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「『2.0』に乗り遅れるな――革新的な進化問う時代」
本社コラムニスト・西岡幸一
2006.10.30 日経新聞(朝刊) 核心
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関連ブログ:
ウェブ新時代――無数かつ無名の個の才能がウェブ上で開花する
デル業績不振をどう克服するか――デルモデルは無駄がない分、改善の余地も小さい
「わたしたちはデル2.0という新しい経営革新に踏み出しました」。先週、内外の著名経営者が参加した世界経営者会議で世界最大のパソコンメーカー、デルのロリンズCEO(最高経営責任者)はこう強調した。「デル・モデル」という、先進的なサプライチェーンを軸にした顧客とのダイレクトな受注・生産・納品方式で市場を制覇したが、ここにきて変調を来している。グローバル化や個人顧客の増大という市場の変化の中で、利益率を急落させ、シェアトップの座は今年7-9月期にはライバルのヒューレット・パッカード(HP)に奪われた。
この成長の曲がり角に対処するため、サービス拠点を拡大し人員も増強した。紋切り型で機械的との批判もあった顧客サービスを原点に戻って改善し始めた。「デル・モデル」の新規まき直しであり、それを「デル2.0」と表現したのだ。
● ○ ● ○ ●
2.0といえばインターネット革命の第二幕を意味する「Web2.0(ウェブ2点ゼロ)」ということばが広がっている。ブロードバンドの普及を背景に利用者が情報を共有したり、ネット上で作業できる第2世代のネットサービスの潮流をまとめた概念だ。モノで明示的に示せないので分かりにくいが、プログラムやビデオの視聴などのネットサービスをたのしんでいる世代にはおなじみだ。
一般の耳目を集めたひとつのきっかけは今月中旬、誕生してわずか20カ月しか経過していない動画共有サイトを運営する米国のベンチャー、ユーチューブがネット検索の最大手、グーグルに約2千億円で買収されたことだ。新しいビジネスの大鉱脈として「Web2.0」という津波が到来しているという認識が一気に浸透した。
米国ではユーチューブ以前にもSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のマイスペース・ドット・コムなど斬新なネットサービス技術を持つベンチャーが相次いで買収されていた。誕生してせいぜい数年、20歳代の創業者が経営する赤字企業に何百億円という値段が付く。90年代末から2000年ごろに見慣れた光景がよみがえってきた。
動画配信市場を独占しかねないグーグル自身、いまや「Web2.0」の旗手として株式の時価総額が十数兆円にも膨張し、IBMをも凌ぐ。
ただし、ベンチャー企業の価値評価を厳しくみれば、これはドットコム企業が乱舞したブームの再来の「ドットコム2.0」にすぎないかもしれないし、「ITバブル2.0」の恐れもある。独創的なイノベーションと模倣企業を厳しく見分けなくてはならない
2.0を1.0からの革新的な体質の進化の表現ととらえると2.0現象は随所に出てきている。5年前の今月にiPodを発表したアップルコンピュータ。音楽やメディアのプラットフォームを激変させ、低迷していた経営体質が見事に立ち直り、「アップル2.0」に変身した。
● ○ ● ○ ●
景気のいざなぎ超えを迎えるわが国の産業界を見渡しても同じだ。
創業95年ににして東京証券取引所への上場に踏み切った出光興産。大家族主義という創業者出光佐三の経営理念を軸に非公開企業を貫き、何度もの石油ショックや景気後退、金融不安を乗り越えてきた。しかし、コーポレートガバナンスの近代化や資金調達の多様化などを狙って公開した。株価など順調にすべり出したが、今後資本市場にどう翻弄(ほんろう)されるか分からない。古典的な日本的経営から脱皮した「出光2.0」の始まりだ。
01年をボトムに5年連続増益、4年連続最高益更新の道を歩む企業でも、円安や外需の僥倖(ぎょうこう)に依存しないそれぞれの戦略が必要になってきた。この5年間が典型的には、カリスマ的経営者が腕をふるったバランスシートの調整の上に僥倖が降り注いだ「1.0」とすれば、これからはミドルなどが核になって損益計算書ベースの収益マシンに企業を変える「2.0」の出番だ。
むろん「2.0」の旗を掲げると結果が付いてくるほどたやすくない。昨年、日本を代表する企業として初めて、ストリンガーという外国人トップをいただいたソニー。まさに「ソニー2.0」に入ったが成果ははかばかしくない。リチウムイオン電池の欠陥でソニーブランドと業績に大きな穴を開け、ゲーム機や次世代DVDレコーダーでも技術神話の真贋(しんがん)が問われている。
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くしくも「1.0」時代は小泉純一郎内閣に呼応する。発足直後に北朝鮮の核実験という大問題に直面した安倍晋三内閣は、経済運営では経済財政諮問会議のメンバーを一新、成長重視にかじを切る姿勢を強めて「小泉2.0」ではないとアピールする。しかし、自然増収頼みによる財政再建に傾斜しずぎると「安倍1.0」の先は見えにくい。
もともと2.0や3.0という表現は「ウィンドウズ3.0」などのようにソフトウェアのバージョンアップ版によく使われてきた。書籍の改訂版などと同じ意味だ。ウィンドウズは95、98、XP、最新版のビスタなどと表記を変えてきているが、世界的なベストセラー教科書として18版を数えるサミュエルソンの『経済学』ならさしずめ『経済学18.0』である。
人間の集合体である企業はソフトでも書籍でもないのでそんなに頻繁に衣替えをする必要はない。しかし、視力検査のように2.0が上限ではない。2.0時代に遅れず、しかも連続的なバージョンアップを忘れないことだ。
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「『2.0』に乗り遅れるな――革新的な進化問う時代」
本社コラムニスト・西岡幸一
2006.10.30 日経新聞(朝刊) 核心
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デル業績不振をどう克服するか――デルモデルは無駄がない分、改善の余地も小さい
「わたしたちはデル2.0という新しい経営革新に踏み出しました」。先週、内外の著名経営者が参加した世界経営者会議で世界最大のパソコンメーカー、デルのロリンズCEO(最高経営責任者)はこう強調した。「デル・モデル」という、先進的なサプライチェーンを軸にした顧客とのダイレクトな受注・生産・納品方式で市場を制覇したが、ここにきて変調を来している。グローバル化や個人顧客の増大という市場の変化の中で、利益率を急落させ、シェアトップの座は今年7-9月期にはライバルのヒューレット・パッカード(HP)に奪われた。
この成長の曲がり角に対処するため、サービス拠点を拡大し人員も増強した。紋切り型で機械的との批判もあった顧客サービスを原点に戻って改善し始めた。「デル・モデル」の新規まき直しであり、それを「デル2.0」と表現したのだ。
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2.0といえばインターネット革命の第二幕を意味する「Web2.0(ウェブ2点ゼロ)」ということばが広がっている。ブロードバンドの普及を背景に利用者が情報を共有したり、ネット上で作業できる第2世代のネットサービスの潮流をまとめた概念だ。モノで明示的に示せないので分かりにくいが、プログラムやビデオの視聴などのネットサービスをたのしんでいる世代にはおなじみだ。
一般の耳目を集めたひとつのきっかけは今月中旬、誕生してわずか20カ月しか経過していない動画共有サイトを運営する米国のベンチャー、ユーチューブがネット検索の最大手、グーグルに約2千億円で買収されたことだ。新しいビジネスの大鉱脈として「Web2.0」という津波が到来しているという認識が一気に浸透した。
米国ではユーチューブ以前にもSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のマイスペース・ドット・コムなど斬新なネットサービス技術を持つベンチャーが相次いで買収されていた。誕生してせいぜい数年、20歳代の創業者が経営する赤字企業に何百億円という値段が付く。90年代末から2000年ごろに見慣れた光景がよみがえってきた。
動画配信市場を独占しかねないグーグル自身、いまや「Web2.0」の旗手として株式の時価総額が十数兆円にも膨張し、IBMをも凌ぐ。
ただし、ベンチャー企業の価値評価を厳しくみれば、これはドットコム企業が乱舞したブームの再来の「ドットコム2.0」にすぎないかもしれないし、「ITバブル2.0」の恐れもある。独創的なイノベーションと模倣企業を厳しく見分けなくてはならない
2.0を1.0からの革新的な体質の進化の表現ととらえると2.0現象は随所に出てきている。5年前の今月にiPodを発表したアップルコンピュータ。音楽やメディアのプラットフォームを激変させ、低迷していた経営体質が見事に立ち直り、「アップル2.0」に変身した。
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景気のいざなぎ超えを迎えるわが国の産業界を見渡しても同じだ。
創業95年ににして東京証券取引所への上場に踏み切った出光興産。大家族主義という創業者出光佐三の経営理念を軸に非公開企業を貫き、何度もの石油ショックや景気後退、金融不安を乗り越えてきた。しかし、コーポレートガバナンスの近代化や資金調達の多様化などを狙って公開した。株価など順調にすべり出したが、今後資本市場にどう翻弄(ほんろう)されるか分からない。古典的な日本的経営から脱皮した「出光2.0」の始まりだ。
01年をボトムに5年連続増益、4年連続最高益更新の道を歩む企業でも、円安や外需の僥倖(ぎょうこう)に依存しないそれぞれの戦略が必要になってきた。この5年間が典型的には、カリスマ的経営者が腕をふるったバランスシートの調整の上に僥倖が降り注いだ「1.0」とすれば、これからはミドルなどが核になって損益計算書ベースの収益マシンに企業を変える「2.0」の出番だ。
むろん「2.0」の旗を掲げると結果が付いてくるほどたやすくない。昨年、日本を代表する企業として初めて、ストリンガーという外国人トップをいただいたソニー。まさに「ソニー2.0」に入ったが成果ははかばかしくない。リチウムイオン電池の欠陥でソニーブランドと業績に大きな穴を開け、ゲーム機や次世代DVDレコーダーでも技術神話の真贋(しんがん)が問われている。
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くしくも「1.0」時代は小泉純一郎内閣に呼応する。発足直後に北朝鮮の核実験という大問題に直面した安倍晋三内閣は、経済運営では経済財政諮問会議のメンバーを一新、成長重視にかじを切る姿勢を強めて「小泉2.0」ではないとアピールする。しかし、自然増収頼みによる財政再建に傾斜しずぎると「安倍1.0」の先は見えにくい。
もともと2.0や3.0という表現は「ウィンドウズ3.0」などのようにソフトウェアのバージョンアップ版によく使われてきた。書籍の改訂版などと同じ意味だ。ウィンドウズは95、98、XP、最新版のビスタなどと表記を変えてきているが、世界的なベストセラー教科書として18版を数えるサミュエルソンの『経済学』ならさしずめ『経済学18.0』である。
人間の集合体である企業はソフトでも書籍でもないのでそんなに頻繁に衣替えをする必要はない。しかし、視力検査のように2.0が上限ではない。2.0時代に遅れず、しかも連続的なバージョンアップを忘れないことだ。
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