『昆虫探偵ヨシダヨシミ』を新宿のK’s cinemaで見てきました。
この映画館はJR新宿駅から少し離れたところにあって、普段は余り利用しませんが、時々『愛のむきだし』など特色ある映画を上映しているので注目はしています。
哀川翔・映画デビュー25周年記念作の『ゼブラーマン2』の公開を控え、それへ向けて三段跳びをしようと、まずホップとして『誘拐ラプソディー』を見(誘拐される少年の父親という重要な脇役を演じていて、初回の跳びとしては打って付けといえるでしょう)、次いでステップはこの作品だと決め打ちして映画館に出かけました。
とはいえ、平日の夕方ということもあってか、映画館には4人しか観客がおらず、当初の意気込みはどこへやらという気分になってしまいましたが。
(1)夜9時頃に寝て朝4時頃には起きるという極めて健康的な生活を送っている哀川翔が、無類の昆虫好きだとまでは知らず(クワガタやカブトムシなどを自宅で育てているとのこと)、なんでこうした映画への出演を引き受けたのか不思議でした。実際は、原作の漫画(原作者・青空大地、モーニングKC)を読んで、自分からその映画化を進めたようです。
その哀川翔が、昆虫の話を理解できる探偵となって(人間嫌いで、昆虫以外の動物ともコミュニケーションができます)、普段は、昆虫のさまざまの悩み事の相談相手を務めているところ、オオクワガタがたくらんでいる大陰謀を阻止すべく活躍する、といったストーリーです。
大層変わった映画なので、原作はどうなっているのか知りたくなり、見終わってから読んでみますと、オオクワガタがたくらんでいる大陰謀を巡る活劇は原作にはなく、哀川翔が主演を引き受けたことに伴って映画用として付け加えられたエピソードだとわかります。
なにより、そのエピソードの部分では、“哀川翔そっくりさん”の水元秀二郎が、普通であれば哀川翔が演じるべき恰好のいいところを横取りしてしまうのですから〔哀川翔は、拳銃まで用意しながらも〕!それに、小山田さゆりが登場して哀川翔と絡むと、これは二人の濡場シーンがあるかも、と期待させるものの、結局は彼女も水元秀二郎の方に行ってしまいます。
哀川翔の役柄は、原作通りのしがない“昆虫探偵”のままで、ラストのシーンでも、あいかわらず昆虫から依頼ののあった件であちこち訪ね歩いています。
水元秀二郎の登場場面をそんなに派手なものにするわけにはいかず、といって主演の哀川翔をクローズアップしようにも、小さな虫相手の商売を営んでいるにすぎないわけですから、となると、この映画が低予算のいわゆるB級映画となることは目に見えています。
それでも、デビュー25周年目の主演作ゆえ、大いに祝ってあげることといたしましょう!
(2)「昆虫」の映画とくれば、最近では2年ほど前に『バグズ・ワールド』を見ましたが(注1)、もっとズット遡れば今村昇平監督の『にっぽん昆虫記』(1963年)が思い出されるところです。
早速、以前見たことがあるその映画のVTRを借りてきますと、冒頭では、カタツムリを食べてしまうというマイマイカブリのドアップ映像が映し出されます。『昆虫探偵』でもカブトムシの交尾の様子がまず最初に映し出されますから、両者は類似しているのかなと思いきや、『にっぽん昆虫記』では、女工からコールガールの元締めとなった女の半生が描き出されますし、他方で『昆虫探偵』は、オオクワガタがたくらむ大陰謀を巡る冒険活劇ですから、まるで違った方向に進んでしまいます。
それでも、『昆虫探偵』は、カブトムシばかりかトンボの交尾なども追求し、昆虫絡みではあるもののしつこく「性愛」に執着するので、体を武器に終戦後の混乱した社会を生き抜く女性を描いている『にっぽん昆虫記』とも通じる面は大いにありそうです。
もっといえば、“本能だけで貪婪に生き抜く昆虫”というイメージが、二つの映画の背後に存在するような気がしてきます〔交尾が終わるとカマキリの雌が雄を食べてしまうといった習性が、こうしたイメージの形成に与っているのでしょう〕。
とはいえ、むしろ人間の方が昆虫よりも遙かに淫乱に生きているのかも知れません!
なにより、『にっぽん昆虫記』は、主演の「左幸子が大胆に乳房を「さらし、北村和夫がそれを吸うシーンがある……といったことが、誇大に伝わっ」て、「観客動員が200万人に達し」、「制作費は3300万円であったが、興行収入は5億円をこえた」ようですが(注2)、こちらの『昆虫探偵』の方は、同様に低予算映画で、音声は“R-15”指定まがいの激しさだとはいえ、実写としてはカブトムシなど昆虫の交尾シーンしか映し出されないので、キットもの寂しい観客動員数となることでしょう!
(注1)当時“つぶあんこ”氏が星5つも与えていたので六本木の映画館に見に行ったのですが、驚くように鮮明な画像で、様々の種類のアリが登場し、それに尤もらしいストーリーが展開されているものの、82分間もの長い時間アリの姿ばかりを大写しで見せられ、かなり退屈してしまいました。
それに、前田有一氏によれば、「早速巨大な蟻塚にオオキノコシロアリ200万匹を配置、それを2000万匹の凶暴なサスライアリに実際に襲わせ、空前絶後の戦争映画を作り上げ」ているとのことながら、映像を解説するナレーションは、人間の世界における戦争とのアナロジーから作り上げられたものに過ぎず、それならよく耳にする聞き飽きたことばかりですから、いい加減にしてくれと思ってしまいました。
(注2)香取俊介著『今村昌平伝説』(河出書房新社、2004年) P.183~P.184。
(3)この映画に関しては、渡まち子氏が、「低予算映画特有のチープな映像に味わいがあ」り、「無類の昆虫好きという哀川翔のとぼけた演技が笑いを誘う」し、「ヨシミが昆虫と会話する様子は、バカバカしくもシュールなもので、楽しめる」としながらも、「爆破事件の真相に迫りながら明かされる、“悪いムシ”オオクワガタの陰謀の部分はちょっと拍子抜けだ」として50点をつけています。
あるいは渡氏としては大盤振る舞いなのかもしれません!
哀川翔へのご祝儀を含めて
★★★★☆
この映画館はJR新宿駅から少し離れたところにあって、普段は余り利用しませんが、時々『愛のむきだし』など特色ある映画を上映しているので注目はしています。
哀川翔・映画デビュー25周年記念作の『ゼブラーマン2』の公開を控え、それへ向けて三段跳びをしようと、まずホップとして『誘拐ラプソディー』を見(誘拐される少年の父親という重要な脇役を演じていて、初回の跳びとしては打って付けといえるでしょう)、次いでステップはこの作品だと決め打ちして映画館に出かけました。
とはいえ、平日の夕方ということもあってか、映画館には4人しか観客がおらず、当初の意気込みはどこへやらという気分になってしまいましたが。
(1)夜9時頃に寝て朝4時頃には起きるという極めて健康的な生活を送っている哀川翔が、無類の昆虫好きだとまでは知らず(クワガタやカブトムシなどを自宅で育てているとのこと)、なんでこうした映画への出演を引き受けたのか不思議でした。実際は、原作の漫画(原作者・青空大地、モーニングKC)を読んで、自分からその映画化を進めたようです。
その哀川翔が、昆虫の話を理解できる探偵となって(人間嫌いで、昆虫以外の動物ともコミュニケーションができます)、普段は、昆虫のさまざまの悩み事の相談相手を務めているところ、オオクワガタがたくらんでいる大陰謀を阻止すべく活躍する、といったストーリーです。
大層変わった映画なので、原作はどうなっているのか知りたくなり、見終わってから読んでみますと、オオクワガタがたくらんでいる大陰謀を巡る活劇は原作にはなく、哀川翔が主演を引き受けたことに伴って映画用として付け加えられたエピソードだとわかります。
なにより、そのエピソードの部分では、“哀川翔そっくりさん”の水元秀二郎が、普通であれば哀川翔が演じるべき恰好のいいところを横取りしてしまうのですから〔哀川翔は、拳銃まで用意しながらも〕!それに、小山田さゆりが登場して哀川翔と絡むと、これは二人の濡場シーンがあるかも、と期待させるものの、結局は彼女も水元秀二郎の方に行ってしまいます。
哀川翔の役柄は、原作通りのしがない“昆虫探偵”のままで、ラストのシーンでも、あいかわらず昆虫から依頼ののあった件であちこち訪ね歩いています。
水元秀二郎の登場場面をそんなに派手なものにするわけにはいかず、といって主演の哀川翔をクローズアップしようにも、小さな虫相手の商売を営んでいるにすぎないわけですから、となると、この映画が低予算のいわゆるB級映画となることは目に見えています。
それでも、デビュー25周年目の主演作ゆえ、大いに祝ってあげることといたしましょう!
(2)「昆虫」の映画とくれば、最近では2年ほど前に『バグズ・ワールド』を見ましたが(注1)、もっとズット遡れば今村昇平監督の『にっぽん昆虫記』(1963年)が思い出されるところです。
早速、以前見たことがあるその映画のVTRを借りてきますと、冒頭では、カタツムリを食べてしまうというマイマイカブリのドアップ映像が映し出されます。『昆虫探偵』でもカブトムシの交尾の様子がまず最初に映し出されますから、両者は類似しているのかなと思いきや、『にっぽん昆虫記』では、女工からコールガールの元締めとなった女の半生が描き出されますし、他方で『昆虫探偵』は、オオクワガタがたくらむ大陰謀を巡る冒険活劇ですから、まるで違った方向に進んでしまいます。
それでも、『昆虫探偵』は、カブトムシばかりかトンボの交尾なども追求し、昆虫絡みではあるもののしつこく「性愛」に執着するので、体を武器に終戦後の混乱した社会を生き抜く女性を描いている『にっぽん昆虫記』とも通じる面は大いにありそうです。
もっといえば、“本能だけで貪婪に生き抜く昆虫”というイメージが、二つの映画の背後に存在するような気がしてきます〔交尾が終わるとカマキリの雌が雄を食べてしまうといった習性が、こうしたイメージの形成に与っているのでしょう〕。
とはいえ、むしろ人間の方が昆虫よりも遙かに淫乱に生きているのかも知れません!
なにより、『にっぽん昆虫記』は、主演の「左幸子が大胆に乳房を「さらし、北村和夫がそれを吸うシーンがある……といったことが、誇大に伝わっ」て、「観客動員が200万人に達し」、「制作費は3300万円であったが、興行収入は5億円をこえた」ようですが(注2)、こちらの『昆虫探偵』の方は、同様に低予算映画で、音声は“R-15”指定まがいの激しさだとはいえ、実写としてはカブトムシなど昆虫の交尾シーンしか映し出されないので、キットもの寂しい観客動員数となることでしょう!
(注1)当時“つぶあんこ”氏が星5つも与えていたので六本木の映画館に見に行ったのですが、驚くように鮮明な画像で、様々の種類のアリが登場し、それに尤もらしいストーリーが展開されているものの、82分間もの長い時間アリの姿ばかりを大写しで見せられ、かなり退屈してしまいました。
それに、前田有一氏によれば、「早速巨大な蟻塚にオオキノコシロアリ200万匹を配置、それを2000万匹の凶暴なサスライアリに実際に襲わせ、空前絶後の戦争映画を作り上げ」ているとのことながら、映像を解説するナレーションは、人間の世界における戦争とのアナロジーから作り上げられたものに過ぎず、それならよく耳にする聞き飽きたことばかりですから、いい加減にしてくれと思ってしまいました。
(注2)香取俊介著『今村昌平伝説』(河出書房新社、2004年) P.183~P.184。
(3)この映画に関しては、渡まち子氏が、「低予算映画特有のチープな映像に味わいがあ」り、「無類の昆虫好きという哀川翔のとぼけた演技が笑いを誘う」し、「ヨシミが昆虫と会話する様子は、バカバカしくもシュールなもので、楽しめる」としながらも、「爆破事件の真相に迫りながら明かされる、“悪いムシ”オオクワガタの陰謀の部分はちょっと拍子抜けだ」として50点をつけています。
あるいは渡氏としては大盤振る舞いなのかもしれません!
哀川翔へのご祝儀を含めて
★★★★☆