(米独立記念日の4日、プーチン大統領はオバマ米大統領に祝電を送り、ウクライナ問題などで厳しく対立している中でも、両国関係を発展させていく必要があると呼びかけています。
プーチン大統領は祝電の中で「互いに敬意を払い、それぞれの国益を考慮しつつ関係を築いていくことが重要だ」と強調しています。 写真は“flickr”より By Lyndon Media https://www.flickr.com/photos/123833169@N07/14575410514/in/photolist-ocYMKh-8qdPL3-ob1obT-nTvESY-oaVNp9-nTwLvX-obX3fQ-obX2jb-nUB6iy-obX2Ns-oc2k2q-nUC19x-nUKqn1-obWT1p-oc6zJ5-obWTpa-nUKR9z-ocfe38-oaCgbk-nTkNWy-nVhQTH-nUP88T-nVtRpv-nUNHsp-odfi8d-ocLh6u-nVL8N9-od5cit-nULTRe-ocQmEk-obXDqN-nTST6F-nUb7i1-nUb3SU-nUbegi-nUbnrM-obERM8-obwbdo-obwndQ-nUaSvm-nUc2Tp-obEH9X-nUbgvY)
【クリミア併合後、ロシア独自の道を突き進むプーチン大統領】
ウクライナ問題で欧米と厳しく対立するロシア。
かつての冷戦時代のソ連のが持っていた国際的影響力は失いましたが、中東問題、イラン核開発問題など世界各地で起きる諸問題でもロシアの協力が不可欠とされています。
そのロシアを牽引するのがプーチン大統領であることは言うまでもないことですが、クリミア併合を強行したプーチン大統領の思惑について、欧米側からは「プーチン大統領の真意を推察することができなかった」「何を考えているのか、よく理解できない」という声も聞かれます。
長期的にみてロシアに利益とはとならない政治的・経済的孤立化に向けて走っているようにも見えます。
そんなプーチン大統領・ロシアの最近の変貌について論じたのが下記記事です。
「ロシアはヨーロッパではない」と欧米的価値観を拒否する姿勢を強め、国民の海外渡航を制限し、アメリカなどによる脅威を訴える・・・“クリミア併合を境に、一転してロシアの経済的繁栄を犠牲にしてイデオロギーで動くようになった”“プーチンはロシア独自の道を突き進んでいる”
非常に興味深いので、長いですがほぼ全文を引用します。
****被害妄想プーチンの暴走が止まらない*****
ブログヘの規制、政府職員の出国禁止、同性愛者や二重国籍者の敵視など、反欧米主義と人権抑圧がクリミア後に噴出
今更驚くような話ではない?
確かに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「超大国ソ連」の時代に郷愁を抱き、国内の対立勢力を弾圧し、世界で好き勝手に振る舞うのは、最近になって始まったことではない。
プーチンは権力を握ってから14年間、その手の言動を繰り返してきた。
しかし、3月にロシアがクリミアを併合した後の言動は、それまでとは次元が違う。
91年にソ連が崩壊して以降初めて、ロシア政府は公然と、自国を世界から切り離そうとし始めた。
プーチンは新たな国家イデオロギーの下、欧米的な価値観とシステムを拒絶し、国内の反対勢力を徹底的に糾弾している。
この3ヵ月、ロシアは急速に孤立への道を突き進んできた。
ロシア政府と議会の親政府派の議員たちは、安全保障上の問題を理由に500万人近い政府職員の出国を禁止。政府公認の歴史観を批判することに対する刑事罰も導入した。
二重国籍を保有する国民全員に報告を義務付け、外国から資金を得ているNGO(非政府組織)すべてを「外国の手先」と決め付けた。
ブロガーが政府への抗議活動を呼び掛けることを罰する法律も制定。1日のアクセス数が3000を超すブログは実名登録を義務付けるとした。
政府はフェイスブックやスカイプ、YouTube、ツイッターのアクセス制限も検討し始めた。ロシア限定のインターネットをつくるという案も議論されている。
ロシアでまだ生き残っていた数少ない独立系のニュースサイトとネットテレビ局も沈黙させられた。ニュースサイトの「グラニール」が裁判所に異議を申し立てると、裁判所はこう言い放った・・・「当局はウェブサイトに対し、アクセス遮断の理由を説明する必要はない」。
同性愛者をたたく理由
さらにプーチンは、ビザやマスターカードに対抗できるロシア版のクレジットカードの創設を中央銀行に指示。ロシア版のネット検索エンジン「スプートニク」の実用化も進めている。
また、アメリカのGPS(衛星利用測位システム)がロシア領内で稼働させている地上局の多くの運用停止を打ち出し、ロシア版GPSの「グロナス」を推進しょうとしている。
プーチンの保守的でナショナリスティックなイデオロギーは、数年かけて形成されてきたものだが、クリミア問題を機に一挙に噴き出した。
「ロシアはヨーロッパではない」と、ロシア文化省は公式に宣言。プーチンは、寛容と多文化主義という欧米的価値観を厳しく批判し、欧米の「いわゆる寛容の姿勢」を「不毛で不能」と切り捨てた。
こうした雰囲気を象徴する出来事が5月にあった。国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソングコンテスト」で、女装した男性同性愛者の歌手コンチータ・ウルストが優勝すると、反同性愛を叫ぶロシアの議員が激しく反発。
地方議員のビタリー・ミロノフは、「男色のショー」をボイコットせよと主張した。彼は昨年、「同性愛宣伝禁止法」の制定を主導した議員でもある。
ロシア政府が国民の生活と思考を統制しようとする動きの核を成すのは、「同性愛者、移民、多文化主義、欧米、ファシズムといった『他者』をつくり出すこと」だと、ピッツバーグ大学ロシア・東欧研究センターのショーンーギロリーは言う。「そうした『他者』を排除し敵視することで、脅威に対抗する形で社会を結束させようとする」
ロシア政府が被害妄想的な傾向を強めていることは、国民の出国制限によく表れている。
ロシア外務省は4月、「外国旅行を、特にアメリカと犯罪人引き渡し条約を結んでいる国への旅行を控えるように」と、全国民に「強く勧告」した。
ロシア人観光客が「事実上拉致され、アメリカに移送」されて、「概して根拠薄弱な容疑で」裁判にかけられかねないというのだ。(中略)
内務省の全職員に出国を禁じる法律も最近制定された。国家秘密の漏洩を防ぐため、というのが建前だ。検察職員が全員、パスポートを提出するよう求められたことも報じられている。
「軍や警察、情報機関の職員が自分の目で外の世界を見られないようにすれば、自国が敵に囲まれているというイメージをつくり出すことはずっと簡単になる」と、元野党議員のウラジーミル・ルイシコフは言う。
ロシア議会では現在、徴兵忌避者も渡航制限の対象に加える案が議論されている。ロシアでは例年、徴兵対象者の90%以上が徴兵を忌避している。
債務者の出国を禁じる法律(今年第1四半期は駐車料金や扶養手当の未払いなどで19万人が足止めされた)の対象は、プーチン政権の敵にまで広がる可能性がある。反プーチン派は、抗議デモヘの参加やネット上で国家や教会を批判したとして厳しい罰金を科されている。(中略)
極右政党に所属するアンドレイ・ルゴボイ議員は、二重国籍取得の報告義務を怠った者を罰する新規制の草案作成に携わった。彼はロシア人が二重国籍を持つことは「国益に反する」として非合法化すべきだと考えている。ルゴボイは自身のブログで「敵は絶えずロシアの弱点を探している」と主張する。反政府派は欧米の情報機関の支援を
受けて「ロシアを混乱させようとたくらんでいる」と非難した。
元KGB(国家保安委員会)職員のルゴボイは、プーチンの政敵アレクサンドル・リトビネンコを06年に毒殺した容疑で英検察当局に追われる身だ。ルゴボイが示したような被害妄想は、外国から資金を得ているNGOをすべて「外国の手先」呼ばわりする新法にも広がっている。
「二重国籍保有者や外国から資金提供を受けているNGOの職員というだけで国家への忠誠心を疑われる」と、ロシアの人権擁護団体メモリアルのスベトラーナーガヌシュキナは言う。
頭脳流出が止まらない
ほとんどのロシア人は、世界から隔絶されてもあまり気にしない。モスクワの調査機関レバダセンターが12年に行った調査では、ロシアから出たことのない人が全体の80%に上り、外国語で会話できる人はわずか5%だった。
とはいえルイシコフによれば、弾圧の最大の打撃は頭脳流出だ。最も聡明で最もグローバル化された人々がロシアを後にしている。
「過去20年間に500万人がロシアを離れ、うち2万人が博士号取得者」だとルイシコフは言う。「現在の弾圧に加え、残されたわずかな自由にもさまざまな規制が課されている状況を考えれば、残っている人材をロシア国内に引き留めておくことは難しくなっている」(中略)
だが気の毒に思うロシア人はほとんどいないだろう。ウクライナ危機とクリミア併合に伴う声高なナショナリズムに同調する新興中間層は意外なほど多い。
3年前は状況が違った。下院選での不正に抗議する高学歴の市民はネットで呼び掛け、10万人以上が参加するソ連崩壊以来最大の反政府デモを組織した。
しかし今では世論調査のたびに、大勢のエリート層がプーチンの新ナショナリズムを支持しているという結果が出る。
「強い指導者」をアピール
ロシア科学アカデミーの調査によれば、ロシアの中開層の79%が「ロシアは多くの欠点があっても支持するに値する」と考え、78%が「安定は変化よりも重要」、49%が秩序の維持には「強い指導者」が必要だと考えている。
それ以上に少数派のリベラル野党を落胆させたのは、この調査で「中間層」とされた40%のうち起業家は13%で、半数以上が公務員だった点だ。
プーチンは明らかに一握りの都市部のテクノクラートに背を向け、労働者にアピールしている。労働者はグローバル化と移民による経済的打撃を誰よりも恐れているだけに、プーチンの保護主義で保守的でハイテク恐怖症のメッセージが非常に浸透しやすい。
クリミア併合前のプーチンはおおむね現実的で、安定と繁栄を優先した。そのためなら抗議運動や新興財閥をつぶすことも辞さなかった。
そんな彼がクリミア併合を境に、一転してロシアの経済的繁栄を犠牲にしてイデオロギーで動くようになった。
ロシアのGDPが世界全体の2%を切ろうと構わない、ロシアにはビザカードも国際金融市場も外国での休暇も必要ない、とプーチンは考えている。G8や欧州会議の一員である必要もない。ロシア市民を欧米の腐敗した価値観とネットの悪影響から隔離しなければならない・・・。
プーチンはロシア独自の道を突き進んでいる。たとえそれが孤立と資本逃避と頭脳流出につながる道だとしても、だ。【7月8日号 Newsweek日本版】
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プーチン大統領の思考形成に大きな影響を与えたと思われる東欧諸国におけるカラー革命、旧ソ連圏の崩壊において、アメリカの資金がNGO経由で流れた・・・というのは実際あったことでしょう。
プーチン大統領が海外、特にアメリカの動きを警戒するのは理由のない話ではないように思えます。全くの“被害妄想”でもないでしょう。
しかし、“政府職員の出国を禁止。政府公認の歴史観を批判も禁止”して、ロシアを世界から切り離そうとするのは、いささか“暴走”でしょう。
以前は、プーチン批判勢力の抗議行動、あるいは“プッシー・ライオット”のような活動もありましたが、最近はそうしたものは殆ど聞きません。
プーチン大統領のロシア主義的な動きは大方の国民の支持を得ているようです。
ロシア国内メディアも同様です。
****露女性記者殺害で判決 首謀者・背景は「不明」 言論状況、悪化の一途****
ロシアのプーチン政権批判やチェチェン紛争の報道で知られた女性記者、アンナ・ポリトコフスカヤさん=当時(48)=が2006年に射殺された事件で、実行犯の男を終身刑とする1審判決がモスクワ市裁判所で言い渡された。
判決が事件に最低限の区切りをつけた側面はあるものの、殺害を命じた首謀者や事件の背景は全く分からないままだ。この間にロシアの報道・言論をめぐる状況は悪化の一途をたどっている。(中略)
一方、政権の統制下にある国営・政府系の主要テレビはプロパガンダ(政治宣伝)の度合を強め、国民多数派もそれを無批判で受け入れている。
ロシアが3月にウクライナ南部クリミア半島を併合した問題では、政権派メディアの記者ら300人以上が国の勲章やメダルを受けた。
グチオントフ氏は第3次プーチン政権下で制定された数々の抑圧的新法も挙げ、「真っ当なジャーナリズムに従事することが、この数年間で格段に難しくなった」と指摘している。【6月12日 産経】
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【権力周辺の闇】
北方領土問題などでロシアと向き合わざるを得ない日本にとって、ロシアはもともと厄介な相手でしたが、欧米的な常識が通用しないという意味で、ますます厄介な相手になってきています。
日本にとって交渉の糸口となるのは、ロシア・プーチン政権が極東開発を重視しており、そこへの日本の参加を期待しているという点でしょう。また、昨今の天然ガス需給からも、日本の存在がロシアにとって大きくなっています。
ただ、独自の価値観・路線を強めるロシアに日本企業が参加していくのも難しい面がありますし、プーチン大統領が大号令をかけた極東開発がどうなっているのか・・・よくわからないところもあるようです。
****立ち遅れるウラジオストク開発計画 巨額予算はどこへ消えた?****
プーチン大統領が極東開発の目玉政策として、2012年9月にウラジオストクで開催したアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、五つ星ホテルや世界最大規模の水族館建設など、バラ色の再開発事業が計画されていた。
しかし、APECから1年半以上たった今でも、多くの計画が実現されないままだ。巨額予算がどこへ消えたのかも不透明で、極東開発の暗部を逆に浮き彫りにしてしまっている。
「われわれが関心を持つのは、予算がどのように使われたのかということだ。金は、何に使われたのか。その見返りは一体何なのか」
ウラジオストク紙によると、沿海地方議会のノビコフ経済政策・所有委員会副委員長は6月初旬、会計検査院に対しAPECに向けホテルやカジノ、工業地域建設を請け負った企業の資金使用状況を調べるよう要請した。
ロシア政府はAPECに合わせ、ウラジオストク市内に複数の高級ホテルを建設し、各国代表団やメディア関係者らが宿泊できるはずだった。しかしホテルは依然として未完成のままでいる。当初事業を請け負った企業は、すでに名称を変えているという。
会計検査院の調査によれば、高級ホテルの建設費用は2013年の時点で、すでに当初予算の倍額となっていた。さらに今年に入っても、数億ルーブルの予算が地方政府から拠出されている。
APECが行われたルースキー島の水族館建設も、依然完了していない。世界最大規模の水族館と銘打たれた同水族館は、APECまでに完成されるはずだった。
ウラジオストク紙によると、ミクルシェフスキー沿海地方知事代行は4日、水族館の引き渡しは「客観的な要因」で実現していないと述べた。一つは建設に関わる技術的な問題であり、もう一つは、請負企業「モストビク」の倒産だ。
モストビクは、日本企業も参画したルースキー島と本土をつなぐ世界最大級の斜張橋の建設を請け負った企業でもある。同社はソチ五輪の建設事業なども手がけたが、事業拡大が行きすぎ、今春、銀行への債務支払いが困難になり、自己破産した。
コメルサント紙によると、ミクルシェフスキー氏はまた、ルースキー島の再開発に向け打ち出された各種の経済特区新設が全く実現していない現状も明らかにした。
極東開発をめぐっては、ガルシカ極東発展相の音頭で、従来計画とは別の新たな輸出志向の特区を新設し、法整備を進めているという。しかし中央政府が全面支援して実施された巨大プロジェクトすらまともに実現しないなか、投資家の懸念を払拭するのは容易ではない。【7月6日 産経】
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プーチン大統領が絶対的な権力を行使すればするほど、その周辺で腐敗と汚職の闇が濃くなっていくようです。