孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  北西部・部族地帯で続く「タリバン運動」(TTP)掃討作戦

2014-07-21 22:52:10 | アフガン・パキスタン

(イスラム組織による北ワジリスタンの難民救済活動も始まっているようです。 “flickr”より By Islami Jamiat -e- Talaba Pakistan https://www.flickr.com/photos/111134273@N07/14713004573/in/photolist-oq8ZED-ooaTQS-oomHfj-oo6SjF-ommdjj-oomHbb-ooobdZ-ommdBd-o6UAoB-o6TnYb-o6TwKs-ooaToQ-ooobo8-o6Twxd-oo6S6z-o6TwcV-opxwaD-oq8ZGT-o6TvMB-ojy5nH-omNoD1-o5mnvT-onzApE-o87Mvt-o87Huy-opzXDY-oisHnf-nYAXAN-oeZ8Ez-nVJCNB-nVHnXQ-okp6ZR-o4gHxo-og6taF-nYAUKh-og6ur8-nYAWTq-og6ugP-og6vqc-nYB3p3-nYBgMr-og3Fud-nYCchF-nYAVpy-og3HiJ-og3Gnf-og6uTa-ohS3Gp-ogQGAo-ogQEUs)

カラチ国際空港襲撃事件で対決へ転換
パレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍によるハマス壊滅を目指した地上戦が展開されており、いまのところ仲介国もみあたらず収束の目途が立っていません。

戦闘の拡大に伴って犠牲者も増大しており、イスラエルによるガザ地区への本格的な攻撃が始まってからのパレスチナ側の死者数は、これまでに多くの住民を含む501人に上っています。また、イスラエル側の死者も市民2人を含む20人になっています。

軍によるイスラム過激派掃討作戦ということでは、国際的にはパレスチナほどの話題にはなりませんが、パキスタンでも大規模な地上戦が展開されています。

パキスタンではイスラム原理主義武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」などによるテロが連日のように繰り返されていますが、シャリフ首相は就任以来TTPとの和平交渉を目指してきました。

軍部はこうした交渉路線には批判的でしたが、6月8日に8起きたカラチ国際空港襲撃事件で首相の和平交渉も頓挫し、全面的な対決姿勢に転換しています。
(6月22日ブログ「パキスタン イスラム武装勢力との和平交渉を放棄、全面的な掃討作戦へ 懸念される治安悪化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140622

****パキスタン:「平和になるまで」武装勢力の掃討作戦開始****
パキスタン軍は15日、北西部の部族地帯・北ワジリスタン管区に地上部隊を投入し、パキスタン・タリバン運動(TTP)など武装勢力の掃討作戦を開始した。

16日も引き続き空爆し、地元メディアによるとこれまでに少なくとも160人以上を殺害。シャリフ首相は16日、下院で「作戦は平和がもたらされるまで続く」と演説した。

だが、作戦が長引けば大量の国内避難民が発生し、政情不安を招く恐れもある。

シャリフ首相は演説で、南部カラチで8日に起きた国際空港襲撃事件を受け、作戦を決断したと明らかにした。
その上で「作戦により平和と安全がもたらされると確信している」と述べ、就任以来追求してきたTTPとの和平路線を完全に放棄する考えを示した。

ロイター通信などによると、軍は地上部隊で北ワジリスタン管区と隣接地域の境界を封鎖。隣国アフガニスタンにも国境を封鎖するよう要求した。

管区内では終日外出禁止令を出したほか、携帯電話のネットワークを遮断したという。ただ、一部の武装勢力はすでにアフガン側に逃れたとみられ、今後アフガンのタリバンと連携を深める可能性もある。

一方、TTPは16日、首都イスラマバードやシャリフ氏の故郷である東部ラホールでの報復攻撃を予告する声明を出し、海外企業などにパキスタンを離れるよう警告した。【6月17日 毎日】
*******************

上記記事最後に書かれているTTPによるシャリフ氏の故郷である東部ラホールでの報復攻撃も、未然に防止はされましたが現実の危機となっています。

****首相邸近く潜伏、武装集団を射殺 パキスタン治安部隊****
パキスタン東部ラホール近郊にあるシャリフ首相の私邸近くで17日、民家に潜伏中の武装グループと治安部隊との間で銃撃戦が起き、少なくとも警察官1人が死亡し、武装グループの2人が射殺された。治安当局はこのグループが私邸襲撃を準備していた疑いがあるとみている。

地元テレビによると、治安当局が民家を包囲すると、武装した男らは自動小銃や手投げ弾で抵抗した。パキスタン政府・軍は、反政府武装組織パキスタン・タリバーン運動(TTP)の根拠地で軍事作戦を開始。TTPは報復を宣言していた。【7月18日 朝日】
*****************

軍は空爆に続き、6月30日からは地上戦を開始しています。

****パキスタン、テロ掃討作戦開始から1カ月 攻勢を強めるシャリフ政権****
パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域で、パキスタン軍がテロ掃討作戦を開始して約1カ月が過ぎた。

軍は空爆に続いて地上作戦を実施し、テロリスト約500人を殺害、88カ所の潜伏場所を破壊した。

ナワズ・シャリフ政権は、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などに対する攻勢を強めている。(中略)

今月16日付のドーン紙によれば、地上作戦を行っている軍は北ワジリスタン地区の中心地ミランシャーを制圧したのに続いて、14日には第2の町、ミラリに入り、タリバン運動の幹部ら6人を殺害した。(中略)

ミランシャーでは、大量の武器と爆発物が押収された。市場ではテロに使用される即席爆発装置が公然と売られ、店の外ではタリバン運動が市民を処刑することもあったという。

町では、防弾車やアフガン警察の車両も押収された。周辺には地雷が敷設され、軍は慎重に地上作戦を進めた。

軍は15日、この1カ月でテロリスト447人を殺害したと発表。ロイター通信によると、16日には空爆で武装勢力のメンバー35人が死亡した。【7月21日 産経】
********************

米軍無人機攻撃も再開 パキスタン政府は批判するも・・・
シャリフ首相の和平交渉放棄に伴って、半年ぶりにアメリカによる無人機攻撃も再開されています。
 
****米、パキスタンで再び無人機攻撃―半年ぶり****
パキスタン当局者が(6月)11日、明らかにしたところによると、米国は武装勢力の拠点となっている部族地域の北ワジリスタン地区を無人機で攻撃した。米国は約6カ月間、無人機での攻撃を停止していた。(中略)

米国は無人機作戦を放棄していたわけではないが、パキスタン政府が武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)との和平交渉を進めようとしていたことから、昨年12月25日以降停止していた。
パキスタン政府は、交渉を可能にするために無人機攻撃をやめるよう米に求めていた。

現在のシャリフ首相も含めて、パキスタン内には米の無人機に対する反発が強い。

無人機攻撃は一時停止する前に既に回数が大幅に減っていたが、米国としてはパキスタン部族地域の武装勢力への攻撃にはこれが非常に有効だと考えている。

ワシントンの独立系研究機関ニュー・アメリカ財団によれば、攻撃回数は2010年に122回だったが、13年には27回にとどまった。(中略)

アフガニスタンと国境を接する無法の部族地帯はイスラム武装勢力が隠れ場所および訓練センターとして利用している。北ワジリスタンにはTTPのほかに、ハッカニ・ネットワーク、アルカイダ、ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)などの武装勢力がいる。米国は以前から北ワジリスタンを掃討するようパキスタンに圧力をかけている。(後略)【6月12日 WSJ】
*****************

アメリカの無人機攻撃が一時停止する前に既に回数が大幅に減っていたことに関しては、パキスタン側への配慮以外にも、アメリカ側の財政事情もあるのかも。

7月16にも無人機攻撃が行われて18人が死亡しています。

****米無人機の攻撃で18人死亡 パキスタン北西部 ****
パキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で16日、米国の無人機が家屋や車両をミサイル攻撃し、地元メディアによると武装勢力メンバーとみられる少なくとも18人が死亡した。地元当局筋は死者の多くがウズベク人やアラブ人など外国人だとしている。

パキスタン軍は同地区を拠点とする武装勢力の掃討作戦に乗り出しているが、政府は米国の無人機攻撃について、パキスタンの主権を侵害していると反発している。

AP通信によると、治安当局は16日までに、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」幹部で、2003年にムシャラフ大統領(当時)暗殺未遂に関与したとされるアドナン・ラシード司令官を拘束した。【7月17日 日経】
********************

パキスタン政府が“パキスタンの主権を侵害していると反発”しているというのは反米世論への政治的配慮であり、実際には黙認・協力しているとも報じられています。

“米無人機による空爆も相次いでいる。16日には18人が死亡した。シャリフ政権はこれまで、米無人機の攻撃を非難してきたが、黙認あるいは協力している可能性もある。”【7月21日 産経】

ハッカニ派には1発の銃弾も当たっていない
また、シャリフ首相は「すべての外国人戦闘員と地元テロリストを例外なく一掃する。聖域は許さない」との声明を発表していますが、同じく北ワジリスタン地区に潜伏するタリバン運動と同盟関係にあり、パキスタン軍との関係が深いとされるイスラム原理主義勢力強硬派「ハッカニ・ネットワーク」は標的外にされている・・・というのが実態のようです。

****ハッカニ派は標的外****
・・・しかし、現地の住民からは、ハッカニ派はテロ掃討作戦前に逃亡したとの証言が聞かれる。
北西部カイバル・パクトゥンクワ州バンヌで避難生活を送る男性(35)は電話取材に「ハッカニ派は弾薬とともに作戦前にアフガンへこっそり逃げていった。ハッカニ派には1発の銃弾も当たっていない。これまで軍の賓客のような暮らしをしていた」と述べた。

ロイター通信も「ハッカニ派のメンバーが家族もろともいなくなったのは、彼らがここに住んでいる15年以上の間で初めてだ」との住民の話を伝えた。

タリバン運動の指導者は掃討作戦前、ハッカニ派のメンバーと会い、アフガンでの避難場所の提供を求めたが、丁重に断られたという。

部族地域を取材する地元記者は電話取材に、「アフガンのタリバンのメンバーはこの時期、アフガンでのテロのため、北ワジリスタンを離れている。軍事作戦はハッカニ派を標的にしていない」と分析し、「軍は、アフガンでテロを働くハッカニ派を戦略的に貴重な存在だとみなしており、関係を断つことはない。軍事作戦が終われば、多くのメンバーが戻ってくるはずだ」と話している。(岩田智雄)【7月21日 産経】
****************

ついでに言えば、アフガニスタンのタリバンもパキスタン軍・情報機関との強い関連が指摘されています。

アフガニスタンで親インド政権が強まるのを防ぎ、親パキスタン政権樹立を目指して、アフガニスタンで活動するタリバンやハッカニ派をパキスタン軍・情報機関が支援している、あるいはパキスタン軍・情報機関が事実上の黒幕的存在であると言われています。

米軍への対応、ハッカニ派の扱いなど、表と裏の世界があるようですが、間違いないのはこうした掃討作戦で大勢の住民が犠牲となっていることです。

“軍事作戦が行われている地域では多くの住民が避難を余儀なくされ、およそ47万人が国内避難民となっていて、市民生活への影響も広がっています”【7月1日 NHK】

“北ワジリスタン地区からは避難民の脱出も相次いでいる。これまでに約90万人が避難民として登録したが、地区の人口よりはるかに多いため、政府は二重登録の疑いを含めて調査している。”【7月21日 産経】

パレスチナのハマスはイスラエルへのロケット弾攻撃を行っていますが、統治機能を持った組織で、停戦が成立すれば共存も可能な組織です。(イスラエルはそのように思っていないかもしれませんが。もっとも、より過激な組織を抑えるためには、イスラエルにとっても必要な組織でしょう)

一方、TTPによるテロ活動を考えると、その掃討作戦はやむ得ないものとも思えますが、一般住民の犠牲が増えることには・・・・なかなか整理がつきません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする