孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナの犠牲者100人超  イスラエル核施設を狙った攻撃も “過剰攻撃”自制が求められるイスラエル

2014-07-11 22:25:30 | パレスチナ

(空爆を受けるガザ “flickr”より By Islamic News Daily https://www.flickr.com/photos/islamicnewsdaily/14622802555/in/photolist-ohaFKr-oguez4-nZGnii-oiVSFD-nZFfnN-nZF4YJ-nZFfeb-nZmwEq-oh59kQ-oj3PJn-og1XXE-nYHgfT-ogQeKV-nZh2ch-oio4op-oiBW3z-nYJcYD-nYGXXY-nYJd1T-ofUYJZ-nZgEB7-ofUYCB-nZgsn9-oeS9jN-og9Myq-ohY3E8-oeaAUU-nZhNjD-nYHgmp-ofUYHr-og9MqQ-nYJd9Z-nYJd9i-nZiEx4-og9Mq9-oeaAX9-ohY3Fv-nYJd6T-ofUYP8-nYGY6o-oeaAWY-nYGY8C-ogzthh-oeaARh-ogoEgp-ogvGpt-ofu7pJ-og2PKf-ofu7rC-o12UFa)

地上侵攻もありうる
イスラエル・パレスチナ双方の若者・少年が殺害されるという事態で“憎しみと報復の連鎖”が止まらないパレスチナ情勢については、7月2日ブログ「行方不明のイスラエル人少年、遺体で発見 今度はパレスチナ人少年が拉致・殺害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140702)でも取り上げたところですが、事態は悪化・エスカレートするばかりです。

ガザ地区からのハマス等によるイスラエルに向けたロケット弾攻撃、イスラエルのガザ空爆が繰り返されるなかで、イスラエル軍による「地上戦」の可能性も強くなっていることを各紙が伝えています。

****パレスチナ:イスラエル軍「地上戦準備」 ガザ住民に退避促す****
イスラエル軍は10日、イスラエルとの境界に近いパレスチナ自治区ガザ地区中部東側の住民数千人に別の地域へ退避するよう警告を出した。イスラエルメディアが伝えた。

また、イスラエル軍は10日までに予備役2万人を招集。軍広報官は同日、ロイター通信の取材に「地上戦に備えての招集だ」と話しており、空爆を継続してもガザからの砲撃が止まらない場合、地上侵攻もありうるとの見解を示した。(中略)

また、イスラエルのテレビ局「チャンネル2」はイスラエルが退避警告を出した狙いについて、地上戦でガザ中部の東側から侵攻する可能性があると指摘。
一方で、地上戦が近いと印象付ける狙いもあるのではないかと伝えた。

同局が最近行った世論調査によると、地上戦を支持しないと答えたイスラエル市民は47%で、支持すると答えた市民(42%)をわずかに上回った。

また、イスラエル軍広報官は10日、ロイター通信の取材に「現状では最大限の空爆を行うことに集中している」としたうえで、予備役を新たに6000人追加し2万人に増員した理由について「地上戦が必要となる可能性」も踏まえたうえでの判断だと述べた。

一方、パレスチナのアッバス議長は10日夜、演説し「どちらが戦闘を始めたかではなく、流血の事態をいかに防ぐかだ」と語り、双方に停戦を呼びかけた。また、ケリー米国務長官やトルコのエルドアン首相と対応について協議したと明らかにした。【7月11日 毎日】
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地上戦となると、これまでの空爆を大きく上回る犠牲者が出ることが懸念されます。
国際社会はこぞって双方に自制をよびかけてはいますが、停戦の糸口は見つかっていません。

2012年の衝突時に仲介に立ったハマスと近いムスリム同胞団出身のエジプト・モルシ政権は今はなく、現在のシシ政権はムスリム同胞団敵視政策を進め、ハマスが実効支配するガザ地区への物資供給を遮断していますので、仲介も難しい情勢です。

****イスラエルのガザ空爆、攻撃の連鎖 国際社会が休戦呼び掛け****
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区に対する空爆を続行し、パレスチナ側の武装勢力、イスラム原理主義組織ハマスもロケット弾による応戦を継続する中、国際社会は10日、一斉に休戦を呼び掛けた。

双方の攻撃は強まる一方で、パレスチナ側の死者は10日だけで30人を超えた国連(UN)の潘基文事務総長は、国連安全保障理事会の緊急会合で即時停戦を訴えた。

同様にロシアのウラジーミル・プーチン大統領も、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をかけ、流血の事態を終結させるよう促し、また民間人の犠牲者が出ていることに懸念を表明した。

米国のジョン・ケリー国務長官は、ネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス(Mahmud Abbas)議長と個別に会談した後で、同地域が「危険な時」に直面していると警告した。

さらにフランスのフランソワ・オランド大統領も、双方に対し「自制」と「譲歩」を呼び掛けた。

しかしイスラエルは、ガザ地区を実効支配しているハマスに致命的な一撃を加えようと躍起になっている様子で、ネタニヤフ首相は停戦協議など「今後の検討課題にすら入っていない」と発言したと報じられている。

対するハマスも攻撃の手を緩める意思はないとみられ、過去48時間にイスラエルの深部へ向けた攻撃を続けている。ハマスが発射したロケット弾は、エルサレムやテルアビブ付近の他、ガザから北へ116キロも離れているハデラでも着弾が確認されている。【7月11日 AFP】
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ハマスとイスラエルが衝突するとき、本来であればパレスチナ自治政府が前面で出て事態解決をはかるべきところですが、アッバス議長の存在感がほとんどないのが現実です。

核施設を狙い、ロケット弾3発を発射
ハマスのロケット弾攻撃で気になったのは、イスラエルの原子力施設を目標とした攻撃を行っていることです。

****イスラエルの核施設を狙い、ハマスがロケット弾****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスは9日、イスラエル南部ディモナにある核施設を狙い、ロケット弾3発を発射した。

うち1発は、イスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」が撃墜したが、2発は空き地に着弾した。核施設への被害は確認されていない。

ハマスは、射程約80キロのロケット弾で核施設を狙ったことを認める声明を出した。ハマスは2008年にも核施設を狙った自爆テロを行ったことがある。(後略)【7月10日 読売】
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原子炉1基を擁するディモナの核施設はガザから約80キロの場所にあり、事実上の核保有国とされるイスラエルの核兵器開発にも関連があるとみられています。

“一連の戦闘でハマスはイスラエル側に事実上「実害」をもたらしていないため、致命的な損害を与えうる重要施設などを狙い始めている。”【7月10日 毎日】

ガザからのロケット弾の多くはイスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」でブロックされており、10日時点ではけが人は1人にとどまっています。

11日には、南部の町アシュドッドのガソリンスタンドにロケット弾が命中して激しく炎え上がり、3人がけがをしたとのことでから、それを加えてもけが人が数人程度です。

一方、イスラエル軍の空爆は1000カ所以上に及び、パレスチナ人の死者は102人に達しています。
その中には民間人も多く含まれています。また、負傷者は670人以上に上るとされています。

このように「実害」と言う点では比較にならない状況で、“致命的な損害を与えうる重要施設”を狙った攻撃ということですが、どこまで本気でしょうか?

イスラム過激派が考えていることは知る由もありませんが、本気で核施設を狙うなら、もっとロケット弾攻撃を集中させて、「アイアン・ドーム」のブロックをかいくぐる試みがあってもよさそうです。
80km飛ばせるロケット弾がそう多くないのでしょうか。

イスラエルへの脅しであれば、危険な脅しです。“間違って”命中すれば、イスラエル側の激しい報復を誘発し、多大な犠牲者を出します。

ガザの武装勢力も組織だった攻撃というより、各人・各組織が勝手に攻撃を行っている・・・という状況でしょうか。

日本の原発再稼働で大規模自然災害を想定した議論もなされていますが、何万年後に起こるかどうかわからない大規模火山噴火などよりは、隣国と関係が悪化した結果、原発を狙ったミサイルが飛来するという危険性の方が大きいようにも思えます。

その場合はハマスの手製ロケット弾などではなく、命中精度も高い本格的ミサイルです。隣国が悪意を持ってそのような攻撃をおこなった場合、洋上のイージス艦からのSM-3や地上配備のパトリオットでは十分に防ぎきれないとも言われています。

空爆の直前に電話やチラシで避難を呼びかける・・・・
話をパレスチナ・イスラエルに戻すと、イスラエルは「民間人被害を回避するため」として空爆の直前に電話やチラシで避難を呼びかけるそうです。(全部のケースでやっているのかはわかりませんが)

“8日午前3時半ごろ、隣家に住むいとこが大声で叫んだ。「イスラエルから電話があった。5分後に空爆すると言っている」。アルザブトさんは4人の子供のうち幼い2人を抱えて家から飛び出し、全力疾走した。数百メートル離れたところで、耳をつんざく爆発音がし、振り返ると自宅が炎上していた。”【7月9日 毎日】

“南部ラファでは9日、軍がハマス幹部の自宅空爆の直前に電話で退避を促したが、いったん避難した家族が早く戻り過ぎたため8人が死亡した。”【7月10日 毎日】

事前の通告がないケースもあるようです。
“ここに住んでいたダウラト・ナワスラさん(49)によると、9日午後、イスラエル軍の空爆を受け、爆音とともに家が崩れた。
イスラム教の断食が明ける日没に備え、家族が午睡などでくつろいでいた時だった。息子とその妻、孫2人を含む5人が犠牲になった。「息子の妻は妊娠4カ月だった。皆で遺体の肉片を集めた」。ナワスラさんは泣きながら訴えた。
「みんな殺された。ユダヤ人に死を!」。武装勢力とは関係がないナワスラさんの家族の死に、集まった人たちは怒りをあらわにした。”【7月11日 朝日】

5分前に通告されても・・・という感もありますが、命だけは守れることもあります。守れないことも。
それにしても、電話通告するというのは、イスラエル側が圧倒的な情報量を有していることを示しています。

【“自衛”と言う名の“過剰な攻撃”】
国連安保理の緊急会合で、イスラエルのプロソル代表は、ガザ空爆はミサイル製造施設の破壊が目的だとして、「自衛」を主張しています。

“自衛”の定義は様々です。
イスラエルの場合、“自衛”とは、相手が攻撃の能力・意思をなくすまで徹底的に攻撃することを意味しています。

“ガザからのロケット弾飛来を知らせる警報サイレンの音を15秒間議場に流し、「(イスラエル市民も)逃げ惑っていることを想像してほしい」と訴えた。”【7月11日 毎日】とのことですが、パレスチナでは逃げる間もなく殺害される民間人も出ています。


必ずしも犠牲者の数でその痛みが測れる訳でもないでしょうが、先述のように犠牲者はイスラエル側のけが人数人に対し、パレスチナ側は民間人を含む死者102人、負傷者670人以上です。

潘基文(バンキムン)事務総長はパレスチナ人の死者が88人に上るとの報道があると指摘し、「衝突の代償は市民が払わされている」と主張。「ハマスの無差別なロケット弾攻撃を非難するが、イスラエルの過剰な攻撃も容認できない」と語っています。【7月11日 毎日】

圧倒的に有利な軍事力を有するイスラエル側が、“自衛”と言う名の“過剰な攻撃”を自制することを願います。
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欧州人権裁判所  フランスの「ブルカ禁止法」を支持

2014-07-10 23:17:35 | 女性問題

(2011年4月11日 ロンドンのフランス大使館前でフランスの「ブルカ禁止法」に抗議するイスラム女性 “flickr”より By sinister dexter https://www.flickr.com/photos/sinister-pictures/5617379810/in/photolist-9yoxj3-2Yr7pc-8MmVvH-aGjnLF-a23VZN-5hPwm5-byzp8e-f1t7Jv-nhFr6t-axYJRS-5dekCb-9VCNcm-dw4AR3-fhoDMS-ew19CV-7XsoLe-dZFB1k-dUqHQY-kUTNcM-bq7L3Y-diGfy4-5Sa4wu-cEBhsq-ek9E8b-anU5aZ-dpeMkP-e27fZb-e21D6F-3n9zJd-arNM1J-fhMB6G-bH4HjH-e1Yyfc-bBsGZD-S4oxd-73YWdH-m5ksfX-eYp6UF-8bqHNi-6YkXFM-dsh1Tp-6dccm6-nHQszc-dshbvm-dk3S45-fxjSiq-9hC3ND-bzGYqB-j6uFp7-a23Vfs)

【「まるでタリバンの女性のようにさせたがっている」】
イスラム女性の髪の毛を覆うスカーフ、目だけを出したニカブ、顔の部分のみを網状にして全身を覆うブルカといった衣装は、このブログでも再三取り上げるように、イスラムを象徴するものとしてしばしば問題になります。

イスラム国家にあっては、スカーフを着けないことが反イスラム的行為として罰せられます。

***スーダン当局、ヒジャブ着用拒否の女性を訴追 有罪ならむち打ち刑****
イスラム教徒が多数を占めるスーダンで、髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」の着用を拒否した女性が、「わいせつ」な格好をしたとして訴追された。女性は4日に出廷したが、同事案は今のところ「宙に浮いた」状態となっている。

被告のアミラ・オスマン・ハメドさんは、オマル・ハッサン・アハメド・バシル現大統領が1989年に無血クーデターで実権を掌握した後に施行された、道徳に関する法律に違反したとして訴追され、有罪が確定すれば、むち打ちの刑に処せられる可能性がある。

首都ハルツーム近郊ジュベルアウリヤの裁判所に4日出廷したハメドさんとその弁護人はAFPの取材に、被告側は9月に訴追の取り下げを求めたが、検察側はいまだ検討中だと明かした。

ハメドさんによると、裁判所は、検察側がさらなる審問のための書類を送付するか、起訴見送りとするか決定するのを待っている状況だという。次の出廷日も決められていない。ハメドさんは「(検察は)この件をしばらく終わらせず、都合の良い時に利用するつもりなんでしょう」と話している。

スーダンの法律は、全ての女性にヒジャブで髪を覆うことを義務付けている。だがハメドさんは、スーダン政府が女性たちを「まるでタリバン(Taliban)の女性のようにさせたがっている」として、これを拒否している。
ハメドさんの一件は海外メディアの注目を集め、人権団体や活動家らからは支援の申し出が寄せられている。

ハメドさんは8月、ジュベルアウリヤの政府庁舎を訪れた際、髪を覆うようにとの警察の命令を拒否して訴追されたという。

スーダンでは2009年、女性記者のルブナ・フセインさんがズボンをはいたために罰金を受け、その支払いを拒否した事件が、国際社会の批判を浴びた。

フセインさんは1日収監された後で釈放されたが、フセインさんと共にズボンをはいて飲食店を訪れ逮捕された女性たちは、むち打ち刑を受けている。【2013年11月5日 AFP】
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イランでも、スカーフを着用していない女性の取締りが、そのときどきの社会・政治情勢を反映して強まったり、緩んだりしているようです。

一方、同じイスラム国家でもトルコのように政治世界における世俗主義を掲げてきたような国では、公的な場でのスカーフ着用は以前は認められていませんでした。しかし、最近になってこれが認められるようになったことが、イスラム主義の台頭を象徴するものとして注目されています。

【「この法律は、共生を推進するために作られたのであって、反宗教的な法律ではない」】
一方、イスラム移民が増加している欧州にあっては、イスラム住民との経済的・社会的摩擦を背景として、イスラム的な衣装を着用することを禁じる動きがあります。

「ブルカ」や「ニカブ」といった顔や全身を覆う衣装の公共の場での着用を禁じる法律がフランス、ベルギ、スイス、オランダ、イタリアなどで成立しています。

禁じる立場からは、公的な場に宗教を象徴するものを持ち込む宗教的中立性の問題、顔がわからないことに伴う治安上の問題なども指摘されます。

また、こうした衣装がイスラム世界における女性蔑視を表しているとみなされ、西欧的男女平等の価値観にそぐわないと思われることあります。

もっと素朴なところでは、排外的な風潮が強まるなかで、イスラムに対する嫌悪感の標的となっていることなどもあるようです。

イスラム女性からは、こうした禁止措置は宗教の自由を侵害するものだとの反発もあります。

****仏「ブルカ禁止法」は差別か、欧州人権裁判所で審理始まる****
顔全体を覆うベールの着用を禁じたフランスのいわゆる「ブルカ禁止法」について、信教の自由を侵害する差別的な法律かどうかを問う裁判が(2013年11月)27日、欧州人権裁判所で始まった。

一方この日、フランス首都パリでも偶然、頭を覆うスカーフの勤務中の着用をめぐって解雇されたイスラム教徒の女性に関する控訴審が開かれた。

いずれも、フランスが長年貫いてきた世俗主義の伝統と国内最大の少数派であるイスラム教徒の一部とが対立する、長引く法廷闘争の例だ。

■「共生推進が目的」とフランス政府
欧州人権裁判所での裁判は、英バーミンガムに家族がいるフランス人の大学院生の女性(23)が原告。

英国の弁護団とともに、フランス政府を相手取り、「ブルカ禁止法」は本質的に差別的な法律だとの判断を下すよう欧州人権裁判所に求めている。

女性は「ブルカ禁止法」によって信教の自由、表現の自由、集会の自由を侵害されたと訴え、同法は差別の禁止を定めた法律に反していると主張。

男性に強制されてブルカを着用しているわけではなく、治安上の理由で必要なときは脱いでも構わないと書面で証言し、仏当局がブルカ禁止の最大の理由としている2点に反論した。
告側弁護士の1人は、法廷で「ブルカ着用は過激派のしるしではない」と述べた。

一方、フランス政府側の主任弁護士は、禁止の対象はイスラム教のベールやブルカだけでなく、オートバイのヘルメットや目出し帽など顔面を覆う全ての手段にわたると指摘。「この法律は、共生を推進するために作られたのであって、反宗教的な法律ではない」と主張した。

欧州人権裁判所の判断は来年下される予定だ。

■ベール理由に解雇は不当?
パリでの裁判は、職場でスカーフを着用して働きたいと主張して解雇されたイスラム教徒の女性保育員をめぐる控訴審(第2審)。

この女性保育員は2008年、5年間の出産・育児休暇から職場復帰した際に、スカーフで頭を覆ったまま働きたいと保育所に申し出たが、「職員は価値観や政治的主張、宗教観において中立でなければならない」との規則があることを理由に拒否され、解雇につながった。

第1審では今年3月、女性の解雇は宗教的差別に当たるとの判決が下されたが、パリの控訴裁判所は27日、この判決を覆し、保育所には女性を解雇する権利があるとの判断を示した。

この判決に、世俗教育支持派からは画期的な判断だと歓迎する声が上がった。

しかし、フランスの世俗主義の原則を強調する傾向はイスラム教徒のコミュニティーをやり玉に挙げる手段だとみるイスラム教団体は判決を非難。原告側弁護団も控訴の意思を表明しており、裁判がこのまま決着する可能性は低い。

■違反者には罰金2万円
「ブルカ禁止法」は、2010年にニコラ・サルコジ前大統領の中道右派政権が成立させ、翌11年に施行された法律。社会党の現フランソワ・オランド政権も同法を全面的に支持している。

同法では公共の場で顔を全て隠すベールを着用することを禁じており、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金が科される。

だが違反者の取り締まりや逮捕をめぐってもめる事例が相次いでおり、パリ郊外でも今年、取り締まりがきっかけで暴動が起きている。【2013年11月28日 AFP】
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先日、フランス政府の主張を認め、着用禁止は思想・良心・信教の自由を侵害していないとの欧州人権裁判所の判断が示されました。

****ブルカ禁止を支持する意外な判決****
ムスリム女性の顔や全身を覆うブルカを公共の場で着用することを、フランスが全面的に禁じたのは11年。

「女性隷属の象徴」であるブルカを禁じるのは当然で、フランスの政教分離の伝統にのっとった判断だとする賛成派と、ブルカ着用は女性の自発的な選択であり、着用禁止は信教の自由の侵害だと訴える反対派の論争は今も続いている。

そんななか、パキスタン系のフランス人女性が欧州人権裁判所に起こしていた注目の裁判に判決が下された。女性はブルカ禁止法は差別的な法律だと訴え、治安上の理由で必要な場合にのみブルカを脱ぐ用意があるとしていた。

だが同裁判所は先週、ブルカで顔を覆い隠す行為は治安維持や人々の共生を難しくする恐れがあるというフランス政府の主張を認め、着用禁止は思想・良心・信教の自由を侵害していないとの判断を示した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「国家は人々に何を着るべきか指示すべきでなく、個人の選択の自由を認めるべきだ」と反発している。

欧州各国を悩ませる人権と治安維持をめぐるジレンマは、今後も続きそうだ。【7月10日 Newsweek】
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市民社会の理念にそぐわない「ブルカ」「ニカブ」】
髪を覆うスカーフと、顔が見えないニカブやブルカでは、個人的な印象は全く異なります。

イスラム住民が多い国を観光していて、スカーフ姿の女性には殆ど違和感は感じません。
暑いだろうに・・・と思うことはありますが、女性もファッションアイテムの一つとして着用を楽しんでいるようにも見えます。(着用を強制ということになれば、話はまた違ってきますが)

スカートが女性らしさ示す衣装であるのと同じような感じで、スカーフも女性をアピールする衣装となっているのでは・・・とも感じます。

ですから、中国がウイグル族対策で、女性のスカーフ着用を禁じるというのは、正当性を欠いた政治的・文化的横暴にも感じます。

しかし、全身を覆うニカブやブルカ(地域にもよるでしょうが、アジアのイスラム国では見かけることは空港以外では殆どありませんし、エジプトやドバイなどでもあまり見かける機会は多くはありませんでした。女性が表に出てこないせいでしょうか)となると、話は違います。

そもそも市民社会は、自分が何者であるかを明示したうえで発言・行動して互いのコミュニケーションをとることで成立するもので、自分を明示して社会との緊張感を持つなかで、その発言・行動の自由が権利として保障されるもののように思えます。

最近の日本でもマスクを常用する女性が多いように、顔を隠すということは、特に容姿が注目されやすい女性にとっては、気分的に楽にさせる効果があるのでは・・・と思います。

しかし、顔を隠して匿名性の後ろに隠れてしまっては、コミュニケーションをとって市民的つながりを形成することが非常に困難にもなります。(少なくとも、相手にとっては。誰だかわからない人間とは話もできません)

また、匿名性に隠れてしまうことは、社会との緊張関係のなかで保障されてきた発言・行動の自由が形骸化していくようにも思えます。(ネット上の匿名発言が、往々にして無責任で、こんなものは制限したほうがいいのでは・・・とも思わせるように)

女性蔑視云々、治安上の問題云々を別にしても、顔を隠す衣装というのは市民社会の基本的な理念と相いれないように思えます。
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インドネシア大統領選挙 ジョコ氏勝利宣言  社会的課題:宗教的不寛容と腐敗・汚職

2014-07-09 22:02:13 | 東南アジア

(9日、インドネシアの首都ジャカルタで、集会に参加しVサインのジョコ・ウィドド氏(ロイター=共同)【7月9日 共同】)

大接戦、ジョコ氏逃げ切りか
インドネシア大統領選挙は9日午後、投票が終了しました。
争うのは、庶民派のジョコ・ウィドド・ジャカルタ州知事(53)と、スハルト元大統領の元娘婿で、軍のエリートであるプラボウォ・スビアント氏(62)のふたり。

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「ジョコウィ」の愛称で知られるジョコ氏は、政治家に転身する以前は家具輸出業を営んでおり、独裁政権と無関係の人物としては初の有力大統領候補となった。当選すれば、全く新たなスタイルの指導力を発揮し、民主主義体制を強固なものにすると見込まれている。

一方、独裁政権下で民主活動家の拉致を命じたことを認めているスハルト氏の元娘婿で、軍のエリートでもあったプラボウォ氏は、強力なリーダーシップを持つ指導者を求める多くの国民から高い支持を得たが、当選すればインドネシアを再び独裁体制へと後退させるかもしれないとの懸念も出ていた。【7月9日 AFP】
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両者の掲げる政策は殆ど差がないと言われています。
また、大統領権限に限りがあることもあって、政策の財源的裏付けといった具体性はあまりない総花的な施策が並んでいるとも。

ただ、両者の経歴・政治スタイルは正反対で、どちらが選ばれるかによって、今後のインドネシアの方向が大きく変化することも考えられます。

****正反対の指導者像****
両陣営の特徴をみてみると、プラボウォ陣営にはイスラム系政党が多く集まったとはいえ、いずれも世俗主義政党とイスラム系政党の連合であり、イデオロギー的差異はそれほど大きくない。

両陣営の政策にも大きな違いはみられない。どちらも、汚職の撲滅、地方や農村の開発、農林漁業の振興、教育、保健、住宅政策の強化などを打ち出している。
政策潮流は、ユドヨノ時代の成長優先から、成長と分配のバランス重視へと大きく変化しつつある。

それでは、有権者は何を基準に投票すればいいのであろうか。今年の大統領選挙で有権者が問われている選択は、2人の候補者がそれぞれ体現する政治指導者像であり、それから生じる政治スタイルの違いである。

ジョコウィは、庶民出身の政治家として、国民と同じ目線に立ち、国民との対話を通じて、国民とともに歩んでいく新しい政治スタイルを有権者に提示している。

自らを飾らず、誠実であろうとする彼の姿勢は、これまでの既存エリート政治家にはみられなかったものであった。

連日報道される汚職事件のニュースに接していた国民にとって、政治家とは自らの利権獲得ばかりを考える存在でしかなかった。既存の政党・政治家に対する不信感が高まっているときに、ジョコウィは新しい指導者像と、新しい政治スタイルを国民に提示したのだ。

これまで政治的に顧みられることのなかった下層や庶民は、自らが中心となる新しい政治のあり方を実現してくれる政治家として、ジョコウィに期待を寄せるようになったのである。

一方、プラボウォは、旧来の伝統的な政治指導者像を提示することで、民主化後の時代に失われた強い指導者の出現を求める国民の渇望感に応えようとしている。

選挙戦でプラボウォは、馬に乗って登場し、拳を振り上げて支持者を鼓舞する。演台に上がる時には、1950年代の政治家のようにカーキ色のシャツを着て、クラシックな形のスタンドマイクの前に立つ。

演説では、外国によって国富が奪われていると説き、民族の尊厳を回復して強いインドネシアを建設するためには強い指導者が必要だと訴えている。

それは、まさにスカルノ初代大統領の姿に重なるものである。プラボウォは、叡智によって国民を導いていく政治家と自らを位置づけているのである。

2人が提示している指導者像は、まったく正反対のものである。
この異なる指導者像は、政治スタイルの違いに直結している。両者が国民に示した政策綱領の内容は似通ったものであるが、その実現方法はまったく違うものになるだろう。

ジョコウィが、国民とともに政策課題を解決していこうとするのに対して、プラボウォは、自らのリーダーシップで政策を実現していこうとする。

果たして国民は、新しい指導者像を体現するジョコウィを選ぶのか、それとも 旧来の伝統的な指導者像を体現するプラボウォを選ぶのだろうか。(後略)【7月2日 川村晃一氏 フォーサイト】
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昨年9月21日ブログ“インドネシア 来年7月の大統領選挙は早くも「当確」?”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130921)で「当確」をうってしまったように、当初「庶民派」ジョコ氏が圧倒的人気を得ていました。

しかし選挙が近づくにつれ「強い指導者」を演出するプラボウォ氏が猛烈に追い上げ、投票前の支持率で数ポイント差、あるいは調査によっては逆転といった大接戦にもつれこんでいます。

選管の公式発表は今月下旬の予定ですが、“民間調査機関が出す非公式の開票速報によると、ウィドド氏の得票率は53%で、一騎打ちとなっていた対立候補の元軍幹部プラボウォ・スビアント氏(62)の47%を僅差で上回った。”【7月9日 AFP】とのことで、ジョコ氏も「開票速報で我々が優位との情報もあり、感謝している」と語っており【7月9日 毎日】、前出AFP記事では「勝利宣言」ともされています。

正確なところはもう少し情報を待つ必要もありますが、“選挙速報によると、開票率約90%時点で、ウィドド候補がプラボウォ候補を約5%ポイントリードしている”【7月9日 ロイター】とのことですから、どうやらジョコ氏が逃げ切ったようです。

ただ、“プラボウォ陣営は敗北を認めないとしている。選挙管理委員会は今月下旬に公式結果を発表する予定だが、同陣営が異議を申し立てるのは確実だ。”【7月9日 共同】ということで、少しゴタゴタするのかも。

民主化が進み、信教・言論の自由の名のもと広がる宗教的不寛容
選挙前にインドネシアに関して報じられた記事から、気になったものを紹介します。

イスラム国家インドネシアの経済成長、今後に向けた潜在的可能性はしばしば言及されるところですが、社会的には、宗教的不寛容の雰囲気が濃くなりつつあるとも言われています。

かつて自爆テロを行ったイスラム過激派「ジェマ・イスラミア」の影響は低下していますが、これまで強権的に抑えられていた宗教的主張が前面に出てきた感があります。

****成長大国の岐路 インドネシア大統領選:下)多様な国民、統合道半ば****
 ■宗教対立、襲撃相次ぐ
「家が襲われている」。5月29日夜、出版会社に勤めるユリウス・フェリシアヌスさん(54)は息子から連絡を受けた。ジャワ島中部ジョクジャカルタ近郊のスレマンにある自宅に着くと、家を取り囲んでいた男たちに突然殴られ、意識を失った。

自宅ではキリスト教徒の友人らが祈りを捧げていた。女性と子どももいた。英字紙ジャカルタポストによると、襲撃で5人がけがをした。スレマン県の担当者によると、キリスト教徒が集まって聖歌を練習していることに近所のイスラム教徒が腹を立て、外部から人を呼んで襲ったという。

3日後、同じスレマンで別の民家が数十人のイスラム教徒らに襲われた。キリスト教徒が集まり、礼拝をしていたからだ。

警察と軍が現場に来たが、積極的に襲撃を止める様子はなかった。県担当者は取材に「2件とも宗教対立ではない。住民間のもめごとだ」と説明した。

宗教間交流団体幹部のアブドゥル・ムハイミンさん(63)によると、ジョクジャカルタでは1~6月に宗教が理由の暴力事件が8件起きた。だが、襲撃者は起訴されていない。

ジャワ島東部シドアルジョにある集合住宅には、約115キロ離れたマドゥラ島サンパンの村から避難した約180人が暮らす。イスラム教シーア派の人たちだ。イクリク・アル・ミラルさん(42)は「故郷を忘れられない。でも、いつ戻れるのか」とつぶやいた。

2012年8月、村を多数派スンニ派の数百人の集団が襲った。民家が50軒以上焼かれて2人が死亡、10人が負傷した。スンニ派の指導者団体が数カ月前にシーア派を「異端」としたことに刺激されたとされる。

その後も抑圧は止まらない。今年4月、ジャワ島西部バンドンでスンニ派指導者ら1千人以上が「あらゆる手段でシーア派の増加を食い止める」と宣言した。

 ■少数派抑圧語られず
インドネシアは「多様性の中の統一」を国是とする。民族、宗教、人種、集団を意味するインドネシア語の頭文字をとった略語「SARA」は、集団間の対立を指す際に使われる。

1967年から約30年続いたスハルト政権下では、国軍や情報機関が過激な運動の芽を摘んだ。キリスト教徒が多い地域では知事をキリスト教徒、副知事をイスラム教徒から任命するなどバランスにも配慮した。

それが、98年の民主化以降、首長も直接選挙になると、イスラムの教えを土台にした地方条例が次々とできた。民主化推進団体「SETARA」によると、その数は316。

内容は、公務員の(女性は頭にスカーフなどの)イスラム的服装の義務付け▽コーランの読み書き推奨▽酒の製造販売や飲酒の禁止▽プールを男女別に▽婚前交渉の禁止▽女性の夜間外出禁止――と広がる。

SETARA理事のイスマイル・ハサニさん(36)は「選挙で支持を集めるのに宗教的価値観に訴えれば金がかからなくてすむ。だが、こうした条例は差別を助長する」と心配する。

00年代、バリ島やジャカルタでイスラム過激派の爆破テロが相次いだ。警察が掃討し、近年は大規模テロは起きていない。

一方、民主化が進み、信教・言論の自由の名のもと、イスラム主義の排他的な一面を許容する風潮が目立ってきた。

昨年、ジャカルタのある区長がキリスト教徒という理由で解任を求める運動が起きた。ジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏(53)は「解任の理由がない」と拒んだ。

だが、ジョコ氏は大統領選に立候補すると、「背後にキリスト教徒がいる」と中傷され、イスラム学校訪問などで多数派の支持離れを防ぐのに必死だ。

元陸軍幹部のプラボウォ・スビアント候補(62)はほとんどのイスラム系政党から支持を受ける。だが、反対にキリスト教徒離れを恐れ、キリスト教徒の多い地域では「私の母はキリスト教徒」と強調した。

両候補が、宗教対立や少数派への抑圧について踏み込んで語ることは少ない。【7月3日 朝日】
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民族、宗教、人種の多様性について、強権支配政権にあっては封印されていたものが、“民主化”によって表面化し、対立・紛争が激化する・・・・ユーゴスラビア、リビア、イラク等々、各地で見られる現象です。

【「(解答を)買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」】
インドネシアも他の途上国同様に腐敗・汚職の蔓延が大きな課題となっています。

****安定」その先に:インドネシア大統領選/下 汚職横行、巡礼費まで****
「20万ルピア(約1800円)で買わない?」。4月中旬にあった全国統一卒業試験の前、ジャカルタの女子高校生、マリさん(17)=仮名=が同級生から声をかけられた。

友人は教育委員会にいる内通者から1000万ルピア(約9万円)で事前に答えを入手し、募った生徒50人で費用を分けるという。

「各教科の試験開始10分前に携帯電話へ答えが送られて来る」。志望大学の合否に直結する試験。迷ったが、両親に「不正はだめだ」と再三注意されていたこともあり断った。だが、友人は計画を実行したという。

解答の売買はインドネシアでは公然の秘密。教員協会のホットラインには今年、全国から300件以上の不正情報が寄せられた。

現場も半ば黙認で、マリさんの高校の校長はこう話すだけだったという。「買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」

利益のためには不正をいとわない。インドネシアで深刻化する汚職の背景には、そんな社会の雰囲気がある。

5月、スルヤダルマ宗教相が汚職で摘発され辞職し、衝撃が走った。現職閣僚というだけでなく、容疑がイスラム教の聖地メッカへの大巡礼(ハッジ)希望者が積み立てた預金の不正流用だったからだ。

世界中から希望者が殺到する大巡礼は、サウジアラビア政府が各国に人数を割り当てる。インドネシアは人口2億5000万人の約9割がイスラム教徒で、毎年、大巡礼には一国として世界最多の約20万人が参加する。

インドネシアでは宗教省が管轄し、希望者は庶民の年収にも匹敵する代金約20万円を預け、12〜17年待つ。政府が管理する代金は総額7200億円、利息だけでも年間約200億円に達するという。

捜査当局は詳しい容疑を明らかにしていないが、穴埋めのためサウジアラビアで発生する経費を水増ししたり、親族や関係者を優先的に巡礼させたりした疑いが持たれている。

資産は3年で6000万円増えたとの調査もあり、宗教相がうまみのあるポストだったことがうかがえる。イスラム教でハッジは「以前の罪を全て洗い流す」神聖な行為とされるが、それすら汚職のネタになるとは驚きだ。

政府は2003年に独立捜査機関の汚職撲滅委員会(KPK)を設立。これまでに政治家、首長、高官、裁判官など407人を検挙し、高い支持を集めてきた。

ただ、1998年のスハルト政権崩壊と民主化で、スハルト一族や特権層が独占していた利権は拡散し、捜査が及ぶのは一部とみられている。

「汚職撲滅に日本も協力してほしい」と話すのは、NGO「インドネシア汚職ウオッチ」のタマ・ランクンさん。「インドネシア当局の捜査力はまだまだ不足している。日本の法律や捜査の専門家が指導してくれれば、必ず役に立つ」と話す。【7月5日 毎日】
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高校校長の「(解答を)買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」というコメント、最近では一番笑えました。

社会の現実を雄弁に語る言葉でしょう。
こうした現実にあって、汚職・腐敗の一掃には時間がかかるよう思えます。
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中東アラブ社会  閉塞した現実世界からの脱出 「アラブの春」、イスラム過激派、そして不法移民

2014-07-08 22:19:06 | 中東情勢

(2012年9月6日 不法移民を乗せた船がトルコ西部イズミル沖合で転覆 救助した女の子を抱えるダイバー 【2012年9月7日 AFP】)

アラブ社会が、社会の破壊に熱中する堕落した政権や狂信者の影響を受けやすいのはなぜか?】
下記記事は、昨日ブログで取り上げたイラクの情勢も含めて、なぜ中東アラブ諸国で「イスラム国(IS)」のような社会を混乱に陥れるイスラム過激思想が広がる事態になったのか? かつて世界文明をリードした中東文明の再生はないのか?・・という視点から、衰退する中東文明の蘇生への希望を論じたものです。

多元的文化、教育、オープンな市場・・・・こうしたものを重視する価値観は、かつてはアラブ的なものだったにもかかわらず、現在に至る国家統治の失敗のなかで、圧政と経済困窮に対して不満をぶつけることができる数少ない場所がモスクであり、支配者を支援する欧米諸国への憎しみと共に、イスラム思想が次第に過激化していった・・・と論じています。

****中東:アラブ人の悲劇****
かつて世界の先頭を歩んでいた文明が廃墟と化している。それを再建できるのは、そこに暮らす者だけだ。

1000年前、バグダッド、ダマスカス、カイロといった大都市が、西側世界に先駆けて、競い合うように繁栄した。「イスラム」と「革新」は一対の存在だった。様々なカリフ(預言者ムハンマドの後継者)の治める領土は超大国であり、学問と寛容さと貿易とを導く灯台となった。

だが、現在、アラブ人は惨憺たる状況に置かれている。アジアや中南米、アフリカが前に進んでいるにもかかわらず、中東は独裁政治に足を引っ張られ、戦争にかき乱されている。

3年前には希望が膨らんだ。アラブ世界全域で市民の不満がうねりとなり、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンの4カ国で独裁者が打ち倒され、そのほかの国、特にシリアでも、変化を求める叫びが上がった。

だが、このアラブの春の果実は腐り、新たな独裁政権と戦争を招く結果となった。その2つが困窮と狂信主義を生み、それが今、世界全体を脅かしている。

アラブ諸国がこれほどみじめな失敗を喫し、そこに暮らす3億5000万の人々のための民主主義、幸福、あるいは(石油という思わぬ授かり物は別にして)富を生み出せずにいるのはなぜか? 

その疑問は、現代における大きな問題の1つだ。アラブ社会が、その社会の(そして同盟国とされている欧米諸国の)破壊に熱中する堕落した政権や狂信者の影響を受けやすいのはなぜか? 

アラブ人が民族として能力を欠いているとか、民主主義に対する病的な嫌悪感を抱いているなどと言う者はいないだろう。だが、アラブの人々が悪夢から目覚め、世界が安全を感じられるようになるためには、大きな変化が必要だ。

非難のゲーム
問題の1つは、アラブの国々の騒乱が、あまりにも広い範囲に及んでいることだ。実際、最近のシリアとイラクは、ほとんど国の体をなしていない。(中略)

エジプトは軍政に逆戻りした。リビアは、ムアマル・カダフィが暴力的な最期を迎えた後、無秩序な武装勢力のなすがままになっている。イエメンは暴動と内紛、アルカイダに悩まされている。パレスチナはいまだ、真の独立と和平にはほど遠い。イスラエル人の少年3人の殺害と、それに続く報復により、また新たな暴力の連鎖が引き起こされる恐れがある。

サウジアラビアやアルジェリアのように、政権が石油や天然ガスから生まれる富に守られ、強圧的な国家公安機関に支えられている国でさえ、見た目よりもずっと脆い。

真の民主国家になる可能性があるのは、3年前に自由を求めるアラブの春の引き金となったチュニジアだけだ。

アラブが抱えるいくつかの根深い問題の中核にあるのは、イスラム主義――少なくとも、現代的に再解釈されたイスラム主義だ。

政教一致を求め、モスクと国家の境がないイスラムの教義は、多くのイスラム教指導者に支持され、それが独立した政治組織の発達を妨げている。戦闘的な少数派は、ますます狂信的になるコーラン解釈を通じて正当性を手に入れようと躍起になっている。

それ以外のイスラム教徒は、武装勢力による暴力と内戦に脅かされ、それぞれの宗派に庇護を求めている。かつてイラクとシリアでは、シーア派とスンニ派の結婚も多かった。今では、両者はあまりにもしばしば互いに傷つけ合っている。そうしたイスラムの教義の暴力的な曲解が、遠くナイジェリア北部からイングランド北部にまで広がっている。

だが、宗教的過激主義は、悲惨な状況を導くパイプであって、根本的な原因ではない。中東以外のイスラム教民主主義国(インドネシアなど)がうまくいっているのに対し、アラブ世界では、国家の構造そのものが弱い。

ほとんどのアラブ諸国は、国としての歴史が浅い。衰えつつあったトルコのオスマン帝国の圧政に続き、第1次世界大戦後には英国とフランスによる支配という屈辱を受けた。多くのアラブ諸国では、宗主国の支配やその影響が1960年代まで続いた。

アラブ諸国はいまだに、議会での言論による意見交換、少数派の保護、女性の解放、報道の自由、独立した司法と大学、労働組合といった、民主主義国家の前提となる制度を発展させることができていない。

自由主義的国家が存在しないのと同様に、自由主義経済も存在しない。独立後に正統として広く浸透した主義は、しばしば旧ソ連に触発された中央計画経済だった。市場と貿易に抵抗し、補助金と規制を促進するアラブ諸国の政府は、自国経済を窒息させた。経済力のハンドルを握っていたのは国家だ。とりわけ、石油が絡む場合には、その傾向が強かった。

植民地独立後の社会主義の制約が取り払われた国では、特殊利益を追求する縁故資本主義が根付いた。その典型が、エジプトのホスニ・ムバラク政権の末期だった。民営化は政権関係者に利するように実施された。自由化された市場は実質的に1つもなく、世界的企業はほとんど成長せず、ビジネスや学問に秀でた能力を得たいと望む賢明なアラブ諸国民は、望みを叶えるために米国や欧州に渡らなければならなかった。

経済停滞は不満を育てた。君主や「終身」大統領は、秘密警察やならず者を使って身を守った。モスクが公共サービスの供給源となり、人々が集まって演説を聞くことのできる数少ない場所となった。イスラムは急進化し、自国の支配者を嫌う怒れる者たちは、支配者を支援する欧米諸国を憎むようになった。

その一方で、多くの若者が職を得られず、不安を膨らませた。彼らは電子メディアのおかげで、中東の外にいる同世代の若者たちの将来は自分たちよりもずっと希望に満ちていることに気づき始めた。彼らがアラブの春で街頭に繰り出したのも、全く当然だ。むしろ、もっと早くそうしなかったことの方が驚きと言える。

多くの廃墟
そうした過ちを正すのは、簡単でも、すぐにできることでもない。しばしば侵略者や占領者として中東に引き寄せられてきた外国勢力には、ジハード主義者の大義をあっさりと一掃したり、繁栄と民主主義を無理に押しつけたりすることはできない。少なくともその点だけは、2003年のイラク侵攻と占領の大失敗により明らかになっているはずだ。(中略)

だが、衰退する中東文明の状況を覆すことができるのは、中東の人々だけだ。
現時点では、それが実現する希望はほとんどない。過激派はなんの希望も与えない。君主や軍幹部は、お題目のように「安定」と唱える。混乱の時代にあっては、それに惹かれるのも理解できるが、抑圧と停滞は解決策にはならない。これまでも、それがうまくいったことはなかった。それどころか、問題の原因になってきた。

差し当たり、アラブの目覚めは終わってしまったが、それでも、それを引き起こした大きな力はまだ存在している。人々の心構えに革命をもたらしたソーシャルメディアを、この世から消すことはできない。王宮にいる者や、欧米で彼らを支援する者は、安定には改革が必要だと理解しなければならない。

それはむなしい希望だろうか? 現在の展望は血に染まっている。だが、狂信者はいずれ我が身を滅ぼす。その一方で、アラブのイスラム教徒の大多数を占める穏健で世俗的なスンニ派は、可能な限りの場所で声を上げる必要がある。

そして、ふさわしい時期が来たら、かつてアラブ世界を偉大なものにしていた価値観を思い出さなければならない。かつては医学、数学、建築、天文学におけるアラブ世界の優位性を、教育が支えていた。途方もない大都市や、そこで使われる香辛料や絹は、貿易のたまものだった。

そして、絶頂期のアラブ世界は、ユダヤ教徒、キリスト教徒、あらゆる宗派のイスラム教徒を受け入れるコスモポリタン的な安息の地であり、寛容の精神が創造性と発明の才を育んでいた。

多元的文化、教育、オープンな市場――。こうしたものを重視する価値観は、かつてはアラブ的なものだった。その価値観を取り戻すことは可能だ。

イラクとシリアでスンニ派とシーア派が互いの喉を切り裂き、エジプトで元の軍司令官が新たな玉座に就いた今、その希望は悲劇的なほど遠いところにある。

だが、あまりに多くの、あまりにひどい過ちを経験してきた人々にとって、そうした価値観には、今でも、よりよい未来のビジョンを生み出す力があるはずだ。【英エコノミスト誌 2014年7月5日号】
*******************

現在の中東の混乱を生んだ原因のひとつに、サイクス・ピコ協定、フサイン=マクマホン協定、バルフォア宣言といった「三枚舌外交」など、欧州列強の身勝手な植民地統治・国境線の線引きにあったことも付け加えるべきでしょう。

是非とも、中東文明蘇生への希望が現実のものとなることを願いますが、混乱する現状ではそれ以上は言えません。

職を得られず、不安を膨らませた若者が向かう先は、ひとつは「アラブの春」に見られたような「改革」を求める動きです。

しかし、その「改革の」の試みが挫折したとき、第二の選択肢は、イスラム過激思想に身を投じることでしょう。

日々の鬱屈した生活を耐え忍ぶよりは、宗教的激情に身をゆだねて大義に殉じる道の方が、生命の危険はあったとしても、あるいは命懸けであるだけに、魅力的な生き方に思えるでしょう。
少なくとも無意味とも思われるような苦しい日常から解放されます。

海の向こうの幸せな人生を夢見る不法移民、待ち受ける過酷な現実
現状から脱出できるもう三番目の選択肢が、「まだ見ぬ世界」への移民(ほとんどは不法移民ですが)の試みです。

****風 イスタンブールから)欧州への不法移民 中東の絶望、背負う若者たち 川上泰徳****
イスタンブールの商業地区「アクサライ」の駅前広場では、あちこちでアラビア語が聞こえる。シリア人、イラク人、エジプト人、パレスチナ人……。20代、30代の若者に話を聞くと、欧州への不法移民の志願者が驚くほど多い。

ダマスカス郊外出身のアブドルサッタールさん(31)はシリア内戦から逃れてきた。「私が住む町が反体制勢力に支配され、政権軍の空爆で家を破壊され、私自身も嫌疑を受けた」と語る。妻と8歳の息子と7歳の娘の家族4人で出国し、トルコに来た。

カフェで会った密航の仲介人から、トルコ西部のイズミルからエーゲ海を船で渡りギリシャに行く計画を持ちかけられた。

イズミルに行き、夜中の0時ごろ、長さ10メートルほどの船に60人ほどが乗り、海に出た。15分ほどでギリシャの沿岸警備隊に銃撃され、引き返してきた。「子供たちは泣き叫ぶし、生きた心地がしなかった」と話した。(中略)

イズミルまではイスタンブールから飛行機で1時間。空港のタクシーに「ギリシャに一番近い場所へ」と伝え、ギュムルドルという小さな港に着いた。港から海を隔てて大きな島が視界をさえぎる。地図を開くと、ギリシャのサモス島だ。思いのほか近い。

港の漁船に2人の男性がいた。漁師のオメル・アケルさん(31)と叔父のラウフ・アケルさん(58)。海を渡る不法移民のことを聞くと、オメルさんが「4月の半ば、夜中に嵐の海を渡ろうとした小型船が転覆し、12人が死んだ。私がその船を港まで引航した」と語った。

トルコの沿岸警備隊が遺体を収容し、港に並べた。「娘と母親らしい2人の女性だけが救命胴衣を着けていた。荒れた海では、着けていてもおぼれる」とオメルさん。

ラウフさんは元英語教師で、人々の生活を題材に短編小説を書いている。「密航者はパレスチナ人もいるが、いまはシリア人やイラク人だ。不幸な中東の国々から自由と繁栄を夢見てここにくる。この海の向こうに幸せな人生があると思うのだ」と言って、海に視線を投げた。

欧州連合(EU)によると、2012年に7万5千人だった欧州への不法移民は13年には10万人を超えた。別の市民団体のデータでは00年以降、2万3千人以上が欧州の境界を越えようとして命を落としている。

エーゲ海で死んだパレスチナ人の若者はその1人だ。
彼が住む国では難民への厳しい就業制限があり、1キロ四方のキャンプの中で生計を立てるしかない。そんな封じ込められた人生を変えるために、この海を渡ろうとした。

若者たちが変革を求めてデモに繰り出した「アラブの春」は挫折し、中東の国々で紛争と強権、暴力が広がる。欧州への不法移民の急増は中東の深まる絶望を映す。【7月6日 朝日】
********************

不法移民が目指す欧州側にとっても大問題です。
不法移民の増加は大きな経済的・社会的摩擦を引き起こしますので、おいそれと受け入れることはできません。
さりとて、海を越えてやってくる移民を追い払うことには人道上の問題もあります。

****難民、伊へ続々6万人 中東・アフリカから、上半期****
中東・アフリカの情勢悪化を受け、地中海を渡る難民船が欧州に押し寄せている。
今年、イタリアで救助されたり漂着したりした人は6万人以上。一方で、小型船に詰め込まれた人が多数死亡する例もある。

イタリア警備当局は2日、シチリア島近海で発見された船から45人の遺体を回収したと発表した。小さな船に詰め込まれたことによる窒息死や水死とみられる。死者を含め約600人が乗っていた。

この船を含め、海軍は6月28、29両日だけで5千人以上の難民を救助した。イタリア内務省によると、今年上半期だけで6万1585人が救助されたり漂着したりした。

「アラブの春」で難民が多数発生した2011年の約6万3千人にすでに匹敵。内務省は今年いっぱいで10万人を超えるとみている。

中東・アフリカから欧州に逃れようとする難民の多くは、まずリビアに向かう。11年にカダフィ政権が崩壊した後は「無政府状態」で、出入港の管理が緩いためだ。仲介業者に数百~数千ドルを払って乗船するとされる。

イタリア沖では昨年10月、難民船が火災を起こして転覆し、366人が死亡した。
緊急対策を求められたイタリア政府は「マーレ・ノストゥルム」(ラテン語で「私たちの海」の意味)と名づけた救援作戦を始めた。地元紙によると、海軍の監視・巡回などに月900万ユーロ(約12億6千万円)の経費がかかる。

移民反対を唱える右派政党からは「不法移民につけこまれ、人数がかえって増えている」と作戦中止を求める声も出ている。

政府は「対策を取らなければ、3万人は海上で死亡していた」と反論。
ただ、仲介業者の拘束は進んでいない。政府は欧州連合(EU)が関与を強めるよう求めている。【7月4日 朝日】
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現実は更に過酷です。
命懸けの密入国が仮に成功したとしても、自由と繁栄を夢見てたどりついた「まだ見ぬ世界」で彼らを待ち受けるのは、差別と屈辱、そして貧困です。

その如何ともしがたい現実に打ちのめされて、第二の選択肢「イスラム過激思想」に身を投じる若者も少なくないでしょう。

何とも暗い話ばかりです。
おざなりな結論で話をまとめれば、若者たちの不満を為政者が真摯に受け止め、「改革」を着実に実行していくしかない。その際に、成果を性急に求め過ぎないように留意する必要もある・・・といったところでしょうが・・・・。
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イラク  脆弱な「イスラム国(IS)」を助長するマリキ政権の混迷

2014-07-07 22:42:57 | 中東情勢

(7月1日 イラク議会議場で議員らを迎えるマリキ首相(中央) この重要な時期にもかかわらず、議会は各派の足の引っ張り合いに終始し、結局何も決められずに休会ということでした。 【7月2日 WSJ】)

世界で最も奇妙な軍事同盟
イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織イラク・レバント・イスラム国(ISIL)は6月29日、イスラム法(シャリア)に基づく新国家「イスラム国(IS)」の建国を一方的に宣言。

その指導者アブバクル・バグダディ容疑者は7月1日、「国家主義や民主主義といった幻想を打ち砕く」との声明を発表し、既存の国家に敵対する姿勢を強調しています。

戦況は一進一退のようですが、常識的にはこうした過激派組織の統治が長続きするとは思えません。

****イラクに広がる戦火の行方****
・・・もっとも、イラクがそうした絶望的な事態に陥る可能性は低い。ISISの長期的な展望があまりに暗いからだ。

その背景には、まずアメリカの動きがある。オバマ政権はイラクに再度介入することには気乗り薄だが、バグダッドがISISの手に落ちることは看過できない。米軍の軍事顧問は既にイラク入りを開始し、米軍はイラクのISIS支配地域上空で1日に最高35回の偵察飛行を行っている。

米情報当局は、ISISがアメリカに直ちに脅威を及ぼすとは考えていないものの、イラクが国際テロ組織の避難所になることはアメリカにとって望ましくない。イラクにおける米軍の10年近い活動が水泡に帰すとなればなおさらだ。

米軍が派遣した顧問は、イラク軍がISISの動きを察知し先手を打てるよう監視役を果たす。米政府は場合によってはISISに標的を絞った空爆もあり得ると述べており、その場合は無人機が使用されるだろう。

イランの支援はそれ以上に決定的な意味を持ちそうだ。イラク北部でのISISの勢力拡大はイランにとって最大級の脅威だ。国境の向こうでスンニ派の過激な一派が台頭すれば、シーア派の聖地が破壊されかねないばかりか、自国の安定を揺さぶる要因を目と鼻の先に抱え込むことにもなる。

そのためイランもアメリカと同様、イラク上空に無人偵察機を飛ばし、イラク軍に大量の兵器を供与している。報道によれば、イラン軍の輸送機が1日に2回イラクに飛び、兵器と爆薬140トンを届けているという。

イランの革命防衛隊の精鋭部隊クッズ部隊の兵十干数名が軍事顧問としてイラクに派遣されたほか、イランはISISの通信を傍受するチームも設置した。加えてイラン軍の10個師団が国境地帯に集結。戦況いかんでISIS攻撃に加わるとみられる。

一方、シリアも自国との国境に近いイラク領内にあるISISの拠点に空爆を行いマリキはこれに歓迎の意を表した。アサド政権の狙いは国内の反政府勢力の一角を成すISISをたたき、ISISの支配下に入った国境地帯を奪還することだろう。

ISISはモスルのトルコ総領事館を襲撃し、トルコ人の館員とその家族を拉致した。そのため北西部の国境を接するトルコのエルドアン政権も敵に回したことになる。
 
スンニ派であれば誰でも肩入れするサウジアラビアもISISには背を向けている。南西部の国境を越えて国内に混乱が波及することを恐れるサウド家にとって、ISISは迷惑な存在でしかない。 

期せずして、ISISが世界で最も奇妙な軍事同盟をつくり出した。アメリカ、イラン、シリア、トルコ、サウジアラビアが共通の敵の存在を認め即座に対抗措置を取ることなど、国際政治の常識では考えられない。

敵が多いだけではない。ISISの政治的、経済的、軍事的方針を見ても、長期の存続は難しいだろう。ISISは10万平方キロ以上に及ぶ地域を推定1万人の戦闘員で支配しようとしている。占領地を長期的に守るにはあまりに手薄だ。統治など到底不可能だろう。

2度目の好機をつぶすな
ISISの支配下にある住民の一部は政府軍の撤退に歓喜した。だが、彼らもいずれはISISの恐怖支配に不満を募らせるだろう。

ISISは、自分たちが制圧した地域の人々を市民ではなく、脅し、だまし、盗む相手と見なす。
国際赤十字の報告によると、1月にISISが占領した中部のファルージヤでは、食料、水、医薬品の不足が深刻だ。イラク北部の多くの地域が同様の状況に陥り、地元の人々の反発が高まれば、ISISの長期支配は一層困難になる。

外部の支援に頼れず、地元の住民にも支持されず、四面楚歌に陥ったISISは長くは持つまい。アメリカとイランの直接的・間接的支援を受けて、イラク軍とシリア軍が攻撃すれば、ISISの壊滅は時間の問題だ。

ただし、決着までには多大な血の代償が払われることになる。 
スンニ派とシーア派の住民の対立がエスカレートすれば、イラクの混乱は一層手が付けられなくなるだろう。ISISはそうした事態を狙っており、そこに存続の望みを懸けている。

だが、その場合でもISISが望むイスラム国家の建設は実現できず、ISISはイラクの崩壊を待たずに自滅するはずだ。

国家としてのイラクはこの危 堕機を乗り越えても、今まで以上に深い傷を負い、崩壊寸前まで追い込まれるだろう。イラク戦争の最盛期以降のどの時期にも増して、今この国の統合は危うくなり、シーア派、スンニ派、クルド人の3つの地域に空中分解しそうな形勢だ。

しかし、分裂すると決まったわけではない。マリキは最初の国家建設のチャンスをふいにした。ISISが敗れれば、彼、あるいはその後継者にはもう一度チャンスが与えられる。彼らがそれを無駄にしないことを祈りたい。
3度目のチャンスは、おそらくないだろうから【7月8日号 Newsweek日本版】
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【「ISの存在が誇張されて、事実がゆがめられている」】
上記記事は「イスラム国(IS)」が生み出した“世界で最も奇妙な軍事同盟”という外的要因を挙げていますが、「イスラム国(IS)」内部を見ても、ISの存在は誇張されすぎており、その力は限定的であるとの指摘もあります。

****イスラム国」、派内に反発 イラク・スンニ派 幹部「シーア派敵視は違う****
イスラム国家の樹立を宣言し、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」から「イスラム国(IS)」と改名したスンニ派の過激組織について、イラク北・中部のスンニ派勢力から「民意ともイスラムの教えとも異なる」と反発の声が上がっている。クルド人地区のアルビルに逃れている複数の指導者らが取材に語った。

北・中部では、スンニ派地域にあるイラク第2の都市モスルやその南のティクリートを武装勢力が陥落させ、首都バグダッドに迫っている。これまで、モスルを陥落させたのはISだと言われてきた。

だが、現地のスンニ派部族がつくる「革命的部族委員会」幹部のアブドルラザク・シャンマリ氏は「今回の戦いは、スンニ派を抑圧するシーア派主導のマリキ政権に対して、スンニ派部族と民衆が立ち上がった民衆革命だ。ISは軍事的にも、反乱勢力の一部に過ぎない」と語り、武装勢力は必ずしもISが主導していない、との見方を示した。

ISが支配地域を急拡大させているように見えることについても、「それぞれの都市や町で、地元のスンニ派部族が政権軍に反乱を起こしている。インターネットを使ったISの巧みな宣伝と、『テロとの戦い』を強調したいマリキ政権の宣伝によって、ISの存在が誇張されて、事実がゆがめられている」と話した。(中略)

スンニ派武装組織「ジェイシュ・イスラム(イスラム軍)」幹部のイブラヒム・シャンマリ氏は「スンニ派部族とは連携しているが、ISとの連絡や協力は一切ない」と語る。同じイスラム系の武装勢力だが、「われわれはスンニ派地域の防衛が目的で、シーア派の権利も尊重する。シーア派を敵視し、攻撃するISとは異なる」と語った。

ISは6月末にシリアからイラクにまたがるという反シーア派・反欧米の「イスラム国家」を宣言。指導者のアブバクル・バグダディ師の映像を5日、インターネット動画サイトで配信した。同師は自らを開祖ムハンマドの後継者を意味する「カリフ」だと主張し、服従を呼びかけた。だが、地元勢力は否定的だ。

スンニ派宗教者が集まる「イスラム宗教者委員会」は声明で、「イスラム法の正当性はない」と批判し、宣言の撤回を求めた。「今のような状況で国の設立を宣言することは、民意を分裂させ、利益はない」とする。

 ■宗派間内戦の恐れも
それでは、IS以外のスンニ派勢力が目指しているものは、何なのか。
共通するのは、マリキ首相の辞任だ。最終的には、現在のクルド地域政府のような自治が認められた「スンニ派地域政府」を目標としているという。(中略)

これらのスンニ派勢力はマリキ首相が辞任すれば、話し合いによる解決で、シーア派と権限を分け合う政治体制を求める意向だという。

しかし、ISが主導する武装勢力がバグダッドに侵攻する事態になれば、ISとシーア派の民兵がそれぞれの宗派の民間人を攻撃し、宗派間の内戦に突入する可能性もある。内戦を避けて、政治的解決を図る時間は限られている。【7月6日 朝日】
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続投に改めて意欲を示すマリキ首相
「イスラム国(IS)」の基盤はそれほど固いものではなく、いずれ崩壊すると思われるものの、シーア派、スンニ派、クルド人の3つの地域への空中分解を阻止できるかは難しい情勢です。特にマリキ続投では・・・・。

****イラク:マリキ首相続投に意欲、連立交渉さらに難航****
イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の侵攻が続くイラクで、シーア派のマリキ首相が4日、続投に改めて意欲を示した。

「シーア派偏重」と首相を批判するスンニ派や少数民族クルド人の反発は必至で、次期政権の連立交渉はさらに難航しそうだ。

挙国一致体制の樹立が遠のき、米国が早期に本格的な軍事支援に踏み切る可能性も低下。イラク情勢は混迷の一途をたどっている。

「退陣はテロリストに弱みを見せるだけだ」。マリキ首相は4日の声明でこう主張し、留任に強い意欲を見せた。国内外で高まる退陣論に対しても「混乱に乗じて権力を握ろうとする勢力の陰謀だ」と反発した。

3日には政敵であるスンニ派のナジャフィ連邦議会前議長が、次期議長に立候補しないと表明。引き換えに首相の退陣を促したが、マリキ氏は改めて首相の座に固執する姿勢を示した。

首相が強気なのは、自身の党派が4月の連邦議会選挙(定数328)で最多の92議席を獲得したからだ。憲法の規定では、首相は原則として最大会派から選ばれる。

イラクメディアによると、次期政権の連立協議ではマリキ氏の側近を首相に擁立する妥協案も出ているが、調整は難航している。

マリキ氏は強硬姿勢を貫くことで、混乱収拾を急ぎたい反マリキ派を揺さぶり、首相留任につなげたい思惑があるとみられる。

ただ連立交渉が長引き、マリキ体制が続いた場合、戦況を好転させるのは難しいとみられる。
ロイター通信によると、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は3日、「イラク軍単独で占領地域を奪還するのは困難」との見通しを示した。

「イスラム国」に協力するスンニ派部族などは、マリキ氏に強く反発しており、政府側に取り込むのは困難だ。米国も「挙国一致体制の確立」を強く求めており、マリキ首相が居座るうちは本格的な軍事支援には乗り出さない可能性が高い。

混乱収拾の見通しがつかない中、マリキ氏の命運の鍵を握りそうなのが、後ろ盾であるシーア派国家イランだ。
イランは、シーア派を敵視するイスラム国の勢力拡大を警戒しており、政治指導者間の仲裁に乗り出す可能性がある。またイランが別のシーア派指導者の首相擁立を模索しているとの報道もある。【7月5日 毎日】
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シーア派内部での主導権争いも顕在化しています。

****イラクシーア派 内紛顕在化 政府軍と衝突、統治の揺らぎ拍車****
イスラム教スンニ派過激組織とシーア派主導の政府側との戦闘が続くイラクで、シーア派同士の争いが顕在化し始めている。

ロイター通信などによると、1日から2日にかけ、中部のシーア派聖地カルバラで、シーア派聖職者サルヒ師を支持する民兵と、政府の治安部隊が衝突し45人が死亡した。シーア派内の分裂は、イラク統治の揺らぎに拍車をかけている。

イラクでは、6月にスンニ派過激組織「イスラム国」が国内で攻勢を拡大させて以降、シーア派最高権威のシスタニ師が国民から志願兵を募ったり、スンニ派やクルドを含む各政治勢力に団結を呼びかける声明を相次いで発表。これに対しサルヒ師は最近、ネット上で反対を表明した。

シスタニ師派との関係が緊張する中、サルヒ師派民兵は1日、カルバラ市内の道路を封鎖、治安部隊がサルヒ師逮捕に乗り出して戦闘となった。同師は、戦闘中に自宅から逃れたという。

サルヒ師は、シーア派の隣国イランでとられている政治体制「ベラーヤテ・ファギーフ(イスラム法学者の統治)」をイラクで実現することを目指しているとされる一方、イランからの政治的影響力の排除を主張。イラン生まれで同国と近い関係にあるシスタニ師には以前から批判的で、過去にも双方の民兵が衝突する事件などが起きていた。

イラクでは先月、イスラム国が「カリフ制国家」樹立を宣言したほか、北部クルド自治政府も独立に向けた住民投票を実施すると表明し、国の枠組みが大きく揺らいだ状態にある。

こうした時期にサルヒ師が、多くのシーア派信徒から尊敬を集めるシスタニ師の権威に公然と挑戦する行動に出たのは、混乱の中で自身の影響力を拡大させる狙いがあるためだ。

一方でシーア派内では、過度な自宗派優先と強権的な政権運営がイスラム国台頭を招いたと批判されるマリキ首相に退陣を迫る動きが広がっている。

ただ、後任選びはシーア派勢力同士の主導権争いなどから難航も予想されており、早期に足並みをそろえられるかは不透明だ。【7月5日 産経】
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イラク政権においてマリキ首相が身を引く形で「挙国一致体制の確立」がなされない限りは、「イスラム国(IS)」も存続するのでしょう。そして3地域分割が固定化していきます。

もちろん議会内は「挙国一致体制の確立」というよりは、各派が互いの足を引っ張り合う状況で、「挙国一致体制の確立」なんてできるのか?という感はありますが。

クルド人勢力などは、このままマリキ政権が混乱を続け、「イスラム国(IS)」が存続した方が自治政府の独立への道が開ける・・・という思惑でしょう。

スンニ派勢力も自派の影響力拡大のために、この混乱を最大限に利用したいところでしょう。

イランとアメリカが協調して政治介入しないかぎり道は開けそうにありません。
そのためには、核開発問題とシリアをなんとかしないと・・・という話にもなりますが、なかなか・・・。
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ロシア  「ロシアはヨーロッパではない」 欧米的価値観・システムの否定を強めるプーチン大統領

2014-07-06 22:21:38 | ロシア

(米独立記念日の4日、プーチン大統領はオバマ米大統領に祝電を送り、ウクライナ問題などで厳しく対立している中でも、両国関係を発展させていく必要があると呼びかけています。
プーチン大統領は祝電の中で「互いに敬意を払い、それぞれの国益を考慮しつつ関係を築いていくことが重要だ」と強調しています。 写真は“flickr”より By Lyndon Media https://www.flickr.com/photos/123833169@N07/14575410514/in/photolist-ocYMKh-8qdPL3-ob1obT-nTvESY-oaVNp9-nTwLvX-obX3fQ-obX2jb-nUB6iy-obX2Ns-oc2k2q-nUC19x-nUKqn1-obWT1p-oc6zJ5-obWTpa-nUKR9z-ocfe38-oaCgbk-nTkNWy-nVhQTH-nUP88T-nVtRpv-nUNHsp-odfi8d-ocLh6u-nVL8N9-od5cit-nULTRe-ocQmEk-obXDqN-nTST6F-nUb7i1-nUb3SU-nUbegi-nUbnrM-obERM8-obwbdo-obwndQ-nUaSvm-nUc2Tp-obEH9X-nUbgvY)

クリミア併合後、ロシア独自の道を突き進むプーチン大統領
ウクライナ問題で欧米と厳しく対立するロシア。
かつての冷戦時代のソ連のが持っていた国際的影響力は失いましたが、中東問題、イラン核開発問題など世界各地で起きる諸問題でもロシアの協力が不可欠とされています。

そのロシアを牽引するのがプーチン大統領であることは言うまでもないことですが、クリミア併合を強行したプーチン大統領の思惑について、欧米側からは「プーチン大統領の真意を推察することができなかった」「何を考えているのか、よく理解できない」という声も聞かれます。

長期的にみてロシアに利益とはとならない政治的・経済的孤立化に向けて走っているようにも見えます。

そんなプーチン大統領・ロシアの最近の変貌について論じたのが下記記事です。

「ロシアはヨーロッパではない」と欧米的価値観を拒否する姿勢を強め、国民の海外渡航を制限し、アメリカなどによる脅威を訴える・・・“クリミア併合を境に、一転してロシアの経済的繁栄を犠牲にしてイデオロギーで動くようになった”“プーチンはロシア独自の道を突き進んでいる”

非常に興味深いので、長いですがほぼ全文を引用します。

****被害妄想プーチンの暴走が止まらない*****
ブログヘの規制、政府職員の出国禁止、同性愛者や二重国籍者の敵視など、反欧米主義と人権抑圧がクリミア後に噴出

今更驚くような話ではない? 
確かに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「超大国ソ連」の時代に郷愁を抱き、国内の対立勢力を弾圧し、世界で好き勝手に振る舞うのは、最近になって始まったことではない。
プーチンは権力を握ってから14年間、その手の言動を繰り返してきた。

しかし、3月にロシアがクリミアを併合した後の言動は、それまでとは次元が違う。
91年にソ連が崩壊して以降初めて、ロシア政府は公然と、自国を世界から切り離そうとし始めた。
プーチンは新たな国家イデオロギーの下、欧米的な価値観とシステムを拒絶し、国内の反対勢力を徹底的に糾弾している。

この3ヵ月、ロシアは急速に孤立への道を突き進んできた。
ロシア政府と議会の親政府派の議員たちは、安全保障上の問題を理由に500万人近い政府職員の出国を禁止。政府公認の歴史観を批判することに対する刑事罰も導入した。

二重国籍を保有する国民全員に報告を義務付け、外国から資金を得ているNGO(非政府組織)すべてを「外国の手先」と決め付けた。
ブロガーが政府への抗議活動を呼び掛けることを罰する法律も制定。1日のアクセス数が3000を超すブログは実名登録を義務付けるとした。

政府はフェイスブックやスカイプ、YouTube、ツイッターのアクセス制限も検討し始めた。ロシア限定のインターネットをつくるという案も議論されている。

ロシアでまだ生き残っていた数少ない独立系のニュースサイトとネットテレビ局も沈黙させられた。ニュースサイトの「グラニール」が裁判所に異議を申し立てると、裁判所はこう言い放った・・・「当局はウェブサイトに対し、アクセス遮断の理由を説明する必要はない」。

同性愛者をたたく理由
さらにプーチンは、ビザやマスターカードに対抗できるロシア版のクレジットカードの創設を中央銀行に指示。ロシア版のネット検索エンジン「スプートニク」の実用化も進めている。

また、アメリカのGPS(衛星利用測位システム)がロシア領内で稼働させている地上局の多くの運用停止を打ち出し、ロシア版GPSの「グロナス」を推進しょうとしている。

プーチンの保守的でナショナリスティックなイデオロギーは、数年かけて形成されてきたものだが、クリミア問題を機に一挙に噴き出した。

「ロシアはヨーロッパではない」と、ロシア文化省は公式に宣言。プーチンは、寛容と多文化主義という欧米的価値観を厳しく批判し、欧米の「いわゆる寛容の姿勢」を「不毛で不能」と切り捨てた。

こうした雰囲気を象徴する出来事が5月にあった。国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソングコンテスト」で、女装した男性同性愛者の歌手コンチータ・ウルストが優勝すると、反同性愛を叫ぶロシアの議員が激しく反発。

地方議員のビタリー・ミロノフは、「男色のショー」をボイコットせよと主張した。彼は昨年、「同性愛宣伝禁止法」の制定を主導した議員でもある。

ロシア政府が国民の生活と思考を統制しようとする動きの核を成すのは、「同性愛者、移民、多文化主義、欧米、ファシズムといった『他者』をつくり出すこと」だと、ピッツバーグ大学ロシア・東欧研究センターのショーンーギロリーは言う。「そうした『他者』を排除し敵視することで、脅威に対抗する形で社会を結束させようとする」

ロシア政府が被害妄想的な傾向を強めていることは、国民の出国制限によく表れている。
ロシア外務省は4月、「外国旅行を、特にアメリカと犯罪人引き渡し条約を結んでいる国への旅行を控えるように」と、全国民に「強く勧告」した。

ロシア人観光客が「事実上拉致され、アメリカに移送」されて、「概して根拠薄弱な容疑で」裁判にかけられかねないというのだ。(中略)

内務省の全職員に出国を禁じる法律も最近制定された。国家秘密の漏洩を防ぐため、というのが建前だ。検察職員が全員、パスポートを提出するよう求められたことも報じられている。

「軍や警察、情報機関の職員が自分の目で外の世界を見られないようにすれば、自国が敵に囲まれているというイメージをつくり出すことはずっと簡単になる」と、元野党議員のウラジーミル・ルイシコフは言う。

ロシア議会では現在、徴兵忌避者も渡航制限の対象に加える案が議論されている。ロシアでは例年、徴兵対象者の90%以上が徴兵を忌避している。

債務者の出国を禁じる法律(今年第1四半期は駐車料金や扶養手当の未払いなどで19万人が足止めされた)の対象は、プーチン政権の敵にまで広がる可能性がある。反プーチン派は、抗議デモヘの参加やネット上で国家や教会を批判したとして厳しい罰金を科されている。(中略)

極右政党に所属するアンドレイ・ルゴボイ議員は、二重国籍取得の報告義務を怠った者を罰する新規制の草案作成に携わった。彼はロシア人が二重国籍を持つことは「国益に反する」として非合法化すべきだと考えている。ルゴボイは自身のブログで「敵は絶えずロシアの弱点を探している」と主張する。反政府派は欧米の情報機関の支援を
受けて「ロシアを混乱させようとたくらんでいる」と非難した。

元KGB(国家保安委員会)職員のルゴボイは、プーチンの政敵アレクサンドル・リトビネンコを06年に毒殺した容疑で英検察当局に追われる身だ。ルゴボイが示したような被害妄想は、外国から資金を得ているNGOをすべて「外国の手先」呼ばわりする新法にも広がっている。
 
「二重国籍保有者や外国から資金提供を受けているNGOの職員というだけで国家への忠誠心を疑われる」と、ロシアの人権擁護団体メモリアルのスベトラーナーガヌシュキナは言う。

頭脳流出が止まらない
ほとんどのロシア人は、世界から隔絶されてもあまり気にしない。モスクワの調査機関レバダセンターが12年に行った調査では、ロシアから出たことのない人が全体の80%に上り、外国語で会話できる人はわずか5%だった。

とはいえルイシコフによれば、弾圧の最大の打撃は頭脳流出だ。最も聡明で最もグローバル化された人々がロシアを後にしている。

「過去20年間に500万人がロシアを離れ、うち2万人が博士号取得者」だとルイシコフは言う。「現在の弾圧に加え、残されたわずかな自由にもさまざまな規制が課されている状況を考えれば、残っている人材をロシア国内に引き留めておくことは難しくなっている」(中略)

だが気の毒に思うロシア人はほとんどいないだろう。ウクライナ危機とクリミア併合に伴う声高なナショナリズムに同調する新興中間層は意外なほど多い。

3年前は状況が違った。下院選での不正に抗議する高学歴の市民はネットで呼び掛け、10万人以上が参加するソ連崩壊以来最大の反政府デモを組織した。
しかし今では世論調査のたびに、大勢のエリート層がプーチンの新ナショナリズムを支持しているという結果が出る。

「強い指導者」をアピール
ロシア科学アカデミーの調査によれば、ロシアの中開層の79%が「ロシアは多くの欠点があっても支持するに値する」と考え、78%が「安定は変化よりも重要」、49%が秩序の維持には「強い指導者」が必要だと考えている。

それ以上に少数派のリベラル野党を落胆させたのは、この調査で「中間層」とされた40%のうち起業家は13%で、半数以上が公務員だった点だ。

プーチンは明らかに一握りの都市部のテクノクラートに背を向け、労働者にアピールしている。労働者はグローバル化と移民による経済的打撃を誰よりも恐れているだけに、プーチンの保護主義で保守的でハイテク恐怖症のメッセージが非常に浸透しやすい。

クリミア併合前のプーチンはおおむね現実的で、安定と繁栄を優先した。そのためなら抗議運動や新興財閥をつぶすことも辞さなかった。
そんな彼がクリミア併合を境に、一転してロシアの経済的繁栄を犠牲にしてイデオロギーで動くようになった。

ロシアのGDPが世界全体の2%を切ろうと構わない、ロシアにはビザカードも国際金融市場も外国での休暇も必要ない、とプーチンは考えている。G8や欧州会議の一員である必要もない。ロシア市民を欧米の腐敗した価値観とネットの悪影響から隔離しなければならない・・・。

プーチンはロシア独自の道を突き進んでいる。たとえそれが孤立と資本逃避と頭脳流出につながる道だとしても、だ。【7月8日号 Newsweek日本版】
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プーチン大統領の思考形成に大きな影響を与えたと思われる東欧諸国におけるカラー革命、旧ソ連圏の崩壊において、アメリカの資金がNGO経由で流れた・・・というのは実際あったことでしょう。

プーチン大統領が海外、特にアメリカの動きを警戒するのは理由のない話ではないように思えます。全くの“被害妄想”でもないでしょう。

しかし、“政府職員の出国を禁止。政府公認の歴史観を批判も禁止”して、ロシアを世界から切り離そうとするのは、いささか“暴走”でしょう。

以前は、プーチン批判勢力の抗議行動、あるいは“プッシー・ライオット”のような活動もありましたが、最近はそうしたものは殆ど聞きません。

プーチン大統領のロシア主義的な動きは大方の国民の支持を得ているようです。
ロシア国内メディアも同様です。

****露女性記者殺害で判決 首謀者・背景は「不明」 言論状況、悪化の一途****
ロシアのプーチン政権批判やチェチェン紛争の報道で知られた女性記者、アンナ・ポリトコフスカヤさん=当時(48)=が2006年に射殺された事件で、実行犯の男を終身刑とする1審判決がモスクワ市裁判所で言い渡された。

判決が事件に最低限の区切りをつけた側面はあるものの、殺害を命じた首謀者や事件の背景は全く分からないままだ。この間にロシアの報道・言論をめぐる状況は悪化の一途をたどっている。(中略)

一方、政権の統制下にある国営・政府系の主要テレビはプロパガンダ(政治宣伝)の度合を強め、国民多数派もそれを無批判で受け入れている。

ロシアが3月にウクライナ南部クリミア半島を併合した問題では、政権派メディアの記者ら300人以上が国の勲章やメダルを受けた。

グチオントフ氏は第3次プーチン政権下で制定された数々の抑圧的新法も挙げ、「真っ当なジャーナリズムに従事することが、この数年間で格段に難しくなった」と指摘している。【6月12日 産経】
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権力周辺の闇
北方領土問題などでロシアと向き合わざるを得ない日本にとって、ロシアはもともと厄介な相手でしたが、欧米的な常識が通用しないという意味で、ますます厄介な相手になってきています。

日本にとって交渉の糸口となるのは、ロシア・プーチン政権が極東開発を重視しており、そこへの日本の参加を期待しているという点でしょう。また、昨今の天然ガス需給からも、日本の存在がロシアにとって大きくなっています。

ただ、独自の価値観・路線を強めるロシアに日本企業が参加していくのも難しい面がありますし、プーチン大統領が大号令をかけた極東開発がどうなっているのか・・・よくわからないところもあるようです。

****立ち遅れるウラジオストク開発計画 巨額予算はどこへ消えた****
プーチン大統領が極東開発の目玉政策として、2012年9月にウラジオストクで開催したアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、五つ星ホテルや世界最大規模の水族館建設など、バラ色の再開発事業が計画されていた。

しかし、APECから1年半以上たった今でも、多くの計画が実現されないままだ。巨額予算がどこへ消えたのかも不透明で、極東開発の暗部を逆に浮き彫りにしてしまっている。

「われわれが関心を持つのは、予算がどのように使われたのかということだ。金は、何に使われたのか。その見返りは一体何なのか」

ウラジオストク紙によると、沿海地方議会のノビコフ経済政策・所有委員会副委員長は6月初旬、会計検査院に対しAPECに向けホテルやカジノ、工業地域建設を請け負った企業の資金使用状況を調べるよう要請した。

ロシア政府はAPECに合わせ、ウラジオストク市内に複数の高級ホテルを建設し、各国代表団やメディア関係者らが宿泊できるはずだった。しかしホテルは依然として未完成のままでいる。当初事業を請け負った企業は、すでに名称を変えているという。

会計検査院の調査によれば、高級ホテルの建設費用は2013年の時点で、すでに当初予算の倍額となっていた。さらに今年に入っても、数億ルーブルの予算が地方政府から拠出されている。

APECが行われたルースキー島の水族館建設も、依然完了していない。世界最大規模の水族館と銘打たれた同水族館は、APECまでに完成されるはずだった。

ウラジオストク紙によると、ミクルシェフスキー沿海地方知事代行は4日、水族館の引き渡しは「客観的な要因」で実現していないと述べた。一つは建設に関わる技術的な問題であり、もう一つは、請負企業「モストビク」の倒産だ。

モストビクは、日本企業も参画したルースキー島と本土をつなぐ世界最大級の斜張橋の建設を請け負った企業でもある。同社はソチ五輪の建設事業なども手がけたが、事業拡大が行きすぎ、今春、銀行への債務支払いが困難になり、自己破産した。

コメルサント紙によると、ミクルシェフスキー氏はまた、ルースキー島の再開発に向け打ち出された各種の経済特区新設が全く実現していない現状も明らかにした。

極東開発をめぐっては、ガルシカ極東発展相の音頭で、従来計画とは別の新たな輸出志向の特区を新設し、法整備を進めているという。しかし中央政府が全面支援して実施された巨大プロジェクトすらまともに実現しないなか、投資家の懸念を払拭するのは容易ではない。【7月6日 産経】
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プーチン大統領が絶対的な権力を行使すればするほど、その周辺で腐敗と汚職の闇が濃くなっていくようです。
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ミャンマー  また噴出した宗教対立 改善しないロヒンギャの状況

2014-07-05 21:26:16 | ミャンマー

(写真説明がないので定かではありませんが、イスラム教徒の商店前に集まった仏教徒・・・でしょうか 【7月3日 Iran Japanesu Radio】http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/46372-%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E4%BB%8F%E6%95%99%E5%BE%92%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A5%B2%E6%92%83%E3%81%A7%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E6%95%99%E5%BE%922%E5%90%8D%E3%81%8C%E6%AD%BB%E4%BA%A1)

再燃する宗教間憎悪
このブログでしばしば取り上げているように、ミャンマーが抱える大きな問題に少数民族問題とイスラム教徒との宗教対立があります。

ミャンマーは仏教徒が圧倒的多数を占めますが、イスラム教徒も全人口の5%ほど存在します。

ミャンマーではここ数年、イスラム教徒を標的とした暴力事件が何度か発生しており、「969運動」(「969」とは仏教の三宝(仏法僧)を意味し、イスラム教の聖なる数字「786」に対抗し作られたものです)など、過激な仏教徒による国家主義的運動がイスラム教徒に対する憎悪を煽っているとされています。

そうした過激な仏教徒によるイスラム教徒襲撃事件がまた、中部マンダレーで起きています。

****マンダレーで仏教徒がイスラム教徒を襲撃=夜間外出禁止令が発令****
2014年7月3日、タイのメディアが伝えたところによると、ミャンマー中部のマンダレーで7月1日午後8時頃から翌2日未明にかけて、仏教徒がイスラム教徒が暮らす家屋などを襲撃したという。これまでに死者2名などが伝えられている。

この仏教徒たちは、マンダレー市内で働く同じく仏教徒のウエイトレスが働くイスラム教徒の喫茶店店主によって暴行された、との噂が広まったことをきっかけに、イスラム教徒居住区への襲撃に発展した。

暴動に参加した仏教徒たちは、一部が棒やナイフなどで武装していたため、地元警察が治安部隊を出動。ゴム弾を使用し、鎮圧にあたったことで、暴動は2日未明にはいったん収まった。

しかし、2日午後に市内中心部に約7万人が集まる騒ぎが起き、その最中に2名が死亡した、と地元警察が発表した。死亡したのは仏教徒、イスラム教徒それぞれ1名ずつ。3日には夜間外出禁止令が発令された。

また一部の地元メディアでは、暴動はマンダレー市内だけでなく、さらに北部のラショーでも暴動が発生したと写真付きで伝えている。

ミャンマーの地元メディアによると、事の発端となったのは、あるフェイスブックに仏教徒のウエイトレスがイスラム教徒の雇用者に強姦されたとの書き込みだという。その書き込みが拡散されていき、暴動に発展した模様。噂の元になった喫茶店周辺には地元警察が出動していた。

また、被害にあった女性従業員は、雇用者と首都ネピドーに旅行した際に被害に遭い、地元警察に訴えた、としている。問題となっている喫茶店店主は容疑を完全に否認している。

従来よりミャンマーでは、仏教徒とイスラム教徒とのいさかいが続いており、ティンセイン大統領も毎月行なわれるラジオ演説で、宗教間の和解を呼びかけていた。(後略)【7月4日 グローバルニュースアジア】
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過激な仏教徒による国家主義的運動を主導して、イスラム教徒への憎悪を煽っているとされるのが、仏教僧ウィラツ師です。
(2013年8月17日ブログ「仏教界にもいろいろ タイの贅沢僧侶 ミャンマーの反イスラム・過激僧侶」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130817

****ミャンマーで夜間外出禁止令発令 宗教間衝突受け*****
・・・・地元紙によると、マンダレーでは2日間で計8件の衝突が発生。暴動には450人が関与し、中には剣、拳銃、ナイフ、棒などで武装した者もいたという。(中略)

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのマシソン氏は、今回の暴動でも、969運動の精神的指導者ウィラツ氏などの過激な僧侶たちが「極めて重要な役割」を果たしたようだ、としている。

イスラム教徒の男性が経営する喫茶店に対する憎悪が高まったのも、ウィラツ氏がフェイスブックに喫茶店主の女性暴行疑惑について書き込みを行い、ミャンマー政府に「イスラム聖戦士」に対する厳しい対応を求めたのがきっかけだった。

マシソン氏によると、暴動に参加した暴徒の中には多くの僧侶が含まれていたという。”【7月5日 CNN】
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互いの不信感を取り除くには今後も長い時間がかかる
西部ラカイン州では、かねてよりロヒンギャの問題があります。
ロヒンギャはイスラム教徒であるだけでなく、バングラデシュからの不法侵入者としいてミャンマー国民とはみなされておらず、差別的な扱いを受けています。

そうした民族間の憎悪を背景にした仏教徒との大規模な衝突で、ロヒンギャは今も避難生活を余儀なくされています。(仏教徒側からすれば、悪いのはロヒンギャの方で、自分たちは被害者だ・・・ということにもなりますが)

ミャンマー政府は、ロヒンギャが迫害されているというような事実はないとして、国際社会の介入を拒否しています。
(2014年3月28日「ミャンマー 進展しないロヒンギャ問題 消えない憎しみ 依然続く緊張」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140328

****ミャンマー:ラカイン州避難民14万人、帰還めど立たず****
来日した国連世界食糧計画(WFP)ミャンマー事務所長のドム・スカルペリ氏(47)が毎日新聞のインタビューに応じ、仏教徒とイスラム教徒の対立が続く西部ラカイン州で避難民約14万人の帰還のめどが立っていないことを明らかにした。

スカルペリ氏は「互いの不信感を取り除くには今後も長い時間がかかる。避難民は焼かれた家を再建できていない」と話した。

同州では2012年6月以降、多数派の仏教徒と少数派のイスラム教徒・ロヒンギャ族の衝突が激化し、多数の死者が出ている。

スカルペリ氏によると、3月には州都シットウェにあるWFP事務所が襲撃されるなど治安が回復しておらず、政府による仲介も効果が出ていないという。

慢性的な栄養不良で成長が遅れている5歳未満の子供も多く、WFPは政府とともに食糧支援を強化する方針だ。(中略)

日本は昨年、WFPミャンマー事務所の活動に20億円を拠出するなど最大の支援国で、スカルペリ氏は「日本の支援のおかげで我々の活動は成り立っている」と述べた。【7月4日 毎日】
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テイン・セイン大統領はラカイン州での宗教対立解決への意欲を表明していますが、“ロヒンギャはミャンマー人ではない”という強い民族的な不信感・嫌悪感が国民一般に強く存在していますので、民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領をもってしても困難な課題となっています。

****ミャンマー宗教対立、大統領が政府主導解決に意欲 ****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は3日、国民向けのラジオ演説で、西部ラカイン州での宗教対立について「地域の治安確保に私自身が努力する」と述べ、政府主導の解決に意欲を示した。

ラカイン州では2012年以降、仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族との武力衝突が続き200人以上が死亡している。

ラカイン州とバングラデシュとの国境でも緊張が高まっており、大統領は演説で「対立は国際問題にもなりかねない」と危機感をにじませた。

政府は6月、国軍幹部の少将をラカイン州首相に指名し事態の収拾に乗り出した。ミャンマーでは今月に入り、中部マンダレーでも仏教徒とイスラム教徒との衝突で死者が出ている。【7月3日 日経】
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このロヒンギャの問題については、スー・チー氏などの民主化を求める野党勢力も、世論の反発を恐れてか、敢えて関与しないというのが実態です。
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中国  ウルムチ騒乱から5年 強圧的なウイグル政策で、イスラム過激派の影響が強まり過激化する恐れも

2014-07-04 22:05:37 | 中国

(2009年7月7日 ウルムチ騒乱を鎮圧する治安部隊に抗議するウイグル族女性 “flickr”より By China Digital Times Editor https://www.flickr.com/photos/90657270@N00/3699801851/in/photolist-6CPGvM-6CWsfZ-6D1Bk7-6CPFPV-6CWs3z-6DgHb5-6CWsae-6CPFDB-6CWsc6-6CTRrh-6DgGMC-6DgtvS-6Dduy2-6D1AHE-6CTQG7-6Vxobh-6CWrzF-6D1ALL-6CPFC8-6D1ADE-6DcktK-6DhCyd-6D1AwS-6DduyH-6D1B3q-6D1ATJ-6CPFxa-6DcjZP-6FYNHj-6Vtida-6Vxo75-6VxnNA-6VtioD-6VE11N-6Vtibg-6VtigM-6Vxo4s-6VE14u-6D1AVu-6CLLKf-6CPFBi-6Dhydw-6J4CN2-6J8z8f-6J8Fzs-6J4yqK-6J8EUd-6J8zXo-6J8HLS-6J4ECp)

ウルムチ騒乱から5年 強まる締め付け
2009年に起きたウルムチ騒乱から5日で5年を迎えるということで、中国のウイグル族関連の記事が各紙で見られます。

****騒乱5年、ウルムチ締めつけ 大量拘束、スラム街強制撤去****
中国新疆ウイグル自治区ウルムチで約200人の死者が出た2009年の騒乱から5年を迎える5日を控え、政治や宗教活動に絡んで労働矯正処分などを受けた経験があるウイグル族が相次いで拘束されている。
「安定重視」を掲げる習近平政権は、なりふり構わぬ取り締まりを続けている。

「5月30日深夜1時に警察が夫を連行した。『7月5日が過ぎれば帰すから騒ぐな』と言われた」
区都ウルムチ北部のウイグル族居住区で食料品店を夫婦で営んでいた30代の女性は、その夜から夫(40)と連絡が取れない。

女性の夫は90年代末、イスラム教の宗教活動に絡み、2年間の労働矯正処分を受けた。熱心な信徒だったが犯罪とは無縁だったという。女性は「連行の理由もわからない。警察は何も教えてくれない」と話す。

ウルムチでは4月30日に鉄道駅で、5月22日には朝市で大規模爆発事件があり、当局は取り締まりを強化。これまで約380人を拘束したと宣伝している。

中国の少数民族自治地域は国土の6割に及び、資源に富む。同自治区は長大な国境線を有し、その治安は国の安全保障や経済政策にも直結し、安定確保は当局にとって最重要課題だ。

当局が過激派の「巣窟」とみるスラム街の撤去も本格化。ウルムチ北部の一号立井地区では6月初旬、大規模な住居の取り壊しが始まった。

貧しい自治区南部からの出稼ぎ者が大勢住んでいた。今では当局者の詰め所が設けられ、武装部隊が警戒する。
住民によると、長年再開発の移転交渉が続いていたが、最近300~400戸が強制退去に。

地元のウイグル族男性は「政府は貧困がテロにつながると考え貧しい人々を追い出した」。

住民は帰郷したり、わずかな補償金を受けて市内の別の地区に移ったりしたという。
だが、中国語の能力や宗教習慣の違いが原因で、ウイグル族の就職は容易ではなく、新たな反発を生む悪循環に陥っている。【7月1日 朝日】
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習近平政権の“なりふり構わぬ抑え込み”のひとつとして、「テロ」関係者の一斉判決も報じられています。

****113人に一斉判決=「テロ」封じる実力誇示―中国新疆*****
中国新疆ウイグル自治区の政府系ニュースサイト・天山網は29日、カシュガル地区の裁判所が地区内の各地で、「テロ」などに関わる69事件、113人の被告に対し、一斉に判決を言い渡したと伝えた。
テロ組織を指導した罪などで4人が無期懲役、他の109人も有期の懲役刑となった。

判決があったのは25日午前。被告は大半がウイグル族とみられる。

当局は多くの民衆を集め判決大会を開くなどしており、厳しい処罰の公開や報道は「テロ」を封じ治安を維持する実力を誇示する狙いがある。【6月29日 時事】
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事実上のクーデターで軍部がモルシ政権を倒したエジプトでは、行政庁舎などを襲撃して警察官ら2人を殺害したとして、6月21日、ムスリム同胞団関係者183人に死刑判決が言い渡たされています。4月にも683人に死刑判断が下されたましたが、4人は終身刑、496人は無罪となっています。

まあ、そうしたエジプトに比べればまだまし・・・・と言うか、どっともどっちと言うべきか。

1月に拘束されたウイグル族学者、イリハム・トフティ氏についても厳しい扱いが報じられています。

トフティ氏はネットなどで民族対立が激化する新疆の実情を伝え、冷静な問題解決を促したほか、昨年10月に起きた北京・天安門への車両突入・炎上事件では海外メディアに対して当局の対応を批判しました。

新疆ウイグル自治区ウルムチ市の公安当局は1月に同氏を拘束し、2月に正式逮捕しています。
これまでは弁護士との面会も認められていませんでした。

****ウイグル族の学者、拘置所で絶食強制…中国****
中国公安当局に国家分裂容疑で逮捕されている中央民族大学の学者、イリハム・トフティ氏(44)が、拘置所で10日間にわたり食事が提供されないなどの虐待を受けたとして、当局を告発した。
イリハム氏の弁護士が2日明らかにした。

少数民族ウイグル族のイリハム氏は6月26日、新疆ウイグル自治区ウルムチで初めて弁護士との面会が認められた。

弁護士らによると、食事提供停止のほか、20日間以上にわたり足かせをかけられたり、イスラム教徒が口にできない食材を出され、事実上の絶食を強いられたりした。体重は16キロ減ったという。

また、自身のサイト「ウイグルオンライン」で新疆の「独立を宣伝した」などとする容疑について、「自分のいかなる言行も分裂を支持していない」と無罪を強く主張したという。【7月2日 読売】
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強圧的な締め付けに反発も強まる
中国治安当局は、ウイグル族女性が全身を覆う衣装を着用したり、スカーフで頭部や顔を隠したりすることを禁止するなど、ウイグル族の宗教・文化の独自性を認めない締め付けを強めています。

こうした強圧的な対応はウイグル族の反感を強め、衝突を誘発することにもなっています。

****ラマダンの断食禁止=政府機関など徹底―中国新疆****
イスラム教のラマダン(断食月)が始まった中国新疆ウイグル自治区で、政府機関などが公務員や教員に、ラマダン中の宗教活動禁止を徹底するよう指示を出している。

当局発表で197人が死亡した区都ウルムチの大規模騒乱から5年となる5日を控え、当局の厳しい規制は、イスラム教徒の多いウイグル族の反発を招く可能性がある。

同自治区トルファン地区商務局はホームページに、共産党幹部や公務員に対し、断食やモスク(イスラム礼拝所)での宗教活動参加を厳禁する指示を掲載。

本人だけでなく、家族や友人らにも「宗教・迷信思想の侵食を防ぎ、違法な宗教活動と積極的に闘う」よう指導することを求めた。【7月4日 時事】 
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習近平政権は“互いの文化を尊重して融和に努める”といった“軟弱な”考えは毛頭ないようで、力による封じ込めが目立ちます。

しかし、徹底的な抑圧政策にウイグル族の反発は逆に強まり、過激思想が広がるという悪循環も起きています。

****反動で過激思想拡大****
タクラマカン砂漠が広がる自治区南部ホータン地区。ウイグル族の男性は半年前、知人に誘われ、郊外にある民家を訪れた。

「中国はイスラム教徒の敵だ」。パソコンに映し出された数分間の動画の中で、ひげを伸ばした男が中国政府への「聖戦」を呼びかけていた。

組織名は覚えていないが、自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の動画の可能性がある。男性は恐ろしくなり、知人と連絡を絶った。

「暴力の世界に踏み込むことはできない。ただ、記録媒体に保存して持ち運べば、監視が強いネットを介さなくても簡単に広がるのだと思った」。ホータン出身の男性はそう振り返った。

ウイグル族の中でも厳格なイスラム教徒が多いホータン地区。中心部では、「テロ組織に打撃を与えよ」と横断幕を掲げたトラックが多数の武装警察隊員を乗せて移動していた。

ホータン出身のウイグル族によると、40歳以下のウイグル族が長いあごひげを生やしていると拘束され、道ばたで多数で集まると警察から解散するよう要求される。

「抵抗すれば射殺されることもある」といい、情報の拡散を防ぐためにメッセージ交換アプリ「微信」が携帯電話から発信ができなくなっているという。

公安省は6月下旬、「テロ」に関わる情報提供者に対する報奨金制度を設けるよう各地の公安当局に指示。自治区内では「密告」を恐れて互いに疑心暗鬼になる人も多く、重苦しい雰囲気が漂っていた。

30代のウイグル族の男性は「とても生きづらい。どこか外国に逃れたいが、ウイグル族はパスポートも簡単にとれない。行く場所もない」とうなだれた。【7月2日 毎日】
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中国政府は、一連の無差別殺傷事件について、自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」によるテロ行為と断定して厳しい取締りを行っています。

しかし、本当にETIMによる組織的テロ行為なのかについては疑問視もされています。

****中国、「対テロ」主張…ウイグル政策を正当化****
ウルムチなどで相次いだ無差別殺傷事件について、中国政府は自治区の分離・独立を目指すETIMが関与した「組織的なテロ」と断定し、「中国も国際テロの被害者だ」との主張を強める。

米国が掲げる「対テロ戦争」と同一だと訴える狙いがあるが、ウイグル政策を正当化したい思惑も垣間見える。

国家インターネット情報弁公室は先月24日、ETIMがネットを通じてテロ行為を扇動しているとする動画を公開。昨年6月の警察署襲撃事件で主犯とされた男が「(聖戦を呼びかける)動画を何度も見て、携帯にもダウンロードした。次第に聖戦を渇望するようになった」と供述する様子を流した。

だが、現在のETIMには「中国国内でテロを組織する能力はない」との見方が強い。
一連の事件で、通常のテロなら出る犯行声明はない。5月にウルムチの朝市に車両が突入して爆発した事件では、2台の車両が使われたにもかかわらず爆発規模は小さかった。

国際テロ組織に詳しい西側外交筋は「プロのテロリストによるものではない。反発を強めたウイグル族が、ネットで得た情報で爆発物を作り、個別に実行しているのではないか」との見方を示す。

ただ、イスラム過激派の影響が強まって過激化する恐れはあり、「聖戦」を呼びかけるETIMを強く批判する中国政府の懸念もそこにあるとみられる。

区都ウルムチでは、4月と5月に起きた爆発事件を受け、出稼ぎに来ている自治区南部のカシュガルやホータン地区出身のウイグル族が、自治区政府の命令で故郷に帰還させられている。

一連の事件で容疑者とされたのは南部出身者が圧倒的に多く、「誰が敵で誰が味方か分からない状態になっている」(自治区共産党に近い関係者)からだという。

自治区では最近、カシュガル地区などの裁判所が「テロ活動」に関わったとして多数のウイグル族とみられる被告に対し一斉に判決を出すなど、中国当局は強硬姿勢を強める。

ただ、そうした政策がウイグル族のさらなる反発を呼ぶ可能性は高い。【同上】
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アメリカの撤退で、中国が標的とされるリスク増大
一連の事件がETIMによる組織的テロ行為なのかどうかはともかく、世界中からイスラム武装勢力が集まるパキスタンの部族地域で、中国から逃れてきたウイグル族の独立派が製作したとみられるPRビデオが出回るなど、中国を敵視するイスラム過激派が目立つようになっており、中国は神経をとがらせています。

****標的にされる中国 「全イスラム教徒の敵****
パキスタンの部族地域に集まる国際的な過激派のサークルの中に、ウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」が目立つようになったのは2007年ごろからだ。どういうルートでたどり着いたのか、中国領内の同胞とどうつながっているのかははっきりしない。

組織は自身を「トルキスタン・イスラム党」と名乗り、指導者のアブドラ・マンスール司令官は今年撮影されたビデオで、08年に中国と北京五輪への「聖戦」開始を宣言し、昨年1年間だけで20件以上の攻撃を行ったと主張。「中国は我々だけの敵ではない。全イスラム教徒の敵だ」と訴えた。

対テロ戦を「米国対イスラム世界」の構図に持ち込もうとしたアルカイダと同じく、ウイグル問題を「中国対イスラム教徒」の問題に拡大しようとする思惑がのぞく。(中略)

 ■アフガンで増す存在感
「パキスタンは中国の真の友人だ。中国はパキスタンがETIMの取り締まりを支持していることに感謝し、対テロ協力の一層の深化を願っている」

中国軍の范長竜・中央軍事委員会副主席は4日、訪中したパキスタンのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と会談し、こう述べた。シャリフ氏も「ETIMは両国の共通の敵。パキスタンは徹底的に取り締まる」と応じた。

中国とパキスタンは、ともに隣接する大国インドとの戦争を経験し、「敵の敵は味方」という共通の利害から、核開発や軍事部門から経済協力まで多岐にわたる分野で関係が深い。

さらに、昨年6月に誕生したシャリフ政権は、中国新疆ウイグル自治区から伸びるカラコルム・ハイウエーを、中国の全面支援で02年から開発が進むアラビア海沿岸のグワダル港につなげる経済回廊計画を提唱する。

回廊は分離独立運動がくすぶる同自治区に経済発展をもたらし、米国の影響下にあるマラッカ海峡を経ずにインド洋への道を開く。中国にも重要な計画だ。

一方、アフガニスタンのカルザイ大統領も、後ろ盾だった米国との関係がこじれるにつれて中国に接近。12年間の在任中に6度訪中し、習近平国家主席から「古い友人」と呼ばれるまでになった。

今年6月に訪中した際には「もし選び直すチャンスがあるなら、アフガンは効率的な中国式の発展モデルを選ぶだろう」と中国国営中央テレビの取材に答えている。

カルザイ政権下で両国の貿易額は、ほぼ10倍に拡大した。中国はインフラ整備への支援や無償援助と引き換えに、銅や石油などの共同開発権を獲得し、大手の国有企業を進出させてきた。

 ■進出先の治安、米軍頼み
ただ、中国の誤算は、パキスタン、アフガンともに、治安がなかなか安定しないことだ。進出先で中国人が襲われる事件が相次ぎ、開発は計画通りに進んでいない。

米政権は国際テロ組織アルカイダの本体は弱体化したとみて、アフガン駐留米軍を16年末までに完全撤退させる。パキスタンでも、無人機使用が国際的な批判にさらされ、攻撃の規模を縮小しつつある。

中国は、周辺国に米国が軍事展開することに否定的で、国境を接する中央アジア・キルギスでの駐留にも反対した。だが、アフガンでは米軍に頼るしかなく、カルザイ氏によれば、米軍のアフガン駐留延長にも賛成していた。

中国の懸念の背景には、米軍が11年末に撤退して以降、治安が悪化したイラクでの事態がある。(後略)【6月27日 朝日】
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アメリカがイラクの戦闘で多くの血を流した結果、もっとも大きな利益を手にしたのは石油利権を獲得した中国であるともいわれています。アフガニスタンでも同様の話があります。

アメリカが“内向き”傾向を強めて世界から手を引き始めると、中国は各地でのリスクに自ら対応する必要に迫られます。
特に、隣接するアフガニスタン・パキスタンのイスラム過激派の存在は厄介です。

経済開発で利益を誘導しながら(その大部分は漢族と、それにつながる一部ウイグル族に独占されているとも言われていますが)、社会的・文化的には強い締め付けを行うという、これまでのようなウイグル政策でやっていけるか疑問です。自治区における対立が更に先鋭化・過激化するおそれがあります。
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アメリカ  膠着した議会を通さず大統領令で制度改革を進めるオバマ政権 次の目標は移民改革

2014-07-03 22:57:27 | アメリカ

(オバマ政権でも続く不法移民国外強制退去処分への抗議行動 オバマ大統領への幻滅から、ヒスパニック系政治指導者からは中間選挙での報復も警告されています。 “flickr”より By  Michael Fleshman
https://www.flickr.com/photos/fleshmanpix/13681191505/in/photolist-mQXFAa-mQXNEt-mQXDkt-mQWUiX-mQXpbp-mQZyE1-mQX8Jc-mQXn7e-mQX7Pt-mQXBxi-mQZwJC-mQZ7qs-mQZqeo-mQZizm-mQZdNs-mQXH7g-mQX7hK-mQWZ3X-mQWQaX-mQWRF2-mQZm5G-mQXtrk-mQXb6X-mQXZ46-mQZCE5-ne4E7Z-mYkjWr-mYn6T9-mYkaK2-mYkpZ4-mYnq9h-nbuCGT-nt2tU9-nbuLw9-nbuDjV-nbuHdY-nbuCWv-nsZ3EX-nbuG9a-nbuK3Q-nqWEWU-mmGcwa-mQnx3X-nMgBVK-nx47No-nV8DoQ-jJzuz6-muSN7e-m73RWh-nKJhkg

【「最悪の大統領」】
アメリカ・オバマ大統領は、外交では、シリアの“レッドライン”では迷走し、イラクからの完全撤退という無作為で現在の混乱をまねいた、ウクライナでも有効な手を打てていない、パレスチナ・エジプトもうまくいっていない・・・など、また内政では医療保険制度改革に関する根強い反対や野党・共和党との対立による機能マヒなど、国内評価は芳しくありません。

****米大統領評価:オバマ氏が「戦後最悪」 米大世論調*****
米キニピアック大(コネティカット州)は2日、第二次大戦後の大統領12人の評価を聞いた世論調査結果を発表した。「最悪の大統領」を問う質問ではオバマ大統領を挙げた人が最も多く、11月の中間選挙を前にした与党・民主党に厳しい結果となった。

「最悪の大統領」としては、オバマ氏が33%で、ブッシュ前大統領(28%)、ニクソン元大統領(13%)、カーター元大統領(8%)が続いた。オバマ氏の政策では経済や外交への不満が目立った。2006年の前回調査では、当時のブッシュ大統領が34%で、ニクソン元大統領(17%)らを大きく引き離していた。

また、12年大統領選で敗れた共和党のロムニー候補が大統領になっていたら米国は今と比べてどうかについては、「より良かった」が45%で、「より悪かった」の38%を上回った。

一方、「最高の大統領」は、レーガン元大統領が35%と圧倒的な支持を集め、クリントン元大統領(18%)、ケネディ元大統領(15%)らが続いた。オバマ氏は8%だった。

調査は6月下旬に全米1446人の登録有権者を対象に行われた。【7月3日 毎日】
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敢えて弁護するなら、外交について言えば、“弱腰”とか“優柔不断”とか言われていることは、基本的にはイラク・アフガニスタンでの戦争に疲弊したアメリカ国内世論の厭戦気分を反映したもので、オバマ大統領だけが批判されるものではないようにも思えます。

経済も就任当時から比べれば随分回復してきました。(もっとも、オバマ政権の施策の結果・・・という訳でもありませんが)

内政問題での行き詰まりは、ティーパーティーなどの保守強硬派に引きずられた共和党が反オバマに固執していることによる部分がかなりあります。

【「その気になれば、大統領は何でもできる」】
現在も下院は共和党が過半数を制しており、上院も11月の中間選挙で共和党が多数を握るのでは・・・とも言われているなかで、議会の協力を得て政策を遂行していくことはますます難しい情勢となっています。

そこで、オバマ大統領は二年半に迫った残りの任期で後世に名を残すような改革を実現すべく、議会をとおさない「大統領令(政令)」による統治に向かっているとのことです。

****死に体オバマが励む「遺産作り****
歴史に名を残すため「内政」に邁進
オバマ米大統領が、二年半に迫った残りの任期で「大統領令(政令)」による統治に邁進している。共和党が下院を握り、十一月の中間選挙ではさらに上院制覇も視野に入れる中で、自分の政権の「遺産作り」に入ったのだ。米政治の分極化をさらに進めるのみならず、議会の支持がないままの改革は、尻すぼみに終わる危険もある。

議会バイパスの大統領令統治
・・・・大統領が生気を取り戻すのは、内政を語る時だ。カリフォルニア大学アーバイン校卒業式では、六月初旬に発表した地球温暖化対策に触れ、「(温暖化が)手遅れにならないうちに、行動する意思があるか否かが問われている」と語った。

胸を張ったのも当然だ。議会に諮らず、政令で決めたからである。・・・・共和党内には「温暖化理論は大ウソ」との主張も強く、法制化の見込みはなかった。

六月半ばには、連邦政府と契約する企業に、同性愛者差別を固く禁じる大統領令を出した。

米憲法や関連法には政令に関する明確な規定がない。「その気になれば、大統領は何でもできる」(民主党議会筋)のであり、戦争指導者だったルーズベルト大統領は三千回以上、大権を行使した。

ただ、制度改革を伴う大統領令の場合、反対派は法廷闘争で停止を求めることができる。今回の温暖化対策は、大量の訴訟を招くだろう。

オバマの大統領令は、就任から今年六月末までの五年五カ月で約百八十。ジョンソン、ニクソン、カーター、レーガン、クリントン各大統領がいずれも三百以上だったことを考えると、むしろ少ない。前任のブッシュ(息子)大統領の二百九十一よりも少ないペースだ。

「医療保険改革や銃規制、環境対策は法制化が必要ということもあったが、大統領は臆病なほど、大権行使に慎重だった」と前出民主党議会筋は言う。

だが一〇年の中間選挙で共和党が下院を制した後は、オバマ公約の法制化は見込みがなくなった。
第百十二議会(一一~一三年)で成立した法律は二百八十三。第百十一議会の三百八十三を大きく下回って、史上最低を記録した。昨年スタートした第百十三議会は、六月までに百をほんの少し超えただけで、最低記録を大幅に塗り替える情勢だ。

「大統領の我慢も限界ということだ。彼の周囲には元来、同性愛から環境、女性問題や移民問題まで、ラジカルな改革を求める『活動家』が多い。任期が少なくなり、彼らのいらだちも募ってきた」と、在ワシントン政治記者が言う。残る任期は内政の「改革」に専念し、遺産作りを図る。(中略)

六月にはアフガニスタンのタリバンに拘束されていたボウ・バーグダール陸軍軍曹と、グアンタナモ米軍基地内の収容所に拘束されていたタリバン幹部五人の交換を、議会に諮らずに実行した。

同軍曹には「脱走」の疑惑があり、議会が反対する可能性が高かったが、大統領は自分の公約である「グアンタナモ収容所閉鎖」に、少しでもつながる道を選んだ。同収容所にはなお約百五十人の収監者が残っているが、大統領は就任当初の公約をあきらめていない。(後略)【選択 7月号】
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【「議会が仕事をしないのなら、私たちは私たちの仕事をする」】
環境問題、同性愛者の権利擁護に手をつけたオバマ大統領が、議会をバイパスして次に狙っているのは移民改革だと見られています。

“「次は移民改革でしょう。法整備が進まないまま、不法移民の追放だけは続くので、ヒスパニック層から悲鳴が上がっている」と前出政治記者は言う。”【同上】

****移民制度改革、大統領令で実現へ オバマ氏が共和党非難****
オバマ米大統領は6月30日、目玉政策である移民制度改革に関し、議会を通さず大統領令で実現すると表明した。

野党共和党のベイナー下院議長から不法移民の米市民権取得に道を開く関連法案の年内採決見送りを伝えられたことに伴う措置。

11月の中間選挙を前に、議会との対決姿勢を鮮明にした形だが、国境での不法入国対策を含む包括的制度改革は困難になった。

オバマ氏はホワイトハウスで声明を読み上げ、野党共和党のベイナー下院議長が先週、年内は下院で採決をしないと伝えてきたことを暴露。「議会が仕事をしないのなら、私たちは私たちの仕事をする」とし、大統領令でできる改革を実行する考えを強調した。

また、民主党が過半数を握る上院が、昨年6月に関連法案を通過させながら1年間も成立しないことを「共和党は(保守系草の根運動の)茶会に立ち向かおうとしない」と非難した。

中間選挙の予備選で、共和党の茶会系候補は関連法案に前向きな対立候補を攻撃。6月には下院共和党ナンバー2のカンター院内総務が茶会系候補に敗れた。オバマ氏は移民政策をめぐる同党内の亀裂を利用する意向とみられる。

これに対し、ベイナー氏は30日、中米から未成年の不法入国が急増している問題を関連法案と結びつけ、「子供たちや家族に、不法入国しても許されるという間違った希望を与えている」とオバマ氏を批判する声明を発表した。【7月2日 産経】
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米国には1100万人の不法移民がいるとされています。
こうした移民の置かれている状況に対する人道的な問題以外に、アメリカ経済が“不法移民”労働力を必要としているという側面もあります。

また政治的には、近年急増しているヒスパニック系の票が大統領選挙などの帰趨を決めるという状況で、移民改革を求めるヒスパニック系を取り込むという重要な意味をもっています。

オバマ政権がまとめた、罰金支払いなど一定条件を満たした不法移民に暫定的な法的地位を与え、13年かけ市民権を獲得できる道を開く▽新規不法移民の流入を防ぐためメキシコとの国境警備を強化▽高技能労働者などへのビザ発給枠の拡大−−を柱とする移民改革法案が昨年6月に上院を通過しましたが、下院で“漂流”しています。

こうした移民改革をめぐる政治状況、アメリカでの生活を夢見てホンジュラス・ニカラグアなど中南米からメキシコ国境を越えようとする不法移民少年・少女の話は、2013年8月26日ブログ「アメリカ 難航する移民制度改革」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130826)でも取り上げました。

現在、この中南米からの子供の不法移民が、ある“噂”が原因で急増しているそうです。

****中南米から米国に不法移民が殺到 国境の州で収容所がパンク状態****
今年に入り、中南米から米国への不法移民が激増、テキサス、アリゾナなど国境の州では収容施設がパンク状態だ。幼い子どもを連れた母親や、親を伴わない未成年が移民の大半を占める。

理由は「未成年は不法移民でも無条件で米国に受け入れられるが、六月末までに入国の必要がある」との噂が中南米で広まった点にある。

不法移民の子弟に合法的な滞在許可を期限付きで与える法律の延長にオバマ大統領が今年三月同意したことが誤解されたもようだ。

米国内では収容施設の現状が報道され「あまりにも非人道的」と人権団体が動き始めた。

しかし移民管理局も数の多さに対応しきれず、不法移民の多くがコンクリートの床に寝ている実態の改善策は見つかっていない。【選択 7月号】
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共和党の言うように、移民改革の大統領令が「子供たちや家族に、不法入国しても許されるという間違った希望を与る」という影響は確かにあるかも。

ただ、医療保険改革を廃止する法案が下院で50回以上繰り返し採択され、上院がその都度これを否決するという時間の浪費が続いている状況、国際的にはもはやあまり意味のない一昨年に起きたリビア・ベンガジの米外交官四人殺害事件について、「米政府の責任を追及する」公聴会が無限に続いている状況を生み出している共和党に政権を批判する資格はないようにも思えます。

なお、共和党でも移民の多い州から選出された議員は改革に前向きですが、大半の共和党議員は、ヒスパニックに市民権、つまり選挙権を与えても民主党を利するだけ・・・ということで、市民権付与には消極的であるとか。

いずれにしても、1100万人にも及ぶ不法移民の立場を早急に整理・明確にする必要があるでしょう。

強まる共和党からの“大統領権限の乱用”批判
大統領令については次善の策であり、本来は議会を通すべきであることは言うまでもないところです。

“だが、これらを大統領令で執行していけば、議会の共和党は歳出を拒否して対抗する。カネの裏付けがない政策は必ず行き詰まるばかりか、連邦や地方自治体レベルでは行政訴訟のラッシュが起こる。議会の同意がない改革は、骨抜きになる危険が高い。”【前出選択】とのことです。

共和党のベイナー下院議長は6月25日、オバマ大統領が大統領令などを多用して政策を進めているのは大統領権限の乱用に当たるとして、下院として大統領を提訴する計画を公表しています。

アメリカ連邦最高裁は6月26日、オバマ大統領が2012年に人事承認手続きを行う上院が3日間開かれていない間に、上院を「休会中」とみなし全国労働関係委員会の委員を指名したのは憲法に反するとの判断を下しました。

中間選挙を見据えて共和党サイドの攻勢が強まることが予想されます。
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行方不明のイスラエル人少年、遺体で発見 今度はパレスチナ人少年が拉致・殺害

2014-07-02 21:48:06 | パレスチナ

(テルアビブでイスラエル人少年3人の死を悼むイスラエル市民 【7月1日 ロイター】
ただ、ありきたりな言い様ではありますが、空爆や報復殺人で3人の命が戻るものでもありません。)

必ずハマスに代償を支払わせる
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘブロン近郊のユダヤ人入植地で、16~19歳のイスラエル人3人が行方不明になった事件については、6月21日ブログ「パレスチナの「オリーブ畑」も世界文化遺産登録 イスラエル人行方不明事件で高まる緊張」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140621)で取り上げました。

イスラエル・ネタニヤフ首相は当初からイスラエルと敵対するハマスの犯行と断定。
イスラエル軍は、夜中にパレスチナ人の住宅を調べたりするなど大規模な捜索を行い、ハマスの幹部を含むパレスチナ人400人以上を逮捕しました。

イスラエルの治安当局は6月26日、ハマスに所属するヘブロンに住む20代と30代のパレスチナ人の男2人が関与しているとして、氏名を公表しています。

イスラエルの厳しい捜査に反発するパレスチナ人とイスラエル軍が各地で衝突、投石するパレスチナ人らにイスラエル軍が実弾を発砲し、これまでに10代の少年など5人が死亡しています。

パレスチナでは、イスラエルの捜索に協力する姿勢を見せているアッバス議長にも批判の矛先は向けられています。

また、パレスチナ・ガザ地区の武装勢力はイスラエル南部へのロケット攻撃を激化させ、イスラエル側もその報復としてほぼ毎晩空爆を行っています。

そうしたなか、行方不明になっていたイスラエル人3人は、30日遺体で発見されました。

****不明のイスラエル3少年遺体で発見、首相は報復を宣言****
イスラエルは6月30日、行方不明になっていた10代のイスラエル人3人を遺体で発見したと発表した。その上で、犯行に及んだのはイスラム原理主義組織ハマスだと断じ、必ず代償を支払わせると宣言した。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相は緊急閣議の冒頭で閣僚らに対し、「今夜3遺体を発見した。あらゆる証拠が3人の若い拉致被害者の遺体であることを示していた」と述べ、「責任はハマスにあり、ハマスは代償を支払うことになる」と断言した。

これに対しハマス幹部は、イスラエルが報復行為に出れば「地獄の門」が開くことになると警告した。(後略)【7月1日 AFP】
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パレスチナ自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配するハマスは暫定統一政府を樹立したばかりで、ハマスは一貫して事件への関与を否定しています。

ネタニヤフ首相はパレスチナ自治政府のアッバス議長に、イスラエルを認めていないハマスとの統一政府を断念するよう強く迫ってきました。

遺体発見で更なる事態悪化が懸念されるなかで、自治政府のアッバス議長は30日夜、臨時幹部会を開催。米欧各国にも、イスラエルの報復を抑止するよう支援を求めたとのことです。

国連の潘基文(バンキムン)事務総長は6月30日、犯行は「平和の敵」によるもので、「イスラエルとパレスチナの分断と不信を深めることを狙った」との見方を示し、「それが奏功することがあってはならない」と声明で訴えています。

パレスチナ人少年拉致殺害 報復攻撃の疑い
しかし、イスラエル側はガザ地区空爆を強化しています。

****ガザ空爆強化を警告=誘拐事件、葬儀に数万人―イスラエル首相****
ヨルダン川西岸で誘拐された10代のイスラエル人3人の遺体が見つかった事件で、ネタニヤフ首相は1日夜、閣議で、事件の背後にいるとみているイスラム原理主義組織ハマスに対し「必要に応じて軍事行動を拡大する」と警告、空爆強化の可能性を示唆した。

イスラエル軍は1日未明、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区からのロケット弾攻撃の報復としてガザの34カ所を空爆した。さらに応酬が激化する恐れがある。

中部モディーンの墓地ではこの日午後、3人の葬儀が行われ、首相もペレス大統領と共に数万人の参列者に加わった。

首相は事件に関し「私たちには三つの使命がある」と強調。犯人逮捕、西岸でのハマス弱体化、ガザへの軍事行動を挙げている。夜には、治安閣議を招集し、ハマスへの対応を協議した。【7月2日 時事】 
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また、“エルサレム市内では1日、イスラエル人がデモ行進を行い、「アラブ人に死を」と呼びかけるなど、パレスチナ人に対する憎悪が一部で噴き出しています。”【7月2日 NHK】という状況で、7月2日未明には、イスラエルが実効支配する東エルサレム、パレスチナ人の少年が何者かに拉致・殺害されました。

イスラエル人3名の殺害に対する報復とも見られています。

****パレスチナ少年が拉致・殺害される、イスラエル3少年の報復か****
イスラエルが実効支配する東エルサレムで2日未明、パレスチナ人の少年が何者かに拉致・殺害された。先月のイスラエルの3少年殺害への報復の疑いがある。軍ラジオが報じた。

軍ラジオによると、16歳前後とみられる少年は東エルサレムで車に押し込まれ、数時間後に西エルサレムの森で遺体で発見された。「報復攻撃の疑い」があるという。

軍ラジオの伝えた目撃者情報によると、黒色の車両がヒッチハイクをしていた少年の脇に停車し、少年が車に押し込まれたという。その後、家族が少年の行方が分からなくなったと届け出ていた。(後略)【7月2日 AFP】
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「憎しみの連鎖」としか言い様のない事態です。

イスラエル・パレスチナ双方に冷静な対応が求められますが、特に、軍事的に圧倒的に優位にあるイスラエルは、怒りと憎悪にゆがんだ己の顔の醜悪さを報復殺人の悲劇から感じてもらいたいところです。
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