孤帆の遠影碧空に尽き

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韓国労働市場  急速な最低賃金引き上げ、弊害の指摘も 不公平感を助長する「雇用世襲」問題

2018-10-24 23:29:08 | 東アジア

(【3月2日 デービッド・アトキンソン氏 東洋経済ONLINE】 
最低賃金については、日本の低さを問題視する指摘も多々あります。)

文大統領の公約に沿った急速な最低賃金引き上げ 日韓逆転も
国民所得や購買力に関する統計数字を見ると、日本と韓国の差は急速に縮小しており、数年のうちには一人当たりGDPで日本を抜くかも・・・といったことは、数年前から言われています。

****韓国の最低賃金が日本を抜いた? 近い将来1人あたりGDPも日本を超える!?=中国メディア****
中国メディア・東方網は21日、韓国の来年の最低賃金基準が日本よりも高い水準になることが発表され、今後1人当たりのGDPや収入金額も日本を近い将来抜くとの予測がでていると報じた。

記事は、韓国で発表された来年の最低賃金基準が時給9635ウォン(約960円)となり、労使双方の代表者や一般市民代表からなる韓国最低賃金委員会が19時間にわたる夜通しの協議を経て、従来の最低賃金基準から10.9%引き上げることを決定したと紹介。また、週の労働時間が15時間より少ない場合の最低賃金は時給8350ウォン(約830円)を基準にするとした。

そのうえで「現在、韓国の最低賃金はすでに日本を超えており、平均収入も日本に非常に接近している。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、1人当たりの購買力、GDP、収入などの重要指標について、韓国が今後5年以内に日本を上回る可能性があると予測している」と伝えた。

記事はまた、韓国国内の物価状況についても紹介。韓国における一般的な食肉である豚肉は500グラムあたり約1000円で、中国の4倍前後であり、牛肉は豚肉よりもさらに高く、国産品に比べて安価な輸入肉でも500グラムあたり1600円程度するとしている。

さらに、食肉よりも値段の高さが目立つのは果物であり、リンゴが4つで約700円、スイカも1玉2000円近くすると指摘。(後略)【10月23日 サーチナ】
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このような数字については、韓国メディアでも疑問視する報道があるようです。

****3万ドルに迫る韓国の国民所得…家計・企業は細り政府だけ肥える(1*****
数値で見る韓国経済は順調だ。昨年の韓国経済は低成長から抜け出して3年ぶりに3%台の成長率となった。1人あたりの国民所得は3万ドルを目の前にしている。(中略)

しかし統計には常に錯視がある。韓国経済が先進国のすぐ前まで近づいたが、国民所得3万ドルは遠い国の話のように聞こえる。体感できないということだ。1人あたりの国民総所得(韓国ウォン基準)を4人家族基準で単純計算すれば、1世帯あたりの年間所得は1億3456万ウォンを超える。実際とは距離が大きい。

このような距離が生じる理由がある。国内総生産(GDP)は家計・企業・政府を包括する概念だ。韓銀が発表する「国民所得」統計には企業と政府の分が含まれている。家計の実際の状況を知るためには1人あたりの家計総処分可能所得(PGDI)を見るのがよい。PGDIは政府と企業の所得を引いて、税金と利子のような必須支出を除いたものだ。すなわち家計が自由に使える所得だ。

昨年のPGDIは1874万ウォンだった。前年(1801万ウォン)比で4.1%増えた。物価上昇率を勘案すると、実際に感じる増加率はもっと低い。(後略)【3月29日 中央日報】
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上記中央日報は保守系メディアではありますが、東亜日報や朝鮮日報よりは保守色は薄いそうです。

“体感できない”“実際とは距離が大きい”・・・・といったことが意味するものは何かについては、いろんなことがあると思いますが、韓国の経済事情は全く知りませんので、“そうした声もある”ということだけ。

同様の議論は、日本の経済統計数字についても言えることがらでしょう。それが韓国とどう違うのか、同じなのかは、慎重に議論する必要があります。

韓国の若者の受験戦争や就職難などで「ヘル朝鮮」といった言葉もよく目にしますが、一方で下記のような数字も。実態とか実感とかいったものは、とらえがたいものもあります。

****幸福度が最も高いのは30代 最低は60代以上=韓国****
政府系シンクタンクの韓国保健社会研究院は17日、韓国国内の成人1000人を対象に昨年12月に実施した幸福度調査をまとめた研究報告書を発表した。調査対象者の幸福指数(10点満点)は平均6.3点で、主観的幸福度は同6.5点、人生の満足度は同6.4点、未来の安定性は同5.7点だった。

年齢層別では30代の幸福指数が6.6点で最も高く、次いで20代が6.4点、40代が6.3点、50代が6.3点、60代以上が6.1点と続いた。

20代は30代の次に幸福度が高いが、若年層失業率の高止まりやマイホーム問題での苦労など不安定な現実が反映され、未来の安定性は5.4点で最も低くなった。(後略)【10月17日 ソウル聯合ニュース】
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保守系メディアからは、雇用減少・失業率増加の要因との批判も
冒頭【サーチナ】が指摘している最低賃金引上げについては、左派系文在寅大統領の公約に沿ったものですが、無理な最低賃金引き上げは結局雇用の減少となって労働者を苦しめることにしかならないとの指摘が韓国国内でも(おそらく保守系からでしょうが)多くあるようです。

下記は保守系メディアの朝鮮日報によるものです。

****韓国政府の親労働政策で失業率上昇****
国策シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)は22日、最低賃金の急激な引き上げ、労働時間短縮、非正社員の正社員転換など韓国政府が進める「親労働政策」が人件費の上昇を招き、雇用需要を減退させ、失業率上昇の要因になっていると指摘した。

政府が雇用情勢の悪化原因を人口減少や製造業の構造調整などに求め、行き過ぎた最低賃金引き上げなど政策的要因から目を背ける中、国策シンクタンクが政府の労働政策の副作用を指摘するのは異例だ。

KDIが発表した「2014年以降の失業率上昇に関する分析」によると、14年1-3月に3.42%だった失業率は、17年10-12月期に3.65%に跳ね上がり、今年7-9月には4.03%にまで上昇した。14年から17年までの失業率の上昇幅が0.23ポイントだったのに対し、今年は年初来の3四半期で0.38ポイントも上昇した。

KDIは「14年から昨年まで失業率を上昇させた最大の要因は、産業間の雇用のミスマッチだったが、今年の失業率上昇は企業の雇用需要が縮小したことが決定的だった」と分析した。

産業間の雇用のミスマッチとは、特定の産業では働き手が不足しているが、求職者が別の産業で働き口を探すために生じてしまう失業を指す。賃金や労働条件さえ希望に合えば、産業間で労働者が移動するため、失業率を下げることが可能だ。

一方、企業の雇用需要縮小は、求職者に比べ求人が絶対的に不足することで生じる失業であり、企業が採用を減らしたことを意味する。

KDIのキム・ギウン経済戦略研究部研究委員は、企業の雇用需要が減少した原因として、製造業・サービス業での構造調整、建設景気の冷え込みのほか、全般的な労働コスト上昇を挙げた。その上で、「最低賃金の急激な引き上げ、労働時間短縮、公共部門を中心とした非正社員の正社員転換など最近の労働市場の変化がコストを上昇させた」と説明した。

韓国政府は就業者数の伸びが今年に入り急激に縮小した原因について、生産年齢人口の減少など人口構造が変化したためだと説明している。これについて、キム研究委員は「同意できない。企業の労働需要が減少したことが最大の要因だ」と指摘した。【10月23日 朝鮮日報】
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韓国の最低賃金は、文在寅大統領の公約に沿って急速に引き上げられています。

****文在寅政権、無理な最低賃金引き上げのせいで雇用減少か…本末転倒な副作用****
(中略)文在寅候補は公約のひとつとして、「最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げる」ことを打ち出した。文在寅氏は当選して第19代大統領となったが、就任後、公約の実現を進めていった。

韓国の最低賃金はこれまでも比較的高い率で引き上げられてきた。2013~2017年までの引上率の平均値を見ると7.2%である。

一方、日本では「働き方改革実行計画」で、最低賃金の年率3%程度を目途とした引上率の目標値を示している。文在寅大統領の公約が実行され始めてから韓国の最低賃金引上率は7.2%どころではない数値となるのだが、それ以前の引上率も3%を目標としている日本と比較できないほど高かった。(中略)

文在寅大統領が就任してから最初に引き上げられたのが、2018年に適用される最低賃金である。2018年は前年の1時間当たり6,470ウォンから7,530ウォンへと16.4%引き上げられた。そして続く2019年は8,350ウォンへと10.9%引き上げられる。ちなみに2019年の引上率では2020年に最低賃金を1万ウォンにするために次年の引上率を19.8%にしなければならず、事実上公約の実現は難しくなった。

これに対して労働組合側は公約違反であると大統領を批判し、文在寅大統領も謝罪した。しかし、そもそも公約自体が経済の実態を反映していないものであって、公約に近づけようと2年連続で10%を超える最低賃金の引き上げを行ったほうが罪深いと思われる。

日本でも最低賃金が引き上げられている。7月26日に公表された「平成30年度地域別最低賃金額改定の目安」についてでは、(中略)賃金が2002年に時給で決まるようになってから最高額の引き上げとなり、全国で加重平均した引上率は3.1%となる。

●日韓で逆転現象
韓国を見ると、これほど積極的に最低賃金を引き上げている日本が色褪せてしまうが、この結果として、日韓で最低賃金の逆転現象が生じている。(中略)

翌年について、韓国が10%、日本が3%それぞれ最低賃金を引き上げ、市場為替レートおよび購買力平価が変化しないという前提で試算する。市場為替レートで換算したケースでは、2020年には韓国の最低賃金を上回る都道府県は6にまで減り、沖縄県などの最低賃金は韓国より14.1%低い水準となる。また購買力平価で換算した場合は、すべての都道府県の最低賃金が韓国の最低賃金より低くなり、沖縄県などでは韓国の4分の3の水準となってしまう。

●労働者にとって大きなマイナス
最低賃金が引き上げられれば、最低賃金に近い水準の時給で働いていた労働者にとっては嬉しいことであろう。しかし、これは短期的な効果にすぎず、ここまで急激に最低賃金を引き上げれば大きな副作用が出ることは間違いない。

輸出向けの製造業については、最低賃金が大幅に高まれば価格競争力が維持できないため、積極的に省力化投資を行うか、海外製造比率を高めることで韓国での雇用者数を減らすであろう。

サービス業では最低賃金によるコストアップを価格に転嫁できるところもあるだろう。しかし、コンビニエンスストアなどでは価格転嫁が難しく、オーナーやその家族が働く時間を増やしパートタイムの従業員を雇わなくなる店も増えるだろう。

今後、韓国の最低賃金が日本の大半の地域、また換算レートによっては東京まで含めたすべての地域より高まることは間違いない。しかし無理な最低賃金の引き上げは雇用減少という副作用を伴い、これは労働者にとっては大きなマイナスとなる。

最低賃金も雇用されることで受け取れるわけであり、雇用される機会が減ればせっかく上昇した最低賃金も絵に描いた餅となる。

1万ウォンという切りのいい数字は公約としてはインパクトが大きいものではあったが、実現するにはあまりにも高い目標であったといわざるをえない。【10月17日 高安雄一氏 ビジネスジャーナル】
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文政権による急速な最低賃金引上げについては、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)の関係者からも「速度は速過ぎる」との指摘があります。

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IMFアジア太平洋局で「コリアミッション総括」を務めるタルハン・フェイジオールー課長は、韓米経済研究所(KEI)が25日(現地時間)に米国の首都ワシントンで主催したセミナーで、韓国の最低賃金引き上げについて「特定のポイントを超えれば、韓国経済のファンダメンタルズに損傷を与える可能性がある」とし、「非常に慎重にアプローチする必要がある」と述べた。【7月30日 レコードチャイナ】
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なお、最低賃金引上げに伴って、外国人不法滞在者が増加するという現象も起きているようです。

****韓国の最低賃金急騰で…不法滞在10万人増える****
韓国の外国人不法滞在者が今年に入ってからだけで40%近く急増した。タイ、ベトナム、中国、フィリピンなど周辺開発途上国では韓国が最低賃金を大きく引き上げたという事実が知られ就労ブローカーを中心に労働者の「韓国行きラッシュ」をあおる現象が現れている。(後略)【10月22日 韓国経済新聞/中央日報日本語版】
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国民感情が敏感な雇用問題での不公平感を助長する「雇用世襲」問題
韓国経済の牽引車でもある自動車生産が最近落ち込んでおり、その原因について「原因は分かりきっている。経営革新の不振と旧来の労働構造だ」と強調。「経営陣はSUV(スポーツタイプ多目的車)や電気自動車(EV)といった市場トレンドを読む上でタイミングを逸した」と説明する一方、「『貴族労組』は世界最低の生産性で世界最高の賃金を受け取る。その労組が新政権で権力まで掌握した」(朝鮮日報)【10月6日 レコードチャイナ】と、保守系メディアは文政権の労働政策を批判しています。

急速な最低賃金引上げ以上に、歪な韓国労働市場の現状、労働政策の弊害をうかがわせるのが、下記の「雇用世襲」の問題です。

****韓国で批判沸騰する「雇用世襲」問題****
韓国で最悪の雇用情勢が続く中で、正社員の子供や妻、親戚などを優先的に採用する「雇用世襲」という造語が生まれ、世論の批判が沸騰している。

その実態を見ると、出口のない失業問題と、政府の「雇用拡大」政策に便乗する正社員や労組という悪循環が垣間見える。

2018年10月、国会で始まった年1回の「国政監査」(中略)によると、2018年3月に「無期契約職」という、非正規職から「正規職」に転換した1285人中、108人が正規職の社員の家族や親戚だったことが明らかになった。8.4%という比率だ。

あちこちに家族や親戚が入ってきたという、この数字そのものも、他の民間企業や公企業に比べて突出して高い。

さらに問題となったのが、もともと「無期契約職」を募集した際、「そのうち正規職に転換できる」という話がすでにあった疑惑が浮上している。この正規職への転換を、強硬派で知られる労組が強く推進していたことも分かった。

つまり、「無期契約職」→「正規職」という、通常の採用方式とは異なるルートでの採用があったということだ。

労働問題に詳しい弁護士によると、「一般的に、正規職の公募入社試験を受けるのに比べ、非正規職から正規職への転換の場合、事実上、無試験といって良いほど簡単な場合が多い」という。

人数は少なく見えるかもしれないが、「採用」「雇用」問題になると、韓国の世論は過敏に反応する。何しろ、過去最悪とも言われる雇用情勢で、空前の就職難が続いているからだ。

最悪の雇用情勢で「採用」問題に敏感な社会
韓国では、一部大企業の業績は好調だが、雇用は増えない。青年層の実質的な失業率は20%を超え、「大学は卒業したが職がない」ことが深刻な社会問題になっている。

就職に成功しても、民間企業の場合、いつリストラに遭うか分からない。だから、若者間で、「公務員」や「公企業」への就職人気は日本では想像できないほど高い。

ソウル交通公社も、そんな人気会社の1つだ。平均賃金は7000万ウォン(1円=10ウォン)近く。定年60歳が保証される。勤務先はソウルかその近郊だ。(中略)2018年の下期定期採用試験には、555人の募集に3万340人が応募した。

それほどの「夢の職場」に人知れず「正規職」になれるルートがあり、よりによって家族や親戚を正規職にしていたとなれば、批判が沸騰するのも十分理解できる。(中略)

正規職への転換は重点政策
非正規職を正規職に転換することは、文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権が積極的に推進してきた政策だ。

コスト負担増を嫌がる経営側を除けば、若者など国民の間にも、「正規職への転換」に対する反対はない。問題は、その採用方式が、きわめて不透明だある点だ。

ソウル交通公社の場合、労組が介入し、正規社員の家族や親戚が優先的に採用になっていたのではないかという疑惑が強まり、強い批判が出ているのだ。(中略)

文在寅政権は、「雇用」を経済政策の最重要課題に掲げている。特に、「質の高い雇用の創出」を重視している。 最低賃金の引き上げ、労働時間短縮もこの政策の一環だ。

どれも、総論では国民の支持を得ているが、実際の運用となると様々な課題に直面している。

最低賃金の大幅引き上げや、労働時間短縮で「質の高い雇用」を増やそうとしているが、中小、零細企業の経営者はコスト増加に耐えられず、従業員数を減らすなど期待とは逆の動きも目立つ。正規職への転換も、思いもよらない弊害が出てきた。

「雇用問題を労働政策だけで解決するのは難しい。結局、新しい成長産業が育って自然と雇用が拡大しないと、問題は解決しない」韓国紙デスクは、短期間での雇用問題の改善に悲観的だ。

「雇用世襲」。何とも耳障りな造語が、連日メディアで大きく報道されるところに問題の深刻さがある。【10月24日 JB Press】
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日本にも「終身雇用制度」の問題が(メリット・デメリットを含めて)ありますが、「雇用世襲」となると「終身」以上に自由な労働市場を阻害します。何より、不公平感を助長します。


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