孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  10%超の上昇が続く物価水準 王室に対する国民世論動向

2023-04-25 23:36:03 | 欧州情勢

(イギリス消費者物価指数【4月20日 千葉秀一氏 note】)

【依然続く10%超の物価上昇 40年ぶりの高水準 食品は19%】
日本を含め、多くの国がインフレに悩んでいますが、イギリスでは10%超の物価上昇が続き(食品は19%)、他の先進国と比べても厳しい状況となっています。

****英の消費者物価指数 前年同月比10%超上昇 厳しいインフレ続く****
イギリスの先月の消費者物価指数の伸び率は2か月ぶりに縮小しましたが、前の年の同じ月と比べて10%を超える上昇となり、依然として厳しいインフレが続いています。

イギリスの統計局が19日発表した先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて10.1%の上昇となりました。
上げ幅は、前の月の10.4%を下回り、2か月ぶりに縮小しました。

ただ、伸び率がふた桁となるのは7か月連続で、アメリカやユーロ圏と比べても依然として高い伸びとなっていて、記録的な水準のインフレが続いています。

伸び率の縮小は、ガソリンなどを含む「輸送」の項目が前の年の同じ月より0.8%の上昇と前の月の2.9%から大きく下がったことが主な要因です。

一方、食料品や飲料を含む項目は19.1%の上昇で前の月の18.0%から拡大し、生活に身近な品目で物価が高止まりしていることがうかがえます。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行はインフレを抑え込むため、これまで11回連続で利上げを決めていますが、物価高の動向に加え欧米で広がった金融不安を受けて今後、どのような政策判断をするのか注目されます。【4月19日 NHK】
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こうしたインフレ状況は“約40年ぶりの高水準”【4月19日 テレ朝news】とのことで、食品については“過去45年で最も高い水準”【同上】とのこと。

市民生活にも大きな影響が出ています。

****「ちょっとパブに」すら贅沢... 春なのに天気の話もできないイギリス****
<イギリスに気候の良い4月が訪れると例年は天気の話をするはずのイギリス人たちが、今年は急激な物価上昇の話題で持ちきり>

4月は大抵、気候が穏やかになり始め、イギリスの人々が天候に対して好意的な気持ちを抱く月だ。でも今年は一気に押し寄せた値上げ(多くの分野で同日に行われた)もまた顕著な月だった。

僕たちは皆、いつもの話題(つまり天候)よりもむしろ値上げについて話していた。

ファーストクラス(翌日配達)郵便の値段は約16%上昇。地方税は5%増額。水道代は全国平均で7.5%上がった(僕の住む地域では10.5%値上げ)。国民保健サービス(NHS)の薬代は30ペンス値上がりし、ほんの3.2%の上昇ではあるが、医師の診察を受けるのに3週間も待たされて、ちょうど値上げされた日に処方箋を受け取る羽目になった僕は腹立たしい思いをした。総合して、これらは家計に結構な打撃を与えている。

イギリスではここ数十年ほど大規模なインフレが起こらなかったから、僕たちは比較的安定した価格に慣れてしまっていた。値上がりがあっても、何年かかけてこの製品やらあのサービスやらの価格が少々上がっていく、という程度だった。

それが今では、2桁のインフレに襲われているから、一部の商品の値段は劇的なほどに上昇している。常に買っているような製品は特に値上がりに気付きやすい。例えば少し前に4パイント(約2.2リットル)当たり1.1ポンド(183円)だった牛乳は今年になって1.65ポンド(275円)に急騰した。

安かったはずのパブも床屋も
僕が心底驚いたのは、ロンドンのパブでのビール1パイントの価格だ。インフレの始まる前ですら、既にかつてなら考えられないレベルの5ポンド(約830円)になっていたのは知っていたが、それが今や多くの店で7ポンド(約1160円)近い値段になっている(8ポンド〔約1330円〕を超えたところもあるらしい)。

昨年12月に僕は学生時代の古い友人たちとクリスマス飲みで金融街のしゃれたパブを訪れた。(レストランでもナイトクラブでもなく)「ちょっとパブで会う」のは以前なら安く済む選択肢だったはずが、その日はすっかり高くついた夜になってしまった。(後略)【4月25日 Newsweek】
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****英国で平均寿命が伸びない理由...「集団自決」などなくても長生きできない厳しい現実とは?****
<ロンドンの高級住宅街ケンジントンからニュークロスゲートまで、わずか10キロ離れただけで男性の平均寿命は92歳から74歳へと18年も短くなる>

(中略)最新の世論・社会動向調査によると、成人の半数以上(51%)が食品の買い物をする時、購入量を減らしている。成人の約4人に1人(26%)が過去2週間に食料必需品の不足を経験、ちょうど1年前の16%を大きく上回った。

食費節約のために53%の成人が「より安い食品を買う」、26%が「缶詰や賞味期限の長い食品を多く買う」、21%が「賞味期限の過ぎた食品を食べる」と回答。16%が食事の量を減らしたり、食事を抜いたりしており、中等度から重度の抑うつ症状を持つ人で42%、リタイア前の非就業・非求職者で35%、イングランドで最貧困地域に住む人で31%に達していた。

英紙ガーディアンによると、英国の定番食品チェダーチーズ、白パン、ポークソーセージの価格はこの1年で80%も高騰。

著しく値上がりしたのは(1)砂糖 42.1%(2)ソース、調味料、塩、スパイス、料理用ハーブ33.7%(3)牛乳、チーズ、卵 29.7%。エネルギーや肥料の高騰とインフレによるコスト増、悪天候による不作が原因だ。トマトも不足している。

がん患者の最高待ち時間は671日
60歳を超え、年金生活に備える英国暮らしの筆者はスーパーで買い物をするたび、レシートを見て「本当に高くなった」とため息をつく。早く買い物に行かないと卵も品切れで、翌日買い足しに行く羽目になる。

欧州単一通貨ユーロ圏では年間インフレ率は8.5%に下がっている。今更ながらモノの流れを停滞させた英国の欧州連合(EU)離脱が恨めしい。

(中略)英国の公共医療サービス(NHS)は原則無償がセールスポイントなのだが、かかりつけ医(GP)の緊急紹介から2カ月以内に治療を受けられるはずのがん患者の最高待ち時間は671日(英大衆紙デーリー・ミラー)。住む地域によって医療サービスには大きな格差がある。

筆者の友人、知人には心疾患で手術を受けた50代、60代、70代の男性が多い。民間健康保険によるプライベート医療を受けた男性はカテーテル治療の費用が3万5000ポンド(584万円)と算定され、毎月の保険料が600ポンド(10万円)に値上げされたとぼやく。別の男性はNHSの順番待ちに音を上げて自費で治療を受け、2万ポンド(334万円)を支払った。

米イェール大学・成田悠輔助教は、日本の65歳以上が全人口の3割に達したことに関連して、ネットTVで「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないかなと。人間って引き際が重要」と持論を展開したことが米紙ニューヨーク・タイムズなど海外メディアで問題視された。(後略)【4月21日 Newsweek】
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上記記事は、大きな経済格差の存在、その格差によって平均寿命が極端に異なる・・・という話につながって行きますが、今回はパス。

いずれにしても、現在のインフレは、経済的に恵まれない層に対し、経済的にも、健康面でも、大きな負担を更に課すことになっています。

【23年はマイナス成長の予測 G20で最低】
インフレだけでなく、イギリス経済全体が芳しくありません。

****イギリスの成長率見通し、G20で最低に=IMF****
国際通貨基金(IMF)は11日、最新の世界経済見通しを公表し、2023年の世界経済の成長率が昨年の3.4%から2.8%に鈍化する見通しを示した。

イギリスの国内総生産(GDP)は0.3%のマイナス成長で、1月のマイナス0.6%から改善を見込むものの、ウクライナ侵攻をめぐり制裁を受けるロシアを含む主要20カ国・地域(G20)の中で最悪の落ち込み幅になるとした。(中略)

IMFは1月の時点で、イギリスのGDPが今年、0.6%縮小し、主要7カ国(G7)の中で唯一マイナス成長となると予測していた。イギリスは前年に、新型コロナウイルスのパンデミックからの回復を見せ、G7で一番の成長をみせていた。

IMFの研究者たちはこれまで、英経済のパフォーマンス低迷の理由に、同国がガス価格の高騰や金利の上昇、貿易実績の低迷に直面していることをあげていた。

最新のIMFの予測について、ジェレミー・ハント財務相は、(中略)「IMFは、経済成長に向けて私たちが正しい道を歩んでいると示している。計画に沿って行動することで今年のインフレを半分以上抑え、みなさんが受けるプレッシャーを和らげていく」

一方、野党・労働党のレイチェル・リーヴス影の財務相は、この試算は「私たちが国際舞台でどれほど遅れをとり続けているか」を示していると述べた。

「これは13年間にわたる保守党政権下での低成長がこの国の経済を弱体化させている点だけでなく、保守党による住宅ローン違約金に直面し、統計開始以来最も速いペースで生活水準が低下し、家庭の経済状況が悪化しているという点からも重要なことだ」

野党・自由民主党の財務担当スポークスマンのサラ・オルニー氏は、IMFの予測は「保守党政権の経済記録に対する、新たな痛烈な非難」だとした。(後略)【4月12日 BBC】
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前年にパンデミックからの回復によってG7で一番の成長を達成していたとのことですから、その反動減の側面もあるのかも。

ただ、EU離脱による経済環境を考えると、イギリス経済の今後が厳しいことは予想されます。

【頻発するストライキ チャールズ国王の戴冠式にも影響が】
こうしたインフレ・経済状況にあって、以前も取り上げたように、賃上げを求めるストライキも頻発しています。

“イングランドでは今月、若手の医師らが賃上げを求めて4日間のストライキを行いました。地元メディアによりますと、この影響で手術や診療など少なくとも19万6000件がキャンセルされたということです。”【4月19日 テレ朝news】

****英ヒースロー空港職員がストへ チャールズ国王の戴冠式への影響懸念****
イギリスの玄関口、ロンドン・ヒースロー空港の職員が来月、ストライキを計画していて、チャールズ国王の戴冠(たいかん)式に影響が及ぶ可能性があります。

イギリスの労働組合ユナイトは19日、ヒースロー空港で働くセキュリティースタッフが来月、8日間のストライキを実施する計画を発表しました。

特に4日から6日のストライキは、6日のチャールズ国王の戴冠式のために集まる要人や見物客の移動に影響が出る可能性があります。(後略)【4月20日 テレ朝news】
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【英王室に対する世論 若者層に多いネガティブな声 今後も君主制は続くものの・・・】
厳しい経済状況もあってか、チャールズ国王の戴冠式への風当たりも強いようです。

****国王戴冠式、税金投入に過半数が反対 英世論調査****
英国民の51%が、来月6日に行われるチャールズ国王の戴冠式に税金を投入すべきではないと考えていることが、18日公表の世論調査で分かった。

世論調査会社「ユーガブ」が成人4246人を対象に実施したもので、回答者の51%が、戴冠式の費用を政府が「負担すべきではない」と答えた。「負担すべきだ」との回答は32%、「分からない」が約18%だった。

年代別では、生活費高騰の影響を特に受けている若者に反対が多く、18〜24歳の約62%が「負担すべきではない」と回答した。肯定派は15%にとどまった。一方、65歳以上では「負担すべきだ」が44%、「すべきではない」が43%と拮抗(きっこう)している。

政府は、戴冠式と関連イベントの経費をまだ明らかにしていない。大規模な警備費用などを含め、総額数千万ポンドに上るとみられている。

1953年のエリザベス女王の戴冠式の費用は、現在の価値で2050万ポンド(約34億円)。エリザベス女王の父、ジョージ6世の戴冠式(1937年)には同2480万ポンド(約41億円)が費やされた。 【4月19日 AFP】
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ただ、この“風当たり”の原因は生活費高騰だけでなく、基本的にはチャールズ国王の信頼度、更に言えば、英王室・君主制に対する揺らぎを反映したもののように思えます。「負担すべきではない」という声が強い若者層では特に英王室存続へのネガティブな意見が目立ちます。

****英女王死去で世論に変化か、共和制支持派が活動本格化****
英国では70年に及ぶエリザベス女王の在位中、共和制移行を訴える人々から不満が噴出する場面が幾度かあった。しかし国民の女王に対する敬愛が強かったため、王室廃止の機運が長続きすることはなかった。

しかし女王が死去し、女王に比べて人気の劣る息子のチャールズ国王が即位したことで、共和制支持者らは1000年の歴史を持つ王室が廃止に一歩近づいたかもしれないと考えている。

共和制支持の活動団体「リパブリック」のグレアム・スミス代表は今年、「ほとんどの国民にとって女王こそが王室だ。彼女が死去した後、この制度の将来は深刻な危機に直面する」と語っていた。「チャールズ皇太子は王位を継承するかもしれないが、女王が享受していた敬意を引き継ぐことはないだろう」との見方だった。

近代民主主義の中に王室の居場所は存在せず、王室の維持費は目をむくほど高いというのが、スミス氏ら反王室論者の主張だ。

王室当局者らは、維持費は国民1人当たり年間1ポンド(約166円)にも満たないと言う。しかし共和制支持者らは、本当の経費は年間約3億5000万ポンドに達するとしている。

王室の全財産も把握するのが難しい。財務が不透明で、直接所有している資産もはっきりしないからだ。ロイターが2015年に行った分析では、当時の名目資産は推計230億ポンド相当だった。

世論調査では、英国民の大半が王室を支持していることが一貫して示されている。女王自身への支持率も同等か、それ以上だ。共和制支持者らも、女王の存命中に王室制度を変えるのは無理だと認めていた。

しかし調査では、支持率が徐々に低下しており、特に若者の間で下がっていることも分かっている。また女王に比べてチャールズ国王の人気が劣ることも示されている。

73歳のチャールズ国王が即位することへの支持も揺らいでおり、一部の調査では、多くの人々が長男のウィリアム皇太子が王位を継ぐべきだと考えていることが示された。(後略)【2022年9月12日 ロイター】
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****日本の天皇家とは事情が違う…若者の4割強に不支持が広がる英チャールズ新国王の憂鬱****
(中略)
国民の67%が君主制を支持
この調査(2022年9月中旬)では、イギリス国民の67%が、イギリスは今後も君主制を続けるべきだと答えている。過去の他の調査を見ても、君主制の支持率は70%前後で比較的安定しており、1997年にダイアナ妃が亡くなり王室の対応に批判が集まった時でも、この支持率にそれほど影響はなかったほどだ。

しかし、君主制に対する考え方も、世代間で大きな差がある。65歳以上の86%が「君主制を続けるべき」と答えているのに対し、18〜24歳では47%にとどまっている。

よほどロイヤルファミリーが国民の信頼を失わない限り、今後も君主制を支持する傾向は続くとみられるが、チャールズ新国王率いる新しい王室が、若者の支持をいかに得られるかが課題になりそうだ。(後略)【2022年10月4日 PRESIDENT Online】
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王室廃止を訴える団体は、戴冠式当日に大規模な活動を予定しています。

****君主制は「反民主主義」=国王戴冠式で大規模デモも―英廃止派****
来月6日のチャールズ英国王の戴冠式を控え、王室廃止を訴える圧力団体「リパブリック(共和制)」のグレアム・スミス代表が24日、ロンドン市内で記者会見した。君主制は「民主主義に反する」と主張し、国民の間で「君主制廃止と共和制移行に向けた機運」が高まっていると強調。戴冠式でもデモを行い、「英国が王政主義の国ではなく、反対派が増えていることを世界に示したい」と述べた。

スミス氏は、戴冠式に「非常に関心がある」と答えた割合が1桁台だった最近の世論調査を挙げ、「国民の多くは民主主義的価値観を信じており、封建的価値観と階級制度の原則の上に築かれた君主制はこれに反する」と指摘。物価高による生活費危機に人々が苦しむ中、「(戴冠式で行われる)1回のパレードに巨額の税金を費やす」のは誤りだと訴えた。

戴冠式当日は少なくとも1000人のメンバーが、国王を乗せた馬車などが通るパレードの沿道に陣取り、反君主制のポスターを掲げたりスローガンを叫んだりする運動を展開する計画という。【4月25日 時事】 
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前出【PRESIDENT Online】にもあるように、イギリス国内では“今後も君主制を支持する傾向は続く”のでしょうが、英国王を国家元首とする英連邦(コモンウェルス、旧植民地諸国などで構成)加盟国にあっては、「変化」があるのかも。
“英連邦、進む「王室離れ」 君主制廃止模索「自国のトップ、自ら決める」 新国王、問われる求心力”【2022年9月21日 毎日】
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