孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ISIL支配が広がるシリア・イラクの実態  タリバン支配復活も懸念されるアフガニスタンでの自由の萌芽

2014-07-01 23:01:29 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブール郊外のパグマンでトレーニングに励むサイクリングの同国女子代表チーム(2014年6月9日撮影)。【6月30日 AFP】)

【「従わない人間には厳罰で臨む。それが彼らのやり方だ」】
イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織イラク・レバント・イスラム国(ISIL)が6月29日、イスラム法(シャリア)に基づく新国家「イスラム国」の建国を一方的に宣言しました。

また、クルド自治政府のバルザニ議長は7月1日、英BBCに対し、数カ月後をめどに独立の是非を問う住民投票を行う意向を表明しています。

このように、イラクはスンニ派のISIL支配地域、シーア派中心の南部、北東部クルド人地域に3分割された状況になりつつあります。

ISIL支配地域の固定化で、アメリカなどは国際テロの温床になることを懸念していますが、個人的には“シャリアに基づく新国家”でどのような統治がなされるのか、女性や異教徒に対する人権侵害が横行するのではないか・・・といった不安があります。

ISIL支配の状況についてはあまり情報が多くありませんが、シリアのISIL支配地域の状況が、その実態を示しています。

****イスラム国」:人権抑圧の懸念 ISILが建国宣言****
イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織イラク・レバント・イスラム国(ISIL)が6月29日、イスラム法(シャリア)に基づく新国家「イスラム国」の建国を一方的に宣言した。

国際的に認知される可能性はないが、過激派の共通目標である「イスラム国家樹立」を掲げることで、求心力を高める狙いがあるとみられる。支配地域の住民からは、イスラム法の厳格な適用を理由にした人権抑圧を恐れる声が広がっている。

「法廷を設置し、知事も任命した。今こそ(最高指導者の)『カリフ』を選び、イスラム共同体の義務を果たす時だ」。29日にインターネット上で発表されたISILの「建国宣言文」は、支配地域で独自の司法や行政が機能していることを根拠に「建国」を正当化した。

「カリフ」にはISILの指導者バグダディ容疑者が就任。「すべてのイスラム教徒はカリフに忠誠を誓う義務がある」と主張し、組織名から地名を外した。

「従わない人間には厳罰で臨む。それが彼らのやり方だ」。昨年春にISILの支配が始まったシリア北部ラッカの大学生、ハサン・ラカウィさん(19)はそう証言する。

ハサンさんによると、ISILは当初、女性にニカブ(目以外を覆う黒布)の着用を義務づけ、喫煙を禁止するなどの布告を出した。だがシリア反体制派との戦闘に追われ、刑罰までは科さず、市民の生活にも大きな影響はなかった。

だが昨年秋までに反体制派をほぼ撃退すると様相が変わった。市内のサッカー場が「イスラム法廷」に改変され、裁判や刑罰の執行だけでなく、結婚や出産の届け出など行政手続きもここで行われるようになった。

独自の警察も組織され、飲酒や喫煙はむち打ち刑などの対象となった。敵対勢力のメンバーが公開処刑されることもある。女性は男性親族の付き添いなしで外出するだけで事情聴取される。

ISILの支持者は「ラッカは以前より平穏になった」と自賛するが、ハサンさんは「活気がなくなっただけだ」と話す。

学校や病院も男女別となり、女性の就労先は女子校や女性用病院以外になくなった。個人への課税はないが、商店からは「売上税」が徴収される。ある商店主は「利益よりも徴収額が多いが、従うしかない」と証言する。市郊外の検問所では通行税や関税も課しているという。

実はハサンさん自身も「死刑判決」を宣告され、今年4月に家を離れた。ボランティアとして働いていたシリア赤新月社(赤十字社に相当)がISILに非協力的だとの理由だ。

今はトルコ国境付近を転々としているハサンさんは「(ISILは)敵対するだけで背教者呼ばわりする。イスラム国などと名乗ってほしくない」と話した。【6月30日 毎日】
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ISILが支配するイラク・モスルの状況については、ガソリンなどを無料配給している、対応も親切で政府軍などよりずっと安心できる・・・・といったモスル残留者の話もある一方で、街が厳しい監視下におかれ、暴力が横行している状況を伝えるものもあります。

****イラク情勢:女性抑圧、異教徒弾圧…過激派ISILの統治****
イラク北部からシリア東部にかけて支配地域を広げるイスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」は、今月10日に制圧したイラク北部モスルで、イスラム法(シャリア)に基づく統治を始めた。

スンニ派の教義の極端な適用は、女性の抑圧や異教徒の弾圧などにつながっている。

「一夜で全てが変わり、女性は親族の男性の付き添いなしでは外出もできなくなった」。ISILの侵攻後にモスルを脱出した大学1年のアクラウィさん(19)は16日、毎日新聞の電話取材に街の様子をこう証言した。

アクラウィさんによると、ISILは行政庁舎や警察施設を占拠し、住民には飲酒や喫煙を禁止。女性にはニカブ(目以外を覆う黒布)の着用を義務付け、女性だけでの外出も禁じた。

市内に残る友人に聞くと、電気の供給も不安定で、インターネットへの接続もできない状況だという。

ISILは侵攻当初、モスルの大半を占めるスンニ派住民に「我々はシーア派(主導のマリキ政権)から解放するために来た」と呼びかけ、ガソリンを一時無料にするなど懐柔策をとった。

住民からは「マリキ政権よりもマシだ」との声が上がり、インターネット上にはISILを支持するデモの映像も流れた。

だが、ISILは同じスンニ派でも敵対すれば容赦しないことで知られており、アクラウィさんは「いずれ残忍な本性が表れる」と危惧する。

ISILは拘束した政府軍兵士や警察官を処刑したとされる映像をインターネット上で公開し、市民や敵対勢力に恐怖を植え付けている。

イラクメディアによると、ISILはキリスト教会に放火。戦闘員にレイプされたり、婚姻を強要されたりした女性が自殺する事件も起きている。

国際移住機関によると、モスルからは人口の約4分の1にあたる50万人が市外に避難した。【6月17日 毎日】
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****静寂に包まれた町=過激派支配、処刑やレイプも―モスル陥落、避難民が証言―イラク****
イラク北部の都市モスルが陥落してから2週間、イスラム教スンニ派過激組織「イラク・シリアのイスラム国」に支配される町からは、かつての活気が消えていた。クルド人自治区に避難した住民は「不気味な静けさが漂っていた」と証言する。(中略)
 
それから2週間、モスルは一変した。電気工デイア・カリームさん(41)は数日前、家族の衣類を取りに市内の自宅に戻った。至る所で、自動小銃を持った男らが目を光らせていた。

モスルに残った友人の話では、「イスラム国」の支配下に置かれて以降、外出が厳しく制限され、命令に逆らう者は容赦なく処刑されたという。

過激派によるレイプなどの犯罪も横行。「サッカーをすれば足を切断する」との通達も出ており、少年らが街角でボールを蹴る姿も消えていた。

カリームさんは「あんなに静かな町を見たのは初めて」と語る。シーア、スンニ両派が平穏に暮らしていたふるさとの面影はなかった。

居たたまれなくなり、必要な物だけを車に詰め込み、町を後にした。「もう二度と戻りたくない」。やり場のない怒りに声が震えた。【6月25日 時事】
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シーア派偏重の政府軍・治安部隊がスンニ派居住地域で相当に過酷な統治を行ってきたのも事実なようで、それに対する反感がスンニ派居住地域におけるISILの支配拡大を助長しています。

****イスラム法徹底****
「アルコールは禁止され、市内のすべての銅像が破壊された」。イラク北部モスルから逃げてきたラミ・ムハンマドさん(24)が、6月10日にISISに制圧された街の様子を語った。「マリキ政権の治安部隊や警察は市民を捕まえ、拷問したが、そのようなことはなくなった」とも述べた。

ISISのスポークスマン、アドナン師は動画サイトに配信した声明で「神が定めた法と正義が完全に実行される」と述べた。「イスラム法廷の裁判官が任命され、法廷で争議が解決され、全ての人々の権利が保障される。

(異教徒からは)信仰を保障するための人頭税が集められる」としている。
キリスト教徒の人頭税については、ISISが支配するシリア東部ラッカ州ですでに実施されている。

ISISの地元宣教局はモスル制圧後、「市憲章」を発表。「公金に手をつけるものはイスラム法廷で裁かれる。個人の財産を盗む者は手を切断される」と、腐敗の一掃とともに刑法もイスラム法に基づくことが明記された。「麻薬、アルコール、たばこは禁止される」とも記されている。

女性については「貞淑でなければならず、髪を覆い、長衣を着て、外出が必要な時以外は家にとどまるべきだ」とする。1990年代にアフガニスタンのイスラム厳格派タリバーンが実施したような、女性の社会進出を抑える方針が示された。【7月1日 朝日】
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異教徒への人頭税ですめばまだいいですが(金額にもよりますが)、異教徒・異宗派の存在が実質的に許されないような事態がやがてくるのでは・・・とも懸念されます。

ひとことで言えば、女性の社会進出を許さず、一切の娯楽を禁じたアフガニスタンにおけるかつてのタリバン政権時代の再現でしょう。

異教徒・異宗派はもちろん、スンニ派住民にとっても息苦しい社会と思われますが、先述のようなマリキ政権に比べれば・・・という見方もあるのでしょう。
こうした事態の原因となったシーア派偏重マリキ政権の責任は大きいと言えます。

男女平等など夢のまた夢ではあるが・・・新しい自由も
一方、今年末までの米軍撤退を控えて、またタリバン支配が復活することも・・・・と懸念されるアフガニスタンですが、その資質が疑問視されているアフガニスタン政府軍がタリバンの攻勢を撃退したとも。

****南部でタリバンに勝利」、アフガン治安部隊が発表****
アフガニスタンの治安部隊は28日、南部ヘルマンド(Helmand)州で続いていた旧支配勢力タリバン(Taliban)との戦闘に勝利したと発表した。

米軍が主導する北大西洋条約機構(NATO)軍が完全撤退に向けた準備を進める中、今回の戦闘は治安部隊にとって、その力を試す機会ともなった。

タリバンは今月19日以降、アヘンの生産が盛んで過去およそ13年にわたって激しい戦闘が続いてきた同州サンギン地区周辺に少なくとも800人の戦闘員を投入。攻撃を開始した。

アフガニスタン内務省のセディク・サディキ報道官はAFPに対し、「攻撃を仕掛けた地域を制圧しようとのタリバンのもくろみは、完全に失敗に終わった。およそ260人のテロリストが死亡した」と述べた。同氏によると、治安部隊の側にも28人の死者が出たという。

一方、同州に展開している部隊の高官も報道官の発表に先立ち、今回の攻撃で最初に標的とされたカジャキとナウザド、ムサカラの3地域で、治安部隊がタリバンを撃退したことを明らかにした。

しかし、タリバンのユスフ・アフマディ報道官はAFPに対し、治安部隊側の見解を否定。サンギン地区では依然、戦闘が続いていると主張した。【6月29日 AFP】
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どこまで信用できる報道か・・・という話もありますが、仮にアフガニスタン治安部隊が強力になってタリバンの攻勢を抑えたとしても、その姿勢によっては住民を苦しめる新たな圧政者が出現しただけの話にもなります。今後を注視していく必要があります。

アブドラ元外相が選挙に不正があったとして開票作業中断を求めていた大統領選挙の方も、問題とされていた選管事務局長が辞任したことで、アブドラ氏側も25日には開票作業の監視作業を再開させたとのことです。
こちらも、“混乱は収まる気配を見せつつあるが、今後も不正をめぐり混乱する恐れはくすぶっている”【6月29日 産経】といったところですが。

アフガニスタンでは、新しい社会の萌芽も見られます。
大統領選挙が無事に終了し、政治が安定し、治安も維持されることで、こうした動きが守られることを望みます。

****自転車」が象徴するアフガン女性の新しい自由****
アフガニスタン人の女性の一団が、山あいの坂道を走り抜けていく。通りすがりの男たちからじろじろと見られ、下品な言葉を投げ掛けられることもあるが、気にしない。彼女たちは、一昔前のアフガニスタン女性には考えられなかったスポーツ「サイクリング」を思う存分、満喫している。

女性が自転車に乗っている姿は世界の大半では珍しくないかもしれないが、厳格なイスラムの道徳観により、サイクリングは女性に不向きだとみなされているアフガニスタンでは、奇異の目で迎えられる。

サイクリングのアフガニスタン女子代表チームに所属する10人は、こういった性差別を乗り越え、時には身の危険さえ感じながら、日々特訓に励んでいる。

2020年開催の東京五輪を目指していることはもちろんだが、さらに野心的な目標も視野に入れている。それは、もっと多くのアフガニスタン女性に、自転車に乗ってもらうことだ。

「私たちにとって、自転車は自由の象徴」と語るのは、チームの一員でアシスタントコーチも務めるマラヤン・シディーキ(Marjan Sidiqqi)さん(26)。

「政治的表現のつもりで自転車に乗っているわけではない。乗りたいから、乗るのが好きだから乗っている。私たちの兄弟が乗れるのならば、私たちだって乗っていいはず」(中略)

米軍が主導した13年前のアフガニスタン侵攻で旧支配勢力タリバンによる政権が転覆して以来、アフガニスタンの女性たちが教育や医療を受ける機会は大幅に向上した。

しかし保守的な考え方は根強く残っているため、男女平等など夢のまた夢だ。

最近もカブール近郊でトレーニングを行っている際、こんな事件があった。バイクに乗った若い男3人が突然現れ、チームメートの1人の自転車に接触、転倒した際にマラヤンさんも巻き込まれ、背中に大けがをした。

チームを引率していたアフガニスタン自転車連盟会長のモハマド・サディクさんは激怒して男らを追いかけ、捕まえた1人を警察署へ突き出した。

2003年に自分の娘が自転車に興味を示したことから女子チームを結成したというサディクさんは、メンバーの安全を常に心配しているという。

アフガニスタンに駐留する国際部隊は2016年までに撤退する予定のため、不安はさらに大きく募っている。「タリバンが戻ってきたら、最初に犠牲になるのは女性の権利だ」

訓練走行を終え、パグマンの川べりでチームが休憩していると、一人の男性がもの珍しそうな表情でマラヤンさんに近寄ってきた。

「あなたも山で自転車に乗っているのか」と尋ねられたマラヤンさんは、ためらいがちに「そうです」と言った。しかし「皆は男子か、女子か?」と聞かれた時には強気の顔で「女子です」と胸を張って答えた。【6月30日 AFP】
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