(日中外相会談 【4月2日 NHK】)
【日本人男性拘束で日本側が急いだ日中外相会談】
報道されているように林芳正外相と中国の秦剛(チンカン)国務委員兼外相の会談が2日、行われました。林外相の訪中は、「早くても5月の連休ごろだと見ていたが、ここ1週間ほどでバタバタと決まった。日本側が積極的だった」(中国共産党関係者)とのこと。
今回の林外相訪中は、昨年11月の岸田文雄首相と習近平国家主席による日中首脳会談で合意したハイレベル往来の再開に基づくものですが、これまではコロナ禍の問題や日本外相の習近平国家主席との面会に中国側が難色を示したことなどで先送りされてきました。
こうした状況を受けて、日本側は2月に離任した孔鉉佑・前駐日大使の岸田首相へのあいさつを拒否。双方の思惑がすれ違う展開が続いていました。
今回も林外相と習主席の面会は見送られ、中国側は李強(リーチアン)首相が面会に応じました。それでも日本側が訪中に踏み切ったのは、3月下旬にアステラス製薬の男性社員が拘束されたことが大きいとのこと。
(もっとも、先ほどのNHKニュースでは、序列第2位の李強首相が面会に応じたのは、中国側の日本重視のあらわれ・・・とも解説していました。よくわかりません。)
中国でスパイを取り締まる国家安全省は今後、正式な逮捕や起訴に踏み切る可能性が高いと考えられ、そのため日本側は外交を通じた早期の問題解決へ動いたと推測されます。
中国側も、「翌年に習氏の国賓訪日が予定される中で、日本の対中感情悪化を回避するための政治判断だった。最後は習氏が決めた」(中国外交筋)とのこと。
****中国、アステラス製薬の日本人男性拘束は「スパイ容疑」と説明****
北京市でアステラス製薬の現地法人幹部の日本人男性が拘束された事件について、中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は27日の記者会見で、「(男性は)スパイ活動に従事し、中国の反スパイ法などに違反した疑いがある」と拘束理由を説明した。
男性が拘束された経緯は不明。北京の在中国日本大使館は、早期解放に向けて中国側への働きかけに全力を挙げている。
日中外交筋は同日、この邦人拘束について「日中関係の基礎である経済関係や人的往来にきわめて深刻かつ計り知れない影響を与え得る」と深い懸念を表明した。
関係者によると、拘束されたのはアステラス製薬で現地法人幹部を務める50代男性で、3月に駐在期間を終えて日本に帰国予定だった。帰国直前に北京市の国家安全局に拘束されたとみられる。
中国に進出する日系企業の団体「中国日本商会」の幹部を務めたこともあるベテラン駐在員で、日系企業関係者には「誰でも拘束される可能性がある」と衝撃が広がっている。
習近平政権は2014年に反スパイ法を施行するなど中国で活動する外国人の取り締まりを強化している。中国ではスパイ容疑などによる日本人拘束が続いており、15年以降に今回のケースを含めて少なくとも計17人にのぼる。【3月27日 産経】
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今回の外相会談で林外相は早期解放を求めたものの、秦剛外は「法に基づいて処理」と強調したとのこと。
****日中外相会談 “緊密に意思疎通を” 拘束の日本人解放申し入れ****
中国を訪問している林外務大臣は、秦剛外相と会談し、首脳や外相レベルを含めたあらゆるレベルで緊密に意思疎通を図ることで一致しました。
また、大手製薬会社の男性など日本人の中国国内での拘束に抗議し、早期解放を強く申し入れました。(中略)
秦剛外相 日本けん制するも関係改善に意欲
一方、中国の秦剛外相は会談の冒頭、日本がアメリカとの連携を強化していることなどを念頭に日本をけん制する一方、両国関係の改善に意欲を示しました。この中で、秦外相は、ことしが日中平和友好条約の締結から45年になることに触れ、「先人たちは卓越した見識をもって両国関係の平和友好協力という大きな方向性を確立した」と述べました。
また、「両国関係のバトンはわれわれの世代に渡り、歴史と人民に恥じない正しい選択をすべきだ」と述べ、日本がアメリカとの連携を強化していることなどを念頭に日本をけん制しました。(中略)
また、「両国関係のバトンはわれわれの世代に渡り、歴史と人民に恥じない正しい選択をすべきだ」と述べ、日本がアメリカとの連携を強化していることなどを念頭に日本をけん制しました。(中略)
秦剛外相 拘束の日本人「法に基づいて処理」
中国外務省によりますと、秦剛外相は林外務大臣との会談で大手製薬会社の日本人駐在員がスパイ活動に関わった疑いがあるとして中国国内で拘束されたことをめぐり「中国側は法に基づいて処理する」と強調したということです。
しかし、中国側が今後、具体的にどのような対応を取るのかなど、詳しい内容については明らかにしていません。(後略)【4月2日 NHK】
しかし、中国側が今後、具体的にどのような対応を取るのかなど、詳しい内容については明らかにしていません。(後略)【4月2日 NHK】
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現段階で表向きに出てくる話はこんなものでしょう。
林外相が示した早期解放に向けた日本側の意向が、中国側においてどのように配慮されるか・・・といったところです。
会談では、このほか、中国が沖縄県・尖閣諸島周辺などで軍事活動を活発化させていること、香港や新疆ウイグル自治区での人権状況、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出、日本政府が最先端の半導体製造装置23品目の輸出規制を強化することなどが話し合われました。
【李強首相は日中経済関係の拡大を期待するも、邦人拘束で対中投資への慎重論が広がる日系企業】
今回のアステラス製薬社員拘束は、中国での経済活動の危険性を日本企業に改めて認識させることになっています。
****中国の邦人拘束、日系企業に衝撃 広がる慎重論、投資の機運そぐ****
中国北京市のアステラス製薬の現地法人幹部が拘束された事件は、中国に進出する日系企業に衝撃を与えた。
中国外務省は27日、男性はスパイ容疑としたが具体的な容疑事実を明らかにせず、日本人社会に不安が拡大。中国ビジネスは「リスクが大きい」と慎重論が広がり、対中投資の機運はそがれている。在中国日本大使館は男性の早期解放に全力を挙げている。
「どのような行為が罪に問われるのか不透明だ」「何に気を付けていいか分からない」。中国の日系企業関係者からは戸惑いの声が上がる。
中国ではスパイ行為など「国家安全」に関する事案は容疑内容を明らかにしないのが通例だ。公判も秘密法廷で、判決確定後でさえ、罪に問われた行為の詳細が公になることはほぼない。
男性は北京の日系企業で組織する「中国日本商会」の幹部を務めたこともあるベテラン駐在員。在中国日本大使館は26日夜、商会の幹部十数人に日本政府の対応を説明する会合を開いた。出席者によると、垂秀夫大使は「早期解放に向けて全力を尽くしている」と話したという。【3月27日 共同】
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中国国営メディアによると、李強首相は林外相に対し「中日は重要な経済・貿易パートナーとしてさらに高いレベルの互恵関係を実現すべきだ」と述べ、日本との経済協力に意欲を示したそうですが、一方で相次ぐ邦人拘束・・・いささか一貫性のない対応のようにも見えます。
中国の場合、軍や治安当局のやることを外務省が把握していないこと、「右手でしていることが左手に知らされていない」というのが普通に見られることです。今回もそうした案件か・・・。
【中国で拘束されている米国人は200人以上 家族が期待するブリンケン国務長官訪中は気球問題等で延期】
なお、中国で拘束される外国人は日本人だけでなく、アメリカ人200人以上が不当拘束されているとか。
****200人以上のアメリカ人も不当拘束、中国政府が標的にしているのは誰か?****
<「刑務所で歯を5本失った...」自国民だけでなく、他国民も不当に拘束する中国。透明性を欠いた刑事司法制度に翻弄されたまま、月日だけが過ぎていく>
中国で何年も捕らわれの身になっているアメリカ国民とその家族の希望は、またしても打ち砕かれた。
きっかけは、アメリカ本土の上空で中国の偵察気球が確認されたことだった。
この問題を受けて、米政府は、2月上旬に予定されていたアントニー・ブリンケン国務長官の中国訪問と中国側高官との会談を無期限に延期せざるを得なくなった。家族が中国で自由を奪われている人たちは、ブリンケンの訪中が問題解決につながることを期待していた。
中国で不当に拘束されているアメリカ国民は200人を上回るが、正確な人数は分からないと、中国でリスクにさらされているアメリカ人被拘束者の処遇改善に取り組むサンフランシスコの人権団体「対話財団」の創設者ジョン・カムは説明する。
中国の刑務所や収容所で拘束されていたり、自宅軟禁状態にあったり、出国を禁じられていたりするアメリカ国民は、中国の透明性を欠く刑事司法制度に翻弄されている。ほとんどの場合は、法律の専門家による支援を受けられず、祖国の家族と連絡を取る機会も大幅に制約されている。
「私に言わせれば、このように中国で抑圧的な扱いを受けているアメリカ国民は政治犯だ。投獄などの処遇は、アメリカと中国の政治的関係が悪いことと関係があるのだから」と、カムは本誌に語っている。
こうした人たちが中国でかけられている嫌疑は全く妥当性を欠くと、家族は主張する。
ニューヨーク州ロングアイランドの実業家カイ・リー(60)は、2016年に上海を訪ねたときに逮捕された。その後、家族と連絡を取れない状態になり、18年に非公開の裁判でスパイ罪により10年の刑を言い渡された。
しかし弁護士によれば、リーのスパイ罪で問題にされた「国家機密」は、ネット上で自由にアクセスできるものだという。
米国務省は、リーを中国当局により不当に拘束されているアメリカ国民の1人と考えている。「つまり、父に対する刑事告発が政治的動機によるものだったと、アメリカ政府も判断しているということだ」と、リーの息子ハリソン(25)は本誌に語っている。
収監されているリーがアメリカの家族と連絡を取れる機会は、月1度のわずか数分間の電話だけだ。しかも、新型コロナのパンデミックが始まると、刑務所は服役者との面会を停止した。そのため、リーの現在の状況を把握し、法的権利が保障されているかどうかを確認することが難しくなっている。
「この3年間、上海の米領事館職員が父と面会することは許されていない」と、ハリソンは言う。(中略)
本誌は中国外務省に取材を試みたが、回答は得られなかった。拘束されたアメリカ人について尋ねても、外務省は個々のケースは関知しないとコメントすることが多い。
ハリソン・リーとアリス・リン(1990年代に中国の教会の活動を支援するため中国に渡っていたが、06年に北京で自宅軟禁状態に置かれた牧師デービッド・リンの娘)も、ブリンケンが北京で父親の件を議題にしてくれるのではと期待した。「だが、それだけでは足りない」と、ハリソンは言う。「この問題にはジョー・バイデン大統領以下、政府が一丸となって取り組んでほしい。父の帰国につながる現実的な計画を立て、行動を起こしてもらいたい」
キャロライン・ツァイ(17年に出張で中国を訪れた際、日程を終えてアメリカに帰国しようとしたときに出国を禁止された実業家ヘンリー・ツァイの娘)は米政府を通じて中国当局に何度も人道的配慮を求めたが、「無視された」という。
「アメリカ人が中国で不当に拘束され足止めされる問題を公の場で提起してくれるよう、ブリンケンに切に求める。これは重大な人権侵害で、多くの家族を引き裂いている」
1月、アメリカ人の不当拘束にブリンケンは「個人的に関心を払い、解決に尽力している」と、国務省の広報担当は発言した。バイデン大統領が昨年11月に習近平(シー・チンピン)国家主席との首脳会談でこの問題を取り上げたことにも触れ、こう確約した。
「われわれは今後も中国で不当に拘束された国民を擁護し、その家族を支援していく。現政権はあらゆるレベルで、被拘束者の解放を訴えている」(後略)【3月30日 Newsweek】
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上記のようなアメリカの状況に比べると、今回邦人拘束直後に訪中・外相会談にのぞんだ日本の対応は反応が早かったというべきか。あるいは米中関係に比べたら、日中関係はましな状況にあると言うべきか。
【今後の政治問題化が予測されるロシアのWSJ米国人記者拘束】
アメリカ人の拘束で最近起きた事件が、ロシアでのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者の拘束。政治問題化することが予想されています。
****ロシアのWSJ記者拘束、米政府が非難****
バイデン米政権は30日、ロシアがスパイ容疑でウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者を拘束したことを非難した。スパイ容疑で米国人記者がロシアで拘束されるのは、冷戦終結後で初めて。
ホワイトハウスのカリーン・ジャンピエール報道官は声明で「ロシア政府が米国民を標的にすることは容認できない」とした。
アントニー・ブリンケン国務長官は、ロシア政府が「ジャーナリストや市民社会の声に対して威嚇、抑圧、懲罰を続けようとする試みを最も強い言葉で非難する」と述べた。
(中略)国務省は(中略)、米国人に対しロシアへの渡航を避ける、あるいはロシアから直ちに出国するよう促しており、カービー氏は同様の警告を繰り返した。
ロシア連邦保安局(FSB)は30日、前日にエカテリンブルクでゲルシコビッチ氏をスパイ容疑で拘束したと発表。声明では、同氏が「米側の指示に従い、ロシアの軍産複合体に属する1社の活動に関する国家機密を含む情報を収集した」と述べた。
ゲルシコビッチ氏はWSJのモスクワ支局勤務。FSBは、同氏がロシア外務省から記者としての活動を認められていると述べている。
ロシア国営タス通信によると、ゲルシコビッチ氏は移送先のモスクワで国選弁護人を伴い裁判所に出頭し、5月29日までの身柄拘束を命じられた。
ロシアではスパイ容疑を巡る裁判は非公開で行われることが多く、被告が無罪を言い渡されることはめったにない。
WSJはFSBが主張する容疑を「断固として否定する」とし、ゲルシコビッチ氏の「即時釈放を求める」とした。
スパイ容疑によるゲルシコビッチ氏の拘束は大きな外交問題に発展することが予想され、米ロの間で緊張がさらに高まるとみられる。
カーネギー財団ロシア・ユーラシアセンターのディレクター、アレクサンドル・ガブエフ氏は、米ロの関係は「新たな低水準に落ち込んだ」とし、活動が認められてきた米国人記者の拘束で「前例が作られることになる」と述べた。
ゲルシコビッチ氏は31歳で、WSJには2022年1月に入社した。ロシアでは17年からモスクワ・タイムズ、のちにAFP通信の記者として勤務。最近では、西側による制裁がロシア経済に与える影響について記事を執筆した。
米国は昨年12月、ロシアの武器商人ビクトル・ボウト受刑者を釈放した。ロシアで服役中だった米女子バスケットボールのブリトニー・グライナー選手と引き換えだった。両国の間では、元米海兵隊員ポール・ウィーラン氏が18年にスパイ容疑でロシアに拘束された件を巡り、問題が解決していない。
ロシアのセルゲイ・リャプコフ外務次官は30日、ゲルシコビッチ氏の交換の可能性について問われ、議論は時期尚早との見解を示した。
国営RIAノーボスチ通信によると、リャプコフ氏は過去の交換では既に服役していた人物が対象だったと指摘し、ゲルシコビッチ氏については「今すぐにその問題を提起するつもりはない」と述べた。その上で、事態の進展を見守る考えを示した。【3月31日 WSJ】
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ゲルシコビッチ氏の場合は、ジャーナリストという職業上、これまでも身の危険を感じる状況があったようです。
****スパイ容疑でロシア拘束の米紙特派員、過去の出張でも複数人物が尾行****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは3月31日、同紙のモスクワ特派員エバン・ゲルシュコビチ氏(31)は3月末にロシアの情報機関にスパイ容疑で拘束される前にも、複数回の出張で動向を監視されていたと報じた。
ゲルシュコビチ氏は北西部プスコフ州への出張で、複数の正体不明の人物から尾行され、行動を撮影された。別の出張でも露当局者が動向を記録し、取材先に事前に「話すな」と圧力をかけていたという。日常的に携帯電話の通信が傍受されていた可能性もある。
同氏が拘束された中部エカテリンブルクは、ロシア有数の軍需産業集積地。【4月2日 読売】
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