孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  欧米や中ロとも一線を画し、「グローバルサウスの盟主」を狙う 国境紛争など対中国で強気

2023-04-12 23:21:10 | 南アジア(インド)

(広大な印中国境地帯は、その多くが係争地域となっている【2022年1月22日 WEDGE ONLINE】)

【ロシア産石油輸入急増 「漁夫の利」とも】
インドはウクライナ問題を軸とする国際関係において、ロシアをあからさまに支援したり、中国のようにロシアに寄り添うこともありませんが、ロシアを激しく批判する欧米とも一線を画した対応をとっています。

結果的に、安価なロシア産石油を大量に輸入すると言う形でロシア経済を支えることになっている一方で、インド自身は“漁夫の利”とも評される利益を獲得しています。

****ウクライナ戦争で莫大な漁夫の利、そのインドに求められること****
ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻から1年が経った。
西側諸国がモスクワを非難する中、インドは非難するどころか逆に露印関係をむしろ深めている構図が浮かび上がってきている。(中略)

欧米諸国がロシアへの制裁措置としてロシア産の原油の輸入を削減しているなか、全く逆の動きに出てさえいる。
さらにロシア製兵器の発注も続けている。西側アナリストの分析をながめると理由がみえてきた。

最初はインドとロシアが歴史的に外交的な立場を共有してきたという背景がある。
インドは英国から独立した後、旧ソ連に傾斜しながらロシア側に身を寄せる。それは反欧米という感情がインドに根付き始めたということでもあった。(中略)

インドがロシアを非難しない他の理由は経済的要因がある。
インドはいま、世界でも急速に経済成長を遂げている国の一つで、国民の潜在意識として「政治よりもまず経済」を優先する流れがある。(中略)

ただインドには原油や天然ガスがほとんどないため、大半を輸入に頼っている。そこに登場するのがロシアなのだ。

インドはいまでも中東の産油国から原油を輸入しているが、ロシアのシェアが急増している。
原油輸入先としては、これまでイラクとサウジアラビアがロシアよりも上だった。それがいまやロシアが最大の原油供給国になっている。

2022年12月、インドはロシアから1日120万バレルの原油を輸入した。この数字は2021年12月比の33倍という数字である。

ウクライナ戦争が始まる前、ロシア産原油を全体の1%未満しか輸入していなかったインドが、今では総輸入量の28%をロシア産に頼っている。

皮肉なのは、インドに供給されたロシア産原油はインドで精製された後、欧州連合(EU)などに輸出されていることだ。

EUは2022年12月、ロシアへの経済制裁としてロシア原油の輸入を禁止したばかりで、巡り巡って欧州諸国に行きついているのだ。言い方を変えれば、EUは手を汚さずにロシア産原油を手に入れていることになる。

もちろんインドも割安なロシア産原油を大量に仕入れて、再輸出することで利益を上げている。これが今の国際関係の現実である。

露印関係が深まっている別の理由は、インドがいまでもロシア製の兵器に頼っていることである。
歴史的にインドの軍隊はロシアの兵器を使用してきた。冷戦時代、ロシアとインドは公式には非同盟だったものの密接な関係を維持していた。

ただ近年、ロシア製の兵器の品質に疑問を持ち始めたインドが航空機や大砲の一部をフランス、イスラエル、米国のものに置き換え始めてもいる。

もちろん、すべての軍備を置き換えるには多大の時間とコストがかかるし、いまだにロシアはインドに対し大量の武器を供給しているのも事実だ。(中略)

インドに精通した外交アナリストと話をすると、インドが今採るべき外交上の役割があるという。
それはロシアと国際社会の仲介役を担うことである。ロシアと密接な関係を築いているからこそ、重要な役回りを担う必要があるというのだ。(中略)

同外交アナリストが望むのは、このままウクライナの戦況が膠着した場合、ロシアを含めた関係国は「着地点」を探らざるを得なくなるので、インドがロシアと欧米との橋渡し役を担えるのではないかということだ。

モディ首相は今後もプーチン氏をあからさまに非難したり攻撃することはしないだろう。それだからこそ、ウクライナ紛争の早期解決を提案し、働きかけることができるはずだ。(後略)【3月3日 堀田 佳男氏 JBpress】
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上記記事にある、インドがロシア産石油輸入を急増させていることは以下のようにも。

****ロシア産石油、インドへの輸出22倍に 西側の制裁影響****
ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は28日、ロシアのウクライナ侵攻に伴って欧州諸国がロシア産以外の石油調達に動いたことから、2022年のロシアのインドへの石油輸出量が22倍に急増したと明らかにした。

ウクライナ侵攻開始以降、欧州連合加盟国はロシア産エネルギー依存からの脱却を模索、ロシアはインドと中国に石油輸出をシフトした。

EUは昨年12月、海上輸送によるロシア産原油を禁輸とし、主要7か国ともロシア産原油の上限価格導入で合意した。

こうした動きにより、中国とインドに輸出されるロシア産エネルギーの価格下落につながった。

ロシアの通信各社によると、ノバク氏は「(ロシアの)エネルギー資源のほとんどは他の市場、つまり友好国の市場に回された」と述べた。(後略)【3月28日 AFP】
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そしてインドが大量購入したロシア産石油を精製して、本来ロシア産石油を禁じている欧州へ「インド産」として流れている実態については以下のようにも。

****ロシア産石油製品輸入禁止の欧州、インド経由の「裏口流入」が急増****
今年2月からロシア産石油製品輸入を禁止している欧州連合(EU)に、インド経由で軽油や航空燃料の「裏口流入」が急増していることが、ケプラーとボルテクサのデータで判明した。

ロシア産原油を低価格で輸入できるインドの製油業界が、そうしたコスト面の競争力を武器に欧州向けの石油製品輸出を拡大して市場シェアを伸ばしている構図だ。

欧州のインドからの軽油・航空燃料輸入量は、ロシアのウクライナ侵攻以前は平均で日量15万4000バレルほどだった。ところがケプラーのデータによると、EUがロシア産石油製品輸入を禁止した2月5日以降、輸入量が20万バレルに増えている。(後略)【4月6日 ロイター】
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【「グローバルサウスの盟主」を狙うインド】
インドからすれば、ロシア産石油の輸入急増は、安価なものを入手したという単なる経済活動であり、それをとやかく言われる筋合いはない・・・ということでしょう。

とやかく言われる筋合いはないと言うより、かつての植民地支配国家でありながら“上から目線”の欧米や、あからさまな強権支配国家であるロシア・中国とも異なり、インドはその他大勢の「グローバルサウス」の声を代表する立場にある・・・というのがインドの立場でしょう。

モディ首相は、今年はG20の議長国ということで、「グローバルサウスの盟主」としてのインドをアピールしたいところでしょう。

そうした立ち位置において、特に「一帯一路」を掲げてグローバルサウスの国々との関係強化を図る中国と競い合う面が多くあります。

****グローバルサウスの盟主を目指すインドの危うさ モディ首相の触れられたくない過去も問題視****
「中国という全体主義国家は、多方面からの戦略を用いて米国を追い落とし、世界に君臨する超大国になろうとしている」

インド陸軍のパンデ参謀長は3月27日、米誌ニューズウィークのインタビューでこのように述べた。近年のインドの高官としては最も過激な中国批判の1つだ。 パンデ氏は中印国境の最前線で指揮をとるインド軍の最高幹部だ。

インドと 中国が軍事衝突したのは、1962年。両国の間の全長約3400キロメートルに及ぶ実効支配線の一部をめぐっての争いだった。その後、小康状態が続いていたが、2020年6月に、半世紀近くなかった死者を出す衝突が発生し、昨年12月にはインド軍が米国情報機関の支援を得て実効支配線の西側から侵入した中国軍を撃退したとされている。

パンデ氏は「北部国境沿いの軍の配備を見直し、高次の準備態勢を維持している」と自信を示しているが、中国との対立は長期にわたって続くことが懸念されている。

中国との国境紛争を重く見たインド政府は3月中旬、銀行や貿易業者に対して、ロシアからの輸入代金支払いに中国の人民元を使わないように働きかけている(3月13日付ロイター)。 これは、インドがロシア産の原油や石炭の最大の買い手になったことが関係している。

ウクライナ戦争の影響でロシアでは、米ドルに代わり人民元が最も取り引きされている外貨となっている。中国は3月末、アラブ首長国連邦(UAE)産の液化天然ガス(LNG)を人民元建てで購入する契約を成立させた。

エネルギー取引の分野で人民元のプレゼンスが高まっているのにもかかわらず、「インド準備銀行(中央銀行)は人民元による貿易決済に乗り気ではない」とインドの銀行関係者は語り、「政府が人民元の利用を妨げている」と嘆いている。

インド政府はさらに4月から自国通貨ルピー建ての貿易を促進する方針を明らかにしており、マレーシアやミャンマーとの貿易をルピーで決済することを発表している。

「今年はインドが世界を主導するきっかけに…」
中国との確執が通貨の問題に波及した形だが、最近のインドはとにかく鼻息が荒い。

インドの経済規模は中国の6分の1に過ぎないが、足元はインドが俄然優勢だからだ。 インドの昨年の実質国内総生産(GDP)は6.7%の成長となり、中国の伸び率を上回った。 ドルベースの昨年の名目GDP(約3兆3800億ドル)は日本の8割に迫っている。

昨年、中国が人口減に転じたのに対し、インドは2060年代まで人口増が続き、17億人に近づくと予測されている。

パンデ氏はこのような現状を踏まえ「インドは今日、世界の舞台で一大勢力として台頭している。現在のインドは、経済成長や他国との戦略的連携を後ろ盾に『グローバルサウス』の声となっている。今年はインドが世界を主導するきっかけとなる分水嶺の年になる」と自信満々だ。

グローバルサウスとは、南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称だ。北半球の先進国と対比して使われることが多い。

ウクライナ情勢を巡り欧米諸国とロシアとの対立が深まる中、国連決議などの場面でグローバルサウスの動向が注目されるようになっている。

成長著しいインドだが、世界銀行による位置づけは「下位中所得国」であり、途上国が直面する問題を当事者として理解できる立場にある。

西側諸国が中国やロシアと対抗する上で、同じ民主主義を看板に掲げるインドを重視するようになっていることも追い風だ。特に、日米豪との「クアッド」の枠組みはインドにとって戦略的な強みとなっている。

モディ首相もこのことを十分に自覚している。西側諸国と良好な関係を武器にグローバルサウスの盟主として、目障りなライバルである中国を追い詰めようとしている。

強権国家に近づいているとの指摘も
だが、「世界最大の民主主義国家に危うい一面が目立つようになってきた」との指摘も出てきている。

モディ首相は最近「欧米など先進国のツケをサウスの国々が不当に払わされている」との不満をたびたび口にするようになっている。

モディ首相は3月2日、ブリンケン米国務長官が参加している20カ国・地域(G20)外相会合の場で、米国が築いた第2次世界大戦後の国際秩序を「失敗」と一刀両断した。インドの批判に対し、西側諸国は同国の人権状況を問題視し始めている。

米人権団体フリーダムハウスは2020年の報告書で「ニューデリーと北京の価値観の違いが曖昧になりつつある」と記述し、インドが中国のような強権国家に近づく可能性に警鐘を鳴らしている。2021年には政治状況に関するインドの評価を「自由」から「部分的自由」に引き下げている。

モディ首相についても「州首相時代の2002年に少数派イスラム教徒を弾圧した」との批判が持ち上がっているが、植民地時代への恨みが根強く残るインドでは「旧宗主国の傲慢な物言いだ」との反発が高まるばかりだ。

インドは成長著しいものの、深刻な雇用不足に悩んでいる。都市部では若年層の失業増加で治安が悪化しつつあり、インド政府が強権的な取り締まりに踏み切れば、人権状況を巡る西側諸国との軋轢はさらに激化することだろう。

インドと西側諸国との蜜月関係はいつまで続くかどうかわからない。日本でもインドは大きな存在になったが、その距離の取り方は一筋縄ではいかないのではないだろうか。【4月11日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【対中国で「鼻息が荒い」インド】
上記記事冒頭にあるインド陸軍のパンデ参謀長の発言については、以下のようにも。

****インド軍幹部「人民解放軍と戦う準備はできている」、異例の率直さで中国を語る****
<中印国境を越える侵攻に戦力を厚く備えるだけでなく、G20 の議長国として、また「グローバルサウス」のリーダーとして、インドが中国の覇権拡大を阻止すると表明>

インド軍幹部が3月27日、同軍は、これまで長く争いの種となってきた中印国境における「いかなる不測の事態」にも準備を整えていると語った。中印国境での中国軍の戦力増強について概説した中での発言だった。

インド陸軍のマノジ・パンデ参謀長は、中国政府は年を追うごとに「かなりの部隊増強」をしており、実効支配線(LAC)沿いで飛行場や兵舎など軍事インフラの運用を続けていると述べた。

中国という「全体主義国家」は、多方面からの戦略を用いてアメリカを追い落とし、世界に君臨する超大国になろうとしていると。

パンデの発言は、インドの高官からの言葉としてはこれまでで最も率直なものの1つであり、中国政府を苛立たせる可能性が高い。パンデは、数十年にわたって続いてきた中印国境の紛争の重要性について強調した。

インドは、北部国境沿いにおいて軍の配備を見直した、とパンデは述べた。「我々は、高次の準備態勢を維持し、断固として力強くありながらも、慎重に注意深く中国人民解放軍と向き合っている。それによって我々の主張の正しさ示す」

インド太平洋における現状変更の試み
(中略)その基調講演でパンデは、国境管理に関する協定を、中国は「LACをまたぐ不法侵入」によって破り続けていると付け加えた。

インドと中国は、両国の間の全長約3400キロに及ぶ実効支配線の一部をめぐって、1962年に軍事衝突した。

2020年6月には、国境東部にあるヒマラヤ山脈の峡谷で小競り合いが発生し、半世紀近くなかった死者を出す衝突に発展した。インド軍では約20名、中国軍では少なくとも4名の兵士が死亡したが、両国政府の協定に従い、戦闘は殴り合いやこん棒や投石によるもので、銃は用いられなかった。

公になっている中で最新の衝突は、2022年12月に発生した。インドの国境警備兵が、(報じられるところによるとアメリカ情報機関の支援を得て)実効支配線の西端から侵入した中国軍を撃退したという。

中国政府は経済を優先して国境に関する見解の相違については棚上げしたがっているが、これについてパンデは、「二国間の関係は国境問題と切り離して考えられるものではない」と釘を刺した。

パンデは、インド太平洋地域では、他にも至るところで、長く続いてきた現状を変更しようとする類似の試みがおこなわれていると主張した。「南シナ海への進出、台湾への圧力、実効支配線付近における好戦的な行動などから、中国は、国際ルールではなく『力こそ正義』と解釈していることがますます明白になっている」

「中華思想的な世界観」により、中国は「文化、政治、経済面で世界の中心と見られるにふさわしい」と信じているとパンデは述べた。さらに、異例の率直な言葉で、「天然資源を武器として用いる戦略」や、知的財産を盗んできた過去の経歴など、中国の「略奪的な経済構造」にも触れた。

「インドは今日、世界の舞台で一大勢力として台頭している。現在では、経済成長、技術進歩、他国との戦略的提携により『グローバルサウス』の声となっている」と自覚を示した。

インドは今年、G20の議長国だ。2023年は「インドにとって、世界的な政策立案における分水嶺の年」になるとパンデは言った。【3月29日 Newsweek】
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インドの「鼻息の荒さ」が際立つパンデ参謀長の話ですが、従来中印国境紛争では中国側が常に優勢だったようにも。戦闘に向けた道路整備などでも中国の方が進んでいるようにも。本当に「人民解放軍と戦う準備はできている」のか?

また、中国批判は「ごもっとも」ですが、ヒンズー至上主義のモディ政権はどうよ? といった疑問も。そのあたりは、【デイリー新潮】で藤和彦氏が指摘しているところです。

中印関係については“インド閣僚のアルナーチャルプラデーシュ州訪問、中国が批判”【4月10日 ロイター】という記事も。インド北東部のアルナーチャルプラデーシュ州は中国側も領有権を主張している地域です。
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