(カリフォルニア州マリエータ テキサスで逮捕された子供・女性の不法移民を手続きのために移送するバスを追い返そうとする抗議者(右側でしょうか)ともみ合う反対者たち “flickr”より By FuTurXTV https://www.flickr.com/photos/28646916@N06/14635589953/in/photolist-ooy4BQ-opraLm-o1hFqH-od1GkH-nZ3nCf-nZ3Jzz-oiidZP-nZ3opy-ooSEDD-o6cGU6-ogC7Yr-o9JQW5-obGSQy)
【「私が仕事をしていることを理由に訴えるというのか」】
7月3日ブログ「アメリカ 膠着した議会を通さず大統領令で制度改革を進めるオバマ政権 次の目標は移民改革」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140703)で取り上げたように、アメリカでは中間選挙を控えてオバマ大統領と共和党の対立が一段と激しくなっており、議会が麻痺状態のためオバマ大統領は大統領令で議会を無視しても施策を行う強い姿勢をみせ、一方、共和党はこれを職権乱用として提訴する構えを見せています。
****ピークに達した米大統領と共和党の対立****
・・・・「議会に不満を持つ皆さんに、何が問題かをはっきりさせようじゃないか。もう大統領選に出る必要がないから、思い切って言えるんだ」
オバマ氏はテキサス州オースティンでの演説で、最低賃金の引き上げや包括的な移民制度改革に関する自らの提案を進めようとしない連邦議会の共和党指導部を強くなじった。
下院の過半数を共和党が握る「ねじれ」状態の中、オバマ氏は大統領令を多用せざるを得ない。共和党のジョン・ベイナー下院議長(64)がこれを職権乱用だとして、訴訟を起こす意向を表明したことを取り上げたくだりでは、興奮のあまり声が裏返った。
「彼らは『大統領を訴える』『弾劾する』という。ホントか? 私が仕事をしていることを理由に訴えるというのか」
【7月20日 産経】
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オバマ大統領は怒っていますが、共和党側は提訴に向けて動き出しています。
****オバマ氏提訴決議案を可決=米下院委****
米下院議事運営委員会は24日、野党・共和党のベイナー下院議長がオバマ大統領を職権乱用で提訴することを可能にする決議案を、同党の賛成多数で可決した。
与党・民主党は反対しているが、決議案は来週中にも下院本会議で採決され、成立する可能性が高い。
11月の中間選挙に向けて強硬姿勢を強めるベイナー議長は、成立すれば直ちに提訴に踏み切るとみられ、米政治の混乱は一層拡大しそうだ。【7月25日 時事】
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【保護されても収容しきれず、食料や医療も十分行き渡らない】
国内政策で目下の最大の懸案事項は、前回7月3日ブログでも取り上げた、急増する南米からの不法移民の問題です。
従来、不法移民と言うと、隣国メキシコからの流入が問題となっていましたが、メキシコ経済の好調でメキシコ移民流入が収まった一方、犯罪と貧困が深刻なグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなどから、子供の不法移民が急増していることが問題となっています。
****不法入国:中米諸国→米国、子供急増 ギャングから逃亡/犯罪組織が手引き****
米南部テキサス州などでメキシコ国境から親などの同伴なく不法入国して保護される中米諸国の子供たちが急増している。
オバマ政権は8日、「緊急人道事態」として37億ドル(約3700億円)の資金拠出を議会に要請し、収容施設の確保や強制送還の迅速化など対応強化に理解を求めた。
だが、野党・共和党のみならず、人権団体や国連からも「応急措置に過ぎない」との批判が出ている。
米税関・国境警備局によると、昨年10月から今年6月までにメキシコ国境付近で保護された17歳以下の子供は前年同期比2倍の約5万7000人。
メキシコからの不法入国は大きく減少しているものの、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国の出身者の急増が目立つ。
不法入国する子供の急増で、保護されても収容しきれず、食料や医療も十分行き渡らない。
72時間以内に保健福祉省に引き渡され、送還手続き開始を待つが、約37万人が待機中だ。
今回の資金で、収容施設の確保や医療の提供、子供を迅速に送還する体制と国境警備の強化を行うという。
国連児童基金(ユニセフ)によると、中米の子供たちが母国を脱出して不法入国を試みるのは、ギャングや犯罪組織などによる残虐行為や暴力▽貧困▽不平等−−などから逃げる目的だ。
また、米下院のマコール国土安全保障委員長は「麻薬密輸犯罪組織が、子供1人につき5000〜8000ドルで密入国を請け負い、搾取している」と指摘する。
また、人身売買を禁じる法律が2008年に制定されて子供の送還審理に時間がかかるようになり、中米で「子供はいったん入国すれば滞在できる」とのうわさが拡大したことも不法入国急増の理由だ。
オバマ大統領が進める包括的な移民制度改革への期待も背景にあるとみられる。
国境警備を厳しくする一方、既に入国している不法移民のうち一定の条件を満たした者には市民権が取得できる道を開く内容だからだ。
しかし、法案は米上院を通過したものの、共和党が過半数を占める下院では審議が進まず、共和党指導部は年内に採決は行わない意向を示している。
子供たちを支援しているNPO(非営利組織)「弁護が必要な子どもたち」のウェンディ・ヤング代表は米NBCテレビで「根本的な解決策に向けて動く時だ」とし、問題の根源である中米の国々の問題に対処し、子供たちが安全に自分の国で暮らせるようする必要があると強調した。【7月15日 毎日】
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****米へ不法入国の子急増 中米から暴力・貧困逃れ 「来なければ死んでいた」****
・・・・麻薬密売組織に協力しないと子どもを殺すと脅された母親も多い。・・・・国連によると、2012年の殺人事件発生率は、ホンジュラスが10万人あたり90・4件と世界最悪。エルサルバドル、グアテマラもワースト5に入る。・・・・祖国や道中に暴力を振るわれたり性的虐待を受けたりした子も多い。・・・・一方で、密入国者を敵視する人々もいる。1日、カリフォルニア州の国境沿いの町ムリエッタでは、一部の住民が、テキサス州から密入国者の母や子どもたちを移送してきたバスを包囲。「犯罪者」「国に帰れ!」などと叫び、町に入ることを拒否した。・・・【7月11日 朝日】
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“問題の根源である中米の国々の問題に対処し、子供たちが安全に自分の国で暮らせるようする必要がある”というのは間違いないですが、そうは言ってもすぐにどうこうなるものでもありません。
【「米国が『機会の国』というならば、それを見せてほしい」】
先述の大統領と議会の対立によって、当面の緊急対策についても予算措置がままならない状況です。
****子だけの不法入国深刻化=予算確保見通し立たず―米政府****
貧困や犯罪から逃れるため単身で中米の親元を離れ、米国に不法入国する子供たちの問題が深刻化してきた。オバマ政権は一時保護する施設すら足りなくなり、37億ドル(3800億円)の追加予算を議会に要求。
しかし、議会では党派対立が深まり、予算が承認される見通しは立っていない。
オバマ大統領は25日、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国の首脳とホワイトハウスで会談し、不法入国急増の背景にある貧困と犯罪を撲滅するため、協力して取り組むことで合意した。
大統領は道中で犯罪に巻き込まれる子供が多いとの報告を踏まえ「子供を危険にさらす流れを止めなければならない」と語った。
米政府などによると、親を伴わずにメキシコ国境を越え、当局に取り押さえられた17歳以下の子供は、昨年10月からの9カ月間で5万7525人。
大半が中米3カ国の出身者で、6歳以下の幼児だったケースもある。9月までに9万人に達するという試算もある。
親が劣悪な生活環境から子供の将来を悲観し、米国に移り住んだ親類を頼って、不法入国を請け負う組織に子供を委ねるケースが目立つ。
大統領が移民受け入れに前向きとみられ、「米国にたどり着けば永住が認められる」と誤解が広がっていることも不法入国急増の一因のようだ。【7月26日 時事】
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南米不法移民の問題は、アメリカ国内で人口増加に伴って存在感を増し、大統領選挙などでキャスティングボードを握りつつあるヒスパニック票の行方にも関わります。
****中米「難民」の子、受け入れを 若者、断食で訴え 米国****
危険や貧しさから逃れ、中米から米国にひそかに入国する大勢の子どもを支援するため、ロサンゼルス在住の14~22歳の若者8人が、市内のユニオン駅前で21日から5日間の断食を続けている。
8人は米政府に、入国した子どもたちを「難民」として受け入れることを求めている。
参加者の一人、グアテマラ人のヤミレックス・ルストリアンさん(18)は7歳の時、6歳の妹の手を引き、砂漠を越えた。
米国で広がる子どもの密入国反対運動について「子どもは、危険から逃げてきた。彼らの祖先にも同じ苦労をした人がいるだろう。米国が『機会の国』というならば、それを見せてほしい」と憤る。【7月26日 朝日】
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ヒスパニック系住民の間では、不法移民の強制送還を続けるオバマ大統領への失望・怒りも出てきています。
移民は、日本が固く門戸を閉ざしているように、様々な厄介な問題を引き起こします。
“不法”移民は犯罪者だから、追い返せ!・・・・というのはもっともですが、救いを求めてやってくる人々を追い返すことがまっとうなことなのか?という疑問にもなります。
特に、アメリカのような“移民の国”にあっては、国の理念ともかかわります。
ピルグリム・ファーザーズ以来これまでアメリカが世界中から移民を受け入れてきたのは、労働力として移民が必要だったということがあるのでしょうが、その必要がなくなったから、あるいは自分たちの生活への弊害が目立つようになったからといって、過去の移民の子孫たちが新たな移民に門戸を閉じてしまうというのも随分と身勝手な感もあります。
現在は一時保護施設がパンク状態で非人道的状態になっているとのことです。
「難民」として受け入れるかどうかはともかく、せめて強制送還までの一時保護施設等の緊急対策だけでも党派対立を離れてすみやかに対処すべきと思うのですが、現実政治は非情です。
たとえ一時的保護でも手厚い措置は、ますます多くの不法移民を引き寄せてしまう・・・ということでしょう。
しかし、そうした社会的コストは、生まれた国・場所で人の幸・不幸が決まってしまうという不条理とも言える現在の国家の枠組みを“やむを得ない現実”として黙認するうえでの代償でしょう。