読むクスリ 《 一羽のハトがもたらした巨利——ロスチャイルド 》

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ウェリントンが率いるイギリス軍がワーテルロー（現在のベルギー中部）でナポレオン軍と戦っていて、市場の関心は勝敗の帰趨に集中していた。むろんイギリス軍の勝なら買い、負けたら売りだ。しかし戦場は海の彼方、様子を知る手段がない。そこへ始まった突然の投げが、売りにつぐ売りを呼ぶことになったのだ。


◆一羽のハトがもたらした巨利

『読むクスリ １７』
（ 上前淳一郎、文藝春秋 (1992/06)、p223 ）

時は下って１８１５年６月２０日、イギリス証券取引所で一人の男が大量の公債を投げ売りし始めた。

「なぜだ？　あいつはどんな情報を握っているのだ」

「イギリス軍がナポレオンに敗れたのだ！　それを早耳したのに違いない」

市場は騒然となり、投げが相ついで、公債相場は大暴落となった。

ウェリントンが率いるイギリス軍がワーテルロー（現在のベルギー中部）でナポレオン軍と戦っていて、市場の関心は勝敗の帰趨に集中していた。

むろんイギリス軍の勝なら買い、負けたら売りだ。

しかし戦場は海の彼方、様子を知る手段がない。そこへ始まった突然の投げが、売りにつぐ売りを呼ぶことになったのだ。

ところが、その男は、相場が底を打ったところで一転買いに出た。

「彼は伝書バトを使って、二日前の１８日イギリス軍がナポレオンの軍隊を撃破したことを、誰よりも早く知っていたのです」

やがてイギリス軍大勝の報が船でもたらされる。相場はたちまち暴騰を演じ、安値でしこたま買い占めていた男、ネイサン・ロスチャイルドは数百万ポンドの巨利を手にした。

のちのロスチャイルド財閥の繁栄は、そうやって一羽のハトによってもたらされたのだ。