孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  人民党単独過半数 新首相になるモディ氏への期待と不安

2014-05-17 21:51:06 | 南アジア(インド)

(支援者から巨大な花輪をかけられて祝福されるモディ氏=インド西部グジャラート州アーメダバードで16日、AP 【5月17日 毎日】)

【「モディ政権になればもっといい生活ができると信じている」】
有権者が8億人を超え、世界最大の選挙と言われるインドの総選挙は、1か月余りにわたって行われてきた投票を12日に終え、16日に開票された結果、首相候補モディ氏を擁する最大野党・インド人民党が勝利し、10年ぶりの政権交代を実現しました。

人民党の勝利は予想はされていましたが、選挙が始まる前は難しいとも言われていた単独過半数を確保する地滑り的勝利で、一方、与党・国民会議派は5分の1程度に議席を減らすという記録的大敗でした。
日本での先の総選挙において、国民の失望をかった民主党の惨敗にも似ています。

****インド:人民党が単独過半数確保 モディ氏が勝利宣言****
インド総選挙(改選数543議席)は17日朝も開票が続き、最大野党・インド人民党が単独過半数を獲得した。

首相就任が確実視される西部グジャラート州首相、ナレンドラ・モディ氏(63)は演説で「12億人の国民の夢をかなえるためインドを前進させる」と勝利を宣言し、経済発展に尽力する考えを表明した。

選管によると、人民党は少なくとも278議席(前回獲得議席116)を獲得し、国民会議派以外の政党として初めて単独過半数に達した。
会議派は44議席(同206)にとどまるとみられる。開票作業は17日中に終了する見通し。(中略)

首都ニューデリーの人民党の党本部では16日から勝利を祝う人でにぎわった。果物売りのチャンダ・デビさん(44)は「1日200ルピー(約340円)しか稼げないが、モディ政権になればもっといい生活ができると信じている」と期待を寄せた。

一方、イスラム教徒のジャン・ムハンマドさん(41)はヒンズー至上主義を掲げるモディ氏の勝利について「今後、国内のヒンズー過激派が活動を活発化させるのではないか」と懸念を語った。【5月17日 毎日】
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なお、昨年末に旗揚げされた腐敗一掃を掲げるケジワル氏率いる新党・一般人党は4議席でした。
“昨年12月のデリー首都圏議会選で第2党に躍進し、ケジリワル氏は同首相に就いたが、汚職捜査強化の法案が他党の反対で上程できず、わずか49日で辞任した。これが響いた。”【5月17日 朝日】

人民党・モディ氏の人気は、州首相を務めるグジャラート州で、“インドで唯一停電のない州”と言われるようなインフラ整備を行い、日本などの外国企業を積極的に誘致し、高い経済成長を実現した経済手腕への期待によるものと見られています。

中国と並んで新興国の代表格であったインドは、最近5%程度の成長率に鈍化しており、物価も上昇、生活苦に喘ぐ有権者の支持を幅広く集めました。

一方で、これまでもブログで何回も取り上げたように、そのヒンズー至上主義的な強硬姿勢を不安視する見方もあります。

このあたりも、経済回復への取り組みが期待・評価される一方で、その政治姿勢を懸念する向きもある安倍首相にも似ています。

ついでに言えば、“12年末に安倍の首相再登板が決まった際、最初に祝福の意を伝えた海外要人の1人が、一介の州首相にすぎないモディだった”【4月18日 Nwesweek】というように、経済手腕が期待され、政治的には民族主義者でタカ派の保守主義者の両氏は、馬が合う関係でもあるようです。

****モディ氏、実績浸透 インド政権交代へ 下位層も支持、変化に期待****
インド総選挙で、野党インド人民党(BJP)が勝利した。10年ぶりの政権返り咲きを導いたのは、首相候補ナレンドラ・モディ氏(63)。

西部グジャラート州首相として経済を成長させた実績で支持を集めた。一方、ヒンドゥー至上主義者としての横顔が、少数派や近隣国の不安を誘う。

「インドに新しい時代が来た。この勝利は、モディ氏の人気と能力のたまものだ」。16日午後、ニューデリーで会見したBJPのシン総裁は胸を張った。

全土の投票率は前回を6ポイント上回る過去最高の66・38%。増えた票の多くがBJP支持に流れたとみられる。ネール大学のグルプリート・マハジャン教授(政治学)は「発展と変化をもたらすシンボルとみられたモディ氏が、社会階層の上から下まで支持を集めた」とみる。

中部のナグプール市。この選挙区でBJPのニティ・ガドカリ氏(56)が当選した。BJPとして18年ぶりの勝利になる。

ナグプールには、BJPを支持するヒンドゥー至上主義団体でモディ氏の出身母体の「民族義勇団(RSS)」の本部がある。だが、選挙で国民会議派に敗戦を重ねてきた。ヒンドゥー教徒の上位カーストや商工業者以外に支持を広げられなかったからだ。

そんな選挙区事情に今回、異変が起きた。
市南西部シブナガル地区の住民らは今回、BJPへの投票を全会一致で決めた。これまで会議派に入れてきたが、水道すら引かれない環境が変わらないことが不満だったという。

有権者350人の大半は下層カーストに属し、日雇い労働が生計の糧。学生のサガール・ビセンさん(21)は「モディが首相になればここも発展する。モディ・ウエーブがスパークしているよ」。

不可触民と呼ばれた最下層カーストも有権者の2割前後を占めるとされる。多くは差別を逃れるため仏教に改宗。ヒンドゥー至上主義はほかの宗教を排除する色彩が強く、会議派の強固な支持基盤となってきた。
それが、仏教徒地区でも初めてBJPに投票したという声が聞かれた。

 ■のぞく排外主義 国内外に懸念
「この国に発展を届ける」。モディ氏は選挙戦を通じて、政権を握れば、まず、経済復活に力を注ぐ姿勢を示してきた。州首相として、インドで例のない「停電のない州」を実現。企業誘致を進めた経験を生かし、強い指導力で経済改革を進める意向だ。

だが、各州の権限が大きいインドで、州政府や地域政党の同意を得るのは簡単ではない。
経済改革がうまくいかないときに、どう出るか。マハジャン教授は「(求心力を保つため)排外的な姿勢を打ち出す懸念は否定できない」と話す。

BJPの公約には、北部アヨディヤでのヒンドゥー教寺院建設といった排外的な政策も並ぶ。1992年にヒンドゥー至上主義者らが、建設予定地にあったモスク(イスラム教礼拝所)を壊し、各地の宗教暴動のきっかけとなった。

対立の火だねは今もくすぶる。北部ムザファルナガル県では昨年9月、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒間の暴動で、50人以上が死亡した。イスラム教徒の集落が焼き打ちにあった。
「今も怖くて家に戻れない」。ズヘイル・アフマドさん(56)は県内の避難キャンプで嘆いた。暮らしていた集落は廃虚と化し、モスクも壊されていた。

排外主義の矛先は、国外に向く懸念もある。
「バングラデシュの不法移民は全員送り返す」「インド兵が前線で殺されている時にパキスタン首相にビリヤニ(炊き込み飯)は出さない」。モディ氏は遊説で隣国批判を繰り返した。【5月17日 朝日】
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国内イスラム教徒の間でもモディ氏の経済手腕に期待する向きもあることは、5月10日ブログ「インド総選挙  宗教対立など、いろんな問題は抱えつつも、待たれる16日の開票結果」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140510)でも取り上げました。

アメリカ、パキスタンもとりあえずは受け入れ姿勢
対イスラム教徒暴動への関与から、これまでモディ氏へのビザ発給を拒否してきたアメリカも、インド首相ともなるとそうも言っていられませんので、容認姿勢に転じています。

****米大統領:インド選挙でモディ氏に祝意、ワシントンに招待****
オバマ米大統領は16日、インド下院選挙で圧勝した人民党の次期首相候補ナレンドラ・モディ氏に電話で祝意を伝え、ワシントンに招待した。

米国は、2002年にモディ氏が州政府首相を務める西部グジャラート州で起きた暴動事件を理由に05年以降、モディ氏へのビザ(査証)発給を拒否してきたが、入国拒否を解除することになる。

グジャラート暴動事件では、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。ヒンズー至上主義者のモディ氏は、州政府首相の立場にありながら、警察を出さず、虐殺を許したと批判されてきた。

ホワイトハウスの発表によると、オバマ氏は電話で「米印の戦略的関係の強化」のためモディ氏と連携する意向を強調した。中国の台頭をにらみ、地域の大国で民主主義国でもあるインドを引き寄せたい意向と見られる。

モディ氏は9月下旬の国連総会に出席するため訪米した際にオバマ大統領と会う可能性がある。【5月17日 毎日】
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“背景には、高い経済発展が期待されるインドと関係を強めたい思いがある。さらに、中国が軍事的な力を強めるなか、「アジアの力の均衡のため、米国はインドが必要」(ロイター通信)との事情もある”【5月17日 朝日】

また、宿敵であるイスラム教国パキスタンのシャリフ首相も、とりあえずは祝意を表しています。

****パキスタンも祝意=インド総選挙****
パキスタンのシャリフ首相は16日、隣国インドの総選挙結果を受け、野党インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ氏に電話で祝意を伝えた。パキスタン首相府が明らかにした。

ヒンズー至上主義のBJPが政権を獲得すれば、両国関係は悪化する恐れが指摘されてきた。シャリフ首相は電話で「素晴らしい勝利だ」と伝え、新政権と関係改善を図りたいパキスタンの姿勢を示した格好だ。【5月17日 時事】 
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シャリフ首相はイスラム主義的な傾向もありますが、それ以上に現実主義でもありますので、対インド関係安定を重視した結果でもあります。

ただ、パキスタン国内にはイスラムに強硬な姿勢をとりがちな人民党政権・モディ氏への警戒感も根強くあります。

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一方、BJP政権が再び誕生することを、パキスタンのメディアは「インドは右傾化した」などと警戒感を持って報じている。

パキスタンではBJPに対して、反イスラム的なイメージを重ね合わせる見方が多い。パキスタンに先立つ核実験(98年)など、前回の政権時の強硬な姿勢も記憶として残っている。

ただし、パキスタンのシャリフ首相はインドとの関係改善を掲げており、次期政権にも対話を呼びかけるとみられる。16日午後にはモディ氏に電話し、祝意を伝えた。

一方で、政治的発言力の強い軍部には、インドとの関係改善に拒否感がある。軍部を率いるラヒル・シャリフ陸軍参謀長は4月末、インドとの係争地カシミールについて「侵略に対応する準備はいつでもできている」と、インドを牽制(けんせい)した。【5月17日 朝日】
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選挙戦では強硬な発言があっても、実際に政権を担当すれば現実的になる・・・というのもよくあることですので、人民党・モディ氏の、国内外の安定を重視した現実的な施策が期待されます。
安定なくしては、国民が期待する経済面での成果も実現できません。

ただ、前出朝日記事にもあるように、看板の経済政策がうまく進まないとき、対イスラム強硬姿勢で支持基盤へアピールする・・・ということも懸念されます。

【“王朝”の凋落
国民会議派は“負け方”次第では連立工作に持ち込んで・・・という話もありましたが、記録的大敗に終わりました。
国民会議派を率いるネール・ガンジー家は・・・・。

****インド総選挙 最大与党惨敗、ネール・ガンジー家の凋落****
インドの総選挙で最大与党、国民会議派は惨敗を喫した。会議派を支える名門「ネール・ガンジー家」の御曹司、ラフル・ガンジー氏(43)は、選挙の責任者として各地で遊説したが、厳しい結果は“王朝”の凋落(ちょうらく)を印象付けた。

「私が責任を取る」大勢が判明すると、国民会議派の副総裁ラフル氏は短く、支持者に苦笑いした。こうした場での笑みは有権者の不信を招きかねない。
総裁で母親のソニア・ガンジー氏がすぐさま、硬い表情で「総裁として責任を取る」と続けた。

母子はいずれも議席を確保したが、国民会議派は現有約200議席から大きく後退し、クルシード外相、シンデ内相ら現職閣僚の落選の報が次々に入った。

英領からの独立後、ネール・ガンジー家は、ネール、長女のインディラ・ガンジー、その長男、ラジブ・ガンジーと首相を輩出してきた。インディラ、ラジブ両氏はそれぞれ、新生インドの発展の過程で暗殺された。ソニア氏はラジブ氏の妻、ラフル氏は長男だ。

ラフル氏は、国民会議派政権のシン首相から「次の首相に」と言われてきたが、前向きな態度を示してこなかった。1月の国民会議派の幹部会合では、ラフル氏を首相候補に据えて戦うことが提案されたが、ソニア氏が拒否。劣勢が色濃い総選挙で、息子に責任を負わせたくないという親心だと揶揄(やゆ)する声も上がった。
牽引(けんいん)力の弱いラフル氏に代わり、妹のプリヤンカ氏に期待する声もある。【5月17日 産経】
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妹のプリヤンカ氏の政治資質についても、前回5月10日ブログで取り上げたとおりです。
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