孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  トランプ大統領の初軍事作戦  終わらぬ内戦で危機に瀕する住民生活と子供の命

2017-02-15 23:15:35 | 中東情勢

(【2月12日 NHK】)

民間人死者1万人に
中東最貧国イエメンでは「反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派」と「ハディ暫定大統領派及び軍事支援するサウジアラビア」との内戦が続いています。

フーシ派は宗教的にはシーア派の一派ということで、イランが後押ししていると言われ、スンニ派地域大国であるサウジアラビア対シーア派盟主イランの代理戦争とも見られています。

イエメン情勢を前回とりあげたのは、2016年10月8日ブログ“イエメン 内戦で中東最貧国の住民生活は崩壊 子供たちに栄養失調や死の負担”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161008でしょうか。

戦況を含め、基本的には当時と状況は変わっていません。
サウジアラビアが主導するアラブ連合軍の激しい空爆支援(誤爆を含め、民間人犠牲者が多いことで、国際的にも、イエメン国内でも批判があります)にもかかわらず、ハディ暫定大統領派は反政府勢力「フーシ派」を攻めあぐねています。

****イエメン内戦、民間人死者1万人に 停戦へ国連特使が大統領と協議****
国連は(1月)16日、内戦が続くイエメンについて、サウジアラビア主導の連合軍が軍事介入した2015年3月以降の民間人死者が1万人に達したと発表した。
 
前回発表した昨年10月末時点での7000人余りからさらに膨らんだ。国連の広報官は「人道上の莫大な犠牲が出ている」と述べ、状況の解決をこれ以上遅らせてはならないと訴えた。

国連のイスマイール・ウルド・シェイク・アフメドイエメン担当特使は同日、イエメン南部アデンで同国のアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領と会談。2年近くに及ぶ内戦の終結に向けて、停戦への復帰や政治対話について中心的に話し合った。
 
イエメンでは、イランを後ろ盾とする反政府勢力が首都サヌアを掌握して全土に進攻してから数か月後の2015年3月以来、サウジ主導の連合軍の支援を受ける政府側と戦闘が続いている。【1月17日 AFP】
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トランプ政権初の軍事作戦の結果は・・・
資源もない中東最貧国の内戦ということで、国際社会の無関心という点でも変わっていません・・・ということについては、ひとつ修正が必要になりました。
アメリカがトランプ政権に交代して、初の軍事力行使の場として、このイエメンを選んだからです。相手は内戦の両者ではなく、政治空白をついて拡大するアルカイダ系テロ組織です。

****イエメンで米兵4人死傷、トランプ政権初の軍事作戦で****
米軍は29日、イエメンを拠点とするイスラム過激派組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」を標的とした空爆をイエメン南部で実施し、米兵1人が死亡、3人が負傷したと明らかにした。トランプ米大統領が承認した軍事作戦が行われたのは今回が初めて。

米軍によると、この空爆作戦によりアルカイダの戦闘員14人が死亡した。一方、現場の医療関係者らは、女性や子供10人を含む約30人の市民が死亡したと述べた。

米国防総省によると、負傷者を避難させるために派遣された米軍機が砲撃に遭い、さらに2人の米兵が負傷したという。

トランプ大統領は、作戦は成功したとした上で、作戦中に収集された情報は米国のテロとの闘いにおいて役立つとの見方を示した。

国防総省は市民の犠牲については言及しなかったが、米軍当局者は、匿名を条件に、その可能性は除外できないと語った。【1月30日 ロイター】
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“トランプ大統領は、作戦は成功した”と言っていますが、民間人も多数巻き添えになり、米兵も1名死亡し、85億円のオスプレイも失い、AQAPの最高指導者、カシム・リミ容疑者の拘束または殺害が目的だったようですが、リミ容疑者は逃走し、“成果”として誇示した入手映像は10年ほど前にネット上で拡散していたものだった・・・・と、散々な失敗だったと言ったほうがよさそうです。

****米国防総省、イエメンで入手の過激派映像を公開停止 過去にネットで拡散と判明****
米軍が先月イエメンで行った軍事作戦への批判が高まる中、作戦の意義を強調するため米国防総省が3日公開した映像が過去にインターネットで拡散していたものだったことが分かり、映像はすぐに取り下げられた。
 
米軍の特殊部隊がコンピューターから入手した映像には覆面をした過激派の戦闘員がホワイトボードの前で爆発物の作り方などについて講義を行う様子が捉えられていた。だがこの映像は10年ほど前のもので、以前にネットで拡散していたことが分かった。(中略)
 
ドナルド・トランプ大統領が初めて承認し、米特殊部隊が1月29日にイエメンで実施した作戦をめぐりホワイトハウスと国防総省は数多くの問題を指摘され批判の矢面に立っている。
 
アルカイダ系武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点を標的としたこの作戦では、激しい銃撃戦で米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ、Navy SEALs)の隊員1人が死亡し、女性を含む米兵3人が負傷した。
 
さらに機体価格7500万ドル(約85億円)の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが「ハードランディング(硬着陸)」し、乗っていた米兵3人が負傷した。機体は敵に奪われないようその場で破壊されたという。
 
イエメン当局は、この作戦で民間人の女性8人と子ども8人が死亡したと発表している。【2月4日 AFP】
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共和党重鎮マケイン上院議員も「7500万ドルの飛行機を失い、アメリカ人の命まで失っておいて成功などとは
言えない」と厳しく批判していますが、トランプ大統領のalternative factsは変わらないようです。

****トランプ、初軍事作戦の誤算****
トランプ米大統領が就任後に初めて承認した軍事作戦は、大失敗たったようだ。(中略)
 
ロンドンを拠点に活動する非営利団体「調査報道協会(BIJ)」によると、民間人の犠牲者の中には13歳未満の子供も9人いた。最年少は生後3ヵ月の赤ちゃんだった。
一方、米軍はこの作戦で7500万ドルの垂直離着陸機オスプレイを1機失い、兵士もI人死亡している。

トランプは、娘イバンカの夫であるジャレッド・クシュナー上級顧問らと夕食を取りながら作戦を命令したという。
 
トランプ政権は、イエメンでの作戦を「絶対的な成功」と自画自賛してきた。トランプ自身も先週、「ミッションは成功」だったとツイッターに書いた。
 
共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員は「7500万ドルの飛行機を失い、アメリカ人の命まで失っておいて成功などとは言えない」と厳しく批判した。
これに対してトランプは、「(批判は)敵を勇気づけるだけ」だと反論している。
 
(非営利団体「調査報道協会」)BIJによると、AQAP側はこの戦いで戦闘員14人を失ったと発表している。地元の住民たちによれば、戦闘員以外の死者は25人。その中には、9人の子供に加えて8人の女性も含まれていたという。1人は妊娠中だったとのことだ。
 
イエメンでは、アメリカヘの批判が高まっている。国民の反欧米感情はさらに強まるだろう。AQAPに戦闘員として加わる人が増える可能性もある。
 
米軍は、AQAPの最高指導者カシム・アル・ライミを仕留めることもできなかったようだ。ライミは先頃、「ホワイトハウスの新しい愚か者が横っ面をピシヤリとたたかれた」と、トランプを揶揄する音声メッセージを発表している。【2月21日号 Newsweek日本語版】
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「(批判は)敵を勇気づけるだけ」とウソの“大本営発表”“alternative facts”を垂れ流し続けることは、国民と国家を誤った方向へ導きます。

イエメン政府からも強い批判が出ています。

****イエメンが米作戦許可取り消し=トランプ政権つまずく****
米軍が1月下旬にイエメンで実施したテロ組織掃討作戦に関し、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は7日、民間人の犠牲者が出たことにイエメン政府が怒り、米特殊部隊に出していた地上作戦の許可を取り消したと報じた。

同作戦はトランプ米大統領が初めて指示を下したものとされ、「イスラム過激派テロの撲滅」を掲げるトランプ氏は、安全保障分野でいきなりつまずいた格好だ。(中略)

イエメン政府内では、米側から十分な事前説明のないまま作戦が遂行されたことへの反発が広がっている。イエメンの駐米大使は中東メディアに、米国との協力で「イエメンの市民や主権を犠牲にすべきではない」と不満を表明した。【2月8日 時事】 
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イエメン政府の抗議については、“今後とも、イエメン政府と十分調整し、共通の目的であるテロとの戦いを続けていく”という話に落ち着いたようですが、“トランプの性格にかんがみても、「イエメンなどという貧しい国」の事情を無視するか軽視して、作戦を行う危険性が大きく、今後ともこの種事件が生じる可能性が残っていると思う”【2月9日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘も。

トランプ大統領としては、関係国の利害が入り乱れ、国際的にも注目されているシリアやイラクではなく、叩いてもイラン以外の有力国からの批判も出ないイエメンで手っ取り早く“成果”を上げて、国内にアピールしようというところでしょうか。

なお、米軍はイエメン沖に駆逐艦も派遣しています。

****米駆逐艦、イエメン沖に****
ロイター通信などによると、米軍は3日までに、アデン湾と紅海の境に位置するイエメン沖のバブルマンデブ海峡付近に、駆逐艦「コール」を派遣した。艦船の護衛を含む哨戒任務に就くという。
 
イエメンでは内戦の混乱に乗じて、テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が勢力を拡大。米国は現地でAQAP掃討作戦を展開している。

コールは2000年10月、燃料補給のためイエメンのアデン港に停泊中、爆弾を積んだゴムボートが突っ込むテロ攻撃を受け、この時は米兵17人が殺害された。【2月4日 時事】 
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イエメン沖では昨年10月、「フーシ派」支配地域から米軍艦船へ2度にわたりミサイルが発射され、米軍は巡航ミサイル「トマホーク」でレーダー施設を報復攻撃、これに対しイランが艦船を派遣する・・・といった衝突・緊張もありましたので、その関係もあるのではないでしょうか。

イエメン政府軍の混乱も
アメリカのAQAP掃討作戦も上出来とは言い難いものでしたが、イエメン政府内も混乱しており、政府軍支配下の拠点都市アデンで政府軍同士が衝突し、この衝突にUAE軍のアパッチ攻撃ヘリも参加した・・・とのことです。

****アデンの衝突****
・・・・空港等重要施設の警備の任務を有している安全ベルト警備隊が10日、給料の遅配で空港への運航を阻止したことに始まり、hadi大統領の命令で大統領警備部隊が空港の警備にあたることになり、11日夕空港周辺に展開したところ、双方の間で衝突が生じたというものです。(中略)

これだけでも、政府軍、治安部隊の統率、規律がいかに取れていないことが、見て取れますが、(中略)上記両者の衝突にUAE軍のアパッチ攻撃ヘリも参加したと報じています。(後略)【2月13日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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フーシ派からなかなか首都を奪還できないのも、こうした政府軍の実情が影響しているようにも思えます。

FAO「イエメンは現在、世界最大の食糧危機に直面している」】
こうしたいつまでも続く内戦の最大の犠牲者は住民であり、特に、子供たちです。

****内戦で荒廃のイエメン、飢えて物乞いする子どもたち***
イエメン政府軍とイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」による内戦で父親を失ったムスタファ君(15)は、生き延びるために物乞いをするようになった。
 
フーシ派が掌握する首都サヌアの方々の交差点では毎日、大勢の子どもたちが自分ときょうだいが食べていくために物乞いをしている。

ムスタファ君はその一人にすぎない。2015年に激化した内戦で片親か両親を失った子どももいれば、内戦により給料が支払われなくなった公務員の親を助けようとしている子どももいる。
 
ムスタファ君は2年前、北部ハラドで父親を亡くした。その後、母親と3人の兄弟と共に首都に移った。「仕事を見つけようとしたけど、見つからなかった。食べられる物も見つからなくて、サヌアの通りで物乞いをしてきた」。

1日に得られる金額はわずか5ドル(約560円)だ。近くでは8歳のアベールちゃんが弟のアブドゥラフマン君を連れて、車から車へと金を無心して回っていた。
 
モスクや飲食店の前には、やせ細り、青白い顔をした子どもの物乞いたちが集まって施しを求めている。交差点では、ぼろ切れとせっけん水を詰めたペットボトルを手にした幼い少年たちが、車の窓ふきで生計を立てようと必死になっている。箱入りティッシュを売る母親のかたわらに座る子どもたちもいる。
 
イエメン内戦は2015年3月、政府側を支援するサウジアラビア主導の連合軍が軍事介入したことで激化。それ以来、多大な人的犠牲を出しており、国連によると子ども約1400人を含む7400人以上が死亡した。加えて300万人のイエメン人が内戦で住む場所を失い、数百万人が食糧支援を必要としている。

■食べ物がない
さらにサヌアでは給料が未払いとなっている人々がいる。昨年9月、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領が、首都サヌアにあった中央銀行を、暫定政府が拠点を置く南部の港湾都市アデンに移転すると決定したからだ。このため反政府武装勢力はサヌアに独自政権を樹立したものの、公務員に給料を払えていない。
 
現地の児童保護団体「Seyaj」のアフメド・クラシ代表は「特に首都の公務員への給料の支払いが滞って以降、子どもの物乞いの数が急増している」と語った。
 
国連のスティーブン・オブライアン緊急援助調整官(人道問題担当国連事務次長)は先月、即座に行動を起こさなければイエメンは今年、大規模な食糧不足に直面する恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
貧しいイエメンでは内戦開始前から2700万人がまん延する食糧不足に苦しんでいたが、今では数百万人が食糧支援を必要とするほど飢餓がいっそう深刻化している。また国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によれば、イエメンの子ども約220万人が急性栄養失調に陥っている。
 
サヌアで働く小児科医のアフメド・ユスフさんは「急に栄養失調が出現し、それから増え続けている。政府も非政府組織(NGO)もこの大惨事に対処する解決策を打ち出すことができずにいる」と語った。「子どもたちは放置され、一人きりで自分の運命を受け止めている」【2月13日 AFP】
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もともと“中東最貧国”ですから、内戦で住民生活が危機に瀕していることは容易に想像できます。

****国連 イエメンの食糧危機に緊急支援を呼びかけ****
FAO=国連食糧農業機関は、内戦が続くイエメンで1700万人が食糧不足に直面しているとする調査結果を公表し、国際社会に対して緊急の支援を呼びかけました。

イエメンでは政権側と反体制派による戦闘が2年近くにわたって続き、政権側を支援する隣国サウジアラビアを中心とした連合軍による空爆も行われています。

FAOは、おととし3月に戦闘が激しくなって以来初めて食糧や栄養に関する全国規模の調査をほかの国連機関と共同で行い、10日、結果を公表しました。

それによりますと、内戦の長期化に伴って農業生産が著しく落ち込み、食糧価格の高騰で多くの世帯が十分な食糧を確保できていないということです。

その結果、イエメン国内で食糧不足に直面している人はこの7か月で300万人増え、国民全体の6割に相当する1700万人に上ると推計されるということです。

また、深刻な栄養失調に苦しむ18歳未満の子どもは200万人に上り、中でも戦闘が激しい南部などでは子どものおよそ6人に1人が危機的な状況に陥っていると警告しています。

FAOは、「イエメンは現在、世界最大の食糧危機に直面している」として、国際社会に対して緊急の食糧支援や農業支援を行うための資金を拠出するよう呼びかけています。【2月12日 NHK】
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戦闘の停止が何よりの支援になりますが、サウジアラビアへの影響力を行使して停戦を主導できる立場にあるアメリカ・トランプ大統領にその意思があるのか・・・?
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