孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  和平協議再開へ 進む反体制派の再編 ロシア協調のトランプ大統領の関与で進展も期待?

2017-02-01 23:07:46 | 中東情勢

(首都への水道供給施設をめぐって戦われたバラダー渓谷から避難した反体制派兵士と民間人 Ammar Abdullah-REUTERS【2月1日 青山弘之氏 Newsweek】)

ロシア・トルコが主導の停戦 国連仲介による和平協議も今月20日から再開
最近のシリア情勢については、ロシア・トルコが主導した昨年末の停戦合意によって戦闘は、後述の首都ダマスカス郊外バラダー渓谷をめぐる争いなどを除き“おおむね”収まってはいますが、停戦は未だ脆弱です。

1月24日には、停戦合意を主導したアサド政権側を支援するロシア・イラン、反政府側を支援するトルコを軸として、ロシアとの関係が悪化し、政権交代期で政治空白も生じたアメリカが殆ど関与しない形で、また、戦闘の当事者である武装組織が直接会議に参加する形で、中央アジア・カザフスタンの首都アスタナにおいて和平協議が開催されました。

****シリア停戦維持で合意 米国抜きの構図、鮮明に****
シリア内戦をめぐり、カザフスタンの首都アスタナで開かれたアサド政権と反体制派の和平協議は24日、昨年末に発効した停戦合意を完全に履行させるため、仲介役のロシア、トルコ、イランによる停戦監視の仕組みを設けるとした共同声明を発表し、閉会した。声明はこの3カ国の連名で出され、政権と反体制派は含まれていない。

今回の協議でトランプ米政権は、駐カザフスタン大使のオブザーバー参加にとどめた。停戦を主導したロシアとトルコが、米国抜きでシリア和平を進める構図が鮮明になった。
 
声明は「シリア内戦に軍事的解決はなく、政治移行プロセスを通じた解決しかない」ことを確認。停戦の対象から除外した「イスラム国」(IS)や「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)などの過激派組織について、「(ロシア、トルコ、イランの)3カ国共同で戦闘を続け、(一部で協力する)反体制派の武装組織から分断させる」ことも盛り込んだ。
 
また、スイス・ジュネーブを拠点とする国連主導の和平協議について、これまで反体制派からは政治組織が参加してきたが、2月8日に再開する次回会合から武装組織が参加することを「支援する」とした。
 
シリアでの戦闘は約6年に及ぶ。米ロが主導した過去2回の停戦は短期間で崩壊した。今回の停戦は、アサド政権を支えるロシアと反体制派を支援するトルコが主導。両国は影響力を駆使し、政権と反体制派を今回の協議で対面させた。
 
停戦発効後、戦闘はおおむね収まったが、もろさも抱える。複数の協議参加者によると、23日の非公開協議で反体制派のアッルーシュ団長が「アサド(大統領)のために戦う者は全て戦争犯罪者だ」と発言。政権側のジャファリ国連大使が「お前たちはテロリストだ」と反発し、非難の応酬となった。
 
協議には、反体制派から「イスラム軍」など約15の有力武装組織が参加したが、当初から政権打倒を掲げる「アフラル・シャーム」などは参加を拒否。反体制派は一枚岩ではなく、協議に参加した組織も離反する恐れがある。
 
シリア北部で一定の支配地域を確立している少数民族クルド人の組織は、協議に招かれなかった。国内でクルド人の分離独立運動を抱え、クルド人組織をテロ組織とするトルコの意向にロシアが配慮したとみられる。クルド人組織幹部は「アスタナでの決定を拒否する」としている。【1月24日 朝日】
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“停戦入り後もシリアの首都ダマスカス郊外で続いた政権側の攻撃をめぐり、政権と反体制派は対立し、アスタナでの直接対話は実現しなかったもようだ。政権の後ろ盾であるロシアと、反体制派を支援するトルコが主導して共同声明を発表したが、政権と反体制派は名を連ねていない”【1月24日 時事】と、溝は未だ深いものがありますが、協議を仲介したロシア、トルコ、イランの3カ国は共同声明を発表し「国連安保理決議の合意事項を迅速に実行するため国際社会に(シリアの)政治プロセスを支援するよう求める」と訴えています。

こうした流れを受けて、中断していた和平交渉の本筋でもある国連仲介による和平協議も今月20に再開されることになっています。

****国連仲介のシリア和平協議 今月20日に再開へ****
シリアで続く内戦の調停に当たっている国連のデミストラ特使は、去年4月から中断している国連の仲介による和平協議を今月20日からスイスのジュネーブで再開させると発表しました。

国連の仲介によるシリアの和平協議は、アサド政権と反政府勢力の立場の隔たりが大きいうえ、停戦が長続きしなかったことなどから、去年4月から中断しています。(中略)

シリアの内戦をめぐっては、先月、政権側を支援するロシアとイラン、それに、反政府側を支援するトルコが、停戦監視の仕組みを作ることで合意していて、デミストラ特使は具体的な仕組みの在り方について今月6日に3か国と話し合うことも明らかにしました。(後略)【2月1日 NHK】
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【“勧善懲悪で説明できない”状況ではトランプ流が有効?】
今後については、アメリカもトランプ政権が参加することになりますが、ロシアとの関係改善を志向していること、いままでのいろんな“しがらみ”がないこと、体質的にプーチン大統領やエルドアン大統領とは馬が合うように思われることから、和平合意に向けた期待もできそうに思えます。

ロシア主導だとか、非人道的なアサド政権を存続させることになるとか、批判はあるかもしれませんが、どんな“和平”であれ、多くの市民が戦闘の犠牲となる内戦よりはずっとましだと考えます。

現在シリア国内で起こっていることに関しては、青山弘之氏(東京外国語大学教授)の「シリアで起きていることは、ますます勧善懲悪で説明できない」【2月1日 Newsweek】で詳しく紹介されています。

なお、記事前半のダマスカス水資源をめぐる問題については、下記記事のように、昨年末より首都への水道供給が停止する状態となっていました。

****シリア首都の水供給停止3日目、「反体制派による汚染」と当局****
シリアの首都ダマスカスでは、反体制派グループが水源を汚染させたとして当局が水の供給を停止しており、3日連続で水不足の状態が続いている。
 
当局は、ダマスカス西部を拠点とする複数の反体制派グループが近郊の水源や水道管を故意に汚染させたとして23日以降、同市への水の供給を停止しており、25日時点でも再開していない。
 
ダマスカス市上下水道公社(DAWSSA)は声明で「ダマスカス市と周辺地域に水を供給しているすべての水源がテロ攻撃」を受けたため、供給を停止したと説明している。

国営シリア・アラブ通信(SANA)は、複数の反体制派グループがダマスカス市の北西約15キロにあるワディ・バラダとアイン・フィジェの水源を攻撃したと報じている。
 
ダマスカス市内には推定150万人が住んでおり、さらに350万人が同市郊外に住んでいる。現在は地区ごとに備蓄分を計画的に配給しているが、配給時間が短く、タンクに注水してもすぐに空になってしまう状態。ある主婦は「電気はなくても生きていけるけれど、水がなくては生きていけない」と訴えた。【2016年12月26日 AFP】
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****シリアで起きていることは、ますます勧善懲悪で説明できない****
<ロシアとトルコの仲介によって停戦合意が発効し、アスタナで和平協議も行われたシリア内戦は、「正当な反体制派」と「テロ組織」が離合集散し、ますます勧善懲悪で説明できない状況となっている>

アレッポ市東部から反体制派が敗走し、同地がシリア政府の支配下に復帰して以降のシリアでは、勧善懲悪で説明できない事象がこれまで以上に目に付くようになっている。

2016年12月下旬に始まったダマスカス郊外県バラダー渓谷でのシリア軍と反体制派の戦いと、17年1月下旬のシリア北西部での反体制派の再編がその典型だ。

首都ダマスカスの水源をめぐるバラダー渓谷の戦い
バラダー渓谷の戦いは、首都ダマスカスで使用される水道水の70%あまりを供給してきたアイン・フィージャ町(ダマスカス郊外県)の水道施設が12月22日に突如として稼働停止となったことが発端だった。(中略)

この(ロシアとトルコの仲介により発効した停戦合意の)妥協の内容を如実に見て取ることができたのが、ほかならぬバラダー渓谷の戦いだった。

シリア軍はバラダー渓谷の反体制派を「テロ組織」と断じて攻撃を続けた。こうした手法は、それ以前であれば、「穏健な反体制派」や「一般市民」に対する「無差別攻撃」との非難を浴びるのが常だった。

だが、今回は、反体制派最大の支援国であるトルコが、ロシアに同調してシリア軍の攻撃を停戦違反とはみなさないとの姿勢をとり、政権移行期の米国も沈黙を続けた。

なお、バラダー渓谷の反体制派が、シャーム・ファトフ戦線(アルカイダ系、旧ヌスラ戦線)に主導されていたことは、反体制系のNGO組織であるシリア人権監視団の日々の戦況報告からも容易に確認でき、その意味で、トルコ、そして米国は、シリア政府に与してこの事実を認めたかたちとなった。

反体制派が生活インフラを盾とし、「市民」団体が戦闘継続を主唱した
(中略)トルコの要請に応じず、バラダー渓谷での戦闘継続を主唱した主要な組織は、(アルカイダ系)シャーム自由人イスラーム運動、そしてホワイト・ヘルメット(民間防衛隊)を筆頭とする「市民」団体だけだった。

このうち「市民」団体の言動は異彩を放った。彼らは、停戦が発効した12月30日の声明で、国際社会がアイン・フィージャ町へのシリア軍の攻撃を停止させれば、「復旧作業チームを受け入れるために行動する」と発表し、水道施設を政治的・軍事的な「盾」として利用する構えを示した。また、1月15日の声明では、アスタナ会議への参加の準備をめざす反体制派に停戦を破棄するよう呼びかけた。

バラダー渓谷の戦いは、1月19日にドイツ大使館の仲介により、(中略)停戦に最終合意し、同月28日にこの合意が履行されることで幕を閉じた。

欧米諸国や日本のメディアでほとんど注目を浴びなかったこの戦いは、反体制派が生活インフラを盾としてあからさまに利用した点、「市民」団体が戦闘継続を主唱した点、そしてシリア軍の反体制派に対する軍事行動が「テロとの戦い」として容認された点など、あらゆる点でシリア内戦をめぐる勧善懲悪では説明不能だった。

オバマ任期終了間近のオバマ米政権が助長した反体制派の離合集散
反体制派の離合集散は、任期終了を間近に控えたバラク・オバマ米政権がシャーム・ファトフ戦線(アルカイダ系、旧ヌスラ戦線)に対する空爆を頻発化させたことでさらに助長された。

米軍の空爆は、シャーム・ファトフ戦線の幹部が乗った車輌や拠点をピンポイントで狙った正確なもので、(中略)めざましい戦果は、シャーム・ファトフ戦線と共闘してきた「穏健な反体制派」が索敵情報を提供しているのではとの疑念を抱かせた。

1月21日、シャーム・ファトフ戦線が、イドリブ県北部のザーウィヤ山地方一帯の(もうひとつのアルカイダ系組織である)シャーム自由人イスラーム運動の拠点を襲撃すると、この疑念は戦闘へと発展した。(中略)

二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派
対立はこれにとどまらなかった。(中略)(シャーム・ファトフ戦線の攻撃で)窮地に立たされた(「穏健な反体制派」とされる)3組織は、シャーム自由人イスラーム運動に支援を求め、「忠誠」(バイア)を表明した。

また、イスラーム軍(イドリブ地区)、シャーム戦線(西アレッポ地区)、「命じられるまま正しく進め」連合、シャーム革命家大隊も、シャーム・ファトフ戦線の侵攻から身をまもるべく「忠誠」を表明し、シャーム自由人イスラーム運動は26日、これらの組織を吸収するとの声明を出したのである。

シャーム・ファトフ戦線もこれに対抗し、「穏健な反体制派」として知られていたヌールッディーン・ザンキー運動、ハック旅団、アンサールッディーン戦線、スンナ軍と1月28日に共同声明を出し、シャーム解放委員会という新組織として完全統合すると発表、力によって反体制派の統合を進めるとの意思を表明した。(中略)

反体制派内部の再編がどのように決着するのかはきわめて不透明だ。だが、一連の動きから見えてくるのは、和平交渉の当事者となるべき「正当な反体制派」と「テロとの戦い」の標的となる「テロ組織」の峻別が、これまで以上に実現性を欠いた「ミッション・インポシブル」となっているという現実である。

二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派は、とらえどころのない存在となっており、和平協議の当事者としての資質さえも失おうとしている。【2月1日 青山弘之氏 Newsweek】http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-6859.php
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多くの組織名が出てきて理解しづらいところもありますが(その多くは省略しましたが)、前半の水資源攻撃に関しては、記事にあるように“反体制派が生活インフラを盾としてあからさまに利用した点、「市民」団体が戦闘継続を主唱した点、そしてシリア軍の反体制派に対する軍事行動が「テロとの戦い」として容認された点”が注目されます。

後半の反体制派の離合集散については、従来「穏健な反体制派」とも呼ばれていた多くの組織が、対立する二つのアルカイダ系組織“シャーム・ファトフ戦線”(旧ヌスラ戦線)と“シャーム自由人イスラーム運動”に吸収・再編されるつつあるようです。従来から言われているように、シリア内戦においては“穏健な反体制派”など存在しない・・・という状況にますます近づいているようです。

“勧善懲悪で説明できない状況”ということになると、従来のような欧米が主張する“非人道的アサド政権を認めず、穏健な反体制派による・・・”云々ではなく、トランプ流の利害重視の“取引”による決着が有効になるかも。

トランプ大統領が進める「安全地帯」構想 難しいクルド人勢力の扱い
差し当たり、トランプ大統領がこだわっているのが“安全地帯”構想です。

****<トランプ大統領>シリアに「安全地帯」構想 広がる波紋****
米国のトランプ大統領が内戦下のシリアで国内避難民らが居住するための「安全地帯」を設置する構想を明らかにし、波紋を広げている。実現には軍事力の裏付けが必要で、米軍のシリア介入拡大につながりかねない。

トランプ氏が最優先課題に位置付ける過激派組織「イスラム国」(IS)などの掃討目的で介入を強化する可能性もあり、混迷するシリア情勢に新たな不確定要因が浮上した形だ。
 
「シリアで人々のために絶対に『安全地帯』を実行する」。トランプ氏は1月25日の米ABCテレビのインタビューで断言した。
 
敵対勢力の区域内や上空への侵入を防ぐために地上戦力や防空戦力が必要になるとみられるが、連携相手など計画の詳細は不明だ。ロイター通信は米政府高官の話として、近く「安全地帯」構想が発表されると伝えた。
 
米国は従来、シリアでは反体制派やクルド人武装勢力を支援し、アサド政権やISと敵対してきた。2014年9月から対IS空爆も続けている。

「安全地帯」を設定する場合、トルコ国境付近のクルド人勢力や反体制派の実効支配地域が候補地になるとみられる。アサド政権を支援するロシアやクルド人勢力を敵視するトルコとの調整が必要で、設定を強行すれば紛争が激化しかねない。
 
ロイターによると、ロシアのペスコフ大統領報道官は「どのような結果をもたらし得るのか熟慮すべきだ」と米国をけん制した。

トルコの外務省報道官は「トルコは従来、安全地帯設定を呼びかけてきた。重要なのは(トランプ米政権が)検討した結果だ」と述べ、米国の出方を見極める方針を表した。また、対アサド政権強硬派のカタールの外務省は、安全地帯構想を歓迎する声明を出した。
 
一方、トランプ政権は、ISや、国際テロ組織アルカイダから分離した「シリア征服戦線(旧ヌスラ戦線)」の撃滅も目指しており、軍事介入を強化する可能性も指摘される。
 
ISはイラクでは劣勢だが、シリアでは昨年12月に政権側から中部パルミラを奪い返し、東部デリゾールや北部アレッポ近辺でも政権側に攻勢をかけている。

ISの実効支配下にある北部バーブ周辺では、ISと政権側、トルコ軍とシリア反体制派の連合部隊が三つどもえの抗争を続ける。また、シリア征服戦線は北西部イドリブ県で、従来共闘していた反体制派を攻撃し、勢力拡大を狙っている。
 
国連などによると、6年近く続くシリア内戦では30万人以上が死亡、485万人が周辺国で難民申請し、750万人以上が国内避難民となっている。
 
シリアの「安全地帯」構想
シリア政府軍攻撃からの民間人保護などのため反体制派が設置を求め、トルコも2015年ごろから設定を提唱した。難民の流入抑制の観点から独メルケル首相も支持を表明した。トルコには敵対するクルド人勢力の支配地域を分断する意図もあるとされる。オバマ米前大統領は軍事的関与が必要になるとして反対した。【1月29日 毎日】
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記事にもあるように、“軍事力の裏付け”をどうするのか、アメリカ国内の深入りを嫌う世論を押し切って米軍のシリア介入を拡大するのか・・・が問題とされていますが、“取引”で、ロシア・トルコに任せる・・・という話もあるのかも。

もうひとつの問題は、候補地とされるエリアを実効支配するクルド人勢力の扱いです。クルド人勢力を排除するということであれば、これを敵視するトルコは大喜びで実現に尽力するでしょう。

ただ、これまでアメリカの対IS作戦の地上部隊となってきたクルド人勢力を切り捨てるのか・・・。
国家を持たないクルド人がこれまで対IS作戦で犠牲を払ってきたのは、自分たちの支配地域を確立したいという思いがあってのことです。

不吉な将来を案じてか、クルド人勢力からは下記のようなアピールも。

****トランプ政権が装甲車供与」=クルド人勢力が表明―シリア****
シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)と戦うクルド人民兵主体の「シリア民主軍(SDF)」は31日、トランプ米政権から装甲車を供与されたと明らかにした。AFP通信が伝えた。
 
SDFスポークスマンは「米国の装甲車両が初めてSDFの下に到着した」と指摘した上で、トランプ政権が「さらなる支援を約束した」と強調した。装甲車の提供は、オバマ前政権時代にはなかったという。【1月31日 時事】
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扱いが難しく、後々に尾を引きそうな問題です。
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