孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  女子生徒連れ去り事件の背景 テロ組織との交渉は認められるか?

2014-05-23 22:58:01 | アフリカ

(12日に公開されたビデオには約100人の少女が映っており、“州当局によると、拉致された267人のうち、これまでに77人の映像が確認された”とも言われていますが、“地元の村などで約50人の父母がビデオを見たが、だれもわが子の姿を見つけることができなかった”とも。【5月14日 CNN】
写真は“flickr”より By RC Isidro )

貧困と格差
4月14日深夜から15日未明、ナイジェリアの学校から200人以上の女子生徒がイスラム過激派「ボコ・ハラム」の武装集団によって拉致された事件から1か月以上が経過します。

5月7日ブログ「ナイジェリア ボコ・ハラムの女子生徒連れ去り事件 ビデオ映像発表で国際社会の関心高まる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140507)でも取り上げたように、女子生徒を「奴隷として売り飛ばす」というボコ・ハラムによるビデオが公開されたことで、問題は世界的な関心を集めるところとなりました。

国際的な批判・関心によってナイジェリア当局も重い腰を上げて取り組んではいますが、未だ進展していません。
ボコ・ハラムによる新たなテロも発生しています。

****ナイジェリア:市場で車爆発118人死亡****
西アフリカ・ナイジェリアからの報道によると、中部ジョスの市場で20日、車に積まれた爆弾による大きな爆破が2回あり、少なくとも118人が死亡した。

北東部ボルノ州チボクで先月、女子高を襲撃し約270人の生徒を拉致したイスラム過激派ボコ・ハラムの犯行が疑われている。(後略)【5月21日 毎日】
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****ボコ・ハラムが2か所の村を襲撃、30人死亡 ナイジェリア****
ナイジェリアの学校から先月200人以上の女子生徒を拉致したイスラム過激派「ボコ・ハラム」の武装集団が21日までに、この学校がある北東部ボルノ州チボク地区周辺の2か所の村を襲撃し、30人が死亡した。(中略)

同地域には、4月14日にボコ・ハラムに拉致されて以来、行方不明となっている少女たち223人を発見するため軍の部隊が大量に動員されているが、村人によると、今回の2か所の襲撃に軍は対応しなかったという。

「逃げようとした武装集団の車両のうち3台が故障し、それを修理するために彼らは今朝までそこにいた」にもかかわらず、軍から反応はなかったとある村人は述べた。【5月21日 AFP】
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アフリカ最大の経済大国ともなったナイジェリアで、なぜこのような残虐な武装集団がテロを続けているのか・・・その背景には成長から取り残された“貧困と格差”が存在することは多くが指摘するところです。

****生徒拉致のナイジェリア、アフリカ最大の経済大国、支えるのはキリスト教徒****
ナイジェリアは今年4月、統計方式を見直し2013年の国内総生産(GDP)を再計算した結果、従来方式の約2倍となる約5090億ドル(約51兆8千億円)に達し、アフリカ最大になったと発表した。

成長の原動力となっているのがキリスト教徒中心の南部に集中する石油資源だが、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が拠点とする北部との深刻な経済格差も生んでいる。

ナイジェリアの油田は南部のニジェール川デルタやギニア湾に集中しており、原油生産量は日量215万バレル(2010年推定)と石油輸出国機構(OPEC)加盟国でも有数の規模。米欧やアジア各国からの直接投資も増加を続けており、近い将来、経済規模で世界のトップ20に入ると予想されている。

しかし、同国では過去の軍事政権時代の非効率な経済運営もあって水道や電力など生活インフラの整備が進んでいない上、当局者や政府高官の腐敗が進み、国民の約7割が貧困状態にあるとされる。

特に深刻なのは人口の約半数を占めるイスラム教徒が集中して住む北部地域で、キリスト教徒中心で富裕層が多い南部への不満は強い。

シャリーア(イスラム法)の統治によるイスラム国家建設を目指すボコ・ハラムは、今回の拉致事件で連れ去った非イスラム教徒の女子生徒に改宗を強要しているなどとされるが、そうした行為が宗教間の反目をいっそう強めることになる可能性は高い。

同国ではこのほかにも近年、ボコ・ハラムから派生した武装組織「ブラック・アフリカのイスラム教徒の擁護者」(通称アンサル)などによる石油関連産業へのテロや外国人誘拐事件も頻発している。【5月16日 産経】
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腐敗と汚職
多くの紛争国に共通するのは、“貧困と格差”であり、また政治の“腐敗・汚職”です。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ボコ・ハラムの学校への襲撃について軍は事前に情報を得ていたにもかかわらず、5時間近くも行動を起こさなかったと発表しています。(軍はこれを否定)

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4月14日の午後7時以降、軍司令官たちにはボルノ州のチボクへの襲撃が差し迫っているとの情報が複数回伝えられていた。

2人の軍高官は、兵士たちは自分たちより装備の優れた武装集団に立ち向かうことに躊躇(ちゅうちょ)するので、攻撃を食い止めるのに十分な部隊を配備することができなかったと述べたとされる。

結果的に、最大200人のボコ・ハラム戦闘員が、町に駐留している少数の警察官と兵士との戦闘の末、午後11時45分ごろに276人の女子生徒を拉致する事態となった。【5月10日 AFP】
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情報を知った学校関係者は、自分たちの子供だけ避難させて、ほかの子供たちは放置した・・・との報道もありました。

真偽のほどはわかりませんが、軍が装備などでボコ・ハラムに劣ることから対応を躊躇しているという状況は、その後の前出【5月21日 AFP】の襲撃における軍の対応などからも、ありそうなことにも思えます。

軍の士気やモラルの問題もありますが、軍の装備が十分でないとしたら、巨額の石油収入は一体何に使われているのか?想像に難くないところです。

掃討作戦でボコ・ハラム変質
もっとも、ナイジェリア当局はこれまで大規模テロを繰り返すボコ・ハラムを放置してきた訳でもありません。
ジョナサン大統領は2013年5月、北部3州に非常事態宣言を発令して激しい掃討作戦を行っています。

“国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は今年1〜3月だけで、テロと当局のボコ・ハラム掃討作戦で1500人以上が死亡したと見ている。”【5月21日 毎日】とも。

激しい掃討作戦に多くの民間人も巻き込まれることは容易に想像されますが、そこから憎悪と報復の連鎖が生まれることもまた想像されます。

更に、結果的には軍の掃討作戦が、ボコ・ハラムを変質させ、見境のない民間人襲撃に駆り立てているとの指摘があります。

****ボコ・ハラム」はなぜ多数の女子生徒を拉致したのか****
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「首都攻撃」に政府が危機感
第3は、ナイジェリア政府による掃討作戦が2012年以降、格段に強化され、その結果としてボコ・ハラムの活動領域が劇的に狭まったという事実がある。ボコ・ハラムによる今回の女子生徒拉致事件を考える上で、これは重要な点と思われる。

治安当局とボコ・ハラムの戦闘が最初に激化したのは2009年だったが、その舞台はボルノ州、バウチ州、ヨベ州、カノ州など北部諸州に限定されていた。国の中部に位置する首都アブジャ、最大都市ラゴスなどの住民からみれば、ボコ・ハラムの問題は「自分には関係のないこと」であり、ナイジェリアでビジネスを展開する外国企業にとっても、要は「危ない北部の州」に近付かなければよいだけのことであった。

ところが、ボコ・ハラムが2010年12月に初めて爆弾を使った攻撃を実行し、2011年6月に首都アブジャで警察本部に自爆テロを仕掛けたことにより、ナイジェリア政府の危機感は格段に高まった。

サブサハラ・アフリカに対する投資ブームの波に乗り、ナイジェリアはこの10年間、年率6-7%台の高い経済成長率を維持している。首都の中枢がテロの脅威にさらされる事態となれば、海外からのビジネス誘致の障害となりかねない。

ナイジェリア当局のボコ・ハラム摘発の動きは急加速し、ジョナサン大統領は2013年5月、ボルノ、ヨベ、アダマワの北部3州に非常事態宣言を発令して掃討作戦を進めた。この結果、ボコ・ハラムが北部3州の主要都市や首都アブジャで活動を継続することは困難になったのである。


「潜伏化」と「残虐行為」
だが、一見すると効果を発揮したかに見える掃討作戦は、軍事力の投入に過度に依存したことにより、ボコ・ハラムという組織の性格を変質させた。

第1の変質は、組織の潜伏化と活動領域の拡散が進んだこと。第2の変質は、民間人に対する残虐行為への傾斜が深まったことである。

まず、北部の主要都市や首都アブジャでの活動が困難になって以降、ボコ・ハラムはカメルーンとの国境に近い東部の山間部に潜伏し、一部はカメルーン側に越境しているという事実がある。(中略)

民間人を標的とした残虐行為への傾斜は、活動拠点が都市部から山間部の広い領域に拡散し、メンバーが潜伏を余儀なくされるようになったことと関係している。

遠隔地での潜伏生活で資金や食糧が先細っていく状況下で、村落からの略奪行為は組織を維持するための重要な手段となり得るからである。

また、村落を襲撃することは、住民に対し、ナイジェリア当局による掃討作戦に協力すれば痛い目に遭うことを思い知らせる効果も兼ね備えている。

ボコ・ハラムは、政府の強硬な掃討作戦によって追い詰められた結果、現代の紛争地でしばしば見られる「恐怖による住民支配」を進める勢力になったとみてよいだろう。(後略)【5月14日 白戸圭一氏 フォーサイト】

【“毅然とした対応”と“水面下の裏取引”】
****ナイジェリア:女子生徒拉致でボコ・ハラムと政府批判デモ***
女子生徒約270人がイスラム過激派ボコ・ハラムに拉致された事件を巡り、ナイジェリアの各地で22日、教員や市民らがボコ・ハラムと、事件で効果的な対策を取れない政府を批判するデモ行進を行った。(後略)【5月23日 毎日】
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****拉致の女子生徒救出へ行動計画=仏・西アフリカ首脳****
フランスとナイジェリアを含む西アフリカ5カ国の首脳は17日、4月中旬にナイジェリアで起きたイスラム過激組織「ボコ・ハラム」による200人以上の女子生徒拉致事件を受けてパリで会合を開き、情報共有の徹底や指揮系統の統一などを通じてテロ対策に関する連携を強化する行動計画を採択した。(後略)【5月18日 時事】
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****米国:集団拉致の女子高生捜索で隣国チャドに兵士派遣****
オバマ米大統領は21日、米連邦議会幹部宛ての書簡で、アフリカ西部ナイジェリアでイスラム過激派組織ボコ・ハラムに拉致された女子高生約270人の捜索・救出を支援するため、隣国チャドに米兵80人を派遣したことを明らかにした。米兵らは無人偵察機などを使ってナイジェリアやチャドなどで情報収集を行い、要請がある限り現地にとどまる。(後略)【5月22日 毎日】
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****安保理:女子生徒拉致でボコ・ハラムを制裁対象****
ナイジェリア北東部でイスラム過激派ボコ・ハラムが女子生徒270人以上を拉致した事件を受け、国連安全保障理事会の国際テロ組織アルカイダに対する制裁委員会は22日、ボコ・ハラムを制裁対象リストに追加した。(後略)【5月23日 毎日】
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ナイジェリア国内外のこうした動きはありますが、一番重要な拉致された女子生徒が無事に戻ってこれるかどうかという点に関しては厳しい状況にあります。

こうしたなかで、5月12日に公表されたビデオ映像で、ボコ・ハラムは、ナイジェリア治安当局が拘束中のボコ・ハラム戦闘員全員を釈放するまで、女子を拘束すると明言。ナイジェリア政府の対応が注目されています。

“2013年5月の非常事態宣言発令の際、ナイジェリアの治安当局はボコ・ハラムメンバーらの妻子を拘束するという挙に出た。この時、ボコ・ハラム側も民間人の少女を人質に取り、ナイジェリア政府との間で人質交換することで、妻子らを解放させたことがある。”【前出 5月14日 白戸圭一氏 フォーサイト】

しかし、国際社会の対テロ批判の目が集まるなかでは、テロ組織との安易な交渉はできませんので、ナイジェリアはこれを拒否しています。

****ナイジェリア:大統領、女子生徒解放の条件に応じず****
西アフリカ・ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムが女子生徒200人以上を拉致した事件で、ジョナサン大統領は14日、ボコ・ハラム側が女子生徒解放の条件に挙げた、拘束中のボコ・ハラム戦闘員の釈放には応じない意向を示した。
ロイター通信などが伝えた。

ジョナサン氏は同日、英国のシモンズ・アフリカ担当相と会談。シモンズ氏が会談後の記者会見で「大統領は、女子生徒と(ボコ・ハラムの)囚人との交換交渉はしないと明言した」と述べた。(後略)【5月15日 毎日】
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テロ事件の人質救出のための犯行組織との取引は認められるか?・・・難しい問題です。
テロ組織とは交渉しないとしながらも、水面下で身代金支払などに応じて人質を解放するという事例が多くの国で見られます。
日本の“よど号事件”での超法規的措置もあります。

****テロリストとの交渉は許されるか****
テロには毅然とした対応が原則だが、各国政府は水面下で交渉してきた
ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが270人以上の女子生徒を拉致してから1ヵ月。先週、連れ去られた少女たちがコーランを暗唱する映像が公開された。その中で組織の指導者アブバカル・シェカウは、収監中のメンバーとの人質交換をほのめかした。

少女たちの生存が確認されたのは朗報だ。しかしナイジェリア政府は、テロリストと交渉するべきかどうかというジレンマを突き付けられた。

米軍などの軍事支援を受け入れている政府が軍事行動に踏み切り、少女たちを救出できれば一番いい。ただし、この手の救出作戦で人質が生還したケースは、決して多くない。12年にナイジェリア軍とイギリスの特殊部隊が、ボコ・ハラムに拉致されたイギリス人とイタリア人の救出を試みた際は、人質が2人とも殺害された。

一方で、13年にカメルーンでやはりボコ・ハラムに誘拐されたフランス人家族7人は、300万ドルの身代金で解放された。

今回のように世界的に注目されている重大な犯罪を犯したテロ組織と交渉のテーブルに着けば、同じような行為を誘発しかねない。ナイジェリア政府は誘拐を防げなかったことで国内外から批判を浴びており、交渉に応じれば弱腰と見られるだろう。

今のところ、ナイジェリア政府は交渉に応じないと表明している。「いかなる形であれ人身売買に加担するつもりはない」と、大統領報道官は言う。

もっとも、政府が「テロリストとは交渉しない」としきりに言うときは、裏で交渉している最中だ。テロ対策の専門家ピーター・ニューマンは07年にフォーリン・アフェアーズ誌で次のように書いている。

「イギリス政府は、91年にIRA(アイルランド共和軍)が閣議中の英首相官邸を迫撃砲で攻撃して政府を丸ごと吹き飛ばしかけた後も、IRAと秘密裏に対話を続けた。

スペイン政府は87年、バスク独立を求める民族主義組織、バスク祖国と自由(ETA)がスーパーを爆破して21人の買い物客を殺害したわずか半年後に、ETAと交渉のテーブルに着いた。

パレスチナ解放機構(PLO)はテロ行為を繰り返し、イスラエルを国家として認めていなかったが、イスラエル政府は93年のオスロ合意で秘密裏に交渉に臨んだ」

誘拐の身代金が資金源に
テロ組織に理性的な政治的大義がある場合のみ、交渉に応じるべきだという意見もある。しかし、ボコ・ハラムのような組織の場合は特に、政治的大義を見極めることは難しい。

アルカイダ系テロ組織と関係国政府の交渉も、実際は政府側の発表よりも頻繁に行われているようだ。
アルジェリアを拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」は近年、外国人を誘拐しては政府から巨
額の身代金をせしめている。

その身代金も問題だ。アフリカとアラブ諸国は、身代金の支払いを国際的に禁止するよう求めている。
一方、今のところ多くの政府が、自国の市民を取り戻すために身代金を支払う価値はあると考えている。

ナイジェリア政府はボコ・ハラムと対話をしてきた過去があり、今回も本心では交渉に応じたいのかもしれない。しかし国際的に注目が高まるなか、裏取引は難しい。

シェカウは人質解放の具体的な条件をまだ示していない。一方、現時点では、明らかに彼のほうが切り札を持っている。もちろん、かなり高い値を吹っ掛けてくるだろう。

ナイジェリア政府は、最悪の選択肢の中から一番ましなものを探している状態だ。【5月27日 Newsweek日本版】
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