孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  和平交渉頓挫で、「2国家共存」でも「単一国家」でもない「他の選択肢」?

2014-05-21 23:38:41 | パレスチナ

(15日、ヨルダン川西岸の刑務所前でデモを行っていたパレスチナ人とイスラエル軍が衝突、パレスチナ人青年2名が死亡、5名が負傷したそうです。 現状のままでは、イスラエルはこうした“残虐な支配者”のイメージが固定していきます。 写真は【5月16日 Iran Japanese Radio】)

【「ケリー氏の降伏」】
イスラエルとの交渉にあたっていたパレスチナ自治政府の主流派ファタハと、イスラエルの存在を認めずガザを実効支配する強硬派ハマスが5週間以内に暫定統一政府を発足させることで合意したことを4月23日に発表したことで、以前から交渉に消極的だったイスラエルは更に態度を硬化させました。

****イスラエル 和解合意の破棄要求 ファタハは干渉に反発****
イスラエルのネタニヤフ首相は24日、パレスチナ自治政府の主流派ファタハに対し、現在進められている中東和平交渉の継続を望むなら、イスラム原理主義組織ハマスとの間で23日に結んだ暫定統一政府の樹立を柱とする和解合意を破棄するよう要求した。イスラエルのメディアに語った。

同国政府はこれに先立つ24日、和解合意への対抗措置として、今月29日に期限切れを迎える和平交渉を中断すると発表。

ネタニヤフ氏は24日の声明で、イスラエルの生存権を認めないハマスが参加する政府とは「いかなる交渉もしない」とも述べ、和解合意が破棄されない限りは交渉期限延長などの協議には応じない考えを強調した。

これに対しファタハ側は、「イスラエルが(ハマスとの和解問題に)干渉する権利はない」(和平交渉責任者のアリカット氏)などと反発を強めている。

一方、和平交渉を仲介する米国のケリー国務長官は24日、「和平の責任を放棄することはない」として、交渉期限延長に向けパレスチナ、イスラエル双方が歩み寄るよう求めた。

イスラエル側でも、連立政権に参加する中道政党ハトヌアの党首でパレスチナとの交渉を担当するリブニ法相が現地テレビのインタビューで「(交渉の)扉はまだ開かれている」と語るなど、ぎりぎりまで交渉継続を模索すべきだとの声が出てはいる。左派系の野党には、ネタニヤフ氏の強硬な態度への批判もある。

ただ現行の交渉プロセスは、再開された昨年7月以降、イスラエルによるユダヤ人入植地建設問題などが障害となって難航している。連立政権には強硬な入植推進派も参加しており、期限延長で合意が成立しても実質的な進展は期待しにくい状況だ。

イスラエルはまた、自治政府が今月初めに国連などに15の国際条約への加盟を申請したことへの対抗措置として、自治政府に対する経済制裁を検討していることも明らかにした。【4月26日 産経】
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結局、成果が出ないまま4月29日に9か月間の交渉期限を迎えました。

パレスチナ和平交渉のことしか念頭にないとも批判されながらも、現地訪問を繰り返し、イスラエルとパレスチナ自治政府の双方に歩み寄りを呼び掛けてきたケリー米国務長官でしたが、「最終的な和平合意を仲介しようとするドン・キホーテのような試み」(米紙ワシントン・ポスト)が挫折に終わったと揶揄されるところともなっています。

ワシントン・ポスト紙は「ケリー氏の降伏」と題した社説で、「ケリー氏はシリア内戦、中東地域で脅威を増す国際テロ組織アルカーイダ、エジプトの独裁への復帰、世界の他地域での紛争にエネルギーを使った方がましだった」と断じています。【5月13日 産経より】

イスラエルは「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」】
こうした交渉行き詰まりへの苛立ちもあってか、イスラエルとパレスチナの2国家共存が実現しなければ、イスラエルは「2級市民を抱えたアパルトヘイト(人種隔離)国家になる」とケリー米国務長官が発言、内外で問題となりました。

****米国務長官:「イスラエルは人種隔離国家に」発言で波紋****
ケリー米国務長官が、中東和平交渉が成功しなければイスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」と非公開の会合で25日に発言していたと報じられ、米国のイスラエル系団体や連邦議会議員から批判が噴出。
ケリー長官は28日に異例の声明を出して釈明した。

交渉は事実上中断しているが、仲介役のケリー氏は再開を促す余り口が滑った形だ。
問題の発言はオンライン・メディアの「デイリー・ビースト」が27日に報道した。

米国は中東和平交渉で、イスラエルとパレスチナ国家が併存する2カ国案を支持しているが、ケリー長官は、「1国制では2級市民のいるアパルトヘイト国家になる」と発言したという。

これに対し、イスラエル系ロビー団体の「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」は声明で「不適切で不快」と強く反発。共和党議員らからも批判が上がった。

ケリー氏は声明でイスラエルへの長年の支持を強調した上で「発言を取り戻せるなら、別の言葉を使うべきだった」などと述べた。【4月30日 毎日】
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和平交渉にあたって、ユダヤ人入植活動をやめず、頑なな対応を崩さないイスラエルに対しては批判も高まっている事情もあります。

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政府だけではない。米国内に、対イスラエル批判気運が高まっている。

昨年12月16日、米国の学者、研究者約5000人からなる「米国研究協会」が、イスラエルに対する学術的ボイコットを決定した。

イスラエルがパレスチナの占領を続けていること、そして国連決議などに違反している、という理由で、加盟の学者にイスラエルとの共同研究を止めるよう呼び掛けたのである。

これはまさに、80年代に米国の学術機関がアパルトヘイト反対のために南アフリカに対して行ったことと、同じだ。

ケリー氏は「失言」として撤回したが、米国の学術界ではすでにイスラエル=アパルトヘイト時代の南アフリカ、という認識が定着しているのだ。【4月30日 酒井啓子氏 Newsweek】*********************

“西側のユダヤ人は、今や条件反射的イスラエル支持ではなくなっている。パレスチナ占領は人権尊重と相いれないと考えられている。イスラエル・ロビーの力も衰えている。”【5月21日 WEDGE】

ケリー長官の発言の背景には、イスラエルが抱える現状があります。

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イスラエルの人口の2割を超える195万人はパレスチナ人だ。このうち約25万人は第3次中東戦争(1967年)でイスラエルの占領下に置かれた人々で、その大半は永住権は持つが、国政に参加できる参政権などの市民権はない。

イスラエルの公用語ヘブライ語の習得など一定の条件を満たせば市民権の申請が可能とされる。しかし、大半のパレスチナ人は「イスラエルによる占領を受け入れることになる」として市民権を希望しない。

その結果、イスラエル国政への参政権も持たず、自身の声を政策に反映できないという意味で、事実上の「二級市民」とも呼ばれる。

ケリー米国務長官はこの現状を念頭に最近、非公開の会合で、このままではイスラエルは「アパルトヘイト(人種隔離)国家になる」と強い懸念を示した。(後略)【5月13日 毎日】
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【「他の選択肢」とは?】
ケリー長官の発言に反発したイスラエルですが、パレスチナとの「2国家共存」も展望が開けず、さりとて、パレスチナ人を呑み込んだ「単一国家」では人口的にユダヤ人の優位性が保てず、一方で、現状のままではパレスチナ人を弾圧し、交渉を妨げているとの国際的批判を受けることにもなり、対応に苦慮していることも事実です。

****イスラエル:中東和平に閉塞感 「現状維持」にも課題**** 
・・・・イスラエルと米国はハマスを「テロ組織」と認定し、従来、交渉相手とするにはまずハマスが「非暴力を宣誓」し、「イスラエルを承認」すべきだと訴えてきた。ハマスがこれらを受け入れていない現状では、交渉は不可能とのイスラエルの立場をネタニヤフ首相は繰り返した。

「非軍事化されたパレスチナがイスラエルをユダヤ国家と認めれば2国家共存ができる」。ネタニヤフ首相はあくまでも2国家共存による交渉進展を強調した。

しかし、仮に今後、パレスチナ側の何らかの方針転換で2国家共存に向けた協議が再開されたとしても、明るい展望が待ち受けているわけではない。今回の交渉決裂で亀裂はさらに深まっており、一層の難航が予想される。

だが現状維持がこれ以上続くこともまた、イスラエルにとって最善の道ではない。

現在のネタニヤフ連立政権は、第3勢力に宗教的極右政党「ユダヤの家」を抱える。同党は占領地におけるユダヤ人入植(住宅)地建設の促進を掲げており、今後さらに活動を拡大する可能性がある。

これに対し、一部欧州諸国は、占領地に自国民を移住させる行為は国際法違反だとして、入植地やイスラエルの商品をボイコットする動きを拡大させている。(中略)

2国家共存も現状維持も困難となると、残るはすべてのパレスチナ人を受け入れて融合を図る「単一国家」の道だ。

しかし、イスラエルのほかヨルダン川西岸パレスチナ自治区とガザ地区も合わせると、パレスチナ人の総人口はすでに600万人余りに達し、イスラエルに住むユダヤ人とほぼ同数になっている。

出生率の高いパレスチナ人がユダヤ人の人口を大幅に超えるのは時間の問題で、そうなればユダヤ人を多数派とする「ユダヤ人国家」の存在は維持できなくなる。
このため、各種世論調査によると、単一国家を希望するユダヤ人は1割にも満たない。

2国家共存を目指す和平交渉の頓挫は、パレスチナ国家の樹立を不可能にするばかりでなく、イスラエル自身の未来をも危うくする。【5月13日 毎日】
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ネタニヤフ政権で和平交渉担当大臣であるリブニ法相は、和平交渉中断後もアッバス議長と接触しているようですが、ネタニヤフ首相は認めていません。

なお、リブニ法相は中道新党「ハトヌア」の党首で、ガザは切り捨て、ヨルダン川西岸で建設が進んでいる防護フェンス(「分離壁」) 内部の大規模入植地を併合、それ以外の小規模入植地を撤退させ、分離壁を国境とすることを主張してきたシャロン、オルメルトなどが率いてきた中道政党「カディマ」から分派した政治家で、右派「リクード」のネタニヤフ首相とは立場を異にします。

****イスラエルとパレスチナ直接会談=和平交渉中断後初めて****
イスラエルの民放チャンネル2は16日、中東和平交渉を担当するイスラエルのリブニ法相とパレスチナ自治政府のアッバス議長が15日にロンドンで会談したと伝えた。両者が直接会ったのは、4月末の交渉中断以降では初めて。

リブニ氏はアッバス氏に対し、イスラム原理主義組織ハマスとの統一暫定政権発足の合意は受け入れられないと表明した。この会談は予定されたものではなかったため、ネタニヤフ首相の怒りを買ったという。【5月17日 時事】 
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こうした状況で、訪日時のネタニヤフ首相の発言がイスラエル国内で注目されているそうです。

****中東和平:イスラエル首相発言、地元で波紋****
イスラエルのネタニヤフ首相が13日の毎日新聞との会見で、中東和平交渉の中断を受け、新たな選択肢を模索していると語ったことが、地元で波紋を広げている。

首相は詳細を語らなかったが、専門家の間では和平交渉に見切りをつけ、占領地から一方的に撤退する案などが提案されており、ネタニヤフ政権の今後の対応が注目されている。

首相は会見で、現状維持について「望ましくない」とする一方、パレスチナ人とユダヤ人がイスラエルで共生する「単一国家」も「希望していない」と明言。「(他に)選択肢がないか連立政権内外で協議している」と述べた。

中東和平の選択肢は、現状維持を除けば、和平交渉でパレスチナ国家を樹立し共存を図る「2国家共存」案と「単一国家」案に大別される。

イスラエルのハーレツ紙は15日、インタビューの全文を掲載した毎日新聞の英文サイトから、首相が「他に選択肢がないか連立政権内外で協議している」と述べたくだりを引用。匿名の政府高官の発言として、日本から帰国した首相が、政府や治安担当者らと「他の選択肢」について検討することを希望していると伝えた。

パレスチナのマアン通信は15日、このハーレツ紙を引用する形で会見内容を転電。イスラエルのマーリブ紙やイスラエル・テレビ「チャンネル2」のウェブサイトも会見内容をもとに、首相は現状維持がこれ以上続くと事実上の単一国家状態を招くことになると懸念し、他の選択肢を検討していると伝えた。

イスラエルでは最近、2005年にイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区から一方的に撤退したケースと同様に、和平交渉を経ず、イスラエル独自の判断でヨルダン川西岸パレスチナ自治区から撤退することをシンクタンク代表らが提案している。

また、連立政権第3勢力の宗教的極右政党などは、自治区のうちユダヤ人入植地のみをイスラエルに取り込み、残りは現状維持とすることなどを求めている。

イスラエルとパレスチナは2国家共存を目指し20年以上協議を続けているが、ほとんど進展がない。昨年7月に約3年ぶりに再開した交渉も、4月に中断した。【5月16日 毎日】
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“2005年にイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区から一方的に撤退したケース”というのは、前出「カディマ」を創設したシャロン元首相が、リクード党首として首相を務めていたときに行った施策で、ガザ地区からの制空権及び制海権を維持した上でイスラエル軍が一方的に全面撤退したうえで、全ユダヤ人入植者約8500人が退去し、加えて、ヨルダン川西岸の小規模入植地が解体されました。

当時のリクード内の政敵ネタニヤフ氏は、このシャロン元首相のガザ撤退に強く反対しています。

ガザ撤退の背景には、“仮にイスラエルが占領していたガザ地区・ヨルダン川西岸・ゴラン高原をすべてイスラエル領と規定した場合、早晩、アラブ人・パレスチナ人の人口がユダヤ人を上回ってしまう。パレスチナ人が多数派になればそれはユダヤ人国家であるイスラエルの終焉を意味する。シャロンはそのことを最も恐れた[。シャロンが撤退を決めたガザ地区のユダヤ人入植者はわずか8500人。それに対し西岸の入植者は、計画発表の時点で23万人、東エルサレムのユダヤ人を換算すると40万人を超える。宗教的必要性も薄く、ハマスの拠点で、100万人のパレスチナ人に囲まれているガザを捨て、その分の予算と兵力を、宗教的必要性が色濃く、かつ広大でパレスチナ人の人口が希薄な、西岸に投入する方がはるかに賢明といえる。”【ウィキぺディア】という考えがありました。

ネタニヤフ首相の「他の選択肢」なるものがどういうものかわかりません。

例えば“イスラエル独自の判断でヨルダン川西岸パレスチナ自治区から撤退”と言ったとき、現在の大規模入植地はどうなるのでしょうか?
“防護フェンス(「分離壁」) 内部の大規模入植地を併合、それ以外の小規模入植地を撤退させ、分離壁を国境とする”という、自身が激しく反対した、かつての政敵シャロン元首相の主張に沿うものでしょうか?

4月11日ニューヨークタイムズ紙は、イランが世俗化、穏健化する一方、イスラエルは宗教右派が台頭し、神政国家化しつつある、と論じています。

“イスラエルでは、ハト派はタカ派に押されている。それは、安全保障情勢の変化の反映であるが、その背後には、宗教面や人口構成の変化がある。ユダヤ正統派政党は議会の約25%を占め、イスラエルを神政国家にしようとしている。正統派の人口は増加している。”【5月21日 WEDGE】

ネタ二ヤフ首相の判断は、こうしたイスラエル国内の事情も反映したものになるでしょう。
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タイ  軍が戒厳令発動  政治混乱の収拾へ向けた道筋は不明瞭

2014-05-20 23:23:46 | 東南アジア

(バンコク市内に展開する陸軍兵士 【5月20日 TBS Newsi】)

【「戒厳令発令はクーデターではない」】
“司法クーデター”的な憲法裁の決定によりインラック首相が失職した後、タイの政治混乱は更に混迷の度を深めた感があることは、5月16日ブログ「タイ 首相失職後も更に混迷の度を深めるタイ政治」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140516)で取り上げたばかりです。

そのなかでも触れたように、首都バンコクで15日未明、反政府デモ隊の集会拠点が何者かに銃撃、爆弾攻撃された事件(死者3人、負傷者22人)を受けて、プラユット陸軍司令官が、政治対立に伴う暴力がこれ以上拡大するようであれば「部隊を出動させて武力を使って治安を回復する必要が生じるかも知れない」と警告する声明を出しました。

タイの権力の中核にある軍上層部は一般に反タクシン色が濃いとされてはいますが、軍はこれまで、軍の介入を求める反政府派の声に応じず、どちらにも肩入れしない立場を守ってきました。
プラユット陸軍司令官は15日の声明で、介入を求めて“動かない軍”を批判する反政府派をも強く牽制していました。

その軍が20日、全国に戒厳令を発令し、いよいよ前面に出てくる展開となりました。

****タイ:軍が全土に戒厳令 クーデタ−は否定****
政治混乱が深まるタイで、プラユット陸軍司令官は20日未明、タイ全土に戒厳令を敷き、国の治安権限を軍が掌握した。

プラユット司令官は声明で「(政権側と反政府デモ隊の政治対立により)暴力行為が激化する恐れがあり、平和と秩序の回復を図る」と発表した。

戒厳令の発令は2006年にタクシン元首相を失脚させた軍事クーデター以来。軍は今回、クーデターを否定したが、首都バンコク中心部などに兵士が展開し、緊張が高まっている。

戒厳令は20日午前3時(日本時間午前5時)から全国で施行され、午前6時ごろからテレビを通じ発表された。戒厳令に基づき軍はプラユット司令官をトップとする「平和維持センター」を設置し、治安維持に関する全権を握った。陸軍系のテレビ局はテロップで「戒厳令発令はクーデターではない」と報じ、市民にパニックを起こさないよう求めた。

治安当局筋によると、軍は政権側と反政府デモ隊側双方に対し、事態打開に向けて早急に対話するよう促しているという。

タイ国軍は「最大の政治勢力」とも言われ、これまで度々、クーデターなどで政治に介入してきた。
しかし、06年9月のクーデターで軍は国際的批判を浴びたうえ、タクシン派から敵視されるようになった。プラユット司令官は9月に退任を控え、軍人としてのキャリアを傷つけかねないクーデターには消極的との観測もある。(中略)

農村住民や貧困層が中心のタクシン派には、軍を「エリート層が支える反タクシン派の中核的存在」として敵視する傾向が根強い。軍の出動は、「反タクシン派に軍が協力し、政権転覆を狙っている」と警戒するタクシン派の反発を招く恐れがある。

だが、タクシン派最大の政治団体「反独裁民主戦線」のチャトゥポン代表はメンバーらに軍に抵抗せず、冷静な対応を取るよう呼びかけた。

一方、反政府デモ隊の報道官はインターネットのフェイスブックで市街地でのデモ活動をいったん停止する方針を示した。

プラユット司令官はテレビ演説で「全てのグループに行動の自制を求める」と呼びかけており、双方とも「中立」を掲げる軍の出方を注視している。【5月20日 毎日】
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06年クーデターでは、タクシン元首相を排除したものの、結局総選挙でタクシン派の復権を許す形となり、軍部はこの“失敗”から政治の前面に出ることに消極的になっていると言われています。

また、“軍上層部は一般に反タクシン色が濃いと言われている”とは言っても、タクシン派政権のもとで、軍部にも一定にタクシン派の影響が及んでおり、軍内部は必ずしも一枚岩ではないとも見られています。

プラユット司令官も個人的には火中の栗を拾うような厄介ごとには関与したくないという気持ちなのでしょうが、タイの現在の混乱を前に、軍内外のいろんな声があっての今回戒厳令でしょう。

双方とも「中立」を掲げる軍の出方を注視
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反政府デモ隊は戒厳令発令を受け、20日に予定していたデモ行進を中止すると発表した。

一方、ロイター通信によると、反独裁民主戦線の幹部は、バンコク郊外で10日から続けている大規模集会を続ける意向を示した。幹部は「選挙を行ったうえで、新しい首相が就任するという民主主義の原則に立ち戻ることが出来るまで活動を続ける」と述べた。

一方、選挙管理内閣を率いるニワットタムロン首相代行の側近は、軍から戒厳令発令について事前の相談はなかったと説明。そのうえで、「選挙管理内閣は存続している。治安を軍が担当することを除けば通常と変わりない」と述べ、懸案である総選挙の早期実施に努める立場を強調した。【5月20日 読売】
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タクシン派の「赤シャツ隊」もバンコク郊外での集会は継続しています。
タクシン派、反政府派ともに集会は継続しながら、“双方とも「中立」を掲げる軍の出方を注視している”状況です。

軍は、タクシン派・反政府派双方の支持TVチャンネルの放送を禁止し、事態の鎮静化を図っています。

****タイ陸軍、メディア検閲を布告 戒厳令に続き****
タイ陸軍は20日、全土に戒厳令を発令したのに続き、メディアの検閲を布告し、複数のテレビチャンネルの放送を停止した。

国内の全チャンネルで同時放送された声明で陸軍は、「人々が正しい情報を手にするため、そして情報がゆがめられてこの対立が深まることがないようにするため」として、政府支持派の「赤シャツ隊(Red Shirts)」系チャンネルや、反政府派が使用する衛星放送チャンネル「ブルー・スカイTV(Blue Sky TV)」などの放送を停止したと発表。

プラユット・チャンオチャ陸軍司令官が署名した声明は、テレビ画面が数秒間途切れた後に、全チャンネルで同時放送された。声明は「全ての報道機関に対し、国家の安全に有害なニュースおよび静止画像の報道を禁じる」と述べている。

陸軍はこの1時間前、同国で数か月にわたり続いた政治混乱を収拾するためとして、全土に戒厳令を発令。首都バンコク中心部には、武装した兵士らや機関銃装備の装甲車が配備され、主要テレビ局などにも部隊が展開された。【5月20日 AFP】
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市民はこの動きを冷静に見ており、混乱はおきていないようです。
タイ市民は、これまでの経験でクーデター慣れしているということもあるでしょう。

****バンコク中心部、日常の出勤風景=一部で渋滞、企業は情報収集急ぐ―タイ****
タイ全土に戒厳令が発令された20日朝、首都バンコク中心部は日常と変わらない通勤風景が見られた。しかし、主要幹線道路では軍による検問が実施され、各所で渋滞が発生。

タイ進出の日系企業は、出張者などの安全確保に向けた情報収集に追われた。

バンコク中心部のビジネス街、シーロム通りでは「戒厳令は短期的に状況を改善させるが、長期的な問題解決にはならない」(35歳女性)との声が聞かれるなど、冷静な受け止めが目立つ。

男性会社員(50)も、状況改善に期待を示しつつ、「長期的には国の改革が必要で、解決方法を話し合わなければならない」と訴えた。

タイ国立チュラロンコン大の女子学生、ピムショクさん(19)は「対立するグループが闘わずに済み、普通の生活が送れるようになる」と歓迎。
別の女子学生(20)は「(戒厳令で)何かを禁止されたわけではない」と話し、様子を見守りたいとした。

一方、バンコクへ向かう主要幹線道路では、検問が実施され、通勤・通学の足が大きく乱れた。現地の日系企業は「戒厳令の内容をよく調べたい」(大手商社)と情報収集を急いでいる。5月下旬は出張者が増える時期で、「まずは安全確保のため、航空機の運航状況を把握しておく」(化学メーカー)という企業が多い。【5月20日 時事】 
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全当事者を呼んで対話による解決策を模索する意向
軍は「戒厳令発令はクーデターではない」と強調しており、プラユット陸軍司令官は、戒厳令の発令は対話のための環境づくりが目的だと説明しています。

****対話解決を模索=戒厳令「安定回復まで」―タイ陸軍司令官が表明****
タイ全土に戒厳令を発令したプラユット陸軍司令官は20日、タクシン元首相派政権と反タクシン派の対立が続く政情の混乱収拾に向け、全当事者を呼んで対話による解決策を模索する意向を表明した。首都バンコクの陸軍施設で各省庁や国営企業のトップらを集めた会合を開いた後、記者会見で語った。

司令官は会見で「できるだけ早期に解決策を見いだす必要がある」と強調。「混乱や蜂起、暴力を扇動する試みが続く状況では、話し合いはできない」と述べ、戒厳令の発令は対話のための環境づくりが目的だと説明した。

対話の開始時期は明言しなかったものの、「私が呼べば来る必要がある。全当事者が関与しなければならない」と語った。

戒厳令の期間については「平和と安定を回復するまでだ。3カ月も6カ月もかかるとは思わない」と述べるにとどめた。また、現時点で夜間外出禁止令の発令は考えていないことを示唆した。

一方、反政府デモを続ける反タクシン派組織「人民民主改革委員会(PDRC)」スポークスマンは、バンコクの集会拠点で行っているデモ活動を続行すると発表した。戒厳令に従って活動を行うとしている。【5月20日 時事】
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「私が呼べば来る必要がある」・・・いかにも軍人らしいもの言いです。
エジプトの大統領選挙当選が確実視されているシシ前国防相がTVインタビューで電力不足・貧困対策を聞かれ、節電・節約を強調、司会者が「できるのか?」と尋ねると、「私を妨害する者には法を適用する」と答えた“軍人らしさ”にも共通します。

人権団体などからは今回戒厳令に「事実上のクーデター」といった厳しい批判の声も上がっています。

****事実上のクーデター」批判も=タイ戒厳令で人権団体など****
タイのプラユット陸軍司令官が全土に戒厳令を発令したことに対し、人権団体などからは20日、「事実上のクーデター」といった厳しい批判の声が上がった。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のアダムズ・アジア局長は、戒厳令で軍には広範な権限が与えられるが、「権利侵害に対する法的な予防手段も、軍が引き起こした損害に対する補償もない」と指摘。国際社会に対し「この事実上のクーデターの即時撤回」を求めるよう呼び掛けた。

政治学者らでつくるタイの民間団体「民主主義防衛会議(AFDD)」も、「非民主的で軍に完全な独裁的権限を付与するものだ」と非難する声明を発表。「戒厳令は現在の政治紛争を完全に解決することはできない」とし、軍の役割は治安の回復にとどめ、政府や選挙管理委員会と協力して、できるだけ早期に総選挙を実施するよう求めた。【5月20日 時事】 *****************

おそらく軍部も、本格的な軍政を行う意思はなく、政治対立を緩和し、やり直しの議会選挙などの政治プロセスに道筋をつけて混乱を収拾したい思いでしょう。
泥沼化しているタイ政治の状況からすれば、軍の出動もやむを得ない感があります。

ただ、収拾に向けての道筋はまだ不明瞭です。
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欧州  欧州議会選挙でEU懐疑派が躍進の予測 問われるEUの存在意義

2014-05-19 22:45:31 | 欧州情勢

(5月1日 「EUはフランスの発展の道を奪う」と訴える国民戦線のマリーヌ・ルペン党首 【5月2日 SankeiPhoto】)

【「EUへの不名誉な降伏に、背を向ける機会だ」】
欧州では5月22~25日にEUの欧州議会選挙が行われます。

近年、欧州各国で反EU・移民排斥を掲げる極右勢力が台頭していることはこれまでもしばしば取り上げてきましたが、一般国民の間でEUへの懐疑的な見方が広まるなかで、今回欧州議会選挙では反EUを鮮明に打ち出す極右政党やEU懐疑派が大きく躍進するものと見られています。

****(揺れる欧州 EU議会選が問う:上)EU懐疑派・右翼に勢い 議席3割うかがう****
22~25日に、5年に1度の欧州連合(EU)の欧州議会選がおこなわれる。

欧州の金融危機後初めてとなる議会選では、右翼やEU懐疑派の政党が大きく躍進し、3割の議席を獲得しそうだ。統合が深まる流れにブレーキがかかるおそれもある(中略)

パリ・オペラ座前の広場に1日、数千人が集まった。フランスの右翼「国民戦線(FN)」が欧州議会選を前に開いた集会だ。

オペラ座には、12の星が青地に円を描く欧州の旗がたなびいている。その玄関を覆わんばかりの巨大なポスターは、ジャンヌ・ダルクが、欧州統合の象徴である星を一息に吹き飛ばす絵柄が描かれていた。「ブリュッセルにノン」。欧州連合(EU)の本拠ブリュッセルへの反旗だ。

「EUへの不名誉な降伏に、背を向ける機会だ」
マリーヌ・ルペン党首は、ユーロ導入で暮らしが厳しくなったと説明したあと、こう声を張り上げた。拍手がわき、支持者はフランス国旗を振って応えた。

フランスではいま、従来は傍流だった右翼政党FNが、主役の座に躍り出つつある。
仏CSA社の調査では、欧州議会選で投票したい政党に、FNが24%でトップに立った。政権与党・社会党(PS)の20%も、最大野党・民衆運動連合(UMP)の22%をも上回った。

「選挙で選ばれたわけでもないブリュッセルの官僚が欧州の将来を決め、ユーロの導入で暮らしは厳しくなった」「巨大な競争力を持つ農家との競争が待ち受ける米国との貿易協定はおかしい」「大量の移民は、雇用を奪い、社会的なコストもかかる」――。FNのこんな主張は、失業率が10%超で高止まりするなかで、いらだちを強める仏国民に響いている。

前回2009年の欧州議会選でFNの得票は6%余りで、フランスに割り当てられた72議席(当時)のうち3議席にとどまった。FNは今回、15~20議席を奪っての大躍進を見込む。

FNは1972年、ジャンマリ・ルペン氏のもとで結党された。ジャンマリ氏はかつて、ユダヤ人虐殺を「ささいなこと」とも発言し、キワモノ扱いされてきた党だった。

だが11年に後継となった娘のマリーヌ氏は、自らの名前とも重なり、海の色を表す「ブルーマリン」をFNの代名詞として使い、批判をあびるような極端な発言もしない。「極右」ではない、「普通の政党」としてのイメージ戦略も奏功している。

欧州では、欧州議会でも、各国議会でも、中道右派や中道左派といった比較的穏健な政党が多数派を形成してきた。FNは、「(中道の右派・左派による)2極時代は終わった。われわれが、新たな選択肢だ」と訴える。

 ■各国で台頭、連携を模索 発言力拡大へ会派結成狙う
右翼やEU懐疑派の政党が支持を集めるのは、欧州各国に共通する現象だ。
オランダの「自由党」は移民排斥などを訴える右翼政党だ。今回の欧州議会選を巡る最新の世論調査では、16・5%の支持率で国内首位。オーストリアの「自由党」も、国内3位の19%の支持を集める。

ブリュッセルの世論調査機関によると、欧州議会選では、反EUや反ユーロなどEU懐疑派の政党が全751議席のうち220議席以上、全体の3割を占めるとみられている。現在の2割を大幅に上回る数字だ。

各国のEU懐疑派の勢力が連携する動きも出始めた。オランダの「自由党」のウィルダース党首は、自ら各国を訪ね、EU懐疑派勢力の結集を呼びかけた。昨年11月には仏FN、オーストリアの「自由党」との連携を発表した。

欧州議会の会派の結成は7カ国、25人以上の議員が条件だ。会派を結成できれば、議会から予算を受けたり委員会の委員になったりすることができる。欧州議会選後の発言力拡大を狙っているのだ。

ウィルダース氏はスウェーデン、ベルギー、イタリア、デンマーク、英国の政党にも声をかける。「大きいグループになれば、各国がEUから主権を取り戻す歴史的な役割を果たせる」

今回の欧州議会選は、特に重要な意味を持っているといえそうだ。

欧州議会は、EUの新しい基本条約「リスボン条約」(2009年発効)で今回から権限が大幅に拡大された。予算案のほか、移民や安全保障などほぼ全ての法案を審議する。加盟国の閣僚で構成する理事会と同じ強い権限を持つようになった。

そこに右翼やEU懐疑派が大勢入り込むことになれば、移民規制を強化したり、統合の深化に逆行したりする政策が推進されるおそれがある。

シンクタンク「我らのヨーロッパ」のイブ・ベルトンチーニ所長は「彼らの発言力が増すと、中道政党が大衆迎合的な政策を導入することが想定される」と懸念する。(後略)【5月13日 朝日】
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緊縮策を強いられる国、救済する側の国 双方で高まるEU不信
EUへの不満については、「危機に陥って緊縮策を強いられたギリシャなど南欧」と「国民の税金を他国救済に回さざるを得なくなったドイツなど支援国」の両方で、欧州連合(EU)への不満が高まっています。

****揺れる欧州 EU議会選が問う:下)ユーロ危機、尾引く反目 怒りの矛先EUへ****
・・・・4月30日、アテネ中心部に立つ財務省の下で、女性たちの抗議の声が響いた。
「緊縮策をやめろ!」

昨年9月に官公庁を解雇された清掃職員592人の一部だという。アンナ・プラキ代表(52)によるとみな女性で多くが50、60代。再就職は見込めない。シングルマザーや、両親を介護している者も多いという。

ヨルギア・エコノムさん(48)は憤る。「政府はドイツやEUに言われた通りに、公務員を減らす数合わせをしているだけ。政権はギリシャ政府を救ったのかもしれないけど、代わりに民衆を殺している」

ギリシャは2010年、政府債務(借金)危機に陥った。巨額の財政赤字が発覚し、投資家が、ギリシャからお金を一斉に引き揚げたためだった。ギリシャは、EUや国際通貨基金(IMF)から緊急融資がないと立ちゆかない状況に追い込まれた。

支援の条件として、EUやIMFが突きつけたのは「放漫財政を改め、財政赤字を減らすこと」。ギリシャの政権は、年金の大幅カットや公務員の15万人削減で支出を減らし、付加価値税の引き上げなどで歳入を増やすことを約束した。しかし、それは劇薬だった。

ギリシャの失業率は今年1月時点で26・7%に上り、EU平均の2倍以上。25歳未満の若者に限ると実に6割を超える。緊縮策で景気は冷え込み、税収がさらに落ち込む悪循環に陥っている。それだけに、「反緊縮」「反EU」を掲げる急進左翼進歩連合の人気はうなぎ登りだ。

世論調査の支持率は22・3%。政権与党の新民主主義党(21・8%)をしのいでトップに立つ。代表のチプラス氏は欧州委員長候補として、欧州統一左派の「顔」にもなった。

チプラス氏は29日、アテネ市内の選挙集会で訴えた。「ドイツは欧州にアパルトヘイト的な状況を生んだ。平等だった欧州が、大きく断絶された。人々がまともな暮らしを続けていけない壁が築かれた」

批判の矛先は、緊縮策を強いたEUとIMFだけでなく、その方向性を主導した欧州最大の経済大国ドイツに向けられている。

そのドイツでも、EUに反発する動きが膨らむ。原因は「ギリシャ」だ。
昨年2月に誕生した反ユーロ政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が急速に党勢を伸ばす。ユーロ圏の他国の救済禁止だけでなく、ギリシャなどの南欧諸国をユーロ圏から脱退させることさえ訴えている。

4月26日、西部ケルン大聖堂前で開かれた選挙集会には、支持者約300人が集まった。
「本当のことを言う勇気を持とう。ギリシャの利益は我々の利益ではない。(EU本部がある)ブリュッセルから自由と民主主義を取り戻そう」
経済学者のベルント・ルッケ党首が呼びかけると、大きな拍手が起きた。

危機後、ギリシャにはEUとIMFから2400億ユーロ(約34兆円)の緊急融資がおこなわれた。ドイツ国民の税金が、EUを通じてギリシャ救済に使われた。ドイツ国内では怒りが充満している。

ドイツは00年代から社会保障を削り、消費税増税もおこない、身を削って経済を強くした。なのに、ずさんな財政運営を続けてきた他国の支援に、税金を投入せざるを得なくなったことが我慢できないのだ。

元銀行員のヘルムート・ショーン・ヘルダーさん(66)は以前は政権与党を支持していた。「ドイツ人が地道に積み上げてきた財産が奪われた。子供たちのために立ち上がる時だ」

AfDは昨秋の総選挙で議席獲得のための得票率5%に至らなかったものの、欧州議会選の世論調査では得票率6・5%、6議席を獲得するとみられている。

ベルリン自由大学政治科学研究所のカールステン・コッシュミーダー研究員は統合懐疑派が支持を広げる理由を「政治家は都合が悪いことはブリュッセルのせい、良いことは自分たちの功績だと説明する。結局は国内の政治への不満がEUに向かう」と分析する。(後略)【5月14日 朝日】
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18日に行われたギリシャの統一地方選の第1回投票では、「反緊縮」「反EU」を掲げる急進左翼進歩連合が結果を出しつつあります。

****ギリシャ:統一地方選第1回投票 野党・急進左派が善戦****
欧州債務危機の震源地となったギリシャで18日、統一地方選の第1回投票があり、サマラス政権の財政緊縮策に反対する最大野党・急進左派連合が首都圏で善戦した。

ギリシャからの報道によると、首都アテネを含むアッティカ広域行政地域の知事選で急進左派候補が現職をリード。アテネ市長選でも急進左派候補が現職を急追し、25日の決選投票に駒を進めた。

325市町村の首長と議会、13の広域行政地域の知事を選ぶ地方選の第1回投票は25日の欧州議会選の前哨戦だった。急進左派は地方選決選投票と欧州議会選を緊縮策への反対を突き付ける「国民投票」と位置づけ、攻勢をかけている。

首都圏決選投票や欧州議会選で急進左派が勝てば、緊縮策に取り組んできたサマラス首相にとって打撃となる。政党支持率の世論調査では急進左派(27.4%)が、サマラス首相の中道右派与党・新民主主義党(22.7%)を上回っている。【5月19日 毎日】
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ウクライナ危機でEU再評価も
“ユーロを守る闘いは、銀行、税、財政支出に関する権限の中央集権化につながった。ユーロ圏のほとんどの有権者は、ユーロの維持を望む一方で、これ以上欧州中央銀行(ECB)、欧州委員会、欧州議会に加盟国への干渉権限を与えることには、はっきりと反対している。”【5月19日  The Economist】

しかし、こうした反EUの声が見落としがちなのは、これまで戦争の歴史であった欧州にあって、今では欧州各国が武力で争うような事態は想像もできないまでに変化している(ウクライナをめぐるロシアの存在はありますが)のは、EUという共同体を推進してきたことによるものであるということです。

また、民主主義という政治体制は、その他の政治体制に比べれば、総合的・長期的にみて“よりましな制度”ではありますが、当然ながら問題は多々あります。ポピュリズムになりがちな点もそのひとつでしょう。

例えば、痛みを伴うような改革が必要とされるとき、これを避けようとする大勢の声に流されてしまいがちです。
結果、「政治家は都合が悪いことはブリュッセルのせい、良いことは自分たちの功績だと説明する」ということにもなる訳ですが、逆に言えば、不人気な施策を断行するためには「ブリュッセルが許さないから・・・」という、ポピュリズムを超えた存在が必要にもなります。

日本の憲法も、ある意味、EUに似たような存在かも・・・。
現実にそぐわないとの批判は多々ありますが、戦後の長きにわたって日本が戦争に直接的に関与せずに済んだのは憲法の存在が大きいでしょう。
また、過激なナショナリズムや外圧が高まるときに、「憲法が許さないから・・・・」という踏みとどまるよすがともなります。

閑話休題
EUについては、現在のウクライナ危機で、安全保障上の存在価値がに直されているという話もあるようです。

****ウクライナ危機で存在感 安保の利点、再評価も****
経済危機を巡るごたごたでEU懐疑派が勢いを増す一方で、安全保障的な観点からEUを支持する動きも最近目立ち始めている。

「ウクライナ危機で、EUは政治的にどう対処するのかが問われている」
ポーランドのトゥスク首相は4月26日、同国西部ポズナニで開かれた、欧州議会内の中道右派政党の会派「欧州人民党」(EPP)のフォーラムでそう強調した。

トゥスク氏は、EPPが推す欧州委員長候補として今回の欧州議会選に臨むユンケル・前ルクセンブルク首相と共に登壇。欧州統合の主流派に属すことを有権者にアピールした。

トゥスク氏の与党「市民プラットホーム」(PO)は今年初めまで、野党で、欧州統合に距離を置く右派政党「法と正義」(PiS)に、支持率で大きくリードされていた。2007年以来政権の座にあるPOに対する有権者の失望感が大きく作用していた。

ところがウクライナ危機がこの構図を一変させた。POは4月中旬には支持率を逆転させ優勢になった。
ワルシャワのシンクタンク「欧州外交評議会」のピオトル・ブラス会長は「危機感の中で政権与党への回帰が起きた」と分析する。

背景にはポーランドの歴史がある。帝政ロシアに占領され、第2次世界大戦でもソ連に侵攻されて共産圏に置かれたポーランドでは、ロシアへの恐怖心は今も市民の間に根強く残る。軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)と並び、対ロシア防波堤としてのEUへの期待感が強い。

ウクライナ危機がその重要性を再認識させた形だ。トゥスク氏は「この選挙は欧州が生き残るかどうかを決める選挙だ」と強調している。

ウクライナ情勢を巡ってロシアの脅威が拡大していることを背景に、EUの重要性を再評価する動きが出ているのは、各国にも共通する現象だ。

米国、ロシア、EU、ウクライナによる4者会合が開かれた4月17日。欧州委員会のバローゾ委員長が、プーチン大統領に一通の書簡を送った。
1週間前、プーチン氏は、ドイツなどウクライナを通じて天然ガスを輸入する欧州18カ国それぞれに手紙を書き、「ウクライナが滞納代金を支払わない場合、供給を止める」と警告していた。

書簡のなかで、バローゾ委員長は「加盟国を代表して返信する」と説明。5月2日には、EU、ロシア、ウクライナのエネルギー3者会合に出席した欧州委員が、EUとしてロシアと価格交渉し、統一価格を導入する意向を示した。

欧州は、天然ガスの約3割をロシアからの輸入に依存しているという「弱み」がある。一つひとつの国がロシアに向き合うと強い態度に出にくいが、EUとしてなら各国は矢面に立たずに済み、交渉力も増すという思惑がある。

EPPに属するドイツの中道右派「キリスト教民主同盟」(CDU)の党EU担当委員のユルガン・ハーデ氏は「ウクライナ危機によって、誰もがEUが単なる官僚機構ではなく、法治、自由、平和、財産の保障だと気づいた。それは中道政党には追い風だ」と主張する。【5月14日 朝日】
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トルコ  炭鉱事故の捜索終了 エルドアン首相の無神経発言への批判も

2014-05-18 22:29:41 | 中東情勢

(事故現場をエルドアン首相が訪れた際に、治安部隊に取り押さえられた抗議行動参加者に蹴りを入れる首相補佐官 【5月16日 msn産経】)

【「(炭鉱では)こういう事故は起きるもの」】
マーレシア航空機の謎の失踪事件、韓国セウォル号沈没事故などの大きな事故・事件ほどの話題にはなりませんでしたが、13日トルコ西部で炭鉱爆発事故があり大勢の犠牲者がでました。

事故発生直後の報道では“作業員ら201人が死亡、200人以上が地下の坑道内に取り残されている”とも報じられていました。

作業員が閉じ込められている場所は地下数百メートルから2.5キロほどと深く、炭鉱内の火災が収まらずに煙が充満していることから、救出は難航しました。

結局300名を超す犠牲者を出す、トルコの炭鉱事故としては最悪のものとなりました。

****捜索終了、死者301人=トルコ炭鉱事故****
トルコ西部ソマで起きた炭鉱爆発事故で、AFP通信によると、政府は17日、最終的に作業員計301人の死亡を確認し、捜索を終了したと発表した。【5月17日 時事】 
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この事故では、救出活動が進まず関係者が苛立ちを募らせたことに加え、安全対策が十分にとられておらず、政府の監督責任が不十分だったとの批判が国内でたかまりました。

この政府批判に油を注いだのが、現地を視察したエルドアン首相の無神経とも言える発言でした。
エルドアン首相は、事故調査の徹底を約束しつつも、今回の事故の死者数を19世紀の英国での鉱山事故などと比較した上で、「(炭鉱では)こういう事故は起きるもの」と発言。

これに対し、現地でデモ隊がエルドアン首相に詰め寄ったほか、首都アンカラや最大都市イスタンブールでは、数千人規模の反政府抗議デモが展開されました。

****トルコ炭鉱爆発現場でデモ、警官隊と衝突 高まる政府への怒り****
トルコ西部マニサ県ソマ地区で13日に発生し、300人近い死者が出ている炭鉱爆発事故の現場で16日、約1万人が参加する抗議デモが行われ、警官隊と衝突した。

政府批判のシュプレヒコールを上げるデモ隊を解散させるため、警察は催涙ガス、放水銃、プラスチック弾を使用した。

あるデモ参加者(23)は、「これは運不運の話じゃない。殺人だ」と叫んだ。 現場の複数のAFP記者によると、デモ隊の一部は警官隊に投石した。警察官2人を含む少なくとも5人が負傷した。数人が逮捕されたとの情報もある。

トルコ最悪の産業事故となった今回の炭鉱事故は、8月の大統領選挙を前に政府への怒りを引き起こした。 大統領選で勝利するという見方もあったレジェプ・タイップ・エルドアン首相は苦境に追い込まれている。

ソマ炭鉱事故のわずか数週間前に国会で同炭鉱の安全性への懸念を取り上げていたにもかかわらず事故が起きたと攻撃する野党に対し、エルドアン首相は政府に落ち度はなかったと反論した。

だが、「炭鉱に事故はつきもの」という発言が、犠牲者の苦しみにあまりにも冷淡だとして怒りの非難を引き起こした。

14日に現場を視察したエルドアン首相が、デモ参加者に反イスラエル的な中傷を投げつけたとされる動画も浮上し、同首相は新たな批判を受けている。

野党系新聞Sozcuが伝えた動画によると、デモ参加者から「首相、辞めろ」と罵声を浴びせられた同首相はある店舗に逃げ込んだ。その際、デモ参加者に「お前はどうして逃げるのだ。イスラエルのやからか」と叫ぶ同首相の声が聞こえる。この動画が本物なのか、AFPでは確認できていない。(後略)【5月17日 AFP】
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“反イスラエル的な中傷”云々については、上記記事では状況がよくわかりませんが、下記のようにも報じられています。

****トルコ首相、イスラエル中傷?=ネットに動画、炭鉱事故の抗議者に****
トルコ西部マニサ県ソマの炭鉱爆発事故で、エルドアン首相が14日、事故現場訪問後、詰め寄った抗議者に反イスラエル的な言葉を叫んだとみられる動画がインターネット上に掲載され、物議を醸している。AFP通信が16日、伝えた。

動画では、首相とみられる人物が抗議する男性の首をつかみ、トルコ語で「なぜ逃げる、イスラエルのガキ」とののしっている。2010年のガザ支援船拿捕(だほ)事件で関係が悪化したトルコとイスラエルは、近く和解で合意する見通しだが、動画は少なからず影響を与えそうだ。【5月17日 時事】 
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統一地方選で底力を見せた与党 大統領選挙は?】
救出活動さなかでの「炭鉱に事故はつきもの」という発言、「イスラエルのガキ」という罵り・・・まあ、強気で有名な、また、反イスラエル姿勢が強いエルドアン首相らしい発言ではあります。

トルコでは3月30日、統一地方選の投開票があり、エルドアン首相率いるイスラム系与党・公正発展党(AKP)が2009年の前回選挙の得票率39%を上回る43%(開票率95%)を獲得して勝利しました。

昨年5月以降の大規模反政権デモや閣僚の収賄疑惑、更には保守派内部での抗争などで混乱が続くエルドアン政権への信任投票とも位置づけられていましたが、“3期連続の単独政権を維持するAKPが底力を見せた”【3月31日 毎日】結果となりました。

今回の炭鉱事故に関する反政府デモについても、おそらくはもともとエルドアン首相に批判的だった労働者や大都市住民によるもので、それ以上の批判の拡大を示すものではないでしょう。

“大統領選で勝利するという見方もあったレジェプ・タイップ・エルドアン首相は苦境に追い込まれている”というのは、少し言い過ぎの感があります。

イスラエルにしても、エルドアン首相の性格や反イスラエル姿勢は承知のうえで、現実的観点から関係改善を模索していますので、今回のことで多少の批判はあっても、大筋には影響しないのではないでしょうか。

ただ、かねてより強引とも傲慢とも言えるような姿勢に批判があったエルドアン首相ですが、あらためて指導者としての資質に疑問を感じさせる出来事ではありました。

かつて、イスラム民主主義のモデルケースとも言われたトルコ・エルドアン政権ですが、その輝きは次第に褪せてきています。
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インド  人民党単独過半数 新首相になるモディ氏への期待と不安

2014-05-17 21:51:06 | 南アジア(インド)

(支援者から巨大な花輪をかけられて祝福されるモディ氏=インド西部グジャラート州アーメダバードで16日、AP 【5月17日 毎日】)

【「モディ政権になればもっといい生活ができると信じている」】
有権者が8億人を超え、世界最大の選挙と言われるインドの総選挙は、1か月余りにわたって行われてきた投票を12日に終え、16日に開票された結果、首相候補モディ氏を擁する最大野党・インド人民党が勝利し、10年ぶりの政権交代を実現しました。

人民党の勝利は予想はされていましたが、選挙が始まる前は難しいとも言われていた単独過半数を確保する地滑り的勝利で、一方、与党・国民会議派は5分の1程度に議席を減らすという記録的大敗でした。
日本での先の総選挙において、国民の失望をかった民主党の惨敗にも似ています。

****インド:人民党が単独過半数確保 モディ氏が勝利宣言****
インド総選挙(改選数543議席)は17日朝も開票が続き、最大野党・インド人民党が単独過半数を獲得した。

首相就任が確実視される西部グジャラート州首相、ナレンドラ・モディ氏(63)は演説で「12億人の国民の夢をかなえるためインドを前進させる」と勝利を宣言し、経済発展に尽力する考えを表明した。

選管によると、人民党は少なくとも278議席(前回獲得議席116)を獲得し、国民会議派以外の政党として初めて単独過半数に達した。
会議派は44議席(同206)にとどまるとみられる。開票作業は17日中に終了する見通し。(中略)

首都ニューデリーの人民党の党本部では16日から勝利を祝う人でにぎわった。果物売りのチャンダ・デビさん(44)は「1日200ルピー(約340円)しか稼げないが、モディ政権になればもっといい生活ができると信じている」と期待を寄せた。

一方、イスラム教徒のジャン・ムハンマドさん(41)はヒンズー至上主義を掲げるモディ氏の勝利について「今後、国内のヒンズー過激派が活動を活発化させるのではないか」と懸念を語った。【5月17日 毎日】
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なお、昨年末に旗揚げされた腐敗一掃を掲げるケジワル氏率いる新党・一般人党は4議席でした。
“昨年12月のデリー首都圏議会選で第2党に躍進し、ケジリワル氏は同首相に就いたが、汚職捜査強化の法案が他党の反対で上程できず、わずか49日で辞任した。これが響いた。”【5月17日 朝日】

人民党・モディ氏の人気は、州首相を務めるグジャラート州で、“インドで唯一停電のない州”と言われるようなインフラ整備を行い、日本などの外国企業を積極的に誘致し、高い経済成長を実現した経済手腕への期待によるものと見られています。

中国と並んで新興国の代表格であったインドは、最近5%程度の成長率に鈍化しており、物価も上昇、生活苦に喘ぐ有権者の支持を幅広く集めました。

一方で、これまでもブログで何回も取り上げたように、そのヒンズー至上主義的な強硬姿勢を不安視する見方もあります。

このあたりも、経済回復への取り組みが期待・評価される一方で、その政治姿勢を懸念する向きもある安倍首相にも似ています。

ついでに言えば、“12年末に安倍の首相再登板が決まった際、最初に祝福の意を伝えた海外要人の1人が、一介の州首相にすぎないモディだった”【4月18日 Nwesweek】というように、経済手腕が期待され、政治的には民族主義者でタカ派の保守主義者の両氏は、馬が合う関係でもあるようです。

****モディ氏、実績浸透 インド政権交代へ 下位層も支持、変化に期待****
インド総選挙で、野党インド人民党(BJP)が勝利した。10年ぶりの政権返り咲きを導いたのは、首相候補ナレンドラ・モディ氏(63)。

西部グジャラート州首相として経済を成長させた実績で支持を集めた。一方、ヒンドゥー至上主義者としての横顔が、少数派や近隣国の不安を誘う。

「インドに新しい時代が来た。この勝利は、モディ氏の人気と能力のたまものだ」。16日午後、ニューデリーで会見したBJPのシン総裁は胸を張った。

全土の投票率は前回を6ポイント上回る過去最高の66・38%。増えた票の多くがBJP支持に流れたとみられる。ネール大学のグルプリート・マハジャン教授(政治学)は「発展と変化をもたらすシンボルとみられたモディ氏が、社会階層の上から下まで支持を集めた」とみる。

中部のナグプール市。この選挙区でBJPのニティ・ガドカリ氏(56)が当選した。BJPとして18年ぶりの勝利になる。

ナグプールには、BJPを支持するヒンドゥー至上主義団体でモディ氏の出身母体の「民族義勇団(RSS)」の本部がある。だが、選挙で国民会議派に敗戦を重ねてきた。ヒンドゥー教徒の上位カーストや商工業者以外に支持を広げられなかったからだ。

そんな選挙区事情に今回、異変が起きた。
市南西部シブナガル地区の住民らは今回、BJPへの投票を全会一致で決めた。これまで会議派に入れてきたが、水道すら引かれない環境が変わらないことが不満だったという。

有権者350人の大半は下層カーストに属し、日雇い労働が生計の糧。学生のサガール・ビセンさん(21)は「モディが首相になればここも発展する。モディ・ウエーブがスパークしているよ」。

不可触民と呼ばれた最下層カーストも有権者の2割前後を占めるとされる。多くは差別を逃れるため仏教に改宗。ヒンドゥー至上主義はほかの宗教を排除する色彩が強く、会議派の強固な支持基盤となってきた。
それが、仏教徒地区でも初めてBJPに投票したという声が聞かれた。

 ■のぞく排外主義 国内外に懸念
「この国に発展を届ける」。モディ氏は選挙戦を通じて、政権を握れば、まず、経済復活に力を注ぐ姿勢を示してきた。州首相として、インドで例のない「停電のない州」を実現。企業誘致を進めた経験を生かし、強い指導力で経済改革を進める意向だ。

だが、各州の権限が大きいインドで、州政府や地域政党の同意を得るのは簡単ではない。
経済改革がうまくいかないときに、どう出るか。マハジャン教授は「(求心力を保つため)排外的な姿勢を打ち出す懸念は否定できない」と話す。

BJPの公約には、北部アヨディヤでのヒンドゥー教寺院建設といった排外的な政策も並ぶ。1992年にヒンドゥー至上主義者らが、建設予定地にあったモスク(イスラム教礼拝所)を壊し、各地の宗教暴動のきっかけとなった。

対立の火だねは今もくすぶる。北部ムザファルナガル県では昨年9月、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒間の暴動で、50人以上が死亡した。イスラム教徒の集落が焼き打ちにあった。
「今も怖くて家に戻れない」。ズヘイル・アフマドさん(56)は県内の避難キャンプで嘆いた。暮らしていた集落は廃虚と化し、モスクも壊されていた。

排外主義の矛先は、国外に向く懸念もある。
「バングラデシュの不法移民は全員送り返す」「インド兵が前線で殺されている時にパキスタン首相にビリヤニ(炊き込み飯)は出さない」。モディ氏は遊説で隣国批判を繰り返した。【5月17日 朝日】
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国内イスラム教徒の間でもモディ氏の経済手腕に期待する向きもあることは、5月10日ブログ「インド総選挙  宗教対立など、いろんな問題は抱えつつも、待たれる16日の開票結果」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140510)でも取り上げました。

アメリカ、パキスタンもとりあえずは受け入れ姿勢
対イスラム教徒暴動への関与から、これまでモディ氏へのビザ発給を拒否してきたアメリカも、インド首相ともなるとそうも言っていられませんので、容認姿勢に転じています。

****米大統領:インド選挙でモディ氏に祝意、ワシントンに招待****
オバマ米大統領は16日、インド下院選挙で圧勝した人民党の次期首相候補ナレンドラ・モディ氏に電話で祝意を伝え、ワシントンに招待した。

米国は、2002年にモディ氏が州政府首相を務める西部グジャラート州で起きた暴動事件を理由に05年以降、モディ氏へのビザ(査証)発給を拒否してきたが、入国拒否を解除することになる。

グジャラート暴動事件では、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。ヒンズー至上主義者のモディ氏は、州政府首相の立場にありながら、警察を出さず、虐殺を許したと批判されてきた。

ホワイトハウスの発表によると、オバマ氏は電話で「米印の戦略的関係の強化」のためモディ氏と連携する意向を強調した。中国の台頭をにらみ、地域の大国で民主主義国でもあるインドを引き寄せたい意向と見られる。

モディ氏は9月下旬の国連総会に出席するため訪米した際にオバマ大統領と会う可能性がある。【5月17日 毎日】
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“背景には、高い経済発展が期待されるインドと関係を強めたい思いがある。さらに、中国が軍事的な力を強めるなか、「アジアの力の均衡のため、米国はインドが必要」(ロイター通信)との事情もある”【5月17日 朝日】

また、宿敵であるイスラム教国パキスタンのシャリフ首相も、とりあえずは祝意を表しています。

****パキスタンも祝意=インド総選挙****
パキスタンのシャリフ首相は16日、隣国インドの総選挙結果を受け、野党インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ氏に電話で祝意を伝えた。パキスタン首相府が明らかにした。

ヒンズー至上主義のBJPが政権を獲得すれば、両国関係は悪化する恐れが指摘されてきた。シャリフ首相は電話で「素晴らしい勝利だ」と伝え、新政権と関係改善を図りたいパキスタンの姿勢を示した格好だ。【5月17日 時事】 
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シャリフ首相はイスラム主義的な傾向もありますが、それ以上に現実主義でもありますので、対インド関係安定を重視した結果でもあります。

ただ、パキスタン国内にはイスラムに強硬な姿勢をとりがちな人民党政権・モディ氏への警戒感も根強くあります。

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一方、BJP政権が再び誕生することを、パキスタンのメディアは「インドは右傾化した」などと警戒感を持って報じている。

パキスタンではBJPに対して、反イスラム的なイメージを重ね合わせる見方が多い。パキスタンに先立つ核実験(98年)など、前回の政権時の強硬な姿勢も記憶として残っている。

ただし、パキスタンのシャリフ首相はインドとの関係改善を掲げており、次期政権にも対話を呼びかけるとみられる。16日午後にはモディ氏に電話し、祝意を伝えた。

一方で、政治的発言力の強い軍部には、インドとの関係改善に拒否感がある。軍部を率いるラヒル・シャリフ陸軍参謀長は4月末、インドとの係争地カシミールについて「侵略に対応する準備はいつでもできている」と、インドを牽制(けんせい)した。【5月17日 朝日】
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選挙戦では強硬な発言があっても、実際に政権を担当すれば現実的になる・・・というのもよくあることですので、人民党・モディ氏の、国内外の安定を重視した現実的な施策が期待されます。
安定なくしては、国民が期待する経済面での成果も実現できません。

ただ、前出朝日記事にもあるように、看板の経済政策がうまく進まないとき、対イスラム強硬姿勢で支持基盤へアピールする・・・ということも懸念されます。

【“王朝”の凋落
国民会議派は“負け方”次第では連立工作に持ち込んで・・・という話もありましたが、記録的大敗に終わりました。
国民会議派を率いるネール・ガンジー家は・・・・。

****インド総選挙 最大与党惨敗、ネール・ガンジー家の凋落****
インドの総選挙で最大与党、国民会議派は惨敗を喫した。会議派を支える名門「ネール・ガンジー家」の御曹司、ラフル・ガンジー氏(43)は、選挙の責任者として各地で遊説したが、厳しい結果は“王朝”の凋落(ちょうらく)を印象付けた。

「私が責任を取る」大勢が判明すると、国民会議派の副総裁ラフル氏は短く、支持者に苦笑いした。こうした場での笑みは有権者の不信を招きかねない。
総裁で母親のソニア・ガンジー氏がすぐさま、硬い表情で「総裁として責任を取る」と続けた。

母子はいずれも議席を確保したが、国民会議派は現有約200議席から大きく後退し、クルシード外相、シンデ内相ら現職閣僚の落選の報が次々に入った。

英領からの独立後、ネール・ガンジー家は、ネール、長女のインディラ・ガンジー、その長男、ラジブ・ガンジーと首相を輩出してきた。インディラ、ラジブ両氏はそれぞれ、新生インドの発展の過程で暗殺された。ソニア氏はラジブ氏の妻、ラフル氏は長男だ。

ラフル氏は、国民会議派政権のシン首相から「次の首相に」と言われてきたが、前向きな態度を示してこなかった。1月の国民会議派の幹部会合では、ラフル氏を首相候補に据えて戦うことが提案されたが、ソニア氏が拒否。劣勢が色濃い総選挙で、息子に責任を負わせたくないという親心だと揶揄(やゆ)する声も上がった。
牽引(けんいん)力の弱いラフル氏に代わり、妹のプリヤンカ氏に期待する声もある。【5月17日 産経】
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妹のプリヤンカ氏の政治資質についても、前回5月10日ブログで取り上げたとおりです。
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タイ  首相失職後も更に混迷の度を深めるタイ政治

2014-05-16 22:49:47 | 東南アジア

(反政府デモ隊 5月15日 バンコク 【5月15日 WSJ】)

司法クーデター
タイの政治混乱、その結果としてのインラック首相の失職については、5月8日ブログ「タイ インラック首相失職・弾劾で、長引く混乱 解決の糸口は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140508)で取り上げました。

下記記事は今回騒動を概説したものですが、首相失職を反タクシン派による“司法クーデター”と明確に断罪しています。

****タイ首相のクビを切った司法クーデターの行方****
インラック首相突然の失職で分かった軍部や裁判所、王政派など本物の実力者たち

この数力月、あの手この手で自分を首相の座から引きずり降ろそうとする勢力をかわしてきたタイのインラック首相だが、ついに屈することになった。46歳の温厚な彼女は、もう首相ではない。先週、憲法裁判所により「倫理を欠いた」行為があったとして違憲判決を言い渡され失職した。 

インラックの倫理違反自体は極めて地味なものだ。3年前、インラックは国家警察本部長官を国家安全保障会議事務局長に起用し、警察本部長官の後任にはインラックの親族を就任させた。
憲法裁判所は、これを縁故主義による不正な人事であるとし、選挙で選ばれた首相失職の正当な理由になり得るという判断を下した。

インラック陣営は、この裁判は司法クーデター以外の何物でもないと反論している。

今のタイでは、選挙で選ばれた首相や政党そのものを裁判所があっけないほど容易に追放し解散を命じられる。
32年の立憲制定以降、82年間に18回ものクーデターを実行した悪名高いタイの軍部が最後にクーデターを起こしたのは06年。

その軍が統治下で憲法を改正し、微罪でも裁判所が政治家を追放できるようにした。 
軍と蜜月関係にある裁判所は、この権力を積極的に行使し、これで3人の首相が裁判で失職に追い込まれた。

そのうちの1人で、テレビ番組でタイ料理を作りながら政治についてぼやいたサマックは、報酬を伴うテレビ出演が憲法で禁じられた「首相の兼業」に当たると見なされ、その座を追われた。

狙われるタクシン派首相 
失職した首相には共通点がある。皆、タクシン元首相に忠実だったことだ。

タクシンはインラックの実兄で、地方の労働者階級や農村の支援を受ける政治的なネットワークで影響力を持っている。このネットワークは00年代以降、すべての主要な選挙で支援する候補者を勝利に導き、タイを支配してきた王室や軍などの守旧派に揺さぶりをかけてきた。

インラックを悩ませてきたのは、裁判所だけではない。この数力月、王政主義のデモ隊は彼女を拉致すると脅迫し、民主政府の代わりに人民評議会の設立を要求してきた。

裁判所にも公然と認められているこの反政府勢力は、インラックが所属するタイ貢献党が勝利すると目されていた2月の選挙では投票を妨害。当選者が確定しない事態を引き起こし、インラックを追放するよう裁判官たちをけしかけてきた。

一方タイ北部では、裁判所と軍に選挙結果をねじ曲げられることに反発した勢力が「赤シャツ隊」を結成。クーデターを未然に阻止するのが彼らの狙いだ。

だが、リーダーの1人は、今回のインラックヘの「不当判決」で赤シャツ隊が反クーデターを叫んで戦うことはないだろうと話す。今回の判決でインラックと9人の閣僚は失職したが、選挙で選ばれた与党自体は解散していないからだ。

だがその存在感も風前のともしびだ。

タイ貢献党は、昨年12月の下院解散後、次回の総選挙までの「暫定政府」にとどまっている。
タイ貢献党が巻き返すと見られていた2月の選挙は実質的に無効となり、次に行われるのは7月の予定だ。それまでは、ニワットタムロン副首相兼商業相が首相代行を務めるしかない。

次回選挙でインラックが勝利すれば、再び政権の座に返り咲くことができるかもしれない。
だが、選挙で選ばれた指導者を軍や裁判所が意のままに辞任に追い込むねじれた民主主義は、簡単に治りそうもない。【5月20日号 Newsweek日本版】
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個人的にも、ほぼ同意見です。

タクシン元首相の政治にいろいろな問題(金権バラマキとか強権支配とか)があったことは事実ですし、その妹であるインラック首相についても、タイ政治に多くみられる縁故主義の悪習から脱せず、弾劾理由となっているコメ担保融資制度も政治的に見て問題の多い施策だったことは事実でしょう。

しかし、だからと言って、選挙を否定し、実際にこれを妨害して政治混乱を作り、“司法クーデター”的な手法で首相を失職に追い込む反政府派・反タクシン派のやり方は、民主主義の根幹を揺るがすもので容認できません。

選挙では勝てないから、タクシン派を支持している“教養もなく、容易にカネで買収される”貧困層には政治は任せられないから・・・ということで選挙を否定しては、民主主義は成り立ちません。

“司法クーデター”についても、サマック元首相(必ずしもタクシン元首相に忠実な政治家ではなく、タクシン派によって担がれた存在でしたが)の件などは暴挙としか言いようのないものでした。
そして、またインラック首相です。

危ぶまれるやり直し総選挙
インラック首相失職後、タイ政治はいよいよ混迷の度を深めています。

****タイ反政府デモ隊、首相府で“執務”開始****
タイの反政府デモ隊「人民民主改革委員会(PDRC)」を主導するステープ元副首相は13日、占拠している首都バンコクの首相府で側近らと会議を開き、政権奪取へ向けた対応を協議した。

これまでも首相府に立ち入っていたが、施設内で会議を行うのは政治混乱が起きて以降では初めて。
メディアに会議の様子を公開するなど事実上の“庁舎乗っ取り”で、情勢は泥沼化の様相を強めている。

PDRCは12日、活動の主要拠点をバンコク中心部の公園から首相府周辺に移動。13日にはデモ参加者が首相府周辺を埋め尽くし、テントの設営などが進められていた。

首相府の敷地内では、PDRCと書かれた青いシャツを着た男性が警備に当たり、「3日前にも手投げ弾で攻撃された」として警戒を強めていた。

首相府は、昨年12月から反政府デモの学生らが取り囲み、インラック政権が使用を断念。その後、警察や軍が管理してきたが、インラック氏が首相失職した今月7日以降、「衝突回避」などを名目に、警察がPDRC側に開放したという。

ステープ氏は、首相選出の権限を持つ下院が昨年末の解散以降、不在となっているため、インラック氏の後継となる「暫定首相」の指名を上院などに要請しているが、憲法違反との指摘があり、実現は困難との見方が強い。

ステープ氏はこれまで、12日までに暫定首相を選出できなければ「われわれが任務を果たす」と表明していた。【5月13日 msn産経】
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反政府派の選挙妨害で2月の総選挙が無効となったため下院は解散状態ですので、現時点においては議会は上院しかありません。

各県から国民の選挙によって選出される議員によって構成される上院は、憲法によれば首相を下院に推薦することができますが、首相を選出するのは下院です。

ステープ氏らの反政府派の「暫定首相」指名の要求は、これを無視したものですが、上院では反タクシン勢力が強いという事情から、その対応が注目されていました。

****暫定首相指名を拒否 タイ上院、反政府側の要求に****
政治の混乱が続くタイの上院は14日、反政府デモ隊「人民民主改革委員会(PDRC)」から求められていた「暫定首相」指名について、「聞き入れることはできない」として、拒否する決定を下した。次期上院議長に就任予定のスラチャイ副議長が発表した。

PDRCを主導するステープ元副首相は、下院不在の中でのインラック氏の首相失職を受け、上院議長に「暫定首相」を指名するよう要求。タクシン元首相派の一掃に向けた新政権の早期樹立を図った。

スラチャイ氏は、12日に国会でステープ氏と面会後、上院で3日間連続の緊急非公式会合を開いたが、「上院は特定の個人を満足させることはできない」として要求を退けた。

スラチャイ氏は反タクシン派の支持で上院議長に指名されたが、暫定首相を指名すれば憲法違反に問われる可能性があった。【5月15日 msn産経】
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与党タイ貢献党は14日、ステープ氏の国会入場を許して会談した上院議長代行らの行為は暫定政権樹立を目指す共謀であり、「国家反逆行為」にあたるとし、法務省特別捜査局に刑事告発していました。

今後の焦点は、7月20日に予定されているやり直し総選挙が実施できるかどうかにあります。
与党・政権側は、やり直し選挙で再度勝利し、態勢を立て直したいとしていますが、反政府派は選挙実施を認めていません。

****デモ隊乱入、協議中止=タイ首相代行と選管****
政情の混迷が続くタイのニワットタムロン首相代行は15日、首都バンコクの空軍施設で、やり直し総選挙をめぐって選挙管理委員会と協議した。

しかし、総選挙に反対するステープ元副首相率いる反政府デモ隊が施設の敷地内に乱入、協議は途中で打ち切られた。

総選挙の実施を主張する政府側はこの日の協議で選管と投票日などについて話し合う予定だった。
これに対し、「総選挙前の改革」を要求する反政府デモ隊約1500人(治安当局推計)が会場前に集結。政府側は「安全上の理由」で協議の中止を決めた。

デモ隊と共に空軍施設の敷地内に入ったステープ氏は協議中止後、記者団に対し、「互いに協力して解決策を見つけることができるか確認するため、ニワットタムロン氏と会談したいと思い、ここに来た」と述べた。

協議中止を受けて政府の治安対策本部は「違法に侵入した」などとデモ隊を非難する声明を発表した。【5月15日 時事】
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軍部:「武力を使って治安を回復する必要が生じるかも知れない」】
やりたい放題の感がありますが、事態は更に混乱しています。

****タイ総選挙実施「きわめて困難」…選管委員長****
タイ選挙管理委員会のスパチャイ委員長は15日、政府が目指す7月20日の総選挙(下院選)実施についてニワットタムロン首相代行らと協議し、政治危機で死傷者の出る騒ぎも続いている現状では、「きわめて困難だ」との見解を示した。

ニワットタムロン氏は協議の冒頭で、選挙の早期実施を訴えた。だが、選管委員長が慎重な姿勢を示したことで、選挙実施がさらに大幅に遅れる可能性も排除できなくなった。

協議は、会場の空軍施設にステープ元副首相率いる反政府デモ隊が押しかけたため、警備にあたる軍側の指示で途中で打ち切られたという。

バンコクでは15日未明、反政府デモ隊拠点に何者かが手投げ弾や銃撃による攻撃を加え、救急医療当局によると、少なくとも3人が死亡、21人が負傷した。昨年から続くデモに関連した死者は28人となった。【5月15日 読売】
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反政府デモ隊拠点への攻撃は、タクシン派によるものとも考えられますし、あるいは、混乱を演出して軍を引っ張り出そうとする反政府派の自作自演という線もあり得ます。
現状は“何でもあり”の状態です。

この混乱状態に、これまで表に出ることを避けていた軍が、出動も辞さない姿勢を表明しています。

****タイ陸軍、出動を示唆 デモ拠点爆発、3人死亡****
タイのプラユット陸軍司令官は15日、声明を発表し、政治対立に伴う暴力がこれ以上拡大するようであれば「部隊を出動させて武力を使って治安を回復する必要が生じるかも知れない」と警告した。昨年11月に反政府デモが激化して以来、陸軍が武力使用に言及したのは初めて。

陸軍系のテレビで副報道官が声明を読み上げた。司令官はそのなかで、この日未明に起きた反政府派のデモ拠点への爆弾撃ち込み事件に触れ、市民が犠牲になるようならば「断固たる対応をしなければならない」と暴力の拡大を強く戒めた。この爆発事件では3人が死亡、22人が負傷した。

インラック首相の失職後、タクシン元首相派(赤シャツ)もバンコク郊外でデモ集会を開始し、両派間の緊張が高まっている。16日は上院が政治危機打開案の発表期限とされており、内容によってはどちらかの陣営がデモを激化させる懸念がある。こうした状況も考慮したとみられる。

陸軍はこれまで、軍の介入を求める反政府派の声に応じず、どちらにも肩入れしない立場を守っている。

反政府派からは「軍は何もしない」との批判の声が出ていた。声明にはこの状況にも触れ、「陸軍の名誉を傷つけることは許さない」と警告した。

タイの権力の中核にある軍上層部は、一般に反タクシン色が濃いとされ、反政府派は軍を後ろ盾とみている。
しかし今回の声明は、反政府派も強く牽制(けんせい)したと受け止められている。【5月16日 朝日】
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なんだか“グジャグジャ”といった感じの状況ですが、タクシン元首相も言及しているようにタクシン一族が政治から身を引く形で、すみやかにやり直し総選挙を実施するというのが、まっとうな方策でしょう。

ただ、反政府派が選挙を拒否していますので、まっとうな方策がとれないのがタイの現実です。
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中国・習近平政権の今後のベトナム対応を左右する、権力内部での力学と国内ネット世論の動向

2014-05-15 22:25:09 | 中国

(ベトナム国内の反中デモ 【5月14日 ブルームバーグ】http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N5JU376JIJVP01.html

ベトナム国内の反中デモが暴徒化
中国が西沙(英語名・パラセル)諸島で石油採掘に着手したことに端を発し、海上での中国・ベトナム双方の艦船のにらみ合い・衝突で緊張が高まっていましたが、ベトナム国内の反中デモが一部暴徒化する形で、事態は更に深刻化しています。

****反中抗議で600人拘束=工場操業停止、日本人学校は休校―ベトナム南部****
中国による南シナ海での石油掘削への抗議デモが激化しているベトナムで、警察当局は14日、南部ホーチミン市、ビンズオン、ドンナイ両省で、中国系工場に対する略奪や放火を行った暴徒約600人を拘束した。

ベトナム国営メディアが伝えた。ビンズオン省では日系を含むほぼ全ての工場が操業を停止。ホーチミン日本人学校は、児童・生徒の安全のため、14日午後と15日を休校にした。

現地からの報道によると、数百人ずつのグループが各地の中国系工場に対し起こした計数千人規模のデモは、13日から激化。パソコンなどの略奪行為や、少なくとも15件の放火が報告された。

ホーチミン日本商工会が14日開いた定例理事会では、日系企業でも窓ガラスを割られたり、エアコンの室外機を壊されたりする被害が約10件確認された。

ハノイの日本大使館は14日、ベトナム当局に在留邦人と日系企業の安全確保を求める一方、日本人にデモに近づかないよう呼び掛けた。【5月15日 時事】 
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デモが基本的には規制されているベトナムあっては異常な事態です。
“ベトナム各地で起きた中国に抗議する一連のデモで、暴徒化した参加者が工場を放火するなどして、現地で働く中国人合わせて2人が死亡しました。”【5月15日 NHK】と、中国人に死者も出ています。

なお、“ロイター通信は15日、中部ハティン省で14日夜にデモ隊が暴徒化し、ベトナム人5人と中国人とみられる16人の計21人が死亡したと伝えた。”【5月15日 毎日】との報道もあります。事実なら大変なことです。
病院関係者の話ということですが、“ただ、地元メディアは死者1人と伝えている”【5月15日 ロイター】とも。

ベトナム当局は、暴力行為は問題を複雑化させるだけだと、市民に自制を促しています。
当然ながら、中国は抗議しています。

****ベトナムが黙認」と批判=デモ暴徒化、賠償も要求―中国****
中国外務省の華春瑩・副報道局長は15日の記者会見で、ベトナムでの反中デモの暴徒化について「ベトナム当局が反中勢力や不法分子を甘やかし、黙認したことと直接的な関係がある」と述べ、ベトナム側がデモにきちんとした対応を取らなかったと批判した。その上でベトナム政府に対し、暴徒らの取り調べを徹底し、損失を補償するよう求めた。【5月15日 時事】 
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関係改善を一変させた中国側の挑発行為 なぜ?】
南シナ海における中国の無神経な強硬姿勢の結果・・・・と言えってしまえばそれまでですが、一連の混乱は最近の中国・ベトナムの関係改善を示していた動きからすれば、まさに事態が急変した感があります。

****中国とベトナムの衝突、観測筋が首ひねるタイミング****
昨年10月、李克強氏が中国首相として初めてベトナムを訪問した時、この訪問は、南シナ海を巡って緊張が高まる中で近隣の東南アジア諸国との関係改善を図る中国政府の大きな取り組みの一環と見なされた。

李首相は当時ハノイで、中国とベトナムは共同海洋開発について協議するグループを創設すると述べた。
南シナ海に関する中国政府の研究機関「中国南海研究院」の呉士存院長は、両国は「南シナ海の危機を共同で管理することで合意に達し、海上摩擦を和らげるようになる」と述べた。

中国側の「挑発」で関係改善の流れが一転、南シナ海でにらみ合いに
だが、それから6カ月経った今、中国政府がパラセル(西沙)諸島近くの係争海域に油田掘削装置を設置したことから、両国関係は再び暗礁に乗り上げた。

米国は中国側の行動を「挑発的」と評している。ベトナムは声高に抗議し、問題の海域に数十隻の艦船を派遣。現地で中国艦船と衝突した。

中国は多くの近隣諸国と領有権争いを繰り広げているが、専門家らは、最近の対ベトナム関係の改善を台無しにするような中国側の行為を理解するのに苦しんでいる。

オーストラリア国防大学のベトナム専門家、カール・セイヤー氏は、掘削装置の設置は「完全に予想外だった」と語る。(中略)

過去1年間で、中国と日本、そして中国とフィリピンの緊張関係が高まったが、ベトナムは中国政府を怒らせるような行動はほとんど取ってこなかった。

「ベトナムがやったことで、今回の中国の行動を引き起こすようなことは何も思いつかない」とセイヤー氏は言う。「これは改善傾向にあった関係を後退させる行為だ」

米国の強硬姿勢に反発? ベトナムの反応を読み違えた? 
(中略)彼らによると、米国のバラク・オバマ大統領は最近アジアを歴訪した際、中国との領有権問題を抱える国々への支援を申し出たが、最も力強い言葉と行動は、ベトナムではなく日本とフィリピンへの支援に向けられていた。

(中略)マサチューセッツ工科大学(MIT)の中国専門家、テイラー・フラベル氏は、中国とベトナムが最近、海上問題に関するワーキンググループの会合を開いたことを考えると、掘削装置設置はとりわけ不思議だと述べている。

(中略)「もしかしたら中国側は誤って、パラセル諸島の近くでの油田掘削は激しい反応を引き出さない、ベトナムは中国との関係改善を危険にさらしたくはないだろう、と考えたのかもしれない」(後略)【5月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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相手の出方を読み間違える。
国内で民族感情が刺激され、政府は後に引けなくなり、対立は更にエスカレートする。
暴徒化など不測の事態が起き、危機が拡大する。

こうしたことは、多くの紛争・戦争で見られることです。

微妙な軍部との関係 新たな権力闘争
東シナ海上空での防空識別圏(AIDZ)設定のときも、なぜ中国がこんな措置を?政権内部で意思統一されているのか?と訝る声がありましたが、中国の政権内部の意思決定は外からはうかがい知れぬものがあります。

国内で「弱腰外交」の批判を浴びている・・・と言えば、シリアやイラン対応でのアメリカ・オバマ政権のことかと思いますが、中国の習近平指導部も軍部からは対米「弱腰外交」の批判を受けているそうです。

****軍強硬派と 習近平の「不穏」な政局****
対米「弱腰外交」で深まる確執
中国軍の太平洋進出に譲歩の姿勢を見せてきた米国のオバマ大統領が反転に出始めたようだ。ついに「台湾関係法」という伝家の宝刀の柄に手をかけたのだ。

東シナ海に防空識別圏を設定し、西太平洋から米第七艦隊を追い出すという「中国の夢」に酔っていた中国軍首脳は、オバマの変心に激怒した。

だが、中国軍の怒りはオバマだけでなく、その交渉相手である習近平国家主席にも向かっている。軍の統制に不安四月、中国では異様な動きが続いた。習近平が党中央軍事委員会主席の立場で、大軍区司令官クラスの将軍十八人に「忠誠表明」を書かせ、それを軍の機関紙「解放軍報」に公開した。

半月後、同じく副司令官クラスの将軍十七人にも同じく忠誠表明を求めた。最高司令官が直属の司令官たちから反乱しませんという誓約書を集めたのだ。軍の統制に不安がある何よりの証拠だ。

さらに習近平は昨年末に新設した治安維持組織「党中央国家安全委員会」の初会合を四月十五日に開き、「中国は最も複雑な歴史の時代にいる」と演説した。国内の治安状況に強い危機感があるのだ。

そうした中、問題は米中関係である。オバマ・習近平の米中首脳会談は三月下旬、オランダのハーグで開かれた。
オバマは習近平と会う前に、日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵大統領の間に立って、アジア版米ミサイル防衛(MD)網の協力体制を固めた。

一方、習近平は反日協力を朴槿恵にささやいて、韓国を日米韓の輪から離間させようと試みてきたが、それが頓挫した格好だけに、オバマとの会談では「衝突せず、対抗せず」と主張し、「危機のコントロール」を申し出るしかなかった。

危機のコントロールが議題に浮上したのは、米中関係は軍事衝突が起こりうる危機的なレベルに達したからにほかならない。しかもコントロールのメカニズムはこれからの課題である。

昨年六月の米中首脳会談で習近平がオバマに「新型大国関係」を提案した際は、台湾統一を米国に認めさせるという期待があった。
中東から撤退する米軍にはアジア・リバランスはできないと見くびっていた中国軍にとっては見通しが外れたわけで、その不満は習近平の「弱腰外交」に向かっている。

(中略)しかし、習近平が軍司令官に忠誠書を書かせた背景は、米国に対する結束を図るためだけではなく、もっと切実な理由がある。

習近平の汚職摘発運動「トラ退治ハエ叩き」が軍にも及び、軍首脳に動揺が広がっているからだ。最初の忠誠表明の前日に、二年前に三千億円規模の巨額汚職容疑で逮捕された谷俊山中将が起訴された。

谷俊山が軍用地管理などを扱う総後勤部の副部長時代の事件だが、収賄額の大きさから、後見人といわれる徐才厚・前軍事委副主席の連座が焦点だ。
徐才厚は江沢民派軍人の筆頭として十年近く軍の人事を握っており、江沢民が軍内に影響力を持つためのキーマンにほかならない。

制服組トップの徐才厚にまで追及の手が伸びれば、連座する軍首脳は相当数にのぼる。軍首脳が政権に圧力をかけ、必死に外部の脅威に目を向けさせようとする理由はここにある。
習近平は軍事委のなかに軍人の汚職の実態調査をする「巡視工作領導小組」を作り、組長に空軍司令官出身の許其亮・軍事委副主席を任命した。

解放軍主流の陸軍は徐才厚派で要所を固めている。
それに対し、習近平が空軍、海軍を足場に陸軍の利権構造を摘発した結果、空軍の発言力が強まり、「空天(航空戦略と宇宙戦略)一体化」論が叫ばれている。
そうした動きが陸軍をさらに動揺させている。

汚職摘発の次なる矛先は李鵬派
(中略)徐才厚とともに「トラ狩り」のターゲットになった周永康・前党政治局常務委員も長く取り調べが続いているがいまだ逮捕できていない。

累がわが身に及ぶことを恐れる党軍長老たちが「常務委員経験者は刑事罰に問われず」という慣例を盾に習王(習近平と党中央紀律検査委員会の王岐山書記)への圧力をかけているという。

「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」と威勢よく舞台に登場した習近平にとっては厳しい状況だ。対米外交で実績を出せず、「反腐敗運動」でも摘発されるのが小物ばかりだと、二〇一七年の次期党大会での総書記再任さえ危うい。

軍の異変と歩調を合わせたかのように、新たな権力闘争が始まっている。(中略)

周永康事件で江沢民の壁にはばまれた習王が、矛先を李鵬へ向けたとみられている。
胡錦濤がそれを支持し、江沢民も反腐敗の幕引きを条件に李鵬派の利権摘発を許すのではないかという観測が高まっている。

本来的に権力基盤が脆弱な習近平がこの間、まがりなりにも保っていた求心力の背景は、その対米強硬姿勢にこそあった。

その強硬路線の転換を余儀なくされた今、軍、保守派の圧力を肌で感じながら新たな敵を作り出さざるを得ない現状は極めて危うい。中国の政局は再び不穏な雲行きを見せつつある。【選択 5月号】
****************

将軍達に「忠誠表明」を書かせる・・・・なんだか戦国大名の起請文のような感じですが、それだけ不信感が強いということでしょうか。

軍部との関係、共産党内部での権力闘争の結果、外からは意外にも思えるような対応が飛び出してくるというが考えられます。

中国ネット世論に支持されたベトナムのアジア大会開催辞退
中国の政策決定に影響力を持つのは、こうした権力内部の力学だけでなく、世論の動向もあります。
共産党一党支配とは言え、ネット世論などには相当に気を使っているように思えます。だからこそ、未だに一党支配体制が継続できているのでしょう。

今回のベトナムとの衝突に関しては、中国国内のベトナム批判の声や抗議行動はあまり聞こえてきません。
(ネット上には、生意気なベトナムを叩き潰せ的なものは横行してはいるのでしょうが)
共産党によって誘導されたとも言われる反日抗議行動のときとは全く異なります。

****南シナ海で中越の緊張が高まるなか南京市民が示したベトナム支持の中身とは****
・・・・しかし、中国国内での話題はむしろもう一つのニュースの方に集中している。それはベトナム政府が先月中旬、2019年の第18回アジア大会の首都ハノイでの開催を辞退することを発表したことについてである。(中略)

アジア地域の国内オリンピック委員会(NOC)の集合組織であるアジアオリンピック評議会は12年の総会で、19年のハノイ開催を決定した。

これはベトナムにとってはアジア大会の初の開催となり、成長するベトナムをアジアないし世界にアピールする絶好の機会でもあるはずだった。

しかし、日本のメディアの報道によれば、グエン・タン・ズン首相は「大会招致の目的や意味に関して意見の一致がない上、開催費用や財源をめぐり意見の相違が大きい」と指摘したうえ、「世界的な経済低迷の影響でベトナムの経済状況は多くの困難に直面しており、国家予算は他の切迫した用途に集中すべきだ」とアジア大会開催の辞退を決意した。

このニュースは中国で意外な波紋を広げた。ちょうど、5月8日、北京で南京ユースオリンピックの100日カウントダウンに関する記者発表が行われた。

その席上で体育総局副局長の肖天氏は、ベトナム政府が辞退を発表した19年アジア競技大会の開催について中国は引き継ぐ意向があるか、と記者からの質問を受けた。(中略)

すると、ユースオリンピック組織委員会の執行主席であり中国共産党南京市委員会書記の楊衛沢氏が話を受け継ぎ、「南京は開催条件を備えており、アジア競技大会の開催も可能だ。もし必要とあらば、我々はアジア競技大会を引き受けたいと考えている」と述べた。

南京市党幹部の発言に批判の嵐
・・・・その発言は瞬く間に話題となり、南京市民だけではなく中国全土の不評を買い、ネット上では激しい反対の声が沸き起こった。

一番多いのは、市の党書記が独断で南京全体を代表し、軽々しく決定を行っていいのか、という非難だ。「ベトナムが開催を辞退したのはお金がないからだが、それを引き継ぐ南京はベトナムよりお金があるからか?」と痛烈に批判する声があちこちから出てくる。

確かにベトナムは財政難を理由に開催を辞退したが、彼らがまた「お金は最も必要なところにかける」とも言っていることが、中国国民、特に南京市民の心の琴線に触れ、大きな感銘を与えた。

しかも、多くの南京市民は取り壊しラッシュや建設ラッシュが続くことを恐れ、大金を費やして建設した体育館が大会後に不要となり、さらに無駄遣いとなることを恐れている。

ネットユーザーのなかでは、次のような批判の声が湧き上がった。
「ベトナムは国民の金を大事に使い、南京は指導幹部たちの見栄のために無駄遣いする」(中略)

中国とベトナムとの対立のなかで、アジア大会の開催については、開催を辞退したベトナムに中国国民が支持票を投じたと言えよう。逆に、民意を考えずに偉そうな発言をした南京市の党書記は不評を買ってしまった。【5月15日 DIAMOND online】
****************

ただ、こうしたネット世論は、ベトナム国内で中国人が殺害されるという事態で容易に激昂することも考えられます。

権力内部の力学、ネット世論の動向を踏まえて、習近平政権の次の一手が出てくるのでしょうが、どんな手になるかはわかりません。
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イラン核開発問題  最終合意に向けた包括交渉がスタート

2014-05-14 21:46:59 | イラン

(イラン核問題包括交渉の関係者 左から4人目がイラン・ザリーフ外相 【5月13日 Iran Japanese Radio】)

瀬戸際の国内経済 制裁解除を求めるイラン、譲歩案を提示
イランの核開発問題については、イランと米欧など6カ国は昨年11月、半年間の「第1段階の措置」(共同行動計画)で暫定合意していますが、計画の履行期限(7月20日)までの最終解決に向けて、今日14日からウィーンで4回目の包括交渉が始まりました。

****イラン核協議:4回目包括交渉 最終合意文書の起草作業に****
・・・「核開発の技術は交渉対象でない。核のアパルトヘイトは受け入れない」
イランのロウハニ大統領は11日、かつての南アフリカの人種隔離政策に例え、米欧などと同様に核開発の権利を認めるべきだと訴え、核開発の大幅な抑制を求める欧米側をけん制した。

一方、米国のライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は12日、ワシントンで開かれたイスラエル独立記念日の式典で「米国は言葉だけでは納得せず、イランの検証可能な行動で初めて納得する。納得しなければ合意はない」と述べた。

イスラエルは、イランの核兵器製造能力の消滅を求めており、ライス氏の発言は事実上の同盟関係にあるイスラエルに配慮したものだが、「核は平和利用のみ」と主張するイランに核開発抑制を迫った形だ。

核協議では、核兵器製造につながるウラン濃縮能力の制限を巡りイラン、米欧側に隔たりが残る。イランにある濃縮に使用可能な遠心分離機は約2万基。米国は数千基への縮小を要求している模様だ。

一方、イランのサレヒ原子力庁長官は今年4月、「原発の稼働に計5万基必要」と発言し、現有台数以上の遠心分離機の必要性を主張した。

ただ、協議は懸案事項で進展もあるようだ。一部イランメディアによると、核兵器製造が容易になるプルトニウムが大量に抽出されるイラン西部アラクの重水炉(建設中)を巡り、当初は「廃止」を主張していた米欧側は「設計変更で、抽出量を減らせる」とするイランの案に応じる形で、再設計案について協議しているという。【5月13日 毎日】
********************

核開発の権利を主張するイランと核兵器開発につながる核開発は認められないとする欧米側のせめぎあいのなかで、核兵器開発に直結するとして焦点となっている20%濃縮ウランの生産について、イラン側が無期限停止を提案する意向と報じられています。

****イラン、無期限停止提案へ 20%濃縮ウランの生産 6カ国と協議****
イランが14日に始まる米英独仏中ロ6カ国との核協議で、核兵器の原料となる20%濃縮ウランの生産の無期限停止を提案する意向であることが分かった。イラン政府関係者が明らかにした。

提案が実現すれば、原油の禁輸など国際的な対イラン制裁が解除される可能性がある。ただ6カ国はイランのミサイル計画も議題とするよう求めており、協議の行方は予断を許さない。

ウランは20%まで濃縮が進めば、核兵器級の90%以上の高濃縮ウランをつくる工程の9割は終わったも同然とされる。イランは強硬派アフマディネジャド前政権下の2010年、20%濃縮に着手。国際社会は核武装の意図を強く疑っていた。

政府関係者によると、20%濃縮ウランの生産停止を提案する一方、発電や医療用とされる5%以下の低濃縮ウランは生産を続けるという。ただ、保有量や生産ペースは6カ国や国際原子力機関(IAEA)の取り決めに従うと伝える。

さらに、ウラン濃縮に使う高性能の新型遠心分離器は数を削減。建設中のアラク重水炉は設計を変更し、核兵器の原料になるプルトニウムの抽出量を当初計画の5分の1にすることも提案する。

提案の見返りとして、国連安全保障理事会や米国などが05年以降に追加した制裁の解除を求める方針だ。

イランは歳入の7割を占める原油の輸出が制裁強化で激減。昨年8月に就任した穏健派のロハニ大統領は対外融和方針を打ち出した。

イランと6カ国は昨年11月、イランが核開発を縮小する見返りに、6カ国が制裁を一部緩める「第1段階の合意」を結んだが、これは7月20日までの暫定措置。双方は14日からウィーンで開かれる協議で最終合意案の起草を始める。

 ■イラン提案の骨子
 ・濃縮度20%ウランの生産を無期限停止
 ・5%以下のウランの保有量や生産ペースは6カ国とIAEAの取り決めに従う
 ・ウランを高速濃縮する新型遠心分離器の数を削減
 ・建設中の重水炉を設計変更し、プルトニウム抽出量を当初計画の5分の1に
 ・2005年以降の追加制裁のみ解除を要求
【5月14日 朝日】
*******************

イラン側にすれば、かなりの譲歩案と思えます。
その背景には、合意がなされず経済制裁が復活するような事態になると、疲弊してるイラン国内経済が更に悪化し、市民の不満が噴出しかねないイラン国内事情があるとされています。

****イラン、窮余の譲歩 インフレ・失業で内圧高まる 核開発縮小****
イランは14日から始まる核問題の協議に、核開発を大幅に縮小する方針で臨む。

昨年11月に米英独仏中ロの6カ国と「第1段階の合意」を結んで制裁緩和を引き出したが、効果は限定的で市民の不満は高まっている。

第1段階の合意の効力が続く期限が7月20日に迫り、最終合意に向けて道筋をつけようとする現実的な判断が背景にある。

 ■制裁の復活嫌う
第1段階の合意では、イランの原油収入のうち約42億ドル(約4300億円)分の資産凍結が解除され、自動車や石油化学分野の禁輸措置が一時停止。政府は今月、インフレ率が昨年の35%から今年は23%に改善すると発表。経済は上向くと強調する。

しかし、市民に実感は乏しい。食料品を中心に物価は高止まりする。失業率も改善の兆しがない。
4月には、生活必需品の価格を抑えていた補助金をカットした。国家予算の4分の1を占め、財政の圧迫に耐えられなくなったからだ。

ガソリンは1リットルあたり4千リアル(実勢レートで約12円)から7千リアルに。物流コストに影響し、あらゆる商品やサービスで値上がりが起きている。
市民の間には「何も変わらない」という失望感が広がりつつある。

状況の改善には、制裁で激減した原油輸出の再開しかない。ロハニ大統領は1月、イラン大統領として初めて世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に参加し、各国エネルギー大手の代表らと会談。
2月には原油の開発契約見直しの骨格を示した。西欧や日本の企業呼び込みに懸命だ。

最高指導者ハメネイ師も、政府の判断をイスラム指導体制の維持のためにやむなしと見ている模様で、核協議の交渉団を支持する発言を続ける。反米にこだわる一部強硬派は政府を批判するが、支持は広がらない。

米欧はイランに対し、ミサイル開発やシリア情勢への関与をめぐっても譲歩を迫るとみられ、今後も厳しい交渉が予想される。

ただ、イランにとっては、大幅な譲歩と言える提案をしてでも、最終合意ができないまま第1段階の合意の期限を迎え、米欧が制裁を元に戻す事態は避けたい。

14日にウィーンで始まる協議では、核問題の最終的な解決を目指す最終合意案の起草が始まる。イラン政府関係者は「今回、我々の提案が認められれば、7月には最終合意を結べるだろう」とみている。【5月14日 朝日】
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イランのザリーフ外相は13日夜にEUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表と会談した後、核の権利からは一歩たりとも引かないと強調しながらも、「我々は核兵器の製造を一切追求しておらず、この兵器はイランの安全保障にとって有効ではないと考えている」、「イラン政府が政治的に強く願っていることは、この問題を解決し、それを前に進めることだ」と最終合意への期待を語っています。【5月13日 Iran Japanese Radioより】

交渉の行方については、アメリカ側からは楽観を戒める発言も出ています。

****イラン核交渉:米が難航示唆****
イラン核問題の最終決着に向けた交渉に関わる米政府高官は13日、7月20日に設定されたイランと欧米など主要6カ国(米英仏中露独)の交渉期限に関し「合意に向けた楽観論を多く目にするが、非常に大きな隔たりが残っている」と述べた。山場にさしかかったイランとの交渉が難航していることを示唆した。

イランと6カ国は14日、ウィーンで4回目の包括交渉に入り、最終合意案の起草に着手する。
しかし、高官は「正直、外交的解決はとても難しい」と強調。さらに「起草着手は合意間近だとか、問題解決に向かっていることを意味しない」とも語った。【5月14日 毎日】
****************

交渉事の前には、うまくいかなかった場合の言い訳として、また、うまくいった場合の成果を強調するために、ハードルが高いことをアピールしておくというのは常ですが、今回の場合はどうでしょうか?

アメリカ・オバマ大統領も、国内で外交における“弱腰”批判にさらされていますので、安易な妥協は難しいところです。
アメリカ国内にはイランに対する根強い不信感がありますし、イスラエルへの配慮もあります。

ただ、今回交渉でイランが成果を出せないと、保守穏健派のイラン現政権は一気に求心力を失い、保守強硬派が台頭し、イランをめぐる国際緊張が高まります。

更なる制裁解除が可能になる方向で交渉がまとまることを強く期待します。

それにしてもアメリカ大統領というのは・・・
当然に、アメリカ側の最終決断はオバマ大統領が行う訳ですが、それにしてもアメリカ大統領というのは、オバマ大統領に限らず、大変なポジションです。

イランとの交渉を進めながら、ウクライナを巡ってロシアを牽制し、南シナ海を巡っては中国を牽制し、アフガニスタンからの撤退後を見据え、パレスチナ和平交渉の今後の展開を考え、おまけに、ナイジェリアのボコ・ハラム対策までしなければなりません。

もちろん、他の国の指導者同様に国内の諸問題はあります。
しかも、議会はねじれ状態(中間選挙によって上院の優位も失われる可能性が高まっています)で、思うような運営ができません。

これだけの問題について的確に判断し(判断を誤れば世界が大混乱する危険がある問題ばかりです)、最終責任をひとりで背負うというのは、信じがたいことです。
並外れた能力と、どんなストレスにも負けないタフな精神力が求められます。

そんなポジションを希望する人間がいること、自分ならうまくこなせると思う人間がいることが、不思議でなりません。
実際には、すでにポスト・オバマを目指した選挙戦が始まっており、大勢が名乗りをあげています。

サウジアラビア 柔軟姿勢?】
話をイランに戻すと、スンニ・シーアの対立からイランを目の敵にしているサウジアラビアが、対イラン姿勢を軟化させているとの報道もありました。

****イランと関係改善も=サウジ外相****
サウジアラビアのサウド外相は13日、首都リヤドで記者団に対し、長年緊張状態にあるイランとの関係を改善する用意があると表明した。AFP通信が伝えた。

サウド外相は「イランは隣国であり、彼らと交渉を行う」と述べ、既にザリフ・イラン外相にサウジ訪問を招請したことを明らかにした。【5月13日 時事】 
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このところ、イランやエジプトへの対応を巡ってアメリカと対立するとか、中東のなかではカタールといがみ合うとか、ややヒステリックとも思える対応が目立ったサウジアラビアですが、どういう事情があってのことでしょうか?
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日本社会で進行する人口減少 社会崩壊を回避するためには?

2014-05-13 22:55:39 | 人口問題

(【5月8日 FNN】より)

【「夕張は人口減少社会のフロントランナーになる」】
日本の抱える最大の問題のひとつが少子高齢化、その結果としての人口減少にあることは間違いないでしょう。
最近、人口減少に関する深刻ないくつかの報告がなされています。

2050年(わずか36年後の話です)には、いまよりも無人地域が2割近く広がるそうです。

****日本の6割、無人地域に 2050年、国交省試算****
国土交通省は28日、2050年になると、人口減少で日本の国土の約6割が無人になるという試算を発表した。いまよりも無人地域が2割近く広がる。こうした試算をするのは初めてで、国交省は今夏をめどに人口減少に備えた国土整備の基本方針をまとめる。日本の面積は約38万平方キロメートルある。国交省はこれを1平方キロメートルごとに約38万ブロックに分け、それぞれの人口推移を計算した。

その結果、今は約18万平方キロメートルに人が住んでいるが、50年にはその2割で人がいなくなり、6割で人口が半分に減るという。無人の地域は全体の約53%から約62%に広がる計算だ。国交省は試算に基づき、今後の国土整備の基本方針を示す「国土のグランドデザイン」の骨子をつくった。
地方などでは拠点となる地域に生活に必要な機能と住民を集めてコンパクトな町を作ることや、東京、大阪、名古屋をリニア新幹線でつないで国際競争力を高めることなどが柱だ。【3月29日 朝日】
****************

人口減少が一定段階まで進むと、例えば人口1万人を割ると、コミュニティのための公共施設が維持できなくなり、それらが放棄される、そのことによって生活が困難になり人口流出が更に進む・・・といった悪循環が加速度的に進むと言われています。

こうした日本の将来を先取りしているのが、財政破綻した北海道・夕張であるとも言えますが、夕張では街を集約化し効率的な暮らしを目指す「コンパクトシティー」の取り組みも行われているそうです。

****国家の危機、人口減少が止まらない…「夕張は日本の未来図****
社会基盤を根底から揺さぶる人口減少。2020年には首都・東京でさえ人口のピークを迎える。このまま手をこまねいていれば、日本は国家として成り立たなくなる。今後、われわれは何をすべきなのか。その処方箋を考える。

■街を集約、生き残り挑む
世界に先例のない急激な人口減少に向かう日本。われわれは、大胆な発想の転換を迫られる。(中略)

北海道夕張市。かつて“炭鉱の街”として栄えたが、40年ほど前から相次いで閉山、ピーク時には12万人近くいた人口も現在は1万人を割り込んだ。

高齢化も急速に進む。夕張市の高齢化率(総人口に占める65歳以上の比率)は全国の市でトップ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によると、2010(平成22)年に43・8%だった高齢化率は15年に49・0%、東京五輪が開かれる20年には52・6%と過半数を占める見通しだ。
 
◆税も下水も値上げ
夕張の姿は決して人ごとではない。07年から7年連続で人口が減少している日本の“未来図”でもある。

社人研は現在約1億2750万人の日本の総人口が、60年に8674万人まで減少すると推計。
2110年には4286万人と5千万人を割り込み、しかも65歳以上の人が4割を超える。
東京都でも、20年の1336万人を最後に減少に転じ、60年には1036万人に減少するという。

人口の減少は、税収が減り、行政サービスを維持できなくなることを意味する。夕張も、市民の生活は大きく変わった。

市民税や下水道使用料、軽自動車税などは軒並み値上げされ、ごみの収集も有料化。東京23区よりも広いにもかかわらず、小学校、中学校はそれぞれ1校に統合された。

図書館や美術館は休廃止され、5カ所あった市役所の出先機関もすべてなくなった。市立総合病院は診療所に縮小され、人工透析は隣の岩見沢市立総合病院などまで通わなければいけない。車を運転できない人にとっては、日に何本かのバスなどを使ってどれも一日仕事になってしまう。

50代後半の男性は「何もかも変わってしまい、不便になった。でも、夕張に住み続けるためには耐えるしかない」とあきらめの表情だ。

ピーク時には260人いた市職員も100人に減った。給料は平均で4割削減された。「最初は勧奨退職だったが、最近では給料の安さや将来を悲観して、自ら辞職するケースもある」と職員の一人は話した。

行政の在り方も大きく変わった。行政サービスをくまなく届けることが難しくなったからだ。キーワードは、街を集約化し効率的な暮らしを目指す「コンパクトシティー」だ。

「前は1DKで狭かったが、ここは2LDKで風呂もある。今年の正月は孫たちを泊められた」
市中心部の清水沢地区で、近隣から新築の市営住宅「歩(あゆみ)」に移った自治会長の柳原清さん(94)はこう笑顔を見せた。

◆住民の同意100%
夕張は炭鉱の坑口ごとに集落が点在する。閉山後、炭鉱会社の社宅や病院などの多くを市が引き継いだ。
だが、分散した約4千戸の市営住宅は老朽化し、しかも約4割は空き家。維持費など行政コストがかさむ非効率な構造が続いてきた。

このため、市営住宅を市中心部に集約することを決断。5億4千万円を投じ12年に完成した「歩」はその第1弾だ。同様の取り組みは市内各地区で進んでいる。

コンパクトシティーの成否は住民の理解が鍵を握る。東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた岩手県陸前高田市などでも導入が進むが、他の自治体では集約が進まなかったり、再び郊外に流出したりする失敗もみられた。

このため、夕張では市の将来像について市民から聞き取り調査を実施。それを基に市民の代表と一緒に集約の結論を出し、65歳以上の住民が6割超の真谷地(まやち)地区でも移転に100%の同意を取った。
鈴木直道市長はこう言い切った。「夕張は人口減少社会のフロントランナーになる」【3月25日 産経】
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【「人口減少社会は避けられないが、『急減社会』は回避しなければならない」】
人口減少を裏付ける報告は、その後も続きます。
4月に発表された総務省の人口推計によれば、生産年齢人口が32年ぶりに8千万人を下回ったそうです。

****生産年齢人口8千万人割れ 32年ぶり、総人口21万7千人減****
総務省が15日に発表した平成25年10月1日時点の人口推計によると、外国人を含む総人口は前年に比べ21万7千人減の1億2729万8千人で、減少幅は3年連続で20万人を超えた。

このうち15~64歳の生産年齢人口は、116万5千人減の7901万人で、32年ぶりに8千万人を下回った。

昭和22~24年ごろのベビーブームに生まれた団塊の世代が続々と65歳に達し、高齢化が加速。働き手の減少により、現役世代の社会保障費負担増や経済の成長力低下が懸念される。

65歳以上の人口は3189万8千人で、前年比110万5千人増となり、総人口の4人に1人を超える25・1%に初めて達した。

一方、0~14歳の年少人口は15万7千人減の1639万人となり、総人口に占める割合は過去最低を更新し、12・9%だった。(後略)【4月15日 産経】
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5月には、有識者らでつくる民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)の報告が話題になりました。

かつては、子供や若者が減少して高齢者ばかりになるということが言われていましたが、その高齢者すら減り始めているそうです。
そうなると、高齢者の購買力に支えられてきた地域経済は破綻します。

これまで常に満床だった高齢者施設では、部屋に空きが出るようになります。
介護産業は、高齢者を求め東京に進出することになりますが、それによって地方における有力な雇用機会が失われていきます。

こうした雇用機会の減少が、若い女性の地方から東京への移動・流出を加速させます。
地方では、高齢者だけでなく、次世代を生み育てる若い女性が大きく減少していきます。
“限界集落”ではなく、“消滅集落”が問題となってきています。

一方、東京に集中した若い女性の東京での暮らしは厳しく、子供を産み育てるとことへの抑制が強く働き、人口減少が更に加速していきます。

****896自治体 消滅危機 日本創成会議 2040年 若年女性流出で****
2040(平成52)年に若年女性の流出により全国の896市区町村が「消滅」の危機に直面する-。有識者らでつくる政策発信組織「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)が8日、こんな試算結果を発表した。

分科会は地域崩壊や自治体運営が行き詰まる懸念があるとして、東京一極集中の是正や魅力ある地方の拠点都市づくりなどを提言した。

分科会は、国立社会保障・人口問題研究所が昨年3月にまとめた将来推計人口のデータを基に、最近の都市間の人口移動の状況を加味して40年の20~30代の女性の数を試算。

その結果、10年と比較して若年女性が半分以下に減る自治体「消滅可能性都市」は全国の49・8%に当たる896市区町村に上った。このうち523市町村は40年に人口が1万人を切る。

消滅可能性都市は、北海道や東北地方の山間部などに集中している。
ただ、大阪市の西成区(減少率55・3%)や大正区(同54・3%)、東京都豊島区(同50・8%)のように大都市部にも分布している。

都道府県別でみると、消滅可能性都市の割合が最も高かったのは96・0%の秋田県。次いで87・5%の青森県、84・2%の島根県、81・8%の岩手県の割合が高く、東北地方に目立っていた。和歌山県(76・7%)、徳島県(70・8%)、鹿児島県(69・8%)など、近畿以西にも割合の高い県が集中していた。

増田氏は8日、都内で記者会見し、試算結果について「若者が首都圏に集中するのは日本特有の現象だ。人口減少社会は避けられないが、『急減社会』は回避しなければならない」と述べ、早期の対策を取るよう政府に求めた。【5月9日 産経】
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従来の国の見通しより、かなり厳しい推計になっています。

****人口減 より実態反映 日本創成会議 国の見通し甘さ露呈****
「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が8日に発表した2040(平成52)年の人口試算は、若年女性の減少率という新たな指標を取り入れたことで、従来の国の見通しよりも厳しい予測が示された。

試算の特色は、20~30代女性が30年間で半分以下に減る自治体を「消滅可能性都市」と位置づけ、より実態を反映しようとしたことにある。

人口問題の指標では、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す「合計特殊出生率」が用いられることが多い。だが、そもそも地域の女性数が減れば、出生実数は伸びないからだ。

分科会座長の増田寛也元総務相は「消滅可能性都市では人口が横ばいにすらならない。子供が極端に減って学校運営を維持できなくなるなど、自治体として機能していくことが難しくなる」と指摘する。

試算結果からは国の見通しの甘さも露呈した。国立社会保障・人口問題研究所が昨年まとめた将来推計人口で「消滅可能性都市」の基準に該当する自治体は373だった。今回の試算(896)は、その約2・4倍に膨れあがった。

国の予測は、毎年おおむね6万~8万人が大都市圏に流入しているという状況を加味していないためだ。(後略)【5月9日 産経】
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【「人口1億人程度を維持する」ためには劇的な変更が必要では?】
このような人口減少を警告する報告が相次ぐ中で、政府は「50年後(2060年代)に人口1億人程度を維持する」との政府目標を打ち出しています。

****人口減少:政府諮問会議委「50年後も人口1億人維持****
政府の経済財政諮問会議の下に設けた「選択する未来」委員会(会長・三村明夫日本商工会議所会頭)は13日午前、急激な人口減少に対応するため、「50年後(2060年代)に人口1億人程度を維持する」との政府目標を盛り込んだ中間報告を示した。

今後、集中的に対策を講じ、1人の女性が一生に産む子ども数に相当する合計特殊出生率(12年=1.41)を2.07以上に引き上げる。
政府が人口維持に向け具体的な目標値を提示するのは初めて。近く諮問会議に報告し、政府が6月に策定する経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に盛り込む。

甘利明経済再生担当相は13日、選択する未来委員会であいさつし、中間報告について「日本をどういう未来にしていくか、我々の知恵と努力と意思で選択できるというメッセージを発信してもらった」と述べた。

日本の総人口(13年)は1億2730万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、48年には1億人を割り込み、60年には約3割減の8674万人になる。
65歳以上の占める割合も13年の25.1%から、60年に39.9%にまで拡大する。

中間報告は「社会・経済の抜本改革をしなければ国際的地位や国民生活の水準が低下し、社会保障給付が増加して財政破綻を招く」と指摘。
30年に出生率を2.07に引き上げ、同水準を維持することで60年人口を1億545万人程度にするとしている。65歳以上の割合も33%に抑えるという。

人口を維持するため、中間報告は出産・子育て支援策を拡充し、出生率を引き上げるよう提言。高齢者に手厚い社会保障の予算を見直して財源を捻出し、子育て世代に重点配分する。産業の新陳代謝をはかり、70歳まで働ける社会を目指すことも盛り込んだ。【5月13日 毎日】
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“急減社会”を回避できれば、冒頭の「コンパクトシティー」などの対応も可能になり、人口減少に対応した社会にソフトランディングすることもできるでしょう。

ただ、そのためにはドラスティックな政策・考え方の変更が必要になるのでないでしょうか。
単に、“出産・子育て支援策を拡充し・・・・”だけでは、“30年に出生率を2.07に引き上げ・・・”なんてできないのでは?

2月15日ブログ「少子化問題  事実婚・婚外子に関する日本の事情」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140215)で取り上げた、子供を産み・育てる女性が結婚以外の選択肢も可能な社会に整備していくことも、ひとつの方策でしょう。
伝統的な日本的価値観とはバッティングするでしょが・・・。

もうひとつの方策は移民受け入れです。
これも、ほぼ単一の民族からなるという日本社会の在り方の根幹を揺るがすことになります。

移民が多くの問題を派生させることは、実際に移民を多く受け入れている欧州社会などが抱える問題・現状をしばしば取り上げてきました。

ただ、副作用があるという認識と、だからそうした薬を使わないという判断は別物です。
副作用の激しい劇薬でも、生きるためには必要な場合も多々あります。
考慮すべきことは、どのように副作用を緩和できるかという方策を真剣に考えるということでしょう。

これまでの日本にしがみついて沈没・消滅していくよりは、新たな日本をつくる試みにチャレンジする方が賢明なように思えます。

なお、極右政党が台頭する欧州において、日本の移民を受け入れない対応は“お手本”とされているそうです。

****広がる「敵を作る政治」 お手本は日本****
高止まりする失業や、もたつく経済に妙手が見いだせない欧州で、「敵をつくる政治」が広がっている。
市民の間のいらだちを「EU」や「移民」に向けるやり方だ。

そうした右翼政党はしばしば、お手本として「日本」を口にする。
オランダ自由党のウィルダース党首は朝日新聞の取材に「移民規制は必要だ、日本のように。国境も予算も自分たちだけで決めたい」などと話した。

日本は、外国人労働者を研修や技能実習の制度で活用しているだけで、移民は受け入れていない。移民規制が強い日本を、まねるかのような動きだ。

「古代以来の偉大なギリシャの復活」を掲げる極右政党の幹部は「民族で団結している日本を尊敬している」と語った。移民へのヘイトスピーチや暴力事件を繰り返し、党首ら国会議員が逮捕された党だ。

敵を明確にする主張は、「左」にもある。
国家破綻(はたん)の手前までいったギリシャは4人に1人が失業中。EUなどの巨額支援で強いられた緊縮財政に猛烈な反発が続く。EUに矛先を向ける「急進左翼進歩連合」の人気は高い。欧州議会選では2割を超す得票が見込まれ、首位をうかがう勢いだ。

ヘイトスピーチや、サッカー場での差別的横断幕が問題になった日本と同様、内向きな視線や、「排外」が欧州でも支持を集める。【5月13日 朝日】
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中国李克強首相のアフリカ歴訪で拡大する鉄道建設支援  中国の国際支援に関する「誤解」と問題

2014-05-12 22:51:24 | 中国

(ナイジェリアの鉄道 2009年撮影とのことです。 “flickr”より By Max https://www.flickr.com/photos/donmax02/3735062112/in/photolist-6G4aQC-4EVjsR-9wQvnp-bNMZaF-ekGwo8-ekNf33-ekNeMQ-ekGwYD-ekGyC4-ekNfcQ-ekNfy7-ekGy8P-ekGx3v-ekNgej-ekGwT8-ekNhKQ-ekNg1A-ekGwv6-ekGuTX-ekGw9t-ekNgG5-ekGuvk-ekNkdY-ekGvik-ekGz26-ekNhdb-ekNes3-ekGukF-ekNewL-ekGxd8-ekGv8e-ekNezJ-ekGvKD-ekGvTK-ekGxqa-ekNf91-ekNfNo-ekNhzs-ekGwCD-ekGxXH-ekNeZu-ekGusv-ekGv3t-ekGv1v-ekNfku-ekNkPC-ekGynP-ekGuG2-ekNofu-ekGw1r)

現地の人々の暮らしを改善して中国に親近感を持ってもらうためのもの
中国の李克強首相が、5月4日から8日間の日程でエチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアの4カ国を歴訪中です。

中国は毛沢東・周恩来の時代から、タンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設(1976年完成)に代表されるように、アフリカを重視した国際戦略をとっていますが、最近では貿易・投資の拡大を背景に、更なる影響力拡大を見せています。

今回の李克強首相アフリカ歴訪でも、ナイジェリアとケニアで鉄道建設の成果が報じられています。

****中国国有鉄道、ナイジェリアの鉄道建設受注****
「経済力強化と現地の暮らし改善」が目的=中国メディア

中国の李克強首相のアフリカ歴訪に合わせて、国有鉄道建設大手、中国鉄建傘下の中国土木工程集団は5日、ナイジェリア交通省とナイジェリア沿海部の鉄道建設契約を交わした。

契約額は131億米ドル(約1兆3300億円)。
中国鉄道産業のアフリカ、そして海外への進出加速を印象付ける契約となった。中国・第一財経日報が7日伝えた。

この契約に基づき、中国土木工程集団は中国の鉄道技術を用いて全長1385キロの鉄道を建設。22カ所の駅を設け、時速120キロで走行可能な車両を走らせる。  

中国の高虎城商務相によれば、ナイジェリアは「中国企業がアフリカで最も多くインフラ建設を請け負っている国」であり、鉄道分野で中国に対する信頼が厚いことをうかがわせ、中国企業はナイジェリアで1995年以降これまでに計4500キロの鉄道修復作業を請け負った実績があることから、さらに新たな鉄道の建設も進めているという。  

一時、中国はアフリカで資源獲得に積極的と言われ、各国から「新植民地主義」と批判も浴びたが、最近は鉄道建設を通じた「アフリカ支援」を前面に押し出している。現地のインフラ整備を支援する形で物流網を整えることは、中国企業の市場開拓にもつながるというわけだ。  

李首相は今回、5月4日から8日間の日程でエチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアの4カ国を歴訪。中国はアフリカの各国と鉄道、道路、通信、電力関連などのプロジェクトで積極的に協力したい意向で、鉄道分野ではアフリカに「高速鉄道研究開発センター」を設ける計画がある。  

中国は広大な国土を高速鉄道で結ぶ計画を進めると同時に、高速鉄道の海外輸出にも力を入れている。その動きは米国にリニア新幹線技術を無償提供するといった日本の売り込み戦略と競い合うかのようだ。  

中国紙・21世紀経済報道は7日、「中国の高速鉄道外交は短期的な利益を目指すものではなく、長期的な投資によってアフリカの経済力を強め、現地の人々の暮らしを改善して中国に親近感を持ってもらうためのものでもある」と指摘した。【5月11日 Searchina】
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他の植民地支配を受けた国と同様に、ナイジェリアもイギリス支配の時代に、内陸の産物を運び出す手段として内陸部と沿岸をつなぐ鉄道が建設され、その鉄道が現在の鉄道網の骨格をなしており、また、老朽化が進んでいます。

現在にあっては物資輸送の中心は自動車に変わってきており、ナイジェリア政府も道路を中心とした対応を行ってきたため、鉄道の多くがまともに運行できないほどに劣化しているようです。

そうした状況で、道路インフラ整備が不十分なナイジェリアにあっては自動車輸送への過重な負担にを軽減するためにも鉄道の再建が必要になっているようです。

これまでも、インドや中国の機関により鉄道リハビリの試みはありましたが(前記記事における“中国企業はナイジェリアで1995年以降これまでに計4500キロの鉄道修復作業を請け負った実績がある”云々)、十分な成果をあげていません。

詳しいことはわかりませんが、“ナイジェリア沿海部の鉄道建設契約”とありますので、今回は沿岸部を結ぶ新路線建設でしょうか。

ボコ・ハラム問題は前面に出ず
折しもナイジェリアは、イスラム原理主義組織「ボコ・ハラム」による200人以上の女子生徒連れ去り事件で、国際的な注目と非難のただなかにあります。

中国もこの事件解決のための支援・協力を申し出てはいますが、李克強首相の訪問にあっては、この問題が前面に出てくる感はありませんでした。

同じように支援・協力を申し出ているアメリカや英・仏であったら、ナイジェリア政府への問題解決に向けた対応を促す、もっと強い対応となったでしょう。

このあたりが、内政不干渉を建前として支援国内の問題には関与しない、中国の国際協力の特徴です。
このことが、アフリカなど人権問題も多い地域で中国の支援・関与が拡大している要因でもあり、また、欧米から批判されるところでもあります。

ナイジェリアは欧米の支援を受け入れてはいますが、“上から目線”的な批判に対しては、“ナイジェリア政府は、対応が遅すぎるといった欧米の批判に反発を強めている。英国などにも「恩着せがましい態度だ」と逆に非難するなど、協調態勢には時間を要しそうだ。”【5月11日 産経】という反発もあるようです。

中国はそういった内政批判は行いませんので、現地政府にとっては付き合いやすい相手です。

【「これは始まりにすぎない」】
李克強首相はケニアでも、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、南スーダンの東アフリカ4カ国首脳と、各国を結ぶ鉄道の建設事業契約に正式に調印しています。

****中国がケニアで鉄道建設の契約****
アフリカを歴訪した中国の李克強首相は、ケニアで首都ナイロビと地方都市を結ぶ鉄道事業について、中国が建設資金のおよそ9割を融資する契約を交わし、アフリカでのインフラ事業への進出に力を入れる姿勢を強調しました。

アフリカの4か国を歴訪した中国の李克強首相は11日、最後の訪問国となるケニアのナイロビでケニアなど東アフリカの4か国の首脳と会談しました。
ケニア大統領府によりますと、この会談で、中国はケニアの首都ナイロビと南部の港湾都市モンバサの609キロの区間を結ぶ鉄道事業について、36億ドル(日本円でおよそ3670億円)に上る建設費用の9割を融資する契約をケニア政府と交わしました。
李克強首相は記者会見で、「これは始まりにすぎない。この鉄道は今後、東アフリカの7か国をつなげる計画だ」と述べ、中国がアフリカで鉄道や高速道路などのインフラ事業への進出に力を入れる姿勢を強調しました。
ただ、アフリカにおける中国のインフラ事業を巡っては、中国人労働者を多く連れてくるため、地元の雇用につながらないという批判があります。
今回の事業も中国企業が受注しており、地元では契約に際して入札が行われなかったことなどに疑問の声が上がっています。【5月12日 NHK】
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中国側も試される局面にきている
中国の国際支援については、上記記事にあるような“地元の雇用につながらない”といった批判、あるいは“手当たり次第に資源確保に走っている”との批判もあります。

ただ、こうした批判は誤解に基づいている部分が多いとの指摘もあります。

****中国のアフリカ援助をめぐる4つの誤解****
デボラ・ブローティガム  アメリカン大学国際関係学部教授

中国政府によるアフリカ援助について、四つの誤解が広まっている。  
(1)中国は、最近になって援助を始めた「新顔」だ。  
(2)中国のODAは額がきわめて大きい。  
(3)中国は援助事業に従事する労働者のほとんどを自国から送り込んでいる。  
(4)中国の援助は専ら資源獲得のためだ。

──結論からいえば、これらはすべて根拠が無く、誤りか、過大評価だ。順番に説明していこう。

(1)中国は50年以上前からアフリカに援助している。1960年代後半に建設が決まったタンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設への援助が代表例だ。

中国は近年、援助額を伸ばしてはいる。だが、主な先進国と比べるとまだ少ない。
2007年のアフリカへのODAの金額は米国76億ドル、仏49億ドル、英28億ドル、日本27億ドル、独25億ドル。
これに対し中国は14億ドルだ。(中略)

本当に巨額なのは貿易と投資の額だ。中国からアフリカへの輸出高は2002年の50億ドルから2008年の500億ドルに10倍増。多くが輸出信用で手当てされている。

アフリカ大陸全体でみれば、援助事業従事者のうち中国人は2割だけで、残り8割は現地のアフリカ人だ。
ただ、進出先ごとに事情が異なる。アンゴラでは中国人45%でアンゴラ人55%。タンザニアでは中国人10%、タンザニア人90%。

背景には、アンゴラ進出は比較的最近で現地の人材がまだ育っていないが、古くからの進出先のタンザニアでは育っているといった事情がある。

中国は資源のないモーリシャスやマリなどを含め、あちこちに援助している。対台湾戦略など、政治的・外交的な狙いがあるからだ。

アフリカでは4カ国だけが台湾当局を、その他は北京政府を国家承認している。中国の援助は外交目的を達成する上で機能してきており、中国企業の資源獲得と深い関連はない。

もちろん、中国はアフリカの豊富な資源の獲得も目指している。だが、そこで使われる手法は公的機関による無償援助ではなく、経済的な得失を考えた投融資の性格が強い。

例えば、中国はアフリカの天然資源を担保に自国製機材を輸出し、その代金を資源で受ける。これは1970年代に日本が中国に対して採ってきた手法だ。

当時の中国では日本の融資を受けるかを巡り大変な議論になったが、自国の発展のための取引と判断して受け入れた。これに似た取引を、中国がいまアフリカに示しているわけだ。

「政治的支配」目指さず
中国のアフリカ進出にはもう一つ狙いがある。
それは、中国企業のグローバリゼーションの後押しだ。中国企業の輸出先を広げ、現地でのブランドイメージの確立を図ろうとしている。

例えば、自動車会社「中国第一汽車集団公司(FAW)」は、今や多くの車をアフリカに輸出し、知名度も上がってきた。

中国製品は(他国の製品ほど)高性能ではないが、価格が手頃なのでアフリカで競争力がある。しかし、中国企業の多くは国外でのビジネス経験が乏しいため、海外投資を促すには政府による支援がいると見ているのだ。

こうした中国のアフリカ進出について、欧米には「ネオ・コロニアリズム(新植民地主義)」との批判があるが、私はその議論にはくみしない。

まず、新植民地主義という概念は政治的な支配関係を指すものだが、中国は、アフリカ諸国を政治的に支配するために経済力を使ってはいない。

新植民地主義には、経済的にも自立できずに、資金面などで旧宗主国への依存が続くといった意味合いもある。製造業が発展せず、天然資源頼みから抜け出せないような状態だ。

しかし中国は、アフリカでの製造業や、セメント、建築資材などのインフラ業界への投資に関心を持っている。ネオ・コロニアリズムと呼ぶのは単純すぎる。

実際、アフリカ各国の政府レベルでは、中国の進出について良いイメージが持たれてきたといえるだろう。中国が新たな選択肢になっているからだ。

アフリカ側は、西欧諸国からの(人権尊重といった)条件付き援助を好まず、もう少し尊敬の念をもって接して欲しいと願っている。

アフリカの普通の消費者も、中国からの輸入でより安い商品が増えたことを歓迎している。

ハネムーンは終わる
では、中国の進出に問題がないかといえば、そうではない。
まず、中国の投資の質に問題がある。
アフリカで事業をしている中国企業は、環境や安全の基準が十分でない。

低賃金も大きな問題だ。アフリカ人の労働者に十分な賃金を払っていない。

中国はアフリカ進出の際に、自分たちの国内問題を持ち込んでしまっているのだ。労働基準は少しずつ改善されてきてはいるが、例えば日本のレベルと比べると、まだまだ差が大きい。

また、アフリカの工場経営者や流通関係者の中には、激しさを増す中国企業との価格競争を懸念する声もある。
アフリカ南部では、現地の経済界が中国企業に脅かされていると感じている。

南アフリカの工場や建設会社の経営者には、中国企業との競争にさらされることに不快感を表す人が多い。彼らは中国企業がフェアな競争をしていないと不満を持っている。ザンビアでは、地元市場で農作物を売り始めた中国人の農業従事者と地元の農業者の間で競争が始まった。

私は3年ほど前から、アフリカの民間レベルで、対中感情が悪化している印象を受けている。
中国進出の様々な問題点を取り上げるメディアの影響もあるだろう。
人々は中国人の大量入国にも不安を感じている。これは移民問題であり、外国人恐怖症のようなものだ。

中国とアフリカの関係は、ハネムーンが終わり、現実的な同居生活が始まる段階に達した。
一緒に暮らしていけば、お互いの良い点も悪い点もすべて見えてくる。そこで、引き続きうまくやっていけるのかどうか。中国側も試される局面にきている。【5月12日 朝日 Globe】
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