孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東  サウジ人記者殺害事件に関心が集まる中で、緊張が高止まりしているシリア・パレスチナ情勢

2018-10-22 22:51:12 | 中東情勢

(シリア北西部イドリブ県で、校庭で遊ぶ子供たち(2018年10月15日撮影)【10月16日 AFP】)

サウジアラビアの見え透いた“茶番”説明にどう対応するのか?】
中東関連では、例のサウジ人記者殺害事件に世界の関心が集まっています。

その猟奇性だけでなく、事件の推移によっては、サウジアラビアとアメリカの同盟によってイランに対抗するという現在の中東情勢の枠組みが揺らぐ事態ですから、関心が集まるのも当然の事件です。

さらに言えば、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子の指示のもとで記者の殺害がなされたであろうことは、状況からしてほとんどの人が確信しているものの、おそらくサウジアラビア側は皇太子の関与は認めないであろうというなかで、見え透いた茶番とも言えるサウジアラビアの説明にどのように対応するのか・・・という意味で、ボールはアメリカや欧州、そして日本の側にあるとも言えます。

反政府的なジャーナリストを殺害するという民主主義の根幹を揺るがす暴挙に対し、原油輸入の4割を頼っているいう事情から、見て見ぬふりを決め込むのか・・・という問題です。それは、チャイナマネーにひれ伏しているとして日本で日頃批判的に取り上げられる国々の行動と同じような行動でもあります。

イドリブ総攻撃は当面回避されているものの、過激派は非武装地帯から撤退せず 27日に四か国首脳会議 プーチン大統領の判断は?】

世界の関心がサウジ人記者殺害に集まるなかで、シリアやパレスチナの緊張は、今のところは静かではありますが、一触即発とも言えるレベルに高まっています。

シリアではロシア・イランの支援を受けるアサド政権側の軍事的優位のもとで、各地にあった反体制派拠点は次々に制圧され、そこにいた反政府勢力は北部イドリブに集められてきました。

当然に、政権側からすれば、次はイドリブ攻略で反政府勢力を一網打尽にする・・・という段取りになりますし、実際、そのような軍事行動が秒読み段階にあるとも見られていました。300万人が暮らすイドリブへの総攻撃が行われた場合、多大な民間人犠牲者を伴う人道上の悲劇が起こることも懸念されていました。

しかし、アサド政権を支援するロシアと反体制派の後ろ盾のトルコは9月、両勢力の支配地域の間に、幅15~20キロの非武装地帯を今月15日までに設置することで合意。総攻撃はひとまず回避されています。

期限となる15日は過ぎました。反体制派を支援するトルコは15日、「プロセスは計画通りに進んでいる」(国防相)と述べ、非武装地帯が機能しているとの認識を表明しています。

実際、トルコ支援の反体制派は反体制派は10日までに非武装地帯となる地域から、戦車やロケット砲などの重火器を撤去。現在は、小銃や軽機関銃で武装した戦闘員が前線で戦闘配置についている状態とのことです。

しかし、トルコの影響が及ばない過激派組織は非武装地帯から撤退しておらず、このことを理由に政権側の攻撃がいつ始まってもおかしくない状況でもあります。

****シリア・イドリブ、非武装地帯の設置期限 過激派撤退の動きなし****
シリア内戦で反体制派が最後の拠点とする北西部イドリブ県で15日、大規模な戦闘を回避する目的で政権軍と反体制派それぞれの支配地域の境界に沿って設置することで合意した非武装地帯の発効期限を迎えた。だが、反体制派側の過激派は撤退の動きを見せていない。
 
反体制派を支援するトルコとシリア政権側を支援するロシアの間では先月、非武装地帯の設置で合意に至り、今月15日を期限として「過激派戦闘員」らに非武装地帯からの撤退を求めていた。

合意は、住民約300万人が暮らすイドリブへの政権軍による総攻撃を回避するための最後の手段とされていた。
 
しかし、在英NGO「シリア人権監視団」は15日朝、「非武装地帯の全域で、過激派戦闘員の撤退はまったく確認されていない」と明らかにした。
 
一方シリア政府側は、合意が崩壊したと判断するにはまだ時間がかかるとの見解を示しており、シリアのワリード・ムアレム外相は「状況を監視し、調査しているロシアの反応を待つ必要がある」と述べた。
 
イドリブの住民たちは、停戦が崩壊すれば再び空爆や戦闘が始まると恐れている。
 
イスラム過激派組織アルカイダのシリア支部を前身とする反体制派連合で、イドリブ県で活発な動きを見せているイスラム過激派組織「ハヤート・タハリール・シャーム」(HTS)は、非武装地帯の設置期限が迫る数時間前も「われわれの聖なる革命の実現に向けた聖戦と戦闘という選択を放棄する考えはない」と言明していた。
 
HTSなどの急進的な過激派組織は非武装地帯の3分の2以上に加え、イドリブ県の残りの地域の半分以上を支配下に収めている。【10月16日 AFP】
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住民はおびえながら推移を見守っている状況ですが、トルコ大統領府報道官がシリア問題に関する4国首脳会議が27日イスタンブールで開かれると発表したそうです。

“首脳会議にはプーチン大統領、エルドアン大統領の他、仏のマクロン大統領、独のメルケル首相が出席し、シリア問題、中でもトルコとロシアが合意したイドリブでの停戦問題とシリア問題の政治的解決問題が反し合われ、これらの国の政策協調が図られる由。”【10月19日 中東の窓】

昨今の中東における影の薄さを反映するようにアメリカの出席はありませんが、ロシアにしてもトルコにしても当然に、アメリカの存在を意識しながらの対応になるでしょう。

トルコ・ロシアが意識するアメリカとの関係という点では、サウジ人記者殺害問題の幕引きやクルド人勢力の扱い、さらには中東だけでなく、アメリカの両国への制裁措置、トランプ大統領が明らかにした中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱問題なども意識しながらの関係調整となります。

27日に四か国首脳会議が行われるということは、少なくともそれまでの数日間は現状維持ということでしょうか。

アサド政権は全土支配に向けてイドリブ総攻撃に着手したい意向が強いとは思われますが、政府軍はこれまでの戦闘で戦力的に相当に疲弊しており、ロシア・イランの支援なしには総攻撃は難しいとも。【10月17日 The Guardianより】

ロシアやイランにしても、ある程度アサド政権優位の体制を実現した現在、さらに犠牲を払ってまでシリアに深いりすることは、国内的批判も惹起します。イランなどはアメリカの制裁への対応で、シリアどころではない状態ではないでしょうか。(トルコの非武装地帯設置提案を受け入れたということは、政府軍にしても、ロシア・イランにしても、看過できない内部事情があるのでしょう)

今後については、特にプーチン大統領がもろもろの国際情勢を睨みつつ、どのような判断を下すかにかかっているようにも見えます。

勢いに乗ってイドリブ総攻撃に突入するならともかく、いったん小康状態になった現状から戦闘再開に向けて再起動するには、ロシアにしてもアサド政権にしてもハードルが高いようにも思えますが、どうでしょうか。

イスラエル、ガザ地区住民双方で危険なレベルに高まるフラストレーション
一方、パレスチナ・ガザ地区の状況は報じられることはあまり多くありませんが、イスラエルとの境界線上での継続的な衝突、地下トンネルの開削等、ガザから飛ばされる焼夷凧と風船による火災などで、イスラエル側のフラストレーションが危険なレベルにまで高まっているようです。

****ガザ情勢の緊張****
ガザ情勢が緊張していることは、累次報告の通りですが、アラビア語メディアが、イスタンブールにおけるサウディジャーナリストの失踪事件に専ら関心を注いでいるときに、ガザの情勢は更に緊迫しつつある模様です。

y netnews とhaaretz net は、14日イスラエルの閣議でネタニアフは、情勢がこのまま推移すればイスラエルは近い将来、非常に厳しい選択をせざるを得なくとして、ハマス指導者に対して厳重な警告をしたとのことです。

このネタニアフの警告は、明らかに武力行使の可能性を示唆していますが、閣議の前に、リーベルマン国防相がy net news に対して、イスラエルはハマスとの関係で緊張緩和のためにあらゆる努力を行ったが、何の成果もなかったとして、イスラエルがハマスを激しく叩く(harshest blow・・・という言葉を使用。要するに大規模武力行使ということか?)時期が来たと語っており、ネタニアフの発言はこの国防相発言を支持するものの由。(後略)【10月14日 中東の窓】
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ネタニヤフ首相やリーベルマン国防相の発言は、単に言葉上のことではなく、実際にイスラエル軍はガザ周辺に、4年前の侵攻以来の多数の戦車を配置しています。

****イスラエル軍 ガザ周辺に多数の戦車展開 軍事衝突の懸念****
パレスチナ暫定自治区のガザ地区をめぐって、イスラエル軍は4年ぶりに多数の戦車を周辺に展開し、軍事的な衝突につながることも懸念されています。

イスラエル軍は18日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区との境界に60台以上の戦車を展開しました。ガザ地区周辺に多数の戦車が展開するのは、4年前の2014年、イスラエル軍がガザ地区に侵攻し2000人以上が死亡した大規模な戦闘以来です。

現地では17日、ガザ地区から発射されたロケット弾がイスラエル南部のベエルシェバの民家に着弾したことに加え、このところ毎週、金曜に行われている抗議デモが激しさを増していて、イスラエル軍は、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの圧力を強める構えです。

またイスラエルの航空当局は18日、テルアビブの国際空港を発着する航空会社に対し、ガザ地区周辺の上空を飛行しないよう飛行ルートの変更を要請しました。

一方、ハマスの軍事部門もロケット弾の発射を準備している映像を公開し「イスラエルは情勢を見誤ってはならない」として、強硬な姿勢を崩していません。

金曜日にあたる19日には、ガザ地区で再び抗議デモが予定されていて、これがきっかけとなって軍事的な衝突につながることも懸念されています。

国連「ガザは破裂寸前」
国連で中東和平を担当するムラデノフ特使は、18日、安全保障理事会でイスラエルとパレスチナの代表も出席して開かれた公開討論の中で「ガザ地区は破裂寸前だ。これは誇張でも警告でもなく現実だ」と警鐘を鳴らしました。

またガザ地区の経済状況について「失業率は53%に上り200万人の住民のうち2人に1人が、貧困ラインを下回っている」と指摘し、国際社会による継続的な財政支援が必要だと訴えました。

そのうえでムラデノフ特使は、「もはや言葉は必要なく、行動の時だ。緊張を緩和させる明確な行動がなければ、結果は誰にとっても悲惨なものになる」と述べ、イスラエルとパレスチナの双方に対して互いを刺激する行動をとらないよう強く求めました。【10月19日 NHK】
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ガザ地区では毎週金曜日に抗議行動が行われており、上記のような緊張状態で行われる19日の抗議行動が懸念されていましたが、“同日境界線に向けて10000名の抗議者が、行進し、一部がフェンスを破り、IDF(イスラエル軍)の応戦で150名が負傷したと伝えられていますが、幸い死者はなかった模様です”【10月20日 中東の窓】と「比較的静穏」に終わったようです。

イスラエルの警告を受けて、ハマスも“民衆に対してフェンスに近づかないように警告し、エジプトの停戦調停団に対しても、ハマスとして緊張を激化させるつもりはないと伝えた”【同上】と、衝突を回避する対応をとったようです。

この境界線への行進はハマスが主導していると思っていましたが、ハマスの民衆への警告にもかかわらず、10000名の抗議者が境界線に向かったということに、ガザ地区住民のフラストレーションのレベルもうかがえます。

シリア・イドリブ同様、なんら問題が改善したわけではなく、当面の衝突が回避されているということにすぎず、今後の展開、あるいはハマスも制御できない偶発的な出来事で戦火が燃え上がる危険性も依然として続いています。


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