(5月23日 ウルムチ市内をパトロールする武装警官 【5月24日 AFP】)
【「問題は漢族の存在ではなく、少数民族の立場で問題を考えない政府の管理方法にある」】
習近平主席の新疆訪問に合わせた4月30日の中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ南駅での自爆事件(犯人2人を含む3人死亡、79人負傷)、更に5月22日に起きた同じくウルムチ中心部の朝市での自爆事件(犯人4人を含む39人死亡、94人負傷)・・・ウイグル族をめぐる問題は、従来の不満を持つ民衆の衝突という状況から、一部組織メンバーによる過激なテロ活動へと変化しているように見えます。
共産党指導部は新疆の経済成長を強調していますが、その恩恵は漢族や漢族とつながる一部ウイグル族に限定され、多くのウイグル族が経済格差に不満を抱いていることが問題の根底にあることは、多くが指摘するところです。
****「少数民族の立場考えてない」ウイグル族、強い不満 爆発事件のウルムチ****
中国新疆ウイグル自治区の爆発事件(ウルムチ南駅での自爆事件)が起きた区都ウルムチでは2日、地元警察当局が容疑者とされる人物の死亡を発表後も、ウイグル族への取り締まりを強めている。
ウイグル族たちは多数の死傷者を出した爆発事件の容疑者らに憤りを感じているが、少数民族に不利な中国の社会構造に対する強い不満も口にした。
事件が起きたウルムチ南駅周辺の各ホテル玄関では、制服姿の当局者が、出入りする宿泊客に厳しい視線を送る。ウイグル族の宿泊希望者が訪れると、追い払う姿も見られた。大手ホテルのフロント係は「私たちにとっては同じ大事な客なのに」と嘆く。
ウイグル族が集まる地域では、警察車両や装甲車が路上に停車。当局者が道行く人の警戒を続けている。
事件後初めてのイスラム教週末礼拝日を迎えたこの日、市中心部のモスクでは、敷地からあふれるほどの信者が詰めかけた。周囲では治安当局者十数人が警戒し、不審に見える人物に立ち去るよう求めていた。
モスク脇には武装警官が常駐できる待機所や監視カメラもある。礼拝を終えた30代のウイグル族男性は反政府デモに参加し、服役した経験がある。「僕らは政府に生活を隅々まで監視されている」と話した。
こうした緊張感は中国各地に広がる。北京市公安局は1日深夜、北京駅で抜き打ちの反テロ訓練を実施。広東省や江蘇省などでも、軽武装した警察官が駅などでの巡視を強化している。
漢族が主流を占める政府側とウイグル族は長年、摩擦を繰り返してきた。背景には宗教や言語など民族のアイデンティティーにかかわる面の制約や、経済格差などへの強い不満がある。
中国政府は2001年、漢族の言葉である漢語の小学校からの普及教育を導入。民族語での教育が可能だった理科や算数などの教科も、すべて漢語指導に変更した。一方、漢族が少数民族言語を学ぶ機会は大学などに限られる。
タクシー運転手をする20代のウイグル族男性は今年、ナンバープレートを盗まれた。漢族の同僚3人も同時期にプレートを紛失して再発行のために役所を訪ねたが、漢語がうまく話せないこの男性だけ手続きが進まない。「問題は漢族の存在ではなく、少数民族の立場で問題を考えない政府の管理方法にある」
市中心部にある職業紹介所「人力資源市場」。ウイグル族のアブドラさん(25)は約300枚の求人案内を見ていた。営業やホテル、貿易業といった求人の多くに「漢語が流暢(りゅうちょう)」との条件が付く。
アブドラさんは言葉に問題はないが、4カ月間無職のままだ。「好待遇の会社に応募しても、多数を占める漢族経営者から『ウイグル族は採らない』と電話を切られる」。この傾向は09年に1千人以上の死傷者を出した大規模な民族衝突以降、顕著になっているという。
習近平(シーチンピン)政権は相次ぐ衝突を受け、民族間の団結を強調する一方、少数民族側の不満には抑圧で対抗している。
ウルムチの繁華街で、漢族の常連客も多い民族料理店を営む20代のウイグル族の男性は、周囲を見回して当局者がいないことを確かめた上で語った。「ウイグル族が望むのは、漢族と同様に、自由に話せる環境と平和で幸せな生活なんだ」【5月3日 朝日】
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経済的な問題だけでなく、ウイグル男性の帽子とか女性のスカーフといった伝統的な文化・風習への中国政府の強権的な締め付けが、ウイグル族の不満を助長しています。
互いを尊重した「共存」ではなく、強権的な「同化」への不満です。
****ウイグル族のデモ隊と警官隊が衝突、2人射殺***
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は23日、中国新疆ウイグル自治区アクス地区で20日、ウイグル族のデモ隊と警官隊の衝突が起き、少なくともデモ隊の2人が射殺され、100人以上が拘束されたと伝えた。
抗議デモは、当局の指示に従わずに頭髪を覆うスカーフを着用した女子中学生らが拘束されたことが発端で、1000人以上の住民が参加。
当局は女子中学生らを釈放したが、怒りが収まらずに政府施設に投石などを行った住民らを、警察が鎮圧したという。【5月24日 読売】
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【「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」】
一方で、一連の事件は漢族側の反発・不満を増大させており、民族間の不信感が増大する結果となっています。
****民族対立の街ウルムチ 収入格差と爆発事件 不信増幅****
22日に爆発事件が起きた中国新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチで、ウイグル族と漢族の反目が強まっている。相次ぐ爆発事件に加えて双方の収入格差も広がる一方で、互いの不信感を増幅する一因となっているようだ。
「漢族の客が全く来なくなった。同じ民族の私たちが彼らを助けなければ」。ウルムチ南部の観光スポット、大バザール(市場)の入り口付近で、土産店経営のアーメットさんがたどたどしい中国語で話した。
足元ではウイグル族の少年がアーメットさんの靴を磨く。料金は3元(約50円)。祖母と2人暮らしの少年の唯一の収入源だ。
22日以降、この周辺に観光客は全く来なくなった。アーメットさんの店もこの2日間の売り上げはゼロだったという。
「漢族の人から見れば、ウイグル族はみな同じようにみえて怖いと感じているかもしれないが、私たちは事件と全く関係ない。むしろ被害者だ」。アーメットさんがため息をついた。
ウルムチでは当局が進める移民政策で漢族の数が急増、市内の総人口の7割以上を占めるようになった。中央政府が民族融和政策の一環として同自治区に毎年膨大な投資を行っており、ウルムチ市では経済成長が続く。
しかし、潤ったのは中国語が話せて人脈などに恵まれている漢族が主体だ。街頭で見かける靴磨きの少年や花を売る少女はみなウイグル族だった。
中国での報道によると、爆発事件では実行犯4人が現場で死亡し、関与した1人が拘束された。みな同自治区南部からきたイスラム教過激派だったとされる。
地元のウイグル族は「暴力はよくない」と口をそろえるが、50代の女性は「許されることではないが、ウイグル族がなぜこんなことをしたのか、漢族にも反省してほしい」と話した。
一方、漢族の間ではウイグル族への憎しみが広がる。あるタクシー運転手は、「ウイグル族はモスク(イスラム教礼拝所)で洗脳を受けている。再発防止のため、イスラム教寺院を全て壊すことから始めるべきだ」と語気を強めた。
学校でのウイグル語教育の禁止に加え、ウイグル族に対する不買運動を呼びかける向きもある。これに賛同する旅行代理店の男性経営者は、「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」と話した。【5月25日 産経】
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「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」・・・・こうした発想でいる限りは、両者の和解などはあり得ず、今後更に過激なテロも起こることが想像されます。
単に、対ウイグル族だけでなく、国内のチベット・モンゴル族への対応、更には国外における日本や南シナ海での中国の行動の背景にある、中国(漢族)の「中華思想」とも言える自己中心的な傲慢さを垣間見る感もあります。
【容疑者家族も拘束 「特殊な手段」を使ってでも・・・】
中国当局はウイグル問題に、容疑者の家族をも拘束するような取締り強化で対応しようとしています。
しかし、結果的には不信感・不満を増大させ、より過激な行動に駆り立てることになっているように見えます。
****ウルムチでまた爆発 破綻した少数民族政策 穏健派まで逮捕****
中国のウルムチで22日に発生した爆発事件は、習近平政権が主導する高圧的な少数民族政策が破綻したことを強く印象づける。
雲南省昆明市の駅前で3月、173人が死傷したウイグル族の犯行とされる殺傷事件の際、習主席は「事件の解決に全力を挙げ、暴徒を厳しく処罰せよ」と公安当局に再発防止を指示、多くのウイグル族が逮捕された。
しかし、4月に習主席自身の訪問先であるウルムチで爆発事件が起き、メンツは丸つぶれとなった。「テロリストを徹底的に叩け」と習主席が治安当局に出した当時の指示からその焦燥感が読み取れる。
4月の爆発事件では、容疑者の妻や弟など家族が拘束された。しかし、そのわずか3週間後、同じウルムチで再び爆発事件が発生。高圧的な手段が抑止につながらないと示された形だ。
毎月のように発生する事件について、中国当局は「国外組織と結託した分裂勢力によるテロ」と説明している。
しかし、ウイグル独立の動きは数十年前から存在しており、習政権が発足するまで、これほど頻繁に事件は起きなかった。独立機運よりも、現政権の少数民族と宗教政策が事件を誘発する可能性が大きいとみられる。
ウイグル族を支援する北京の人権活動家によれば、習政権による取り締まり強化で、漢族と良好な関係を保ってきたウイグル族が多く拘束された。当局の間にパイプ役がいなくなり、ウイグル族の間で当局への不信感と不満が高まったことが背景にあるという。
例えば今年1月に当局に拘束された中央民族大学の学者、イリハム・トフティ氏はウイグルの独立を主張しない穏健派で、胡錦濤時代までは政権に対し、少数民族政策で助言したこともあったという。しかし、ウイグル族への同情的な言動で習政権の逆鱗(げきりん)に触れ、国家分裂容疑で拘束された。
先の活動家は、「トフティ氏までが逮捕され、ほぼウイグル族全員を当局の敵に回した形だ。ウイグル族の間で絶望感が広がったことが一連の事件につながったのでは」と分析している。【5月23日 産経】
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“新疆ウイグル自治区の政府系サイト「天山網」によると、今回の爆発事件を受け、同自治区共産党委員会は23日、来年6月までの1年間、自治区で「新疆を主戦場とする暴力テロ行為に打撃を与える特別行動」を始めることを決めた。「特殊な手段」を使ってでも、「テロ活動と密接な関係がある」村などの取り締まりを徹底し、過激な宗教思想が広まるのを食い止めるとしている。”【5月24日 毎日】
「特殊な手段」とは何でしょうか?
ウイグル族抑圧が更に強まることで「抑圧→過激化→さらなる抑圧」という悪循環が繰り返されることが懸念されます。
“現在の新疆ウイグルのトップである党書記をつとめる張春賢は、「新疆王」などと呼ばれて高圧的な独裁政治を展開した末に更迭された前任の王楽泉を継いだあと、新しいウイグル政策として「柔性治疆(ソフトな新疆統治)」掲げて融和路線を歩んできた。しかし、今回、最高指導者の身を危険にさらしたことで更迭の可能性すらささやかれており、「剛性(ハードな)治疆」への回帰は不可避な情勢で、対立の激化がいっそう進む恐れがある。”【5月7日 野嶋剛 フォーサイト】
【ウイグル族社会にも戸惑い】
今回のような無座別的なテロ事件に対し、ウイグル族からも不安の声や違和感・戸惑いが出ています。
****ウルムチ爆発:ウイグル族も困惑…無差別攻撃に***
中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市で22日に起きた爆発事件で、ウルムチ市政府庁舎付近で治安悪化への不満を訴えるデモの呼びかけがあり、社会不安の拡大を警戒する市政府が阻止したことが住民の話で分かった。
事件には過激な分離・独立派組織の影も見え隠れしており、爆発物を使って無差別に市民を狙う「テロ」に、自治区での「漢族支配」に不満を抱いてきたウイグル族社会にも戸惑いが広がっている。
「就職はウイグル族と分かると断られ、空港の安全検査では犯人扱いで詳しく調べられる。憤りが私たちの根底から消えることはない。ただ、無差別に殺人をする人々の悪意とはまったく違う。彼らはイスラム教徒ではない」。120人以上が死傷する「自爆テロ」事件が起きた現場近くで、ウイグル族の男性(51)が訴えた。
事件は22日午前8時(日本時間同9時)ごろ、客でにぎわう朝市の通りで起きた。目撃者によると、進入した2台の四輪駆動車が猛スピードで蛇行しながら十数人を下敷きにし、窓からこぶし大の爆発物を10個以上投げつけた。車は自爆し、血まみれの人々であふれかえったという。付近は漢族の住民が多いが、目撃者によると、死者や負傷者にはウイグル族も含まれていた。
ウルムチでは3週間前にもウルムチ南駅で容疑者2人を含む80人以上が死傷する「自爆テロ」が起きたばかりで、漢族だけでなくウイグル族にも不安が広がっている。
ネット上では22日、市政府へのデモの呼びかけがあり、事情を知る住民によると、最終的に阻止されたという。市政府は同日夕、市民の携帯電話に「全力で捜査に取り組んでいる」とのメッセージを送り、社会安定を呼びかけた。
中国政府は昨年10月の北京・天安門前での車両突入事件や、今年3月の雲南省・昆明駅での無差別殺傷事件、ウルムチ南駅での爆発事件で、いずれも自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の関与を指摘。中国当局は今回の事件もETIMの関与を疑っているとみられる。
ウルムチのように経済発展が進んだ自治区の北部地域では漢族との社会融合が進み、「不満はあるがそれなりに共存している」(ウイグル族の女性)。
ただ、パキスタン国境に近く、ウイグル族の比率が高いカシュガル出身の男性によると、「自治区の南部では農村に潜んで、過激派組織の思想を吹き込む人はいる」といい、中国政府もこの地域での過激思想の浸透を警戒しているとみられる。
上海の国際問題に詳しい中国人学者は「爆弾で無差別に狙うパターンはこれまでとは違う次元に達している。暴力で社会を混乱や分断に陥れるのはまさにテロ組織の狙い。その意味では、問題は漢族とウイグル族の対立という単純な構造ではすでにない」と懸念を示した。【5月23日 毎日】
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テロへの恐怖・不安という、漢族・ウイグル族に共通する部分が生まれた・・・とは言えますが、両者の溝・不信感はそのままで、当局の高圧的締め付けやテロ事件による不信感増長によって、問題は更に複雑化していくと言うのが実態に近いように思われます。