孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  炭鉱事故の捜索終了 エルドアン首相の無神経発言への批判も

2014-05-18 22:29:41 | 中東情勢

(事故現場をエルドアン首相が訪れた際に、治安部隊に取り押さえられた抗議行動参加者に蹴りを入れる首相補佐官 【5月16日 msn産経】)

【「(炭鉱では)こういう事故は起きるもの」】
マーレシア航空機の謎の失踪事件、韓国セウォル号沈没事故などの大きな事故・事件ほどの話題にはなりませんでしたが、13日トルコ西部で炭鉱爆発事故があり大勢の犠牲者がでました。

事故発生直後の報道では“作業員ら201人が死亡、200人以上が地下の坑道内に取り残されている”とも報じられていました。

作業員が閉じ込められている場所は地下数百メートルから2.5キロほどと深く、炭鉱内の火災が収まらずに煙が充満していることから、救出は難航しました。

結局300名を超す犠牲者を出す、トルコの炭鉱事故としては最悪のものとなりました。

****捜索終了、死者301人=トルコ炭鉱事故****
トルコ西部ソマで起きた炭鉱爆発事故で、AFP通信によると、政府は17日、最終的に作業員計301人の死亡を確認し、捜索を終了したと発表した。【5月17日 時事】 
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この事故では、救出活動が進まず関係者が苛立ちを募らせたことに加え、安全対策が十分にとられておらず、政府の監督責任が不十分だったとの批判が国内でたかまりました。

この政府批判に油を注いだのが、現地を視察したエルドアン首相の無神経とも言える発言でした。
エルドアン首相は、事故調査の徹底を約束しつつも、今回の事故の死者数を19世紀の英国での鉱山事故などと比較した上で、「(炭鉱では)こういう事故は起きるもの」と発言。

これに対し、現地でデモ隊がエルドアン首相に詰め寄ったほか、首都アンカラや最大都市イスタンブールでは、数千人規模の反政府抗議デモが展開されました。

****トルコ炭鉱爆発現場でデモ、警官隊と衝突 高まる政府への怒り****
トルコ西部マニサ県ソマ地区で13日に発生し、300人近い死者が出ている炭鉱爆発事故の現場で16日、約1万人が参加する抗議デモが行われ、警官隊と衝突した。

政府批判のシュプレヒコールを上げるデモ隊を解散させるため、警察は催涙ガス、放水銃、プラスチック弾を使用した。

あるデモ参加者(23)は、「これは運不運の話じゃない。殺人だ」と叫んだ。 現場の複数のAFP記者によると、デモ隊の一部は警官隊に投石した。警察官2人を含む少なくとも5人が負傷した。数人が逮捕されたとの情報もある。

トルコ最悪の産業事故となった今回の炭鉱事故は、8月の大統領選挙を前に政府への怒りを引き起こした。 大統領選で勝利するという見方もあったレジェプ・タイップ・エルドアン首相は苦境に追い込まれている。

ソマ炭鉱事故のわずか数週間前に国会で同炭鉱の安全性への懸念を取り上げていたにもかかわらず事故が起きたと攻撃する野党に対し、エルドアン首相は政府に落ち度はなかったと反論した。

だが、「炭鉱に事故はつきもの」という発言が、犠牲者の苦しみにあまりにも冷淡だとして怒りの非難を引き起こした。

14日に現場を視察したエルドアン首相が、デモ参加者に反イスラエル的な中傷を投げつけたとされる動画も浮上し、同首相は新たな批判を受けている。

野党系新聞Sozcuが伝えた動画によると、デモ参加者から「首相、辞めろ」と罵声を浴びせられた同首相はある店舗に逃げ込んだ。その際、デモ参加者に「お前はどうして逃げるのだ。イスラエルのやからか」と叫ぶ同首相の声が聞こえる。この動画が本物なのか、AFPでは確認できていない。(後略)【5月17日 AFP】
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“反イスラエル的な中傷”云々については、上記記事では状況がよくわかりませんが、下記のようにも報じられています。

****トルコ首相、イスラエル中傷?=ネットに動画、炭鉱事故の抗議者に****
トルコ西部マニサ県ソマの炭鉱爆発事故で、エルドアン首相が14日、事故現場訪問後、詰め寄った抗議者に反イスラエル的な言葉を叫んだとみられる動画がインターネット上に掲載され、物議を醸している。AFP通信が16日、伝えた。

動画では、首相とみられる人物が抗議する男性の首をつかみ、トルコ語で「なぜ逃げる、イスラエルのガキ」とののしっている。2010年のガザ支援船拿捕(だほ)事件で関係が悪化したトルコとイスラエルは、近く和解で合意する見通しだが、動画は少なからず影響を与えそうだ。【5月17日 時事】 
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統一地方選で底力を見せた与党 大統領選挙は?】
救出活動さなかでの「炭鉱に事故はつきもの」という発言、「イスラエルのガキ」という罵り・・・まあ、強気で有名な、また、反イスラエル姿勢が強いエルドアン首相らしい発言ではあります。

トルコでは3月30日、統一地方選の投開票があり、エルドアン首相率いるイスラム系与党・公正発展党(AKP)が2009年の前回選挙の得票率39%を上回る43%(開票率95%)を獲得して勝利しました。

昨年5月以降の大規模反政権デモや閣僚の収賄疑惑、更には保守派内部での抗争などで混乱が続くエルドアン政権への信任投票とも位置づけられていましたが、“3期連続の単独政権を維持するAKPが底力を見せた”【3月31日 毎日】結果となりました。

今回の炭鉱事故に関する反政府デモについても、おそらくはもともとエルドアン首相に批判的だった労働者や大都市住民によるもので、それ以上の批判の拡大を示すものではないでしょう。

“大統領選で勝利するという見方もあったレジェプ・タイップ・エルドアン首相は苦境に追い込まれている”というのは、少し言い過ぎの感があります。

イスラエルにしても、エルドアン首相の性格や反イスラエル姿勢は承知のうえで、現実的観点から関係改善を模索していますので、今回のことで多少の批判はあっても、大筋には影響しないのではないでしょうか。

ただ、かねてより強引とも傲慢とも言えるような姿勢に批判があったエルドアン首相ですが、あらためて指導者としての資質に疑問を感じさせる出来事ではありました。

かつて、イスラム民主主義のモデルケースとも言われたトルコ・エルドアン政権ですが、その輝きは次第に褪せてきています。
コメント
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