(【3月27日 日経】3月27日、ミャンマーの首都ネピドーで「国軍記念日」の軍事パレードを閲兵する国軍トップ、ミンアウンフライン総司令官)
【国軍記念日 ミンアウンフライン総司令官は民主派弾圧継続姿勢を強調 総選挙延期の責任を民主派に押し付ける】
ここ1週間ほどで、軍事政権支配が続くミャンマー情勢に関して報じられたのは二つの出来事。
ひとつは3月27日の軍の記念日にあわせた式典におけるミン・アウン・フライン総司令官の演説で、民主派を「テロリスト」として激しく非難し、今後も弾圧の姿勢を示したこと、併せて「公平な選挙のためには国の安定が欠かせない」と総選挙先送りの責任を民主派に押し付けたことです。
****ミャンマー「国軍記念日」に大規模パレード クーデターを正当化、中露との連携鮮明****
ミャンマーの首都ネピドーで27日、「国軍記念日」の式典と大規模な軍事パレードが実施された。軍の権威を誇示し、2021年2月のクーデターによる政権奪取を正当化する狙いがある。
クーデターに反発する日本や欧米が式典参加を見送る中、中国とロシアは代表を派遣した。国軍は国内の民主派を弾圧しつつ、強権国家との連携を深める姿勢を改めて鮮明にした。
国軍記念日は1945年の対日蜂起を記念するもので、その式典は国軍が最も重視している。式典の演説で国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、民主派が結成した挙国一致政府(NUG)をテロリストと断じ、「国を荒廃させようとしている」と批判。民主派勢力に「断固たる行動を起こす」と言及し、弾圧を強化する意向を示した。(中略)
国軍は、NUGが組織した「国民防衛隊」や、NUGに呼応する少数民族武装勢力の掃討作戦を進めている。クーデター後に国軍が殺害した市民は24日時点で3160人に達した。国軍にも損失が出ており、地元メディアによると、3月20~27日に国軍の兵士ら約140人が死亡した。
国軍は2月、クーデター直後に発令した非常事態宣言を来年2月1日まで延長し、今年8月までの実施を約束していた民政移管に向けた総選挙は実質的に先送りとなった。総司令官は27日の演説で、選挙には「平穏と安定が必要だ」と述べており、治安情勢の悪化を理由に選挙実施をさらに延期する可能性がある。
また、仮に選挙が実施されたとしても民主派は排除される可能性が高い。国軍は拘束中の民主派指導者、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)を事実上非合法化した。NLD所属の元国会議員らは「国軍系政党が大勝する筋書きが決まっている」と反発を強めている。【3月27日 産経】
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式典には、国軍と関係を保っている中国やロシアの他、インドやASEAN加盟国など計10カ国の代表が出席したとのことです。
【スー・チー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」を解党処分 形だけの総選挙へ】
もう一つの出来事は、期限までに政党としての届け出がなかったことを理由に、スー・チー氏が率いていた民主政党「「国民民主連盟(NLD)」を解党処分とすることを軍事政権が決めたことです。
****ミャンマー軍政、スー・チー率いる民主派政党を解党 総選挙は軍政支持派一色に****
<クーデターから2年、親軍派の政党だけが残る国に......>
ミン・アウン・フライン国軍司令官がトップを務めるミャンマーの軍事政権は3月28日、民主政府指導者だったアウン・サン・スー・チー氏が率いていた民主政党「「国民民主連盟(NLD)」を解党処分とすることを決めた。
これにより軍政が予定している総選挙にNLDは参加資格を失うことになり、「公正で民主的総選挙」は実質的に不可能となり、軍政支持政党だけによる不公平な一方的選挙となることが確定した。
そもそも軍政は2021年2月のクーデター直後からスー・チー氏を数々のいわれなき容疑で拘束するとともにNLD所属議員や関係者の摘発といった弾圧を続けてきており、28日の「解党処分」以前から総選挙への参加は実質的に不可能な状況になっていた。
それをわざわざ2023年1月に軍政が一方的に定めた新選挙法で政党としての届け出に期限を設けて「3月28日までの期間中にNLDから届け出がなかった」として政党要件を失い解党処分としたことは、軍政にとっては「既定路線」であくまで「公正で自由な選挙」を演出するためのプロセスに過ぎなかったといえる。
NLD関係者は「軍政の思惑には乗らない」として政党としての届け出を拒否、あくまで反軍闘争を継続する方針を貫いた形となった。
NLDなど40政党を解党
ミャンマーの軍政寄りの国営放送は28日、NLDを含めた40の政党が期限までの届け出をしなかったり、親軍という政党要件を満たさなかったとして29日を以って解党処分を受けることになったと伝えた。
その一方で総選挙には親軍派の「連邦団結発展党(USDP)」など、国政・地方政治合わせて63政党が届け出を済ませて参加することになったとことを軍政は明らかにした。
2023年8月に予定されていた総選挙は武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境周辺の少数民族武装勢力との戦闘激化による国内治安の著しい不安定化により軍政が2月に非常事態宣言を延期したことで実施時期が無期限延長となっており、いつ総選挙が実施されるかは不確定となっている。
軍政は全国で有権者名簿の策定・登録など総選挙の準備を進め、早期の選挙実施を目指しているが、作業に当たる地方行政機関や担当者がPDFから襲撃を受けるなどして順調に進んでいないのが実状という。
スー・チー氏が率いていたNLDは軍によるクーデターで大半の党員や関係者が逮捕されたこともあり、逮捕を免れた幹部や党員は国外に避難するか地下に潜伏して活動を続けている状態。「期限内に政党としての届け出をするように」と軍政が訴えたところで届け出に赴けば逮捕される可能性が高かったという。
総選挙を軍は不正としてクーデター
NLDはミャンマーの民主化の動きの中で1988年に結成された。その後、独立の父として国民の信頼と人気を集めるアウン・サン将軍の娘であるアウン・サン・スー・チー氏が指導者として迎えられ、民政移管後の2015年の総選挙で圧倒的支持を集め事実上の政権を担った。
2020年の総選挙でも同様に多くの支持を獲得して政権を継続。スー・チー氏は外国人と結婚したミャンマー人は国家元首に就任できないとの規定から国家最高顧問兼外相として国政を担ってきた。
しかし2020年の総選挙で軍の既得権益が脅かされることを危惧したミン・アウン・フライン国軍司令官が「選挙には不正があった」としてクーデターを起こし、スー・チー氏やウィン・ミン大統領らが逮捕され民主政府は崩壊してしまった。
その後NLDの関係者は2021年4月に反軍組織「国家統一政府(NUG)」を立ち上げスー・チー氏やウィン・ミン氏らを指導者としてNLD幹部や少数民族武装勢力関係者を加えて民主化運動を継続していたが、軍政はNUGを非合法組織としてNLDと同様にメンバーの弾圧に乗り出した。
現在スー・チー氏やウィン・ミン氏が逮捕されているためNUGは少数民族であるカチン民族出身のドゥワー・ラシ・ラ氏が大統領代行が就任している。
また軍による強権的弾圧や一般国民を含めた人権侵害事案が相次いだことから同年5月にNUG傘下に武装市民組織としてのPDFが立ち上げられ、各地で軍に対して武装抵抗を行うようになり、治安が極端に悪化し続けているという経緯がある。
不確定要素多く選挙実施には難問も
軍政はNLDなどの反軍政党を解党処分としたことでとりあえず次期総選挙には親軍政党だけの参加が決まり、USDPの圧倒的勝利は確実となっている。
こうした選挙を通じて軍政は「公正で自由な選挙」を内外にアピールする思惑だが、必ずしもその通りに運ぶかどうかについては前途多難な面も指摘されている。
まず一番の要素は治安の確保で、PDFや少数民族武装勢力との戦闘が激化している現状では親軍派の有権者や投票所の安全確保が課題となることに加えて、反軍姿勢の国民の投票ボイコットや反対票を「どう操作」して勝利を確定させるかという問題もある。
国際的な選挙監視団が受け入れられることは不可能だが、軍政と関係が深い中国やカンボジアなどが「選挙過程や結果にお墨付き」を与えることも予想されている。
いずれにしろ早期の選挙実施を目論む軍政が治安安定を目指して今後各地で反対勢力やシンパの国民への暴力を激化させる可能性がある。【3月29日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【エスカレートする暴力】
こうした状況で、国軍による凄惨な暴力は相変わらずです。民主派の反撃もエスカレート。
****残虐非道なミャンマー国軍、民間人を生きたまま手足切断、斬首してさらし首に****
軍事政権による一般市民への圧迫や抵抗勢力への攻撃・殺害が続くミャンマーで、またとんでもない事態が起きた。20歳未満の少年ら若者5人が軍兵士らによって虐殺されたのだ。犠牲となった若者の中には15歳の少年も含まれているという。
発見された少年らのうち3人の遺体は手足が切断されたり斬首されたりしていたばかりか、集落内に「さらし首」にされた。
別の村落でも軍による住民への無差別攻撃によって市民ら16人が殺害され、さらに別の場所でも2人が少年らと同じように斬首されていた。
こうした軍による人権無視の攻撃・殺害は、今年2月に軍政が戒厳令の布告地域を拡大して以来、目立つようになっている。(中略)
地雷設置中に軍に拘束され殺害
独立系メディアなどの報道によると2月25日、サガイン地方域ミンム郡区ニャウン・ピンカン村付近で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」と軍による戦闘が勃発し、銃撃戦の末、PDF側は弾丸の不足を理由に退却を始めた。その際にPDF部隊が退却に使った道に地雷を仕掛ける作業をしていた少年と青年5人が軍によって拘束されたという。
その2日後となる27日朝、近くのパダット・テイン村付近で5人の遺体が発見された。うち3人が斬首されており、中には手足も切断された遺体もあったという。
少年らの頭部は民家の竹の塀上部や荷車の上などに「さらし首」状態で放置されていた。残された胴体部分などに銃で撃たれた形跡がみられないことからPDFでは少年らは生きたまま斬首や手首を切断されたという極めて残虐な方法で殺害されたとみている。(中略)
戒厳令拡大後に残虐行為増加
地元PDF関係者は軍によるこうした残虐な行為は2月2日に軍政が抵抗勢力による攻撃が激しい地域に対して戒厳令を拡大したことと無関係ではないとしている。
それまで中心都市ヤンゴンなど7郡区に出していた戒厳令を軍政は37郡区に拡大した。さらに2月22日にはサガイン地方域の3郡区への戒厳令布告を追加して、軍による統制を強めている。
戒厳令の拡大以降、軍による残虐行為が増加している。軍政はPDFメンバーや一般市民に対する「見せしめ」の効果を狙って斬首などの残虐な殺害を行っているようだ。
しかし軍による残虐行為が拡大するにつれ、PDF側の反撃もエスカレートしている。いわば戦闘残虐化のスパイラルが繰り返されている状況だ。
戒厳令が布告された地域では軍が行政権などを掌握している。各地のPDFは、軍が強権を行使して一般市民や抵抗する武装市民への違法な弾圧がこれまで以上にまかり通るようになる、と警戒を強めている。【3月18日 大塚 智彦氏 JBpress】
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【瀕死の国内経済 抜本的な対策がなければ年末には人口の約3分の1が危機的状態に】
一方、軍事政権支配のもとで経済は混乱・停滞し、市民生活は困窮していますが、経済指標で見ると22年度は好転しているとか。これには訳があるとのこと。
****アジアの今 ミャンマー経済瀕死、国内向け物資を輸出に つけは貧しい人へ****
国軍が武力で全権を掌握し2年が経過したミャンマーで一部の経済指標が好転している。
世界銀行が発表した2022年度(21年10月〜22年9月)の実質国内総生産(GDP)の成長率は3.0%。前年度のマイナス18.0%から大幅な改善となった。コメなどの輸出が堅調で、今年度も最大で4%を見込む。
しかし、これらはまやかしにすぎない。輸出が増えているのは、外貨獲得を急ぐ軍政が国内向けの物資を輸出に向けているからで、通貨チャットはクーデター前の半分以下に下がっている。
金などの貴金属を採掘し手っ取り早く外貨に換えるための乱開発は各地で行われ、早晩行き詰まるのは明らかだ。
国内経済は瀕(ひん)死(し)の状態だ。国連人道問題調整事務所によると、内戦や治安の悪化から家を追われ支援が必要な避難民は少なくとも450万人以上いる。抜本的な対策がなければ年末には人口の約3分の1に当たる1760万人が危機的状態に陥るとする。
比較的産業の集積するヤンゴン管区でも、4人に1人が1年以上も給与収入がない状態が続いている。
生活の糧を失った住民の一部は最大河川エーヤワディー川に出て、浮遊する空き缶やプラスチックを拾う作業に従事している。リサイクル業者に売って現金を得るためだ。おかげで川がきれいになったと皮肉のような話が伝えられている。
農村では戦闘による巻き添いを恐れ、離農する人が続出している。生産量そのものは確実に減っており、輸出もいつまで続くか分からない。
こんな状態でも、国軍と前最高指導者のアウンサンスーチー氏派の国民防衛隊(PDF)の双方は戦闘を止めようとしない。意の通りに動かない住民に対しては、スパイの汚名を着せ殺害するなど行動はエスカレートする一方だ。つけの支払いはいつも、社会の底辺にある彼らに向かう。【3月24日 産経】
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いつまで続くぬかるみぞ・・・・。