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東北の寒村から上京して東大大学院に通う島崎国男はやはり東京に出稼ぎに出てきていた兄が飯場で死亡したことで遺骨を受け取りに出向き、そこで東京オリンピックを目前にして建築ラッシュが続く中でそれを支えながらも、しかし社会の底辺とも言える肉体労働者の過酷な生き様を目にします。
自らもその肉体労働を経験することで理不尽な社会構造に怒りを覚えた島崎は、オリンピックを人質に国、政府に対して戦いを挑むといったストーリーです。
島崎、それを追う警察、この二つのストーリーが時間差を置いて展開していきます。
その時間差が徐々に縮まっていって一本に紡がれて結末を迎える、事件、種明かし、みたいな構成はある意味で新鮮ではありました。
しかしつまらない、これが吉川英治文学賞を受賞した決め手が何だったのかが分からず、読み切るのにかなりエネルギーが要ったのが正直なところです。
富が東京に集中をする一方でその日を食い繋ぐのに汲々とする地方、あるいはホワイトカラーとブルーカラー、この地域格差と経済格差を問題提起するにせよ、それがなぜ身代金を要求することに結びつくのか、大金を手にすることでその先に何があるのか、何かを解決できるのか、そこがさっぱり理解できませんでした。
そのため島崎に共鳴も感情移入もできず、それこそただのゲームのようにも思えてしまい、ステレオタイプな刑事部と公安部の対立などは横暴さが際立っただけです。
ただただ無力感だけが残ったような、これこそが著者の言いたかったことであればまさに名作、しかし自分にとっては駄作でしかない昭和39年の東京の一風景でした。
2016年11月8日 読破 ★★☆☆☆(2点)
キャストを見ればなかなか原作のイメージに合っている人が多いですが・・・その原作のままのテーマだったのかしら。
であれば盛り上がらなかっただろうなぁ。