電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

日米開戦後も続いた英語教育――渡部昇一教授

2016-01-11 | 04-歴史・文化・社会
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『日本史から見た日本人 昭和編』http://tinyurl.com/mzklt2z
【 渡部昇一、祥伝社 (2000/02)、p361 】

2章 世界史から見た「大東亜(だいとうあ)戦争」
   ――三つの外的条件が、日本の暴走を決定づけた

   (5) 第二次世界大戦――常識のウソ

2-5-5 日米開戦後も続いた英語教育

大戦が始まってからも、はじめの2年間は、その影響は生活に感じられなかった。

私が小学校6年生の時の夏、父は私を連れて仙台に遊びに行ったことがある。日本海岸から太平洋岸までであるから、戦前としてはちょっとした旅行であった。仙台駅でソロモン沖海戦の臨時ニュースを聞いた記憶があるから、昭和17年の8月8日か、9日のことだった。

物見遊山の旅行ができるぐらいだから、呑気なものである。松島の遊覧船にも乗ったし、帰りにお土産も買っている。途中、瀬見(せみ)温泉で眼鏡を盗まれた。温泉宿で小学生の近眼鏡が盗まれるようになったことは、だいぶ人気(じんき)が悪くなったことを示すものである。しかし、旅館の食事は悪くなく、鮎の塩焼きもうまかった。宿の縁側から見ると、下の渓流に魚がいっぱいいた。

帰りに山形市に立ち寄って、眼鏡を買った。特定の品物は買えなかったのであろうが、小市民の書いたいものは、まだ何でもあった感じである。東京でも、かなりの物が出回っていたことを山本夏彦氏が書いておられる。その頃、新しい雑誌も発行できたという。

日華事変は、よその国の戦争みたいなもので生活には関係なく、そして日米開戦9カ月目でも、そんな呑気な旅行ができたのである。汽車も空(す)いており、切符を買う苦労もなかったようである。

旧制中学に私が入学したのは、昭和18年(1943)4月である。

今から考えるとガダルカナル島転進の後であり、敗色が濃厚だった頃であるが、中学にはかなり自由主義的・教養主義的なところがあった。英語の時間も、リーダーと文法・作文の2種類があり、リーダーは神田乃武(ないぶ)男爵の『キングズ・クラウン・リーダー』であった。

その中の物語は、イギリスの上層中流(アッパー・ミドル)の生活が基調になっていた。そこに出てくる子どものお父さんはバンカー(銀行家)であって、バンク・クラーク(銀行員)ではなかった。イギリスと開戦して2年にもなるのに、教室ではイギリス中産階級の生活を描いた教科書を読んでいたのだから、呑気な話である。呑気なのは、私が田舎の中学にいたせいばかりでもないようだ。というのは、教科書は東京の出版社のものだったからである。交戦中の敵国の生活を美化しているような教科書を、少なくとも戦争の最初の2年間は使っていた、ということをイギリス人が知ったら驚いたのではないか。

イギリスは、すでに何年も前から、日本と交戦中の蒋介石政権に対して、中立国にはあるまじき戦略物質援助をやっていたうえに、対戦が始まる前から、その広大な植民地を含めた全版図(ぜんはんと)の中にある日本の資産を凍結していた。何年も前からイギリスは、日本に敵対行動を取っており、しかも、本当の戦争が始まってから2年にもなるのに、表紙にイギリスの王冠のついた英語教科書を日本の中学校は使っていた。

その頃の――そして、今まで続いている――イギリスの反日プロパガンダと比べるならば、日本の敵国に対する反感の少なさは注目すべきものであった。ただ、アメリカに対してはもっと強い敵愾心があったと思われる。それは、移民問題と、シナ大陸における多年にわたる反日運動と、直接には石油を止められたという実感があったからであろう。

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