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「徴用工賠償」で日韓協議求めよ――西岡力・東京基督教大学教授
【「正論」産経新聞2013.08.23 】
ソウル高裁差し戻し審で7月10日、新日鉄住金に対し、元徴用工の韓国人に請求通り計4億ウォン(約3500万円)の支払いを命じる判決が言い渡された。7月30日には、釜山高裁が三菱重工業に同じく元徴用工への賠償を命じる判決を出した。両社とも判決を不当として韓国大法院(最高裁)に上告して争う方針というが、以下の経緯から勝訴する可能性は低い。
◆反日盧政権も請求権協定是認
1997年に日本で起こされた訴訟では日韓基本条約、請求権協定で解決済みだとして2003年に原告が敗訴し、後の韓国での裁判でも1、2審は日本での確定判決の効力を認め請求を退けた。
だが昨年5月、大法院が「日本の判決は植民地支配が合法であるという認識を前提に国家総動員法の原告への適用を有効であると評価しているが、これは日本による韓国支配は違法な占領に過ぎず、強制動員自体を違法とみなす韓国憲法の価値観に反している」「強制徴用は請求権協定の対象外だ」などとして個人請求権を認め、審理を高裁に差し戻した。それを受け、ソウルと釜山の高裁が個人賠償の支払いを命じたのである。
日本ではほとんど報じられていないが、政府を挙げて反日政策を推進した盧武鉉元政権でも、元徴用工らへの補償を日本に求めることはできないと判断し、国内法を制定して支援を実施している。
盧政権は05年に日韓国交会談の外交文書を公開した際、「韓日会談文書公開の後続対策に関連する民官共同委員会」を設けた。委員会は、左翼運動家出身の李海瓚首相と民間人の弁護士が共同委員長を務め、関係部署代表の政府委員9人と、学者、言論人、運動家など民間委員7人から成り、親北左派団体「参与連帯」の孫赫載運営委員長も委員になっていた。そんな委員会も06年3月8日、元徴用工に関しては、日本に補償を求めるのでなく韓国政府としての支援をすべきだとの結論を公表し、07年に、「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者など支援に関する法律」が制定されたのである。
◆賠償要求の動き拡大の恐れ
同法は、軍人、軍属、労務者として国外に動員されて死亡したり行方不明になったりした者の家族に対して2千万ウォン、負傷し障害を負った者に対してはその程度に応じて最高2千万ウォン、日本の政府や民間に給与、手当、弔慰金、扶助料など未収金などがある者には当時の1円を2千ウォンに換算して慰労金を支給する、と定めている。
ちなみに、民官共同委員会は同じ3月8日、慰安婦問題については日本の責任を追及するという政府方針を公表した。この方針が、慰安婦国家賠償に関して日本と交渉しないのは違憲だとする信じ難い憲法裁判所判決(12年)を生んだことは、関係者周知である。
強調したいのは、慰安婦の国家賠償を求める方針を打ち出した盧政権でさえ、日韓交渉の過程を踏まえるなら元徴用工への補償は1965年の日韓基本条約、請求権協定で終わっていると認めざるを得なかったという重い事実だ。
現在の韓国政府も、徴用工の請求権に関する問題は日韓請求権協定で外交上は解決済みだとの立場に変更はないという常識的な表明をしている。その意味で、大法院の差し戻し判決と今回の高裁判決はまさに超法規的な判決であり、日韓基本条約と経済協力、請求権協定などを根底から覆すものだ。
「日本の朝鮮統治は違法な占領」とするこの判決が確定すれば、日本統治下のあらゆる出来事について日本の政府と民間に賠償を求める動きが広がり、日韓関係は収拾不能の混乱に陥る恐れがある。
◆日韓基本条約秩序を死守せよ
報道されているように、新日鉄住金が判決確定の場合、元徴用工に対して、名目は何にせよ金を払うなら、条約・協定の当然の解釈を国内で主張してきた、韓国の良識派の判事、外交官、専門家らは孤立し発言権を失う。日本に対しては理不尽な要求でもし続ければ最後にはカネが来るという経験則を、韓国社会にさらに定着させてしまうことになり、際限なく個人賠償要求が噴出すだろう。
そのような危機的な事態を回避するためには、日本政府が全面的に介入して、理不尽な補償要求から民間企業を守らなければならない。日韓請求権協定には、協定の解釈及び実施に関する紛争解決の手段が規定されている。そうした紛争が発生した場合、外交で解決することとし、外交で解決できなかった紛争は、第三国の委員を含む仲裁委員会を設置して解決すること、とされているのである。
今回の一連の不当判決はまさしくそうしたケースに該当する。日本側から両国間の協議を求めるべきだろう。韓国が応じなければ、日本政府が協議を求めていることを理由にして、確定判決後に予想される新日鉄住金の財産差し押さえを阻止する法的な手続きも、準備しておかなければならない。
あらゆる手段を駆使し、日韓条約秩序を守る努力をすべきだ。そして、「人道」の名目で基金を作るといった安易な譲歩は、禍根を残すだけだと知るべきである。
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「徴用工賠償」で日韓協議求めよ――西岡力・東京基督教大学教授
【「正論」産経新聞2013.08.23 】
ソウル高裁差し戻し審で7月10日、新日鉄住金に対し、元徴用工の韓国人に請求通り計4億ウォン(約3500万円)の支払いを命じる判決が言い渡された。7月30日には、釜山高裁が三菱重工業に同じく元徴用工への賠償を命じる判決を出した。両社とも判決を不当として韓国大法院(最高裁)に上告して争う方針というが、以下の経緯から勝訴する可能性は低い。
◆反日盧政権も請求権協定是認
1997年に日本で起こされた訴訟では日韓基本条約、請求権協定で解決済みだとして2003年に原告が敗訴し、後の韓国での裁判でも1、2審は日本での確定判決の効力を認め請求を退けた。
だが昨年5月、大法院が「日本の判決は植民地支配が合法であるという認識を前提に国家総動員法の原告への適用を有効であると評価しているが、これは日本による韓国支配は違法な占領に過ぎず、強制動員自体を違法とみなす韓国憲法の価値観に反している」「強制徴用は請求権協定の対象外だ」などとして個人請求権を認め、審理を高裁に差し戻した。それを受け、ソウルと釜山の高裁が個人賠償の支払いを命じたのである。
日本ではほとんど報じられていないが、政府を挙げて反日政策を推進した盧武鉉元政権でも、元徴用工らへの補償を日本に求めることはできないと判断し、国内法を制定して支援を実施している。
盧政権は05年に日韓国交会談の外交文書を公開した際、「韓日会談文書公開の後続対策に関連する民官共同委員会」を設けた。委員会は、左翼運動家出身の李海瓚首相と民間人の弁護士が共同委員長を務め、関係部署代表の政府委員9人と、学者、言論人、運動家など民間委員7人から成り、親北左派団体「参与連帯」の孫赫載運営委員長も委員になっていた。そんな委員会も06年3月8日、元徴用工に関しては、日本に補償を求めるのでなく韓国政府としての支援をすべきだとの結論を公表し、07年に、「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者など支援に関する法律」が制定されたのである。
◆賠償要求の動き拡大の恐れ
同法は、軍人、軍属、労務者として国外に動員されて死亡したり行方不明になったりした者の家族に対して2千万ウォン、負傷し障害を負った者に対してはその程度に応じて最高2千万ウォン、日本の政府や民間に給与、手当、弔慰金、扶助料など未収金などがある者には当時の1円を2千ウォンに換算して慰労金を支給する、と定めている。
ちなみに、民官共同委員会は同じ3月8日、慰安婦問題については日本の責任を追及するという政府方針を公表した。この方針が、慰安婦国家賠償に関して日本と交渉しないのは違憲だとする信じ難い憲法裁判所判決(12年)を生んだことは、関係者周知である。
強調したいのは、慰安婦の国家賠償を求める方針を打ち出した盧政権でさえ、日韓交渉の過程を踏まえるなら元徴用工への補償は1965年の日韓基本条約、請求権協定で終わっていると認めざるを得なかったという重い事実だ。
現在の韓国政府も、徴用工の請求権に関する問題は日韓請求権協定で外交上は解決済みだとの立場に変更はないという常識的な表明をしている。その意味で、大法院の差し戻し判決と今回の高裁判決はまさに超法規的な判決であり、日韓基本条約と経済協力、請求権協定などを根底から覆すものだ。
「日本の朝鮮統治は違法な占領」とするこの判決が確定すれば、日本統治下のあらゆる出来事について日本の政府と民間に賠償を求める動きが広がり、日韓関係は収拾不能の混乱に陥る恐れがある。
◆日韓基本条約秩序を死守せよ
報道されているように、新日鉄住金が判決確定の場合、元徴用工に対して、名目は何にせよ金を払うなら、条約・協定の当然の解釈を国内で主張してきた、韓国の良識派の判事、外交官、専門家らは孤立し発言権を失う。日本に対しては理不尽な要求でもし続ければ最後にはカネが来るという経験則を、韓国社会にさらに定着させてしまうことになり、際限なく個人賠償要求が噴出すだろう。
そのような危機的な事態を回避するためには、日本政府が全面的に介入して、理不尽な補償要求から民間企業を守らなければならない。日韓請求権協定には、協定の解釈及び実施に関する紛争解決の手段が規定されている。そうした紛争が発生した場合、外交で解決することとし、外交で解決できなかった紛争は、第三国の委員を含む仲裁委員会を設置して解決すること、とされているのである。
今回の一連の不当判決はまさしくそうしたケースに該当する。日本側から両国間の協議を求めるべきだろう。韓国が応じなければ、日本政府が協議を求めていることを理由にして、確定判決後に予想される新日鉄住金の財産差し押さえを阻止する法的な手続きも、準備しておかなければならない。
あらゆる手段を駆使し、日韓条約秩序を守る努力をすべきだ。そして、「人道」の名目で基金を作るといった安易な譲歩は、禍根を残すだけだと知るべきである。
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