孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  インラック首相失職・弾劾で、長引く混乱 解決の糸口は?

2014-05-08 22:54:22 | 東南アジア

(5月7日 バンコク郊外で、支持者に手を振る憲法裁から失職を言い渡されたインラック前首相 【5月7日 AFP】)

想定内の首相失職
周知のように、3年前の政府高官人事を巡るタイ憲法裁判所による7日の違憲判決で、反政府デモの辞職圧力に抵抗してきたインラック首相がついに失職しました。

タクシン元首相の実妹であるインラック首相は、タイ初の女性首相として2011年8月に就任。
その直後、タクシン氏の元妻の兄を国家警察本部長官に起用する一方、玉突き人事的に、反タクシン前政権によって起用されていた国家安全保障会議事務局長のタウィン氏を更迭しました。
これが憲法の禁ずる公務員人事への不当介入だと認定されました。

タウィン氏は行政裁判所に地位保全の訴えを起こし、今年3月7日、最高行政裁が手続きに違法性を認めて同氏の復職を命じ、政権も従っています。

また、国家汚職追放委員会(NACC)も、インラック政権の看板政策でもあり、バラマキ政策との批判もあるコメ担保融資制度に絡んで、インラック前首相の弾劾請求を決定しています。

****インラック前首相の弾劾請求=タイ国家汚職追放委****
タイ国家汚職追放委員会(NACC)は8日、インラック前首相について、コメ担保融資制度に絡む職務怠慢で上院に弾劾請求することを決めたと発表した。

インラック氏は、政府高官の更迭人事をめぐる憲法裁判所の7日の違憲判決で首相失職となった。上院がインラック氏の罷免を決議すると、政治職や公職に就くことが5年間禁じられる。

NACCは弾劾請求の理由に関し、首相兼国家コメ政策委員会委員長だったインラック氏はコメ担保融資制度で多額の損失や不正が生じる恐れがあると警告を受けていたのに、制度をやめなかったと説明した。【5月8日 時事】 
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反タクシン派は街頭行動ではインラック首相を辞職に追い込むことはできませんでしたが、憲法裁など反タクシン勢力の牙城とも言われる司法・独立機関によって法的に失職に追い込むという戦略が奏功した形となりました。

ただ、与党・タクシン派もこれまでの司法判断などを踏まえ、失職の判断は想定してところで、直ちに首相代行にニワットタムロン副首相兼商業相が就任すると発表、現選挙管理内閣を存続させて7月20日に予定されているやり直し総選挙を実施する構えを見せています。

“憲法裁による政権排除は初めてではない。2008年、当時のサマック首相は料理番組出演が閣僚の兼職にあたるとして失職判決を受けた。後継のソムチャイ首相(当時)の政権は選挙違反を認定した憲法裁の与党解党命令を受け崩壊した。
現在の憲法裁判事は、06年にタクシン首相を失脚させた軍事クーデター後にできた暫定政権下で選任された。そのため、タクシン派は「中立性を欠くタクシン排除の機関」としてきた。”【5月8日 朝日】

インラック前首相にとっては、就任直後の、右も左もわからない頃の人事問題で、道半ばにして失職を命じられるのは不本意ではあるでしょう。

ただ、かねてより辞意を漏らすなど、精神的に限界に近いのでは・・・という感があり、周囲がなだめすかしてここまでもってきたという状態でしたので、内心は“やっと解放された”という安ど感もあるのでは?
あくまでも個人的な推測ですが。

与党側としても、政権を投げ出されるよりは、今回のような形で中立性を欠いた司法判断でやむなく身を引くことになったという形の方が都合がいいのでは?
担ぐ神輿も、批判が集中するタクシン親族以外の方が担ぎやすいのでは?

内閣総辞職は避けた憲法裁
憲法裁判断の焦点は、首相失職はともかく、内閣総辞職が命じられるかどうかにありました。
下院はすでに解散された状態にあり、更に内閣も総辞職となると「完全な政治空白」が生じることになります。

ステープ元首相らの反政府勢力は、こうした「完全な政治空白」になれば、「憲法解釈により選挙によらない暫定政権を樹立できる」と主張しており、これが政権側が警戒する「司法クーデター」でした。【5月7日 毎日より】

****内閣排除なら決起」 タイ、赤シャツの前議長****
憲法裁判所がインラック内閣を排除する判断を示した場合は決起する――政治危機が続くタイで、政府を支持するタクシン元首相派(赤シャツ)のティダ・タウォンセート前反独裁民主同盟(UDD)議長がこのほど朝日新聞の取材に応じ、今後の展開について語った。

政治危機の焦点はいま、憲法裁判所などが、インラック首相の違法行為を問う訴えにどんな判断を示すかに移っている。
特に注目されているのが、3年前の政府機関人事に関する憲法裁の判決。反政府派は首相だけでなく内閣総辞職にあたると主張している。

ティダ氏は「昨年末の下院解散で内閣はすでに総辞職しており、首相の人事が違憲と認定されても、現内閣は副首相を暫定首相代行に置いて存続しなければならない。首相の失職だけならば私たちは動かない。
しかし、全閣僚を辞職とする判断は法を踏み外しており、その時はバンコクでの抗議デモを開始する」

「法に従うというのが赤シャツの大原則だ。法から逸脱するものとは徹底的に戦う。抗議デモは10万人規模を目指し、平和的に行う」と語った。

憲法裁判決は5月上旬にも出る可能性がある。【4月26日 朝日】
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今回の憲法裁判断は首相と人事を承認した9閣僚が即時失職というものではありますが、全閣僚失職・内閣総辞職という極端な判決は避けたものとなっています。
憲法裁は「抜き差しならない対立を避けた」(政治学者のユタポン氏)とも指摘されています。【5月8日 朝日より】

政権側にとっては態勢立て直しが可能な判断とも言え、赤シャツ隊も司法判断批判の行動はとるにしても、決定的な行動は自制するものと思われます。

****タイ:7月20日総選挙…首相ら失職で実施も混とん****
タクシン元首相派と反政府側の対立による政治混乱が続くタイで7日、インラック首相と9閣僚が憲法裁判所の違憲判決で失職した。

内閣総辞職には至らずタクシン派政権は存続するが、憲法裁など政府・行政をチェックする「独立機関」を巻き込んだ反政府側の攻勢は続く。

政権与党はあくまで総選挙実施による対立解消を目指すが、再び反政府デモ隊が選挙を妨害すれば同じ混乱が繰り返されるのは必至で、タイ政治の正常化への道筋は見えないままだ。

法律の専門家らは判決前、内閣総辞職の可能性もあると指摘していた。その場合、反政府側は現在空席の下院に加え政府も存在しない「完全な政治空白」が生じるため、選挙によらない暫定政権の樹立が可能だと主張。これが政権側の最も警戒していた「司法クーデター」だった。

最悪のシナリオを回避した与党・タイ貢献党のポンテープ副首相は「(7月20日に予定される)総選挙の作業を進める」と強調し、首相失職による選挙日程への影響などについて近く選挙管理委員会と協議する意向を示した。しかし、選挙を正常に実施できるかは、反政府側の動きにかかっている。

反政府デモ隊の報道担当者は7日、「現内閣に正統性はなく、政府は国民に権力を返すべきだ」と改めて政権移譲を要求。2月の総選挙と同様、デモ隊が投票を妨害すれば、選挙が再び無効となる恐れがある。
反政府デモ隊と同調する最大野党・民主党も再度選挙をボイコットする可能性を否定していない。

選挙に弱い反政府側が、議会制民主主義の根幹である「選挙」を拒む構図だ。さらに、仲裁役となるはずの「独立機関」は、タクシン派から政治的中立性を疑われている。

タクシン元首相をクーデターで追放した軍政は2007年に新憲法を制定し、憲法裁判所など「独立機関」の権限が強化された。

また、政党政治に影響されないよう、憲法裁判事は上院が選出し、上院の半数は憲法裁長官らによる委員会で選ぶシステムになっている。こうした「選挙による民意を反映しない」(貢献党幹部)仕組みにより、憲法裁などは軍や官僚らエリート層が支える反タクシン派(反政府側)の「牙城」となっているとも指摘される。

インラック首相は同日、テレビ演説で「民主主義にのっとって選ばれた首相として取り組んだ仕事に誇りを持っている」と語った。【5月7日 毎日】
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“政権与党のタイ貢献党は憲法裁判決について、「政権の力を奪おうという陰謀だ」との声明を発表。支持者に平和的デモを呼びかけ、7月20日に予定されるやりなおし総選挙で形勢逆転を狙う。”【5月8日 産経】

反政府・反タクシン派にとっては、首相を失職に追い込んだものの内閣総辞職とはならず、物足りない判断だったと言えます。

****反政府派、「新政権」へ行動=タクシン派は反発―タイ****
タイで反政府デモを続けるステープ元副首相率いる反タクシン元首相派組織「人民民主改革委員会(PDRC)」は8日、「新政権」樹立を目指して9日に行動を開始する方針を明らかにした。
タクシン派は断固反対する構えで、混乱が広がりそうだ。

PDRC報道官は取材に対し、憲法裁判所の違憲判決でインラック首相が失職したのを受け、「正統性のある政府は存在しない。9日に『人民政府』の任命に向けた最初の措置を取る」と語った。PDRCは9日にバンコクで大規模デモの開催を予定している。

ステープ氏は先に、インラック氏が失職した場合、PDRCが独自に新首相を指名し、閣僚名簿をプミポン国王に提出し承認を求める考えを示していた。

これに対し、タクシン派組織「反独裁民主統一戦線(UDD)」は、反政府陣営による新政権樹立は違法であり「拒否する」(チャトゥポン代表)との立場。UDDは10日にバンコク郊外で大規模集会を開くことにしている。【5月8日 時事】
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解決への糸口は?】
今後も混乱が続くであろうことは皆が予測しています。
どういう出口があるのか、誰も知りません。

“タクシン派は、反タクシン派との対立をエリート層と貧困層が対峙(たいじ)する「階級闘争」と位置づける。しかし、反タクシン派は政権の腐敗体質を正す「改革」のためのデモだと主張。タクシン派を「反王室」と断じ、問答無用に敵視する。主張はかみ合わず、憎しみだけが募る。”【4月27日 毎日】

一連の混乱のなかで、タクシン元首相が一族の政界引退の可能性に言及していましたが、インラック首相の失職、更には弾劾となって、あまり意味はなくなったのでしょうか?

****タクシン一族「政界引退も」=元首相が言及―タイ****
反政府陣営から辞任要求を突き付けられているタイのインラック首相の兄タクシン元首相は、長期化する政治対立を打開するため、タクシン一族が政界から身を引く可能性に言及した。タクシン氏の法律顧問を務めるノパドン元外相が21日、記者団に明らかにした。

ノパドン氏によると、タクシン氏は「(タクシン一族は)犠牲になるのをいとわない。政治家としての役割に終止符を打つ用意がある」と強調。一方で、反政府デモも同時に中止すべきだと主張し、総選挙が問題を平和的に解決する唯一の手段だとの考えを示したという。

インラック首相が憲法裁判所や国家汚職追放委員会(NACC)の判断次第で失職や職務停止となる可能性に直面する中、タクシン氏としては、一族の政界引退にまで言及することで、ステープ元副首相ら反政府陣営に妥協を促した形だ。

しかし、ステープ氏は21日夜の反政府集会で行った演説でタクシン氏の発言に触れ、「われわれは過去、何度もうそをつかれ、だまされた」と指摘。「タクシンはうそつきだ」と述べ、タクシン氏との取引には応じない意向を強調した。【4月22日 時事】 
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反タクシン派の側では、最大野党党首でもあるアピシット前首相がステープ元副首相が主導する反政府デモに一線を画する姿勢を見せていましたが、今後はどのように動くのでしょうか?

****政情混迷打開で協議開始へ=独自の解決案―タイ前首相****
タイ最大野党・民主党党首のアピシット前首相は24日、長期化する政情の混迷打開に向け、25日から関係当事者との協議を開始すると発表した。対立する政府と反政府デモ隊関係者のほか軍首脳らと意見交換し、独自の解決案を提示して事態収拾への道筋を探る。

アピシット氏は民主党のフェイスブックに掲載されたビデオ声明で、現状のままでは政府・与党側が求める総選挙の実施や、ステープ元副首相が主導する反政府デモも事態の解決にはつながらないと主張。これまで同調してきたステープ氏と一定の距離を置く立場を示した。

その上で「選挙プロセスも改革プロセスの一部であるべきだという点を考慮に入れつつ、憲法に沿って民主的手段で改革を進めなければならない」と指摘。「誰もが参加可能な改革プロセスへと導く提案」を行う意向を示した。【4月24日 時事】 
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何らかの改革を行ったにしても、基本的には総選挙で民意を問うしかないでしょう。
選挙や、貧困層を含む民意を否定するような反政府勢力の主張には同意できません。

長引く混乱のなかでも、人々の生活は営まれています。
政治が機能しなくても生活には支障はない・・・とも見えますが、本来政治が機能していたら手当されていたはずの問題が放置されたままになっており、それによって犠牲を強いられ続ける人も少なからず存在します。
当然のことではありますが、一刻も早い政治の正常化が望まれます。
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