孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  和平交渉頓挫で、「2国家共存」でも「単一国家」でもない「他の選択肢」?

2014-05-21 23:38:41 | パレスチナ

(15日、ヨルダン川西岸の刑務所前でデモを行っていたパレスチナ人とイスラエル軍が衝突、パレスチナ人青年2名が死亡、5名が負傷したそうです。 現状のままでは、イスラエルはこうした“残虐な支配者”のイメージが固定していきます。 写真は【5月16日 Iran Japanese Radio】)

【「ケリー氏の降伏」】
イスラエルとの交渉にあたっていたパレスチナ自治政府の主流派ファタハと、イスラエルの存在を認めずガザを実効支配する強硬派ハマスが5週間以内に暫定統一政府を発足させることで合意したことを4月23日に発表したことで、以前から交渉に消極的だったイスラエルは更に態度を硬化させました。

****イスラエル 和解合意の破棄要求 ファタハは干渉に反発****
イスラエルのネタニヤフ首相は24日、パレスチナ自治政府の主流派ファタハに対し、現在進められている中東和平交渉の継続を望むなら、イスラム原理主義組織ハマスとの間で23日に結んだ暫定統一政府の樹立を柱とする和解合意を破棄するよう要求した。イスラエルのメディアに語った。

同国政府はこれに先立つ24日、和解合意への対抗措置として、今月29日に期限切れを迎える和平交渉を中断すると発表。

ネタニヤフ氏は24日の声明で、イスラエルの生存権を認めないハマスが参加する政府とは「いかなる交渉もしない」とも述べ、和解合意が破棄されない限りは交渉期限延長などの協議には応じない考えを強調した。

これに対しファタハ側は、「イスラエルが(ハマスとの和解問題に)干渉する権利はない」(和平交渉責任者のアリカット氏)などと反発を強めている。

一方、和平交渉を仲介する米国のケリー国務長官は24日、「和平の責任を放棄することはない」として、交渉期限延長に向けパレスチナ、イスラエル双方が歩み寄るよう求めた。

イスラエル側でも、連立政権に参加する中道政党ハトヌアの党首でパレスチナとの交渉を担当するリブニ法相が現地テレビのインタビューで「(交渉の)扉はまだ開かれている」と語るなど、ぎりぎりまで交渉継続を模索すべきだとの声が出てはいる。左派系の野党には、ネタニヤフ氏の強硬な態度への批判もある。

ただ現行の交渉プロセスは、再開された昨年7月以降、イスラエルによるユダヤ人入植地建設問題などが障害となって難航している。連立政権には強硬な入植推進派も参加しており、期限延長で合意が成立しても実質的な進展は期待しにくい状況だ。

イスラエルはまた、自治政府が今月初めに国連などに15の国際条約への加盟を申請したことへの対抗措置として、自治政府に対する経済制裁を検討していることも明らかにした。【4月26日 産経】
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結局、成果が出ないまま4月29日に9か月間の交渉期限を迎えました。

パレスチナ和平交渉のことしか念頭にないとも批判されながらも、現地訪問を繰り返し、イスラエルとパレスチナ自治政府の双方に歩み寄りを呼び掛けてきたケリー米国務長官でしたが、「最終的な和平合意を仲介しようとするドン・キホーテのような試み」(米紙ワシントン・ポスト)が挫折に終わったと揶揄されるところともなっています。

ワシントン・ポスト紙は「ケリー氏の降伏」と題した社説で、「ケリー氏はシリア内戦、中東地域で脅威を増す国際テロ組織アルカーイダ、エジプトの独裁への復帰、世界の他地域での紛争にエネルギーを使った方がましだった」と断じています。【5月13日 産経より】

イスラエルは「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」】
こうした交渉行き詰まりへの苛立ちもあってか、イスラエルとパレスチナの2国家共存が実現しなければ、イスラエルは「2級市民を抱えたアパルトヘイト(人種隔離)国家になる」とケリー米国務長官が発言、内外で問題となりました。

****米国務長官:「イスラエルは人種隔離国家に」発言で波紋****
ケリー米国務長官が、中東和平交渉が成功しなければイスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」と非公開の会合で25日に発言していたと報じられ、米国のイスラエル系団体や連邦議会議員から批判が噴出。
ケリー長官は28日に異例の声明を出して釈明した。

交渉は事実上中断しているが、仲介役のケリー氏は再開を促す余り口が滑った形だ。
問題の発言はオンライン・メディアの「デイリー・ビースト」が27日に報道した。

米国は中東和平交渉で、イスラエルとパレスチナ国家が併存する2カ国案を支持しているが、ケリー長官は、「1国制では2級市民のいるアパルトヘイト国家になる」と発言したという。

これに対し、イスラエル系ロビー団体の「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」は声明で「不適切で不快」と強く反発。共和党議員らからも批判が上がった。

ケリー氏は声明でイスラエルへの長年の支持を強調した上で「発言を取り戻せるなら、別の言葉を使うべきだった」などと述べた。【4月30日 毎日】
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和平交渉にあたって、ユダヤ人入植活動をやめず、頑なな対応を崩さないイスラエルに対しては批判も高まっている事情もあります。

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政府だけではない。米国内に、対イスラエル批判気運が高まっている。

昨年12月16日、米国の学者、研究者約5000人からなる「米国研究協会」が、イスラエルに対する学術的ボイコットを決定した。

イスラエルがパレスチナの占領を続けていること、そして国連決議などに違反している、という理由で、加盟の学者にイスラエルとの共同研究を止めるよう呼び掛けたのである。

これはまさに、80年代に米国の学術機関がアパルトヘイト反対のために南アフリカに対して行ったことと、同じだ。

ケリー氏は「失言」として撤回したが、米国の学術界ではすでにイスラエル=アパルトヘイト時代の南アフリカ、という認識が定着しているのだ。【4月30日 酒井啓子氏 Newsweek】*********************

“西側のユダヤ人は、今や条件反射的イスラエル支持ではなくなっている。パレスチナ占領は人権尊重と相いれないと考えられている。イスラエル・ロビーの力も衰えている。”【5月21日 WEDGE】

ケリー長官の発言の背景には、イスラエルが抱える現状があります。

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イスラエルの人口の2割を超える195万人はパレスチナ人だ。このうち約25万人は第3次中東戦争(1967年)でイスラエルの占領下に置かれた人々で、その大半は永住権は持つが、国政に参加できる参政権などの市民権はない。

イスラエルの公用語ヘブライ語の習得など一定の条件を満たせば市民権の申請が可能とされる。しかし、大半のパレスチナ人は「イスラエルによる占領を受け入れることになる」として市民権を希望しない。

その結果、イスラエル国政への参政権も持たず、自身の声を政策に反映できないという意味で、事実上の「二級市民」とも呼ばれる。

ケリー米国務長官はこの現状を念頭に最近、非公開の会合で、このままではイスラエルは「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」と強い懸念を示した。(後略)【5月13日 毎日】
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【「他の選択肢」とは?】
ケリー長官の発言に反発したイスラエルですが、パレスチナとの「2国家共存」も展望が開けず、さりとて、パレスチナ人を呑み込んだ「単一国家」では人口的にユダヤ人の優位性が保てず、一方で、現状のままではパレスチナ人を弾圧し、交渉を妨げているとの国際的批判を受けることにもなり、対応に苦慮していることも事実です。

****イスラエル:中東和平に閉塞感 「現状維持」にも課題**** 
・・・・イスラエルと米国はハマスを「テロ組織」と認定し、従来、交渉相手とするにはまずハマスが「非暴力を宣誓」し、「イスラエルを承認」すべきだと訴えてきた。ハマスがこれらを受け入れていない現状では、交渉は不可能とのイスラエルの立場をネタニヤフ首相は繰り返した。

「非軍事化されたパレスチナがイスラエルをユダヤ国家と認めれば2国家共存ができる」。ネタニヤフ首相はあくまでも2国家共存による交渉進展を強調した。

しかし、仮に今後、パレスチナ側の何らかの方針転換で2国家共存に向けた協議が再開されたとしても、明るい展望が待ち受けているわけではない。今回の交渉決裂で亀裂はさらに深まっており、一層の難航が予想される。

だが現状維持がこれ以上続くこともまた、イスラエルにとって最善の道ではない。

現在のネタニヤフ連立政権は、第3勢力に宗教的極右政党「ユダヤの家」を抱える。同党は占領地におけるユダヤ人入植(住宅)地建設の促進を掲げており、今後さらに活動を拡大する可能性がある。

これに対し、一部欧州諸国は、占領地に自国民を移住させる行為は国際法違反だとして、入植地やイスラエルの商品をボイコットする動きを拡大させている。(中略)

2国家共存も現状維持も困難となると、残るはすべてのパレスチナ人を受け入れて融合を図る「単一国家」の道だ。

しかし、イスラエルのほかヨルダン川西岸パレスチナ自治区とガザ地区も合わせると、パレスチナ人の総人口はすでに600万人余りに達し、イスラエルに住むユダヤ人とほぼ同数になっている。

出生率の高いパレスチナ人がユダヤ人の人口を大幅に超えるのは時間の問題で、そうなればユダヤ人を多数派とする「ユダヤ人国家」の存在は維持できなくなる。
このため、各種世論調査によると、単一国家を希望するユダヤ人は1割にも満たない。

2国家共存を目指す和平交渉の頓挫は、パレスチナ国家の樹立を不可能にするばかりでなく、イスラエル自身の未来をも危うくする。【5月13日 毎日】
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ネタニヤフ政権で和平交渉担当大臣であるリブニ法相は、和平交渉中断後もアッバス議長と接触しているようですが、ネタニヤフ首相は認めていません。

なお、リブニ法相は中道新党「ハトヌア」の党首で、ガザは切り捨て、ヨルダン川西岸で建設が進んでいる防護フェンス(「分離壁」) 内部の大規模入植地を併合、それ以外の小規模入植地を撤退させ、分離壁を国境とすることを主張してきたシャロン、オルメルトなどが率いてきた中道政党「カディマ」から分派した政治家で、右派「リクード」のネタニヤフ首相とは立場を異にします。

****イスラエルとパレスチナ直接会談=和平交渉中断後初めて****
イスラエルの民放チャンネル2は16日、中東和平交渉を担当するイスラエルのリブニ法相とパレスチナ自治政府のアッバス議長が15日にロンドンで会談したと伝えた。両者が直接会ったのは、4月末の交渉中断以降では初めて。

リブニ氏はアッバス氏に対し、イスラム原理主義組織ハマスとの統一暫定政権発足の合意は受け入れられないと表明した。この会談は予定されたものではなかったため、ネタニヤフ首相の怒りを買ったという。【5月17日 時事】 
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こうした状況で、訪日時のネタニヤフ首相の発言がイスラエル国内で注目されているそうです。

****中東和平:イスラエル首相発言、地元で波紋****
イスラエルのネタニヤフ首相が13日の毎日新聞との会見で、中東和平交渉の中断を受け、新たな選択肢を模索していると語ったことが、地元で波紋を広げている。

首相は詳細を語らなかったが、専門家の間では和平交渉に見切りをつけ、占領地から一方的に撤退する案などが提案されており、ネタニヤフ政権の今後の対応が注目されている。

首相は会見で、現状維持について「望ましくない」とする一方、パレスチナ人とユダヤ人がイスラエルで共生する「単一国家」も「希望していない」と明言。「(他に)選択肢がないか連立政権内外で協議している」と述べた。

中東和平の選択肢は、現状維持を除けば、和平交渉でパレスチナ国家を樹立し共存を図る「2国家共存」案と「単一国家」案に大別される。

イスラエルのハーレツ紙は15日、インタビューの全文を掲載した毎日新聞の英文サイトから、首相が「他に選択肢がないか連立政権内外で協議している」と述べたくだりを引用。匿名の政府高官の発言として、日本から帰国した首相が、政府や治安担当者らと「他の選択肢」について検討することを希望していると伝えた。

パレスチナのマアン通信は15日、このハーレツ紙を引用する形で会見内容を転電。イスラエルのマーリブ紙やイスラエル・テレビ「チャンネル2」のウェブサイトも会見内容をもとに、首相は現状維持がこれ以上続くと事実上の単一国家状態を招くことになると懸念し、他の選択肢を検討していると伝えた。

イスラエルでは最近、2005年にイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区から一方的に撤退したケースと同様に、和平交渉を経ず、イスラエル独自の判断でヨルダン川西岸パレスチナ自治区から撤退することをシンクタンク代表らが提案している。

また、連立政権第3勢力の宗教的極右政党などは、自治区のうちユダヤ人入植地のみをイスラエルに取り込み、残りは現状維持とすることなどを求めている。

イスラエルとパレスチナは2国家共存を目指し20年以上協議を続けているが、ほとんど進展がない。昨年7月に約3年ぶりに再開した交渉も、4月に中断した。【5月16日 毎日】
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“2005年にイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区から一方的に撤退したケース”というのは、前出「カディマ」を創設したシャロン元首相が、リクード党首として首相を務めていたときに行った施策で、ガザ地区からの制空権及び制海権を維持した上でイスラエル軍が一方的に全面撤退したうえで、全ユダヤ人入植者約8500人が退去し、加えて、ヨルダン川西岸の小規模入植地が解体されました。

当時のリクード内の政敵ネタニヤフ氏は、このシャロン元首相のガザ撤退に強く反対しています。

ガザ撤退の背景には、“仮にイスラエルが占領していたガザ地区・ヨルダン川西岸・ゴラン高原をすべてイスラエル領と規定した場合、早晩、アラブ人・パレスチナ人の人口がユダヤ人を上回ってしまう。パレスチナ人が多数派になればそれはユダヤ人国家であるイスラエルの終焉を意味する。シャロンはそのことを最も恐れた[。シャロンが撤退を決めたガザ地区のユダヤ人入植者はわずか8500人。それに対し西岸の入植者は、計画発表の時点で23万人、東エルサレムのユダヤ人を換算すると40万人を超える。宗教的必要性も薄く、ハマスの拠点で、100万人のパレスチナ人に囲まれているガザを捨て、その分の予算と兵力を、宗教的必要性が色濃く、かつ広大でパレスチナ人の人口が希薄な、西岸に投入する方がはるかに賢明といえる。”【ウィキぺディア】という考えがありました。

ネタニヤフ首相の「他の選択肢」なるものがどういうものかわかりません。

例えば“イスラエル独自の判断でヨルダン川西岸パレスチナ自治区から撤退”と言ったとき、現在の大規模入植地はどうなるのでしょうか?
“防護フェンス(「分離壁」) 内部の大規模入植地を併合、それ以外の小規模入植地を撤退させ、分離壁を国境とする”という、自身が激しく反対した、かつての政敵シャロン元首相の主張に沿うものでしょうか?

4月11日ニューヨークタイムズ紙は、イランが世俗化、穏健化する一方、イスラエルは宗教右派が台頭し、神政国家化しつつある、と論じています。

“イスラエルでは、ハト派はタカ派に押されている。それは、安全保障情勢の変化の反映であるが、その背後には、宗教面や人口構成の変化がある。ユダヤ正統派政党は議会の約25%を占め、イスラエルを神政国家にしようとしている。正統派の人口は増加している。”【5月21日 WEDGE】

ネタ二ヤフ首相の判断は、こうしたイスラエル国内の事情も反映したものになるでしょう。
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