孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン  「大虐殺発生のリスク」を国連が警告 日本のPKO参加の在り方を議論すべき時期

2017-02-08 22:12:27 | スーダン

(南スーダンの首都ジュバにある国連の民間人保護施設付近で、物を運ぶ避難民の女性とパトロールに当たる国連南スーダン派遣団(UNMISS)の兵士ら(2016年10月4日撮影)【2月8日 AFP】)

【“戦闘”ではなく“衝突”?】
****南スーダン さまざまな民族参加のスポーツ大会****
根深い民族対立を背景に、各地で武力衝突が続くアフリカの南スーダンで、さまざまな民族が参加するスポーツ大会が日本の支援で開幕し、民族融和の後押しとなることが期待されています。

5年前に独立した南スーダンでは、政府軍と反政府勢力の間で衝突が相次ぐなど、根深い民族対立が続いています。

こうした対立の緩和を目指そうと、日本のJICA=国際協力機構の全面的な支援による全国規模のスポーツ大会が首都ジュバで28日、開幕しました。

大会が開かれるのは去年に続いて2回目で、ことしは避難民キャンプを含む全国のさまざまな民族から合わせておよそ500人の選手が参加しています。

開幕式には在南スーダン日本大使館の紀谷昌彦大使が来賓として招かれ、「日本はいつも友人として皆さんを支援していきます」とあいさつしました。

大会は9日間開かれ、サッカーや陸上競技が行われます。

去年は、対立する2つの民族のチームがサッカーの決勝戦で対戦して、試合のあと健闘をたたえ合う場面も見られ、JICAでは、スポーツを通じて交流を深め、民族融和の後押しとなることを期待したいとしています。【1月30日 NHK】
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開会式では国連PKOである国連南スーダン派遣団(UNMISS)に現在参加している陸上自衛隊の隊員らがねぶたや伝統の踊りを披露したそうです。

こうした和やかなニュースを読むと、“南スーダン情勢についてはいろいろ言われているけど、結構落ち着いているのかも・・・”とも思えてきますが、実際のところはやはり“厳しい”状況のようです。

“防衛省は7日、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊が作成した日報について、「廃棄した」という従来の説明を覆し、保管していたことを明らかにした。
同省によると、派遣部隊と、報告を受けた陸自中央即応集団は日報を廃棄していたが、複数の開示請求や国会議員からの指摘で再度調査したところ、同省統合幕僚監部内に電子データとして残っていたことが分かった。”【2月7日 時事】

“ない”と言っていたものが出てきた・・・という経緯もさることながら、その内容も問題です。

当該日報は、南スーダンで“戦闘”が激化した昨年7月11,12日のものですが、地域的に安全とされている日本PKO部隊が展開する首都ジュバの宿営地に隣接する地区でも「戦闘が生起」していたことが明らかにされています。

そうした事情はいろんな情報でこれまでも指摘されてはきましたが、改めて、自衛隊自身の報告というかたちでそのことが裏付けられた形となっています。

****南スーダン、昨夏「戦闘」 陸自日報、「廃棄」から一転公表****
陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加している南スーダンで昨年7月に大規模な戦闘が起きた際、陸自部隊の宿営地が隣接する地区でも戦闘があり、部隊は隊員が負傷する恐れがあるとの認識を持っていたことが、防衛省が7日公表した文書でわかった。

公表したのは戦闘が続いていた昨年7月11、12日付で部隊が作った日報「日々報告」など。同9月にジャーナリストから情報開示請求を受け、廃棄したとして同12月に不開示としたが、河野太郎衆院議員(自民)の要請で再調査した結果、当初は調べていなかった部署に電子データがあったという。
同省は「公表しなければ隠しているように受け取られる」などの理由で公表を決めたとしている。
 
宿営地がある首都ジュバでは昨年7月、南スーダン政府軍と反政府勢力が大規模な戦闘を展開した。2日分の日報はA4判約110ページで、戦闘状況などを記録している。「ジュバ市内の戦闘に関する状況」と題した地図では陸自宿営地の隣接地区が赤く塗られ、「戦闘が生起」などと記載。「流れ弾への巻き込まれ」「突発的な戦闘への巻き込まれ」への注意が必要と指摘していた。
 
日報では、繰り返し「戦闘」という言葉が使われている。一方で政府は憲法9条や、紛争当事者間の停戦合意などPKO参加の条件を定めた「5原則」を踏まえ、戦闘との表現を避けて「衝突」などとしてきた。

昨年7月下旬、当時の中谷元・防衛相は記者会見で「(南スーダンで)政府と反政府側の間に衝突が発生したことをもって参加5原則が崩れたという風には考えていない」と述べている。【2月8日 朝日】
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“文書には生々しい記述が並ぶ。「宿営地5、6時方向で激しい銃撃戦」(11日日報)▽「今後もUN(国連)施設近辺で偶発的に戦闘が生起する可能性」(12日日報)▽「直射火器の弾着」「戦車や迫撃砲を使用した激しい戦闘」(12日レポート)――。事態悪化時の想定として「ジュバでの衝突激化に伴うUN(国連)活動の停止」を挙げ、PKO継続が困難になる可能性にも言及していた。”【2月8日 朝日】

当時、中谷防衛相だけでなく、安倍首相も参院予算委員会で「戦闘行為ではなかった。しかし、武器を使って殺傷あるいは物を破壊する行為はあった。衝突、いわば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」と答弁していますが【同上より】、“戦闘”ではなく“衝突”云々は、“alternative facts”の類でしょう。

【今も続く「大量虐殺」の危機】
この問題が重要なのは、単に昨年7月の話ではなく、南スーダンでは今現在も同じような事態、あるいは、もっと悪い事態に陥る危険が続いているためです。

****南スーダン、1か月で5.2万人が国外退避 国連「大量虐殺」を警告****
国連のアダマ・ディエン事務総長特別顧問(ジェノサイド防止担当)は7日、政府軍と反体制派の戦闘が続く南スーダンから、1月だけで5万2000人余りが隣国のウガンダに逃れたと発表した。戦闘によって「大量虐殺が生み出される恐れがある」と改めて警鐘を鳴らした。
 
ディエン氏の声明によると、ウガンダに退避したのは主に首都ジュバの南に位置する複数の町の住民。民間人の殺害や家屋の破壊、性的暴行が行われたと証言しているという。
 
声明では「サルバ・キール大統領は暴力を終わらせ平和をもたらすと約束しているが、現在も衝突が続いており、大量虐殺が行われるリスクが依然として付きまとっている」と警告した。
 
ディエン氏が特に危機感を示したのが、大規模な暴力の懸念から住民が退避している南部の都市カジョケジの状況。同地には5日、状況を調べるため国連の平和維持活動(PKO)のチームが数日遅れで到着している。【2月8日 AFP】
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記事の最後に出てくるカジョケジは首都ジュバからは百キロ以上離れているそうですが、“カジョ・ケジでは、市民を保護するため国連のPKO=平和維持活動にあたる部隊の移動が、南スーダンの政府軍によって制限されているほか、ウガンダに逃れようとする人々を国境付近で、南スーダン政府が妨害していると指摘しています”【2月8日 NHK】とも。

キール大統領「国連も反政府側に立つことがあった」】
一方、南スーダンのキール大統領は、“国連も反政府側に立つことがあった”と、国連の対応を批判しています。

****南スーダン大統領 “国連も反政府側****
南スーダンのキール大統領がNHKの単独インタビューに応じ、国内各地で武力衝突が繰り返されていることについて、反政府勢力側に責任があり、国連も反政府側に立つことがあったと強調する一方で、PKO活動に参加する日本について「重要なパートナー」だと評価し、さらなる支援や協力に期待を示しました。(中略)

この中で、キール大統領は、南スーダンで民族対立が激しくなり、各地で武力衝突が繰り返され、治安が回復していないことについて、「反政府勢力が戦闘をやめず市民を虐殺している」として、反政府勢力側に責任があると主張しました。

また、国連が、政府軍も虐殺を行いこのままでは大量虐殺につながるおそれがあると警告したことについては、「国連は反政府側に立つことがあった」と述べて、これまでの対応に不信感を示す一方で、今後は和平に向けて国連との関係を強化していきたいという考えを示しました。

また、日本については「重要なパートナーだ」と述べ、現地の国連のPKO活動に参加している自衛隊や、JICA=国際協力機構による支援を評価し、道路などの社会基盤の整備など、今後のさらなる支援や協力に期待を示しました。【1月30日 NHK】
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日本については「重要なパートナーだ」とは言いつつも、“国連も反政府側”という認識は、今後の混乱において、国連PKOも“反政府側”とみなされる可能性があります。

政府軍による虐殺・レイプの実態
実態としては、「政府軍兵士が住民虐殺」しているとの証言が多くあります。
そうした状況にあっては、住民保護を行う国連PKOが政府軍との“衝突”だか“戦闘”だかに陥る事態も十分にあり得ます。昨年7月の混乱でも、住民や外国人に危害を加えたのは政府軍兵士でした。

****戦火を逃れ、ウガンダへ 南スーダン難民「政府軍兵士が住民虐殺」 国境地帯ルポ****
混乱が続く南スーダンで、政府軍と反政府勢力の戦闘により南部イエイの治安が悪化している。多くの住民が難民となって南隣のウガンダに流れ込んでおり、人々は「政府軍兵士が住民を虐殺している」と証言した。
 
ウガンダ北部ブシア。南スーダン国境の小さな川にかかる橋の上を、頭上に家財道具や食料を載せた女性や子どもたちが続々と渡ってくる。その多くは、戦闘が続く約50キロ北西のイエイから逃れてきた。女子学生ベエイ・サンディさん(18)は「徒歩で2週間かかった。川の水を飲み、持参したピーナツを食べつないで歩いた」。
 
国境の南スーダン側では、銃を持った男たちが、人々を検問所へと誘導するのが見えた。ウガンダ側の国境警備隊幹部は「あれは反政府勢力だ。南スーダンでは、反政府勢力が住民をウガンダへ逃がそうとしている」と話した。
 
難民たちは国境から約20キロ離れたクルバの一時保護施設に集められ、食事を与えられたり、けがの治療を受けたりしている。
 
3歳と6歳の子どもを連れて逃げてきた少数派民族の主婦ビオラ・サディエさん(22)は「多数派民族ディンカの政府軍兵士が、少数派民族の家に火をつけている。抵抗した兄が政府軍兵士に殺され、怖くなって逃げてきた」。少数派民族の女子学生ジェーン・サンディさん(20)は「政府軍兵士に見つかると女性はレイプされる。養母は抵抗したため、ナイフで首を切り落とされた」と話した。
 
無職ルワティ・アイザックさん(21)は「政府軍に見つかると、少数派民族の男性は殺される」。警察官だった父親(51)は政府軍兵士に射殺されたという。「もう南スーダンには戻りたくない」
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウガンダ国内に避難している南スーダン難民は推定約67万人。南スーダンが内戦状態に陥った昨年7月以降、1日平均2千人以上が流れ込んでいる。
 
国連安全保障理事会は23日、南スーダン各地で戦闘が相次ぎ、人道援助活動ができない状態だとして「深刻な懸念」を表明。

国連人権理事会の専門家グループも昨年12月、「複数の地域で集団レイプや焼き打ちといった民族浄化が進行している」と警告した。
 
南スーダンの首都ジュバでは、陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加している。【1月31日 朝日】
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難民の孤児問題も深刻化しています。

****目の前で両親が…」 南スーダン難民の孤児問題深刻化****
内戦状態が続く南スーダンから大量の難民が押し寄せている隣国のウガンダ北部で、戦闘で両親を失った紛争孤児の問題が深刻化している。子どもたちは心に深い傷を負っており、支援機関は早急なケアの必要性を訴えている。
 
「私の目の前でお父さんとお母さんが殺された」。ウガンダ北部のパギリニヤ難民居住区で、女子生徒ジョスカ・アミトさん(14)は涙をこぼした。昨年7月、銃を持った男4人が自宅に押し入り、両親を射殺。アミトさんは5〜10歳の3人の弟妹を連れてウガンダに逃げてきた。「これから、どうやって生きていけばいいのかわからない」。(中略)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウガンダに逃げてきている南スーダン難民約67万人のうち、約6割が18歳未満の子どもたちだ。孤児の数は把握していないが、約2万2千人が身を寄せているパギリニヤ難民居住区では「両親のいない子どもが数千人規模でいる」(UNHCR担当者)。
 
武装集団に誘拐されて、強制労働をさせられていた孤児もおり、国際NGOスタッフは「子どもたちは精神的に深く傷ついており、深刻な状態。すぐにサポートが必要だが、数が多すぎてケアが行き届かない」と訴えている。【2月8日 朝日】
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【武器禁輸に反対した日本 武器流入で危機が現実のものになったら?】
こうした戦闘の危機を抑えるため、国連安保理では、南スーダンに武器禁輸などの制裁を科す安保理決議案堕されましたが、南スーダン政府との良好な関係を重視する日本の反対などで否決されています。

****南スーダン「大虐殺発生のリスク」 国連が警告****
国連のアダマ・ディエン事務総長特別顧問は7日、南スーダン情勢について「(民族間の)大虐殺が発生するリスクが常に存在している」と警告する声明を出した。多くの避難民が隣国などに逃れ、外国からの武器の流入も続いているという。
 
ディエン氏は声明で「キール大統領は暴力を止めると約束したが、衝突が続いている」と現政府を批判。1月だけで隣国ウガンダに5万2千人超が逃れており、多くの避難民が、市民の殺害や性暴力、家屋の破壊、財産の収奪などを証言しているという。
 
南スーダンに武器禁輸などの制裁を科す安保理決議案は、米国が「民族対立が虐殺につながりかねない」として昨年主導し、各国に賛同を迫った。だが日本やロシアなど8カ国が棄権したことで廃案となった。
 
ディエン氏は安保理決議案について「広範囲に及ぶ協議にもかかわらず」廃案になったと振り返った上で、「そうこうしているうちに、武器の流入は続いている」と指摘した。(後略)【2月8日 朝日】
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武器流入が続き、結果的にもし事態が混乱すれば、その矢面に立たされるのは日本の自衛隊です。

南スーダンの情勢は“戦闘”を“衝突”と言い逃れるような“及び腰”では対処できないレベルになりつつあります。日本のPKO参加の在り方を、根本的に議論すべき時期かと思います。

統治能力を失った国における住民保護は国際社会の責務
最後に、個人的な意見を言えば、“駆けつけ警護”云々よりは、ルワンダで起きたような住民虐殺をPKOによって阻止する住民保護に重要な意義を感じています。
そのためには、しかるべき装備・人員も必要ですし、万一の場合は、犠牲者もあり得ます。

それは、厳しい現実ではありますが、住民虐殺を見て見ぬふりもできませんし、どこかの国がやってくれるだろうというのも無責任です。
どんな国でも自国部隊に犠牲がでるような活動は望んでいません。しかし、それをやらないと多大なる住民犠牲が現実のものとなります。国際社会の責務として、そのような事態を防ぐ必要があると考えます。
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