電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

液晶テレビのシェアに異変が出始める――デジタルの罠

2007-09-25 | 05-真相・背景・経緯
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家電の異変、無名塾が躍進――両刃の剣のデジタル技術
【「経営の視点」2007.09.24 日経新聞(朝刊)】

シャープとパイオニアが提携を決めた。日本ビクターとケンウッドの統合など家電業界で再編が相次いでいる。家電王国ニッポンの名にかけ、競争力を再強化する狙いだが、デジタル時代の競争は技術一辺倒では戦い抜けない面もある。

「サムスン電子が2位に落ちるとは」。世界の家電大手が競争する北米市場で、先月起きた異変が話題になった。「ビジオ」という無名の米国企業が液晶テレビでシェア1位になったのだ。工場を持たない、いわゆるファブレスメーカーである。

異変は今月初めにベルリンで開かれた欧州最大の家電見本市「IFA」でも見られた。商品誌による液晶テレビの評価で「メッツ」という無名商品がデザインと操作性から1位に躍進。ドイツの老舗ストロボメーカーが新規事業として開発した液晶テレビだった。

無名企業の躍進現象は1年ほど前から始まった。テレビの開発には技術が必要だが、液晶パネルのモジュール化が進み、テレビ製造を担うEMS(受託製造会社)が増えたことで、自ら技術を持たなくても商品化が可能になったからだ。

ドイツの状況はもっと顕著だ。日本や韓国の攻勢で経営難に陥ったグルンディッヒやレーベといった老舗家電メーカーがデジタル化で息を吹き返している。トルコの家電メーカーに身売りしたグルンディッヒは製造をトルコに移して液晶テレビを開発。レーベはシャープから資本と液晶パネルの供給を受け、高級ブランドを再構築した。

技術よりデザインを前面に押し出したのがフィリップスだ。IFAで光る液晶テレビ「オーレア」を発表。映像に合わせてテレビ全体がオーロラのように光り、ステレオセットを上回る音響効果も実現した。

家電部門のルディ・プルヴォースト社長は「液晶画面では画質の差は小さい。そこでテレビ、照明、ステレオを融合した新しい家電を作ろうと考えた」と語る。日本や韓国勢と戦うより、新しい視聴スタイルを提案した米アップルをライバルと考えた。

一方、日本の経営者には今も技術信仰が根強い。「液晶テレビの付加価値の8割は液晶。垂直統合型でなければもうからない」(片山幹雄シャープ社長)。「アイデア商品は主力にはなりえない」(大坪文雄松下電器産業社長)という。

デジタル技術は過去にも市場構造を大きく変えてきた。クオーツの登場で誰もが時計を作れるようになり、CDの普及で音響専業メーカーは姿を消した。パイオニアはレーザーディスクで成功したが、プラズマテレビではデジタル技術に特有の物価下落に苦しんでいる。デジタル技術には変化が速く、陳腐化も速いという罠(わな)がある。特定技術への過度な加担は時として消費者ニーズともギャップを招いてしまう。

理想に走った安倍政権は足元の現実を見失い、崩壊した。日本の家電業界にも同じ思い込みがありはしないか。家電産業の復権に技術は不可欠だが、それだけで消費者の心はつかめない。デザインや操作性など異なる物差しも必要だ。日本の家電メーカーにはしなやかで、したたかな戦略が求められている。

(編集委員・関口和一)

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