孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  南シナ海で中国への強い姿勢 台湾有事念頭に米は対比関係再建推進 予想される中国反発

2023-04-06 22:37:28 | 東南アジア

(【4月4日 産経】フィリピン大統領府が3日、比国内で米軍の巡回駐留を新たに認めた4拠点)

【南シナ海問題で中国への強い姿勢を示すマルコス大統領】
対立するアメリカと中国の間に立って、バランス外交に務めるフィリピン・マルコス大統領が安全保障面・南シナ海問題ではアメリカとの関係を深め、中国に対し強い姿勢を示しつつあることは、2月13日ブログ“フィリピン 米中の間でバランス外交 経済は依然中国重視 南シナ海問題ではアメリカと関係強化”でも取り上げました。

そうしたフィリピンのアメリカ接近・中国警戒の姿勢は更に強まっています。
と言うか、中国の露骨な対応がフィリピンをアメリカとの協調の方向に追いやっているようにも見えます。

前回ブログでも触れたように、フィリピンは自国巡視船が2月6日、中国海警局の艦船からレーザー照射を受けたと発表しています。

****中国艦船がレーザー照射 南シナ海、フィリピン巡視船に****
フィリピン沿岸警備隊は13日、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁付近で、海軍への補給任務中だった巡視船が6日、中国海警局の艦船からレーザー照射を受けたと明らかにした。

乗組員の目が一時的に見えなくなったほか、危険な操船があったとして、警備隊は「主権の明らかな侵害」と非難している。

警備隊によると、艦船は緑色のレーザーを2度照射。巡視船の後方約140メートルに接近した。レーザー照射は異例で、警備隊は「中国の艦船が海上で攻撃的な行動を取っても、領土を守るため、プレゼンスを維持し主権を主張する」と声明を出した。

アユンギン礁はフィリピンのEEZ内にある。【2月13日 共同】
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フィリピンは1999年、実効支配を固めることを目的にアユンギン礁に艦船を座礁させ、海軍の部隊を駐留させています。この付近では昨年8月にも補給活動中の船が中国船に妨害されるなど、危険を伴う事態が繰り返し起きていいます。

上記レーザー照射問題では、マルコス大統領は中国の駐フィリピン大使を呼び出すという異例の対応を示しています。

****比大統領、中国に懸念伝達 巡視船レーザー照射で****
フィリピンのマルコス大統領は14日、中国の黄渓連・駐フィリピン大使を呼び出し、(中略)「深刻な懸念」を伝えた。大統領府などが発表した。大統領が外交ルートではなく、自ら大使に懸念を伝達するのは極めて異例。

マルコス氏は、フィリピンの沿岸警備隊や漁船に対する中国側からの行動が頻度や激しさを増していると批判。1月に訪中した際、習近平国家主席との首脳会談で南シナ海問題に「友好的な協議を通じて対処する」ことで合意していた。【2月15日 共同】
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中国側は、「乗組員に対し、レーザー照射はしていない」と反論しており、そのうえで、「フィリピンの巡視船が中国の許可なしに進入してきたため、警告した」と改めて中国海警の対応を正当化しています。

しかし、マルコス大統領の強い姿勢は変わっていません。

****マルコス比大統領「1インチも領土失うことはない」…中国海警局のレーザー光線照射巡り****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は18日、南シナ海での中国との領有権争いを念頭に「我が国が1インチたりとも領土を失うことはない」と強調した。

南シナ海を巡っては、中国海警局の船が比沿岸警備隊の船に「軍用級」のレーザー光線を照射した問題で緊張が高まっており、マルコス氏は中国側に譲歩しない姿勢を改めて示した。

米国との相互防衛条約に基づく対応は「もし発動させれば、さらに緊張を高めることになる。(沈静化には)逆効果だ」として否定的な見方を示した。【2月18日 読売】
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大統領選挙では故マルコス元大統領の長男という人気が先行し、対中国関係など政策的な面はほとんど明示されていなかったマルコス大統領ですが、就任後の外交はイメージよりは毅然としているようにも見えます。

【米豪日との防衛協力強化も】
中国の挑発的な動きをを受けて、アメリカ、オーストラリア、日本との防衛協力強化を進めています。

****フィリピン、米日豪と防衛強化 南シナ海巡り中国との対立鮮明に****
 中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国の挑発的な行為が続く中、フィリピンは米国やオーストラリア、日本との防衛協力強化を進めている。南シナ海での多国間巡視活動にフィリピンが初めて参加することも検討されており、対立構図は一層鮮明になりそうだ。

フィリピン沿岸警備隊は(3月)4日、フィリピンが実効支配する同諸島パグアサ(同ティトゥ)島周辺で、中国軍の艦船など42隻を確認し、一部は島周辺に停泊していたと発表した。2月には中国艦船が同諸島で補給活動中の比巡視船に2度レーザー光線を照射する事案があり、マルコス大統領が中国の駐フィリピン大使を呼び出して「深刻な懸念」を伝えたばかりだ。

両国は1月、南シナ海問題について外交当局者間で直接話し合う「ホットライン」の設置で合意した。地元メディアによると、レーザー照射問題では、外相間で活用された模様だ。ただ、ホットラインはあくまで偶発的な衝突を避けるためのものとみられ、中国の挑発行為がやむ気配は見られない。

フィリピンにとって中国は最大級の貿易相手国だが、マルコス氏は南シナ海問題について「我が国は1インチも領土を失わない」として強い姿勢で臨む。

2月には米国との「防衛協力強化協定」(EDCA)に基づき、米軍が使用できるフィリピン国内の基地を現在の5カ所から9カ所に増やすことで合意。同月に来日したマルコス氏は岸田文雄首相と会談し、南シナ海などにおける防衛協力を促進することで一致した。豪州とも防衛協力を強化する。

ロイター通信によると、米国とフィリピンが今春にも実施を予定する共同巡視に、豪日が参加する計画が持ち上がっているという。フィリピン外務省は3月、具体的な内容は明らかにしていないが、同盟国との共同巡視などのガイドラインを策定中だと発表した。

計画が実現すれば、フィリピンにとって初の南シナ海での多国間の海洋巡視活動となる。中国の強い反発は必至だ。またEDCAで新たに追加される施設は、具体名は明らかになっていないが、南シナ海付近に加え、台湾に近いルソン島北部の施設が含まれているとの報道がある。

地元メディアは「『台湾有事』にそなえた米国の思惑がにじみ、南シナ海問題を超えた中比の火種になりうる」などと報じている。

シンガポールの南洋理工大ラジャラトナム国際学院のコリン・コー研究員(海洋戦略)は「フィリピンと米日豪の防衛強化が、中国との即時衝突につながるわけではないが、中国の南シナ海での行動抑止になるわけでもない」と指摘。「この地域に関与する国が増えれば、予期せぬ衝突などの機会が増え、南沙諸島(を巡る情勢)はより不安定化する可能性が高い」と話した。【3月8日 毎日】
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【「台湾有事」を念頭に、米比関係再建を主導するアメリカ】
“『台湾有事』にそなえた米国の思惑”・・・それは当たっているでしょう。
アメリカ側は、ドゥテルテ前政権時代にギクシャクした米比関係再建に、フィリピン以上に積極的です。

****米国が強化する台湾有事戦略としてのフィリピン関係****
台湾有事に備え、米国は台湾に近い同盟国フィリピンとの関係強化に乗り出し始めた。さらにワシントンでは、対中国抑止力強化を前提に日本を加えた「日米比トライアングル」関係構築にも関心が高まっている。

繰り返される米比での会談
昨年6月、フィリピン大統領にフェルディナンド・マルコス大統領が就任以来、米比間の急接近ぶりが目立っている。

反米姿勢が目立ったロドリゴ・ドゥテルテ前大統領とは対照的に、マルコス大統領は同年9月には、最初の外遊先として、訪米に踏み切った。中国に気を遣い「国連総会出席」が表向きの理由だったが、最大の目的は、ホワイトハウスでのバイデン大統領との初の首脳会談に臨むためだった。

共同声明によると、同首脳会談では、①米比関係の重要性を相互確認、②米国は揺るぎない対フィリピン防衛コミットメントを約束、③両首脳は(台湾を含む)南シナ海情勢を協議し、航海・飛行の自由確保と地域紛争の平和的解決の意義を強調した――ことなどがうたわれた。

しかし、両国関係改善により大きな力点を置いてきたのは、南シナ海における中国の軍事威圧を警戒するバイデン政権の方だった。とくに、前政権時代にぎくしゃくしたフィリピンとの安保取り決め「米比相互防衛条約」(MDT)体制の立て直しと再確認が急務となった。

そこで、バイデン大統領は去る2021年7月、まず、ロイド・オースティン国防長官をマニラに派遣、同長官は「MDT調印70周年」記念式典に臨むと同時に、ドゥテルテ氏との会談で、「MDTが果たすインド太平洋安保における両国関係の中心的役割」を力説した。

続いて、マルコス政権発足直後の翌22年8月には、アンソニー・ブリンケン国務長官がマニラを訪問、マルコス大統領から「相互の緊密な関係抜きにMDTは存続し得ない」との言質を得た。

同年11月には、カマラ・ハリス米副大統領が訪比、マルコス大統領との会談で、23年春にも、両国が外務・国防の閣僚会議「2プラス2」を、7年ぶりに開催することで合意している。

フィリピン国内基地に米軍受け入れ
こうした米側のフィリピンに対する一連の精力的な取り組みは、冷戦終結以来、初めてであり、極めて異例だ。その背景にあるのが、最近、切迫度を増す台湾有事に備えた同国の地政学的重要性にほかならない。 

そこで、オースティン国防長官は去る2月2日にも改めてマニラに向かい、ガルベス比国防相との協議を通じ、①米軍による比国内5軍事基地の拡充・補強、②さらに新たに別の4基地への米軍アクセス、③両国軍による合同軍事演習の充実――などからなる合意にこぎつけた。

米軍当局が「画期的」と位置付けた今回合意の中で、とくに関心を集めているのが、新たに米軍部隊受け入れの約束をとりつけた4基地のうちのカガヤン、イサベラ、ザンバレス3基地だ。

これらはいずれも、台湾に近いバシー海峡に面した同国北部最大のルソン島内にあり、台湾防衛に当たる米軍部隊展開上、きわめて重要な役割を担うと見られている。(後略)【3月18日 WEDGE】
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【新たに米軍が使用できる比国内の拠点4カ所を公表 中国の反発は必至】
オースティン国防長官の訪比で合意された“新たに米軍部隊受け入れの約束をとりつけた4基地”が正式に公表されました。

****米軍使用可能な新4拠点、フィリピンが公表 中国への対応を強化****
フィリピン大統領府は3日、米国との「防衛協力強化協定」(EDCA)に基づき、新たに米軍が使用できるフィリピン国内の拠点4カ所を公表した。

うち1カ所はフィリピンが中国と領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島に近い南シナ海沿いで、別の2カ所は台湾に近い最北部が指定された。米比両国には、軍事的影響力を増す中国への対応を強化する狙いがある。
 
比大統領府によると、新たに拠点として追加されたのは、南シナ海に面する西部パラワン州の1カ所、台湾に近いルソン島最北部のカガヤン州の2カ所。さらに同島北部イザベラ州の1カ所も指定された。

南沙諸島では2月、中国船がフィリピン船にレーザー照射する事案が起きるなど、中国の挑発行為が続く。一方、ルソン島北端から台湾の最短距離は約350キロで、米軍は「台湾有事」などに備える構えだ。

大統領府は新たに指定された4カ所について「適切で相互に利益がある」とし、自然災害の救援救助強化にもつながるとの見解を示している。

在マニラ米国大使館は「新たな4拠点の指定は、米比両軍の相互運用を強化し、インド太平洋地域でのさまざまな共通課題の解決に向け、より円滑な対応を可能にする」との声明を出した。
 
2014年に締結されたEDCAでは、10カ所の拠点が選定されるとされ、このうちすでに5カ所が拠点として選ばれている。地元メディアでは、残りの1カ所が、かつて米海軍基地としてアジア最大規模を誇り、約30年前にフィリピンに返還されたスービック湾となるかどうかに注目が集まっている。【4月4日 毎日】
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海洋進出を強める中国への抑止力強化を念頭に、台湾に近い比北部や南シナ海に面したパラワン島近くの拠点が含まれ、中国側の反発は必至と思われます。

“両国は拠点の整備を本格化させており、3月にはマニラ郊外のバサ空軍基地で滑走路の改修工事が始まった。拠点が整備されれば、米軍はフィリピン各地で装備の備蓄などができ、機動的な部隊展開が可能になる。”【4月4日 読売】

一方、中国とは外交当局間で「自制を保つ」ことで合意しています。

****中国とフィリピンが南シナ海問題で協議 「自制保つ」で合意***
中国とフィリピンの外交当局は24日、レーザー照射問題などをめぐって対立が深まっている南シナ海の問題について協議し、互いに自制を保つことで合意しました。

フィリピンを訪問中の中国の孫衛東外務次官は24日、フィリピンのラザロ外務次官と領有権をめぐって対立が続く南シナ海の南沙諸島問題について協議しました。

中国外務省の発表によりますと、「南シナ海情勢と互いに懸念する問題について率直に意見交換し、自制を保つ」ことで合意したほか、不測の事態にあたっては連絡を強化して対応に当たることで合意したということです。

習近平国家主席とマルコス大統領はことし1月に発表した共同声明で紛争を平和的に解決することで合意。外交当局間で直接対話を進めることでも一致していましたが、先月、フィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー照射を受け、マルコス大統領自らが中国大使に抗議するなど対立が深まっていました【3月25日 TBS NEWS DIG】
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しかし、外交当局の“合意”と、現場の中国海警局の動きが一致しないのが中国です。外交当局と海警の間で話がついているのか、あるいは、外交当局が無視されているのかは知りませんが。
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