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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  トランプ大統領の移民対策強化で揺れる「移民の国」

2017-02-18 21:56:42 | アメリカ

(「移民のいない生活には、限界がある」と書いた紙を入り口に貼って、「移民のいない日」ストに参加したカフェ=16日、ロサンゼルス 【2月17日 朝日】)

移民は雇用を奪ったか? 不法移民取り締まり強化で拡大する混乱
周知のようにアメリカではトランプ大統領によるメキシコ国境の「トランプの壁」建設や中東・アフリカのイスラム圏7カ国からの入国を一時禁止する大統領令などで、移民・難民や外国人の扱いに関する混乱が続いています。

不法移民が仕事を奪っているとの経済的主張や、テロへの不安、反イスラム感情など、いろんな要素が一体となっていますが、“外から入ってくる異質なもの”が国内の安定を脅かしているという認識から、“外からのもの”を排除しようとする“内向き志向”の強い発想のように思えます。

移民問題に関して言えば、“移民が仕事を奪っている”という主張はわかりやすく、国民にアピールしやすいものではありますが、本当にそうなのか?どういう人が影響を受けているのか?それは移民制限で対応すべき問題なのか?・・・等々、客観的な検証が必要です。

****移民は雇用を奪ったか 「失業率高めた」トランプ氏主張****
・・・・トランプ氏は16年7月、共和党の大統領候補の指名を受けた演説で「数十年の記録では、移民は米国人の賃金を低くし、失業率を高めた」と主張。

今年1月の就任演説では「移民に関するすべての決定は、米国の労働者や米国民の利益になるものにする」と語り、移民受け入れを厳格化させる方針を打ち出している。

 ■学者ら「証拠はない」
「移民の国」で巻き起こる移民をめぐる分断。米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが昨年10月に発表した調査では、移民が米国人労働者に「悪影響を与えている」と答えた人は45%。「助けになっている」の42%を上回った。
 
本当に移民は米国人の仕事を奪っているのか。

米国の経済、社会学者らでつくる全米アカデミーズは昨年9月、過去の研究などから米国に移った移民が地域の経済に与えた影響を調べた結果、「移民が米国生まれの労働者の雇用水準に大きな影響を与えている証拠はほとんどない」と発表した。

米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は14日の米上院銀行委員会で「移民が減れば、確実に経済成長を鈍らせる」と、全体として恩恵があるとの認識を示した。
 
米シンクタンクのケイトー研究所のアレックス・ナウレステ氏は、移民との文化摩擦や治安悪化への懸念も背景にあると見る。そのうえで「高い技術や能力がない一部の米国人労働者は移民と競合し、実際に賃金が下がっている。問題は移民政策ではなく福祉政策で、政府はこうした人を家賃補助や就職支援などで助けるべきだ」と指摘する。【2月17日 朝日】
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大統領選挙敗北後、あまり表立った発言はなかったヒラリー・クリントン氏も、この問題については声をあげています。

****米国にはもっと多くの移民必要」・・・・ヒラリー氏****
昨年の米大統領選で敗北した民主党のヒラリー・クリントン氏(69)は16日、ニューヨーク市内で開かれたドミニカ共和国出身のファッションデザイナーに関連した式典に出席し、「アメリカのためには、もっと多くの移民がいるべきだ。彼が移民であったことを誇りに思い、感謝している」などと述べた。
 
イスラム圏7か国からの入国を制限し、批判を集めている大統領令を念頭に置いたものとみられる。クリントン氏は選挙後、公的な発言を控えていた。(後略)【2月17日 読売】
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トランプ政権は先週、不法移民の一斉摘発を実施し少なくとも680人を逮捕。アメリカ国内では中南米出身者のコミュニティーを中心に、深刻な不安が広がっています。

どういう条件の者が拘束され、強制退去にされるのか定かでない混乱もあります。

****善良な不法移民」の逮捕に抗議 「DACA」取得の23歳 摘発拡大を警戒****
米国で、幼い頃、親に連れて来られた不法移民が一定の条件で強制退去を免れる「DACA(ダカ)」の資格をもつ若者が逮捕されて国外追放されそうになり、波紋を呼んでいる。

若者の弁護士は「不当な逮捕」と主張。DACAはオバマ政権が導入した。人権団体は、不法移民の取り締まりを強化するトランプ政権下での動きとみて批判している。
 
米メディアなどによると逮捕されたのは、メキシコ出身でワシントン州在住の青年(23)。移民税関捜査局(ICE)に10日、父とともに逮捕された。ICEは「(青年が)ギャングの仲間だったので逮捕し、本人も認めた」と発表した。
 
これに対し、青年の弁護士は「ギャングの仲間と言うように強要された」と主張。青年は、親に連れられて不法入国した「ドリーマー」と呼ばれる若者の一人。7歳の時に不法入国したが、「犯罪歴がない」「高校卒業」などの条件を満たし、2014年にDACAの資格を得た。
 
人権団体「アメリカズ・ボイス」のフランク・シャーリー事務局長は、「許しがたいこと」と抗議。制度上最も恵まれたDACAの青年が国外追放されれば、他の不法移民は、なし崩しに追放の対象になる恐れがあると考えるためだ。
 
ICEは先週、全米で不法移民を一斉摘発し、680人以上を逮捕。犯罪歴のある不法移民の拘束を優先するとしているが、逮捕歴のない人も含まれている。
 
トランプ氏は大統領選で「オバマ氏が法律と憲法に背いて不法移民に恩赦を与えた。すぐに停止する」と訴えていたが、大統領就任後、DACAの若者らについて「心配する必要はない。私は心が寛大だ」などと発言していた。
 
DACAではこれまでに約72万8千人に滞在が認められた。不法滞在のメキシコ人ながら、DACAでポモナ大学(カリフォルニア州)に通うダニエラ・イノホサさん(20)は最近、別の大学でICEの捜索があった話を聞き、「大学に通っているからといって安全ではない」と心配する。【2月17日 朝日】
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社会的混乱・不安のなかで、下記のような話も。

****不法移民摘発へ兵士動員検討報道、ホワイトハウスは否定****
トランプ米政権が国防軍兵士最大10万人を動員し、国内に滞在する不法移民を摘発することを検討していると、APが17日ツイッターを通じ報じた。

ホワイトハウスは同報道を否定している。
APは草案メモの情報としているが、起草者は明らかになっていない。【2月18日 ロイター】
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【「移民のいない日」】
こうした状況で移民問題を客観的に見つめ直す非常に有効な試みが16日全米で行われています。

****全米で「移民のいない日」=ストでトランプ政権に抗議****
ニューヨークやシカゴなど全米各都市で16日、トランプ大統領の移民政策に抗議するストライキ「移民のいない日」が行われた。移民らは学校や仕事を休み、米メディアによると、移民の多い飲食業界では、休業する店が相次いだ。
 
トランプ大統領は対メキシコ国境に壁を建設し、不法移民を強制送還する方針を発表している。ストには、いかに移民が米国経済に貢献しているかを示す狙いがある。
 
ストへの参加者総数は不明だが、米メディアなどによれば、飲食業界が最も大きな影響を受けたもようだ。米国では1440万人が飲食業に従事し、うち23%が外国出身者。また、2014年時点で不法移民の飲食業従事者は推定約110万人に上るという。(後略)【2月17日 時事】 
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****移民のいない日」全米で飲食店一斉休業、トランプ氏政策に抗議****
全米で16日、ドナルド・トランプ大統領の移民政策に抗議するストライキ「移民のいない日(Day Without Immigrants)」が実施され、飲食店が一斉に休業した。首都ワシントンでも、ハンバーガー店から高級レストランまで多数の店舗が休んだ。

抗議運動の狙いは、米経済において移民がいかに重要な存在なのかを示すことだ。飲食業界では被雇用者の大半を低賃金で働く移民が占めている。
 
休業した飲食店の中には、移民の従業員への連帯を示して休業した店もあれば、出勤した従業員が少なすぎて営業できなかった店もあった。
 
ストは飲食業界にとどまらず、ニューヨークからロサンゼルスまで、全米各地で移民たちが出勤を拒否して自宅にとどまり、子どもに学校を休ませる家庭も続出。ガソリンの購入を控えるなどして、移民の不在が米国にとってどれほどの損失になるかを実例として証明してみせた。
 
移民から寄付された美術作品を全て館内から撤去した美術館もあった。(後略)【2月17日 AFP】
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“移民は、皿洗いや掃除、建設作業や農作物の収穫など、米国民がやりたがらない仕事を担い、社会を支えている。中でも、飲食業で働く約1200万人のうち、特に大都市では多くが移民だといい、その中の約130万人が不法移民という。米国社会は、今や不法移民の存在無くして成り立たないのが現実だ。”【2月17日 朝日】とも。

トランプ大統領が建設しようとしている「トランプの壁」も、現実問題としては不法移民労働力を使わないと建設できないのでは・・・と言う話は、2月14日ブログ“二つの「壁」 アメリカ「トランプの壁」とモロッコ「恥の壁」”でも触れたところです。

そもそも、アメリカにおいて“移民”とはどこまでの者を指すのか?
日本では、自分が移民及びその関係者であるかどうか判然としないという者はあまり多くないでしょうが、アメリカは数世代さかのぼれば皆“移民”です。違いは早く来たか、最近来たかだけです。

そのことからすると、“移民”に対する対応は、単に“仕事を奪っている”云々の問題にとどまらず、自らのアイデンティティーや価値観に大きくかかわるものにもなります。

トランプ氏の言動で助長される反イスラム感情
反イスラム感情については、トランプ大統領は“テロ対策であり、反イスラムではない”とはしていますが、彼の言動が反イスラム的言動を公にしてもいいという風潮を助長しているという大きな問題を抱えています。

****トランプのアメリカで反イスラム団体が急増****
<大統領選以降、トランプが反イスラムの姿勢を鮮明にするなかで、昨年アメリカの反イスラムのヘイトグループの数が3倍に増えた>

昨年のアメリカ大統領選でドナルド・トランプが当選したことで、アメリカ国内の過激な右派グループが「明らかに活発化」し、反イスラムグループの数が3倍に増加したことが、民間団体「南部貧困法律センター(SPLC)」の報告書で明らかになった。

全米のヘイトグループや過激主義を監視するSPLCの報告書によると、アメリカのヘイトグループや過激な右派グループの数は、2015年の890から16年の917へと増加した。

SPLCのマーク・ポトクは、増加数そのものは少ないが過去最多とだった2011年の1018に近い数字まで増えているという。

なかでも「激増」しているのが、「反イスラム」のヘイトグループだ。15年の34から16年には101に増えた。大統領選でトランプが支持を拡大したことが大きな要因になっていると、ポトクは言う。トランプは選挙中、イスラム系住民の登録制度やモスクの監視などを主張していた。

世界規模の難民危機や反イスラム・プロパガンダの増加、またフロリダ州オーランドやカリフォルニア州サンベルナルディーノでイスラム教徒のテロによって多数の犠牲者が出たことなども、反イスラム感情が増大する要因となった。

トランプで沸き上がるヘイト
「トランプは、『アメリカ在住のイスラム系住民のうち25%が、アメリカ人への暴力はジハードの名の下に正当化されると信じている』というデマを広めた」と、ポトクは指摘する。過激な右派グループによる暴力も、イスラム過激派による暴力と同様に深刻だという。

「トランプ現象は右派のヘイト感情を解き放ってしまった。過去にこうした例は思い浮かばない」と、ポトクは言う。「現状は(ナチスドイツが誕生した)1930年代のドイツとは違うものの、いくつかの共通点が見られる」(中略)

今週、トランプ政権のマイケル・フリン大統領補佐官が辞任したが、ポトクは「これで政権から反イスラムの補佐官が一人減った」と見る。しかし政権中枢にはまだ反イスラム主義の信奉者が多く残っているという。「首席戦略官のスティーブン・バノン、大統領補佐官のスティーブン・ミラー、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ、司法長官のジェフ・セッションズ――そしてもちろん、トランプ大統領自身だ」【2月17日 Newsweek】
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いったいどこの国の話か?】
そのほか、今日のトランプ関連にニュースには以下のようなものも。

****外国に工場移転した企業に「重い罰」 トランプ大統領が強調****
アメリカのトランプ大統領は、大手航空機メーカーボーイングを訪れ、外国に工場を移転した企業がアメリカへ製品を輸入する場合、「重い罰を受けることになる」と述べて、こうした輸入製品には高い税をかける考えを改めて強調しました。(後略)【2月18日 NHK】
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****トランプ氏、メディアは「米国民の敵」とツイート****
ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は17日、メディアへの攻撃を強め、ツイッター(Twitter)でいくつかのメディアを名指しして「米国民の敵!」と非難した。(中略)

メディアを非難した米国大統領は多いが、トランプ氏の場合は、他国の独裁主義的指導者がメディア批判をするときの表現に近い。【2月18日 AFP】
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前出の「不法移民摘発へ兵士動員検討」報道もそうですが、一体どこの国の話か?中国かどこかの独裁国か?・・・という感も。

司法によって停止された大統領令については来週にも出し直される予定です。
恐らく、今度はそのまま実行されるものになるのでしょう。それによって混乱は更に拡大しそうです。

****<米入国禁止令>来週にも再提出 永住権者除外など検討か****
トランプ米大統領は16日の記者会見で、中東・アフリカのイスラム圏7カ国からの入国を一時禁止する大統領令を大幅に書き換え、来週にも出し直すことを明らかにした。
 
大統領令はワシントン州の連邦地裁が「雇用や教育などに取り返しのつかない損害を生じさせている」と即時停止を命じ、カリフォルニア州の連邦控訴裁も地裁の決定を支持している。
 
トランプ氏は大統領令について「完全な」内容であったのに「非常にひどい判断」を受けたと主張したが、裁判所に認められるように「作り替える」と述べた。米メディアなどによると、グリーンカード(永住権)保持者を対象から除外したり、入国禁止の対象国を変更したりするなどの措置が考えられるという。(後略)【2月17日 毎日】
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ロシアの脅威からトランプ政権を警戒するバルト3国 同盟国ベラルーシもロシアに距離を置く姿勢

2017-02-17 22:59:39 | ロシア

(リトアニアの首都ビリニュス中心部に現れたトランプ氏とプーチン氏のキスを描いた壁画。【2016年11月16日 朝日】)

揺らぐアメリカと同盟国の信頼関係
ロシアと周辺国の関係というと、(北方領土問題を抱える日本もその一つではありますが)一番目にするのはNATOとしてロシアと対峙する欧州西側諸国、特に対ロシア警戒感が強いバルト3国に関する話題です。

****リトアニア、ロシアの飛び地との国境にフェンス建設へ****
リトアニア政府は16日、同国南西部と隣接するロシアの飛び地カリーニングラードとの国境沿いに、欧州連合(EU)からの資金を用いてフェンスを建設する計画を明らかにした。ロシアはカーリングラードでの軍事力増強を進めており、今回の計画は安全保障の強化および密輸の阻止が目的だという。(中略)
 
エイムティス・ミシューナス内相がAFPに明かしたところによると、130キロに及ぶフェンスの建設は今春に開始され、年末までには完成する予定だという。
 
ミシューナス内相はフェンス建設について、(中略)「戦車を止めることはできないが、(人が)乗り越えるのは困難だ」とし、フェンスの意義を強調した。
 
高さ2メートルのフェンスの建設にはおよそ3000万ユーロ(約36億円)の費用が見込まれるが、その多くがEUからの資金援助によるものだという。【1月17日 AFP】
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ウクライナに見るようなロシアの“力”による拡張主義(ロシア・プーチン大統領からすれば、NATOの東方拡大への自衛ということになるのでしょうが)をバルト3国が強く警戒するのは、ロシア・ソ連との歴史的経緯もありますが、国内に多くのロシア系住民を抱えるという特殊事情を抱えているためでもあります。

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(トランプ政権誕生に)いちばん震え上がっているのは、崩壊した旧ソ連から独立したラトビア、エストニア、リトアニアのバルト3国だ。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の経済制裁をトランプ政権が解除した場合、ロシアの軍事的冒険主義に歯止めがかからなくなり自分たちの小さな国も呑みこまれかねないと怯えているのだ。

ロシア語を話す人はどこにいようと「保護する」とプーチンは語ったが、ウクライナではロシア系住民は人口の17%を占めるにすぎない。

だが米シンクタンク、外交調査研究所によれば、ロシア系が人口に占める割合はエストニアで24%、ラトビアでは27%だ。リトアニアではロシア系は人口のわずか6%だが、ロシアのウクライナ侵攻を受け、政府は7年前に廃止した徴兵制度を復活させた。【2月16日 Newsweek】
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“ロシアがバルト3国に侵攻した場合、(ロシアは)バルト3国の首都を36〜60時間で支配下に置ける”(米欧州陸軍のホッジズ司令官)【2016年6月22日 時事より】という現実に直面し、NATOはポーランドとバルト諸国に4000人規模の多国籍部隊を配備することを決定し、1月下旬からリトアニア国内にドイツが主導する1000人規模の多国籍部隊の配備を開始、アメリカからもポーランドに地上部隊が到着しています。

ロシアへの切実な危機感を持っているだけに、リトアニアのリンケビチュス外相は“トランプ米大統領が北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国に対し、米国が提供する安全保障に「ただ乗り」していると批判していることについて、「聞きたくないが、事実だ」と認めた。その上で(中略)国防費引き上げの努力を続ける必要性を強調した。”【2月1日 毎日】と、アメリカ・トランプ政権をNATOに繋ぎ止めておくのに懸命です。

一方で、バルト3国など欧州諸国には、ロシアと強調するトランプ政権への不信感も根強く、これら“西側諸国”がアメリカ・トランプ政権を対象にした諜報活動を行い、“諜報で得た情報はNATO加盟国で共有され、知らないのはアメリカだけという前代未聞の事態になっている”といった事態にもなっているそうです。

****トランプとロシアの接近に危機感、西側同盟国がアメリカをスパイし始めた****
<トランプはロシアの影響下にあってNATOの結束に揺さぶりをかけてくるのではないか。ウクライナ侵攻に対する経済制裁を解除して、バルト3国侵攻をも許してしまうのではないか。諜報で得た情報はNATO加盟国で共有され、知らないのはアメリカだけという前代未聞の事態になっている>

ドナルド・トランプ米大統領の就任式以前に、トランプの顧問たちとロシア政府関係者が交わした一連のやりとりを、西ヨーロッパの少なくとも1カ国のアメリカの同盟国が傍受していたことが分かった。これは本誌が直接的に事情を知る筋から得た情報で、傍受は対米諜報活動の一環として過去7カ月間にわたって行われていた。(中略)

同盟国の情報機関は電話の盗聴だけでなく、メールも盗み見、トランプの外国のビジネスパートナーに近い筋からも情報を収集していた。それにより、少なくとも一部のビジネスパートナーは、その国の政府の指示を受けている疑いが浮上した。同盟国は、ロシアがNATOの結束に揺さぶりをかけようと、トランプ陣営に接近していることに危機感を抱き、諜報活動を始めたという。

さらに、バルト3国のうちの1カ国も、トランプ政権高官とトランプが大統領になる直前まで経営していたトランプ・オーガニゼーションの幹部に関する情報を収集していた。(中略)

揺らぐアメリカへの信頼感
(中略)こうした動きが示すのは、長期にわたって築かれてきたアメリカと同盟国の信頼関係が大きく揺らいでいるということだ。今やアメリカの最も重要な同盟国の一部が、アメリカの外交政策の方向性に不安を抱いている。

アメリカは前代未聞の窮地に陥っている。トランプ政権のスタッフの動静について、米議会よりもヨーロッパの国々のほうが多くの情報をつかんでいるのだ。(後略)【2月16日 Newsweek】
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似たような話は、アメリカ国内における“米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は15日、米情報機関が入手した機密情報について、一部をトランプ大統領に伝えずにいると報じた。”【2月16日 時事】というアメリカ情報機関の“トランプ不信”にも見られます。

トランプ大統領にすれば、ロシアとの緊張緩和が進めば、ロシアのバルト3国への脅威も薄らぐ・・・というところでしょうが。

ベラルーシ・ルカシェンコ大統領 ロシアに距離を置く姿勢 ロシアには苛立ちも
バルト3国がロシアを警戒するのは当然ですが、親ロシア的と見られているロシア側周辺国にあっても、ロシアへの警戒感が強いようです。

具体的にはベラルーシ(バルト3国・ポーランド・ウクライナそしてロシアに囲まれる内陸国で、ソ連時代は“白ロシア”)の話です。

“軍事的にはロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約(CSTO)に加盟しており、相互防衛義務を負う。しかも、ロシアとベラルーシは1999年に連合国家協定を結んでいるので、連邦未満ではあるが単なる同盟国以上という関係にある。”【2月17日 WEDGE Infinity】

ベラルーシに関するニュース記事はあまり多くはなく、私などは目にするのは1年に1回程度です。
ここ2年ほどの記事には下記のようなものがあります。

「“欧州最後の独裁者”ルカシェンコ・ベラルーシ大統領、5選確実 露を警戒・・・・政治犯釈放でEUすり寄り」【2015年10月11日 産経】
「<EU>ベラルーシ大統領の制裁解除 ウクライナ和平に貢献」【2016年2月13日 毎日】

記事タイトルからもわかるように、“欧州最後の独裁者”として評判が悪かったベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、最近は“EUすり寄り”とも評されるような動きもあります。

その背景には、ロシアとの関係がうまくいっていないことがあるようです。
従来から、ルカシェンコ大統領はロシアとEUを天秤にかけたような対応が目につきましたが、次第にロシアから“どっちをとるんだ”と迫られるような状況にもあるようです。下記はロシア側メディアによる記事です。

****ベラルーシとの関係3つのシナリオ****
ロシアとベラルーシの関係が悪化している。両国はこれまでにも、牛乳、砂糖、石油をめぐり、またその他経済貿易面で、たびたび対立してきた。だが互いに受け入れ可能な妥協をして、問題を解決してきた。
 
今回もベラルーシとロシアは従来の流れに乗っているかのように見える。ベラルーシがガス料金を滞納し、ロシアはベラルーシへの石油の輸出を減らした。
 
ところがルカシェンコ大統領側から発せられた石油ガス問題へのクレームは、予想外に長く尾を引いている。クレームの一部はもはや同盟国らしからぬ行動に発展している。

両国の関係が今後どのような方向に向かうかはわからないが、今回は新しい条件が加わった。それはルカシェンコ大統領がロシアと西側の間で巧妙に立ち回ることを、クレムリン(大統領府)が苦々しい思いで見ているのだ。

シナリオ1「いつものように仲直り」
対立は深刻だが、「仲直り」するシナリオが、これまでと同様、最もあり得る。ベラルーシが絶対的な受益者でいることを望む問題はたくさんあり、20年以上同じ構図で動いている。(中略)

このシナリオには確固たる根拠がある。例えば、ベラルーシ経済を事実上助成しているロシアからの石油輸出。ベラルーシは石油製品を西側に売り、ロシア産石油の安さがその輸出歳入になっている。これに加えて、ベラルーシの経済はロシア市場に密に結びついている。ベラルーシの2015年の貿易高でロシアの占める割合は48.3%。
 
ルカシェンコ大統領は従来通りにしようとするだろうと、CIS諸国研究所ユーラシア連携・SCO発展部のウラジーミル・エフセエフ部長は考える。

「ロシアはこのような対立でいつも譲ってきた。ルカシェンコ大統領はそれに慣れている。状況が変化していることにルカシェンコ大統領はあまり気づいていない。“無料の朝食の時代”は終わった」とエフセエフ部長は話し、ルカシェンコ大統領が西側とベタベタするのは明らかに一線を越えていると指摘した。ベラルーシは例えば、ロシアの空軍基地を置くことに合意していたが、突然覆したりしている。

ロシアにもあまり選択の余地はない。「石油キス交換プログラム」のモデルはもはや実現不可能で、ベラルーシ向けのガス価格も値上がりする可能性が高い。「だがルカシェンコ政権はこれらの助成金なしで存続できないことを、クレムリンはよく理解している。第二のウクライナにならないように、食べさせていくしかない」とコルグニュク課長。

シナリオ2「ベラルーシが西側を選ぶ」
ルカシェンコ大統領が「後戻り」せずに西側への道を進むことを選択する。つまりロシアとの対立路線が続く。
 
西側のベラルーシに対する立場は最近、かなり軟化したと、ロシア国際問題会議のアンドレイ・コルトゥノフ事務局長はロシアNOWに話す。ルカシェンコ大統領は一時的に「ヨーロッパ最後の独裁者」と認識されなくなり、ヨーロッパのエスタブリッシュメント(支配階級)に仲裁者とみなされている。
 
資源が限られ、地政学的紛争に疲れているベラルーシにヨーロッパが提案できることは、政治的支援である。
「ただ、ベラルーシはヨーロッパではなく、受けることのできない低金利の融資と安い石油を必要としている」とエフセエフ部長。
 
このシナリオの結末はベラルーシにとってみじめなものになると、専門家は考える。これはルカシェンコ大統領の政治的自殺行為となる。ヨーロッパの支援は長くは続かず、ベラルーシはロシアの助けもないボロボロの状態になる。

シナリオ3「政権交代とロシアとの新たな関係」
これは最も可能性の低いシナリオである。ベラルーシが最初にEU(欧州連合)統合を試みるものの、許容可能な条件を見つけることができない場合にのみ起こる。そうなれば政権は困難な状況に置かれるようになり、交代せざるを得なくなる。ロシアの条件を受け入れる者が新しい政権に就く。
 
力ずくの政権転覆は今のところ実現不可能としか思えない。「マイダン(ウクライナの革命広場とその運動)は外部からの介入がなければ発生しない。アメリカが介入したら、露米関係は改善しなくなる。EUもウクライナの後でそれを必要としていない」とエフセエフ部長。

ベラルーシ国民も武器を手にしないという。理由は単純で、武器は誰かからもらう必要があるからだ。ベラルーシの政治的”小草原”は踏み荒らされておらず、野党もいない。ルカシェンコ氏に替わる人はいない。ルカシェンコ大統領か、または無人か、である。【2月16日 ロシアNOW】
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ロシアからすれば、ベラルーシには“無料の朝食の時代”は終わったことを認識してもらわないと困る、ただ「第二のウクライナにならないように、食べさせていくしかない」

もっとも、「マイダン(ウクライナの革命広場とその運動)は外部からの介入がなければ発生しない」が、アメリカ・EUはそれを望んでいない。

いずれにしても、“ルカシェンコ氏に替わる人はいない。ルカシェンコ大統領か、または無人か、である”・・・・といった内容です。

中国が北朝鮮に感じる苛立ちと似たような感情をロシアもベラルーシに対してもっているように見えます。

ロシア側には“どうせロシアに頼る以外に道はないのだから・・・”という思いがあるようですが、ベラルーシからすれば、ロシアのEUの対立のとばっちりで制裁対象にされたり、最悪の場合、衝突の最前線にされたりするのは御免だ・・・という思いも。また、最近は“中国”という新たな要素も加わってきました。

****ベラルーシとロシアの関係に黄信号、背後に中国の影****
(中略)
漂流する「連合国家」
ところが、その実態は極めて不安定なものだ。ことに近年では、その傾向が強まっている。
 
たとえば昨年末、ロシア主導の経済同盟であるユーラシア経済連合の首脳会合にベラルーシのルカシェンコ大統領は出席せず、予定されていた共通関税法典への署名も行われなかった。

ロシアはベラルーシの対露債務5億5000万ドルが返済されていないことを理由にベラルーシに対する原油供給を削減することを決定しているほか(ロシアから供給される安価な原油を精製して輸出することで外貨収入を得ている)、ベラルーシが欧米との関係改善を図ろうとしていることに懸念を示しており、こうした政治・経済的摩擦がその直接的なきっかけと見られる。
 
今年2月には、ロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB。国境警備隊を傘下に置いている)がロシアとベラルーシの国境に検問所を設置したことが新たな摩擦の種になった。

それまでロシアとベラルーシの国境ではパスポートコントロールは実施されておらず、EU内のように自由に往来することが可能であった。(中略)ロシアが導入した検問所はパスポートコントロールではなく、ロシアにビザなしで入国できない国民だけを選別するものであるようだ。

しかし、ベラルーシ外務省は検問所の設置に関してロシア側から事前の通告がなかったとしており、ルカシェンコ大統領もこれを「政治的攻撃」と呼んでロシア側を厳しく非難している。

ウクライナ危機で先鋭化
こうした摩擦はこれまでにも幾度となく繰り返されてきたものだが、ウクライナ危機以降には、より深刻な政治・安全保障上の問題にまで発展するのではないかという見方も出始めている。

その理由は主として3つある。
第1に、ウクライナ危機によってロシアと西側諸国の関係が悪化した結果、ベラルーシもこれに巻き込まれる恐れが出てきた。特にベラルーシとして避けたいのは、米国やEUの対露制裁にベラルーシが巻き込まれることであろう。
 
このため、ベラルーシはロシアによるクリミア併合について態度を明らかにしておらず、ドンバス地方での紛争についてもロシアに味方するのではなく停戦交渉の「仲介役」として振舞っている。(中略)
 
第2に、軍事的緊張がさらに高まった場合には、ベラルーシはロシアの前線国家にされかねない。(中略)これはベラルーシとしてはさらにありがたくないシナリオであろう。

このため、ベラルーシはレーダーや通信基地といったごく少数の例外を除き、ロシア軍の駐留を認めてこなかった。これに対してロシアはベラルーシにロシア空軍基地を設置させるよう圧力を掛けており、長らく両国の懸案となっていたが、2月に記者会見に臨んだルカシェンコ大統領は基地設置を拒否する考えを表明している。(中略)

第3に、ロシアの言うことを聞かない旧ソ連の「友好国」にロシアが軍事介入を行うというウクライナ危機の構図は、ベラルーシでも繰り返されかねない。

(中略)ルカシェンコ大統領は「ロシアはベラルーシが離れて行ってしまい、ルカシェンコが西側に寝返ることを恐れているのだ」と述べているが、ロシアのウクライナ介入はまさにウクライナがこのような状況に陥りかねないとの懸念を背景としていた。

ロシアの介入はあり得るか?
最後のシナリオは、ウクライナ危機直後からすでに囁かれていた。 
勢力圏としての旧ソ連諸国をロシアが力づくで守ろうとするのであれば、ベラルーシがその例外となる根拠はない、という考え方がその背後にはある。

もしもベラルーシで政変が発生し、ウクライナのように親西側的な政権が成立した場合には、ロシアがウクライナに対して行ったようなハイブリッド戦争型の介入を仕掛けてくる可能性はたしかに排除できない。(中略)
 
とはいえ、ベラルーシ軍の常備兵力は実質でわずか4万5000人ほどにすぎず、ロシア軍の本格的な介入を受けた場合にはひとたまりもない。経済的に見てもベラルーシのロシアに対する依存度は大きく、ロシアとの極度の関係悪化は避けざるをえない。

昨今のロシアとの対立にも、ベラルーシはどこかで落とし所を見つけようとするだろう。
加えて、ベラルーシは依然としてロシアとの軍事同盟関係を維持しており、今秋にはロシア軍の定期大演習「ザーパト(西方)」に合わせてベラルーシでの大規模合同演習も予定されている。

中国ファクター
したがって、ベラルーシとしては当面、ロシアという巨大な隣人との関係は継続せざるをえない。
 
だが、中長期的にはまた別だ。一帯一路構想を掲げる中国というファクターを考慮せざるを得ないためである。
すでに中国はベラルーシの首都ミンスク郊外に大規模な産業団地を建設するためのプロジェクトを立ち上げているほか、

これまでは軍事面でロシアの大きなレバレッジであった武器供給にも中国は一部で進出し始めている(ベラルーシの新型多連装ロケット・システムであるポロネズは中国製ロケット発射システムを採用した)。
 
これまでロシア以外に後ろ盾を持たなかったベラルーシが、その一部を中国に求められるようになれば構図が変化しかねない。中国のベラルーシに対する関与はまだ限定的なものに過ぎないが、今後のロシア・ベラルーシ関係を考える上で無視できないファクターになりつつあると言えよう。【2月17日 WEDGE Infinity】
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金正男氏を見捨てた中国? スノーデン氏はロシアからトランプ氏への「贈り物」? 国家の都合に翻弄される個人

2017-02-16 23:19:48 | 中国

(実行犯とみられる“LOLの女”の映像を伝える韓国のテレビ 【2月16日 時事】 “中国のインターネット競売サイトには一時、女が着用したものに似たLOLの文字が入ったシャツが出品された。何者かが事件後に模倣して製作したとみられるが、「北朝鮮の女スパイ着用と同じTシャツ」と銘打ち、6324元(約10万5000円)の値が付けられた”とも。)

よくわからない話いろいろ “いたずら”? VX? 亡命政府?】
マレーシア・クアラルンプールの空港ターミナルで金(キム)正男(ジョンナム)氏が殺害された事件については、小説か映画のような事件ということで、殺害の背景、殺害方法を含め、山のような報道がなされています。弾道ミサイル問題など吹き飛んだ感も。

ただ、現段階ではわからないことが殆どで、北朝鮮の権力中枢にかかわる問題ですから、おそらく今後もはっきりしない、推測するしかないことが多いかと思われます。

殺害の状況については、“報道によると、正男氏が予約便に搭乗する約1時間前の13日午前9時ごろ、空港のターミナルにいた正男氏に女2人が突然、接近。1人が顔に毒物とみられるスプレーを吹きかけた。直後にもう1人がハンカチのような布を取り出して正男氏の口に押しつけるようにして覆い、約10秒後、毒物が完全に気道に入ったのを確認する動きを見せて逃亡したという。”【2月15日 産経】とも言われています。

ただ、私も何回かクアラルンプールの空港は乗り降りしたことがありますが、あんなところでそんな大胆な方法で・・・と思ってしまいます。周囲には乗客はいなかったのでしょうか?

そもそも、暗殺の危険を感じている正男氏が警護もなしで出歩くのだろうか・・・とも思いますが、それについては“マレーシア紙「東方日報」(電子版)は、警察幹部の話として、正男氏はマレーシアとシンガポールで、多くの事業に投資をしていたと報じた。クアラルンプールでは高級アパートに住み、ここ2年ほどはマカオも含めた3か所を警護なしで行き来していた。”【2月16日 読売】とのことです。

アパートよりは、人目が多く警戒が緩む空港の方が殺害しやすかったのでしょうか。

もっとも警護に関しては、“正男氏はマレーシアを訪問する際にいつもボディーガードを同行させていたと現地のレストラン経営者が証言した。(中略)「彼は暗殺の危険を感じており、ボディーガードを連れていた。彼は防犯カメラに映らないようにする装置も持っていた。金正男が去った後にカメラを確認すると、何も映っていなかった」と話した。”【2月16日 聯合ニュース】という話もありますが、“防犯カメラに映らないようにする装置”・・・・なんじゃそりゃ?

犯人については、女性2人以外に男性4人がいるとされており、“15日に逮捕された20代の女はベトナムの旅券を持っており、調べに対し、もう1人の女と共にマレーシア旅行に来ていたと供述。同行していた別の4人の男に空港で「乗客にいたずらを仕掛けよう」と言われ、正男氏に毒物を吹きかけ、ハンカチで口をふさぐよう指示されたという。「殺人とは知らなかった」と主張している。”【2月16日 時事】とも。

「????」といった話です。

“朝鮮日報も専門家の話として、北朝鮮軍の対外工作機関・偵察総局傘下で、20歳代半ばまでの若い女性で組織された暗殺工作部隊「ボタンの花小隊」が投入された可能性が高いと報じた。”【2月16日 読売】といった報道もありますが、わかりません。それにしても「ボタンの花小隊」というネーミングも・・・。

女性二人は逮捕されたようですが、暗殺工作部隊「ボタンの花小隊」なら逮捕されるより自害を選ぶのでは?
そうすると、やはり“いたずら”でしょうか???

殺害に使用された毒物については、“1滴でも皮膚に触れて体内に吸収されると、呼吸が困難になったり、意識がなくなったり、けいれんが起きたりして、最終的には血圧が低下し、死に至る場合もある”【2月16日 NHK】というVX(オウム真理教の事件でも登場した神経性毒ガスです)が使われた可能性も・・・と報じられていますが、このあたりは検死である程度わかるのではないでしょうか。

VXとなると、“いたずら”で扱うには、扱う人間も非常に危険です。
とにかく現段階ではわからないことばかりです。

殺害の背景もよくわかりません。
もちろん、金正恩氏が正男氏のことを“自らの地位を危うくする危険がある人物”として警戒しており、“金正恩(キムジョンウン)氏は異母兄の正男氏について「嫌いだ。やってしまえ」と周囲に語っていた”【2月16日 朝日】というのはわかりますが、政治的な影響力を失っている正男氏を今敢えて殺害する必要性は?という疑問は残ります。

保護者だった叔父の 張成沢氏も粛清されて(本人だけでなく“党の幹部約415人、傘下機関の幹部約300人、人民保安省幹部約200人が公開銃殺された”【2月10日 聯合ニュース】という話もあります)、北朝鮮内での影響力は皆無ですが、中国が場合によっては正男氏を担いで政権交代を狙うかも・・・話はあります。

ありますが、その可能性は相当に小さいものとも思われていました。

他にも、帰国命令に従わなかったからとか、韓国に亡命されたら困るからとか、いろいろ取り沙汰されていますがわかりません。

脱北者による亡命政府の計画があったという情報もあるようですが・・・

****北朝鮮亡命政府」に担ぎ出されて暗殺された金正男*****
・・・・ある脱北者団体のリーダーは昨年夏、2017年上半期までに米国ワシントンに「北朝鮮亡命政府」を樹立する構想を披露した。金正恩体制に反発して脱北したエリートを中心とする亡命政府を作り、政治的には自由民主主義体制を、経済的には中国式の改革・開放政策を目指す国家を樹立するという内容だ。
 
そして公にはされていないが、「北朝鮮亡命政府」の首班に金正男氏を推戴することも計画されていたという。金正男氏自身は政治に関心がなく、投資顧問として悠々自適な生活を送っており、過去には「世襲」反対を明言している。正男氏が自由な生活と身の安全を犠牲にしてまで、亡命政府首班への推戴を受け入れたとは考えづらい。(後略)【2月16日 WEDGE】
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“面白い”説としては、正男氏の方が脅迫していた・・・というものも。

****中国と関係「邪魔」?「亡命する」脅迫していた可能性も 金正男氏殺害なぜ****
・・・・北朝鮮情勢に詳しい世宗研究所の鄭成長(チョンソンジャン)・統一戦略研究室長によると、正男氏は派手な生活を好み、北朝鮮にたびたび高額な生活費を要求。

経済制裁で疲弊する北朝鮮に対し「資金を送らなければ亡命する」と脅迫していた可能性もあり、激怒した金委員長が暗殺を決断したと推測する。(後略)【2月16日 西日本】
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中国:正男氏に消えてもらうと中朝関係改善に好都合?】
すでに政治的影響力を失っていた人物ですから、殺害の北朝鮮に対する影響は殆どないでしょう。
むしろ、韓国内での警戒が改めて高まるという意味で、韓国への影響があるかも。

****<金正男氏殺害>南北対話に冷や水 韓国に広がる衝撃****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害されたことで、韓国内でも衝撃が広がっている。南北関係は北朝鮮の核・ミサイル開発ですでに悪化しているが、将来的な改善の可能性も低くなったとの声が出ている。
 
南北関係は冷え切っていたものの、年内に予定される次期大統領選では最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏など南北対話に意欲を示す候補が有力視され、将来的な対話については前向きなムードも出ていた。

しかし、12日の新型ミサイル発射の直後に今回の事件が起きたことで、韓国国民の北朝鮮に対する警戒感は極めて強くなっている。(後略)【2月15日 毎日】
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そして、これまで保持していた“外交カード”を失った中国がどのように反応するのかが関心のもたれるところです。

****正男氏暗殺を防げなかった中国 外交カード失い痛手か****
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄にあたる金正男(キムジョンナム)氏は、5年前に中国・北京で暗殺未遂事件にあっていたが、それでも国際空港という公衆の面前での暗殺を防げなかった。
正男氏を事実上保護してきた中国には「外交カードを失った」との見方もある。

中国政府関係者によると、正恩氏が権力を掌握した2012年、北京に滞在していた正男氏を襲撃する暗殺未遂事件があったが、中国の警察が阻止したことがあったという。
 
正男氏と家族は北京やマカオに滞在し、中国当局はそれを受け入れてきた。「金正恩氏に万一のことがあれば、血縁を重んじる北朝鮮では後継者になる可能性も残っており、彼を保護することは北朝鮮への牽制(けんせい)にもなっていた」。外交担当の中国紙記者はそう分析する。それだけに、13日のマレーシアでの殺害は「中国は経済支援と並ぶ数少ない外交カードを失った。大きな損失だ」と語る。
 
一方で、最近は中国本土での滞在情報もほとんど聞かれなくなっていた。復旦大学朝鮮韓国研究センターの石源華教授は「事実関係がはっきりしない」と前置きした上で、「中国が本気で保護しようと考えていたなら、こんなことが起きるはずがない」と指摘。「正男氏は最近、中国とも距離を置いていた。朝鮮半島情勢への影響は極めて限定的で、中朝関係への影響などない」と言い切った。
 
今回の殺害事件について、中国政府は「注意深く事態の進展を見守っている」(15日の外務省会見)と述べるにとどめている。【2月16日 朝日】
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「外交カードを失った」にしては、中国の対応が随分静かです。

****中国 北朝鮮大使館で祝賀行事****
中国・北京の北朝鮮大使館では、15日夜、中国側の関係者を招いてキム・ジョンイル総書記の生誕75年を記念する祝賀行事が予定どおり開催されました。

祝賀行事には、中国共産党で、長年北朝鮮との関係を担ってきた王家瑞政治協商会議副主席らが出席しました。

北朝鮮大使館では、今月7日にも新年を祝う宴会が開かれ、王副主席らが中朝両国の友好を確認したばかりです。

北朝鮮が新型の中距離弾道ミサイルを発射したのに続いて、中国当局の保護下にあったとされるキム・ジョンナム氏がマレーシアで殺害されたと見られるなかでも、ひとまず交流を維持しようとする両国の姿勢がうかがえます。【2月16日 NHK】
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「正男氏は最近、中国とも距離を置いていた。・・・・中朝関係への影響などない」と言うか、もし中国が最近何かとギスギスしている北朝鮮との関係を修復したいと考えているなら、中国にとって正男氏はもはや“邪魔者”“厄介者”になります。いなくなってくれた方が、北朝鮮との関係を修復しやすい・・・という話にもなります。

****中国は金正男氏を見捨てた? 護衛チーム姿なく****
弟の金正恩氏との後継者争いに敗れた金正男氏が、中国の庇護下に入ったのは2000年ごろだ。中国当局から守られながら、北京、マカオと東南アジアを行き来する生活を送っていた。3カ所にはそれぞれ女性と子供がおり、中国政府の息がかかった企業から生活費の一部も提供されていたといわれる。
 
中国にとって、正男氏は対北朝鮮外交の重要な切り札だった。父親の金正日氏が健在だった時代には“人質”的な側面があり、正恩氏の時代になってからは朝鮮半島での有事や中朝対立に備えるため、「いつでも首をすげ替えられるトップ候補」といった存在となった。

しかし、正男氏を庇護していることは正恩氏の対中不信を募らせ、中朝関係悪化の一因ともなった。
 
正男氏は中国国内で行動するときは比較的自由だが、シンガポールやマレーシアなど東南アジアで移動する際には、中国は護衛チームを送り、万全の態勢を敷いてきたといわれる。韓国の情報機関、国家情報院も「正男氏と家族の身辺は中国が保護している」との認識を示してきた。
 
しかし、中国当局の護衛チームは今回、なぜ機能しなかったのか。
 
マレーシアメディアが掲載した殺害当時の空港内の写真には、警護要員らしき人物は見当たらなかった。中国当局にとって正男氏を守る意味が小さくなり、警備が手薄になったのか。暗殺情報を知りながら、中国が北朝鮮との関係修復のため正男氏を見捨てた可能性さえ否定できない。
 
北京で取材した中国の北朝鮮問題専門家に「金正恩氏の訪中実現には2つの障害物を取り除かなければならない」といわれたことがある。一つは北朝鮮が核実験をしばらく実施しないこと、もう一つは正男氏に消えてもらうことだった。
 
米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国への配備決定で、昨年から中韓関係が悪化し、中国共産党内で北朝鮮との関係修復を求める声が高まっている。

このタイミングで起きた正男氏暗殺は偶然なのか。年内に正恩氏の訪中が実現するか注目したい。【2月16日 産経 外信部編集委員 矢板明夫氏】
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警護については、先に触れたように“こ2年ほどはマカオも含めた3か所を警護なしで行き来していた。”という指摘もありますが、“暗殺情報を知りながら、中国が北朝鮮との関係修復のため正男氏を見捨てた可能性さえ否定できない”という話については、中国の“冷静な対応”からすると「それもあるかも・・・」と思えます。

中国が今でも「外交カード」と考えているなら、その人物を殺害するのは、たださえ微妙な中朝関係を険悪なものにしかねない北朝鮮にとって非常にリスクの大きい試みになります。中国の了解なしに殺害するだろうか?という疑問も。

スノーデン氏は「贈り物」にされるのか?】
最近、ロシアとアメリカの間で似たような話を聞いたばかりなので、そんなことも邪推してしまいます。

****スノーデン容疑者引き渡し検討か=ロシアがトランプ氏に「贈り物」―米報道*****
米国家安全保障局(NSA)の機密情報を暴露した元中央情報局(CIA)職員、エドワード・スノーデン容疑者について、米NBCテレビは10日、亡命先のロシア当局が米国への身柄引き渡しを検討しているもようだと報じた。ロシアとの関係改善を掲げるトランプ米大統領への「贈り物」という。
 
ロシア当局内の討議状況を詳述した機密情報報告を分析した米高官はNBCに対し、引き渡しは「トランプ氏の歓心を買うためのさまざまな計略の一つ」だとの見方を示した。別の情報関係者は、ロシア側の内部議論に関する情報は、トランプ氏の大統領就任後に集められたと語った。
 
トランプ氏は就任前の昨年7月、スノーデン容疑者について「完全な裏切り者で、(引き渡されれば)情け無用で対応する」と主張していた。米連邦法上、同容疑者は有罪なら最低30年の禁錮刑に処せられる。【2月11日 時事】
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元CIA職員スノーデン氏が暴露したアメリカによるインターネット傍受等は2013年に世界を揺るがせました。
アメリカ司法当局により逮捕命令が出されていますが、ロシア移民局から期限付きの滞在許可証が発給されロシアに滞在中です。

ロシアのとっては、スノーデン氏の存在はアメリカに対する“面当て”にもなりますし、もし彼がアメリカに不都合な情報を公表されている以上に持っているとすれば、アメリカに対する牽制カードにもなります。

しかし、ロシアとの関係改善に前のめりのトランプ大統領の登場で事情は変わりました。(米ロ関係はフリン安全保障補佐官辞任で今揺れているところではありますが)

アメリカとの関係を改善するためには、ロシアにとってスノーデン氏の存在は“外交カード”というより“邪魔者”になります。そこで“贈り物”という訳ですが、それもあまりにご都合主義というか、無慈悲な話にようにも思えます。(もちろん、ロシアがスノーデン氏を呼び寄せた訳でもありませんが)

ロシア側も“贈り物”に関しては一応否定しています。

****スノーデン容疑者の弁護士、米への引き渡し検討報道を否定****
米政府による大規模な情報収集活動を暴露した米国家安全保障局(NSA)元職員のエドワード・スノーデン容疑者のロシアにおける弁護士が11日、ロシア政府がスノーデン容疑者をドナルド・トランプ米大統領への「贈り物」として引き渡すことを検討しているとの米報道を否定した。
 
スノーデン容疑者がロシアに入った2013年から同容疑者の代理人を務めてきた弁護士のアナトリー・クチェレナ氏はロシアのインタファクス通信に対し「ロシアにはスノーデンを引き渡す法的根拠がない」と語った。
 
クチェレナ氏は「この話はすべてよくある臆測にすぎない。誰かが希望的観測にふけっているのだ」と述べ、スノーデン容疑者は「ロシアで完全に合法的に生活している」と断言した。ロシアの入国管理局は今年1月、スノーデン容疑者の在留許可を2020年まで延長している。
 
米NBCテレビは10日、機密情報報告書にアクセスできる米高官の証言を引用し、ロシアがトランプ大統領の「歓心を買う」ための策略を検討していると報じた。スノーデン容疑者の米国における弁護士ベン・ワイズナー氏はNBCに対し、そのような計画は知らないと述べた。
 
スノーデン容疑者は10日、ツイッターにNBCの報道は「私がロシアの情報機関と手を組んだことがないという抗論できない証拠だ」「スパイを売り払う国はない。残りのスパイが次は自分の番だと恐れるようになるから」と投稿した。
 
マイケル・モレル元米中央情報局(CIA)副長官は今年1月、寄稿した記事の中でロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトランプ政権の発足に合わせてスノーデン容疑者を米国に引き渡すかもしれないという見方を示した。

これに対しロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「保護を求めている人の引き渡し提案」として非難していた。【2月12日 AFP】
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ロシアとしてもさすがに“贈り物”は格好がつかないので、CIAがモスクワ空港で暗殺してくれたら好都合・・・・なのかも。もちろんまったくの個人的邪推です。

中国・北朝鮮・ロシアだろうが、アメリカ・日本だろうが、国家の利益の前では、個人の命は非常に“軽いもの”にもなります。
スノーデン氏がロシアからアメリカへの“贈り物”になるのなら、金正男氏が中国の暗黙の了解のもとで・・・という話もあるのかも・・・と思った次第です。
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イエメン  トランプ大統領の初軍事作戦  終わらぬ内戦で危機に瀕する住民生活と子供の命

2017-02-15 23:15:35 | 中東情勢

(【2月12日 NHK】)

民間人死者1万人に
中東最貧国イエメンでは「反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派」と「ハディ暫定大統領派及び軍事支援するサウジアラビア」との内戦が続いています。

フーシ派は宗教的にはシーア派の一派ということで、イランが後押ししていると言われ、スンニ派地域大国であるサウジアラビア対シーア派盟主イランの代理戦争とも見られています。

イエメン情勢を前回とりあげたのは、2016年10月8日ブログ“イエメン 内戦で中東最貧国の住民生活は崩壊 子供たちに栄養失調や死の負担”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161008でしょうか。

戦況を含め、基本的には当時と状況は変わっていません。
サウジアラビアが主導するアラブ連合軍の激しい空爆支援(誤爆を含め、民間人犠牲者が多いことで、国際的にも、イエメン国内でも批判があります)にもかかわらず、ハディ暫定大統領派は反政府勢力「フーシ派」を攻めあぐねています。

****イエメン内戦、民間人死者1万人に 停戦へ国連特使が大統領と協議****
国連は(1月)16日、内戦が続くイエメンについて、サウジアラビア主導の連合軍が軍事介入した2015年3月以降の民間人死者が1万人に達したと発表した。
 
前回発表した昨年10月末時点での7000人余りからさらに膨らんだ。国連の広報官は「人道上の莫大な犠牲が出ている」と述べ、状況の解決をこれ以上遅らせてはならないと訴えた。

国連のイスマイール・ウルド・シェイク・アフメドイエメン担当特使は同日、イエメン南部アデンで同国のアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領と会談。2年近くに及ぶ内戦の終結に向けて、停戦への復帰や政治対話について中心的に話し合った。
 
イエメンでは、イランを後ろ盾とする反政府勢力が首都サヌアを掌握して全土に進攻してから数か月後の2015年3月以来、サウジ主導の連合軍の支援を受ける政府側と戦闘が続いている。【1月17日 AFP】
********************

トランプ政権初の軍事作戦の結果は・・・
資源もない中東最貧国の内戦ということで、国際社会の無関心という点でも変わっていません・・・ということについては、ひとつ修正が必要になりました。
アメリカがトランプ政権に交代して、初の軍事力行使の場として、このイエメンを選んだからです。相手は内戦の両者ではなく、政治空白をついて拡大するアルカイダ系テロ組織です。

****イエメンで米兵4人死傷、トランプ政権初の軍事作戦で****
米軍は29日、イエメンを拠点とするイスラム過激派組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」を標的とした空爆をイエメン南部で実施し、米兵1人が死亡、3人が負傷したと明らかにした。トランプ米大統領が承認した軍事作戦が行われたのは今回が初めて。

米軍によると、この空爆作戦によりアルカイダの戦闘員14人が死亡した。一方、現場の医療関係者らは、女性や子供10人を含む約30人の市民が死亡したと述べた。

米国防総省によると、負傷者を避難させるために派遣された米軍機が砲撃に遭い、さらに2人の米兵が負傷したという。

トランプ大統領は、作戦は成功したとした上で、作戦中に収集された情報は米国のテロとの闘いにおいて役立つとの見方を示した。

国防総省は市民の犠牲については言及しなかったが、米軍当局者は、匿名を条件に、その可能性は除外できないと語った。【1月30日 ロイター】
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“トランプ大統領は、作戦は成功した”と言っていますが、民間人も多数巻き添えになり、米兵も1名死亡し、85億円のオスプレイも失い、AQAPの最高指導者、カシム・リミ容疑者の拘束または殺害が目的だったようですが、リミ容疑者は逃走し、“成果”として誇示した入手映像は10年ほど前にネット上で拡散していたものだった・・・・と、散々な失敗だったと言ったほうがよさそうです。

****米国防総省、イエメンで入手の過激派映像を公開停止 過去にネットで拡散と判明****
米軍が先月イエメンで行った軍事作戦への批判が高まる中、作戦の意義を強調するため米国防総省が3日公開した映像が過去にインターネットで拡散していたものだったことが分かり、映像はすぐに取り下げられた。
 
米軍の特殊部隊がコンピューターから入手した映像には覆面をした過激派の戦闘員がホワイトボードの前で爆発物の作り方などについて講義を行う様子が捉えられていた。だがこの映像は10年ほど前のもので、以前にネットで拡散していたことが分かった。(中略)
 
ドナルド・トランプ大統領が初めて承認し、米特殊部隊が1月29日にイエメンで実施した作戦をめぐりホワイトハウスと国防総省は数多くの問題を指摘され批判の矢面に立っている。
 
アルカイダ系武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点を標的としたこの作戦では、激しい銃撃戦で米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ、Navy SEALs)の隊員1人が死亡し、女性を含む米兵3人が負傷した。
 
さらに機体価格7500万ドル(約85億円)の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが「ハードランディング(硬着陸)」し、乗っていた米兵3人が負傷した。機体は敵に奪われないようその場で破壊されたという。
 
イエメン当局は、この作戦で民間人の女性8人と子ども8人が死亡したと発表している。【2月4日 AFP】
********************

共和党重鎮マケイン上院議員も「7500万ドルの飛行機を失い、アメリカ人の命まで失っておいて成功などとは
言えない」と厳しく批判していますが、トランプ大統領のalternative factsは変わらないようです。

****トランプ、初軍事作戦の誤算****
トランプ米大統領が就任後に初めて承認した軍事作戦は、大失敗たったようだ。(中略)
 
ロンドンを拠点に活動する非営利団体「調査報道協会(BIJ)」によると、民間人の犠牲者の中には13歳未満の子供も9人いた。最年少は生後3ヵ月の赤ちゃんだった。
一方、米軍はこの作戦で7500万ドルの垂直離着陸機オスプレイを1機失い、兵士もI人死亡している。

トランプは、娘イバンカの夫であるジャレッド・クシュナー上級顧問らと夕食を取りながら作戦を命令したという。
 
トランプ政権は、イエメンでの作戦を「絶対的な成功」と自画自賛してきた。トランプ自身も先週、「ミッションは成功」だったとツイッターに書いた。
 
共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員は「7500万ドルの飛行機を失い、アメリカ人の命まで失っておいて成功などとは言えない」と厳しく批判した。
これに対してトランプは、「(批判は)敵を勇気づけるだけ」だと反論している。
 
(非営利団体「調査報道協会」)BIJによると、AQAP側はこの戦いで戦闘員14人を失ったと発表している。地元の住民たちによれば、戦闘員以外の死者は25人。その中には、9人の子供に加えて8人の女性も含まれていたという。1人は妊娠中だったとのことだ。
 
イエメンでは、アメリカヘの批判が高まっている。国民の反欧米感情はさらに強まるだろう。AQAPに戦闘員として加わる人が増える可能性もある。
 
米軍は、AQAPの最高指導者カシム・アル・ライミを仕留めることもできなかったようだ。ライミは先頃、「ホワイトハウスの新しい愚か者が横っ面をピシヤリとたたかれた」と、トランプを揶揄する音声メッセージを発表している。【2月21日号 Newsweek日本語版】
*******************

「(批判は)敵を勇気づけるだけ」とウソの“大本営発表”“alternative facts”を垂れ流し続けることは、国民と国家を誤った方向へ導きます。

イエメン政府からも強い批判が出ています。

****イエメンが米作戦許可取り消し=トランプ政権つまずく****
米軍が1月下旬にイエメンで実施したテロ組織掃討作戦に関し、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は7日、民間人の犠牲者が出たことにイエメン政府が怒り、米特殊部隊に出していた地上作戦の許可を取り消したと報じた。

同作戦はトランプ米大統領が初めて指示を下したものとされ、「イスラム過激派テロの撲滅」を掲げるトランプ氏は、安全保障分野でいきなりつまずいた格好だ。(中略)

イエメン政府内では、米側から十分な事前説明のないまま作戦が遂行されたことへの反発が広がっている。イエメンの駐米大使は中東メディアに、米国との協力で「イエメンの市民や主権を犠牲にすべきではない」と不満を表明した。【2月8日 時事】 
*******************

イエメン政府の抗議については、“今後とも、イエメン政府と十分調整し、共通の目的であるテロとの戦いを続けていく”という話に落ち着いたようですが、“トランプの性格にかんがみても、「イエメンなどという貧しい国」の事情を無視するか軽視して、作戦を行う危険性が大きく、今後ともこの種事件が生じる可能性が残っていると思う”【2月9日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘も。

トランプ大統領としては、関係国の利害が入り乱れ、国際的にも注目されているシリアやイラクではなく、叩いてもイラン以外の有力国からの批判も出ないイエメンで手っ取り早く“成果”を上げて、国内にアピールしようというところでしょうか。

なお、米軍はイエメン沖に駆逐艦も派遣しています。

****米駆逐艦、イエメン沖に****
ロイター通信などによると、米軍は3日までに、アデン湾と紅海の境に位置するイエメン沖のバブルマンデブ海峡付近に、駆逐艦「コール」を派遣した。艦船の護衛を含む哨戒任務に就くという。
 
イエメンでは内戦の混乱に乗じて、テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が勢力を拡大。米国は現地でAQAP掃討作戦を展開している。

コールは2000年10月、燃料補給のためイエメンのアデン港に停泊中、爆弾を積んだゴムボートが突っ込むテロ攻撃を受け、この時は米兵17人が殺害された。【2月4日 時事】 
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イエメン沖では昨年10月、「フーシ派」支配地域から米軍艦船へ2度にわたりミサイルが発射され、米軍は巡航ミサイル「トマホーク」でレーダー施設を報復攻撃、これに対しイランが艦船を派遣する・・・といった衝突・緊張もありましたので、その関係もあるのではないでしょうか。

イエメン政府軍の混乱も
アメリカのAQAP掃討作戦も上出来とは言い難いものでしたが、イエメン政府内も混乱しており、政府軍支配下の拠点都市アデンで政府軍同士が衝突し、この衝突にUAE軍のアパッチ攻撃ヘリも参加した・・・とのことです。

****アデンの衝突****
・・・・空港等重要施設の警備の任務を有している安全ベルト警備隊が10日、給料の遅配で空港への運航を阻止したことに始まり、hadi大統領の命令で大統領警備部隊が空港の警備にあたることになり、11日夕空港周辺に展開したところ、双方の間で衝突が生じたというものです。(中略)

これだけでも、政府軍、治安部隊の統率、規律がいかに取れていないことが、見て取れますが、(中略)上記両者の衝突にUAE軍のアパッチ攻撃ヘリも参加したと報じています。(後略)【2月13日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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フーシ派からなかなか首都を奪還できないのも、こうした政府軍の実情が影響しているようにも思えます。

FAO「イエメンは現在、世界最大の食糧危機に直面している」】
こうしたいつまでも続く内戦の最大の犠牲者は住民であり、特に、子供たちです。

****内戦で荒廃のイエメン、飢えて物乞いする子どもたち***
イエメン政府軍とイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」による内戦で父親を失ったムスタファ君(15)は、生き延びるために物乞いをするようになった。
 
フーシ派が掌握する首都サヌアの方々の交差点では毎日、大勢の子どもたちが自分ときょうだいが食べていくために物乞いをしている。

ムスタファ君はその一人にすぎない。2015年に激化した内戦で片親か両親を失った子どももいれば、内戦により給料が支払われなくなった公務員の親を助けようとしている子どももいる。
 
ムスタファ君は2年前、北部ハラドで父親を亡くした。その後、母親と3人の兄弟と共に首都に移った。「仕事を見つけようとしたけど、見つからなかった。食べられる物も見つからなくて、サヌアの通りで物乞いをしてきた」。

1日に得られる金額はわずか5ドル(約560円)だ。近くでは8歳のアベールちゃんが弟のアブドゥラフマン君を連れて、車から車へと金を無心して回っていた。
 
モスクや飲食店の前には、やせ細り、青白い顔をした子どもの物乞いたちが集まって施しを求めている。交差点では、ぼろ切れとせっけん水を詰めたペットボトルを手にした幼い少年たちが、車の窓ふきで生計を立てようと必死になっている。箱入りティッシュを売る母親のかたわらに座る子どもたちもいる。
 
イエメン内戦は2015年3月、政府側を支援するサウジアラビア主導の連合軍が軍事介入したことで激化。それ以来、多大な人的犠牲を出しており、国連によると子ども約1400人を含む7400人以上が死亡した。加えて300万人のイエメン人が内戦で住む場所を失い、数百万人が食糧支援を必要としている。

■食べ物がない
さらにサヌアでは給料が未払いとなっている人々がいる。昨年9月、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領が、首都サヌアにあった中央銀行を、暫定政府が拠点を置く南部の港湾都市アデンに移転すると決定したからだ。このため反政府武装勢力はサヌアに独自政権を樹立したものの、公務員に給料を払えていない。
 
現地の児童保護団体「Seyaj」のアフメド・クラシ代表は「特に首都の公務員への給料の支払いが滞って以降、子どもの物乞いの数が急増している」と語った。
 
国連のスティーブン・オブライアン緊急援助調整官(人道問題担当国連事務次長)は先月、即座に行動を起こさなければイエメンは今年、大規模な食糧不足に直面する恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
貧しいイエメンでは内戦開始前から2700万人がまん延する食糧不足に苦しんでいたが、今では数百万人が食糧支援を必要とするほど飢餓がいっそう深刻化している。また国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によれば、イエメンの子ども約220万人が急性栄養失調に陥っている。
 
サヌアで働く小児科医のアフメド・ユスフさんは「急に栄養失調が出現し、それから増え続けている。政府も非政府組織(NGO)もこの大惨事に対処する解決策を打ち出すことができずにいる」と語った。「子どもたちは放置され、一人きりで自分の運命を受け止めている」【2月13日 AFP】
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もともと“中東最貧国”ですから、内戦で住民生活が危機に瀕していることは容易に想像できます。

****国連 イエメンの食糧危機に緊急支援を呼びかけ****
FAO=国連食糧農業機関は、内戦が続くイエメンで1700万人が食糧不足に直面しているとする調査結果を公表し、国際社会に対して緊急の支援を呼びかけました。

イエメンでは政権側と反体制派による戦闘が2年近くにわたって続き、政権側を支援する隣国サウジアラビアを中心とした連合軍による空爆も行われています。

FAOは、おととし3月に戦闘が激しくなって以来初めて食糧や栄養に関する全国規模の調査をほかの国連機関と共同で行い、10日、結果を公表しました。

それによりますと、内戦の長期化に伴って農業生産が著しく落ち込み、食糧価格の高騰で多くの世帯が十分な食糧を確保できていないということです。

その結果、イエメン国内で食糧不足に直面している人はこの7か月で300万人増え、国民全体の6割に相当する1700万人に上ると推計されるということです。

また、深刻な栄養失調に苦しむ18歳未満の子どもは200万人に上り、中でも戦闘が激しい南部などでは子どものおよそ6人に1人が危機的な状況に陥っていると警告しています。

FAOは、「イエメンは現在、世界最大の食糧危機に直面している」として、国際社会に対して緊急の食糧支援や農業支援を行うための資金を拠出するよう呼びかけています。【2月12日 NHK】
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戦闘の停止が何よりの支援になりますが、サウジアラビアへの影響力を行使して停戦を主導できる立場にあるアメリカ・トランプ大統領にその意思があるのか・・・?
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二つの「壁」 アメリカ「トランプの壁」とモロッコ「恥の壁」

2017-02-14 22:20:42 | アメリカ

【2月14日 AFP】

【「トランプの壁」が完成する可能性は限りなく低いが・・・・
トランプ米大統領がメキシコとの国境に建設するとしている「トランプの壁」については、建設自体、また、その費用負担に関してメキシコと険悪な関係になっていることは周知のところです。

「トランプの壁」の建設には、物理的な問題があることも指摘されています。

****移民阻止。世界が失笑した「トランプの壁」は物理的に可能なのか****
・・・・米国とメキシコの陸上・河川国境は3144キロに達するが、トランプ氏が1月25日の大統領令で定義した「壁」、つまり「警備され、切れ目がなく、通り抜けることのできない物理的障壁」は1キロもない。

一方、米国はメキシコ国境のうち1130キロに各種のフェンスを設置している。大部分は2006年の「セキュア・フェンス法」制定後に設置された。

歩行者用フェンスは、市街地や道路に近い合計619キロ以上の区間に、さまざまな種類のものが設置されている。深さ1メートル以上の基礎の上に、高さ6メートルの鉄格子が立てられ、それが警備用の道路をはさんで二重に立っている区間もあれば、ワイヤーカッターで簡単に切断できる金網フェンスの区間もある。

車両用フェンスのほうは、高さ1メートルほどの障害物で、人間なら簡単に乗り越えることができるが、密入国者が国境から歩いて米国の市街地や道路にたどり着くことが困難な砂漠など、合計484キロ以上の区間に設置されている。

既存のフェンスはトランプ氏の言う壁に該当しない。トランプ氏は、「高さ35‐40フィート(11-12メートル)のプレキャストコンクリートの壁は、建設費約80億ドル(9200億円)」と言ったこともあれば、壁の高さを「65フィート(20メートル)」と言ったこともある。また、トランプ氏は、自らの考えを「フェンス」と表現した記者に対し、「本物の壁を築く」と訂正している。

トランプ氏が挙げる建設費の数字は、プレキャストコンクリート業界団体が示したものだが、壁を築く場合の工費のごく一部でしかない。

これまで車両用フェンスも設置されていない区間では、まず現場へ部材を運ぶための道路から整備する必要があるし、そのような区間には山地など道路工事が困難な地形が少なくないからだ。(中略)

米・メキシコ国境の東部の64パーセントは、リオグランデ川の川底の最深部を結ぶ線(谷線)だが、米国側の岸辺に壁を築くと、米国側の住民はリオグランデ川の水利を利用できなくなってしまう。リオグランデ川の一部は、両国が利用しているダムであり、壁の建設は非現実的というほかない。

トランプ氏は、メキシコとの国境の壁が「トランプの壁」と呼ばれるようになってほしいと言っているが、密入国者が「トランプの壁」を乗り越えれば、トランプ氏は面目を失う。

米政府が、隙のない工法と監視システムについて、建設業者に情報提供依頼書と提案依頼書を提出しながら、地権者と交渉し、反対派と法廷で争っているうちに、2018年の米議会中間選挙が過ぎ、2020年の大統領選挙が迫って来るだろう。

このように考えると、「トランプの壁」が完成する可能性が限りなく低いことだけでなく、トランプ大統領がどのような言い訳をするかに世界の注目が集まることは避けがたくなる。【2月6日 西恭之氏 MAG2NEWS】
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逆に言えば、実際には建設できないと大統領本人が認識していても、あくまでも「つくる」と言い張っておけば、支持者の賛同は維持しつつ、建設資金や地権者との法廷闘争などで時間が経過し、自分の任期は終わってしまい公約違反にもならない・・・という話かも。任期中に実現できなかったは反対者のせいだ・・・とも。

建設費用については、以前の数字より大きなものとなっています。

****メキシコ国境の壁、建設費は最大2.46兆円=米政府の内部文書****
米国がメキシコ国境沿いに建設する壁について、国土安全保障省の内部報告書で最大216億ドル(約2.46兆円)の費用と3年以上の期間が必要との見積もりが示されたことが明らかになった。ロイターが9日、同報告書を確認した。

トランプ大統領は昨年の大統領選で不法移民の流入を防ぐための壁の建設費用が120億ドルになるとの見通しを示していた。また、共和党のライアン下院議長とマコネル上院院内総務は、建設費用が最大150億ドルになると見積もっていた。どちらも今回の報告書で示された額を大幅に下回っている。(中略)

報告書では2020年末までに2000キロ超の区間にフェンスや壁を3段階で建設する計画が示された。(中略)

これまでの見積りよりも費用が増えた一因として、私有地の取得コストが挙げられている。

トランプ大統領は8日、「壁はいまデザイン中だ」と述べていた。

第1段階ではカリフォルニア州とテキサス州の42キロの区間で作業を行い、第2段階はテキサス州とアリゾナ州の242キロの区間が対象となる。第3段階は場所を特定せず、1728キロの区間としている。

第1段階の建設費用は3億6000万ドルとされた。第2、第3段階の費用はそれをはるかに上回り、私有地を多く含む広範な区域で建設が予定されている。【2月10日 ロイター】
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実現可能な“第1段階”(カリフォルニア州とテキサス州の42キロ)に着手すれば、残り「2000キロ」はうやむやに・・・ということもあるのかも。

興味深いのは、不法移民流入防止のための「トランプの壁」を建設するにも不法移民労働者が必要では・・・との下記記事です。

****壁建設の労働力は不法移民頼り? カネのメキシコ還流も****
トランプ米大統領が「米国は国境を取り戻す」として、メキシコからの不法移民流入防止のため「壁」建設を指示する大統領令に署名した。

ケリー米国土安全保障長官は米FOXニュース(2日、電子版)のインタビューで、数カ月後には着工できるとの見通しを示し、「(建設開始から)2年以内に完成させたい」と意欲を見せたが、詳細は依然として見えない。
 
膨大な費用や、実現性などがさまざまに報じられる中で、壁建設の労働力を不法移民に頼ることになりかねないという皮肉な見通しを、米紙ニューヨーク・タイムズ(1月31日、国際版)が伝えている。
 
同紙は、「巨大な壁で生じる大金」との見出しで壁建設の費用とそれによる需要について考察し、「この数十年間で最も巨大なインフラ計画の一つで、おそらく数百億ドルかかり、建設会社にとって恩恵となるだろう」とした。
 
壁建設にはいくらかかるのか。米メキシコ国境の長さは約3100キロにもおよび、約1千キロはすでにフェンスなどが断続的に設けられている。

同紙によると、連邦政府はブッシュ政権時代の2006年、航空機製造で知られる米ボーイング社などと壁建設の契約を交わしたが、膨張するコストに音を上げ、10億ドル(約1130億円)をつぎ込んだ揚げ句、オバマ政権となった5年後に建設を断念した経緯がある。
 
米上院共和党トップのマコネル院内総務が明らかにした推計では、建設費を120億〜150億ドル(約1・35兆〜1・69兆円)と見積もる一方で、ニューヨーク・タイムズは、マサチューセッツ工科大の研究者の話として、高さ15メートル、延長約1600キロの壁を鋼鉄とコンクリートで造った場合、約400億ドル(約4・5兆円)かかるとの試算を紹介している。(中略)
 
ニューヨーク・タイムズは、巨額支出が向かう川下にも目を向けている。メキシコと国境を接するテキサス州の建設労働者の半数は不法移民の労働者だとする報告書に基づきながら、「壁建設の労働者の多くを不法移民に負うことになりかねない」と指摘。低賃金労働者を支援する団体幹部の懸念を伝えている。
 
同紙はさらに、セメントの需要では米国内に子会社を持つメキシコ企業が潤う可能性に言及した。「トランプ大統領が米国製セメントだけを買うよう命令したければ、議会で法律を変える必要がある」としたうえで、「壁建設のために、米国は最終的にメキシコ国民とメキシコ系企業にカネを払うことになる」とした。
 
トランプ氏は壁建設の費用をメキシコに負担させるとするものの、仮にそのカネがメキシコ側へ還流するなら、壁の「意義」そのものが問われることになる。【2月14日 産経】
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なかなか皮肉な見通しですが、現在のアメリカの労働実態を考えれば、壁建設には不法移民労働力が必要と言うのはおそらく正しい見通しでしょう。

トランプ氏登場で不法入国仲介業者の重要急増
仮に「壁」ができてもその効果には疑問も。

****<メキシコ>壁できても掘る・・・不法入国案内人****
「国境に壁? 全く問題ないよ。トンネルがある。ふさがれたら? また別の場所に掘るだけだ」。メキシコ北部シウダフアレス市郊外。米国との国境線を目の前にしてゴンサロ・スニエガさん(36)が平然と言ってのけた。職業は通称「コヨーテ」。不法な国境越えを手引きする案内人だ。
 
(中略)スニエガさんは「これから客はもっと増える」とほくそ笑む。実際、トランプ氏が大統領選への出馬を表明した一昨年6月ごろからトンネル利用者は急増し、今や1日平均で当時の約2.5倍の50人に上る。

入国がより難しくなりそうだという不法移民の不安に便乗し、通行料は150ドルから500ドルに値上げした。強制送還が本格化すれば、コヨーテにはさらに追い風だ。送還された者の多くが再入国を試みるからだ。
 
「米国との経済格差が続く限り、不法移民は絶えない」。不法移民への支援活動をしているヘスス・タビソン神父(56)は言う。より深いトンネル、150ドルで入手可能なレンタル偽造旅券……。「トランプ大統領が何を言おうが、何をしようが、米国を目指す者には関係ない」
 
神父はかつて麻薬の中毒者で密売人でもあった。貧困の奈落から抜け出そうともがく人々の心境を承知している。国境越えの資金を工面するため2歳の子供を売り飛ばした女性もいたという。「国境に壮大な壁を造っても、得をするのはせいぜいコヨーテだけだ」と吐き捨てるように言った。(後略)【2月5日 毎日】
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メキシコの大富豪カルロス・スリム氏は、メキシコに投資して雇用機会を増やすことが、移民を防ぐ最善の壁になると主張しています。【1月28日 ロイターより】

西サハラを貫く「恥の壁」】
「トランプの壁」だけでなく、世界には多くの「壁」が存在します。
取り壊された「ベルリンの壁」、パレスチナを蚕食するイスラエルが築く壁、“天井のない監獄”ガザ地区を隔てる壁、北アイルランドのカトリック教徒とプロテスタントを隔てる壁・・・・

最近は難民・移民やテロリスト流入を防止するためとして壁は増える傾向にあります。

「壁」が建設されるのにはそれなりの理由があってのことですが、政治のあるべき方向としては、「分断の象徴」としての壁をなんとか取り払うことはできないかと努力することにあると個人的には考えています。

新たに壁を建設して分断することで問題が解決したかのように糊塗するのは愚か者の結論のようにも思えます。

世界に存在する多数の壁の一つが、モロッコが西サハラにつくった「砂の壁」です。

北アフリカ・モロッコに南接する地域(西サハラ)はモロッコが実効支配していますが、現地には独立国家を主張する勢力があり、「サハラ・アラブ民主共和国」を称しています。

****サハラ・アラブ民主共和国****
サハラ・アラブ民主共和国は、北アフリカの西サハラ(旧スペイン領サハラ)に存在する国家・亡命政府である。

スペインの領有権放棄後、西サハラにおいて独立国家樹立を目指す現地住民によるポリサリオ戦線によって、1976年に隣国アルジェリアにて亡命政権として結成された。

国際連合には未加盟であるが、アフリカ連合(AU)には1982年以降加盟している。また、2016年現在で84の国際連合の加盟国が国家として承認している。(しかし、その内の37カ国は関係を凍結・中断している)
名目上の首都は旧スペイン領時代の首府でもあったラユーン(アイウン)。

なお、サハラ・アラブ民主共和国が主張する領土(西サハラ)はモロッコが領有権を主張しており、その大半はモロッコによって占領・実効支配されている。そのため、サハラ・アラブ民主共和国は「解放区」と呼ばれる東部地域(西サハラの3割程度)を実効支配するにすぎない。【ウィキペディア】
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モロッコ支配地域と「解放区」(西サハラの3割程度、北海道ほどの面積)を隔てて、西サハラ領内を南北に貫くのが「砂の壁」です。独立を望む人々からは「恥の壁」とも。

***西サハラを貫く「恥の壁」の裏側に住む人々****
西サハラを南北に貫くその壁は、今も機能している防御壁として世界最古といわれる一方で、モロッコからの独立を望む西サハラの住民や指導者からは「恥の壁」と呼ばれている。
 
隣国アルジェリアの難民キャンプで暮らす西サハラの民(サハラウィ)約16万5000人の一人、アンゾウガ・モハメド・アフメドさん(36)は「私は壁の後ろで育った。私の子どもたちはその影の中で生まれた」と語った。
 
サハラウィ文化の象徴とされる長さ4メートルの伝統的な織布「メルファ」をまとったアンゾウガさんは、西サハラに戻る望みを失ったという。
 
アルジェリアの支援を受け、旧スペイン領の独立を掲げる武装組織ポリサリオ戦線(Polisario Front)は、砂漠をヘビのようにうねっている防御壁で隔てられた片側を「サハラ・アラブ民主共和国」と宣言して支配している。
 
1975~1991年にかけて、ポリサリオ戦線は西サハラをめぐってモロッコと戦闘状態にあった。国連(UN)決議で西サハラの自治に関する住民投票が呼び掛けられたが、モロッコは今も自国の領土の一部だと主張している。
 
そのモロッコは1980~1987年、自国が支配下に置く西サハラの約90%にあたる土地に、ほぼ砂でできた6つの壁を築いた。総延長約2700キロに及ぶ壁は、緑色のアカシアの低木と白く輝く塩湖で有名な広大な黄土砂漠を貫いている。
 
壁の周囲には有刺鉄線や溝、地雷原が張り巡らされており、反対側にはモロッコ兵も配備されている。
 
地雷の犠牲となったサハラウィを支援する地元グループの代表アジズ・ハイダール氏は「世界一長い壁の一つで、西サハラをがっちりと封鎖している」と語った。【2月14日 AFP】
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モロッコは「スペインの植民地になる前から元々モロッコの領土だった」とこの地域の領有権を主張しています。

これに対し、国際司法裁判所は1975年に「モロッコは歴史的なつながりがあったけども領有権は主張できない。住民投票を行うように」との判断を示しており、国連もこの判断を支持する決議でを行っています。

しかし、モロッコはこれに従わず、住民投票実施の見通しすら立たない中、国際社会にも現状を追認するような流れも。

モロッコは1984年、アフリカ連合(AU)の前身であるアフリカ統一機構(OAU)が、西サハラの独立を求める「サハラ・アラブ民主共和国」の加盟を認めたことに猛反発、OAUを脱退。OAUは2002年、改組してAUが発足しましたが、アフリカの国家で唯一モロッコだけが加わっていませんでした。

そのAUへのモロッコ加盟が承認されました。

****モロッコ、アフリカ連合に33年ぶり再加盟 西サハラ問題は棚上げ****
アフリカ連合(AU)は30日、エチオピアの首都アディスアベバで開催した首脳会議で、モロッコの33年ぶりの再加盟を承認した。

モロッコが領有権を主張する西サハラの地位をめぐって再加盟に強硬に反対する国もあったが、会議に参加した首脳によると54か国中39か国が賛成した。
 
AU加盟国は、感情的で緊迫した議論の末、西サハラ問題については結論を持ち越すことを全会一致で決めた。
 
AUの一部加盟国はモロッコが再加盟の条件として、西サハラ全域の主権を主張しているサハラ・アラブ民主共和国(SADR)のAUからの除名を要求するのではないかと危惧していた。
 
しかし、SADRのモハメド・サレム・ウルド・サレク外相は「モロッコは条件を付けておらず、(中略)われわれは彼らの言葉を信じ、アフリカ連合への再加盟を認めることにした」と述べた。(後略)【1月31日 AFP】
*********************

モロッコとサハラ・アラブ民主共和国の間での話がどうなっているのかは知りませんが、いつか「恥の壁」が取り払われる日が来るといいのですが・・・・。
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イラク  シーア派指導者サドル師主導のデモで首都混乱 “IS後”を睨んだ政治闘争活発化

2017-02-13 22:56:07 | 中東情勢

(サドル師はアメリカのイスラエル大使館問題に関しても「エルサレムに米国大使館を転送することはイスラムに対する戦争のかつてない明白な公開と宣言だろう」との声明を出しているとか。【http://blog.goo.ne.jp/aya-fs710/e/2a9768cf3c06025f99cfe2b4db5e8956より】)

モスル防御体制を強化するISだが・・・
昨日ブログでシリア情勢を取り上げたので、今日はイラク・・・という訳でもありませんが。

イラクではモスル東部がISから奪還され、戦いの場は西部に移っています。

そんなモスルでのISの抵抗準備に関する記事。ちょっと面白いと言うと不謹慎ですが、隣接する住民の家々の壁に穴をあけて(もちろん強制)、IS戦闘員が家の中を通って移動できるようにするというもので、しかも穴をあける費用を住民に払わせているとか。

****IS、モスルで家に穴開け労賃要求 住民「踏んだり蹴ったり」と怒り****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の牙城となっているイラク第2の都市モスル西部で、ISの戦闘員が移動経路を確保するため民家に勝手に穴を開けている上、その労賃としてその家の持ち主に金銭を要求していると、複数の地元住民が5日証言した。

政府部隊がモスル東部をISから解放する中、戦闘員は資金不足に陥っているもようだ。
請求額はわずか7000イラク・ディナール(約600円)だが、まさに踏んだり蹴ったりだと住民らはこぼしている。

モスル西部では、政府部隊による奪還作戦に備えてIS戦闘員が防御体制を強化している。

「ペプシ(Pepsi)通り」として知られる地区の住民、アブ・アサド(Abu Asaad)さんは「ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語名の略称)は有無を言わせず私たちの家の壁に穴を開けている」「ただ家を壊しただけの作業員に7000ディナールを支払うよう住民に強要している」と語った。
アサドさんによると、他にも数百人が同様の被害に遭っているという。

IS戦闘員らは住民に対して、徴収したお金は治安部隊からのモスル西部防衛に充てると説明したという。
 
モスルはISがイラク国内に持つ最後の主要拠点で、先月に東部を政府部隊が完全制圧。昨年10月17日に開始した大規模な奪還作戦で重要な局面の一つが終了していた。
 
ISによる報復を恐れてフルネームを明かさなかったアサドさんは「やつらは私たちに、穴の開いた家に残るか、それとも家を去るかを選ぶよう迫った」と話した。
 
モスル西部では大半の世帯に電気がまったく、あるいはほとんど供給されておらず、冬場は通常、気温が氷点下まで下がる。
 
隣接する民家に数珠つなぎに開けられた穴は、地上のトンネルのような役割を果たす。ISの戦闘員はそれを使うことで、イラク政府部隊や米国主導の有志連合による空爆の際に身を守りながら移動できる。【2月6日 AFP】
***************

ISは徹底抗戦の構えのようですが、流れ的にはモスル制圧は時間の問題でしょう。
米国主導の有志連合によるIS掃討作戦を率いる米軍のタウンゼンド中将は8日、数日以内に西部を奪還するための作戦を開始すると宣言しています。

バグダッド「グリーンゾーン」 サドル師主導のデモで死傷者
一方で、イラク国内の政情は安定しないようです。

****イラク首都のデモで7人死亡、「グリーンゾーン」にロケット弾****
イラクの首都バグダッドで11日、政府施設や各国大使館などがある旧米軍管轄区域「グリーンゾーン(Green Zone)」に行こうとしたデモ隊と警察が衝突して7人が死亡し、その数時間後にグリーンゾーンにロケット弾が打ち込まれた。デモとロケット弾発射の関連は分かっていない。
 
イラクの治安作戦を統括する統合作戦軍は、数発のカチューシャタイプのロケット弾がバグダッド市内のバラディヤトとパレスチナ通りから発射され、グリーンゾーン内に着弾したと発表したが、誰が発射したのかは明らかにしていない。

警察と内務省の当局者もAFPに対し、数発のロケット弾がグリーンゾーンに発射されたことを確認したが、発射の目的や死傷者の有無は確認できていないとしている。
 
グリーンゾーンに住むマイスーン・ダマルジ議員はロケット弾6~7発が着弾したようだとAFPに語った。グリーンゾーンに住む外交官はAFPに爆発音が4回聞こえたと話した。バグダッド全域で警備が強化され、数本の主な道路が通行止めになった。
 
バグダッドでは同日、グリーンゾーンにある選挙管理委員会の刷新などを要求するデモが行われていた。参加者の大半はイスラム教シーア派指導者、ムクタダ・サドル師の支持者でデモは当初平穏に行われていたが、警察の警戒線を越えてグリーンゾーンに行こうとした一部のデモ参加者が警官隊と衝突して7人が死亡。その数時間後にロケット弾が打ち込まれた。【2月12日 AFP】
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バグダッドの“グリーンゾーン”については、以下のようにも。

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イラクの首都に、グリーンゾーンと呼ばれる地域がある。ここはアメリカ軍が多数駐留する頃に、造られた地域だったと思うが、今ではイラク政府の官庁ビルや、外国の大使館、国際機関の事務所に加え、要人の居住区になっている。*

当然、このグリーンゾーン内部は住環境が、バグダッドの他の地域に比べて、格段に恵まれている、ということであろうし、治安もいい状態にある。従ってバグダッドの一般市民にしてみれば、羨望の眼差しで見られる地域、ということになる。*

そうしたことから、市民に不満が高まると、このグリーンゾーン地域に対する、抗議デモが行われている。その意味では必ずしも、安全地帯とも言い切れないのかもしれない。【2月13日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY」】
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デモで7名が死亡・・・ほかの国なら大きな問題となりますが、イラクだと「まあ、イラクだから・・・」ということで大したニュースにもなりません。

更に、ロケット弾が撃ち込まれ、しかもパフォーマンス的な1,2発ではなく6~7発も・・・これもほかの国なら大騒動になりますが、イラクだと「まあ、イラクだから・・・」ということで大したニュースにもなりません。

そういう訳ででしょうか、この騒ぎに関するニュースで他に目にしたのは下記のCNNのみ。
CNNは警官の死亡は伝えていますが、デモ隊側の死者は報じておらず“7人が負傷”とも。

****デモ隊と治安部隊が衝突、警官1人死亡 イラク首都****
イラクの首都バグダッド中心部で11日、アバディ政権への批判を強めるイスラム教シーア派の指導者、サドル師を支持するデモ隊が治安部隊と衝突し、市当局によると警官1人が死亡、7人が負傷した。

サドル師は同国の選挙管理委員会が腐敗しているなどとして改革を求めている。
支持者らは、政府機関や外国大使館が集まる市中心部の旧米軍管轄区域「グリーンゾーン」の境界にまで到達した。現場のビデオには、警察側がデモ隊に催涙ガスを発射する場面が映っている。

サドル師は衝突後の声明で、治安部隊が非武装のデモ隊に過剰な実力を行使したと非難。人権団体の介入を求め、アバディ首相の責任だと主張した。

アバディ首相も声明を出し、国民には平和的なデモを実施する権利があるが、公の秩序も重要だと指摘。暴力についての調査を指示し、責任者の逮捕を約束した。

国連イラク支援団(UNAMI)は首相が調査を指示したことを歓迎すると述べ、双方に平静を呼びかけた。
イラク合同作戦司令部によると、グリーンゾーンには同日、市東部からロケット弾が撃ち込まれた。デモとの関連は不明。ロケット弾による死傷者は報告されていない。【2月12日 CNN】
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“7人が死亡”なのか、“7人が負傷”なのか・・・いくらイラクでも“7人が死亡”だともっと大騒動になりそうに思えますので(サドル師が“非難”だけではすまさないでしょう)、“7人が負傷”なのかも。わかりません。

【“IS後”を睨んだ政治闘争
いずれにしても、騒動の張本人はまたもサドル師です。
サドル師は昨年5月にもグリーンゾーンにデモ隊を突入させ死傷者を出しています。

2016年5月1日ブログ“イラク政治をかく乱するポピュリスト・サドル師の「グリーンゾーン」突入”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160501
2016年5月25日ブログ“イラク・シリアで対ISの軍事作戦が開始されるも、両国ともに問題も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160525

昨年5月のデモは、内閣改造に伴い“政治改革断行を首相に迫る”という名目(実際は、自派勢力の拡大要求でしょう)でした。

サドル師はイラク戦争終結後、米軍を相手に“サドルシティー”などでシーア派民兵組織マフディー軍を率いて反米抵抗運動を展開した人物ですが、今は議会内の有力なシーア派勢力の指導者となっています。
しかも、シーア派最大の民兵組織を率いており、政府の治安維持が十分でないとして、シーア派住民が多い地区に独自に民兵部隊を展開しています。

サドル師は事あるごとに、政治が腐敗しているとか、治安が守られていない・・・として政府に圧力をかけていますが、腐敗にしても、治安問題にしても、サドル師自身がその元凶である・・・との指摘も。

“政治的嗅覚が鋭い”サドル師の動きが活発になっているのは、昨年騒動と同じように、やはりIS退潮がはっきりしてきたことから、“IS後”のイラク政治を睨んでのものでしょう。

****バグダッド・グリーン・ゾーンの戦い*****
・・・・今回のサドル派の怒りは、主に元首相のマリキー氏に、向けられたものであり、カチューシャ・ロケット弾に加え、銃器やナイフも持ち込まれたようだ。従って、警察側も当然、それを阻止できるだけの装備が必要であり、死傷者が多数出たということであろう。

こうした大規模な衝突が起こったということは、言葉を変えて言えば、イラクがIS(ISIL)との戦いの時期から、次の段階に入った、ということではないのか。

つまり、今回のグリーンゾーンに対するデモと衝突は、次の段階でサドル派がどのような権益を、得ることが出来るのかにかかっている、ということではないか。

アラブ世界での政治的な衝突の裏には、常に権力闘争があり、その権力闘争の裏にはいつも利益が存在する。言ってみれば、グリーンゾーンに対するデモは、経済行為の一種だ、ということではないのか。【2月13日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY」】
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このあたりはシリアと同様です。

シリアでは“IS後”を睨んで関係国・各勢力が勢力圏確保に動いており、イラクではサドル師のような政治勢力が国内政治での有利な位置取りを目指している・・・といったところでしょう。

その意味では、今後、クルド自治政府と中央政府の“綱引き”や、多数派シーア派に対するスンニ派勢力の権限要求なども活発化するのではないでしょうか。

そうしたことから、イラクは三分割統治しかないのでは・・・という指摘もありますが、多数派シーア派のサドル師などは受け入れないでしょう。この人が暴れると、まとまる話もまとまらなくなります。
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シリア  激しさを増す「IS後」を睨んだ各勢力による勢力圏確保競争

2017-02-12 23:07:52 | 中東情勢

(【2月12日 AFP】)

半年以内にラッカ・モスル攻略?】
シリア内情勢については、アサド政権・反体制派それぞれの後ろ盾であるロシア、イラン及びトルコ主導というアメリカ抜きの枠組みで、政府軍と反体制派の停戦合意が一応成立した状態にあって、昨年4月から中断している国連の仲介による和平協議も今月20日からスイスのジュネーブで再開されることが発表されています。
(2月1日ブログ“シリア 和平協議再開へ 進む反体制派の再編 ロシア協調のトランプ大統領の関与で進展も期待?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170201

停戦はISなどは対象になっていませんので、対ISの戦闘は依然として続いています。
米軍幹部はIS拠点ラッカ攻略について、「半年以内に奪還する」との見通しを示しています。

****ラッカ、モスルを半年以内に奪還 IS掃討で米司令官が見通し****
米国主導の有志連合によるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を率いる米軍のタウンゼンド中将は8日、ISが首都と位置付けるシリア北部ラッカとイラク北部の拠点モスルをいずれも半年以内に奪還する見通しであると述べた。AP通信が伝えた。米軍司令官がラッカ奪還の時期に言及したのは初めて。
 
タウンゼンド氏はイラクの首都バグダッド郊外で「6カ月以内に(ラッカ、モスルの奪還作戦は)いずれも完結するだろう」と述べた。
 
ラッカに関し、有志連合司令部のドリアン報道官は8日、電話記者会見で「数週間以内でほぼ完全に孤立させられる」との見通しを示した。ラッカを包囲した上で奪還に進む。
 
ただ、米軍の支援を受けて作戦を行ってきた少数民族クルド人勢力と米国の同盟国であるトルコは敵対。トランプ米政権はクルド人勢力の扱いに結論を出していないとされ、政権の判断が作戦の進展に影響する可能性もある。

ポンペオ中央情報局(CIA)長官が9日、トルコを訪問。クルド人勢力に関しても協議する見通しだ。(後略)【産経】
****************

IS拠点アルバブ攻略での混乱
ISの終わりも近い・・・ということになると、各勢力はIS崩壊後の勢力圏確保に関心が高まります。

アレッポ北部・ユーフラテス川西岸・トルコ国境南部のIS支配地域は、米軍のラッカ攻略の主力部隊でもあるクルド人勢力YPDにとっては、その東西に位置する支配地域をつなぐ回廊部にあたり、ここを制圧できればクルド人支配地域をつなげることができ、今後の「独立国家」建設にはずみがつきます。

これに強く反発するのがトルコ。
YPDはトルコ国内でテロ活動を行うクルド系武装勢力PKKの兄弟組織であり、そうしたクルド系勢力がトルコ国境沿いに勢力を拡大することは何としても阻止する構えです。

加えて、“(トルコは)シリア内戦による大量の難民を国内に引き受けて社会不安など深刻な問題を多々抱えているが,IS 排除後には国境近隣のIS 旧支配域に,スンニ派アラブ系主体のこれら難民を再定住させ,新たに発生するシリア国内避難民とも併せて,クルドの飛び地連結のための回廊開削を阻止する「人間の盾」を創り上げる構想も持っていた。”【池田 明史氏 “「ユーフラテスの盾」作戦の舞台裏”】ということで、クルド人勢力YPDの回廊確保戦略と完全にぶつかっています。

このためトルコは昨年8月から国境を越えてシリアに侵攻。支援する反体制派とともにISを攻撃する「ユーフラテスの盾」作戦を展開していますが、その狙いは上述のように、対ISというよりは、反体制派支配地域を拡大することでクルド人勢力の支配地域を分断することにあります。

そのトルコが奪還作戦を行ってきたのがIS拠点のアルバブ(Al-Bab)です。

トルコ軍・反体制派はアルバブに対し昨年段階から激しい攻撃を続けてきましたが、“ISが住民を盾として使用したり、暗渠の灌漑水路を連絡路、隠れ家として利用したために、進展が遅れた”【2月12日 「中東の窓」】等で難航していました。

それが、ようやく“中心部に侵攻し、市の半分以上を制圧し、市の完全制圧も時間の問題”(アラビア語メディア報道)【同上】という段階に至ったという状況です。

****トルコ軍とシリア反体制派、IS拠点アルバブに進攻****
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によると、トルコ軍は11日、同盟関係にあるシリア反体制派と共に、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の拠点であるシリア北部アルバブ(Al-Bab)に進攻した。
 
トルコ半国営のアナトリア通信は軍関係者の発言を引用し、ISとの戦闘でトルコ兵1人が死亡、1人が負傷したと伝えた。トルコ軍とシリア反体制派はアルバブの西側から攻勢をかけ、ISとの激しい戦闘の末に西の郊外全域を制圧した。

監視団は、この戦闘と並行してトルコ軍による砲撃や空爆が行われ、住民に少なくとも6人の死者が出たとしている。
 
アルバブはアレッポ県で最後に残されたISの拠点で、シリア政府軍も攻撃目標としている。トルコ主導の部隊は北と東、西から進攻し、シリア政府軍は南側から攻撃を行っている。
 
トルコ軍は昨年8月、シリア国内でISとクルド人武装勢力の双方を標的にした前例のない軍事作戦に乗り出した。最初は急速に進展したものの、12月からアルバブをめぐる戦闘が泥沼化している。

トルコのドアン(Dogan)通信によると、作戦開始以来トルコ兵の死者は66人に上っており、その大半はISの攻撃で死亡した。【2月12日 AFP】
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先述のようにトルコはクルド人勢力の分断を狙っていますが、この地域での軍事行動にはもう一人重要なプレイヤーがいます。当然ながらシリア政府軍です。

アサド政権はアレッポ東部奪還した勢いでアレッポから北上し、上記記事にもあるように、アルバブに対しても南側から攻撃を行っています。

この政府軍の攻撃はトルコ等とは別の“独自作戦”です。
ということは、トルコ軍・反体制派とシリア政府軍及び支援するロシアがぶつかる・・・という事態もありえます。

実際に反体制派と政府軍の衝突が起きています。
しかも、それとは別に、ロシア軍機がトルコ軍兵士を“誤爆”するという事件も。

****シリア情勢(al bab 等****
・昨9日午後、al bab の西で、自由シリア軍とトルコ軍対政府軍・民兵の衝突が起きましたが、軍事筋によると、政府軍等がal bab の西のal zindeen に進行してきたときに衝突が起きたが、政府軍等が自由シリア軍を砲撃した由
(この衝突での双方の死傷者の有無等については不明)

これに対して自由シリア軍は9日、中央病院とか青年住宅地とかを占拠し、重要な成果を上げたので、10日以降はさらにISに対する攻撃を拡大する予定であったが、情勢が変わったので、作戦を再検討している由。

・他方、トルコ軍は、ロシア空軍が9日朝al babのIS拠点を空爆しているときに、「誤って」トルコ軍を爆撃し、兵士3名が死亡し、11名が負傷したと発表した。

ロシア通信も、ロシア空軍機が誤ってトルコ軍を空爆し、兵士3名が死亡したと報じるとともに、ロシア大統領府によれば、プーチン大統領がエルドアンに対して、電話で遺憾の意を表明したとほうじている

(上記2の事件は無関係のようで、記事の題はロシアとトルコは両軍間の調整をさらに密接にすることにしたとほうじている・・・ただし、その内容とかチャネルとかは不明。ただ、このブログの読書でも一部に人気のある陰謀説をとれば、ロシアが間違ったと言い訳しながら、実際は意図的にトルコ軍を空爆して、政府軍の前進を止めないように警告したという説明になりそうである。

(中略)確かに偶然にしては、少しできすぎいてはいると思うが、狭い地域での戦闘では過誤が起こるというのが単純な説明であろうか?)【2月10日 「中東の窓」】
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ロシア機によるトルコ兵士空爆は“故意に”という訳ではないでしょうが(おそらく)、同一目標を先を争う形で攻撃していますので、相当に混乱した状況にはあるようです。

****ロシア機のトルコ兵士空爆(al bab)****
ロシア機がal bab でトルコ兵を空爆し、兵士3名が死亡した事件に関しては、ちょうどその頃政府軍もal bab に迫っていて、どうもその辺に関連があるのではないかと思っていましたが、al qods al arabi net は、ロシアのスプートニク通信を引用して、やはりそうであったと報じています。

もちろん、これはロシアの通信ですから、果たして自由シリア軍が政府軍を攻撃したのかその逆ではないのか?、またロシア機がトルコ軍に対して警告の意味で意図的に攻撃したのではないのか等、その辺の可能性は何とも言えませんが、とりあえず報道のまま。
いずれにしても、危惧されていたロシア機のトルコ兵士攻撃が生じたわけです。

ロシアのスプートニク通信は、ロシア機の攻撃でトルコ兵が死傷した事件について、政府軍が自由シリア軍の占拠しているal bab の近郊のal ghauz 村に近づいたところ、自由シリア軍から攻撃を受け、犠牲者を出したので、ロシア機等に対して支援を要請した。

これに応えるロシア機が現場に到着する前にトルコ兵がこの村に入っていたものである。

また政府軍は、彼らを攻撃した戦闘員はISであると思い込んでいた可能性もある。

いずれにせよ、このようなかごに基づく事件を防ぐために、ロシアとトルコは、今後はISを攻撃する部隊には航空機誘導兵をつけることにした。(中略)

al bab の完全制圧は時間の問題とのことですが、自由シリア軍が政府軍の先を越して同市を制圧したということになるのか、双方がal bab を巡ってにらみ合うことになる可能性もありそうで、ロシアの出方も注目されます。【2月11日 「中東の窓」】
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今後も続く“早い者勝ち”の競争 イラン、アメリカ、クルド人勢力も参加しての大混戦模様
アルバブを制圧した後の目標はラッカの近辺のal tabaqaという地点になるようです。

トルコ・反体制派と政府軍・ロシアの“早い者勝ち”の勢力圏拡大競争は今後も続きます。“どちらが先にそこを占拠するかで、今後の情勢が大きく変わるとして、今後はラッカ攻略を目指したトルコ軍と政府軍の競争になる”とal qods al arabi net は報じています。【2月11日 「中東の窓」より】

反体制派司令官は、政府軍のアルバブへの進撃が早かったことについて、「ISが我々(反体制派)と政府軍とを戦わせるために、政府軍の地域から兵士を撤収させたためである」と語ったそうです。【同上】

なお、「トルコ・反体制派」組と「政府軍・ロシア」組だけでなく、シーア派「イラン・ヒズボラ」組も参加しての混戦になるようです。

一方、「アメリカ・YPD」組は、トルコの圧力でコンビを解消するのか、あるいは、トルコを加えてトルコ・YPDの呉越同舟でラッカ後略に向かうのか?

更には、トルコが以前から主張している避難民らが居住するための「安全地帯」を設置する構想にトランプ大統領は賛同を示していますが、「安全地帯」維持の軍事的支援が必要になりますので、そもそもアメリカ国内が了承するのか?

主権を侵害されるアサド政権は「安全地帯」構想に反対しています。また、クルド人勢力YPDが「安全地帯」地域から追い出されるとすると新たな火種にもなります。

****al bab の戦いからal tabaqaの戦いへ(シリア****
・・・またイランもトルコとロシアの了解には不満足で、アスタナ会議で政治的な地位を要求したほか、戦場でもアレッポの東で,ヒズボッラーや民兵を使って自分たち地歩を求めている。

さらに米国がトルコのラッカ攻略参加を歓迎するとしているが、新政権の真意はまだ不明である。

トルコはさらに南下してal tabaqa攻略を狙うであろう。

こうして、al tabaqaはトルコと自由シリア軍隊、政府軍とヒズボッラーの先頭争いの場となり、先にそこを占拠したほうが、ISとの戦いで有利になるであろう」(al qods al arabi net報道)【同上】
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リビア  新特使任命で統一を後押ししようとする国連、アメリカがイスラエル問題から阻止

2017-02-11 22:34:28 | 北アフリカ

(かつてのカダフィ政権幹部で、現在はトブルク政府の実力者・ハフタル将軍 リビア統一のキーマンです。
写真は【http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20150207_160748.html】)

【「統一政府」代表のセラジ首相と、トブルク政府のハフタル将軍の対談・・・という話の背景

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北アフリカ・リビア情勢について“超簡単”に言えば、カダフィ政権崩壊後、西のイスラム主義主導のトリポリ政府と東の世俗主義主導のトブルク政府が対立していましたが、国連仲介で一応は大統領評議会がつくられ、「統一政府」への権限移譲が図られました。

その結果、西では一応権限移譲が進んでいるものの、東のトブルク政府側は未だ「統一政府」を承認せず、二つの政府が並立する形になっています。

また、西についても、民兵組織のなかには「統一政府」に従わない勢力もあるようです。(従って、現在ある政府は“二つ”なのか、西も含めて“三つ”なのかも定かではありません)【1月27日ブログ「リビア 過激派掃討が一定に進展 分裂状態の“統合”に向けた動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170127より再録】
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前回1月27日ブログでは、そうした分裂状態のリビアにあって、統一政府軍がIS拠点シルトをなんとか攻略したこと、東のハフタル将軍が主導するトブルク政府もベンガジのイスラム過激派への攻勢を強めていることなどを受けて、エジプトとロシアの後ろ盾で、“エジプト・カイロで「統一政府(トリポリ)」代表のセラジ首相と、トブルク政府のハフタル将軍が対談する”という話が出ている・・・といったことを取り上げました。

“現在ある政府は“二つ”なのか、西も含めて“三つ”なのか・・・”という非常に初歩的な疑問は、あながち私の無知のせいばかりではないようです。

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リビアでは、新統一政府の権威が行き届かず、法的には必要なトブルク議会の承認もまだ得ておらず、トブルク政府の実力者haftar 将軍との関係もうまくいっていないうえに、一時は死んだかと思われたトリポリ政府まで再出現し(おまけに国家警備隊などという名前の実力部隊まで作った模様)、3政権の鼎立状況が続いています。【2月10日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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リビア情勢のキーマンとなっている、東のトブルク政府の実力者ハフタル将軍に関しては、以下のようにも。(半年前の記事ですが、情勢は殆ど変っていません)
かつてはカダフィ政権の軍幹部で、その後亡命してアメリカCIAの庇護下にあった人物です。

****統一政府、元右腕が阻む・・・カダフィ政権崩壊5年****
リビアで42年間続いたカダフィ独裁政権が内戦の末に崩壊してから23日で5年を迎える。反カダフィ派の内紛によって国情が揺れる中、かつて故カダフィ氏の右腕として活躍し、その後は一転して「米国の協力者」とも言われたハリファ・ハフタル将軍が復権をもくろみ、国連が主導する統一政府樹立の動きを阻んでいる。

「CIA(米中央情報局)のリビアでの協力者が、頭痛の種になってしまった」。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、ハフタル氏がリビアの政情安定の足かせになっている現状をそう報じた。
 
ハフタル氏は1943年生まれ。カダフィ政権古参の軍幹部だったが、87年にチャドへの侵攻に失敗して捕虜になった後、米国に亡命。CIAの本部近くに居住し、カダフィ政権打倒のために協力関係にあったと報じられている。

2011年の内戦時に帰国して反カダフィ派に参加、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)とも連携した。
 
内戦後の14年夏に世俗派とイスラム勢力の対立から東西に政府が分立した際も、米国とハフタル氏は直近の選挙で勝利した世俗派中心の東部トブルク政府を支持。ハフタル氏は傘下の民兵組織「リビア国民軍」を率い、トブルク政府の軍司令官に納まった。
 
しかし、内戦状態が長引く中、ハフタル氏は穏健派のイスラム政党にまで「テロリスト」のレッテルを貼り、15年夏には東部デルナで過激派組織「イスラム国」(IS)を追い出すのに貢献したイスラム武装勢力への攻撃を開始。ISの台頭を背景にイスラム武装勢力も含めた「反IS勢力の結集」を目指すようになった米国と思惑がずれ始めた。
 
15年12月に国連の仲介で東西政府の穏健派が和解し、大統領評議会が公式な新統治機構となったが、ハフタル氏は協力を拒んだ。

大統領評議会はハフタル派が押さえる東部に支配権を広げられず、双方の支配が及ばない地域はISなどイスラム過激派の温床となったままだ。(後略)【2016年8月19日 毎日】
******************

ハフタル将軍はエジプトやフランス、更にはロシアとも良好で強固な関係を持っているとされます。

前回ブログでも触れた“「統一政府(トリポリ)」代表のセラジ首相と、トブルク政府のハフタル将軍の対談”に関するエジプト、フランス、ロシアの動きについては以下のようにも。

統一リビアのトップを狙うハフタル将軍に、統一政府のセラジ首相との会談を勧め、統一政府の国防相のような治安面の責任者となるあたりでの手打ちを目論んでいるようです。

****リビアのハフタル将軍トップの座を目指す*****
リビアでは権力闘争が始まりそうだ。駐チュニジア・フランス大使が、長時間に渡って、東リビア政府のハフタル将軍と対談した。その中で、ハフタル将軍は権力の座を目指すことを明確に語り、その事では誰とも交渉する意志が無いことを、明らかにした。

しかし、こうしたハフタル将軍の立場に、欧米はすんなりとは賛成しないだろう。なぜならば、ハフタル将軍が軍事力を持ってでも、権力の座を目指すことになれば、リビアは内戦が起こる、危険性があるからだ。

だが、ハフタル将軍にしてみれば、東リビア政府は国際的に認められていたものが、何時の間にか、国連が別の政府を立てて、それを支持し始めているからだ。いわば明らかな裏切り行為、とハフタル将軍は受け止めているのであろう。

そこで問題になるのは、ハフタル将軍を支援しているエジプトが、どのような立場に回るかということだ。エジプトとしては、アメリカとの関係、ロシアとの関係を考慮すると、なかなかどちらにも回り難い、立場にあるからだ。

エジプトのシーシ大統領は最近、ロシアとの関係を強化してきているが、経済面から考えると、アメリカとの関係も無視できまい。まさに板ばさみの情況に、置かれるということだ。そこで出てくる考えは、ハフタル将軍に対して、リビア統一政府のセラジ首相と話し合え、というアドバイスであろう。

フランスも似たような考えであり、ハフタル将軍に対して、リビア統一政府のセラジ首相は、治安面の全権を与えるべきだ、と考えているようだ。そうした中、ロシアの重要性を考え、セラジ首相は近くロシアを、訪問したいと思っている。

他方、ハフタル将軍は昨年末ロシアを訪問し、リビア領土内へのロシア軍基地の開設を提案している。また、今年の1月には、リビアの港でロシア艦を舞台に、ロシア側との交渉を持ってもいる。

ハフタル将軍とロシアとの関係は、すこぶる良好であり、ハフタル将軍側の負傷兵士70人が、ロシアに招かれ治療を受けている。このことはリビア人の間でも、しかるべき評価を得ていよう。

ロシアは今回のハフタル将軍の動きに対して、どう立ち回るのであろうか。ロシアもまた、リビア国内各派で平和的に、話し合うべきだというアドバイスを、するのではないのか。ここでまた内戦状態になるようなことでは、ロシアのリビアへの進出が遅れるからだ。

ハフタル将軍が今回強気に出た裏には、ロシアの支援もあろうが、アメリカの支援もあるいはあるのではないのか。

アメリカは早くリビアの内乱状態を、落ち着かせたいと考えているし、ハフタル将軍については、20年以上も亡命させ、支援してきていたのだ。革命でリビアに送り返したのだが、その駒(ハフタル将軍)をアメリカが、容易に手放すとは思えない。【2月4日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY】
****************

アメリカCIAの庇護下にあった人物ですから、当然にアメリカとの太いパイプがあるはずです。エジプト、フランス、ロシアに加えアメリカとも関係が深い・・・となると、当然ながら強気にもなるでしょう。

リビア安定化を求める欧州・国連
関係国はリビアの内戦再燃を望んでおらず、特に欧州としては、とにかく早くリビアに安定してもらわないと、難民問題が長びき困ります。

****<EU首脳会議>難民対策、リビア支援強化で合意****
欧州連合(EU)は3日、マルタの首都バレッタで非公式の首脳会議を開いた。

北アフリカから地中海を密航して欧州を目指す難民・移民への対策として、主要な経由国であるリビアへの支援強化で合意した。(中略)

2017年の欧州は独仏などで国政選挙が続く。反移民を旗印にEUに懐疑的な政党への支持が広がる中、EUにとって難民・移民政策は生命線の一つだ。

欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)によると、16年に地中海を密航してイタリアに到着した難民・移民は約18万1000人で前年比18%増加。密航中の事故で約4700人が命を落とした。出身国別ではナイジェリアやエリトリアなどが多く、約9割が密航業者などを通じて内戦状態が続くリビアを経由している。
 
EUはリビア側の水際での対応能力を上げるため、これまで国連が支持する統一政府の海軍や沿岸警備隊の訓練などを続けてきたが、気候が温暖になり密航者が増える夏を前に支援態勢を拡充させたい考えだ。

「玄関口」のイタリアはリビアなどを支援するため独自に2億ユーロ(約242億円)の基金を設け、EU側にも上積みを求めている。(後略)【2月3日 毎日】
******************

リビアの水際で阻まれた難民たちが、その後どうなるのか?リビア政府(そういうものがあったとして)にどういう扱いを受けるのか?・・・という問題は残ります。そのあたりは今回はパス。

国連としても、後押しする「統一政府」がいつまでたっても“統一政府”になれない現状は、国連の権威(そういうものがあったとして)にもかかわることで看過できないところです。「なんとかしないと」ということで・・・。

****国連特別代表の交代?(リビア****
・・・・本来は安保理及び国際社会に支持された統一政府を中心にして、リビアの政治的解決を図るべき、国連の特別代表の仲介が成功しておらず、彼は一方的でhigh handed (物事を上から押し付けるとでも訳すのか?外交的でない、ということか?))であるとして、かなりの不評(特にトブルク議会とトリポリから)を買っていました。

この点に関し、アラビア語メディアは、いずれもかなり大きく新国連事務総長は、現在の特別代表に代えて、元パレスチナ首相であったsalam fayyadh(アラビア文字からの訳)を任命するために、彼を推薦すると安保理各国に対して通報したとほうじています。(中略)

fayyadh 葉1952年生まれで、IMF勤務ののち、パレスチナ自治政府の財務省を経て、2007~2013年首相を務めた由。(中略)

これまで折角リビア各派が合意したスヘイラート合意が円滑に実施されずに、国連の支持する統一政府の権威いっこうに確立しないどころか、最近ではさらにその影響力が落ちて、国連代表の評判も落ちていることに危機感を有した新国連事務総長(おそらくその後ろには安保理もいると思われる)が業を煮やして、アラブ世界ではよく名の知られた大物政治家を持ってきたというとこかと思います。

こちらはトランプ旋風とは関係ないと思いますが、リビアについても本年は何らかの新しい動きがありそうです。【2月10日 野口雅昭氏 「「中東の窓」】
******************

アメリカ イスラエル・パレスチナ問題から新特使任命に反対
“こちらはトランプ旋風とは関係ないと思いますが”とのことでしたが、今の国際情勢にあってアメリカが関与しないこと、つまりトランプ大統領が関与しないことは、そうそうはありません。

この国連特別代表の交代の件でも、アメリカから“まった”がかかりました。問題となったのは、リビアではなく、パレスチナ・イスラエルの問題です。

****米、パレスチナ元首相の国連リビア特使任命を阻止****
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は10日、パレスチナ自治政府のサラム・ファイヤド元首相を国連のリビア担当特使に任命する人事案に不支持を表明し、任命を阻止した。
 
ヘイリー氏は声明で「この任命によって国連内に伝わるメッセージを支持することはしない」と述べた。パレスチナは国連の正式な加盟国ではない。
 
国連のアントニオ・グテレス事務総長は今週、ファイヤド氏を国連のリビアでの支援ミッションを率い、不安定な政治的合意をめぐる交渉を支援する任務に就ける意向を国連安全保障理事会に伝えていた。
 
グテレス事務総長にとって主要な紛争地域への特使を任命する初の人事案件だったが、ヘイリー氏はグテレス氏からの書簡に米国は「失望した」と表明した。
 
ヘイリー氏は「国連はあまりにも長い間、不公平な先入観にとらわれてパレスチナ自治政府を支持する一方、米国の同盟国イスラエルに不利益をもたらしてきた」「米国は今後、同盟国を支援する上で協議するだけでなく行動を起こす」と述べた。【2月11日 AFP】
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ファイヤド元首相は中東世界にあっては名の知れた“大物”であり、国連としてはそういう知名度・影響力に期待したのでしょうが、国連をパレスチナ寄りと批判する(と言うか、そういう国連の現状に同意して、イスラエルを擁護しなかったオバマ前政権に激怒する)アメリカ・トランプ政権による異議申し立て、「今後は勝手なまねはさせないぞ!」という警告です。

リビアの話はどこかに飛んで行ってしまったようです。
まあ、トランプ大統領はリビアなどには関心はないでしょう。(ついでに言えば、日本・中国も含めた外交全般に関心はなく、関心があるのは、“一に雇用、二に雇用、更に三にも雇用・・・”だそうです。まあ、“三”あたりには治安・テロも入ってくるのでは。彼が支持された理由を考えれば、当然の判断でもあります。)

イスラエル政府は喜んでいます。
“イスラエルのダノン国連大使は同日、「国連の新時代の幕開けだ。米国は断固として悪びれずにイスラエルの側に立っている」との歓迎の声明を出した。”【2月11日 朝日】

イスラエル・ネタニヤフ政権は親イスラエル的なトランプ政権誕生もあって、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区のパレスチナ人所有地を、イスラエル政府が事実上、接収できるようにする新たな法律案を可決するなど、入植問題で強気に出ています。

“ネタニヤフ首相が新法について、議決前に「ホワイトハウスに話した」と述べたと報じており、トランプ氏も事態を把握しているという。”【2月7日 毎日】

そのあたりのイスラエル関連の話は長くなるので、また別機会に。
とにかくトランプ大統領の意向が重要になってきますが、とりあえず、最近のトランプ大統領の抑制的な発言だけ。

****トランプ大統領、イスラエルの入植地拡大は「和平にとって良いことではない****
ドナルド・トランプ米大統領は10日、ヘブライ語日刊紙イスラエル・ハヨムのインタビューで、パレスチナ自治区でのイスラエルの入植地拡大は「和平にとって良いことではない」との認識を示した。
 
これまでイスラエルの政策を強硬に支持してきたトランプ大統領だが、パレスチナ人が猛反対している在イスラエル米大使館のテルアビブ(Tel Aviv)からエルサレムへの移転については「容易に下せる決断ではない」と述べた。
 
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の今月15日の米首都ワシントン訪問を前に行われたインタビューの中で、トランプ大統領はイスラエルとパレスチナの両者に穏当な対応を求めた。
 
ネタニヤフ首相が右派から入植地拡大の加速に加え、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による解決さえ放棄するよう圧力を掛けられている中、トランプ大統領の発言はほとんど自制を促しているとも言える内容で、米大統領選で掲げていた大胆な公約とはかなり違っている。【2月11日 AFP】
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トランプ大統領の本音がどこにあるのかは、これからの話でしょうが。
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中国  厳しい地方農村の生活と農民工の現状 “若者のナショナリズムは高まってはいない

2017-02-10 22:33:05 | 中国

(2020年までにGDPを倍増させることを計画している習近平政権は、大都市に集中する農民工を内陸部中小都市へ移動させ、周辺農村からも農民を呼び込み、中小都市活性化・新たな都市消費者創出を図る「新型都市化計画」を進めています。
そのため今大都市では、農民工を中小都市へ強制移住させるべく、再開発を理由に農民工居住区が次々と取り壊されています。【2016年10月30日 NHK「巨龍中国 1億大移動 流転する農民工」】
力づくでも1億人を移住させて社会・経済の大改革を実現するという、“中国らしい”壮大な国家プロジェクトです。突然住み慣れた場所から追われる貧困農民工にとっては、たまったものではありませんが。)

都市・農村格差が生む農民工の厳しい現状
中国における都市部と農村の格差は昔から指摘されているところで、中国の抱える大きな問題のひとつです。
日本を訪れた中国人観光客が驚くことのひとつに、日本の農村の生活水準が都市部に劣っていないことがあげられています。(もちろん、日本の農村が抱える深刻な問題は多々あり、別に現状をよしとする話にはなりませんが)

春節の“民族大移動”は、都市部で生活する若者に、故郷である農村の貧しさ・厳しさを改めて実感させることにもなります。

****中国の都市と農村の生活ギャップ、ネットに掲載するのが大流行****
2017年2月3日、参考消息網によると、春節(旧正月)連休を迎えた中国では、都市部に暮らす若者たちが里帰りし、昔ながらの生活が続く実家の様子を写真に撮り、ネットに掲載して「都市と農村生活のギャップ」を強調するのが流行している。

都市部に住む若者たちは、田舎へ帰って木を切り倒したり、屋外で洗面器を使う様子をネットに掲載している。親せきたちが今も昔ながらの生活を送る様子を伝えつつ、自分もきれいに着飾った「帰省前」と、厚い上着を着込んだ「帰省後」の写真を並べてアップする。

これらの風潮は一部の有名人が始め、一般の人たちにも広まった。ネットに上がる写真を見た若者たちが、中国の都市部と農村生活のギャップについて討論もしている。

一部の若者が「実家には暖房がなく、鼻も目も凍った」と書いたり、両親が使う「骨董のような」台所用品を写した写真に、ネット上では驚きの声が広がっている。

ギャップの大きい都市と農村の写真に、一部の人々は「解脱感を感じる」と書き込んでいる。また、ある人は「帰省後の方がより幸せに見える」、「帰省後は本当の自分を出せているようだ」などと書いている。

世界銀行は「30年には中国の人口の7割が都市部で生活する」と予測している。【2月4日 Record China】
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こうした都市の農村の格差、端的に言えば“農村部には充分な収入を得る機会が存在しないこと”は、農村から都市への“人の流れ”を生みます。中国版出稼ぎ労働者である“農民工”と呼ばれる、中国経済発展を支えた労働力です。

都市で働く“農民工”については、かねてより、その労働条件の劣悪さだけでなく、中国独自の都市と農村を隔てる戸籍制度がもたらす弊害や、故郷に残してきた“留守児童”の問題などが多く指摘されてきました。

最近は、中国経済の全体的減速や、沿岸都市部だけでなく内陸部で雇用機会が増大したことなどを受けて、“農民工”も減少したのでは・・・と思っていたのですが、そうでもないようです。

****増え続ける出稼ぎ労働者、労働環境は依然として劣悪―中国****
2017年1月26日、中国メディア・数読によると、中国では農村から都市への出稼ぎ労働者は増え続けているが、その労働環境は依然として劣悪だという。

毎年、旧正月(春節)になると、中国では発達した沿岸部から、西側の内陸部へと多くの人が帰省する“大移動”が起きるが、その大部分は農村から出稼ぎに来ていた“農民工”と呼ばれる人々。中国国家統計局の調べでは、2002年の時点では1億470万人の農民工がいたとされるが、15年には1億6880万人にまで膨れ上がっている。

出身地は四川省や河南省、安徽省、湖南省、江西省など。広東省や浙江省、上海市や北京市などで、製造業や建設業に従事し、中国の経済成長の大きな原動力となった。産業構造の改革にあっても重要な人的資源であり続けている。

しかし、1億人を超える農民工たちの生活や労働環境は劣悪なままで、以前と比べれば多少は改善された部分もないではないが、他の社会層と比べると労働内容も保障もひどい状態が続いていると記事は指摘する。

15年の出稼ぎ労働者たちの出稼ぎ期間は1年のうち10カ月を超え、毎月の労働日数も25日以上で、1日も休みがない月も珍しくはないという。

労働中に事故が起きても泣き寝入りするしかないケースが多いほか、労働者の60.3%は労働契約を結んだ経験すらなく、報酬の未払いもたびたびニュースとなっている。

記事は、「出稼ぎ労働者の生活や労働環境は劣悪なのに、その数は毎年増え続けている。彼らにとっては耕作地を抜け出すことだけが、より良い生活を追い求める唯一の手段かもしれないのに」と伝えている。【2月1日 Record China】
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中国経済の減速で賃金の伸びは抑えられていますが、今後は生産拠点が中国からより人件費の安い周辺国へ移動する流れのなかで、就業機会も狭まる可能性があります。

****中国の出稼ぎ「農民工」苦境に、大都市での生活厳しく****
2/4 00:30
2017年2月1日、英紙デイリー・メールによると、中国では約2億8000万人が農村から都市部へ「農民工」として出稼ぎに出ている。子供を故郷に残してより高い賃金、より厳しい仕事を求める親たちも多い。中国では都市部と農村を分ける戸籍制度が厳格なため、故郷で祖父母や親せきと暮らす「留守児童」は約6000万人を超える。参考消息網が伝えた。

親は明るい未来を描くものの、見通しは暗いのが現実だ。16年の中国の経済成長率は年間6.7%に減速し、前年に比べて0.2ポイント低下。過去25年で最低となった。中国政府の統計によると、農民工の平均月給は約3000元(約5万円)。賃金は伸び悩んでおり、11年の伸び率は年間21%だったが、15年には7.2%まで縮小した。米ブルームバーグ通信によると、農民工の賃金は16年、さらに減少するとみられる。

一方、中国の人件費上昇にともない、工場の多くがより賃金の安いベトナムやカンボジアへ生産拠点を移している。中国の沿岸部では物価が上昇しており、農民工は故郷へ帰るかどうかの選択を迫られている。【2月4日 Record China】
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農村の嫁不足が生む周辺国女性の拉致
長年の「一人っ子政策」のもたらした歪で、中国では男女の人口差が大きく、特に農村部では深刻な“嫁不足”状態にあります。

そのため、周辺国ベトナムやミャンマーなどから女性を詐欺同然に連れてきて、暴力的に“嫁”として働かせるという犯罪行為も横行しています。

****中国当局、嫁として農家に売られたベトナム人女性32人を救出****
中国当局は9日、同国の貧困地帯で警察が捜索を行い、嫁として農家に売られていたベトナム人女性32人を救出したと発表した。
 
中国南西部の雲南省の警察当局はソーシャルメディアで声明を発表し、観光や就労を口実に女性らを勧誘して同省に送っていたとされる組織の75人を逮捕したと明らかにした。
 
中国中央テレビ(CCTV)の報道によると、雲南省に送られた被害女性らは大人数の「捕らわれの共同体」として人里離れた山間部で隔離され、その後中国の中部と東部の6省に売られていたという。
 
逃走を試みたある被害者はリポーターに対し「男2人が私を捕らえ、鉄パイプで殴ってきた」と明かし、「嫁になることを拒否すると男たちは脅してきた」と語った。
 
中国中央テレビによると救出されたベトナム人女性32人は本国に送還される。中国では男女の人口差が大きく、特に地方では男性が妻を見つけることが困難となっており、女性の人身売買が深刻な問題になっている。【2月10日 AFP】
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厳しい農村部での生活ですが、日本でも都市からの“田舎暮らし”を求めての農村部への回帰が一部に見られるように、中国でも都市から環境の良い地方への移動という現象もないことはないようです。
ただ、全体の流れの中で言えば、そういう現象は富裕層に許された贅沢でしょう。

****スモッグから逃れたい」北京市民、雲南省深南部で住宅購入急増****
2017年2月1日、参考消息網によると、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストはこのほど、深刻なスモッグ被害が生じている北京市民の間で、ミャンマーやラオスとの国境に近い雲南省深南部の西双版納(シーサンパンナ)で住宅を購入する人が増えていると報じた。

ある不動産業者は「昨年12月と今年1月に2度も大規模スモッグに見舞われたことで、問い合わせや購入が急増している」と話す。その7割が北京市民で、多くが「今すぐ欲しい」という人たちだ。

ミャンマーとラオスに接する西双版納タイ族自治州は、自然豊かな熱帯雨林の中にあり、街路樹もヤシ科のシュロが並び、常に新鮮で清潔な空気が期待できる。連日のスモッグに加え、寒さ厳しい中国北部に暮らす人にはこの上ない避難場所として注目されている。

同自治州の首府、景洪市で、昨年下半期に販売された住宅は7578戸。取引が成立した面積は上半期と比べ52%増加している。同市の不動産情報を扱うサイトによると、相場価格は1平方メートル当たり4928元(8万円)だ。

北京から来たという2歳の子供連れの女性は「ここで両親のために住宅を購入したが、スモッグからの避難場所に最適だと分かった」とし、さらに購入を検討しているという。女性は「健康でなければ、お金を稼いでも意味がない」と話している。【2月4日 Record China】
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西双版納(シーサンパンナ)は南国情緒あふれた観光地で、私でも住みたいぐらいです。
まあ、これは地方への移動というより、金持ちがリゾート地に別荘を買うようなものでしょう。

【“愛国教育で高められたナショナリズム”という“常識のウソ”?】
話は全く変わりますが、中国社会関連で、最近目にした一番興味深かった記事は、下記の“若者のナショナリズム”に関するものです。

反日運動の背景に、愛国教育で高められたナショナリズムがある・・・といったことがよく指摘されますが、これも”常識のウソ”の類かもしれません。

*****中国の若者のナショナリズムは高まっていない──論文****
中国指導部は国民のナショナリズムが自らに向くのを防ぐため、強硬な対外姿勢を取る傾向がある。南シナ海で領有権を主張したり、日本の歴史問題を執拗に追及したりするのもそのせいだというのが、欧米メディアの通説になっている。

実際、高齢化する「毛沢東主義者」もいれば「怒れる若者」(中国語で「憤青」)もいる。中国政府の「防火長城(グレート・ファイヤーウォール)」をすり抜けて、フェイスブックやツイッターに国家主義的な投稿をする「ピンク色の若者」(中国語で「小粉紅」)と呼ばれる若い女性たちもいる。

だが月初に安全保障研究の専門誌「インターナショナル・セキュリティ」に掲載された米ハーバード大学のアラステア・イアン・ジョンストン教授(政治学)による最新の論文は、中国で国家主義的傾向が強まっているという報道は、いくつかの重要な点で的外れの可能性があると指摘した。

ジョンストンは1998年から北京の名門国立大学である北京大学の研究者と共同で、外交政策を含めた様々なテーマに関して、北京の住民を対象にした意識調査を行ってきた。その結果集まった「北京エリア調査」と称する珍しいデータを頼りに、ジョンストンと共同研究者らは北京市民の意識の変遷をたどり、回答者の年齢など多数の異なるカテゴリーに基づく分析を実現した。

高齢層とは正反対の意識
2002年以降の調査では、回答者の国家主義的傾向を探るための質問も加わった。そのなかで、次の意見に同意するか否か、また同意する度合いも尋ねた。

1)たとえ世界中のどの国を選べたとしても、自分は中国人でありたい
2)一般に、中国はほとんどの国より良い国だ
3)たとえ政府が間違っていても、国民の誰もが政府を支持するべきだ

論文は結論として、北京市民の間に国家主義的傾向の高まりはみられないとした。むしろ1)と3)の質問に対し「大いにそう思う」と回答した割合が2002年から15年にかけて激減した。

しかし中国のほうが「他の国より良い」かどうか尋ねた2)の質問に対しては、「大いにそう思う」と答えた割合が微増した。調査開始以来、北京では個人所得もインフラも著しく改善したのだから、それは理解できる。

この結果からは、単に国家主義的な感情が下火になっただけでなく、中国の少なくとも都市部の若者たちは上の世代よりも国家主義的ではないことがはっきりした。

1978年以降に生まれた世代では、2002年以降のどの調査でも、国家主義色の強い意見に同意すると答えた割合が上の世代より圧倒的に少なかった。最も目を見張るのは、2015年の時点で、「政府が間違っていても国民は政府を支持すべき」という意見に強く賛同した若年層の割合は、高齢層の半分になっていたことだ。

時の経過とともに若者が一層国家主義的になったということもなかった。少なくとも北京の若年層にはその傾向が認められなかった。より自由な風土で、遠く離れた南方の沿岸部にある広州などの巨大都市圏と比べるとかなり政府寄りと見なされてきた首都にとっては、驚くべき発見だ。

確かに、北京五輪が開催された2009年の調査では、国家主義的な傾向が一気に上昇し、若者の70%以上がどの国よりも中国籍を保持したいと回答(2007年は約50%)、若者の60%以上が中国は他のほとんどの国より良いと答えた(2007年は30%強)。
だが五輪効果は一時的な現象に過ぎなかったようだ。2015年時点で、国家主義的な意見に強く同意する若者はせいぜい4人に1人と、2009年から一気に降下し、2007年の水準よりも低くなった。

北京市民の対日感情と対米感情の変化についても追跡した。中国では、長年の敵である日本はいまだに広く悪者扱いされ、アメリカは地政学的なライバルの位置づけだ。調査で日本とアメリカを肯定や否定する感情の強さを探ったうえで、日米両国の国民と中国人の間にどれほど大きな違いがあると感じているかを数値化した。

調査期間中、2001年には米軍の偵察機と中国軍の戦闘機が空中接触して中国軍機が墜落し、2012年には中国が領有権を主張する尖閣諸島を日本が国有化するなど、反米や反日感情を煽る政治的な衝突が起きた。

それにも関わらず、質問への回答は概ね安定していた。日米両国に対して強く否定的な見方をし、中国との相違点が極めて大きいとした回答者の割合は、2000年からほとんど変わらなかった。

強硬なのは政治エリートか
中国事情に詳しい読者なら、比較的教育水準が高く豊かな生活を送る北京市民の感情は、あれほど巨大で多様な中国全体の国民感情を反映し得ないと気が付くだろう。

ジョンストンの論文はその限界を認める一方、2008年に非常に似た方法を用いて別の学術機関が行った中国全土を対象にした調査でも、今回発表した北京とほぼ一致する結果が出たと指摘する。

これらの調査結果は、重要な政治的意味を持つ。中国が習近平国家主席の指導の下でより強硬な外交政策に舵を切ったのは、国内で高まる国家主義に呼応したからではないのかもしれない。

論文は、中国の政治エリート層における国家主義的傾向のレベルなどが外交方針の転換の要因になった可能性を、より体系的に研究するよう促した。

アメリカにすれば、執拗に反米を掲げる中国人の若者が増えるのを懸念する必要はないという話かもしれない。いずれにせよ、未来の中国の指導者は、習やその後継者よりも明らかに国家主義的傾向が弱い世代から生まれる可能性がある。【2月8日 Newsweek】
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上記調査が中国社会の“真実”を指摘するものであれば、習近平主席がどう言ったとか、中国軍部の増強がどうだといった話より、日中関係にとって長期的には遥かに重要な問題かも。

上記調査が“真実”を指摘したものであることを、また、近年の日本へ観光客増大が日本への誤ったイメージを変革してくれることを期待します。
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ロシア  “異質”な政治・社会への流れを強める それはロシアだけではないのかも・・・

2017-02-09 22:10:04 | ロシア

((不可解な急性中毒で昏睡状態にあるとされる)2010年当時のウラジーミル・カラムルザ氏(右)。中央は2015年に暗殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ氏(2010年12月11日撮影)【2月8日 AFP】

新たな国家イデオロギーの下、欧米的な価値観とシステムを拒絶
かつて、中国が経済成長すればやがては欧米諸国と価値観を共有できる国になっていくのでは・・・との期待感がありました。
ロシアについても、ソ連崩壊・冷戦終結でロシアも同様に価値観を共有できる民主的な国家になるのでは・・・との期待感もありました。

そのいずれも誤りであったことが明確になっており、両国とも国際政治の舞台で、異質な力を発揮しています。

そんなロシアはウクライナ問題で欧米との対立が鮮明化して制裁にまで至り、クリミア併合以降は急速に“異質性”を強めています。

****被害妄想プーチンの暴走が止まらない*****
ブログヘの規制、政府職員の出国禁止、同性愛者や二重国籍者の敵視など、反欧米主義と人権抑圧がクリミア後に噴出

今更驚くような話ではない? 
確かに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「超大国ソ連」の時代に郷愁を抱き、国内の対立勢力を弾圧し、世界で好き勝手に振る舞うのは、最近になって始まったことではない。プーチンは権力を握ってから14年間、その手の言動を繰り返してきた。

しかし、3月にロシアがクリミアを併合した後の言動は、それまでとは次元が違う。
91年にソ連が崩壊して以降初めて、ロシア政府は公然と、自国を世界から切り離そうとし始めた。
プーチンは新たな国家イデオロギーの下、欧米的な価値観とシステムを拒絶し、国内の反対勢力を徹底的に糾弾している。

この3ヵ月、ロシアは急速に孤立への道を突き進んできた。
ロシア政府と議会の親政府派の議員たちは、安全保障上の問題を理由に500万人近い政府職員の出国を禁止。政府公認の歴史観を批判することに対する刑事罰も導入した。

二重国籍を保有する国民全員に報告を義務付け、外国から資金を得ているNGO(非政府組織)すべてを「外国の手先」と決め付けた。

ブロガーが政府への抗議活動を呼び掛けることを罰する法律も制定。1日のアクセス数が3000を超すブログは実名登録を義務付けるとした。

政府はフェイスブックやスカイプ、YouTube、ツイッターのアクセス制限も検討し始めた。ロシア限定のインターネットをつくるという案も議論されている。

ロシアでまだ生き残っていた数少ない独立系のニュースサイトとネットテレビ局も沈黙させられた。ニュースサイトの「グラニール」が裁判所に異議を申し立てると、裁判所はこう言い放った・・・「当局はウェブサイトに対し、アクセス遮断の理由を説明する必要はない」。

(中略)プーチンの保守的でナショナリスティックなイデオロギーは、数年かけて形成されてきたものだが、クリミア問題を機に一挙に噴き出した。

「ロシアはヨーロッパではない」と、ロシア文化省は公式に宣言。プーチンは、寛容と多文化主義という欧米的価値観を厳しく批判し、欧米の「いわゆる寛容の姿勢」を「不毛で不能」と切り捨てた。(中略)

ロシア政府が国民の生活と思考を統制しようとする動きの核を成すのは、「同性愛者、移民、多文化主義、欧米、ファシズムといった『他者』をつくり出すこと」だと、ピッツバーグ大学ロシア・東欧研究センターのショーンーギロリーは言う。「そうした『他者』を排除し敵視することで、脅威に対抗する形で社会を結束させようとする」(中略)

クリミア併合前のプーチンはおおむね現実的で、安定と繁栄を優先した。そのためなら抗議運動や新興財閥をつぶすことも辞さなかった。

そんな彼がクリミア併合を境に、一転してロシアの経済的繁栄を犠牲にしてイデオロギーで動くようになった。

ロシアのGDPが世界全体の2%を切ろうと構わない、ロシアにはビザカードも国際金融市場も外国での休暇も必要ない、とプーチンは考えている。G8や欧州会議の一員である必要もない。ロシア市民を欧米の腐敗した価値観とネットの悪影響から隔離しなければならない・・・。

プーチンはロシア独自の道を突き進んでいる。たとえそれが孤立と資本逃避と頭脳流出につながる道だとしても、だ。【2014年7月8日号 Newsweek日本版】
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強力な理解者が出現
アメリカ・オバマ政権は特にその末期に、サイバー攻撃などをめぐりロシアとの対決姿勢を強めました。
しかし状況は一転、今や強力な支援者・理解者を得たことは周知のところです。

****トランプ米大統領、プーチン・ロシア大統領を「尊敬する」=協力関係構築に期待****
トランプ米大統領は4日に放送されたFOXニュースとのインタビューで、ロシアのプーチン大統領を「尊敬している」と語った。また、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討戦でロシアから支援を得られれば感謝すると述べ、協力関係の構築に期待を示した。
 
一方、質問者から「しかし(プーチン氏は)殺人者だ」と詰め寄られると、「多くの殺人者がいる。われわれの国が無実だと思うのか」と反論した。
 
トランプ氏は選挙中から、オバマ前政権で悪化した対ロシア関係を修復する方針を公言。就任から1週間が過ぎた1月28日にプーチン大統領と約1時間、電話会談を行っている。【2月5日 時事】 
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この「われわれの国が無実だと思うのか」というトランプ発言に関しては、“卓見”であるとの個人的感想はこれまでも書いてきましたが、さすがにアメリカ国内では、度重なるプーチン礼賛、また、アメリカをロシアと同列の“殺人者”と呼ぶことへの拒否感から、多くの批判があるようです。

もちろん、いろんな国際問題でロシア・プーチン大統領と協調することは重要ですが、“尊敬”という話になると・・・・。

政治的、時に肉体的に葬られるプーチン批判指導者
今日は、“殺人者”とされるロシア・プーチン大統領がシリア空爆などで何をやっているかといった国際的な話はさておき、ロシア国内の最近の話題・状況などについてです。

****ロシア野党勢力指導者、再び有罪判決 大統領選の出馬困難に****
ロシアの野党勢力指導者で横領罪に問われたアレクセイ・ナワリヌイ被告(40)の再審で、中部の都市キーロフの裁判所は8日、執行猶予付き禁錮5年の有罪判決を言い渡した。ナワリヌイ被告は来年の大統領選に出馬する意向を表明しているが、今回の有罪判決で難しくなった。
 
ナワリヌイ被告と実業家のピヨートル・オフィツェロフ被告は、ナワリヌイ氏がキーロフ州知事の顧問を務めていた時期に材木取引で1600万ルーブル(約3000万円)を州予算から横領したとして、2013年に有罪判決を受けた。

ナワリヌイ被告らはこれを不服として欧州人権裁判所(ECHR)に提訴。人権裁は昨年、公正な裁判ではなかったとして判決を無効としていた。
 
しかし、ロシアの最高裁判所は両被告の裁判の再審を命令。それを受けた今回の裁判で、裁判官は前回とまったく同じ内容の判決を下した。判決文で用いた表現もほぼ同じだった。
 
ナワリヌイ被告は昨年12月、来年3月に予定される大統領選への立候補を表明。この裁判について、大統領選から自身を締め出すことを狙ったものだと批判していた。ウラジーミル・プーチン大統領はまだ出馬を表明していないものの、4期目の選出が確実視されている。

ロシアでは有罪となった被告が公職に立候補することは法律で禁じられている。だがナワリヌイ被告は上訴する考えを示し、活動も続けていくと言明した。
 
ナワリヌイ被告は2011~12年に行われた大規模な抗議活動を率いて一躍有名となり、ロシア政府批判や反汚職運動を展開している。【2月9日 AFP】
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06年にプーチン批判著名ジャーナリストであったアンナ・ポリトコフスカヤが射殺された事件、元KGB(国家保安委員会)職員のルゴボイ(現在は極右政党に所属する国会議員)が、プーチンの政敵アレクサンドル・リトビネンコ氏を06年に毒殺したとされる事件、2015年にはプーチン政権を批判する野党指導者、ネムツォフ元第1副首相がモスクワ中心部で射殺、やはり政敵の元石油王、ミハイル・ホドルコフスキー氏は2013年まで10年間投獄・・・・と、プーチン政権による政敵潰しは常習化しています。

2011~12年のプーチン批判が高まった時期ならともかく、クリミア併合後の圧倒的支持率を獲得した状況で、虚弱な野党の存在など気にしなくてもいいものを・・・と思うのですが、権力者というのは僅かばかりの批判・抵抗にも不安になるのでしょうか?

プーチン大統領に批判的な政治団体の幹部が毒を盛られたのでは・・・との疑惑も。

****何者かに毒盛られたか 反プーチン団体幹部、臓器不全で昏睡****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に批判的な政治団体の幹部が病院に搬送され、臓器不全で昏睡状態に陥っている。幹部の妻は7日、何らかの物質による「急性中毒」と診断されたと明らかにした。この幹部は2年前にも毒物を盛られた疑いがあり、一時重体となっていた。
 
入院しているのは、元石油王のミハイル・ホドルコフスキー氏が創設した政治団体「開かれたロシア」のコーディネーター、ウラジーミル・カラムルザ氏(35)。2日にモスクワで倒れて病院に搬送されて以来、人工呼吸器につながれ、腎臓透析を受けている。
 
妻のエフゲニアさんはAFPに「正式な診断結果は未確認の物質による急性中毒だ」と説明した。容体は深刻だが安定しているという。
 
これまでのところカラムルザ氏が何らかの犯罪に巻き込まれた確証はない。エフゲニアさんによると国内で行った検査では何も明らかにならなかったため、中毒の原因を突き止めるべく検査用のサンプルをフランスとイスラエルの研究所に送ったという。
 
カラムルザ氏は2015年にも中毒に関連した急性腎不全を起こし、血中から高濃度の重金属が検出されていた。その後、ロシア連邦捜査委員会に対して何者かが故意に毒を盛ったのか捜査するよう求めたが、結局刑事捜査は見送られた。
 
カラムルザ氏は、2015年にロシア大統領府近くで射殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ元第1副首相とも親しかった。【2月8日 AFP】
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真相はわかりませんが、反プーチン運動・野党指導者の中核を次々に失い、脆弱なプーチン批判勢力は当分冬の時代が続きそうです。

【「伝統的な家族文化」への回帰
ロシアの異質な“独自性”を強める国内の動きも。

****ロシア、家庭内暴力への刑罰、通称“平手打ち法”を軽減 “規律”優先で人権配慮されず****
ロシアでドメスティックバイオレンス(DV)への刑罰を軽減する法改定がこのほど行われ、欧州や国際人権団体から批判の声が上がっている。

露議員らは子供への“しつけ”に必要と強調するが、実際には女性など社会的弱者へのDVを助長しかねないためだ。家父長的な家庭を理想とする社会的風潮の強まりも、今回の動きの背景にあるとみられている。
 
改定法はプーチン大統領が7日に署名し、即日施行された。通称“平手打ち法”とも呼ばれ、露メディアによると骨折などの大けがに至らない近親者の暴力に対し、これまで最大で自由剥奪2年だった初犯への刑罰が、罰金最大3万ルーブル(約6万円)などの行政罰に変更された。
 
法改定の動きに対しては、欧州評議会のヤーグラン事務局長が「女性や子供に対する暴力は重大犯罪であり、人権侵害だ」と警告したほか、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」も「DV被害者が救済を得ることが著しく困難なロシアで、状況をさらに悪化させかねない」と糾弾していた。
 
しかし改定を推進した保守派女性議員は、親の権威を基盤とする「伝統的な家族文化」を強めると主張。ボロジン下院議長は「欧州評議会による圧力は容認できない」と反発するなど、国際社会との“価値観論争”の様相も帯びていた。
 
DV被害者の救済活動に携わる女性法律家のダフチャン氏は、法改定の背景には「ロシア正教会の圧力があった」と指摘する。
 
露正教会は家庭内の規律を重視する立場から、親への刑事罰を定めた従来法を強く批判していた。ダフチャン氏によれば、露社会では「絶対的な家父長制」を尊ぶ風潮が強まっており、DV問題の議論すら受けつけない傾向にあるという。
 
ロシアの暴力犯罪の約4割は家庭内で起きており、女性の被害者は子供の3倍に上るとされる。ダフチャン氏は「従来は少なくとも彼女らを守る仕組みがあったが法改定でそれも失われた」と述べ、事態は深刻化するとの見方を示している。【2月9日 産経】
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改正案を支持する保守派は、子どものしつけを行う親を罰することは誤っており、また国が家庭生活に口を出すべきではないと主張しているそうです。

日本でも伝統的家族観を重視する立場の方は大勢いらっしゃいますので、賛同する方も少なくないのでは。

“国の統計によると、DVに関する犯罪は2015年に4万9579件発生し、うち3万5899件が女性に対する暴力だったという”【2月8日 AFP】とのことですが、表面化したこれらは氷山の一角であり、今回法改正で益々DVの実態は闇にかくれることになるでしょう。

気が付けばアメリカもロシア・中国と価値観共有?異質なのは自分の方か?】
他にも、ロシアがどこへ向かっているのか・・・と思わせるニュースもいくつか。

****ロシアの人権活動家、小児性愛の容疑で逮捕 でっち上げの声も****
旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン時代の抑圧について研究していたロシアの歴史学者が、小児性愛の疑いで逮捕されていたことが分かった。この歴史学者が所属する著名な人権団体「メモリアル(Memorial)」が先月31日、明らかにした。メモリアルは今回の事件を、でっち上げられたものと批判している。
 
メモリアルの人権活動家セルゲイ・クリベンコ氏によると、1930年代のスターリンによる大粛清を研究していた歴史学者のユーリ・ドミトリエフ容疑者(61)は昨年12月13日、「わいせつな画像を作成」したとして、ロシア北部のペトロザボーツクで逮捕された。
 
クリベンコ氏はAFPの取材に対し、「われわれの組織を標的にした、でっち上げられた事件だ」と主張した。旧ソ連時代の抑圧と人権問題の調査を行っているメモリアルで、ドミトリエフ容疑者はカレリア地方の支部長を務めていた。
 
ドミトリエフ容疑者の弁護士はAFPに対し、「わいせつな画像を作成するために、養子に迎えた11歳の少女を搾取した」との容疑がかけられていると述べた。有罪になれば最大で禁固15年の刑が科される。
 
ただ、弁護士は障害のある養子の「成長の遅れを観察する」ため、女児の裸の写真を撮影したと主張している。
 
一方、フランスの歴史学者ニコラ・ベルト氏は仏紙リベラシオンに寄稿し、「ドミトリエフ氏が見舞われた今回の事件は、スターリン時代にもあったような、でっち上げのようなものに思える」と述べた。【2月1日 AFP】
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****ロシア当局、連邦保安庁とカスペルスキー社員を訴追 国家反逆罪****
ロシア当局は、連邦保安庁の職員2人とコンピュータセキュリティ会社カスペルスキーの社員1人を国家反逆罪で訴追した。3人のうちの1人を代表する弁護士が明らかにした。

同弁護士によると、カスペルスキーの調査チームのトップと連邦保安庁の情報セキュリティセンター職員2人は、米諜報機関に協力したとし、国家反逆罪に問われているという。

カスペルスキーは、この社員が逮捕されたことを確認した。ただ、社員は入社前の出来事に関連したものとしている。【2月2日 ロイター】
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「ヨーロッパではない」とするロシアにあって、プーチン政権が国家主義的、強権的支配を強め、“ロシアの独自性”を重視した社会風潮が強まる・・・・そんなロシア・プーチン大統領を称賛するアメリカ大統領。

なんだかおかしな世の中になったものです。

もっとも、トランプ大統領は「国家の安全のためなら入国の停止や制限など何をしてもよい。」とも発言しています。
もちろん非常時に“非常事態宣言”などのもとで市民生活が制約されることはどの社会でもあることですが、“何をしてもよい”と言い切る“感覚”が従来の価値観とは異質です。

アメリカ・トランプ政権もロシアや中国と価値観を共有する流れにもなっているのかも。
そうなると、気づけば向こうがノーマルで、私が“異質”な存在になってしまっている・・・といったこともあるのかも。周りを眺めると、日本国内も・・・・。
コメント
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