穏やかさが特徴の作風ながらも決めるところは決めるべき、そこが大きく減点でした。


2016年9月2日 読破 ★★★☆☆(3点)


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ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

2016-09-01 00:42:17 | 読書録

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

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やや毛色の違う作品ながらも前作でも思ったことでしたが、深月の作風と言いますかスタンスの変化を感じずにはいられません。
重い雰囲気のものであっても最後はホッとさせられる、ある意味で余計とも言えるエピローグでまとめにかかっていたのが嘘のように、読み手に任せるかのような終わり方です。
それでも逃げ道のようなものを用意してあるので本質は変わらないのかもしれませんし、これまでのように「やられたっ!」という切れ味はないものの周到な伏線や引っ掛け、仕掛けはさすがでしたが、それでもやや違和感に近いものがあったのが正直なところです。
果たしてみずほは、チエは救われたのか、その答えは読み手のこれまでの生き方、人生観に左右されるのでしょう。

結局のところ、男性には真の意味での理解はできないのかもしれません。
母娘の関係、また学生時代、あるいは社会に出てからの女社会での人間関係、価値観は何となく雰囲気で分かっても本当のところは分からない、多くの男性はそんなものでしょう。
一卵性母娘なんて言葉が聞かれて久しいですが、相互依存が強い家庭で育ったチエ、一方で厳しい母に恐れながら育ったみずほ、この二人が主人公です。
ある事件をきっかけに姿を消したチエと、それを探すみずほ、みずほの目線で友人や恩師に問いかける構成はどこか愚作だった白ゆき姫殺人事件に似ていないこともありませんが、しかし常にみずほの目線でのものですし、口語体の軽いタッチではないことからさしたる違和感はありません。
そこで浮き上がってくる都会と田舎、持てる者と持たざる者との格差、意識をしていたもの、今更ながらに気がつかされたもの、これらもテーマの一つだったのではないかと思います。
しかしその考えも一方通行なものでしかなく、翠の言葉に驚かされるチエ、自分はそこが一番に印象的でした。
ただ赤ちゃんポストなどいろいろと問題を詰め込みすぎた嫌いがないわけでもなく、しかしそれも男性としての視点でしかありません。
女性であっても人によってかなり評価が分かれるかもしれない、そんな4ヶ月ぶりの深月でした。


2016年8月30日 読破 ★★★☆☆(3点)


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人類資金

2016-08-25 00:24:02 | 読書録

人類資金 I

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人類資金 II

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人類資金 V

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人類資金 VI

講談社

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人類資金 VII

講談社

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全7巻、大作でした。
ただ最終巻こそ700ページを超えましたが他は200ページちょっと、もっとまとめられたように思います。
6巻までは月イチペースで書いたら出す、といったやり方だったものが最終巻は1年以上ものブレイクでファンをやきもきさせて、それがゆえにその冒頭にあらすじが書いてあるという構成は出版方針が出たとこ勝負、とにかく前に進むといったものだったということなのでしょう。
完結前に映画化がされたのも「話題となっているうちに」との商売根性が見え隠れして、作品としての質を押し下げる要因にもなっています。

M資金、と言えばそれに絡んだ詐欺事件を噂された大物俳優の猟銃自殺がまず浮かびましたが、その程度の知識でしかありません。
そのM資金を管理する財団、日米の綱引きをメインストーリーに貨幣経済の限界、戦後から綿々と続いてきた「ルール」に挑む主人公たちを描いています。
しかしミステリーと言うよりは経済小説の側面が強く、実体のない数字だけが踊り景気浮揚の実感のないアベノミクスをさりげなく批判し、作者の政治信条が透けて見えたりもします。
それはさておきクライマックスこそ手に汗握る展開はスピーディーでしたが、全体的には冗長感が否めません。
とにかく主人公だけではなくメインどころの登場人物にまでその生い立ち、背景、思想、信条がこれでもか、これでもかと本人の独白といった形で繰り返されます。
あるいは走りながら構想を練っていたからなのかもしれず、それであれば数年後に贅肉を削ぎ落とした改編がされて再出版がされるかもしれません。
まずまずは面白かったもののくどい贅肉と、あまりに性善説に則ったオチ、そしてオカルトチックな神の手などげんなりとした箇所も少なくはなく、全体としての評価はこんなものです。
そんなこんなでやはり独白が多くて映画化が不安視をされた64(ロクヨン)と同じく主人公が佐藤浩市なのは単なる偶然か、原作とは違ったのであろうオチはどんなものだったのか、と怖いもの見たさで気にならないでもありませんが、しかしその映画を観るつもりはありません。


2016年8月24日 読破 ★★★☆☆(3点)


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粟田口の狂女

2016-07-28 00:15:43 | 読書録

粟田口の狂女

講談社

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きっと読んだことはあるだろうな、と思いながらも筋立てを覚えていたのは表題作となっている粟田口の狂女だけで、他はほとんど初見に近かったので読後に読書履歴をチェックしてみれば前回に読んだのは1990年でざっと四半世紀前、まだ社会人になるかならないかのときでしたので人の記憶などはそんなものなのでしょう。
世の不条理を訴えるかのような作風はどこか重苦しく、しかしそれが作者の持ち味でもあり、しみじみと染み渡るような短編集です。
君君たらずといえども臣臣たらざるべからず、などは江戸期以降の思想なのでしょうが、偽りの忠義、現実との板挟みがひしひしと迫り来ます。

いずれも大坂の役の前後のエピソードを取り上げた七編で、豊臣氏への荷担を断った島津家久、千姫の助命を逆手に取った大野修理の娘、娘婿を伊達氏の味方討ちで失った老女、駒として捨てられた本多忠朝、メンツを潰された坂崎出羽守、主君の気まぐれに翻弄される宍戸元続、捕縛された国松を尋問した板倉勝重と、かなりバラエティに富んでいます。
しかし共通をするのは美しいまでに毅然とした態度を貫く主人公、あるいは主人公を取り巻く登場人物であり、それはある意味で勝者であり、また敗者でもあります。
その中でも一番に響いたのは宍戸元続が孫に語った「善人ほどたちの悪いやつはいない、孫よ、悪人になれ」の言葉で、これほどに毛利輝元を凄絶に表現したものはないでしょう。
無為の悪ほど手に負えないものはない、これほどにたちの悪いものはない、それがよく分かる逸話でした。


2016年7月25日 読破 ★★★★★(5点)


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七日間の身代金

2016-07-21 18:54:27 | 読書録

七日間の身代金

講談社

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安心の岡嶋印です。
久しぶりの人さらいは密室までもが絡んで要素はてんこ盛り、警察への連絡に赤電話に駆け込むなんて昭和の時代を感じさせるところなども、むしろいいエッセンスになっています。
莫大な遺産を相続したはねかえり者と、その義叔父の誘拐事件を巡る身代金の行方、シンプルながらも仕掛けは上々、そのトリックを見破ることはできませんでした。

ふたを開けてみれば、そのトリックに穴が無いわけではありません。
被害者は耳目を集める存在だっただけにその仕掛けを密やかに行うのには無理がありますし、密室トリックにしてもそれを見逃す警察ではないでしょう。
その警察署長の娘だからといって捜査情報がほいほい入ってくるのも笑止千万、しかしライトミステリーはこのぐらいがよいようにも思います。
本格的な仕掛けを施せばどうしてもテンポが悪くなりますし、流れというものも大切な要素です。
だからこそ二時間ドラマの原作にはピッタリなわけで、ストーリーの動かし方が秀逸な誘拐&失踪事件でした。


2016年7月19日 読破 ★★★★☆(4点)


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黒い仏

2016-07-17 00:13:11 | 読書録

黒い仏

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ぶったまげました、これほど酷い作品は久しぶりです。
この作家はこれが3作目で、ハサミ男、そして美濃牛と作品としての評価は今一つながらも、しかしミステリーとしての仕立てはしっかりとしていました。
ところがこちらはミステリーに分類をするのは掟破り、ホラーでもなく、ファンタジーでもなく、思い浮かんだのは幻魔大戦です。
あれは誰なのか、どういったトリックなのか、いろいろと思いを巡らせたのがバカらしく、それを言ったら何でもOK、これが石動シリーズの第二弾とした理由がさっぱり分かりません。

その「名探偵」石動が道化以下でしかなく、前作とその背景もキャラクターも変わってしまったようです。
きっとその裏を分かった上でだろう、最後の最後にどんでん返しで閃きを見せてくれるのだろう、そんな思いは完全に裏切られました。
忘れているだけかもしれませんがアントニオなる助手は前作にはいなかったような、いたとしてもああいった存在ではなかったはずです。
謎の黒い仏、宝探し、個々のアイテムは立派ながらも、やれ法力だ妖魔だとか言われてしまえば全てがおじゃん、何を描きたかったのかが理解不能、まさか続編があるとは思いませんし、思いたくもなく、初めての作品がこれであれば買わなかったであろうラインアップがずらりと控えていますので、これが気の迷いでしかなかったと願うばかりです。


2016年7月16日 読破 ★☆☆☆☆(1点)


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デセプション・ポイント

2016-07-15 00:57:28 | 読書録

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角川書店

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角川書店

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なかなか名前が覚えられないので海外の作品は敬遠をしがちなのですが、ラングドンシリーズに魅せられてダン・ブラウンだけは特別です。
この作品はそのシリーズ外ですが、息もつかせぬ展開に寄せては返す波のようなチャンスとピンチの繰り返し、あっと驚くような展開と、その魅力がふんだんに盛り込まれています。
インフェルノが映画化をされるような話もあるようですが、映えるという意味ではこちらの方が適しているのではないかと、これまでで一番の評価、NASAを巡る未知との遭遇でした。

これまでは宗教色の強い作品が多かったのですが、こちらはそれらと一線を画しています。
自分を含めて多くの日本人は宗教との距離があまり近くはないでしょうから、他に比べれば入り込みやすいのではないかと思います。
しかしいきなりの地球外生命体ときたのにはやや違和感が、そこに大統領選が絡んでの謀略、謎の組織の襲来、めまぐるしく変わっていく展開と、ページをめくる指が止まりません。
主人公にもう一つポリシーと言いますかヒーロー資質と言いますか、そういった派手やかさが足りないようは気はするものの、むしろそれが身近に感じられる理由でもあります。
それでもそこは主人公、その行動力は凡人と比べものになりませんし生きるための知識も旺盛、しかしそれが鼻につきません。
こういった登場人物の描き方も作者の持ち味であり、だからこそ意外な一面を魅せることでさらに惹き付けるのでしょう。
はい、これは原作を読んでオチも分かってしまっている作品ですが、堅苦しいメッセージ性もありませんし、是非とも映画を観てみたいです。


2016年7月13日 読破 ★★★★★(5点)


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戦国鎌倉悲譚 剋

2016-06-30 00:00:16 | 読書録

戦国鎌倉悲譚 剋

講談社

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北条氏舜、と聞いてピンとくる方は、そう多くないのではないかと思います。
小田原北条氏の有力一門である玉縄北条氏は氏康の義兄弟である綱成を実質的な初代に、継いだのが嫡男の氏繁、その嫡男が氏舜ですから地黄八幡の嫡孫にあたる武将です。
しかしこれまではその存在すら疑われていた時期もあったようで、家督を相続せずに早世、氏繁の跡を継いだのは次男の氏勝とも言われていました。
いずれにせよ一般的にマイナーであることは間違いなく、北条氏を中心に関東から甲信にかけての地味な人物を主人公に据えることの多い作者の本領発揮でもあり、世間にあふれている信長、秀吉、家康の定番なエピソードに飽いた方には強くお奨めしたい作品です。

実在をしながらも事績がほとんど残されていない、まさに創作意欲をかき立てられる氏舜なのでしょう。
いわゆる史実と創作を巧みに絡めながら、武門の家に生まれながらもそれに流されることなく、「自分とは何者なのか」を追い求めていく姿が描かれています。
氏康の死去とともに隠居をした綱成、しかし家中に隠然たる影響力を誇り、民や兵の苦難を顧みない旧さを老耄と切り捨てるところに作者の思いが見えますし、また氏舜の人生に大きな影響を与えた瓊山尼、間宮康俊など周りを固める人物も魅力的で、それぞれが自分の信ずる道を真っ直ぐに生きていく様は見事です。
その結末も映像映えをしそうな、視聴率は取れないでしょうがこういった題材の大河ドラマであれば欠かさず見ます。


2016年6月29日 読破 ★★★★☆(4点)


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チルドレン

2016-06-29 01:31:05 | 読書録

チルドレン

講談社

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不思議な作品でした。
伊坂幸太郎にはミステリーとは違った独特の世界観がありますし、これまでもそういった作品を読んできましたが、これはそれがかなり顕著になっています。
小さな謎は隠すでもなく想像ができてしまうのですがそれで評価が下がるどころか、むしろ予定調和での安心感すらあります。
知らず知らずのうちに思わずニヤリとしてしまう、そんな日常、しかし絶対に自分には訪れない日常への憧れが読む者を惹き付けるのかもしれません。

連作短編集と言うほどに話は繋がっていませんが、登場人物が共通ですので一体感があります。
一部に時間が前後してしまっていたのは意図的なのか、だからどうのと言う訳でもありませんが、そこだけにやや違和感がありました。
主人公と呼んでいいのか微妙なところではありますが自由人な陣内、決して主人公的な役回りではないのですが、「何やってんですか」「まあ仕方ないか、陣内だし」の繰り返し、それでいてどこか尊敬をされて、そして愛される存在でもあり、ほのぼのとした雰囲気を醸し出しています。
どうやら今春に続編が出たとのこと、たどり着くまでにはまだまだ時間がかかりますが、順番を変えちゃおうか、と思うぐらいのチルドレン、子どもの心を持つ大人たちでした。


2016年6月26日 読破 ★★★★☆(4点)


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QED 鎌倉の闇

2016-06-28 00:10:57 | 読書録

QED 鎌倉の闇

講談社

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お約束のQEDシリーズ、今回も事件は刺身のツマ以下の役割でしかありません。
桑原崇の講釈と事件が並行して進んでいきますのでどこで絡んでくるのかと思いきやどこでも絡まず、現場に足を運ぶでもなく、関係者と話をするでもなく、熊つ崎こと小松崎良平からの断片的な情報だけで解決をしてしまう、まさに安楽椅子探偵となってしまっています。
こうなったらもう事件を起こさなくてもよいのではないかと、そう思えるぐらいの鎌倉取材旅行でした。

その取材旅行、棚旗奈々の妹の沙織がいつの間にやら雑誌社に就職をしていて、取材に崇と奈々がつきあうところから話が始まります。
お題は鎌倉の闇、源頼朝が絶対的な君主ではなく豪族に支えられた御輿でしかなかった、なんて見方はこれまでも聞いたことはありましたが、ここまでバッサリと切り捨てるのは爽快でもあり、その傀儡ぶりを数々の「史実」からしてなるほどと思わせるところはさすがです。
いわゆる土着の鎌倉党との関係も興味深く、そして20年以上も前になりますが銭洗弁財天でお金を洗ったことを思い出しました。
そこで買った「お金がカエル」のグッズ、暫くは財布に入れていたはずなのですが気がつけば行方不明、どこかに消えてしまったからこそ宝くじが当たらないのでしょう。
灯台もと暗し、元神奈川県民として小田原に続き、久しぶりに鎌倉に行きたくもなった「証明終了」です。


2016年6月25日 読破 ★★★★☆(4点)


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薩摩軍法

2016-06-24 04:06:29 | 読書録

薩摩軍法

講談社

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胸が締め付けられるような、そんな武士道の物語です。
忠義に縛られた、あるいは意地、自尊心であり、見方によっては愚直でしかない生き様、振り回される周囲の悲哀、それらがないまぜとなって読者に問いかけてきます。
善とか悪とか、正しいとか間違っているとかで語れるものでもなく、しかし現代に生きる身からすれば理不尽で、そして残された者の哀しみが響く作品でした。

いくつかの短編によって構成されていますが、いずれも舞台は島津薩摩藩です。
江戸初期から幕末に近いころまで時代に差はあれ、薩摩隼人の一途さと、頭では理解をしても心がついていかない妻であり、部下であり、その悲しさは様々です。
一番に心打たれたのはわがままに振る舞い続けなければならなかった鶴姫、これは泣けます。
ある意味で強く、そして弱く、その後の人生が気になってなりません。


2016年6月22日 読破 ★★★★☆(4点)


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写楽

2016-06-21 01:02:34 | 読書録

写楽 閉じた国の幻(上)

新潮社

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写楽 閉じた国の幻(下)

新潮社

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東洲斎写楽、と言えば謎の浮世絵師としてその正体があれこれと話題になっている人物ですが、最近では蜂須賀家のお抱え能役者である斎藤十郎兵衛が最有力とのことです。
この斎藤十郎兵衛は江戸時代の資料にその記載があったものの実在が確認できていなかったことで別人説、喜多川歌麿、葛飾北斎、十返舎一九、司馬江漢、山東京伝こそが写楽である、と著名な文化人の別名ではないかと言われながらもいずれも決定打に欠き、そうこうしているうちに斎藤十郎兵衛が江戸八丁堀に住んでいたことが証明されました。
しかしこの作品ではそれを踏まえた上で斎藤十郎兵衛説を真っ向切り捨てて、驚くような写楽像を浮かび上がらせています。

いろいろな資料を紹介しての謎解きではありますが、どこまでが真実でどこからがフィクションなのか、そこはよく分かりません。
ただ長い後書きを読む限りではミステリー仕立てにはなっているものの、学術的にいろいろと調べてのことのようです。
なぜ10ヶ月という短い活動期間の後に痕跡も残さずに姿を消したのか、もし別人説であれば隠す必要もなく死ぬまでに一言も明かさなかったことへの違和感、写楽の版画を出版した耕書堂を主宰した蔦屋重三郎、その世話を受けた喜多川歌麿や十返舎一九らが写楽と会ったことが無いわけがないのに誰も何も語っていないのはなぜなのか、こういった写楽の謎に対してやや我田引水なところはあるものの納得感のある、しかしいわゆる学会では受け入れられないのだろうな、と思える人物の登場です。
そしてそれまで無名だった浮世絵師のデビューに高価な雲母摺りで、しかも同時に複数枚を発行した蔦屋重三郎の思い、動機こそが一番に描きたかったのかもしれません。
それだけに主人公の周辺に実際の事件をモチーフにしたとしか思えない痛ましい事故を取り上げたり、思わせぶりな言動の東大教授を都合よくワトソン役にしてみたりと、せっかくの作品が嘘っぽく、そして軽くなってしまったのが残念でもあり、これが★を減らして平凡なところに落ち着いてしまった理由です。
これまた後書きには続編への意欲を見せていますのでそこへの布石だったのかもしれませんが、例えば遺族のことを考えれば感心はできないのが正直なところです。


2016年6月19日 読破 ★★★☆☆(3点)


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翡翠の城

2016-06-10 01:14:40 | 読書録

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シリーズの3作目、ようやくに建築探偵らしくなってきました。
地方のホテル王である一族の内紛、とでも言いますか、一族の盟主で恐れられ、また敬して遠ざけられた存在の老女、その老女の住む碧水閣が物語の舞台です。
ある有名な、しかし謎に包まれた存在でもある建築家が関係をしたかもしれない碧水閣、桜井京介が調査のために訪れるところから事件が動き出します。
お馴染みの蒼、栗山深春に加えて海外出張中だった神代教授が帰国をするなど顔ぶれも豪華、かなりのボリュームではありましたが、これまでで一番に楽しませてもらいました。

建物に対する人の想い、その想いが人を動かす、年月を重ねてきたものだからこそなのでしょう。
建築探偵ともなれば建物の謎、トリックと考えてしまいがちですが、どうやらこのシリーズは建物にまつわるストーリーに重きを置いているようです。
ホテルの創業者の時代に起きた殺人事件、繰り返された自殺、そして今に社長の座を争っての殺人も全て碧水閣がもたらした、と言えなくもありません。
なかなか命を持たない物質に対する想いというものは分かりづらくもありますが、さして違和感もなく没頭できる出来に仕上がっています。
解けそうで解けない、半分ぐらいが当たって半分ぐらいはやられた!となる、ミステリーとしてのバランスも良かったです。
そうなれば次が楽しみになりますが、後書きだかを読めばこのシチュエーションでの作品が終わりそうな感じでやや不安ではあるものの、あまり間隔を空けずに手を出してみます。


2016年6月8日 読破 ★★★★☆(4点)


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松平春嶽

2016-06-05 00:15:51 | 読書録

松平春嶽

PHP研究所

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かつては興味のあった幕末も今ではほとんど気にかけることもなく、史跡巡りでもたまたま巡り合わせれば、といった程度になっています。
この作品もかなり初期に買ってから放置をしていたものを、何の気なしに手に取った次第です。
松平春嶽、諱は慶永で越前福井藩主は御三卿の田安家出身で徳川吉宗の血に繋がり、薩摩の島津斉彬、土佐の山内容堂、宇和島の伊達宗城とともに四賢侯と称された名君でもあるのですが、しかし明治維新後は早くに身を引いたこともあってか一般的にはあまり名が知られてはいません。
それでも日本史の教科書には政事総裁職に就いたことが載っていたような、大河ドラマの龍馬伝では夏八木勲が演じていました。

そんなこんなで自分の知らない松平春嶽を、とそれなりには期待をしていたのですが、しかしあっさりと裏切られました。
幼少時からのエピソードも名君に繋がるものはなく、むしろ何もしない、考えてはいても行動が伴わない、決断力に欠く、そんな優柔不断さが見え隠れしています。
上に立つ者は必ずしも有能でなくとも下の者を上手く使えれば名君に足るのですが、しかし中根雪江、橋本左内、横井小楠らを活かすような描写はありません。
都合の悪いことは全て徳川慶喜に押しつけているようにも見えますし、坂本龍馬や勝海舟を引っ張り出してのそれもあざとく、この作品だけを読めば果たして名君だったのか、ただただ平凡な、何もしなかったことで名を汚すことが無かっただけではないかとすら思えてしまいます。
スーパーヒーロー的な粉飾もどうかとは思いますが、ここまで影が薄い主人公はあるいは初めてかもしれません。


2016年6月4日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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