孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  北西部・部族地帯で続く「タリバン運動」(TTP)掃討作戦

2014-07-21 22:52:10 | アフガン・パキスタン

(イスラム組織による北ワジリスタンの難民救済活動も始まっているようです。 “flickr”より By Islami Jamiat -e- Talaba Pakistan https://www.flickr.com/photos/111134273@N07/14713004573/in/photolist-oq8ZED-ooaTQS-oomHfj-oo6SjF-ommdjj-oomHbb-ooobdZ-ommdBd-o6UAoB-o6TnYb-o6TwKs-ooaToQ-ooobo8-o6Twxd-oo6S6z-o6TwcV-opxwaD-oq8ZGT-o6TvMB-ojy5nH-omNoD1-o5mnvT-onzApE-o87Mvt-o87Huy-opzXDY-oisHnf-nYAXAN-oeZ8Ez-nVJCNB-nVHnXQ-okp6ZR-o4gHxo-og6taF-nYAUKh-og6ur8-nYAWTq-og6ugP-og6vqc-nYB3p3-nYBgMr-og3Fud-nYCchF-nYAVpy-og3HiJ-og3Gnf-og6uTa-ohS3Gp-ogQGAo-ogQEUs)

カラチ国際空港襲撃事件で対決へ転換
パレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍によるハマス壊滅を目指した地上戦が展開されており、いまのところ仲介国もみあたらず収束の目途が立っていません。

戦闘の拡大に伴って犠牲者も増大しており、イスラエルによるガザ地区への本格的な攻撃が始まってからのパレスチナ側の死者数は、これまでに多くの住民を含む501人に上っています。また、イスラエル側の死者も市民2人を含む20人になっています。

軍によるイスラム過激派掃討作戦ということでは、国際的にはパレスチナほどの話題にはなりませんが、パキスタンでも大規模な地上戦が展開されています。

パキスタンではイスラム原理主義武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」などによるテロが連日のように繰り返されていますが、シャリフ首相は就任以来TTPとの和平交渉を目指してきました。

軍部はこうした交渉路線には批判的でしたが、6月8日に8起きたカラチ国際空港襲撃事件で首相の和平交渉も頓挫し、全面的な対決姿勢に転換しています。
(6月22日ブログ「パキスタン イスラム武装勢力との和平交渉を放棄、全面的な掃討作戦へ 懸念される治安悪化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140622

****パキスタン:「平和になるまで」武装勢力の掃討作戦開始****
パキスタン軍は15日、北西部の部族地帯・北ワジリスタン管区に地上部隊を投入し、パキスタン・タリバン運動(TTP)など武装勢力の掃討作戦を開始した。

16日も引き続き空爆し、地元メディアによるとこれまでに少なくとも160人以上を殺害。シャリフ首相は16日、下院で「作戦は平和がもたらされるまで続く」と演説した。

だが、作戦が長引けば大量の国内避難民が発生し、政情不安を招く恐れもある。

シャリフ首相は演説で、南部カラチで8日に起きた国際空港襲撃事件を受け、作戦を決断したと明らかにした。
その上で「作戦により平和と安全がもたらされると確信している」と述べ、就任以来追求してきたTTPとの和平路線を完全に放棄する考えを示した。

ロイター通信などによると、軍は地上部隊で北ワジリスタン管区と隣接地域の境界を封鎖。隣国アフガニスタンにも国境を封鎖するよう要求した。

管区内では終日外出禁止令を出したほか、携帯電話のネットワークを遮断したという。ただ、一部の武装勢力はすでにアフガン側に逃れたとみられ、今後アフガンのタリバンと連携を深める可能性もある。

一方、TTPは16日、首都イスラマバードやシャリフ氏の故郷である東部ラホールでの報復攻撃を予告する声明を出し、海外企業などにパキスタンを離れるよう警告した。【6月17日 毎日】
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上記記事最後に書かれているTTPによるシャリフ氏の故郷である東部ラホールでの報復攻撃も、未然に防止はされましたが現実の危機となっています。

****首相邸近く潜伏、武装集団を射殺 パキスタン治安部隊****
パキスタン東部ラホール近郊にあるシャリフ首相の私邸近くで17日、民家に潜伏中の武装グループと治安部隊との間で銃撃戦が起き、少なくとも警察官1人が死亡し、武装グループの2人が射殺された。治安当局はこのグループが私邸襲撃を準備していた疑いがあるとみている。

地元テレビによると、治安当局が民家を包囲すると、武装した男らは自動小銃や手投げ弾で抵抗した。パキスタン政府・軍は、反政府武装組織パキスタン・タリバーン運動(TTP)の根拠地で軍事作戦を開始。TTPは報復を宣言していた。【7月18日 朝日】
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軍は空爆に続き、6月30日からは地上戦を開始しています。

****パキスタン、テロ掃討作戦開始から1カ月 攻勢を強めるシャリフ政権****
パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域で、パキスタン軍がテロ掃討作戦を開始して約1カ月が過ぎた。

軍は空爆に続いて地上作戦を実施し、テロリスト約500人を殺害、88カ所の潜伏場所を破壊した。

ナワズ・シャリフ政権は、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などに対する攻勢を強めている。(中略)

今月16日付のドーン紙によれば、地上作戦を行っている軍は北ワジリスタン地区の中心地ミランシャーを制圧したのに続いて、14日には第2の町、ミラリに入り、タリバン運動の幹部ら6人を殺害した。(中略)

ミランシャーでは、大量の武器と爆発物が押収された。市場ではテロに使用される即席爆発装置が公然と売られ、店の外ではタリバン運動が市民を処刑することもあったという。

町では、防弾車やアフガン警察の車両も押収された。周辺には地雷が敷設され、軍は慎重に地上作戦を進めた。

軍は15日、この1カ月でテロリスト447人を殺害したと発表。ロイター通信によると、16日には空爆で武装勢力のメンバー35人が死亡した。【7月21日 産経】
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米軍無人機攻撃も再開 パキスタン政府は批判するも・・・
シャリフ首相の和平交渉放棄に伴って、半年ぶりにアメリカによる無人機攻撃も再開されています。
 
****米、パキスタンで再び無人機攻撃―半年ぶり****
パキスタン当局者が(6月)11日、明らかにしたところによると、米国は武装勢力の拠点となっている部族地域の北ワジリスタン地区を無人機で攻撃した。米国は約6カ月間、無人機での攻撃を停止していた。(中略)

米国は無人機作戦を放棄していたわけではないが、パキスタン政府が武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)との和平交渉を進めようとしていたことから、昨年12月25日以降停止していた。
パキスタン政府は、交渉を可能にするために無人機攻撃をやめるよう米に求めていた。

現在のシャリフ首相も含めて、パキスタン内には米の無人機に対する反発が強い。

無人機攻撃は一時停止する前に既に回数が大幅に減っていたが、米国としてはパキスタン部族地域の武装勢力への攻撃にはこれが非常に有効だと考えている。

ワシントンの独立系研究機関ニュー・アメリカ財団によれば、攻撃回数は2010年に122回だったが、13年には27回にとどまった。(中略)

アフガニスタンと国境を接する無法の部族地帯はイスラム武装勢力が隠れ場所および訓練センターとして利用している。北ワジリスタンにはTTPのほかに、ハッカニ・ネットワーク、アルカイダ、ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)などの武装勢力がいる。米国は以前から北ワジリスタンを掃討するようパキスタンに圧力をかけている。(後略)【6月12日 WSJ】
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アメリカの無人機攻撃が一時停止する前に既に回数が大幅に減っていたことに関しては、パキスタン側への配慮以外にも、アメリカ側の財政事情もあるのかも。

7月16にも無人機攻撃が行われて18人が死亡しています。

****米無人機の攻撃で18人死亡 パキスタン北西部 ****
パキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で16日、米国の無人機が家屋や車両をミサイル攻撃し、地元メディアによると武装勢力メンバーとみられる少なくとも18人が死亡した。地元当局筋は死者の多くがウズベク人やアラブ人など外国人だとしている。

パキスタン軍は同地区を拠点とする武装勢力の掃討作戦に乗り出しているが、政府は米国の無人機攻撃について、パキスタンの主権を侵害していると反発している。

AP通信によると、治安当局は16日までに、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」幹部で、2003年にムシャラフ大統領(当時)暗殺未遂に関与したとされるアドナン・ラシード司令官を拘束した。【7月17日 日経】
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パキスタン政府が“パキスタンの主権を侵害していると反発”しているというのは反米世論への政治的配慮であり、実際には黙認・協力しているとも報じられています。

“米無人機による空爆も相次いでいる。16日には18人が死亡した。シャリフ政権はこれまで、米無人機の攻撃を非難してきたが、黙認あるいは協力している可能性もある。”【7月21日 産経】

ハッカニ派には1発の銃弾も当たっていない
また、シャリフ首相は「すべての外国人戦闘員と地元テロリストを例外なく一掃する。聖域は許さない」との声明を発表していますが、同じく北ワジリスタン地区に潜伏するタリバン運動と同盟関係にあり、パキスタン軍との関係が深いとされるイスラム原理主義勢力強硬派「ハッカニ・ネットワーク」は標的外にされている・・・というのが実態のようです。

****ハッカニ派は標的外****
・・・しかし、現地の住民からは、ハッカニ派はテロ掃討作戦前に逃亡したとの証言が聞かれる。
北西部カイバル・パクトゥンクワ州バンヌで避難生活を送る男性(35)は電話取材に「ハッカニ派は弾薬とともに作戦前にアフガンへこっそり逃げていった。ハッカニ派には1発の銃弾も当たっていない。これまで軍の賓客のような暮らしをしていた」と述べた。

ロイター通信も「ハッカニ派のメンバーが家族もろともいなくなったのは、彼らがここに住んでいる15年以上の間で初めてだ」との住民の話を伝えた。

タリバン運動の指導者は掃討作戦前、ハッカニ派のメンバーと会い、アフガンでの避難場所の提供を求めたが、丁重に断られたという。

部族地域を取材する地元記者は電話取材に、「アフガンのタリバンのメンバーはこの時期、アフガンでのテロのため、北ワジリスタンを離れている。軍事作戦はハッカニ派を標的にしていない」と分析し、「軍は、アフガンでテロを働くハッカニ派を戦略的に貴重な存在だとみなしており、関係を断つことはない。軍事作戦が終われば、多くのメンバーが戻ってくるはずだ」と話している。(岩田智雄)【7月21日 産経】
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ついでに言えば、アフガニスタンのタリバンもパキスタン軍・情報機関との強い関連が指摘されています。

アフガニスタンで親インド政権が強まるのを防ぎ、親パキスタン政権樹立を目指して、アフガニスタンで活動するタリバンやハッカニ派をパキスタン軍・情報機関が支援している、あるいはパキスタン軍・情報機関が事実上の黒幕的存在であると言われています。

米軍への対応、ハッカニ派の扱いなど、表と裏の世界があるようですが、間違いないのはこうした掃討作戦で大勢の住民が犠牲となっていることです。

“軍事作戦が行われている地域では多くの住民が避難を余儀なくされ、およそ47万人が国内避難民となっていて、市民生活への影響も広がっています”【7月1日 NHK】

“北ワジリスタン地区からは避難民の脱出も相次いでいる。これまでに約90万人が避難民として登録したが、地区の人口よりはるかに多いため、政府は二重登録の疑いを含めて調査している。”【7月21日 産経】

パレスチナのハマスはイスラエルへのロケット弾攻撃を行っていますが、統治機能を持った組織で、停戦が成立すれば共存も可能な組織です。(イスラエルはそのように思っていないかもしれませんが。もっとも、より過激な組織を抑えるためには、イスラエルにとっても必要な組織でしょう)

一方、TTPによるテロ活動を考えると、その掃討作戦はやむ得ないものとも思えますが、一般住民の犠牲が増えることには・・・・なかなか整理がつきません。
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ウクライナ  マレーシア航空機撃墜事件 プーチン大統領に残された最後の機会

2014-07-20 23:12:01 | ロシア

(事故現場を掌握する親ロシア派武装集団 遺品略奪や証拠隠滅も危惧されています “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/14501511719/in/photolist-o6s3d8-ookEfn-oorhjM-oovi3q-ooHzfH-ooHz2X-oovi1b-o5LLJE-opTMnF-onAAQq-ontWEu-opgu8n-oksT8q-onGyVc-o6cY4W-one1su-onwanF-onADu4-oohe64-o6zBUS-oocUkB-onZEyb-onGz24-ondwBM-okF9RL-ooi66U-o6YVEB-omrL1W-omrGJW-o6Z7SX-oo5X29-o6Z4Qd-o6Zan6-onGxMk-o5UZS8-o6ZX8H-oosBpj-oocMBH-o6YZCW-onpPNi-oogeXW-omrFAJ-o71Liq-o711Az-o6ZjmE-o71vvZ-oou8Rn-o6ZrZJ-o71uW2-oms7H7)

【「たった今、飛行機を撃ち落とした」】
ウクライナ東部で17日にマレーシア航空機が撃墜され、乗客283人と乗員15人全員が死亡した事件については、ウクライナ東部で政府軍と戦闘状態にある親ロシア派武装集団が地対空ミサイルで誤射したことを、報じられる多くの事象が示しています。

殆ど決定的と思われるのは、“自白”ともとれる親ロシア派武装集団によるSNS投稿や交信記録です。

****マレーシア機、ウクライナ親露派が軍用機と誤認して撃墜か ツイート削除****
・・・親露派は17日午後、ウクライナ軍との戦闘が続く東部の工業地帯上空を飛行中のウクライナ軍機少なくとも1機を撃墜したとの最初の一報を投稿した。

一方的に独立を宣言している「ドネツク人民共和国(Donetsk People's Republic)の自称防衛相イーゴリ・ストレルコフ氏は、ロシアの交流サイト最大手「フコンタクチェ」 の自身のページに、「たった今、トレーズ(ドネツク州の都市)近郊でアントノフ26(An-26)型機を撃墜した」と書き込んでいた。(中略)

この書き込みは直後に削除されたが、ウクライナ東部の同国軍司令部はこの投稿が表示されたディスプレーの画像を保存しており、英文の報道機関向け発表に添えて公開した。

ストレルコフ氏のものとされる書き込みでは、同機の撃墜に使用されたミサイルの詳細は明らかにされていない。しかしドネツク人民共和国は、その数時間前にマイクロブログのツイッターの公式アカウントから次のように投稿し、墜落したマレーシア航空機が飛行していた高度1万メートルまで到達可能なロシア製ミサイルを親露派が手に入れていたことを明らかにしていた。

「@dnrpress:DNRは(ウクライナの)地対空ミサイルA1402連隊から自走式ブーク(Buk)地対空ミサイルを奪った」。この投稿も後に削除された。

ロシアの国営メディアはこれらの書き込みについては言及しておらず、ウクライナ空軍がマレーシア航空機を撃墜したという親露派指導者の発言を伝えている。

■露工作員との通信で悪態
その後、ウクライナ政府を強く支持している野党系ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ(ウクライナの真実)」は、撃墜後に親露派のメンバーとロシアの工作員が行った通信を傍受して録音したとされる音声を公開した。

その中でベース(悪霊)と名乗る親露派メンバーがロシア軍情報機関将校とされる人物に対し、「たった今、飛行機を撃ち落とした」と話していた。また別の録音では、戦闘員らしき人物が飛行機の残骸が残る墜落現場から、「100パーセント間違いなくこれは民間機だ」と報告している。

この戦闘員は、乗客がたくさん乗っていたかどうかと質問されると、ロシア語で悪態をついたという。【7月18日 AFP】
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撃墜に使用された地対空ミサイルが、ウクライナ政府軍から奪ったものか、ロシアから供与されたものかはまだわかりませんが、ウクライナ保安局(SBU)報道官は19日、撃墜に使用されたBUKミサイルが対ロシア国境から持ち込まれ、事件後にロシア側に戻されたことを示す写真などを根拠として、使用にロシア人要員が関与していたと主張、「ロシアはテロの証拠隠滅を図っている」と強く非難しています。

BUKミサイルの使用には専門的知識が必要とされ、アメリカもウクライナ政府同様に、「ロシアから技術支援があったことを除外できない」(パワー国連大使)と断言しています。

オバマ米大統領も、ミサイルは親ロシア派支配地域から発射された証拠があるとして、親ロシアを支援するロシアの責任を厳しく指摘しています。

****親ロ派地域からミサイル=マレーシア機「撃墜の証拠」―米大統領****
オバマ米大統領は18日、ホワイトハウスで記者会見し、ウクライナ東部でのマレーシア機墜落に関して「ロシアが支援するウクライナ国内の親ロシア派支配地域から発射された地対空ミサイルで撃墜された証拠がある」と明言した。

撃墜の実行者や指揮系統、意図については「何が起きたのか正確には分かっていない」と語り、独立した調査結果を待つ方針を示した。

大統領は「この言語道断の出来事に関与した者に責任を取らせる」と表明。真相究明への国際調査の実施に向け、ロシアと親ロ派、ウクライナは即時停戦を受け入れなければならないと呼び掛けた。

さらに「親ロ派はロシアから武器や訓練、重火器、対空兵器の支援を受けている」と批判し、ロシアのプーチン大統領に対し、兵器供与の停止を決断するよう重ねて促した。ロシアが緊張緩和への措置を講じなければ、今後も代償を支払わせると警告した。

一方、国防総省のカービー報道官も18日の記者会見で、マレーシア機が「(旧ソ連製の)地対空ミサイルSA11(ブク)によって撃墜された強い証拠がある」と説明。また、親ロシア派が車両搭載型の対空兵器に関してロシアから訓練を受けているのは間違いないと強調した。【7月19日 時事】 
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そのほか、ウクライナ東部では14日にもウクライナ政府軍輸送機が撃墜されていること、親ロシア派は戦闘機等を保有していないので政府軍には地対空ミサイルによる航空機攻撃の理由がないこと・・・等々を含め、上記のように状況的には“真っ黒”な親ロシア派です。

親ロシア派はロシアからの武器支援で急速に戦闘力を高めてきました。
ただ、戦闘機は保有しておらず、制空権を有する政府軍の空爆にさらされており、この状況を打開するために地対空ミサイルを使用したものと推測されます。結果的にはこれが自らの首を絞めることになりました。

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親ロシア派が東部ドネツク州などの庁舎占拠を始めた4月には自動小銃や手投げ弾程度だった武装集団の装備は、わずか3カ月の間に著しく増強された。

14日に動画サイトで公開された「親ロシア派武装勢力が東部で行進する様子」の映像は、かつてロシアの主力戦車だった「T64型戦車」のほか、ロシア軍の装備として有名な「BM21(多連装ロケット砲)」など軍用の重火器がずらりと並ぶ。武装勢力単独では入手不可能な兵器ばかりだ。

ポロシェンコ大統領が6月に就任してから、ウクライナ軍は親ロシア派に対する空爆を強めていた。
親ロシア派は戦闘機を保有していないからだ。

親ロシア派が次第に入手し始めたのは地対空ミサイル。空爆に対抗しようと、流れ込んでいた兵器が、民間機の撃墜につながった可能性がある。【7月20日 朝日】
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【「プーチン大統領には今こそロシアが協力する意志があることを世界に示す最後のチャンスだ」】
こうした事態を受けて、国際的批判の矛先は上記オバマ発言のように、親ロシア派の後ろ盾となり、ミサイル等の武器を供与し、その使用を支援し、事態沈静化への影響力を行使していないロシア・プーチン大統領に向けられています。

ロシアとの経済的関係が強い欧州は、これまで対ロシアでは足並みが乱れたり、やや自制的なところが目立ちましたが、犠牲者の多くをオランダ国民が占め、ドイツ国民も含まれることなどもあって、民間機撃墜という暴挙にロシアに対する対応を硬化させています。

また、事故現場の調査や遺体収容が親ロシアの非協力的対応で進まないことにも関係国が苛立ちを強めており、この点でもロシアに早急の対応を迫っています。

****オランダとロシアの首脳 電話で激しいやり取り****
マレーシア航空機の撃墜で、最も多い193人の犠牲者が出たオランダのルッテ首相が19日、記者会見し、遺体の収容や調査が進まない現状についてロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、激しいやり取りを交わしたことを明らかにしたうえで、「プーチン大統領には今こそロシアが協力する意志があることを世界に示す最後のチャンスだと伝えた」と述べ、ロシアに対し親ロシア派に影響力を行使するよう強く求めました。【7月20日 NHK】
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****経済的な結びつきが強い欧州も離れつつある****
「ロシアはウクライナ問題に責任を負っている。ロシアの大統領と政府は政治解決に向けて役割を果たすべきだ」。ドイツのメルケル首相は18日の記者会見で、いつもより厳しい表現でロシアに対応を迫った。

ドイツは天然ガスの3割以上をロシアに頼り、ロシアに一定の理解を示す世論も根強かった。だが独国民4人が死亡した墜落事件で風向きは変わりつつある。

欧州連合(EU)の変化はロシア経済にとって深刻だ。同国の金融市場では、16日の米国の追加制裁を受け、すでに株や通貨ルーブルが売られている。輸出も輸入も約4割を依存するEUが米国の制裁に同調すれば、影響ははるかに大きい。【7月20日 朝日】
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プーチン大統領は、戦闘状態を招いたウクライナ政府に事故の責任もある・・・としていますが、日増しにロシア・プーチン大統領の責任を問う国際圧力が強まっています。

ロシア・プーチン大統領としては親ロシア派勢力を支援することでウクライナ情勢を不安定化させ、連邦制や自治権などで、できるだけロシアに有利な方向に持って行こうという戦略でしたが、民間航空機撃墜という想定外の事態で非常に苦しい立場に追い込まれつつあります。

このまま放置すれば、アメリカ・欧州の制裁措置は更に強化され、ロシア経済への悪影響も強まります。

クリミア併合を巡り主要国(G8)から排除されたばかりですが、“多数の犠牲を出したオーストラリアでは、11月に(自国の)ブリスベンで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に「ロシアのプーチン大統領を呼ぶべきではない」との声が高まっている”【7月20日 朝日】というように、国際的孤立が決定的となってしまいます。

中国は欧米のロシア批判には同調しないでしょうが、ウイグル族やチベットの問題を抱えて、ロシアの“分離独立”支援に協調することも難しいでしょう。

ロシアの政治的・経済的な得失を考えれば、プーチン大統領にとっては、親ロシア派勢力を見限る方向で舵を大きく切るべきタイミングでしょう。

昨日まで言ってきたことと全く違う言動をとったとても、国際的には“君子豹変す”で、不整合性・矛盾などの指摘は無視すればいいだけです。
ロシアの協力を必要としている欧米も、その点をあまりつつくこともないでしょう。

問題は、これまでロシア民族主義を煽ってきた国内がそれでおさまるか・・・というところでしょう。
もちろん自由な批判を許さない強権的政権ですからおさまるのでしょうが、大統領の威信が揺らぐ・・・ということは懸念するところでしょう。

****プーチン大統領は正念場に直面している*****
・・・・この危機を解決する鍵を握るのは、究極的にはプーチン氏だ。
自分が命令すれば事態を動かせる内に、なんとかしなくてはならない。

プーチン氏のせいで地元ロシアの国営メディアは、分離独立派を支持する論調で大騒ぎしており、このままいくと下手をすると行き着くところまで行ってしまう。

ウクライナ東部ではプーチン氏のせいで、重装備の武装勢力が好き勝手をしており、プーチン氏も制御しきれずに苦労している。

ウクライナの紛争はとんでもなく制御不能になりつつある。MH17の悲劇がこのことを悲惨な形で露わにした。方向転換するにしても、プーチン氏は急がなくてはならない。残された時間はほとんどない。【7月18日 フィナンシャル・タイムズ】
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インドネシア・アフガニスタン・ミャンマーそしてタイ 民主主義は貧しい国々には享受できない贅沢なのか?

2014-07-19 23:05:39 | 東南アジア

(7月12日 ケリー米国務長官の仲介後に“和解”を演出するアブドラ(右)、ガニ(左)両候補 本当の和解になるのか・・・? “flickr”より By U.S. Department of State https://www.flickr.com/photos/statephotos/14450241810)

インドネシア:集計操作による“逆転負け”を危惧するジョコ氏
自由で公正な選挙による民意の反映が民主主義の根幹をなすことは言うまでもないことですが、選挙における不正や、選挙結果を敗者側が受け入れないなどで、特に民主主義が定着しきれていないような国においては選挙が政治・社会の混乱を助長することも珍しくありません。

庶民派のジョコ・ウィドド・ジャカルタ州知事(53)と、スハルト元大統領の元娘婿で、軍のエリートであるプラボウォ・スビアント氏(62)の争いとなったインドネシアの大統領選挙については、7月9日ブログ「インドネシア大統領選挙 ジョコ氏勝利宣言 社会的課題:宗教的不寛容と腐敗・汚職」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140709)で、民間調査機関が出す非公式の開票速報によると、ウィドド氏が逃げ切ったようだ・・・と書いたのですが、プラボウォ陣営は敗北を認めておらず、22日発表予定の公式結果次第では混乱も懸念されています。

****インドネシア大統領選1週間 譲らぬ「勝利確信」 2候補の対立激化****
インドネシア大統領選は16日で投開票から1週間となる。選挙管理委員会が22日までに発表する公式結果を前に、民間調査で劣勢とされたグリンドラ党のプラボウォ・スビアント候補(62)=元陸軍戦略予備軍司令官=は、勝利を「確信している」とアピールする一方、連立政党への締め付けも強化する。

当選が確実視される闘争民主党のジョコ・ウィドド候補(53)=ジャカルタ特別州知事=の陣営との対立は選挙後も過熱し、不正集計の懸念も高まっている。(中略)

 ◆不正集計も懸念
有利だと伝えられるジョコ氏の懸念は、集計操作による“逆転負け”だ。集計作業は町単位まで進み、今後は県や州レベルで行われる。

ただ、英字紙ジャカルタ・ポスト(電子版)は15日、ジョコ氏に不利な操作が行われているという地方選管幹部の証言を伝えた。

プラボウォ氏も「多くの投票箱が盗まれたと報告を受けた。不正があれば証拠を集める必要がある」とし、選管の結果次第では憲法裁判所に異議を申し立てる構えだ。

憲法裁の結果が確定する8月下旬まで、混乱が続く可能性もある。【7月16日 産経】
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問題は多々あるにせよ、インドネシアはそれなりの民主主義を実現してきた国です。

そのインドネシアで選挙が失敗するということになると、政治的基盤の十分でない国において、そもそも民主主義は達成できるものなのか?実態にそぐわない制度なのか?という懐疑的な見方にもつながります。

****模範的な民主的移行」か「選挙の大失敗」か****
国が岐路に立っていると表現するのは、月並みな決まり文句だ。

だが、今後数週間に何が起きるかによって、インドネシアは「模範的な民主的移行」という印の付いた道を進むか、さもなければ「選挙の大失敗」という標識で示された別の道を進む可能性がある。(中略)

しばしば模範として引き合いに出される国がうまくやり遂げられないのだとすれば、もしかしたら民主主義は本当に、貧しい国々には享受できない贅沢なのかもしれない。

そのため、インドネシアが選挙の行き詰まりにどのように対処するかが地域全体で注視されている。(後略)【7月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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アフガニスタン:「全票調査」で国の分裂が回避できるかの瀬戸際
もうひとつ、選挙結果が保留状態になっている国があります。アフガニスタンです。

アフガニスタン大統領選挙の1回目投票ではリードしたアブドラ元外相ですが、決選投票ではガニ元財務相の逆転が報じられています。

アブドラ元外相は大規模な不正によるものだとして受入を拒否、アメリカのとりなしもあって全票を調査するという事態となっています。

****アフガニスタン大統領選 全票調査開始****
アフガニスタンの大統領選挙で大規模な不正が行われた疑惑が持ち上がっている問題で、17日からおよそ800万票に上るすべての票について、不正がなかったかを確認する調査が始まり、混乱の収拾につながるか注目されます。

アフガニスタンの大統領選挙の決選投票は、暫定結果でガニ元財務相がアブドラ元外相を10ポイント以上、上回りましたが、これに対しアブドラ元外相が大規模な不正があったとして受け入れを拒んだため、先週、アメリカの仲裁によって有権者が投じたおよそ800万票すべてについて、不正がなかったかを確認する調査の実施が決まりました。

これを受けて選挙管理委員会は17日、首都カブールで国連などの支援のもと調査を始めました。

調査は3週間から4週間かけて行われる予定で、決戦投票に臨んだ2人の候補は今後、出される調査結果に従うとしており、選挙を巡る一連の混乱が収拾されるのかが注目されます。

アフガニスタンでは、駐留する国際部隊の大部分がことし末までに撤退する予定で、新たに選ばれた大統領が、国内の異なる民族を結集した挙国一致の体制を築けるのかが今後の課題となりそうです。【7月18日 NHK】
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両者の対立の背景には、アブドラ元外相を支持する少数派のタジク人、ガニ元財務相を支持する多数派のパシュトゥン人という民族対立があるだけに厄介です。

今回の“逆転劇”はパシュトゥン人が多い地方で予想を大きく上回る投票率となったことによるものですが、それがまっとうな投票なのか、選挙管理委員会ぐるみで100万票規模の不正があったのか・・・。
(ガニ氏が地盤とする東部ホースト州では1回目に比べ決選投票では得票が4・6倍に、南部カンダハル州で7・6倍に増加しています。)

すでに選管事務局長が、ガニ氏得票を水増しする不正を指示した盗聴テープを暴露され、辞任に追い込まれています。

アブドラ陣営はガニ氏勝利の結果を認めず、自分たちの政府を別に立ち上げることも宣言する事態となっており、国家が二つの政府に分裂する危険をはらんでいます。

周知のようにアフガニスタンはタリバンとの戦いに未だ決着がついていませんが、今年末までに米軍など外国戦闘部隊が撤退するスケジュールで動いています。

そんな折に、“ふたつの政府”などといった事態になれば、国家は破綻します。
インドネシアよりはるかに重大な危機に瀕しています。

アメリカとしても、事態がこれ以上混乱すれば膨大な流血を犠牲として得た結果が吹き飛んでしまいますので、“支援打ち切り”をちらつかせながら両者の協力を取り付け、なんとか穏便に選挙を乗り越えようとしています。

ただ、「全票調査」といっても大変な作業ですし、一体どうやって不正の有無を確認するのでしょうか?

****800万票が対象****
・・・合意を受けて、全国34州に保管されている投票箱をカブールに運ぶ。運搬を、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)が担当する。

その後、両陣営の立ち会いの下で、800万票を検査する。

投票用紙につけられた印などから不自然さを感じ取り、不正を認定する微妙な作業で、両陣営を同時に納得させるのは、困難が予想される。

検査を監督する国連のクビシュ氏は「票の検査の信頼性を確保するため、国際機関は一刻も早く監視団を派遣してほしい」と要請した。

ケリー氏は「両者は検査結果に従うと約束した」と強調。支持者らを検査後に納得させられるのか、両候補の手腕が問われる。(後略)【7月14日 朝日】
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記名式ならまだしも、印では・・・・。なかなか不正有無の判断は難しいのでは。

前回大統領選挙でも不正が問題となり、国際的な圧力で心ならずも決選投票を強いられる形となったカルザイ大統領と、不正を問題視するアメリカの関係悪化を招きました。

その遺恨もあって、今回の選挙の国際管理を拒んだカルザイ大統領にも大きな責任があります。

アブドラ氏に関しては、国際圧力で決選投票を行うことになった前回選挙でも、公正な選挙が期待できないとして決選投票をボイコットした経緯があり、同氏の不正の訴えについては「またか・・・」という空気も国内にあるようです。

現実問題としては、アフガニスタンのような事情・状況にある国では多少の不正が行われるのはやむを得ない現実です。すべての不正を問題視しては選挙が成立しないのが実態です。

100万票規模といった大規模不正が行われたことが明らかにならなければ、多少の問題はあったとしても選挙結果を受け入れることが必要でしょう。

全票調査実施にあたって、“敗れた側が新政権に参加することでも合意した”【同上】と報じられています。
そのような穏便な結果になることを願います。

ミャンマー:大統領を目指すスー・チー氏を阻む壁
大統領選挙への出馬資格で揉めている国もあります。ミャンマーです。

軍事政権時代に制定された現行ミャンマー憲法は、最大野党の国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏(69)の大統領就任を事実上禁じる内容となっています。

従って、スー・チー氏が大統領に挑戦するためには、スー・チー排除を念頭に置いた現行憲法の改正が必要となります。

しかし、憲法改正を審議するミャンマーの上下両院合同委員会は6月、大統領資格に関する条項を対象としない決定を下しています。

大統領を目指すスー・チー氏は巻き返しを図ろうと、国内外で活動を活発化させています。

****スー・チー氏、アウン・サン将軍暗殺の日に演説****
ミャンマー独立の英雄、アウン・サン将軍の暗殺から67年となる19日、実の娘で最大野党、国民民主連盟のアウン・サン・スー・チー党首が、ヤンゴンの連盟本部で演説した。

スー・チー氏は「かつて国民は独立のため団結した。今は民主化のため手を携えなければならない」と述べ、民主化路線への意欲を示した。

英国人と結婚し子供をもうけたスー・チー氏は、外国籍の配偶者、子弟がいる人物の大統領就任を禁じた憲法の条項改正を訴える。

国民民主連盟は、条項改正を求めて5月に署名運動を開始し、19日が運動最終日となった。300万人以上が署名したとされ、近く議会に提出されるが、改正論議が高まるかどうかは不透明だ。【7月19日 読売】
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一方、自分たちに都合の悪い結果が予想される選挙の実施を拒否し、クーデターを起こし、選挙制度を変更してしまおう・・・というのがタイです。

タイの話は長くなりそうなので、また別の機会に。

そんなこんなで、アジアの国々を見渡しても、“自由で公正な選挙による民意の反映”というのはなかなか難しい課題であり続けています。
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イスラエル  ガザ地区地上戦を開始 懸念される住民犠牲の増大

2014-07-18 22:37:08 | パレスチナ

(“flickr”より By hassan abu alzait https://www.flickr.com/photos/125807054@N05/14674449044/in/photolist-o5rDqG-ojUu2u-o5rChj-omJos9-o5sKbp-omWqpH-ooGgst-ooGgDa-o5rCdG-o5rCqW-omWq5z-o5rJDr-omJqDd-o5sKD8-ooGh6H-o5rCZm-o5rQu3-ooGfRZ-o5rMjM-o5rKpe-ooGhDg-ooVxbB-ooVAiP-onaH6n-o5F4Ba-ooWAgn-onbFrZ-o5G7kJ-ooWzBr-o5G3Mx-omUiQa-ooWAmT-omYCKQ-ona6ZC-ok9MJf-ok9Nib-o5G6do-onbFTF-ooX7PM-opdSJa-o5naBy-omYQwA-onbYdz-okai47-ooBbKH-o5mCCD-o5YkEM-omUPnM-oka1FC-o5XnT7)

侵攻の目的は「トンネルを破壊することだ」】
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘブロン近郊のユダヤ人入植地で、16~19歳のイスラエル人3人が行方不明になり、6月30日に遺体で発見。

イスラエルに敵対するハマスの犯行と断定するイスラエルの厳しい捜査にパレスチナ側で高まる反発。

イスラエルが実効支配する東エルサレムで7月2日未明、パレスチナ人の少年が拉致・殺害されるという“報復”と見られる事件が発生。(この件に関しては、未成年を含むユダヤ人の男6人が逮捕され、「国粋主義的な動機」で犯行に及んだとされています。)

両事件を契機に、ガザ地区からのハマスなどによるロケット弾攻撃とイスラエルによる空爆が8日頃から本格化する形で対立はエスカレート。

そして17日には、懸念されていたイスラエル軍による地上戦開始という最悪のシナリオをたどっています。
ガザ地区での地上戦は2009年1月以来です。

“ネタニヤフ首相は17日夜、地上侵攻の理由について、「ハマスがエジプト主導の停戦案を受け入れず、イスラエルへの攻撃を続けた」との声明を発表した。首相はその上で、侵攻の目的を「トンネルを破壊することだ」と述べ、ハマスが武器搬入などに使う地下トンネルへの攻撃を挙げた。”【7月18日 読売】

地下トンネルを叩くには地上戦しかない・・・との判断です。

****ガザのトンネル、クモの巣状…ハマス移動に活用****
イスラエル軍が17日、イスラム主義組織ハマスの拠点、パレスチナ自治区ガザに侵攻したのは、地下トンネルを使ったハマスのイスラエル領侵入が発覚し、これを阻止するには地上作戦しかあり得ないと判断したためだ。

軍はトンネルを徹底的に破壊し、イスラエルへの攻撃を絶つ戦略を描いているとみられる。

イスラエル政府筋によると、地上侵攻の直接の契機は、17日早朝、ガザ地区からハマスの武装集団13人が地下トンネルを使ってイスラエル側に入り、ロケット砲などで農園を攻撃しようとしたことだ。

未然に発見したイスラエル軍が空爆により撃退したが、政府内では、トンネルがイスラエル住民の生活圏に接近していたことに衝撃が広がったという。

イスラエル軍は今回、地上作戦の主要な目標として、「トンネルを通じたテロリストの侵入を防ぐこと」を挙げた。

トンネルは、ガザの地下にクモの巣のように張り巡らされ、ハマスの移動経路となり、テロ攻撃やイスラエル兵の誘拐などに使われてきた。ハマスによるロケット攻撃の発射拠点はトンネル内にも隠されていた。

トンネルは住宅密集地の下にもあるため、空爆だけでの破壊は不可能だ。

今年3月にハマスの政治集会で演説したハマス指導者のイスマイル・ハニヤ氏は、「イスラエルは我々の地下からの攻撃に恐れおののく」と警告。

これに対し、強硬右派のリーベルマン外相は、「トンネルを破壊するには、ガザ地区を占領するしかない」と訴えてきた。

イスラエル首相府は地上戦について、「ハマスによるイスラエルへの危険な侵入に対して市民を防衛する義務がある」との声明を発表した。【7月18日 読売】
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国外の後ろ盾を失い追い詰められたハマスの“賭け”】
ハマスとイスラエルの衝突は2012年11月にもありましたが、このときは“ハマスの源流であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が主導するエジプトのモルシー政権が早くから仲介に乗り出し、イスラエルが地上侵攻に乗り出す前に停戦合意が成立。ハマスは、ガザ封鎖の緩和や、エジプトがそれを保証することなどの「外交的成果」を挙げた。”【7月18日 産経】と言う形で地上戦は回避されました。

しかし“今回、エジプトのシーシー政権が提示した停戦案は、無条件での戦闘停止後に停戦合意の詳細を協議するとするもので、ガザ経済の改善に向けて封鎖解除を強く求めているハマスにとっては不十分な内容だ。同政権がハマスに不利といえる提案をしている背景には、敵対する同胞団と緊密な関係にあるハマスを弱体化させたいという、イスラエルと共通した思惑がある。”【同上】ということで、地上戦突入となっています。

2008年末の衝突から09年1月の地上戦に突入した際には、地上作戦はイスラエルが一方的に停戦を宣言するまで2週間にわたって続き、この衝突によるガザの死者は1400人超に上っています。

ハマスがエジプトの停戦案を拒否してイスラエルとの衝突に突き進む背景には、シリア・エジプトの支援を失い、追い詰められている状況があるとも指摘されています。

****ハマスが挑む「最後の戦い****
エジプトの政変が打撃に
・・・・そもそも、最近のハマスは苦しい状況に追い込まれている。
対立してきたマフムード・アッバス議長率いるパレスチナ自治政府と歩み寄り、6月に暫定統一政府を発足させたのも、おおむね弱さの表れと見なせる。

ここにきて、ハマスは国外の後ろ盾を失いつつある。既に数年前に、長年支援を受けてきたシリア政府と決別。拠点をシリアからカタールに移した。

エジプトの政治状況も大きな打撃になっている。昨年7月の軍事クーデターで、ハマスの設立母体であるイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が政権を追われた。その後、新政権を主導してきたアブデル・ファタハ・アル・シシ現大統領は、同胞団を非合法化し、幹部を容赦なく逮捕・殺害している。

シシはエジプトとガザの問のラフア国境検問所も封鎖。ごく短時間、人道目的に限ってのみ通行を許している。
エジプト軍は、エジプトとガザを結ぶ非合法の地下トンネルも徹底的に破壊した。ガザヘの重要な物資供給ルートだったトンネルが使えなくなったため、小麦粉から高級自動車、さらにはありとあらゆる武器に至るまでの密輸が困難になった。

追い詰められた末の賭け
この結果、ガザでハマスの威信が大きく低下している。しかもアッバスは、暫定統一政府の設立で合意した後も、ハマスがカタールからガザに送金することを阻み続けている。

ガザのハマス職員への給料は何力月も支払いが遅れており、乏しくなる一方の予算をめぐる派閥対立も激化し始めた。

6月に3人のイスラエル人の少年が誘拐・殺害される事件が起きて以降、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区でハマスの施設を徹底的にたたいている(アッバス率いる自治政府がこれを暗黙に支援しているケースもあるようだ)。ハマスのメンバーが大勢逮捕されているほか、系列の慈善団体が閉鎖され、銀行口座が凍結された。

ハマスの側には、暫定統一政府を樹立することを通じてガザだけでなく、ヨルダン川西岸でも政治的影響力を取り戻したいという思惑があった。しかし現実には、ガザに撤収せざるを得なくなっている。

現在の戦闘を引き起こした大きな原因の1つは、追い詰められたハマスが捨て鉢の賭けに打って出たことだと、テルアビブ大学のウジ・ラビ教授はイスラエル・ラジオで指摘している。

その賭けが当たってハマスが巻き返しに成功するのか、それとも裏目に出て大きな打撃を被ることになるのか・・・すべては今回の戦いで決まる。【7月22日号 Newsweek日本版】
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イスラエルに包囲されて厳しい封鎖状態にあるガザ地区がこれまでやってこれたことの方が不思議なことです。
エジプト国境の地下トンネルが生命線になっていましたが、エジプトの政変でその生命線が断たれてはガザ地区・ハマスの置かれた状況は厳しいものがあります。

アッバス議長の自治政府も、イスラエルによるハマス弱体化を黙認している・・・というは、さもありなんという感はあります。

ただ、イスラエルによる犠牲者が増え続けるなかでこれを黙認すること、あるいは戦闘停止に向けた存在感を示せないことは、パレスチナ住民の支持を失ない、存在意義を問われる大きな危険もあります。

ハマスにしてみれば、ここで妥協してもジリ貧にしかならない、それぐらいなら賭けにでようか・・・という流れでしょうか。イスラエルへのパレスチナ住民の怒りは、イスラエルと敵対するハマスの存立を支えます。

ハマスの停戦拒否の背景として、現在ハマスを支援しているカタールとトルコの関与を指摘する向きもあります。

****ガザ侵攻:停戦交渉巡り、乱れる周辺国の足並み****
・・・・イスラエルメディアによると、エジプトが14日に提示した停戦案をハマスが拒絶した背景には、カタールとトルコが拒否するよう促したとの情報もある。

カタールやトルコは、仲介に加わって交渉をハマス有利に進めたい思惑があるとみられる。

15日にはカタールのタミム首長とトルコのギュル大統領が会談し、ガザ情勢を協議した。
だがイスラエルは交渉がハマス寄りに進むことへの警戒感から、両国が仲介に加わることに否定的だ。【7月18日 毎日】
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住民犠牲をこれ以上増やさないことが最優先されるべき
カタールやトルコの仲介とは言っても、イスラエル軍が地上戦に突入した今となっては、地下トンネル・ロケット弾施設を徹底的に破壊するという目的を達成する以外にイスラエルが攻撃を止める要因としては、パレスチナ住民の犠牲者が増大して国際的な圧力が高まったときしかないでしょう。

しかし、ウクライナでのマレーシア航空機撃墜という事態を受けて、国際的関心も分散されてしまいかねません。

パレスチナ住民の夥しい血が流されることでしか事態が動かないというのは、愚かしいことです。
住民の犠牲を顧みず、勝算のない戦いに突き進むハマスは、住民の命を軽んじている点ではイスラエルと同じです。
速やかな停戦を行うべきです。
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日本のヘイトスピーチ問題 フランスでは差別発言に異例の厳しい判決

2014-07-17 22:55:49 | 世相

(「トビラは政府ではなくて木にでもぶらさがっているほうがいい」との差別発言を受けたフランスのクリスチャーヌ・トビラ法務大臣 “flickr”より By Parti socialiste https://www.flickr.com/photos/partisocialiste/8557076111/in/photolist-e3afB2-e3ahzB-e3aqpM-e3asBi-e3a9xz-e3fPiA-e3fNDs-hUYcwG-eaeG1X-hUJNLN-hUNseq-hUK4QA-hUNLqL-hUK7Gq-iazJjD-c4Btzb-ninU6B-c4BtFm-c4Bu6m-c4BeMb-c4B9Jy-fLuqjH-fLLYih-geYoMr-bBaYs5-hUJMNV-hUNZWn-dePgyt-dePgvc-deN7Qa-deN7wC-o79QmT-nPYAGk-nPXUVN-9CvjMU-fZcc8u-4mDV5o-4mDV83-cqf1MS-dRYPnS-iYwFhF-iYwF6D-c4BtsU-c4GeZh-c4Bzd3-c4Baub-c4BgAE-c4BtTA-c4Bsf1-c4BaWS)

日本政府:国連人権委でヘイトスピーチ規制に慎重姿勢
日本では、「朝鮮人を日本海にたたき込め!」といった類の“人種や民族などを理由に差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)”自体を取り締まる法律は存在しません。

******************
ただ、刑法において、一般的にヘイトスピーチとされる「特定人物や特定団体に対する偏見に基づく差別的言動」は、侮辱罪や名誉毀損罪の対象であり、差別的言動の被害が具体的になれば、事例によっては脅迫罪や業務妨害罪の対象となる。

しかし、ヘイトスピーチであっても、特定しきれない漠然とした集団(民族・国籍・宗教・性的指向等)に対するものについては、侮辱罪や名誉毀損罪には該当しない。(中略)

法規制の必要性の是非については、ヘイトスピーチが「表現の自由」を逸脱した人権侵害に当たるとして法規制が必要であるとする意見や、「表現の自由」に基づく正当な言論活動が規制される可能性への懸念から法規制は不要であるとする意見がある。【ウィキペディア】
*******************

国連人権委員会でこの問題が取り上げられています。

****国連人権委:ヘイトスピーチに懸念 日本政府に法整備促す****
ジュネーブで開催中の国連のB規約(市民的、政治的権利)人権委員会は16日までの2日間、日本の人権状況を審査した。

人種や民族などを理由に差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)が広がる現状に懸念が示され、日本政府に法整備など具体的な対策を促す声が上がった。

イスラエルのシャニイ委員は、日本で昨年、在日コリアンらを排斥するデモや街宣が360回以上行われたとの報告があると指摘。ヘイトスピーチを禁止する「具体的な法律はないのか」とただした。

日本政府の代表は、不特定多数の集団に向けられたヘイトスピーチ自体の規制は「表現の自由との関係から慎重に検討する必要がある」と答弁。差別や偏見の解消に向けた啓発活動に努めているとの説明に終始した。

シャニイ委員は「人種的憎悪の唱道」を法律で禁止するとした国際人権規約の条項に触れ、「被害者が提訴できない場合もあり、国が抑制するのが好ましい」と述べ、刑法改正などによる取り締まりが必要と指摘した。

複数の委員が袴田事件に触れ、死刑制度や代用監獄の問題が指摘されたほか、特定秘密保護法がメディアを萎縮させるとの懸念も出た。

従軍慰安婦を「性奴隷とするのは不適切」とした日本政府の見解に傍聴席から拍手が起き、委員長が苦言を呈する一幕もあった。

対日審査は2008年以来6年ぶり。改善勧告などを盛り込んだ「最終見解」を今月下旬に公表する。(後略)【7月17日 毎日】
******************

「一部の国、民族を排除する言動があるのは極めて残念なことだ。日本人は和を重んじ、排他的な国民ではなかったはず。どんなときも礼儀正しく、寛容で謙虚でなければならないと考えるのが日本人だ」(安倍首相)と言いつつも、「『正当な言論までも不当に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとること』を検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の扇動が行われている状況にあるとは考えていない」(外務省)というの現在の方針です。【ウィキペディアより】

ネット上では“人種差別思想の流布や人種差別の扇動”としか言えない罵詈雑言にあふれているようにも見えますが・・・。

もっとも、新大久保などコリアタウンでの「在特会」などによるヘイトスピーチに関しては、現在ではむしろこれを敵視する「レイシストをしばき隊」や「男組」など「反ヘイト団体」の威圧的、時に暴力的行為が問題化している・・・との報道もあります。
(“「反差別」という差別が暴走する”【6月24日号 Newsweek日本版】)

また、日本からすれば、中国・韓国において、反日デモで見られるような反日ヘイトスピーチが放置されていることは承服しがたいものがあります。だから日本でも許されるというものでもないでしょうが。

もてはやされるポリティカリー・インコレクトな発言をする人々
欧米各国も差別的表現の問題はあります。

アメリカは人種のるつぼですから当然に人種差別には敏感ですが、人の心の中に巣食う差別の根は深く、しばしば差別的言動が問題となっています。

ドイツでは、ナチスにつながる表現、ホロコーストの否定などが問題となります。

フランスでは、かつてのアフリカ植民地支配、奴隷制度に関する言動が問題となります。

2001年には、フランスが「過去の奴隷制度は人道に反する罪であった」と認める法が成文化され、公立学校では奴隷制に関する授業や討論会を義務づけられるようになっています。

この施策を推進したのがフランス領ギアナ出身の黒人女性であるクリスチャーヌ・トビラ法務大臣ですが、彼女に対する差別的発言が大きな問題となっています。

この問題は、「黒人女性大臣への差別発言が示すフランスの人権感覚」(2013年12月13日 プラド・夏樹氏 WEBRONZA http://webronza.asahi.com/global/2013121300004.html)に詳しく紹介されています。

昨年10月25日、アンジェ市を訪れたクリスチャーヌ・トビラ法務大臣が、11歳の女の子に「このバナナは誰のでしょう?雌猿のです!」と野次られた事件がありました。

この発言は11歳子供の発言でもありますが、これに続いて極右翼政党「国民戦線」のアンヌ・ソフィー・ルクレール氏が「トビラは政府ではなくて木にでもぶらさがっているほうがいい」とツイートし、極右翼雑誌『Minute』は「猿のように賢いトビラはバナナをみつける」というコメント入り表紙を発表するという差別表現が相次ぎました。

アンヌ・ソフィー・ルクレール氏は「国民戦線」所属の地方議会選挙の女性候補者でした。

プラド・夏樹氏の記事によれば、当時のフランス国内の反応は鈍かったようです。
しかし、さすがに次第に大きく取り上げられるようになり、ルクレール氏は提訴され、「国民戦線」は彼女を除名しました。

提訴の具体的内容は知りませんが、この裁判の判決は「禁固9か月」という極めて厳しいものでした。
(“French ex-National Front member jailed for chimpanzee image” 7月16日 BBC http://www.bbc.com/news/world-europe-28326179

今朝のフランスTVニュースでも取り上げていましたが、これまでの差別発言にかんする訴訟の多くは罰金刑であり、司法がこの種の問題に新たな前例をつくろうとしていることの表れと論じていました。

ルクレール氏は上告し、「国民戦線」も判決を批判しています。

フランスにおける差別的表現は、サルコジ政権時代に目立つようになりましたが、プラド・夏樹氏は前出記事で以下のように指摘しています。

*******************
同時期に、元左派でありながらサルコジ元大統領の思想に賛同して右傾化した人々、ネオ・コンセルヴァタールと呼ばれるインテリ層やジャーナリストが、それまでタブーとされていたヘイトスピーチを露骨にメディア上で行うようになった。

彼らは、「ポリティカリー・コレクトなことばかり言っていても仕方ない、みんなが心の底で思っていることを敢えて言おう」というスタンスで、イスラム教徒やユダヤ人、ロマ人や黒人に対する、以前ならば禁句であったショッキングな差別的発言を行ない、注目を浴びるようになった。

いまや、ポリティカリー・インコレクトな発言をする人々が、テレビのプライムタイムでスターとなっている。
【「黒人女性大臣への差別発言が示すフランスの人権感覚」(2013年12月13日 プラド・夏樹氏 WEBRONZA http://webronza.asahi.com/global/2013121300004.html)】
*********************

ポリティカリー・コレクトとは「政治的に公正」といった趣旨ですが、いわゆる“建前”のような意味合いでしょう。

日本でも、本音の議論とか毒舌と称するものが大流行りです。
特に、リベラルな理念などは嘲笑の対象としかなっていません。

しかし、本来どうあるべきなのかという議論をなおざりにして、“みんなが心の底で思っていること”をぶつけあうところからは、増幅された憎しみしか生まれないように思います。
その増幅された憎しみが更に理念の実現を難しくする・・・という悪循環です。

“日本人は和を重んじ、排他的な国民ではなかったはず”ですが・・・・。
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中国  GDPは改善するも、信用できない経済指標 不動産バブルの行方は?

2014-07-16 22:58:12 | 中国

(内モンゴル自治区オルドス市 住宅バブルを支えていた石炭価格が暴落したことで建設も止まり、街はゴーストタウン化しています。 “flickr”より By Charlie Xia https://www.flickr.com/photos/charliexia/5859800926/in/photolist-9VP1Es-9VP2nu-6NXzdD-8y3D2F-bmriCU-7mLeqF-9SDeuS-7mQ7dG-bzm3eB-bmrafQ-9VDfnR-eBYCn6-eC2Qbj-7B6Sts-bmr8z7-bzm39k-bmrheJ-bmrcYh-bmrhSy-bmrakS-bmrcmj-bmrj6y-bzm4az-bmri8E-bmrbSG-bzmbtF-bmrcE5-bmrdFL-bzm3Ug-bmrhJd-bzmbaK-bzm9zn-bzm4YH-bmr8Gh-bzma72-bmr86j-bmrdYG-bmr7HY-bzm598-bzmaJc-bmrhEG-bzm4ek-bzm2Rv-bzm3Ha-bzm1PM-bmrjrG-bmrcAs-bzm3tH-bmra5S-bmr83y)

【「李克強指数」】
今や世界経済を牽引する立場にある中国経済の動向ですが、今年4〜6月期は久しぶりに持ち直したという数字が公表されています。

****中国:GDP7.5%増 3期ぶり改善−−4〜6月****
中国国家統計局が16日発表した今年4〜6月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年同期比7・5%増となり、伸び率は前期(今年1〜3月期、7・4%増)を上回った。

成長率が前期から改善するのは3四半期ぶり。

政府による景気下支え策の効果で社会インフラ投資が持ち直したことに加え、外需が好調だったことなどが要因。市場予想の7・4%を上回り、中国政府が掲げる今年の成長率目標と同水準となった。(後略)【7月16日 毎日】
*****************

単純な素人考えですが、4〜6月期の数字が7月中旬に発表されるというのは、「国内総生産(GDP)の集計というのは、そんなに簡単にできるものなのか?」とも思われます。

また、“3期ぶり改善”云々以前に、最近の数字を眺めると、
2013年1~3月 7.7% 同4~6月 7.5% 同7~9月7.8% 同10~12月 7.7%
2014年1~3月 7.4% 同4~6月 7.5%
と、若干の増減はあるものの、7%台後半で驚くほど安定した数字が並んでいます。

経済はいろんな要因で大きく変動するものですが、どうしたらこんなに安定した数字が達成できるのか?

もし、中国が社会主義的計画経済であれば共産党政権による神業的なコントロールと言えますが、今や中国経済は弱肉強食的な資本の論理が優先する市場経済です。公共の福祉の観点から種々の制約・規制がある日本の方がよほど社会主義的かも・・・。

そんな市場経済でコンスタントな成長が維持できるとしたら驚異的です。

中国の経済指標が信用できない・・・ということは以前から指摘されているところです。
地方の数字を合計すると、中央政府発表の数字を大きく上回ってしまうとも言われています。

****信頼できない中国のGDP統計、改善策探る時****
・・・・実質GDP成長率にも同様のゆがみが見られる。既に13年の成長率を発表した28省のうち、実に26省が国の成長率7.7%を上回った。

目新しい問題ではない。04年と10年には、あらゆる省が国の成長率をしのいだ。
心配なのは、統計の精度が改善するどころか、ますます劣化しているように見受けられることだ。

省合計と中央発表の名目GDPは02年にほぼ一致したのを最後に、格差が徐々に拡大している。

不一致の一部は統計の設計に由来し、一部は偶発的なものだ。
統計の技術とサンプルは地方の統計局ごとに異なる。省間の取引により二重計算のリスクが生じるし、国、地方いずれのレベルでもサービスや消費は計測が難しく、とりわけ当てにならない。

しかしより大きな要因は、地方が褒美を得ようと画策を繰り広げることかもしれない。地方政府は互いに恩恵や資源を求めて競い合う。役人同士は昇進を求めて競い合う。(後略)【1月22日 ロイター】
****************

良く指摘されるのは、上記記事で“より大きな要因”と指摘されている問題です。
地方幹部の評価が、その地方の治安の安定と経済成長で決定されるため、どうしても大きな数字、中央政府の目標値を上回る数字が報告されることになるという点です。

李克強首相がかつて「自分はGDPの伸び率など全く信用しておらず、電力消費量、鉄道輸送量、中長期貸出残高の3つで景気の判断を行っている」と語ったことは有名な話です。
(この話は、ある意味では、李克強氏など党中枢が非常に冷静に現状を分析・把握している・・・とも言えます)

公表されるGDPは、単に党の目標数字に合わせて意図的に作り出された数字にすぎない・・・ということになると、このGDPをもとに増えたの、減ったのと議論しても仕方がありません。

そこで中国経済の動向を把握する指標として登場するのが、他ならぬ李克強首相が提示した手法を用いた「李克強指数」なるものです。

やや皮肉な命名ですが、日本の内閣府もこの「李克強指数」を作成しています。

その日本内閣府「李克強指数」では、昨年10月に10%を超えるピークを記録、11月以降は中国経済は減速し、14年3月で対前年比5.1%の伸び率だったと発表されています。

中国のように労働市場への新規参入者が多い国で、地方にはまだ絶対的貧困を抱えている国としては、5%あまりというのは、社会不安を増長しかねない問題のある数字かも。

しかも、経済利益が一部の者に囲い込まれ、多くの人々との格差が問題となるという状況では、全体的底上げを図るには足りない数字かも。

【「不動産の影響は限定的」?】
そんな統計数字の信憑性の話がある一方で、「中国経済は崩壊する」とオオカミ少年的にここ数年言われ続けている点に関しては、少なくとも現在はまだ「崩壊」には至っていないようです。

中国経済崩壊論が、中国を嫌う人々の願望を込めて語られていることや、中国共産党指導部も問題をただ座視するほど愚かでもなく、それなりに(李克強首相のように)対応していることなどによるものでしょう。

もっとも、党指導部の対応も根本的解決ではなく、単に先延ばししているに過ぎない、やがては・・・という話もあります。

中国経済は、崩壊が懸念される不動産バブル、国有企業の過剰生産、膨大なシャドーバンキングの存在という大きな問題を抱えていることが常々指摘されます。当然ながら、どれかひとつでも破綻すれば、他の問題も連動して破綻します。
中国経済が破綻すれば、日本経済も大きく動揺します。

中国地方政府は、農地を安く強制収容し、シャドーバンキングなどからの資金も使って道路などインフラを整備し、周辺土地を高く売って莫大な利益を得るという「錬金術」に励んでいると言われます。

しかし不動産市況が悪化して売れない・・・ということになると、地方政府財政が破たんし、シャドーバンキングなどの金融問題が一気に表面化します。

多くの者が不動産バブルの危険を指摘し、実際にも「鬼城(ゴーストタウン)」と呼ばれる入居者不在のマンション林立するという現象があちこちで見られるにもかかわらず、公式統計ではそうした動向はあらわされていませんでした。

ただ、さすがにここにきて統計局の数字にも変化があるようです。

****中国住宅価格が下落、「バブル終焉」の見方****
中国国家統計局が18日発表した主要70都市の5月新築住宅価格指数(公共性の高い低価格住宅除く)で、半数の35都市が前月に比べて低下した。横ばいは20都市、上昇は15都市だった。

4月は下落8都市、横ばいが16都市、上昇44都市だった。不動産市況悪化が広がっていることが裏付けられた。(中略)
昨年通年は26.6%増と好調だった住宅販売総額は1~5月で10.2%の減少に転じており、「中国不動産バブルの終焉(しゅうえん)」(業界関係者)との見方が広がっている。

不動産市況悪化が続けば、金融市場などに問題が波及する恐れもある。【6月18日 産経】
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今回の4〜6月期の国内総生産(GDP)発表にあたって、国家統計局報道官は「不動産の影響は限定的」との見解を示してします。

****不動産の影響は限定的****
中国の国家統計局の盛来運報道官は会見で、4月以降に相次いで打ち出した景気の下支え策について触れ、「特に6月に入って政策効果が現れた。工業生産は去年の同じ月より増加率が上昇し、発電量や貨物輸送量にも前向きな変化があった」と述べ、政策運営に自信を示しました。

また、このところ多くの都市で住宅価格が下落し、不動産向けの投資の伸びが鈍っていることについては、「短期的にはある程度経済の下押し圧力となるが、長期的には健全な不動産市場とするために有意義であり、経済の持続的な発展にとっても有意義だと信じている」と述べ、今後の中国経済に与える影響は限定的なものにとどまるという見方を示しました。【7月16日 NHK】
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優秀な党中枢はソフトランディングに自信がるようです。
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ナイジェリア  「ボコ・ハラム」よる女子生徒連れ去り事件から3か月 分断されるナイジェリア

2014-07-15 23:10:30 | アフリカ

(“flickr”より By MaritimeFirst Newspaper https://www.flickr.com/photos/126119326@N08/14595452275/in/photolist-o8s9it-nQYA8t-nQXoBs-o8myrC-oaemgZ-o8jMgm-nQXyx8-nPqY1a-nT8EMw-oi6jCt-nL4Pzk-nWmpjD-o2o6QF-o44HNM-nLspX5-ogNyFg-oeBxiH-nPuNgn-nSvVBg-nSwk2H-ofnNBM-nPBSag-oeKvsT-oesxYz-nX9wbg-nRSRv9-nRSw7T-ogdCeQ-nTft6o-nKHJm5-nKYVoc-nT6aG2-o2Y6vM-nAU1SW-nRkPEA-nATAC2-nTiBtb-nTftTW-nRkNEu-nATzVa-nTftFS-nTiCsL-nTobxk-nATGSL-nATJob-obrxgA-nyiqvh-nT7ZZp-o3NDp6-nymvU8/)

事件以降も毎日のように北東部の村々が攻撃されているのは、どうしてなのか」】
ナイジェリア北東部ボルノ州で4月14日深夜から15日未明にかけ、女子高校をイスラム武装集団「ボコ・ハラム」が襲い、宿泊施設で休息中の女子生徒ら200人以上を連れ去った事件から3か月が経過しています。

「ボコ・ハラム」とは「西洋の教育は罪」という意味だそうですが、事件後に「連れ去った娘たちを奴隷として売り飛ばす」というビデオ映像が公表されたことで、欧米を中心とした国際社会の非難が強まりました。

しかし、事件は一向に進展していません。連れ去られた女子生徒の行方は未だわかりません。

****ナイジェリア:少女救出めど立たず 政府対応に不満渦巻く****
・・・・少女の救出を求める声は世界的に広がったものの、解決の目途は立たない。

一方、ボコ・ハラムによるとみられるテロ攻撃は中部にも拡大し、市民の間には不安や政府の対応への不満が渦巻いている。

「ブリング・バック・アワ・ガールズ(我々の少女を取り戻せ)」。9日、アブジャ中心部の公園を訪ねると、北東部ボルノ州チボクで拉致された生徒の救出を願う集会で、市民約50人が声を上げていた。

主要メンバーの女性、フローレンス・オゾーさんは「政府は軍を多数配置したというが、事件以降も毎日のように北東部の村々が攻撃されているのは、どうしてなのか」と、不満そうに話した。(中略)

生徒は同州の森林地帯で拘束されていると推測されている。ボコ・ハラム戦闘員たちと強制結婚させるのではと臆測を呼ぶ一方、政府側に拘束されている戦闘員と交換するのが目的との見方もある。

AP通信によると、元大統領や知事などでつくるナイジェリアの国家評議会のメンバーは8日、治安当局が少女の居場所を把握しており「近いうちに良いニュースがあるだろう」と、解決が間近との認識を示した。(後略)【7月10日 毎日】
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「近いうちに良いニュースがあるだろう」・・・・本当でしょうか? 発言から1週間が過ぎましたが、まだ何も“良いニュース”は聞きません。

“悪いニュース”なら連日聞きます。
連れ去り事件、村落襲撃事件も続発しています。

****ナイジェリアで女性60人以上拉致、ボコ・ハラムの犯行か****
ナイジェリア北東部で女性60人以上がイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」とみられる集団に拉致されたことが分かった。

女性の年齢は子供から大人までさまざまで、3~12歳の子供も含まれるという。ナイジェリアでは今年4月14日に、学校にいた200人以上の少女がボコ・ハラムに拉致されている。

今回の拉致事件が発生したのはナイジェリア北東部ボルノ州ダンボア地区のクンマブザ村。村は19日から襲撃を受け、その際に女性たちは拉致され、村人は家を捨てて逃げ出したという。

地元の自警団のリーダーは、逃げようとした村人4人がその場で射殺されたと語った。
ボルノ州の州都マイドゥグリに避難した別の住民は、村の男性30人以上が殺害され、村全体が3日間にわたって武装勢力に支配されたと語った。

60キロほど南のアスキラ・ウバ地区の3つの村も先週末に襲撃された。住民の1人は「多数」が死亡したと話しているが、公式な死傷者数は明らかになっていない。

専門家たちはボコ・ハラムが国内で収監されている仲間を解放させるために事件を起こした可能性があると指摘している。

ボコ・ハラムは現在も拘束している219人の女子生徒を、ナイジェリアの刑務所などに収監されている仲間と交換する形で解放する用意があるとほのめかしている。

ナイジェリア政府は当初、一切の取引を拒否していたが、その後は女子生徒と収監者の交換について話し合うことも含め、ボコ・ハラムとの交渉の開始に向けた動きも見せている。【6月25日 AFP】
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首都でも爆弾テロが起きています。
先月25日には首都アブジャにあるショッピングセンター付近で爆弾がさく裂し、少なくとも21人が死亡、17人が負傷しました。後日、ビデオによる犯行声明が出されています。

また、30日には、北東部ボルノ州の四つの村で教会を狙った襲撃事件が起き、50人近くが死亡したことが明らかになりましたが、これも「ボコ・ハラム」の犯行が疑われています。

やりたい放題・・・という感もありますが、ナイジェリア政府はこれまでも「ボコ・ハラム」を放置してきた訳でもなく、2013年5月にはボルノ州を含む北東部3州に非常事態宣言を発令して大規模な鎮圧作戦を展開しています。

女子生徒連れ去り事件後も、グッドラック・ジョナサン大統領は5月29日、ナイジェリアに文民政権が誕生してから15周年を迎えた記念式典で、「ボコ・ハラム」による少女集団拉致事件を念頭に「対テロ全面戦争」を行う決意を表明しています。

当初、ナイジェリア政府の対応が遅すぎる、ナイジェリアだけで解決できるのか・・・といった欧米の批判にナイジェリア政府には反発もありましたが、アメリカが軍やFBIなどからなるおよそ30人の専門家チームを派遣し、偵察機も投入すとか、5月17日にはパリで「ボコ・ハラム」への対策を話し合う「ナイジェリア安全保障サミット」が開催されるなど、国際的な協力態勢も一応とられてはいます。

にもかかわらず、連れ去り事件は解決しない、テロ・襲撃は連日のように繰り返される・・・・TV放映された被害者家族は、「政府は私たちのことなどどうでもいいと思っているのだ。もし政府の偉い人の娘が拉致されたら、こんなふうにはならないだろう」との怒りと悲しみを語っていました。

マララさん「大統領の責務を果たす必要がある」】
パキスタンで女性が教育を受ける権利を訴え続け、2012年にイスラム武装勢力タリバンの襲撃で重傷を負い、現在はイギリスの高校に通うマララ・ユスフザイさん(17)がナイジェリアを訪問、大統領や被害者家族と面会しています。

マララさんはジョナサン大統領に、「大統領の責務を果たす必要がある。少女を取り戻せ、という人々の声を聞くべきだ」と、より一層の努力をしてほしい旨を伝えたとのことです。【7月15日 毎日より】

****マララさん、ナイジェリア大統領に拉致少女の親との面会求める****
・・・・マララさんはジョナサン大統領との面会に先立つ13日、拉致された少女たちの両親や脱出に成功した少女たちと面会した。

ジョナサン大統領との面会を終えたマララさんは記者会見で、拉致された女子生徒たちの親たちと会って、少女たちは必ず帰還できると勇気づけるよう大統領に求めたところ、大統領は一部の親に会うことに同意したと明かした。

マララさんは、親たちは絶望しきっており「大統領の支援を必要としている」と述べ、今月12日が自身の17歳の誕生日だったことから「私が今年の誕生日に願うことは、(拉致された)少女たちが家に戻って来ることです」語った。

ジョナサン大統領は女子生徒が拉致された事件での対応を、思いやりと迅速さの両方が欠けていると厳しく批判されている。

救出活動の初動で出遅れたうえ、軍が事件発生の数日後に出した、少女たちは解放されたとの発表も後に撤回された。

大統領自身も事件があったチボク地区を5月に訪れると発表していながら、何の説明もなく直前に訪問を中止した。これまでのところ、同大統領が拉致少女の親と会ったと明らかにされたことはない。【7月15日 AFP】
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もちろん、軍事的な力だけでは事態は改善しません。
昨年5月に非常事態宣言・大規模掃討作戦も結果として、組織の潜伏化と活動領域の拡散、民間人に対する残虐行為への傾斜という変質を「ボコ・ハラム」にもたらしたとの指摘もあります。【5月14日 白戸圭一氏 フォーサイト“「ボコ・ハラム」はなぜ多数の女子生徒を拉致したのか”】

ただ、一方で、連れ去り事件のときも、軍は学校への襲撃について事前に情報を得ていたにもかかわらず、5時間近くも行動を起こさなかったとか、「兵士の多くが不満や疲れから戦闘の最前線に行くことを恐れていた」(アムネスティ・インターナショナルの報告書)とか、連れ去り後に辛くも逃げ帰った少女が軍・警察から犯人グループについて何にも訊かれていないとか、「やる気」を疑うような話も聞きます。

「ボコ・ハラム」の活動の背景には、成長著しい石油大国ナイジェリアにあって、富が偏在して格差が進行し、腐敗・汚職が蔓延している社会の現状がありますが、政府の統治能力にも問題がありそうです。

【「無知が存在すると、宗教は扱いにくい危険なものになる」】
「ボコ・ハラム」は、キリスト教徒とイスラム教徒が半々というナイジェリア社会を分断し、互いの憎しみをかきたて対立させることに見事に成功しています。

****ボコ・ハラムがあおるナイジェリア憎悪の連鎖****
女生徒誘拐事件で非難を浴びた非道なイスラム武装組織が中部の都市ジョスの住民を激しく分断させている

・・・・ナイジェリアの人口はアフリカ最多の1億7000万。イスラム教徒(主に北部に居住)とキリスト教徒(主に南部に居住)の比率はほぼ半々で、宗教開の衝突は日常茶飯事だ。

こうした不安定な状況を、ボコーハラムは一段と深刻化させ、この国を宗教戦争の瀬戸際へと追い込んでいる。(中略)

先住民特権の奪い合い
(2012年3月11日、キリスト・イスラム両教徒が拮抗する中部都市ジョスで「ボコ・ハラム」が起こした)聖フィンバー教会への攻撃に怒り狂ったキリスト教徒たちは、教会前の大通りを走るイスラム教徒のバイクタクシーを止めては運転手を引きずり下ろし、切り殺し、焼き、その肉を食ってしまった。

「ジョスではイスラム教徒にもキリスト教徒にも敵対心が刷り込まれている。多数派は少数派を迫害せずにいられない」と、アルハジ・オスマン・イブラヒム(40)は説明する。

イスラム教徒でビジネスマンのイブラヒムは、キリスト教徒地区に囲まれた地区の出身だ。
彼によると、ボコ・ハラムのせいで今は商売ができないという。

キリスト教徒のビジネスパートナーが、一緒に働くのを拒むからだ。「ボコーハラムは正体不明だから、私も仲間かもしれないと言われた」

暴力の連鎖は2つのコミュニティー間の信頼感を消し去ろうとしている。今では先に手を出したのはそっちだと非難し合い、これは報復だと正当化し合うのが日常茶飯事だ。

長年にわたる宗教対立にボコ・ハラムが加わって、今やジョスのキリスト教徒とイスラム教徒はほとんど接触を絶っている。

それぞれが独自の青空市場を開き、どんな子でも受け入れるはずの公立学校も、現在は宗教で分断されている。 

「断絶は大きな問題だ。住民は互いを知り、共存し、交流すべきなのに」とイザム・イシャク教育長(53)は言う。「無知が存在すると、宗教は扱いにくい危険なものになる」

ジョスの危機は宗教だけではなく、資源や権利をめぐる対立もある。住民はキリスト教徒の3つの主要部族とイスラム教徒のハウサーフラニ族から成る。

どちらも自分たちこそ先住民だと主張するが、土地所有をはじめ、公的雇用の配分や医療、大学の奨学金などで優先権が認められる「先住民の地位」はキリスト教徒が独占している。

イスラム教徒は憤り、二流市民扱いされていると感じる。(後略)【7月15日号 Newsweek日本版】
********************

あおられた憎しみが事態を悪化させ、ますます深みにはまっていくというのは、ひとりナイジェリアだけの話ではなく、世界のあちこちで見られる現実です。
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アルゼンチン  再度の債務不履行の危機のなかで、中国・ロシアが接近

2014-07-14 21:34:15 | ラテンアメリカ

(珍しく笑顔のプーチン大統領とアルゼンチン・フェルナンデス大統領(中央女性)【7月14日 AFP=時事】)

フェルナンデス大統領「ハゲタカの脅迫には屈しない」】
南米アルゼンチン・・・W杯決勝戦での惜敗で、一部サポーターが暴徒化し、商店の襲撃や現金自動預け払い機(ATM)を破壊、警官隊が催涙弾や放水車を使ってこれを鎮圧しています。
地元テレビによると、双方に複数の負傷者が出たほか、サポーターら数十人が拘束されたそうです。

ただ、アルゼンチンは本来はそんなW杯で騒いでいられる状況ではありません。
周知のように、01年の債務不履行(デフォルト)に続いて、再びデフォルトに追い込まれるかどうか・・・という厳しい局面にあります。

2012年12月12日ブログ「アルゼンチン 景気悪化とインフレーション インフレ率操作の疑惑も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121212)でも取り上げたように、アルゼンチンではインフレーションが進行し、これに対するフェルナンデス大統領の対応はあまり評価できないものでした。

また、そうした経済の脆弱性を背景に、今年1月には通貨危機にも襲われています。
1月25日ブログ「アルゼンチン・ペソ急落 新興国経済への不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140125

ただ、今回のデフォルトの危機に関しては、アルゼンチン・フェルナンデス大統領の無策というよりは、素人目には「ハゲタカ」ファンドの強欲さが目立ちます。

****ハゲタカ」が主導するアルゼンチンの債務危機****
紙くす同然だった国債を額面で買い取らせようとする強欲な米ヘッジファンドがこの国を追い込んでいる

あの国が再び債務危機に陥っている。
アルゼンチンは01年に1000億ドルという巨額の債務不履行(デフォルト)を宣言。当時の高利回り債ブームで同国債を買った世界中の投資家に損をさせた国だ。

その張本人が懲りずにまた? 
そうではない。今回の危機は01年のデフォルトの続きだ。

当時、アルゼンチン国債などを保有していた債権者の9割以上が、同国政府と交渉。彼らは7割以上の債権カットを受け入れ、わずかな利息を受け取ってきた。だが今に至るまで債権カットに応じず、額面どおりの返済を求めて法廷闘争を続けてきた残り1割の債権者がいる。

彼らを主導するのはアメリカの大富豪ポール・シンガーが運営するヘッジファンドの子会社、NMLキャピタルだ。

NMLキャピタルは数年前、米連邦地裁にアルゼンチン政府を提訴。債務減免に応じた投資家に対する債務返済優先は不公平で、自分たちも同時に返済を受ける権利かあると主張した。

保守派のトーマス・グリェサ判事はこれを認め、高裁に続いて最高裁も先月上訴を棄却した。

金融危機の心配はない?
おかげでアルゼンチン政府は、今月30日までにNMLキャピタルなどに債務約15億ドルを支払わなければならなくなった。支払わないのなら、公平性の観点から他の債権者への利払い5億3900万ドルも禁じる、とグリエサは命じている。

そうなれば、資金はあるが支払いができない「テクニカルーデフォルト」になる可能性が高い。

もしヘッジファンドの要求に応じれば、既に債権カットを受け入れた債権者からも同じ扱いを求める訴訟が相次ぐ
だろう。その総額は150億ドルとも200億ドルとも。

これに対してアルゼンチン政府が保有するキャッシュは160億ドルにすぎない。
これが尽きたら、本当のデフォルトだ。

そもそもヘッジファンドにアルゼンチンを訴える資格はあるのか。
法的には当然あるが、道義的には疑問だろう。なにしろ、NMLキャピタルらが所有するアルゼンチン国債は、01年にデフォルトして紙くず同然になった後に買い集めたもの。

アルゼンチン政府によれば、それを額面価値で取り返せば1600%の利益になる。
アルゼンチンのフェルナンデス大統領が「ハゲタカの脅迫には屈しない」と語るのも無理はない。

アルゼンチンは01年のデフォルト以降、国外からはほとんど資金調達ができていない。このため、再度デフォルトしても金融危機が世界に波及する恐れはないと言われる。

だがデフォルト以後リーマン・ショックまで8%の経済成長を実現してきた努力は台無しになる。

「金融機関が国や世界より自分の利益を優先することは分かっていたが、ハゲタカファンドの強欲度は新たな高みに達した」と、コロンビア大学のノーベル賞経済学者スティグリッツは英ガーディアン紙に語った。

今回の場合、アルゼンチンはむしろ被害者なのだ。【7月15日 Newsweek日本版】
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“デフォルト以後リーマン・ショックまで8%の経済成長を実現してきた(フェルナンデス政権の)努力”という部分にはやや異論もありますが、紙くず同然の債券を集めて執拗に額面通りの返済をせまるヘッジファンドのやり様は、まるであこぎな街金のようでもあり、まさに「ハゲタカ」にふさわしいイメージがあります。

マネーの世界では当然の行動でしょうし、法律的にも認められた訳ではありますが・・・・。

債務不履行(デフォルト)の危機に陥っているアルゼンチンは6月30日、債務減免に応じた投資家に対する利払いの期限を迎えましたが、ニューヨークの米連邦地裁判事は、ヘッジファンドとの合意がないままその他債務者への利払いを行うことは認められないとして、アルゼンチンの米銀への口座入金を認めませんでした。

デフォルトまで1カ月間の猶予期間があり、このひと月で関係者との交渉で解決を目指しますが、アルゼンチン側とヘッジファンド側の主張は平行線で、今後の見通しはあまり明るくないとも言われています。
ただ、“市場では「ギリギリの段階で解決策が見つかる」との観測もある”【6月29日 産経】とも。

12日にプーチン大統領、1週間後には習近平国家主席
国際的には、01年のデフォルトによって欧米からは冷遇されているアルゼンチンですが、「捨てる神あれば・・・」でしょうか、ここにきて中国・ロシアがアルゼンチンに接近しています。

****アルゼンチン大統領、中ロ首脳の支援に期待****
アルゼンチンが10年に及ぶ米国裁判所でのヘッジファンドと法廷闘争に負けた後、同国のクリスティナ・フェルナンデス大統領は中国とロシアの指導者に支援を求める。

7月第3週にブラジルで開催されるBRICS首脳会議に先駆けて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12日にアルゼンチンを訪問、その1週間後には中国の習近平国家主席がアルゼンチン入りする予定だ。

両首脳の訪問時に、アルゼンチンはいわゆる「ホールドアウト」債権者との戦いに対する単なる政治的支援以上のものを期待しているかもしれない。

シェールガス・オイル田の開発に欠かせない外国投資
アナリストらによれば、パタゴニアにある巨大なバカ・ムエルタのシェール層が、中国とロシアがアルゼンチンに対して抱く興味の背景にある一方で、アルゼンチン政府としても、世界第2位のシェールガス埋蔵量と第4位のシェールオイル埋蔵量を誇るバカ・ムエルタを開発するために外国からの投資を切望しているという。

アルゼンチンは、2001年に約1000億ドルの債務でデフォルト(債務不履行)して以来、資本市場から締め出されてきたが、政府がここ数カ月でいくつかの紛争を解決しているため、外国の投資家との関係は徐々に正常に戻りつつある。

直近では、米最高裁判裁が先月、デフォルト後に債務再編の受け入れを拒んだホールドアウト債権者に全額返済しなければならないとした米連邦地裁の判決の見直しを求めたアルゼンチンの控訴を棄却した後、アルゼンチンはホールドアウト債権者と交渉を始めている。(中略)

中国は水力発電プロジェクトや鉄道に大型投資
中国企業は既に、パタゴニアの水力発電プロジェクトや、アルゼンチンとチリの太平洋岸を結ぶ鉄道への大型投資を固める予定だ。

この鉄道ができれば、アルゼンチン最大の貿易相手国としての中国の立場――中国はアルゼンチンの豊富な穀物、特に大豆の主な輸出先であるだけでなく、アルゼンチンは中国から大量に電化製品を輸入している――が強まる可能性がある。

ジェジャティ氏は、中国との100億ドルの通貨スワップの計画が復活していると話す。通貨スワップによって、中国はアルゼンチン向けの輸出代金を人民元で受け取ることができるようになり、ホールドアウト債権者の問題が解決されるまで海外で借り入れできないアルゼンチン政府のドル不足の圧力を和らげられる。

人民元は準備通貨ではないが、貿易での人民元の利用拡大は、中国の金融面の影響力強化に寄与する可能性がある。折しもBRICS諸国――ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ――は7月15日にブラジルで、国際金融機関に対する米国の支配に挑戦する開発銀行を立ち上げようとしているところだ。

2001年にデフォルトした際、国際社会から爪弾きにされたアルゼンチンにとって、習、プーチン両氏のブエノスアイレス訪問は大きな前進だ。

10年以上の孤立を経て、国際社会への復帰へ大きな一歩
「アルゼンチンは10年以上も孤立し、その間、重要な指導者が誰もアルゼンチンに来なかった。両氏の訪問はアルゼンチンが国際舞台に復帰する上で大きな重要性を持つ瞬間だ。各国指導者は再びアルゼンチンを訪れ始めている」と国際関係の専門家、ホルヘ・カストロ氏は言う。

カストロ氏によると、昨年10月の中間選挙でお粗末な成績を収めた後に政策を180度転換してから、アルゼンチン政府は大幅に強化されたという。

同氏は、外貨準備の急激な減少を食い止めた1月の通貨切り下げや、スペインのレプソルのアルゼンチン資産を2012年に接収したことについて同社に補償し、長く懸案になっていたパリクラブ(主要債権国会議)に対する100億ドルの債務を返済することに合意したことを引き合いに出す。

また、政府が何年もホールドアウト債権者と交渉するのを頑なに拒んだ後で、アクセル・キシロフ経済相は11日にニューヨークに戻り、今月末に13年間で2度目となるデフォルトを回避することを目指して、支払いを巡る交渉を続けることになっていた。

「昨年は政府が急降下していたが、その状況は好転している」とカストロ氏は言う。「政府が交渉しているという事実が重要だ」【7月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
******************

“世界第2位のシェールガス埋蔵量と第4位のシェールオイル埋蔵量”というのは、中国・ロシアならずともそそられるでしょう。

また、アメリカに対抗して中南米に影響力を広げるという政治的な効果もあります。
アルゼンチン・フェルナンデス政権もアメリカとは距離を置く左派政権でもあり、また、フォークランド紛争の当事者ということで欧米とは折り合いがよくありません。

****米を意識?  ロシア、中南米に秋波 アルゼンチンに原発輸出を提案****
中南米歴訪中のロシアのプーチン大統領は12日、アルゼンチンのフェルナンデス大統領と会談し、原子力協力協定に署名した。

ロシア側は、原発2基を輸出する計画も提案。欧米と対立が深まる中、中南米との経済協力を深める姿勢を鮮明にした。

ウクライナ問題で欧米から批判を受けているプーチン氏は、米国と距離を置く国が多い中南米諸国を重視。

ブエノスアイレスでの夕食会のあいさつでは「重要な国際問題で我々の立場は一致する。共に多極的な世界を支持している」と指摘した。

アルゼンチンは、ロシアによるクリミア併合を非難する国連総会決議の採決を棄権。
借金返済ができなくなる債務不履行の危機に直面する中で、一括返済を求める米投資ファンドを批判している。

プーチン氏は、フェルナンデス大統領が欧米のダブルスタンダード(二重基準)を批判していることを評価する考えも示した。【7月14日 朝日】
******************

フェルナンデス大統領が批判する“欧米のダブルスタンダード”の具体的内容は知りませんが、世の中ダブルスタンダードだらけであることは間違いありません。
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北朝鮮のわからない話 チョコパイから中朝関係まで

2014-07-13 22:26:29 | 東アジア

(北朝鮮で人気の韓国オリオン製のチョコパイ 【7月3日 WSJ】)

北朝鮮がチョコパイの取り締まりに
昨年4月~5月、韓国・北朝鮮関係が緊張して南北が共同で運営する開城(ケソン)工業団地の稼働が中断した頃、韓国企業が北朝鮮労働者におやつや残業代替わりに配っていたチョコパイが異常な人気があり、北朝鮮国内で高値で売買されているということが話題になりました。

北朝鮮での韓国製チョコパイ人気と闇の換金市場の存在はずいぶん以前からのもののようです。
北朝鮮政権にとっては、韓国製の商品に北朝鮮人民が群がるというのは面白くない話でしょう。

ただ、「どうしてチョコパイが?」と不思議な話ではありますが、いまだにチョコパイ人気は衰えていないようです。
久しぶりにチョコパイに関する記事を見ました。

****チョコパイ中毒」撲滅狙う?―北朝鮮が労働者への支給禁止****
韓国オリオン製のチョコパイが北朝鮮に入ってきたのは2004年。開城工業団地の韓国企業で働く北朝鮮の労働者が持ち帰った。 

北朝鮮の労働者は残業代を現金で受け取ることが認められていなかったため、韓国企業は代わりにチョコパイを支給した。

チョコパイはすぐに人気に火が付き、多くの労働者は家族や親戚のためにとっておいたり、闇市場で売ったりするようになった。

開城工業団地が一時閉鎖された昨年は、価格が1個当たり24ドル(約2400円)まで跳ね上がることもあった。英紙インディペンデントによると、それは労働者の1日の賃金に相当する額だ。

ここにきて、人々は再びチョコパイにありつけなくなりそうだ。北朝鮮当局が韓国企業に対し、チョコパイの支給を禁じたからだ。

韓国紙によると、「北朝鮮の共産党政治局員らは6月、チョコパイの支給を中止するよう韓国企業に要求した。その代わりに、ソーセージや即席麺、インスタントコーヒー、チョコレートバーの支給を求めた。中には米ドルでの支払いを求められた企業もあった」という。

北朝鮮がチョコパイの取り締まりに動き出した理由は明らかではない。さまざまな背景が推測できるが、韓国製のチョコパイが北朝鮮の停滞する経済に与える影響を恐れていることも考えられる。

もしかすると、インディペンデント紙の憶測のように、国産チョコパイとの競争を阻む狙いがあるのかもしれない。【7月3日 WSJ】
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チョコパイに限らず、“不思議の国”北朝鮮内部の話は、どれもこれもわからないことばかりです。
毎年のように流れる干ばつ・不作の情報も、それを否定するような話もあって、その実態はよくわかりません。

****北朝鮮で干ばつ 食糧事情さらに悪化か****
北朝鮮の国営メディアは19日、広い範囲で春先から干ばつが続き、農作物の成育に影響が出ていると伝え、厳しい食糧事情がさらに悪化することが懸念されます。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信によりますと、北朝鮮では春先から国内の広い範囲で気温の高い状態が続いているほか、今月上旬からはピョンヤンをはじめとした西部を中心に雨が少ない状況が続いています。

各地で被害の実態把握が進められているということですが、麦やトウモロコシの生育に大きな影響が出ているということで、朝鮮中央通信は、長期にわたって被害が続いた2001年以来の深刻な干ばつの被害が懸念されると伝えています。

WFP=世界食糧計画によりますと、北朝鮮では子どもたちの30%余りが必要な栄養がとれていないなど、依然として厳しい食糧事情が続いています。

キム・ジョンウン第1書記は食糧事情の改善を喫緊の重要課題としていますが、今回の干ばつでさらに状況が悪化することが懸念されます。【6月19日 NHK】
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北朝鮮内の生活状況については、平壌に暮らすエリート層は別にして、脱北者の話などによれば地方農村部では過酷な状況にある・・・というのが通説ではありますが、プロパガンダも含めて裏が取れない情報が多い中で、よくわかりません。

協力的でない北朝鮮は中国の構想にとってマイナスの存在
北朝鮮の行動もよくわかりません。
最近は、しきりに弾道ミサイルを発射しており、何を意図したものか・・・ということが話題にもなっています。

「不満があるなら、ミサイルを発射するのではなく、はっきり言えよ!」とも言いたくなりますが、まあ、そこは“不思議の国”ですから。

どうも、最近北朝鮮に冷たくなって、韓国に寄り添う中国への当てつけではないか・・・とも言われています。

****中国に裏切られた」北朝鮮 中韓の蜜月ぶり、本格対立の様相も****
中国の習近平国家主席(61)は7月初め、約300人の中国の政財界要人を連れてソウルを訪れ、中韓の蜜月ぶりを演出した。

韓国側との会談では北朝鮮の核放棄で連携を強化することを決定。長年の盟友である中国に裏切られる形となった北朝鮮は、日本海に向けてミサイル発射実験を行い、官製メディアで中国を暗に批判する記事を掲載するなど猛反発した。

中国の朝鮮半島専門家は「中朝関係の修復はもはや難しい。これからは本格対立が始まるかもしれない」と話している。

■「切り捨てるぞ」と警告
習主席は平壌よりもソウルを先に訪れた初の中国最高指導者となった。中国外務省関係者によると、中国政府は今回の習主席訪韓を、最高レベルの外交行事と位置づけた。

中国が韓国との関係を重視する背景には、米国が主導する中国包囲網の重要な一角である韓国を引き寄せたい思惑が指摘される。

同時に、中国から支援を受けながらも最近、中国の意向を無視した行動をとり続ける北朝鮮に対し「切り捨てるぞ」と警告する意味もあるとみられる。

中国は胡錦濤政権まで、北朝鮮との関係を重要視する政策をとり続けた。北朝鮮が核実験をしても、ミサイルを発射しても、中国は口頭で抗議するだけで、援助をやめなかった。戦略的に北朝鮮を中国側に引き寄せる必要があったことが原因と指摘された。

しかし、習近平政権が発足した直後の2013年2月、習主席に近いとされる共産党幹部育成機関の新聞「学習時報」の副編集長が英紙、フィナンシャル・タイムズで「核問題で中国の脅威にもなる北朝鮮を切り捨てるべきだ」という内容の論文を発表し、大きな話題を呼んだ。

共産党関係者によれば、論文は習主席の周辺の意向を反映しており、中国はその頃から対北政策の見直し作業を進め始めたという。

■「兵糧攻め」も逆効果に
習指導部が対北政策を見直すのは、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題で対立する日本を意識してのことだと指摘される。北朝鮮の核開発を放置すれば、将来的に日本も核兵器保有に向けて動き出す懸念は党内で強いという。

また、5月に上海で開かれた「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)で習主席が「アジアの安全はアジアで解決できる」として「アジアの新安全保障観」を提唱したように、習政権はアジア太平洋地域から米国を排除し、中国を中心として軍事同盟を築きたい思惑がある。

しかし、中国の盟友でありながら、協力的でない態度をとり続ける北朝鮮はいまや中国のこの構想にとってマイナスの存在になったという。

特に、昨年12月に北朝鮮が親中派とされる張成沢(チャン・ソンテク)一派を粛清したあと、中朝間のパイプ役がなくなり、頻繁に行われていた要人往来も実質的に止まった。

中国の北朝鮮に対する影響力はますます低下した。中国の政府関係者によると、中国は今年2月から北朝鮮に提供する石油の量を大幅に減らし、“兵糧攻め”の手段に出たが、北朝鮮側の態度をますます硬化させ、期待されていた効果がなかったという。

今回、習主席が国内外に見せた韓国重視の姿勢は、北朝鮮を孤立させる作戦の一環ともいわれる。しかし、北朝鮮は日本と接近するなど、中国に対抗しており、うまく行ったとはいえない。

■正男氏担ぐシナリオも
習主席が訪韓する前に、北朝鮮は日本海に向けたミサイル発射実験を行ったほか、労働新聞で「核開発の放棄は永遠に実現することのない荒唐無稽な犬の夢」との内容の記事を掲載した。習政権の政権スローガンは「中国の夢(の実現)」であるため、「犬の夢」とは、習政権への皮肉とも受け止められる。

また、同じ労働新聞には「大国主義者たちの圧力もわれわれ人民を屈服させられない」との表現もあり、「中国」を「大国主義者」と暗に批判したものと指摘される。

中国政府は金正日(キム・ジョンイル)時代から、金正日氏の長男の正男(ジョンナム)氏(43)を保護下に置いている。北朝鮮が中国の言うことを聞かないなら、正男氏を担いで北朝鮮のトップにすげ替えるシナリオがあると言われている。

朝鮮半島問題専門家は、「打つ手がなくなれば、中国は北朝鮮の内政に本格介入することも考えられる。今それは、北朝鮮が最も警戒していることだ」と話している。【7月13日 産経】
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「血の友誼」とも言われる両国関係の実態は、これまたよくわからない話で、金正日氏も、何かと上から目線で口を出す中国を嫌っていた・・・とも言われていました。心情的には「さもありなん」という感がします。

中国からの北朝鮮向け原油は止まったのか?】
“わからない”ついでに言えば、中国から北朝鮮の石油が止まったのかどうか?もよくわらない話のひとつです。
「そんなことはない」という指摘もあります。

****中国が北朝鮮向け原油を止めていない理由 ****
技術的にも政策的もパイプラインによる輸出停止は不可能

「中国は北朝鮮向けの原油輸出を止めている」。このような観測がこの1、2カ月、韓国や日本を中心に流れている。

2013年末に中国通で北朝鮮権力のナンバー2とされていた国防委員会副委員長の張成沢氏が処刑されたことに中国が怒りを示し、そのために北朝鮮経済にとっての命綱であるパイプラインによる原油供給を止めているとの説が出ていた。

ところが、韓国の北朝鮮専門メディア『デイリーNK』は韓国語版、英語版で「中国は地下送油管からひと月に数回、原油支援を続けている」ことを確認したと報道。結局、中国は北朝鮮への支援を止めていないと改めて指摘している。

『デイリーNK』は5月上旬、北朝鮮と国境を接する中国・丹東市にある北朝鮮向け送油管加圧施設を取材。国境が走る鴨緑江の川岸にある同施設の入り口で警備担当者から「今でも継続して原油を送っている」との発言を得たという。

「パイプラインの停止はありえない」
北朝鮮経済に詳しい、環日本海経済研究所(新潟市)調査研究部の三村光弘部長は、「中朝間のパイプラインを止めるということは中朝関係の断絶を意味するので、止めることはあり得ない」と指摘。

また、中朝間のパイプライン自体の現状から考えると老朽化などの問題で止めても数時間しか止められず、もし輸出が止まっているのであれば、技術面から見ても「パイプラインは使用不能になっているはず」と説明する。

韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)北京貿易館(支社)は5月下旬、中国の税関統計を元に今年第1四半期(1~3月)の中国から北朝鮮への原油輸出はゼロと発表している。

ただ、「丹東市から北朝鮮に伸びるパイプラインを通る原油は、輸出ではなく支援という性格を持つため、税関統計に示されないことがある」と韓国の北朝鮮専門家は指摘する。そのため、実際には送られていても貿易統計には「ゼロ」と出ることがありうる、というのだ。

一方、中国の複数の北朝鮮問題専門家は東洋経済の質問に対し「おそらく止めているだろう」と口をそろえるが、確証を聞くことができなかった。

同時に、「現在はイランなどから海上輸送で原油を輸入することが増えている」との指摘もある。パイプライン以外の輸入ルートを確保していることがうかがえる。

統計に表れない「支援」実績
中国の北朝鮮研究者は、「中朝間の仲が悪いと言っても、張成沢処刑から急に悪くなったわけではないことを知るべき」と言う。

それは、1992年に中国が韓国と国交正常化をした際、北朝鮮側の意向に中国が耳を傾けなかったという遺恨が北朝鮮側に残っているため、という。

現在、北朝鮮の貿易総額のうち9割近くを中国との取引が占める。核開発問題やミサイル発射で国際的な経済制裁が強まる中、経済面では陸続きである中国との関係に頼るしかなかった。

そのため、「中国との関係が深まったのはあくまでも現実的な結果。気にくわないと言っても、中国は朝鮮半島の非核化を大事に考えているのと同様に、北朝鮮の体制安定を望んでいる」(前出の研究者)というのが、本当のところのようだ。【6月17日 東洋経済online】
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“イランなどから海上輸送で原油を輸入”することができるにしても、中国が石油を止めれば北朝鮮にとって死活問題となることが想像できますが、どうもよくわかりません。

“(金正日氏の長男の)正男氏を担いで北朝鮮のトップにすげ替える”ぐらいの本気度に達すれば、間違いなく石油も止めるのでしょう。
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温暖化対策に乗り出す米中 食糧生産適地の変化で新たな「二十一世紀の南北問題」も

2014-07-12 22:07:54 | 環境

(グリーンランドの町Tinit 将来は文字通りの「緑の島」になるのかも。ただ、そのとき海面は・・・ “flickr”より By Jack Wolfskin https://www.flickr.com/photos/jackwolfskin/8802297007/in/photolist-epQ5ev-dtjJ5n-6Qw6MP-bJiq6r-epQ58K-epQ99F-epQ5Mi-eqLkH5-epQ4S4-dtjJ6z-duxsLP-epQ7p8-epQ7ki-epQ6mx-epQ8rx-eqLnEL-epQ7xk-epQ88e-eqLkc3-epQ6xX-eqLkgu-epQ6z4-eqLnc9-epQ6dg-bLf8Px-eqLnr3-mCbeQ-a89V3A-dzb1hU-aipC1M-dqDJTp-2aevy-86wcQ5-6ZgMCo-6QAaZJ-a8a6J7-3nFdzV-8H8q2Z-eBN8ig-5uxtv4-5nqadN-5nkNwg-dq9511-dxLMh4-aQQWLB-34zPqa-5nqadG-5nq8rd-4i5DUt-axkisS)

中国:環境汚染対策から温暖化への対応変化も
2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組みについて話し合う国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)の準備会合が先月4日~15日、ドイツ・ボンで開かれました。

各国は京都議定書に代わる新しい枠組みはについて15年末にパリで開かれるCOP21での合意を目指していますが、そのためには今年12月にペルー・リマで行われるCOP20で新枠組みの骨格の合意が必要となります。
今回の会議はそのCOP20での骨格合意のための準備会合という位置づけです。

温暖化防止策に関すしては、先進国が引き起こした現象であるから規制等の責任も先進国が負うべきとする途上国と、なるべく広い範囲で規制をかけて実効をあげたい先進国との意見の隔たり依然として大きなものがあります。

ただ、そうしたなかにあっても、これまで規制に消極的だった中国・アメリカがやや前向きの姿勢を見せています。
一方、日本は原発稼働停止状態ということもあって、長期的なエネルギー戦略が決められない状況です。

****温暖化対策:新枠組み合意期限まで1年半 日本は周回遅れ****
 ◇提出時期も焦点に
新枠組み交渉では、各国が20年以降の削減目標案をいつ提出するかも焦点になっている。提出時期が早いほど、その目標案が十分か互いに評価し合う時間が確保できるからだ。
昨年11月にポーランドで開かれたCOP19で「準備できる国は15年3月までに示す」ことを申し合わせた。

「来年の早期に目標を提出できるだろう」。6日に開かれた閣僚級対話で、中国の閣僚は初めて明言。
最大の排出国でありながら削減対策に後ろ向きとの批判を浴びてきたが、「パリでの合意を最大限支援する」と積極姿勢を見せた。

米国の代表も、環境保護局が2日に発表した国内発電所の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに05年比30%削減する温暖化対策案を説明し、来年3月までの提出を約束。

欧州連合(EU)の代表は30年までにEU全体で1990年比40%削減する案を「10月までに決定する」と宣言した。

こうした中、CO2排出量世界5位の日本は存在感を示せなかった。北川知克副環境相は「エネルギー政策の検討の進展を踏まえ、最大限野心的な目標を検討する」とあいまいな表現に終始した。

東京電力福島第1原発事故から3年以上過ぎても、原発や再生可能エネルギーの比率が決まらず、20年までの「05年比3.8%減目標」ですら「暫定」と位置付ける日本。
準備会合に参加した環境団体からは「周回遅れだ」との批判が上がった。【6月20日 毎日】
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深刻な大気汚染によって、中国も規制に向けて「重い腰」を上げつつあります。
シェールガス革命に沸くアメリカでは、オバマ大統領が任期中に気候変動問題で成果を上げたい思惑があります。
米中両国は、今月9日からの米中戦略・経済対話でも協調を演出しています。

****米中「気候変動で協力」 温室ガス削減、思惑に差 戦略・経済対話****
9日に始まった米中戦略・経済対話では、安全保障で対立が目立つ一方、気候変動への対応で協調を演出した。
世界1、2位の温室効果ガス排出国でもある両国は、天然ガス利用を後押しする国内事情も似ている。
だが、「大国」を巡る考え方の違いがここでも顔をのぞかせている。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は開幕式で、「気候変動への対応」を重要課題に挙げた。
国家発展改革委員会の解振華副主任は、両国が温室効果ガス削減に役立つ八つのプロジェクトに合意したことを紹介。「対話と同時に、実践でも効果をあげていく」と胸を張った。

中国は2006年、米国を抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となった。これまでは「先進国とは発展段階に違いがある」として、経済成長にマイナスとなりかねない削減策に消極的だった。排出を減らすための総量目標も掲げていない。

だが、エネルギーの多くを石炭に頼った構造は、微小粒子状物質「PM2・5」などによる深刻な大気汚染を招いている。環境負荷の少ないエネルギー源への切り替えは切実な課題だ。
汚染対策と同時に、排出量も抑える方向へ「重い腰」を上げつつある。

オバマ大統領も9日の声明で「ここ数年、両国は気候変動で協力関係を大いに高めた」と成果を強調した。

オバマ政権は先月、石炭火力を大幅に減らす新規制案を公表。二酸化炭素の排出量を30年までに3割削減する目標を掲げた。
シェールガス革命が続くなか、天然ガスや太陽光発電など排出量が少ないエネルギーの活用を目指す。

国際社会では来年、20年以降の新たな温暖化対策の枠組み作りがヤマ場を迎える。残りの任期が3年を切ったオバマ政権は、中国も巻き込みながら新たな枠組み作りで主導権を握りたい考えだ。

数カ月前から「環境は主なテーマの一つになる」(米政府関係者)と強調するなど、当初から成果にしたい分野でもあった。

ただ米国側の出席者によると、この日の話し合いでも、20年以降の削減目標について踏み込んだ議論を求める米国側と中国側との溝が目立ったという。

米国のトッド・スターン気候変動担当特使は「(先進国と途上国という)二分論的な議論には賛同できない」と話し、「大国」と「途上国」の立場を使い分ける中国の姿勢に釘を刺した。【7月10日 朝日】
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温暖化で泣く国、笑う国
温暖化と言うと、そのネガティブな影響が前面に出てきます。
水没してしまう島国などは大問題ですし、温暖化の影響をトータルとして捉えても、人類にとって困った問題であるのは事実でしょう。

ただ、当然ながら、温暖化によって差し当たりの利益を得る国・地域・者もあります。
特に、食糧生産においては、これまでの産地が被害を受ける一方で、これまで生産に適さなかった地域・国が新たな生産地として浮上してきます。

すでに、そのような変化を見越した動きが顕在化しているそうです。

“フランスのボルドー、ブルゴーニュをはじめ欧州の著名なワイン産地では、過去三十年で平均気温が一・五~二度程度も上昇、ワインの質に変化が生じ始めた”一方で、“フランスとスペインの国境に沿って走るピレネー山脈。最高峰のアネート山はじめ三千メートル級の峰が連なる。スキーリゾートくらいしか使い道がないとみられていた山岳地帯の地価がこの数年、上昇している。別荘地やリゾート開発のためではない。買っているのはスペイン、フランスのワイン生産者たちだからだ”【下記 選択7月号記事】とのことです。

カナダのアルバータ、サスカチュワン、マニトバの三州の農地が値上がりしているそうです。
従来春小麦しか耕作できなかったのが、温暖化によって冬小麦やトウモロコシも可能になったためとか。

日本でもこれまでの「コメどころ」新潟県を生産量で北海道が上回ることもあるとか。
品質でも、新潟の「南魚沼産コシヒカリ」に代わって、北海道の「ゆめぴりか」「ななつぼし」や山形県の「つや姫」が美味しさでトップにランクされることが増えてきたそうです。

生産者の努力や品種改良もありますが、“北海道の気候が米作に最も向くようになった”ことも背景にあります。

下記はそうした事情を紹介して非常に興味深い記事です。
ただ、“だが、今、温暖化を悪用しようという農民、企業、土地業者が出現しているのだ”という表現はどうでしょうか?

温暖化の変化を利用すること自体は、“悪用”ではなく極めてまっとうな経済活動です。
そうしたプラス面の活用がないと、トータルのマイナスが更に膨らみます。

****温暖化で激変する「世界食糧地図****
南北格差と紛争の新たな「火種
・・・・気候変動はコメ、小麦など食糧生産にも及び、今世紀末には飢餓発生の予測も出始めた。
だが、今、温暖化を悪用しようという農民、企業、土地業者が出現しているのだ。(中略)

「今世紀末に地球の平均気温が今よりも二度上昇するとコメ、小麦、トウモロコシの三大穀物の生産は大きな打撃を受け、四度上昇すると、主食の生産そのものが困難になる」。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第二作業部会が今年三月末に公表した気候変動の食糧への影響の報告書は衝撃的な内容だった。

ただ、気温上昇を二度、四度などと仮定のものとしているために、一般の人の受け止め方はそれほど深刻ではなかった。

だが、その意味するところは今、生まれた赤ちゃんが老人になるころには地球では大規模な飢饉が生じ、食糧を奪い合う戦争が起きている可能性があるということだ。(中略)

このように気候変動は農業生産に大きな影響を及ぼしつつある。その大部分はマイナスの要因で、変化の方向も予測しにくい。人類にとっては、食糧危機のリスクが着々と高まりつつある。

だが、世界のなかには驚くべきことにこうした温暖化を歓迎する農家や企業、政府も少なくないのだ。
カナダの農家は冬小麦やトウモロコシの生産が可能になることで、一定面積から得られる収入は、少なくとも五〇%以上増えるとの試算がある。米国中部でもトウモロコシの二期作が可能になれば確実な収入増になる。

実はそうした穀物農家にとってのプラス要因は気温上昇だけではない。

大気中の二酸化炭素の濃度が高まることで、小麦やトウモロコシの光合成の効率が高まり、生育期間が短縮されたり、単位面積あたりの収量が増加したりする可能性が高いからだ。
二酸化炭素の「施肥効果」と呼ばれるもので、肥料の大量投入と同じような増産効果が今後、見込まれるという。

シベリアが小麦産地になる可能性
奇妙な一致がある。こうした気温上昇や二酸化炭素濃度の上昇による農業生産へのプラス効果を享受できる国は、二酸化炭素排出の最大の要因である石油、天然ガス、石炭など化石燃料の主要産地と重なるのだ。

コーンベルトが広がるカナダは在来型の天然ガス、石油に加え、サウジアラビアの原油埋蔵量に匹敵するといわれるオイルサンド、さらに開発ブームとなっているシェールガスの埋蔵量も少なくない。

従来型の天然ガス埋蔵量では世界トップクラスで、石油生産も世界二位のロシアはウラル山脈以西の従来の穀倉地帯は温暖化で干魃の影響を受ける。

だが、「不毛の大地」シベリアの永久凍土が解け、短い夏しかなかった土地が小麦生産に向くほどの暖かい土地になる可能性がある。

カナダ、ロシア、米国の農民、農業にとっては地球上の二酸化炭素排出がどんどん増え、温暖化が進み、二酸化炭素濃度も高まることは、実は歓迎すべき面があることを認識すべきだ。

さらにグリーンランドも温暖化で氷床が解け、原油開発が進み始めており、今世紀後半には南部沿海部に農地が生まれる可能性も指摘されている。
そうなれば連合で王国を形成するデンマークは、本国以上の面積の農地をグリーンランドに得るという予測もある。

天然ガス、石油、石炭の消費を抑制するよりも、化石燃料を世界に輸出し、温暖化を加速させた方がカナダ、ロシア、米国には一石二鳥の利益になる。

オバマ政権はここにきて、地球温暖化問題への取り組みを強め、石炭火力発電の抑制に動こうとしている。
だが、米国の農民票の八〇%以上は共和党支持で、民主党は農民に擦り寄っても、もともと票が取れないという隠れた事情がある。

オバマ大統領は地球温暖化への取り組み実績を残すだけで、実効があがらなくても構わないという発想だろう。
ポスト・オバマが共和党の大統領になれば、かつてのブッシュ政権のように温暖化対策のグローバルな協定から再び離脱しないとも限らない。

一方で、温暖化が進めば近い将来、確実に食糧問題に直面する国がある。その代表はバングラデシュとインドだ。両国ともコメが主食で、現状ではかろうじて国内生産で大人口を支えている。

特にバングラデシュは国土のほとんどが海抜十二メートル以下で、海岸部のコメ生産地域にはゼロメートル地帯も多い。

温暖化による海面上昇が進めば、国土の水没が加速し、沿海部の水田が次々に海に呑まれていくとともに、残った農地でも塩害が深刻化する。コメ生産が大きく減少するのは確実だ。

海水面の上昇は南太平洋の島嶼国の水没が注目されているが、バングラデシュでは食糧問題に直結する。

インドは近年、温暖化とともにモンスーン期の豪雨が激しさを増しており、米作地帯のガンジス川流域は大洪水で大きな人的被害を出すだけでなく、コメの生産でも冠水による稲の全滅など大きな打撃を受けている。

一方で、デカン高原などでは温暖化で干魃が恒常化。陸稲や小麦、トウモロコシの生産には不安が広がっている。

温暖化で笑う国と泣く国の対立
中国への影響は不透明だ。「江浙実れば、天下足る」と言われた長江下流域の穀倉地帯は海水面上昇の影響で塩害が懸念されているほか、大洪水の頻発という不安もある。

一方で、黒竜江省など北部はカナダと同様に温暖化で耕地面積が着実に拡大し、小麦、トウモロコシに加え、今や中国有数の水田地帯にもなっているからだ。

そのほか人口九千万人を抱え、世界最大の小麦輸入国であるエジプトは穀倉地帯のナイル・デルタの海抜が一~二メートルと低く、海水面の上昇で耕地が激減し、主食の輸入依存度がさらに高まる懸念がある。

一〇年末から中東地域でわき起こった「アラブの春」はエジプトのムバラク政権やリビアのカダフィ政権の長期圧政に対する不満だけでなく、穀物価格の値上がりが直接的な原因だった。

中東では地球温暖化による食糧危機が政治的不安定の度合いをさらに強める恐れがある。  

こうした気候変動の農業への影響を計算して動いている企業がある。世界の種子を支配するといわれる米モンサントなどだ。

干魃や降雨量への減少に対しては耐乾品種のトウモロコシ、小麦を開発、すでにアフリカやメキシコ、ブラジルに売り込んでいる。

アジアに対しては大洪水で二週間冠水しても生き残る稲が開発され、インド、タイなどで試されている。その多くは交配による品種改良ではなく、遺伝子組み換えだ。

さらに乾燥に伴う病害虫の発生に強い農薬も開発されており、種子・農薬メーカーには温暖化は巨大なビジネスチャンスになっている。

地球温暖化で笑うカナダ、米国、ロシアなど北に位置する国と温暖化で泣く南のインド、バングラデシュやエジプトなどの中東諸国。

地球温暖化は食糧、農業を通じて新たな「二十一世紀の南北問題」も引き起こそうとしている。温暖化はもはや将来の問題ではなく、足元の危機になりつつある。【選択7月号】
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