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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

キングスマン

2015年09月25日 | 洋画(15年)
 『キングスマン』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)評判が大層良いことを耳にして映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、1997年の中東。
 キングスマン達の乗るヘリコプターが石造りの建物をロケット砲などで襲撃します。
 そして、建物の中に入り込んだキングスマンが、一人の捕虜を捕まえ情報を得ようとすると、隠し持っていた手榴弾を捕虜が爆発させようとしたため、キングスマンの一人が捕虜に覆いかぶさり、仲間を救います。
 キングスマンのハリー(注2:コリン・ファース)は、「クソッ、見逃すとは!すまない、死なせてしまって」と悔しがります。

 次いでロンドン。
 ハリーが、仲間を救ってくれた男の家に向かいます。
 ハリーは、「ご主人の勇敢な行為については、これ以上話せません」と言いながら、メダルを渡して、「困った時には、メダルの裏側に書かれている番号に電話してくれれば、援助します」と告げます。
 妻が「援助なんか要らない。夫を返して」と言うので、ハリーはそのメダルを息子のエグジーに渡して、「これを大切にするんだ。合言葉は「ブローグではなくオックスフォード」だ」と教えます。

 更に場面は17年後。舞台はアルゼンチンの雪山に設けられた小屋。
 その中にアーノルド教授(マーク・ハミル)が捕らえられているところ、キングスマンのランスロットが救出にやってきます。ランスロットは、消音銃を使って敵をなぎ倒すものの、敵の幹部のガゼルソフィア・ブテラ)の義足(先に剣が付いています)による攻撃で真っ二つにされてしまいます。
 ガゼルが、転がっている幾つもの死体の上に布を被せると、敵のボスのヴァレンタインサミュエル・L・ジャクソン)がドアから入ってきて、「これは嬉しい、私は暴力が苦手。血を見ただけで吐いてしまう。不快なものをお見せした」などと言って、アーノルド教授に近づきます。

 他方、ロンドンにある国際的な諜報組織キングスマンのボスであるアーサーマイケル・ケイン)は、ランスロットの死を受けて、隊員の補充を計画します。
 そして、大きくなったエグジータロン・エガートン)も新規隊員選抜試験を受けることになりますが(注3)、果たして、教官マーリンマーク・ストロング)が実施する過酷な試験をくぐり抜けることができるでしょうか、そしてキングスマンとヴァレンタインとの闘いはどうなるのでしょうか、………?

 最初から最後まで弛れたところが少しもなく、次から次へと面白くストーリが展開し、実に楽しい映画でした。ただ、途中における主役の扱いにはやや拍子抜けしたところですし、また、シリアスではない昔のスパイ物が良いなどと映画の中で言われていますが、セクシーな女性がもう少し活躍したり、また各種の変わった車(あるいは武器)が登場したりすれば、もっと面白くなるのではと思ったりしました(注4)。

(2)本作の公式サイトの冒頭に、「今まで、こんなブッ飛んだスパイ映画があっただろうか!」とありますが、果たして本作は「スパイ映画」と言えるでしょうか?
 確かに、そこで言われているように、「マシンガンに早変わりする傘やナイフ仕込みの靴など魅力的なスパイ・ガジェットの数々」を映画の中に見ることはできます。
 でも、キングスマンの諜報活動が実際にどんなものなのかはほとんど描かれておらず、上記(1)で見るように、警視庁のSAT(特殊急襲部隊)のごとく、敵のアジトを急襲するのがもっぱらの仕事のように描き出されています(注5)。

 また、寄付をする大金持ちということでヴァレンタインに近づいたハリーが、「スパイ映画は好き?」と尋ねるヴァレンタインに、「最近のはややシリアスすぎる」、「昔の007では悪役が良かった」などと答えると、ヴァレンタインも「子供の頃、スパイに憧れたものだ」と応じます。



 昔の「007」が良かったというのであれば(6注)、エグジーの相棒となるロキシーソフィー・クックソン)や敵のガゼルがもっとセクシーに振る舞ったり(注7)、また秘密兵器を満載したボンドカーのようなものが登場したりしたら、もっと面白くなったのかもしれません。

 とはいえ、そんなことはどうでもいい些細なことであり、7回にわたる新規隊員選抜試験はどれもなかなか興味深いものですし(注8)、敵との壮絶な戦いも実にスピーディーに描かれていて、見る者を飽きさせません。
 面白いなと思った点は、イギリスのキングスマンは、教官のマーリンが「チームワークが大切」とは言いながらも、あくまでも個人個人で敵に向かうのに対して、敵のアメリカ人大富豪・ヴァレンタインは数量で立ち向かってくるように見える点です。
 例えば、ケンタッキー州にある教会に一人で乗り込んだハリーは、大量に配布されているSIMカード(注9)によって凶暴化した数十人の人間に立ち向かうことになります。
 また、エグジーは、教官マーリンを伴うとはいえ、実際には単身で敵のヴァレンタインの拠点(注10)に攻め入ります。



 アメリカの物量主義に対する皮肉の意味もあるのでしょうか。

(3)渡まち子氏は、「監督のマシュー・ヴォーンは「キック・アス」でも意外性のあるヒーロー映画を作って見せたが、本作はそれに優雅さを加味した、痛快な進化形だ」として70点をつけています。
 前田有一氏は、「イーサン・ハントとジェームズ・ボンド両横綱が揃い踏みの2015年に、両者の間に割り込む形で入ってきた「キングスマン」は、しかし巨頭をたたき落とす勢いの傑作スパイ映画だった」として85点をつけています。
 渡辺祥子氏は、「昨今は現実をふまえてシリアスに闘うスパイ物が多いが、こちらは肉体駆使のアクションに笑いを添えてスパイの新旧世代交代劇になっているのが新鮮」として★4つ(「見逃せない」)をつけています。
 小梶勝男氏は、「「007」シリーズなど、過去の様々なスパイ映画のパロディーを盛り込んだアクションだが、本家のほとんどより、こちらの方が面白い。強烈な毒を含んだブラック・コメディーでもある」と述べています。
 秋山登氏は、「ヴォーン監督の腕っ節は強く、配役も決まっている。ただ、はしゃぎ過ぎの気色はある。………しかし、これは上機嫌な冗談として楽しむべき作品だろう。消閑に最適だ」と述べています。



(注1)監督・脚本は、『キック・アス』や『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマシュー・ヴォーン
 原作は、マーク・ミラー著『キングスマン:ザ・シークレット・サービス』(作者のマーク・ミラーは本作の製作総指揮を担当し、またこの記事によれば、マシュー・ヴォーンが当該著書の共同原案を担当しているようです)。
 なお、原題は『Kingsman: The Secret Service』。

(注2)ハリーは、諜報機関「キングスマン」ではガラハッド(Galahad)と呼ばれます。
 ガラハッドは円卓の騎士の一人であり、とすると組織内のボスのアーサーも「アーサー王」ということになるでしょう。また、ガゼルによって真っ二つにされるランスロットも、円卓の騎士の一人です。
 なお、劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事の中でマシュー・ヴォーン監督は、「キングスマンの組織をアーサー王の円卓の騎士になぞらえたのはなぜですか?」との質問に対して、「キングスマンが道義心や礼節の精神に根ざしたものだということを描くのにわかりやすい方法だった」などと述べています。

(注3)キングスマンの新規隊員選抜試験を受けているエグジーを、ハリーは高級スーツ店「キングスマン」に連れて行き、その第3試着室の奥の部屋を見せます。



 そこには、キングスマンの使う物が壁のガラス棚にずらりと並んでいます。ハリーは、紳士靴を指して、「外羽根式(open lacing)のオックスフォードが正式の靴だ」、「装飾がついたものはブローギング(broguing)という」などと説明します〔この「靴用語辞典」によれば、「ブローグ(brogue)」とは、「穴飾り、親子穴飾り、ギザ飾りなどの装飾を施したウイング・チップのオックスフォード・シューズのこと」とされています〕。
 こんなことから、先に出てきた合言葉「Oxfords, not Brogues」も、“装飾の付いていないオックスフォード・シューズ”という意味合いになるのでしょう。
 そして、ハリーが考える“gentleman”としてのスパイの在り方の一端が伺えるのかもしれません。

(注4)出演者の内、コリン・ファースは『マジック・イン・ムーンライト』、サミュエル・L・ジャクソンは『4デイズ』、マーク・ストロングは『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』、マイケル・ケインは『インターステラー』で、それぞれ見ました。

(注5)むろんキングスマンといえども、敵のアジトがどこにあり、そこで何が行われるのかに関する情報を諜報活動によって取得しているのでしょうが、そちらの方面は殆ど描かれません。

(注6)マシュー・ヴォーン監督は、劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事の中で、「(原作者の)マーク・ミラーも私も最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だったんだ。我々は『007』シリーズや『電撃フリント・アタック作戦』、TVシリーズ「おしゃれ㊙探偵」などを観て育ってきた」などと述べています。

(注7)ラストにスウェーデンのティルデ王女(ハンナ・アルストロム)のサービスがあるとはいえ(どのようなサービスかはシークレットにしておきましょう)。

(注8)なにしろ、犬を使ったテストが3回も行われたりするのですから。

(注9)ヴァレンタインは、人口の急激な増加によって地球の環境が破壊されており、地球を救うためには人間の数を減らさなくてはならないと考え、世界中にSIMカードを大量にバラ撒きました(それを持っていると通信が無料になると言って)。ヴァレンタインがスイッチを入れると、SIMカードを持っている人間は凶暴化し、互いに殺し合いを始めるので、人口が減少するというわけです。
 なお、人間が地球にとって害悪となっているとする考え方は、『寄生獣 完結編』の中で、広川市長(北村一輝)が、突入してきた特殊部隊に向かって言い放つ言葉とよく似ていると思いました。すなわち、広川市長は、「人間の数をすぐにでも減らさなくてはいけないことや、殺人よりもゴミの垂れ流しの方がはるかに重罪だということに、もうしばらくしたら人間全体が気づくはずだ」とか、「環境保護といっても、人間を目安としたものだ」、「万物の霊長というなら、人間だけの繁栄ではなく生物全体を考えろ」、「人間こそ地球を蝕む寄生虫だ」などと言うのです。

(注10)“ノアの方舟”のように(以前見た『ノア 約束の舟』を思い出します)、ヴァレンタインは、人間が大量に殺された後にも生き残ることのできるエリートだけを選別して、自分の拠点に集めていました。ヴァレンタインは、集められた人たちに対して、「君たちは選ばれたのだ、新しい時代の誕生を祝おう」と演説します。
 でも、こうした人々がエリートとしてこれから生きていくためには、エリートではない人々のサポートがどうしても必要なのであり、としたら、同じように地球破壊は継続することになるものと思われるところです(「注9」で触れた広川市長の議論が成立しないのと同じではないかと思われます)。
 なお、ヴァレンタインは酷い悪者扱いされていますが、それを倒すキングスマンの方だって、ボスのアーサーがヴァレンタインに洗脳されているとすると、規律を絶対的に重視する組織ですから(飼いならした犬を殺せと命じられたら殺さなくてはいけないような)、とても危険な存在になってしまうのではないか、と思いました。



★★★★☆☆



象のロケット:キングスマン

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4 コメント

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Unknown (ふじき78)
2015-09-27 06:21:48
> むろんキングスマンといえども、敵のアジトがどこにあり、そこで何が行われるのかに関する情報を諜報活動によって取得しているのでしょうが、そちらの方面は殆ど描かれません。

凄い呪術で全ての情報をGETしてたりしたら、それはそれできっと面白いな。
Unknown (クマネズミ)
2015-09-27 08:26:23
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、例えば世界の出来事を透視できるガラス球をキングスマンが持っていたりしたら、また面白い映画となるかもしれません。
でも、そういった呪術はどちらかといえば東洋のお手のものであり、「ふじき78」さんのブログの「絵解き」からしたら、むしろヴァレンタイン側にふさわしいものと思えるのですが?
Unknown (atts1964)
2015-09-28 09:29:52
冒頭のシーンのBGMが、オフボーカルでしたが、「マネー・フォー・ナッシング」でしたね。
コリン・ファースがいなくなった後、展開が一気に色合いが変わった感じがしましたが、全体的にはテンポ良く、悪役も映え、問題作りも上手かったと思います。
TBお願いします。
Unknown (クマネズミ)
2015-09-29 05:54:55
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
「マネー・フォー・ナッシング」に関する情報をありがとうございます。

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