映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

石井裕也監督作品(上)

2010年05月25日 | DVD
 22日の記事で取り上げました『川の底からこんにちは』が大変素晴らしい出来栄えだったことから、その制作に当たった石井裕也監督の他の作品にも興味が出てきました。
 幸い、これまでの長編の作品についてはDVD化されていてTSUTAYAで借りて見ることが出来ますので、2回に分けてレビューしてみようと思います。

イ)『剥き出しにっぽん
 石井監督が21歳(2005年)のときの作品(2008年レイトショー公開)。製作費400万円ながら、第29回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリと音楽賞を獲得しています。




 映画では、主人公は、高校卒業後何をやっても駄目だからと、自給自足の生活をすべく、高校で同級生のヒロインを誘って、畑の中の一軒家を借りて引っ越しますが、ちょうどリストラされた父親も、母親の目が厳しくて家に居づらいからと一緒についてくることになります。3人によるオンボロ農家における共同生活が始まるものの、うまくいくはずがありません。ですが、紆余曲折を経て、最後には、一応の格好のとれた形におさまってジ・エンドです。

 この映画に登場する男性陣は、ダメ人間ばかりで、その最たるものが主人公。格好は付けるものの、畑仕事などとてもできず、最後は、これまたダメ人間の父親(息子と同じように強がりを言っても、妻ときちんと向き合って話すことができません)と一緒に、交通誘導員のアルバイトをする羽目に。
 さらに、主人公は、ヒロインに対しても強がりを言いますが、結局は牛耳られてしまいます(なにしろ童貞なものですから!)。
 この映画では、母親は、主人公と一緒の場面ではほとんど登場しません。ですが、父親を含めて一家全体を包み込んでいるのは、その母親ではないかと思えてきます。そして、それをヒロインが引き継ぐのではないでしょうか。なにしろ、夫と息子が出て行ってしまった家を守っているのは母親ですし、畑で農作業をしているのはヒロインなのですから。
 それでも、皆がなんとか真正直に生きようとしているのが、「下ネタ」の多いこの映画の救いのように思われます。


ロ)『反逆次郎の恋
 前作「剥き出しにっぽん」において、映画の中のTV画像ながらサッカー少年役で出演した「とんとろん」こと内堀義之が主役の次郎を演じている作品です(2006年)(注)。




 この次郎は、営業マンとはいえ、絶えず顔面をピクピクひきつらせ、のべつ煙草を吸い、かつスムースな会話ができない内に閉じこもりがちなダメ青年。当然のことながら営業成績が悪く、そのため先輩から色々イビられます。
 さらに、ひょんなことから恋してしまった工場労働者の倫子(松谷真由美)を家に連れてきたところ、次郎は彼女からも酷い扱いを受けます(倫子もまた相当ひねくれた性格の持ち主で、世間にうまく入っていけません)。
 また、次郎には、ロックバンドでヴォーカルとギターをやっている友人がいるものの、彼ともスムースな会話ができていません。
 要するに、肉体の面でも性格でもダメ人間の次郎がこの映画の主人公のところ、ある日、倫子とピクニックに行った森の中で、偶然女性の他殺体を発見してしまうのですが、そこらあたりからこの映画は俄然ミステリアスな様相を呈してきます。
 次郎は、倫子と一緒にいる時もこの他殺体のことが気になってしまい、何度もその現場に出かけることになります。すると、その現場に、彼の友人が、女性を連れてきているのに遭遇するどころか、なんとその女性は殺された女性とウリ二つなのです。
 なぜでしょうか?ですが、ここから先は、見てのお楽しみということにしておきましょう。

 この作品も、前作同様ダメ人間を中心的に取り扱っていますが、コミュニケーションがうまく取れない設定となっていることもあって、前作で見られたギャグとかコメディー・タッチは、この作品では影をひそめています。
 それでも、現状を脱出すべく、“やられる前に相手をやっつけてしまう”という方向性が打ち出されているところが注目される点でしょう。

(注)「シネマトゥデイ」の記事によれば、この映画の製作費は7万円とのこと!